賽は投げられた
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3月30日 午後 5時43分
鬼風アジト
「橋間 未來は死亡したようだ」
「……だろうな」
ソファに腰かけ、新聞の記事を見ながら、苦々し気に鬼風……モミジが顔を歪める。
「あの未來って男がそそのかされたのは、十中八九 狐火だろうよ。あの狐の口封じであの橋間って和妻師は殺されたんだろうよ」
そう言ってモミジは新聞をテーブルに放り投げた。
「あの男は残念だったが、今回の任務は達成したから問題はないさ」
「例の物を盗んだのは、あの青い弁護士にはバレてないな」
「あぁ、よくはわからんがとくには追求されなかったよ。犯人が死んでそれどころじゃなかったっていうのもあるかもしれんけどな」
「アタシは少し疲れた。慣れないことばかりでな」
「……まぁ、今回は手間が省けてラッキーだったよ」
モミジは闇色の瞳を爛々とさせ、欝々とした笑みを口元に浮かべる。
「どうせ、取引が終わればあの爺さんは消す予定だったしな。
お前が犯人にされたのは想定外だったが」
「アンタにとっては邪魔にしかならないか」
杏里の言葉にモミジは喉でくくっと笑う。
「そうだろ。せっかく消えたジンニク病をまた復活させるなんて馬鹿げた研究者なんて」
「怪盗鬼風が殺しをやると聞いたら、世間はどう思うだろうね」
ハッとモミジは鼻で笑う。
「私は“怪盗”を名乗った覚えはねえ。世間が勝手にそう言ってるだけだろ。
盗みよりも殺しの方が後始末が面倒だから、やらねえだけだ。
それにどうせ、私は汚い犯罪者だ。今さら善良な人間を名乗る気はねえよ」
「それで、例の物は?」
「あの爺さんは素直に入れておいてくれたよ。コインロッカーに」
ソファに立てかけていた、布でぐるぐる巻きの長物を手に取る。
布を取り去り、黒い鞘に納められた日本刀をモミジは柄を握って抜き放つ。
薄暗い部屋の中で、その刀は刃からほんのりと紅い光を放っている。
「 焔丸(ほむらまる)」
杏里の言葉に、モミジが頷く。
「そっ。紅葉が打った刀だ。
私たちが欲しかったのは資料もそうだが、この刀もそうなんだよ。
……あいつには言わなかったが」
「しかし、どういう仕組みなのかね。赤い刃の刀なんて」
「さぁ?紅石を混ぜてあるってのは知ってるけど、鍛冶師ではないからそこまでの仕組みはわからんよ」
「……わかってるのは、これは“鬼”が打った刀であり、誰にも渡しちゃいけない」
すっと刀身を鞘に入れ、パチンと刀を元に戻す。
「なんせ、唯一或真敷の一族に催眠をかけられる刀だからな」
焔丸という名の刀を布でぐるぐる巻きの状態に戻しながら、モミジが杏里にある疑問を問う。
「というか、杏里。お前なんでわざわざ私の口からナルホドくんに鬼風の目的を言わせたんだ。どうせ話すなら、お前でもよかったはずだろ」
「……あの弁護士の能力は知ってるか?」
「知ってるよ。調べたからな。ナルホドくんのこと。
あの人は、道具を介して綾里家の不思議な力を使っている」
「どういう原理かはわからないが、あれは人の秘密を見ることができるから厄介だったんだ」
「サイコ・ロックと呼んでたな。確か。って、そんなことより、なんでナルホドくんに私から話すよう仕向けたんだよ」
「あの能力だから使えなくしたかったんだ」
「いや、そりゃわかるけど」
自分の問いに答えない相棒に、モミジは不満気な表情を滲ませる。
「それで、あの弁護士には言ってないだろうな」
相棒の態度に話す気がないことを感じ、はぁとわざとらしいため息を吐きながら答える。
「言うわけないだろ。なるだけ嘘にならないように隠すのは面倒だったぞ」
「それじゃ勾玉はつきつけられなかったんだな」
「まぁ、あの様子だとサイコ・ロックは出なかっただろうよ。
事件には関係ないことだったし、追求されることはなかったさ。まぁ、もし聞かれても答える気はさらさらねえけど。証拠もないだろうし」
モミジは自暴自棄のようなふてくされているような表情を浮かべ、夕日を眺める。
「そうか。腕輪の具体的な作者のことは話してないんだな」
「話すかよ。あの或真敷の腕輪を作ったのが“紅葉”だなんて」
ちりっと焦げるような熱がモミジの目に宿る。
「金工師で元々手先が器用だったんだ。生まれた村では顔の痣のせいで“醜女 ”なんて言われてたけどな。まぁ、そのせいであの“金山”に囲われることになっちまったんだけどな。
生まれた村の人間どもは体のいい厄介払いができるぐらいと安堵していたぐらいだ」
モミジはその目を剣呑に細める。
「まるで見てきたように語るな」
醜女 にギロッと強く睨まれ、杏里はククッと笑って流す。
「……どうせ嘘みたいな事実だから、誰も信じねえよ」
モミジはソファに寝転がり、目を瞑る。
「紅葉を救ってくれたのが、“ヒノスケ”。彼だった」
「しかし、本当に手に入るのかねぇー。真緋石 なんて」
杏里の言葉に、モミジは目を開き天井を睨む。
「私は、手に入れなきゃならないんだよ。なんとしても、私はあの真緋石 を……」
ぎゅっと拳を握りこむ。
「必死だねぇー。……そんなにあの或真敷のボウヤが大事か?」
「当たり前だろ。
……いつか私が“ ”相手なんだから」
小さく呟いたその言葉は彼女の口の中だけで響き、外に漏れることはなかった。
~To be continued~
鬼風アジト
「橋間 未來は死亡したようだ」
「……だろうな」
ソファに腰かけ、新聞の記事を見ながら、苦々し気に鬼風……モミジが顔を歪める。
「あの未來って男がそそのかされたのは、十中八九 狐火だろうよ。あの狐の口封じであの橋間って和妻師は殺されたんだろうよ」
そう言ってモミジは新聞をテーブルに放り投げた。
「あの男は残念だったが、今回の任務は達成したから問題はないさ」
「例の物を盗んだのは、あの青い弁護士にはバレてないな」
「あぁ、よくはわからんがとくには追求されなかったよ。犯人が死んでそれどころじゃなかったっていうのもあるかもしれんけどな」
「アタシは少し疲れた。慣れないことばかりでな」
「……まぁ、今回は手間が省けてラッキーだったよ」
モミジは闇色の瞳を爛々とさせ、欝々とした笑みを口元に浮かべる。
「どうせ、取引が終わればあの爺さんは消す予定だったしな。
お前が犯人にされたのは想定外だったが」
「アンタにとっては邪魔にしかならないか」
杏里の言葉にモミジは喉でくくっと笑う。
「そうだろ。せっかく消えたジンニク病をまた復活させるなんて馬鹿げた研究者なんて」
「怪盗鬼風が殺しをやると聞いたら、世間はどう思うだろうね」
ハッとモミジは鼻で笑う。
「私は“怪盗”を名乗った覚えはねえ。世間が勝手にそう言ってるだけだろ。
盗みよりも殺しの方が後始末が面倒だから、やらねえだけだ。
それにどうせ、私は汚い犯罪者だ。今さら善良な人間を名乗る気はねえよ」
「それで、例の物は?」
「あの爺さんは素直に入れておいてくれたよ。コインロッカーに」
ソファに立てかけていた、布でぐるぐる巻きの長物を手に取る。
布を取り去り、黒い鞘に納められた日本刀をモミジは柄を握って抜き放つ。
薄暗い部屋の中で、その刀は刃からほんのりと紅い光を放っている。
「 焔丸(ほむらまる)」
杏里の言葉に、モミジが頷く。
「そっ。紅葉が打った刀だ。
私たちが欲しかったのは資料もそうだが、この刀もそうなんだよ。
……あいつには言わなかったが」
「しかし、どういう仕組みなのかね。赤い刃の刀なんて」
「さぁ?紅石を混ぜてあるってのは知ってるけど、鍛冶師ではないからそこまでの仕組みはわからんよ」
「……わかってるのは、これは“鬼”が打った刀であり、誰にも渡しちゃいけない」
すっと刀身を鞘に入れ、パチンと刀を元に戻す。
「なんせ、唯一或真敷の一族に催眠をかけられる刀だからな」
焔丸という名の刀を布でぐるぐる巻きの状態に戻しながら、モミジが杏里にある疑問を問う。
「というか、杏里。お前なんでわざわざ私の口からナルホドくんに鬼風の目的を言わせたんだ。どうせ話すなら、お前でもよかったはずだろ」
「……あの弁護士の能力は知ってるか?」
「知ってるよ。調べたからな。ナルホドくんのこと。
あの人は、道具を介して綾里家の不思議な力を使っている」
「どういう原理かはわからないが、あれは人の秘密を見ることができるから厄介だったんだ」
「サイコ・ロックと呼んでたな。確か。って、そんなことより、なんでナルホドくんに私から話すよう仕向けたんだよ」
「あの能力だから使えなくしたかったんだ」
「いや、そりゃわかるけど」
自分の問いに答えない相棒に、モミジは不満気な表情を滲ませる。
「それで、あの弁護士には言ってないだろうな」
相棒の態度に話す気がないことを感じ、はぁとわざとらしいため息を吐きながら答える。
「言うわけないだろ。なるだけ嘘にならないように隠すのは面倒だったぞ」
「それじゃ勾玉はつきつけられなかったんだな」
「まぁ、あの様子だとサイコ・ロックは出なかっただろうよ。
事件には関係ないことだったし、追求されることはなかったさ。まぁ、もし聞かれても答える気はさらさらねえけど。証拠もないだろうし」
モミジは自暴自棄のようなふてくされているような表情を浮かべ、夕日を眺める。
「そうか。腕輪の具体的な作者のことは話してないんだな」
「話すかよ。あの或真敷の腕輪を作ったのが“紅葉”だなんて」
ちりっと焦げるような熱がモミジの目に宿る。
「金工師で元々手先が器用だったんだ。生まれた村では顔の痣のせいで“
生まれた村の人間どもは体のいい厄介払いができるぐらいと安堵していたぐらいだ」
モミジはその目を剣呑に細める。
「まるで見てきたように語るな」
「……どうせ嘘みたいな事実だから、誰も信じねえよ」
モミジはソファに寝転がり、目を瞑る。
「紅葉を救ってくれたのが、“ヒノスケ”。彼だった」
「しかし、本当に手に入るのかねぇー。
杏里の言葉に、モミジは目を開き天井を睨む。
「私は、手に入れなきゃならないんだよ。なんとしても、私はあの
ぎゅっと拳を握りこむ。
「必死だねぇー。……そんなにあの或真敷のボウヤが大事か?」
「当たり前だろ。
……いつか私が“ ”相手なんだから」
小さく呟いたその言葉は彼女の口の中だけで響き、外に漏れることはなかった。
~To be continued~