賽は投げられた
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同日 某時刻
警察局 鑑識課
「どっどうも」
「あんたは?」
「えっと、僕は成歩堂 龍一。弁護士です」
「弁護士?」
「えっと、あなたは?」
「わたしは、
死体を調査するのが仕事だ」
「というと……」
「“検視官”ってやつだ。それで?弁護士がこんなところに何の用だ?」
「えっと、藪下 壮太の解剖記録をいただけませんか?」
北李は片眉をピクリとあげる。
「……アンタ、この事件の担当弁護士か?」
「……えっと……一応、いや、まだその、ですね……」
成歩堂が言いよどんでいると、ちっと相手から鋭い舌打ちが聞こえる。
「なんだその歯に魚の骨が刺さったみたいな言い方は。結局どっちなんだ」
「今のところ、僕が担当することになっています」
「それで、まさか解剖記録が欲しいとか言わんよな」
「…………」
「欲しいんだな。だが、やらんぞ」
成歩堂が困ったように微笑んで見つめてみたが、バッサリ断られた。
(やはりだめか)
成歩堂はがっくと肩を落とした。
「いや、待て。確か、アンタ“成歩堂”と言ったか?」
「はい。言いましたけど」
「裁判の相手の検事は……オミズ検事だな」
「あー……そうみたいですね。チャン刑事からそう聞きました」
「……気が変わった。いいぞ、解剖記録持ってきてやる」
「え?いいんですか。でも、さっきはダメだと言ってましたよね」
「オミズ……デブ検事に味方するぐらいなら、弁護士に情報を流してやった方がマシだからな」
(デブって言い直したぞ。この人……)
「それよりほらっ解剖記録だろ?最新のやつだ持ってけ」
茶封筒を差し出され、成歩堂はそれを受け取る。
「ありがとうございます」
成歩堂は封を外し、中の書類に目を通す。
≪解剖記録≫
・被害者の服に、指紋の付着はなし。ズボンの太腿に2ミリほどの穴があり。
・電車との衝突により即死と思われたが、すでに心臓は停止していた。
・中毒症状による心臓麻痺と思われる。
「“中毒症状”?」
成歩堂は書類から顔を上げ、検視官を見る。
「てっきりわたしも突き落としからの電車との衝突を予想してたんだが、
遺体を調べてみると、落ちる前に中毒症状を起こしたみたいだ」
成歩堂の目がきらりと光る。
「それなら、もしかして……!」
検視官は頷く。
「突き落とした以外の方法、“毒物”による中毒で死んだ可能性が高い」
成歩堂は少しだけ、緊張が解けた。
有罪の依頼人を無罪にしなければならないと思っていたが、無実の可能性が出てきたからだ。
だが、依頼人からは弁護士に協力する意思が伝わってこない。
それが成歩堂が少しだけ躊躇する理由だった。
それでも、やってもいない罪を被ることになるのを彼は見逃すことはできなかった。
依頼人には良い印象がないが、感情を落ち着かせて、弁護士としての仕事を全うすることにした。
「あの、でも、これ本当にもらっていいんえですか」
「構わない。
それに、死体は嘘をつかない。
その死体を見て、犯人をどう裁くかはアンタたち法律家の仕事だろ。
それに、あの検事は自分で動かず人を使ってばかりだからな。
こちらも忙しいのに、解剖記録を取りにすら来ない。
あげくに俺に届けさせやがる。
たまには自分から動かないと痛い目にあうということを思い知らせてやる良い機会だ」
ヒヒヒッと危なげな声を上げている検視官から成歩堂は距離を取り、「あっそれじゃ」とこっそりと鑑識から抜け出した。
必要な書類はもらったので、早々に退散するのが吉だろう。