賽は投げられた
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「先生は病院の帰りの電車だったので、いつもその時間帯に乗っていたました」
「橋間さんもその時間は近くの職場の帰りの電車だったので、乗っていたそうですよ。
だからこそ薬を手渡すところを目撃できたのです」
「それでは証言していただきましょう」
「あれは夕方のことでした
いつもの電車を待っていたんです。
そのとき、白衣の女性と老人が話しているのが聞こえたんです。
気になって、そっちに目を向けると
杖をついて老人が一歩前に出たんです
そして、女性が老人に薬を渡しました」
「それは間違いありませんかな」
「はい。職業柄目は良いほうなので、見間違いはないかと」
「それでは弁護人、尋問してもらいましょう」
「そして、女性が老人に薬を渡しました」
「薬を渡した。……間違いありませんか?」
「はい。クリニックでもらう薬袋を渡されていたので間違いありません」
成歩堂は首を振る。
「残念ながら、それは薬ではありません」
「え」
「あなたは言いました。薬袋を渡されたのを見たと。つまり、薬の中身まではわからなかった」
「重要なのは薬の中身ではない。被告人が被害者に薬を渡していたという事実だ!」
「いいえ、薬の中身は非常に重要です」
「それでは、薬の中身が毒以外だと証明できるんですかな」
「できますよ」
「なんだと」
「これは……被害者に渡したという薬ですかな?
しかし……これは」
「この中身は小麦粉です」
「小麦粉?しかし薬袋にきちんと入っていますよ」
「プラシーボ効果というものを知っていますか?」
「確か、実際には効果がない薬を渡して、効果があると思い込ませるというあれですか」
「それがなにか」
「黒谷さんは被害者から薬を要求されていたのですが、副作用が強すぎる薬だったため、出すのをしぶっていました。彼女はある時から被害者に小麦粉を渡すようにしていたんです。
被告人の自宅には大量の小麦粉が入った薬袋がいくつも用意しておいてあります。
あの日も黒谷さんは被害者に小麦粉を渡していたんです」
「そんなの、証拠になりませんよ」
「……橋間さん?なぜあなたが?」
「あっいえ、そのなんとなくです」
慌てて、険しい顔立ちを変え、柔らかい顔立ちに戻す。
「……それとも被告人になにか恨みでも?」
「は?」
成歩堂の隣に控えていた茶髪の女性の言葉に、橋間は眉を顰める。
茶髪の女性姿の鬼風は、もう一度口を開く。
「いえ、失礼。言い方を変えましょう。
被害者になにか恨みでもあったのですか?」
「……それは、どういうことでしょうか?」
「ちょっ、オニっ、楓さん」
「ナルホドくん。気づかないのか、あんた」
ぼそりと男性の声色で聞かれ、成歩堂はえっと固まる。
「苗字に、顔、もっとも考えられる可能性がまだ浮かんでいないのか?」
鬼の泥棒にそう言われ、証拠品リストを見た成歩堂。
彼はあっとあることに気づく。
「言っておきますけど、僕は被害者と何の関わりもありません。
もしあるとしても動機がないとおかしいですよね。
毒を使って、それを被害者に飲ませる
そんな計画的な犯行を実行しようとするなら
強い動機がないのはおかしいと思います」
橋間の言葉に、成歩堂は黒い双眸で彼を見据える。
「強い動機、関わり。それがもしあればあなたは白状するんですね」
「証拠もないのによく言いますよ」
「証拠ならありますよ」
くらえ!
「これは……誰ですかな?」
女性の写真をつきつけられ首をかしげるサイバンチョ
「橋間京子さんという女性で、被害者のクリニックで治療をしていた患者ですよ」
「橋間?この苗字は……」
「証人の苗字と同じです。そして、橋間京子さんが橋間未來さんと関係があるという証拠もあります」
「なんと、それは?」
成歩堂はモモイロという家政婦が見せてくれたロケットペンダントの写真を見せる。
「これは!証人の顔ではないですか!」
「そうです。そして、彼女の持ち物のロケットペンダントに証人の写真が入っていました。
まったくの偶然とは考えられません。
さらに、この橋間京子という女性は、亡くなっています」
「なんですと」
成歩堂が続きを言おうとして
「そして、橋間京子さんには芸人の弟が居たそうです」
「えっ」
成歩堂が驚いて言葉を発した鬼風を見てしまうが、鬼風が睨んで前を向けと顎をしゃくる。
「それは、もしや!」
「そっそうです。この証人は亡くなった橋間京子の弟さんなんです」
後半は知らなかったけど。
鬼風が付け足した情報についてはこっそりと成歩堂は自分の胸の内だけにこぼした。
「あなたは被害者と無関係ではなかった。姉である橋間京子を被害者に殺されたという強い動機があるんです」
成歩堂は証人を見据える。
「事件二日前も、前日も、当日も、あなたは職場から帰宅するための駅として、低柄駅に居た。つまり、被害者に接触する機会はあったということです」
「あはははは」
成歩堂の言葉に、橋間は笑い声をあげる。
ひとしきり笑ってから、彼は成歩堂を見た。
「それで?」
「え」
「お話になりませんね。
確かに橋間京子は僕の姉で彼女は亡くなっています。
でも、よく考えてください。被害者は毒でなくなったんですよ?
一体どうやって、僕はあのお医者さんに、毒を"飲ませた"というんですか?
僕が彼になにか怪しい食べ物を渡しているところを見たんですか?
そのような物はカメラにも映ってないはずです。
つまり、弁護士の勝手な妄想だ」
鬼風が勝手に異議を発する。
「ちょっ。君、なにを」
「いいや。譲らないね。私の勘だが、奴はなにか匂う」
「じゃあ、彼は一体どうやって被害者に毒を飲ませたんだい」
成歩堂はその点を思わず鬼風に問い詰めてしまう。