賽は投げられた
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同日 午前10時
地方裁判所 第二法廷
カンッと木槌の音でざわめきが止んだ。
「さて、前回はとんでもない事態でしたな。
まさか被告人が偽物で本当の被告人がいまだに自宅に居たとは。
今回は大丈夫でしょうか」
「もちろんです。今回はバッチリ本物であると保障します」
「それならいいのですが。さて、前回は殺害方法が重要なポイントとなった審理でした。
検察側は詳しい解剖結果の報告をお願いします」
「解剖に関わった検視官を入廷させましょう」
法廷に愛想の悪い男の姿が現れる。
「それでは、証人の名前と職業を」
「ふんっ。北李 郁夫 。検視官だ」
「それで、被害者の死因となった毒は一体なんだったんですか?」
人前もあり御水検事は努めて丁寧な口調にしていたが、微かにやりにくそうな雰囲気を醸し出していた。
検視官の言葉を成歩堂と鬼風がじっと聞き入る体勢になっていた。
「リシン以外の毒が使われた。それを証明されない限り、私らの勝ち目はないぞ。ナルホドくん」
無意識に成歩堂はゴクッと喉を鳴らす。
「薬毒物検査の結果、―――――リシンの毒が使われたと判明されました」
「なっ」
成歩堂と思わず口をあんぐり開けてしまう。
「……マジかよ」
鬼風が片頬をピクピクと引き攣らせた。
「ふふふふ」
御水検事は突如笑い声をあげはじめた。
「どうですかな。成歩堂弁護士。これで証明されたようですな!
被告人 黒谷 杏里が被害者を毒殺したということが!
さらに、被告人はリシンを製造していたというではありませんか。
これはもう言い逃れはできないでしょうな」
「うううううう。そんな」
「どうすんだよ。ナルホドくん」
「残念でしたな。成歩堂弁護士」
勝ち誇りながら御水検事はペットボトルに手を伸ばし、キャップを外す。
「あっ。ちなみにそのペットボトルに例の毒がついてます」
「おおおおおおおおおおっとおおおおお!」
御水検事は口がつくすんでのところで、ペットボトルから口を離した。
「なんでそんなもんがついてんだっ!」
「ジョークですよ。ついてる訳ないじゃないですか」
「ぐぐぐぐっぐぐ」
「……あの検視官、よっぽどあの検事の勝ち誇った顔が気に入らなかったんだろうな」
鬼風が半目で検視官と検事のやり取りを見つめる。
(恨みはかなり深そうだな)
「ふんっ。弁護側にはさらにもう一つプレゼントを渡そう」
「プレゼント?」
「被告人が事件の二日前に駅で被害者に薬を渡していたところを見たという目撃者の証言をな!」
「なっなんですって!?」
「……泣き面に蜂とはこのことだな」
ボソリと鬼風が呟きを落とす。
「どうすんだよ。ナルホドくん。もうこの裁判じゃ、杏里が毒を飲ませたことをひっくり返すことはできねえぞ」
「いや、まだだ」
「なにか、策があるのか」
そう言われ成歩堂は黙ってしまうが、すぐに口を開く。
「ないけど、黒谷さんが犯人でないなら目撃証言に必ずムジュンがあるはずだ。小さなムジュンが真実に続くカギになる。見つけてやるさ。なんとしてでも」
「つまり、ノープランかよ。ハッ、頼もしいことだな」
鬼風は嫌らしく片方の唇を吊り上げてから、真顔になる。
「……頼むぜ。杏里の無罪はアンタにかかってるんだから」
「それでは、その目撃者を呼んでもらいましょう」
「証人。名前と職業を」
和装姿の男性が、赤い傘を広げる。
パッと傘を上げると、いつの間にか顔にオカメの面がついていた。
「おおっ」
(なんだ?)
男は床につきそうなほど長い羽織を揺らしながら、その場でくるりと回り傘を閉じる。
証言台に傘をたてかけ、袖から白い手ぬぐいを取り出し、左手に被せる。
パッと手ぬぐいをとると、左手に扇子が現れた。
「おお!」
感嘆の声をあげながら、裁判長が証人のマジックに目を輝かせる。
男は扇子を閉じ、腹の袴に挿した。
そして、ぺこりと頭を下げる。
会場から溢れんばかりの拍手が響き渡る。
「ご視聴ありがとうございました。
わたしは和妻師の橋間 未來 です」
「和妻師……?」
首を傾げる成歩堂に、鬼風が答える。
「江戸時代の手品師のことだよ。西洋手品が一般的だから、あまり知られてないようだがな」
「詳しいね」
そう成歩堂が言うと、鬼風が呆れたような顔をする。
「マジシャンの娘がいるんだから、これぐらいは知ってろよ」
「……ボクは弁護士だから」
「はいはい」
成歩堂の反論は鬼風に軽くあしらわれてしまった。
「しかし、あの和妻師まだまだだな。せっかく羽織袴でキメてるのに、使ってるのが洋傘じゃ違和感ありまくりだろ」
鬼風が不満そうにぼそりと呟く。
(泥棒がなんか言ってるぞ)
「それはまた珍しい職業ですな。いや、しかしお若いのに昔の伝統技術を受け継いでいるというのはなかなか立派ですね」
「……裁判長。話を進めてよろしいですかな」
「おお。そうでした。あなたが被告人が被害者に薬を渡したところを見たのは間違いないでしょうか」
橋間はパッと右手に扇子を出現させて、口元を隠す。
「はい。この目でしかと」
「よろしい。それでは証言していただきましょう」
「さぁ、ナルホドくん。これをなんとしてでも崩さねえと後がねえぞ」
「あぁ、そうだね」
地方裁判所 第二法廷
カンッと木槌の音でざわめきが止んだ。
「さて、前回はとんでもない事態でしたな。
まさか被告人が偽物で本当の被告人がいまだに自宅に居たとは。
今回は大丈夫でしょうか」
「もちろんです。今回はバッチリ本物であると保障します」
「それならいいのですが。さて、前回は殺害方法が重要なポイントとなった審理でした。
検察側は詳しい解剖結果の報告をお願いします」
「解剖に関わった検視官を入廷させましょう」
法廷に愛想の悪い男の姿が現れる。
「それでは、証人の名前と職業を」
「ふんっ。
「それで、被害者の死因となった毒は一体なんだったんですか?」
人前もあり御水検事は努めて丁寧な口調にしていたが、微かにやりにくそうな雰囲気を醸し出していた。
検視官の言葉を成歩堂と鬼風がじっと聞き入る体勢になっていた。
「リシン以外の毒が使われた。それを証明されない限り、私らの勝ち目はないぞ。ナルホドくん」
無意識に成歩堂はゴクッと喉を鳴らす。
「薬毒物検査の結果、―――――リシンの毒が使われたと判明されました」
「なっ」
成歩堂と思わず口をあんぐり開けてしまう。
「……マジかよ」
鬼風が片頬をピクピクと引き攣らせた。
「ふふふふ」
御水検事は突如笑い声をあげはじめた。
「どうですかな。成歩堂弁護士。これで証明されたようですな!
被告人 黒谷 杏里が被害者を毒殺したということが!
さらに、被告人はリシンを製造していたというではありませんか。
これはもう言い逃れはできないでしょうな」
「うううううう。そんな」
「どうすんだよ。ナルホドくん」
「残念でしたな。成歩堂弁護士」
勝ち誇りながら御水検事はペットボトルに手を伸ばし、キャップを外す。
「あっ。ちなみにそのペットボトルに例の毒がついてます」
「おおおおおおおおおおっとおおおおお!」
御水検事は口がつくすんでのところで、ペットボトルから口を離した。
「なんでそんなもんがついてんだっ!」
「ジョークですよ。ついてる訳ないじゃないですか」
「ぐぐぐぐっぐぐ」
「……あの検視官、よっぽどあの検事の勝ち誇った顔が気に入らなかったんだろうな」
鬼風が半目で検視官と検事のやり取りを見つめる。
(恨みはかなり深そうだな)
「ふんっ。弁護側にはさらにもう一つプレゼントを渡そう」
「プレゼント?」
「被告人が事件の二日前に駅で被害者に薬を渡していたところを見たという目撃者の証言をな!」
「なっなんですって!?」
「……泣き面に蜂とはこのことだな」
ボソリと鬼風が呟きを落とす。
「どうすんだよ。ナルホドくん。もうこの裁判じゃ、杏里が毒を飲ませたことをひっくり返すことはできねえぞ」
「いや、まだだ」
「なにか、策があるのか」
そう言われ成歩堂は黙ってしまうが、すぐに口を開く。
「ないけど、黒谷さんが犯人でないなら目撃証言に必ずムジュンがあるはずだ。小さなムジュンが真実に続くカギになる。見つけてやるさ。なんとしてでも」
「つまり、ノープランかよ。ハッ、頼もしいことだな」
鬼風は嫌らしく片方の唇を吊り上げてから、真顔になる。
「……頼むぜ。杏里の無罪はアンタにかかってるんだから」
「それでは、その目撃者を呼んでもらいましょう」
「証人。名前と職業を」
和装姿の男性が、赤い傘を広げる。
パッと傘を上げると、いつの間にか顔にオカメの面がついていた。
「おおっ」
(なんだ?)
男は床につきそうなほど長い羽織を揺らしながら、その場でくるりと回り傘を閉じる。
証言台に傘をたてかけ、袖から白い手ぬぐいを取り出し、左手に被せる。
パッと手ぬぐいをとると、左手に扇子が現れた。
「おお!」
感嘆の声をあげながら、裁判長が証人のマジックに目を輝かせる。
男は扇子を閉じ、腹の袴に挿した。
そして、ぺこりと頭を下げる。
会場から溢れんばかりの拍手が響き渡る。
「ご視聴ありがとうございました。
わたしは和妻師の
「和妻師……?」
首を傾げる成歩堂に、鬼風が答える。
「江戸時代の手品師のことだよ。西洋手品が一般的だから、あまり知られてないようだがな」
「詳しいね」
そう成歩堂が言うと、鬼風が呆れたような顔をする。
「マジシャンの娘がいるんだから、これぐらいは知ってろよ」
「……ボクは弁護士だから」
「はいはい」
成歩堂の反論は鬼風に軽くあしらわれてしまった。
「しかし、あの和妻師まだまだだな。せっかく羽織袴でキメてるのに、使ってるのが洋傘じゃ違和感ありまくりだろ」
鬼風が不満そうにぼそりと呟く。
(泥棒がなんか言ってるぞ)
「それはまた珍しい職業ですな。いや、しかしお若いのに昔の伝統技術を受け継いでいるというのはなかなか立派ですね」
「……裁判長。話を進めてよろしいですかな」
「おお。そうでした。あなたが被告人が被害者に薬を渡したところを見たのは間違いないでしょうか」
橋間はパッと右手に扇子を出現させて、口元を隠す。
「はい。この目でしかと」
「よろしい。それでは証言していただきましょう」
「さぁ、ナルホドくん。これをなんとしてでも崩さねえと後がねえぞ」
「あぁ、そうだね」