賽は投げられた
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「弁護人がわかっていないようだから、もう一度私が言ってやろう」
御水検事がペットボトルの水を喉に流してから、口を開く。
「もし、この証人が被害者と二人きりになりそれを飲ませたとしても、それを実行するには問題が二つ発生する。
ひとつ目は、毒を飲んでから毒がまわるまでの時間は、被害者と接触したどの時間帯も、毒が発現する時間が長すぎるし短すぎるため不可能。
ふたつ目は、どうやってその毒を大勢の前で被害者に飲ませたか。
この二つの問題を解決できなければ、あんたの主張は通らない!」
検事の言葉に成歩堂はボディブローをくらったようにうっとよろめく。
(……あの人が殺した動機はある。だが、肝心のその方法がわからない)
証拠品リスト……
成歩堂は解剖記録のある一点を見る。
(この不可解な記録は……)
それから、彼はモミジはじっと見据えた。
「なっなんだよ」
成歩堂の脳裏に彼女との会話や自分の言葉がバラバラに浮かんでは消えていく。
"「……前提が間違ってるとか……」"
"「……これが"逆"だったら簡単なんだけどなー」”
“ズボンの太腿に2ミリほどの穴があり”
”「"逆"っていうと……」
「もっと"速く"毒が出る方法なら説明できるんだよ」"
"「事件のなにかが間違ってるはずなんだ。そうでなければ、これだけ毒に関する資料を探してそれらしい毒が出てこないのはおかしい」"
様々な情報が彼の頭を抜けていき、ある瞬間電流のような痺れを脳内に感じた。
……そうか。そういうことか。
思わず成歩堂は手で顔を覆って天井を仰ぎたくなった。
毒の出る時間がちがったこと。
あの時間で毒を全身に回らせる方法。
大衆の前で被害者に毒を盛った方法。
成歩堂は今まで勘違いしていたひとつの事実をハッキリと認識した。
「証明できないのであれば、この証人に証言することはないので、今すぐ退出を……
成歩堂は閉じていた目を開き、バンと机を叩く。
「犯人は毒を飲ませたんじゃなく、注入したんです!血管に!直接!」
「つまり"注射"ですか!?」
「経口よりも血管に毒物を注入した方が毒の回りが早くなるんです」
被害者に注射のような痕はない!」
そうはいきませんよ!解剖記録にはこう書かれています。"ズボンの太腿に2ミリほどの穴があり"という記録が!」
その言葉に、成歩堂と御水検事が証人席に振り返る。
「あの、弁護士さん。もし、ボクが殺人をしたとして、そんな注射器がどこにあるんですか?」
橋間から出てきた質問は至極当たり前の反応だった。
「それに、あの駅構内で注射器を持っていたら、誰かに見られたはずですよね?だって、目立ちますから。そんな注射器を持った人」
「和妻師であるあなたなら、観衆の目を盗んで注射を打つのだって容易なはずです!」
かなり無理がある推理であったが、現在考えられる可能性はそれだけだった。
「それじゃ、見せてください」
「へ?」
「ボクが注射して被害者を毒殺したっていう証拠を」
「そっそれは……!」
成歩堂は言葉に詰まる。
「"逆転の発想"だろ?」
「え」
隣の女性から出た言葉に、成歩堂は目を見開く。
「どうしてその言葉を?」
「いいから、裁判に集中しろ」
茶髪の女性がぺしっと成歩堂のお尻を叩く。
思わずその場で跳ねあがる成歩堂。
「なぜ、注射器が見つからないか。ではなく、どうすれば注射器が見つけられないか」
腕組みをしながら、成歩堂を見上げてくるその顔は彼の師匠の顔がチラついて見えた。
「追い詰める側じゃなく追い詰められる側の立場になって考えるんだよ」
成歩堂はじっと証言台に立っている証人の姿を見据える。
「目に見えている物ほど見つけにくくなる」
その言葉で成歩堂はピンッと来た。
成歩堂は確信を持った視線を証人へと向ける。
「ずっと、気になっていたんです。あなたが持っているその傘」
刹那の間に成歩堂の脳内で逆転の道筋は完成していた。
「和妻師であるならば、和傘を持つべきなのに、あなたが持ってるのはどう見ても西洋のコウモリ傘です」
和妻師の青年は見た目は変化が見られなかったが。
「傘ですか」
発した声はほんの微かにだが、震えていた。
「調べさせてもらえますか。その傘」