賽は投げられた
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同日 某時刻
留置所 面会室
「よお。センセイ。調査ごくろうさん」
杏里が面会室に入ってきて、成歩堂に向かって片手をあげた。
ギシッと音を立てながら、彼女はパイプ椅子に腰かける。
「それで?弁護するかどうかは決まったか?」
「……その前に聞きたいことがあるので、話してもらっていいですか?」
「いいぜ」
(さて、なにから話すかな……)
成歩堂は、調査してきたことを思い出しながら、彼女に質問していく。
≪職場をやめた時期について≫
「三ヵ月前に職場をやめたと言っていましたよね。それは?」
「それはって。その通りだよ」
杏里は怪訝な顔で成歩堂を見る。
「三ヵ月前にやめた。間違いありませんか」
「…………」
相手は眉をひそめただけで、なにも言わない。
口を開かない杏里の意志を、成歩堂は肯定と取る。
「現場で捜査していた刑事に聞いてみたのですが、あなたが職場をやめたのは“半年前”と言っていましたよ」
「!」
ぴくっと彼女の片眉が微かに動く。
「これはあきらかにおかしいですよね」
成歩堂はじっと杏里の顔を見据える。
「……あんたに教える必要があるかい?」
くくっと笑う。
「あんたに言う必要はない」
ふいっと顔をそらされてしまった。
相手を見て、これ以上追求してもダメそうだと成歩堂は判断した。
(?)
成歩堂はふと目の前の光景を見て、違和感を覚える。
だが、思い違いと解釈して、次の質問をすることにした。
≪突き落としたことについて≫
「あぁ、突き落とした。間違いないね」
「毒を入れたわけではないんですね」
「毒?
電車に轢かれて死んだのに、なんで毒なんて出てくるんだよ。
大体、そんな物飲ませるタイミングなんてどこにもなかったのに、どうやって飲ませるっていうんだ」
杏里は何を言ってるんだこいつは?という顔で、成歩堂を見た。
そして、その態度で成歩堂の答えは決まった。
「わかりました。あなたのその答えで、決心がつきました。
この弁護を引き受けます」
目を見開いて、杏里は固まった。
「なんで?」
「あなたは確かに突き落とした。けど、被害者はその前に死んでいた可能性があるんです」
それを聞いた瞬間。
杏里はガタッとパイプ椅子から立ち上がる。
「……死んでた……だと?」
瓶底の目の奥からきつく睨まれる。
「かっ解剖記録によると、電車に落ちる前に毒による中毒症状で心臓麻痺を起こしたと書かれているんです」
「なんの毒だ!?」
相手の依頼人は目の前のガラスを叩きながら、前のめりに訪ねてくる。
「えっと、そこまではまだ。もう少し詳しく調べてみないと、まだわからないそうです」
険しい表情で杏里は椅子に腰かけ、しばらく黙ってから口を開く。
「やっぱり“なし”だ」
「え」
「アンタに弁護は頼まない」
「なっ!?」
杏里はパイプ椅子から立ち上がると、成歩堂に背を向け、さっさと面会室から出て行こうとする。
慌てて成歩堂は彼女に声をかける。
「今から他の弁護士を探したって見つかりません!それに鬼風だってそれを望んでいないはずだ!」
ぴくっと杏里の肩が揺れ、相手は成歩堂に鋭い視線を投げつける。
「“鬼風”……だと?」
「あなたには黙っていろと言われたが、「出てけ!!」
ドンッと足を踏み鳴らし、成歩堂に向かって怒鳴る。
その声量に成歩堂の身が地面から数センチ飛んだ。
「今すぐに!」
(なっなんなんだ……一体?)
突如、怒鳴り出した依頼人に成歩堂は訳がわからず、言葉が出ない状態だった。
そのとき、扉から看守が入ってくる。
「おい、お前にこれを渡せと頼まれた」
「はぁ?今、取り込み中だ。くそっ。なんだこの紙切れ……」
看守が持ってきたメモ用紙を見て、彼女の顔から血の気が引いていく。
(なんだ?)
ぐしゃっと杏里はそのメモ用紙を握りつぶしたが、看守へとそれを返す。
さっきとは打って変わり、静かになった杏里は、椅子に座る。
「さっきのは取り消す。……弁護士はアンタのままだ」
「……さっきは頼まないと」
そう成歩堂が言うと、杏里はバツが悪そうに目をそらしながら、左肩に右手を置く。
成歩堂はその仕草を何気に見ていたが、あることに気づく。
肩に置かれた指先が微かに震えている。
情緒不安定な依頼人に動けずにいたが、今は彼の頭は冷静に戻りつつあった。
(さっきも、怒ったというよりは……)
まるでなにかに“怯えている”ようだった。
今もそうだ。
成歩堂には見えないなにかに彼女は怯えている。
成歩堂は、思い切って本心を突いた。
「あなたは……ボクに……何を隠そうとしているんですか」
成歩堂がそう尋ねながら、ポケットの中で緑に光る勾玉をギュッと握った。
彼女は眼鏡の奥から成歩堂を見据える。
「ひとつ、アンタに忠告だ」
眼鏡の逆光で彼女の瞳が見えなくなる。
「……アタシを“信じる”な。絶対に」
留置所 面会室
「よお。センセイ。調査ごくろうさん」
杏里が面会室に入ってきて、成歩堂に向かって片手をあげた。
ギシッと音を立てながら、彼女はパイプ椅子に腰かける。
「それで?弁護するかどうかは決まったか?」
「……その前に聞きたいことがあるので、話してもらっていいですか?」
「いいぜ」
(さて、なにから話すかな……)
成歩堂は、調査してきたことを思い出しながら、彼女に質問していく。
≪職場をやめた時期について≫
「三ヵ月前に職場をやめたと言っていましたよね。それは?」
「それはって。その通りだよ」
杏里は怪訝な顔で成歩堂を見る。
「三ヵ月前にやめた。間違いありませんか」
「…………」
相手は眉をひそめただけで、なにも言わない。
口を開かない杏里の意志を、成歩堂は肯定と取る。
「現場で捜査していた刑事に聞いてみたのですが、あなたが職場をやめたのは“半年前”と言っていましたよ」
「!」
ぴくっと彼女の片眉が微かに動く。
「これはあきらかにおかしいですよね」
成歩堂はじっと杏里の顔を見据える。
「……あんたに教える必要があるかい?」
くくっと笑う。
「あんたに言う必要はない」
ふいっと顔をそらされてしまった。
相手を見て、これ以上追求してもダメそうだと成歩堂は判断した。
(?)
成歩堂はふと目の前の光景を見て、違和感を覚える。
だが、思い違いと解釈して、次の質問をすることにした。
≪突き落としたことについて≫
「あぁ、突き落とした。間違いないね」
「毒を入れたわけではないんですね」
「毒?
電車に轢かれて死んだのに、なんで毒なんて出てくるんだよ。
大体、そんな物飲ませるタイミングなんてどこにもなかったのに、どうやって飲ませるっていうんだ」
杏里は何を言ってるんだこいつは?という顔で、成歩堂を見た。
そして、その態度で成歩堂の答えは決まった。
「わかりました。あなたのその答えで、決心がつきました。
この弁護を引き受けます」
目を見開いて、杏里は固まった。
「なんで?」
「あなたは確かに突き落とした。けど、被害者はその前に死んでいた可能性があるんです」
それを聞いた瞬間。
杏里はガタッとパイプ椅子から立ち上がる。
「……死んでた……だと?」
瓶底の目の奥からきつく睨まれる。
「かっ解剖記録によると、電車に落ちる前に毒による中毒症状で心臓麻痺を起こしたと書かれているんです」
「なんの毒だ!?」
相手の依頼人は目の前のガラスを叩きながら、前のめりに訪ねてくる。
「えっと、そこまではまだ。もう少し詳しく調べてみないと、まだわからないそうです」
険しい表情で杏里は椅子に腰かけ、しばらく黙ってから口を開く。
「やっぱり“なし”だ」
「え」
「アンタに弁護は頼まない」
「なっ!?」
杏里はパイプ椅子から立ち上がると、成歩堂に背を向け、さっさと面会室から出て行こうとする。
慌てて成歩堂は彼女に声をかける。
「今から他の弁護士を探したって見つかりません!それに鬼風だってそれを望んでいないはずだ!」
ぴくっと杏里の肩が揺れ、相手は成歩堂に鋭い視線を投げつける。
「“鬼風”……だと?」
「あなたには黙っていろと言われたが、「出てけ!!」
ドンッと足を踏み鳴らし、成歩堂に向かって怒鳴る。
その声量に成歩堂の身が地面から数センチ飛んだ。
「今すぐに!」
(なっなんなんだ……一体?)
突如、怒鳴り出した依頼人に成歩堂は訳がわからず、言葉が出ない状態だった。
そのとき、扉から看守が入ってくる。
「おい、お前にこれを渡せと頼まれた」
「はぁ?今、取り込み中だ。くそっ。なんだこの紙切れ……」
看守が持ってきたメモ用紙を見て、彼女の顔から血の気が引いていく。
(なんだ?)
ぐしゃっと杏里はそのメモ用紙を握りつぶしたが、看守へとそれを返す。
さっきとは打って変わり、静かになった杏里は、椅子に座る。
「さっきのは取り消す。……弁護士はアンタのままだ」
「……さっきは頼まないと」
そう成歩堂が言うと、杏里はバツが悪そうに目をそらしながら、左肩に右手を置く。
成歩堂はその仕草を何気に見ていたが、あることに気づく。
肩に置かれた指先が微かに震えている。
情緒不安定な依頼人に動けずにいたが、今は彼の頭は冷静に戻りつつあった。
(さっきも、怒ったというよりは……)
まるでなにかに“怯えている”ようだった。
今もそうだ。
成歩堂には見えないなにかに彼女は怯えている。
成歩堂は、思い切って本心を突いた。
「あなたは……ボクに……何を隠そうとしているんですか」
成歩堂がそう尋ねながら、ポケットの中で緑に光る勾玉をギュッと握った。
彼女は眼鏡の奥から成歩堂を見据える。
「ひとつ、アンタに忠告だ」
眼鏡の逆光で彼女の瞳が見えなくなる。
「……アタシを“信じる”な。絶対に」