焼け木杭に火がつく
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「虫ぃー!」
「害虫は殺さなきゃダメなんだぞー!」
まだ幼い少年たちが取り囲むように、中心にいる女の子の髪を引っ張った。
「やめて!やめてよ!」
女の子は泣きじゃくりながら、掴まれている髪を振り解こうとした。
だが、さらに髪を引っ張られ、少年たちから顔に向けて殺虫剤をかけられる。
げほっけほっっと殺虫剤の煙が入り、女の子がせき込む。
嗚咽と咳を繰り返しながら、必死に抵抗するが、少年たちの手を振り解くことができない。
「大人しくしてろよ!害虫ーーぶっ!」
女の子を羽交い締めしていた少年の脳天に箒の柄が落ちた。
頭を押さえる少年の後ろで仲間の少年たちがやばっと顔色を変える。
「げっでたデカ男」
「おいっ逃げろ」
「あっこの待てよ、ぶっ」
逃げ遅れた少年の頭に再び箒の柄が落ちる。
「くそっばーかばーか!―――に守られてんじゃねえよ害虫!」
捨て台詞を残して半泣きで少年が背を向けて走っていく。
うえっええっ。
涙と鼻水と殺虫剤まみれの女の子の手を引き、彼女を助けた少年は歩き出す。
しばらく歩き、庭の水撒き用の水道にたどり着く。
そこで彼は屋敷から持ってきたタオルで女の子の顔を丁寧に拭いていく。
彼は黙々と殺虫剤でべたべたになった彼女の髪を洗い流してやる。
濡れた髪をタオルで丁寧に拭いている途中、女の子が口を開く。
「わたし……むしじゃない……」
うつむいた女の子の口から嗚咽とともに言葉が漏れる。
「わたしのかみ……むしみたいって……まっ黒できたないから……」
彼女は肩をひくつかせ、流れ落ちる涙を手の甲で拭う。
拭っても拭っても流れ出る涙を少年はじっと見つめる。
「……人形と同じ」
少年が女の子の髪を梳くように撫でながら、声を漏らした。
その声に女の子が顔をあげる。
「ナナコの大好きな人形と同じ。綺麗な髪だよ」
いつも表情の変わらない彼の口元に儚げな笑みが浮かぶ。
――――――――――――――――――。
灰色の部屋の寝具に着物の少女が横たわっている。
少女はうっすらと瞼を持ち上げた。
開かれた瞳は最初はぼんやりとしていたが、瞬きをひとつすると瞳に光が入った。
その身をゆっくりと起こすと、緑光りする黒髪が揺れる。
胸元にかかる自身の髪を一房、手に取った。
その少女―――ナナコの目尻に一粒の露が浮かぶ。
「兄さん……」
夢の中の人物を呼んだ。
「害虫は殺さなきゃダメなんだぞー!」
まだ幼い少年たちが取り囲むように、中心にいる女の子の髪を引っ張った。
「やめて!やめてよ!」
女の子は泣きじゃくりながら、掴まれている髪を振り解こうとした。
だが、さらに髪を引っ張られ、少年たちから顔に向けて殺虫剤をかけられる。
げほっけほっっと殺虫剤の煙が入り、女の子がせき込む。
嗚咽と咳を繰り返しながら、必死に抵抗するが、少年たちの手を振り解くことができない。
「大人しくしてろよ!害虫ーーぶっ!」
女の子を羽交い締めしていた少年の脳天に箒の柄が落ちた。
頭を押さえる少年の後ろで仲間の少年たちがやばっと顔色を変える。
「げっでたデカ男」
「おいっ逃げろ」
「あっこの待てよ、ぶっ」
逃げ遅れた少年の頭に再び箒の柄が落ちる。
「くそっばーかばーか!―――に守られてんじゃねえよ害虫!」
捨て台詞を残して半泣きで少年が背を向けて走っていく。
うえっええっ。
涙と鼻水と殺虫剤まみれの女の子の手を引き、彼女を助けた少年は歩き出す。
しばらく歩き、庭の水撒き用の水道にたどり着く。
そこで彼は屋敷から持ってきたタオルで女の子の顔を丁寧に拭いていく。
彼は黙々と殺虫剤でべたべたになった彼女の髪を洗い流してやる。
濡れた髪をタオルで丁寧に拭いている途中、女の子が口を開く。
「わたし……むしじゃない……」
うつむいた女の子の口から嗚咽とともに言葉が漏れる。
「わたしのかみ……むしみたいって……まっ黒できたないから……」
彼女は肩をひくつかせ、流れ落ちる涙を手の甲で拭う。
拭っても拭っても流れ出る涙を少年はじっと見つめる。
「……人形と同じ」
少年が女の子の髪を梳くように撫でながら、声を漏らした。
その声に女の子が顔をあげる。
「ナナコの大好きな人形と同じ。綺麗な髪だよ」
いつも表情の変わらない彼の口元に儚げな笑みが浮かぶ。
――――――――――――――――――。
灰色の部屋の寝具に着物の少女が横たわっている。
少女はうっすらと瞼を持ち上げた。
開かれた瞳は最初はぼんやりとしていたが、瞬きをひとつすると瞳に光が入った。
その身をゆっくりと起こすと、緑光りする黒髪が揺れる。
胸元にかかる自身の髪を一房、手に取った。
その少女―――ナナコの目尻に一粒の露が浮かぶ。
「兄さん……」
夢の中の人物を呼んだ。