焼け木杭に火がつく
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「それでは証人。職業と名前を。」
「わしは唐井 翔賀(カライ ショウガ)。八百屋家でウン十年の住み込みの庭師をやっとります。」
「このじいさんは、あるところを目撃してる」
「あるところ?」
夕神の片頬が吊り上がる。
「この嬢ちゃんが被害者を殺害した瞬間さ。」
「!」
オドロキは眉間に微かに皺を寄せた。
「それでは証言をお願いします」
あれはタロウの散歩を終えた、5時くらいの黄昏時のことでして。
熱い茶をすすりながら何気なく小屋の窓から屋敷を見ると
赤い着物の奈々子オジョウサンの姿が見えましてな。
オジョウサンは漆のような黒髪を振り乱しながら右手を振り下ろしたのです。
ドクンッとオドロキは心臓が跳ねる音が体内で響き、左手首に痛みを感じる。
左の腕輪に触れ、証人を見た。
……“嘘”を吐いてる?
“みぬく”をするべきかと思ったが、ちらっと検察側に視線を向ける。
検事の肩にいた鷹がバサッと翼を広げた。
オドロキはびくっと体を数センチ後ろへ下げた。
……相手がユガミ検事じゃ、使えそうにないな。
「弁護人」
「あっはい!」
「準備はよろしいですか?」
「はい!大丈夫です」
オドロキは目尻をあげ、キュツと顔を引き締めた。
八百谷さんが無実なら、必ずこの証言にムジュンがあるはずだ。
まずは腕輪に頼らず、証言を聞こう。
「それでは、弁護人。尋問をお願いします」
「あれはタロウの散歩を終えた、5時くらいの黄昏時のことでして。
熱い茶をすすりながら」
この証言にオドロキの腕輪は強く反応していた。
でも、このあとの証言で腕輪の反応が消える。
「何気なく小屋の窓から屋敷を見ると
赤い着物の奈々子オジョウサンの姿が見えましてな」
とりあえずオドロキは先ほどから気になった証言をゆさぶることにした。
「オジョウサンは漆のような黒髪を振り乱しながら右手を振り下ろしたのです」
ダンッと机を両手で強く叩く。
「なぜ中に入って止めに行かなかったんですか!?」
「べらんめぇ!まさか人を襲っているとは思わねえだろうが!
提灯の灯りと手が見えただけで、まさか人を殴っていたとは思わねえだろ」
「ということは、殴られている相手の姿は見えなかったということですか?」
「おおう。屋敷の中は薄暗くてなオジョウサンの姿しか見えなかったんでぃ」
「あと、ちょうちんというのは?」
「現場にあったスタンドのことだ」
夕神検事が資料を見ながら、補足する。
「では、そのときのことを詳しく証言してください」
「合点承知の助よっ!」
サイバンチョウの言葉に、唐井は膝をパンッと打つ。
「ありゃ、確かちょうちんが吊ってあるスタンドで殴りかかってたと思いやす」
「本当に八百谷さんが殴りかかっていたんですか?」
「おうよ!あんなわかりやすい恰好の人間はオジョウサンしかいねえやい!」
「あなたは八百谷さんの着物と髪しか見てない!しかも後ろ姿しか見ていない!」
「それだったら、証明してみせな。このじいさんが見た奴が被告人ではなかったということをな」
オドロキは暗褐色の瞳で静かに夕神を見据える。
ほんの一瞬、思考を巡らせた。
「……被告人ではなかった。という証拠はありません。
でも、この証言はとある証拠品とムジュンしています」
「その証拠品とは?」
オドロキはリストから証拠品を選択し、つきつける。
オドロキは凶器のナイフをつきつける。
「唐井さん。これをよく見てください」
「ん?ずいぶんと見事な小太刀……って!」
唐井がくわっと目を開いた瞬間、口から何かが弧を描いて飛んだ。
「ほはっは!ほほはひをほほへへひひへほっは!?」
……なに言ってるかまったくわからない。
「弁護人!入れ歯をすぐに返してあげなさい。」
「えっ」
よく見ると証言台の近くに入れ歯が落ちていた。
なんでオレが……。
そう思いつつも、オドロキは人差し指と親指ではしっこをつまみ、入れ歯を拾った。
どうぞと渡し、手を拭う。
唐井は入れ歯をはめなおした。
「ちなみにこのじいさんはなんて言ったんだ?」
「『小童!その小太刀をどこで手に入れおった!?』
と言っておりましたよ」
カポッと入れ歯を入れなおした唐井は、満足げな顔で頷く。
「おおう!やるじゃねえか!わしの入れ歯がない声を正確に聞き分けるたぁ!」
「ほっほっほ。なんのこれしき。」
「あの二人なんだか和気藹々の雰囲気ですよ」
「で!コワッパ!どうなんじゃ!?」
「ええっと、この小刀を知ってるんですか?」
「質問に質問で返すなべらんめぇ!」
「すっすみません。」
オドロキは顔を引き締め直す。
「これは現場に落ちていた凶器です。
凶器には八百谷さんの指紋が付着していました。
あなたは八百屋さんが殴りかかったと言っていますが
被害者は刺されて死亡してるんです!」
「なんじゃと?だが、それはオジョウサンの大事な形見じゃぞ」
「えええええ!?」
「これで一歩近づいちまったみてぇだな」
トントンと指で頭を叩きながら、ユガミはにやりと笑みを浮かべる。
「この嬢ちゃんが犯人だって証拠が」
「くっ」
オドロキは少し怯んだが、すぐにきっと目元を引き絞る
「この証言では被告人が殴ったところが目撃されています!」
「そんなの簡単に説明できらぁ。
嬢ちゃんが被害者を刺したとき、被害者はまだ生きていた。
嬢ちゃんはとどめとして被害者を殴りつけたんだよ」
「ふむ。それなら確かに納得できますな」
サイバンチョウが頷く。
だが、オドロキは首を振る。
「それは不可能です。」
「ほう。証拠はあるんだろうな?」
「ええ。」
オドロキは証拠品リストからある証拠品を抜き出す。
「これは……“電気スタンド”?」
「こちらの電気スタンドは5kgの重さがあり長さもあります。
被害者にむかって殴りかかるのには
電気スタンドを大きく振り下ろさないといけません。
カライさん。」
「なっなんじゃ?」
「ヤオヤさんはか弱い女性だったそうですね」
「あぁ、そうじゃ。私の仕事を手伝うと言ってくれたときも
大きなスコップを渡したんじゃが
持っただけでフラフラしおってな。
とても見ておれんくて丁重にお断りさせてもらいやしたよ」
「そのスコップの重さは?」
「んー?確か2kgあるかないかくらいじゃったかな」
「そう。2kgの物を持っただけでフラつく人がそれ以上重い物を持って
なおかつ振り下ろすことなんて不可能なんですよ!」
「それじゃ泥の字。このじいさんが見たものは全部嘘だったと言いてえのか?」
「なっ!」
カライが顔を瞬時に沸騰させ、目尻を大きく吊り上げ、弁護側に顔を向ける。
「ほひ!ほほふ!はひほほへほふひんはふはひふふふほひは!」
「……弁護人」
またかよ!
オドロキは心中でツッコミつつ、また入れ歯を拾いに行く。
「『おい。小僧。わしをボケ老人扱いするつもりか』と言っておりますが
どうなのですか?」
「それはっそのっ」
オドロキは冷や汗を額にかきながら、必死に言葉を考える。
彼は唐井へと視線を向ける。
この人は確かに“今は”嘘は吐いてない。
そっと腕輪に触れるが、腕輪からは何の反応もない。
「うーん……ヤオヤさん以外に電気スタンドを持てる人が居れば
その人が真犯人なんですけど……」
隣に居た心音がイヤリングをいじりながら、思考を巡らせる。
電気スタンドを持つことができた人か……。
額をぎゅっと指で押し、目を固く閉じる。
そんな人現場に……
はっとオドロキの脳内で光が灯る。
机に並べていた証拠品リストたちを見直す。
お目当ての証拠品を見て、自分の考えに少し自信が湧く。
――――もしかして
オドロキは机をダンッと殴りつける。
「唐井さん!」
「なっなんじゃ!」
「あなたが目撃したのは、殴りかかるヤオヤさんの姿だけだったんですよね!?」
「あぁ。そうじゃが。」
「しかも、見たのは後ろ姿であり、誰に殴りかかったのかはわからなかったんですよね!?」
「そうじゃ、薄暗くて相手がいたかどうかもわからんかったわい」
確信を持ったオドロキは、前のめりだった姿勢をしゃんと正す。
「……唐井さんが女性を見たというのは正しいでしょう。
けど、それがヤオヤさんだったというのは違います」
「ほう?この被告人じゃないのなら、一体このじいさんが見た女は誰だったんだ?」
「それはこの人です。」
オドロキが示した人物に、サイバンチョウが目を丸くした。
「これは!被害者ではないですか!」
「そう言うのなら証拠はあるんだろうな?」
「はいっ。もちろん」
胸を張り、自信に満ち溢れた返答にユガミは鋭い双眸で赤い弁護士を刺す。
「だったら、示してみな。ただし、ボケたこと言ったら問答無用で……叩っ切る」
チャッとユガミが前のめりになり、得物に手をかけた。
「それでは提示してください」
リストからある証拠品を抜き出し、つきつける。
「“解剖記録”ですか?」
「死体には胸部の傷以外に怪我は見られませんでした。
しかし、ヤオヤさんは頭部に怪我をしています。誰かに殴られたかのような……ね」
ユガミは鋭い目つきのまま、眉を歪めた。
「そして、現場には“燃えかけの着物とカツラ”が発見されました。」
「なにが言いてぇ?」
結論を言わないオドロキに、イラ立ちを隠せずユガミが詰め寄る。
「逆だったんです。」
「逆?」
「唐井さんが見たのは、"ヤオヤさんが被害者を襲っていた"ところではなく
"被害者がヤオヤさんを襲っていた"ところだったんです!」
「なっなんですとぉおおお!?」
ぐはっとユガミはオドロキの一太刀に、体をのけぞらせた。
オドロキは現場にあった着物とカツラを法廷の人々に見せる。
「現場から発見されたカツラと着物を使えばヤオヤさんに変装することは容易いでしょう。」
「黙りなぁ!
へっバカも休み休み言いやがれ。
それならなんで被害者はそんな真似をしたっていうんだ。」
「そっそれは……」
ちっとユガミ検事は舌打ちをした。
ユガミは目を閉じ、動かない。
しばらくして、ゆっくり開いた。
「いいぜ」
「え?」
ユガミの言葉にオドロキは目を瞬かせた
主張を崩したはずなのに夕神の焦りは少しだけで、今は余裕な顔つきをしている。
「お前さんの主張はこうだ。『被告人は被害者に襲われて気絶していたから、被告人を殺してない』
けど、それが成り立たないとしたら?」
「どういうことですか?」
「おい、じいさん。検察側はもう一人証人を入廷させるぜ」
へっと笑い、顎に手を添える。
「じいさんが目撃する前に、被害者を殺した後の被告人を見たっていう証人をな」
「なっなんですってぇええええ!」
オドロキと心音は飛び上がった。
「確かに被告人の嬢ちゃんはあの電気スタンドを持ってなかった。
だが、刀なら刃を相手の腹に刺せば、簡単に殺せる。
もしこのじいさんが被告人を殴ってる被害者を見る前に、被害者が死んでたとしたら
お前さんの主張は通らなくなる」
「うううううう!」
カンッ
「それでは証人を入廷させてください」
オドロキは机に置いた両手の拳を悔しげに握りこむ。
「くっ。なんでその証人を先に出さないんだよ」
「あれ?言われてみれば変ですね」
心音が首をかしげた。
「ユガミ検事ならこれくらいの反論予測できそうなのに」
だが、オドロキたちの疑問は次の証人の登場で消えた。
「わしは唐井 翔賀(カライ ショウガ)。八百屋家でウン十年の住み込みの庭師をやっとります。」
「このじいさんは、あるところを目撃してる」
「あるところ?」
夕神の片頬が吊り上がる。
「この嬢ちゃんが被害者を殺害した瞬間さ。」
「!」
オドロキは眉間に微かに皺を寄せた。
「それでは証言をお願いします」
あれはタロウの散歩を終えた、5時くらいの黄昏時のことでして。
熱い茶をすすりながら何気なく小屋の窓から屋敷を見ると
赤い着物の奈々子オジョウサンの姿が見えましてな。
オジョウサンは漆のような黒髪を振り乱しながら右手を振り下ろしたのです。
ドクンッとオドロキは心臓が跳ねる音が体内で響き、左手首に痛みを感じる。
左の腕輪に触れ、証人を見た。
……“嘘”を吐いてる?
“みぬく”をするべきかと思ったが、ちらっと検察側に視線を向ける。
検事の肩にいた鷹がバサッと翼を広げた。
オドロキはびくっと体を数センチ後ろへ下げた。
……相手がユガミ検事じゃ、使えそうにないな。
「弁護人」
「あっはい!」
「準備はよろしいですか?」
「はい!大丈夫です」
オドロキは目尻をあげ、キュツと顔を引き締めた。
八百谷さんが無実なら、必ずこの証言にムジュンがあるはずだ。
まずは腕輪に頼らず、証言を聞こう。
「それでは、弁護人。尋問をお願いします」
「あれはタロウの散歩を終えた、5時くらいの黄昏時のことでして。
熱い茶をすすりながら」
この証言にオドロキの腕輪は強く反応していた。
でも、このあとの証言で腕輪の反応が消える。
「何気なく小屋の窓から屋敷を見ると
赤い着物の奈々子オジョウサンの姿が見えましてな」
とりあえずオドロキは先ほどから気になった証言をゆさぶることにした。
「オジョウサンは漆のような黒髪を振り乱しながら右手を振り下ろしたのです」
ダンッと机を両手で強く叩く。
「なぜ中に入って止めに行かなかったんですか!?」
「べらんめぇ!まさか人を襲っているとは思わねえだろうが!
提灯の灯りと手が見えただけで、まさか人を殴っていたとは思わねえだろ」
「ということは、殴られている相手の姿は見えなかったということですか?」
「おおう。屋敷の中は薄暗くてなオジョウサンの姿しか見えなかったんでぃ」
「あと、ちょうちんというのは?」
「現場にあったスタンドのことだ」
夕神検事が資料を見ながら、補足する。
「では、そのときのことを詳しく証言してください」
「合点承知の助よっ!」
サイバンチョウの言葉に、唐井は膝をパンッと打つ。
「ありゃ、確かちょうちんが吊ってあるスタンドで殴りかかってたと思いやす」
「本当に八百谷さんが殴りかかっていたんですか?」
「おうよ!あんなわかりやすい恰好の人間はオジョウサンしかいねえやい!」
「あなたは八百谷さんの着物と髪しか見てない!しかも後ろ姿しか見ていない!」
「それだったら、証明してみせな。このじいさんが見た奴が被告人ではなかったということをな」
オドロキは暗褐色の瞳で静かに夕神を見据える。
ほんの一瞬、思考を巡らせた。
「……被告人ではなかった。という証拠はありません。
でも、この証言はとある証拠品とムジュンしています」
「その証拠品とは?」
オドロキはリストから証拠品を選択し、つきつける。
オドロキは凶器のナイフをつきつける。
「唐井さん。これをよく見てください」
「ん?ずいぶんと見事な小太刀……って!」
唐井がくわっと目を開いた瞬間、口から何かが弧を描いて飛んだ。
「ほはっは!ほほはひをほほへへひひへほっは!?」
……なに言ってるかまったくわからない。
「弁護人!入れ歯をすぐに返してあげなさい。」
「えっ」
よく見ると証言台の近くに入れ歯が落ちていた。
なんでオレが……。
そう思いつつも、オドロキは人差し指と親指ではしっこをつまみ、入れ歯を拾った。
どうぞと渡し、手を拭う。
唐井は入れ歯をはめなおした。
「ちなみにこのじいさんはなんて言ったんだ?」
「『小童!その小太刀をどこで手に入れおった!?』
と言っておりましたよ」
カポッと入れ歯を入れなおした唐井は、満足げな顔で頷く。
「おおう!やるじゃねえか!わしの入れ歯がない声を正確に聞き分けるたぁ!」
「ほっほっほ。なんのこれしき。」
「あの二人なんだか和気藹々の雰囲気ですよ」
「で!コワッパ!どうなんじゃ!?」
「ええっと、この小刀を知ってるんですか?」
「質問に質問で返すなべらんめぇ!」
「すっすみません。」
オドロキは顔を引き締め直す。
「これは現場に落ちていた凶器です。
凶器には八百谷さんの指紋が付着していました。
あなたは八百屋さんが殴りかかったと言っていますが
被害者は刺されて死亡してるんです!」
「なんじゃと?だが、それはオジョウサンの大事な形見じゃぞ」
「えええええ!?」
「これで一歩近づいちまったみてぇだな」
トントンと指で頭を叩きながら、ユガミはにやりと笑みを浮かべる。
「この嬢ちゃんが犯人だって証拠が」
「くっ」
オドロキは少し怯んだが、すぐにきっと目元を引き絞る
「この証言では被告人が殴ったところが目撃されています!」
「そんなの簡単に説明できらぁ。
嬢ちゃんが被害者を刺したとき、被害者はまだ生きていた。
嬢ちゃんはとどめとして被害者を殴りつけたんだよ」
「ふむ。それなら確かに納得できますな」
サイバンチョウが頷く。
だが、オドロキは首を振る。
「それは不可能です。」
「ほう。証拠はあるんだろうな?」
「ええ。」
オドロキは証拠品リストからある証拠品を抜き出す。
「これは……“電気スタンド”?」
「こちらの電気スタンドは5kgの重さがあり長さもあります。
被害者にむかって殴りかかるのには
電気スタンドを大きく振り下ろさないといけません。
カライさん。」
「なっなんじゃ?」
「ヤオヤさんはか弱い女性だったそうですね」
「あぁ、そうじゃ。私の仕事を手伝うと言ってくれたときも
大きなスコップを渡したんじゃが
持っただけでフラフラしおってな。
とても見ておれんくて丁重にお断りさせてもらいやしたよ」
「そのスコップの重さは?」
「んー?確か2kgあるかないかくらいじゃったかな」
「そう。2kgの物を持っただけでフラつく人がそれ以上重い物を持って
なおかつ振り下ろすことなんて不可能なんですよ!」
「それじゃ泥の字。このじいさんが見たものは全部嘘だったと言いてえのか?」
「なっ!」
カライが顔を瞬時に沸騰させ、目尻を大きく吊り上げ、弁護側に顔を向ける。
「ほひ!ほほふ!はひほほへほふひんはふはひふふふほひは!」
「……弁護人」
またかよ!
オドロキは心中でツッコミつつ、また入れ歯を拾いに行く。
「『おい。小僧。わしをボケ老人扱いするつもりか』と言っておりますが
どうなのですか?」
「それはっそのっ」
オドロキは冷や汗を額にかきながら、必死に言葉を考える。
彼は唐井へと視線を向ける。
この人は確かに“今は”嘘は吐いてない。
そっと腕輪に触れるが、腕輪からは何の反応もない。
「うーん……ヤオヤさん以外に電気スタンドを持てる人が居れば
その人が真犯人なんですけど……」
隣に居た心音がイヤリングをいじりながら、思考を巡らせる。
電気スタンドを持つことができた人か……。
額をぎゅっと指で押し、目を固く閉じる。
そんな人現場に……
はっとオドロキの脳内で光が灯る。
机に並べていた証拠品リストたちを見直す。
お目当ての証拠品を見て、自分の考えに少し自信が湧く。
――――もしかして
オドロキは机をダンッと殴りつける。
「唐井さん!」
「なっなんじゃ!」
「あなたが目撃したのは、殴りかかるヤオヤさんの姿だけだったんですよね!?」
「あぁ。そうじゃが。」
「しかも、見たのは後ろ姿であり、誰に殴りかかったのかはわからなかったんですよね!?」
「そうじゃ、薄暗くて相手がいたかどうかもわからんかったわい」
確信を持ったオドロキは、前のめりだった姿勢をしゃんと正す。
「……唐井さんが女性を見たというのは正しいでしょう。
けど、それがヤオヤさんだったというのは違います」
「ほう?この被告人じゃないのなら、一体このじいさんが見た女は誰だったんだ?」
「それはこの人です。」
オドロキが示した人物に、サイバンチョウが目を丸くした。
「これは!被害者ではないですか!」
「そう言うのなら証拠はあるんだろうな?」
「はいっ。もちろん」
胸を張り、自信に満ち溢れた返答にユガミは鋭い双眸で赤い弁護士を刺す。
「だったら、示してみな。ただし、ボケたこと言ったら問答無用で……叩っ切る」
チャッとユガミが前のめりになり、得物に手をかけた。
「それでは提示してください」
リストからある証拠品を抜き出し、つきつける。
「“解剖記録”ですか?」
「死体には胸部の傷以外に怪我は見られませんでした。
しかし、ヤオヤさんは頭部に怪我をしています。誰かに殴られたかのような……ね」
ユガミは鋭い目つきのまま、眉を歪めた。
「そして、現場には“燃えかけの着物とカツラ”が発見されました。」
「なにが言いてぇ?」
結論を言わないオドロキに、イラ立ちを隠せずユガミが詰め寄る。
「逆だったんです。」
「逆?」
「唐井さんが見たのは、"ヤオヤさんが被害者を襲っていた"ところではなく
"被害者がヤオヤさんを襲っていた"ところだったんです!」
「なっなんですとぉおおお!?」
ぐはっとユガミはオドロキの一太刀に、体をのけぞらせた。
オドロキは現場にあった着物とカツラを法廷の人々に見せる。
「現場から発見されたカツラと着物を使えばヤオヤさんに変装することは容易いでしょう。」
「黙りなぁ!
へっバカも休み休み言いやがれ。
それならなんで被害者はそんな真似をしたっていうんだ。」
「そっそれは……」
ちっとユガミ検事は舌打ちをした。
ユガミは目を閉じ、動かない。
しばらくして、ゆっくり開いた。
「いいぜ」
「え?」
ユガミの言葉にオドロキは目を瞬かせた
主張を崩したはずなのに夕神の焦りは少しだけで、今は余裕な顔つきをしている。
「お前さんの主張はこうだ。『被告人は被害者に襲われて気絶していたから、被告人を殺してない』
けど、それが成り立たないとしたら?」
「どういうことですか?」
「おい、じいさん。検察側はもう一人証人を入廷させるぜ」
へっと笑い、顎に手を添える。
「じいさんが目撃する前に、被害者を殺した後の被告人を見たっていう証人をな」
「なっなんですってぇええええ!」
オドロキと心音は飛び上がった。
「確かに被告人の嬢ちゃんはあの電気スタンドを持ってなかった。
だが、刀なら刃を相手の腹に刺せば、簡単に殺せる。
もしこのじいさんが被告人を殴ってる被害者を見る前に、被害者が死んでたとしたら
お前さんの主張は通らなくなる」
「うううううう!」
カンッ
「それでは証人を入廷させてください」
オドロキは机に置いた両手の拳を悔しげに握りこむ。
「くっ。なんでその証人を先に出さないんだよ」
「あれ?言われてみれば変ですね」
心音が首をかしげた。
「ユガミ検事ならこれくらいの反論予測できそうなのに」
だが、オドロキたちの疑問は次の証人の登場で消えた。