第三話:魚の水を得たるが如し
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同日 午後19時12分
日が暮れて、ちゅらら水族館の近くの海は夜の闇を吸い込み、真っ暗であった。
暗い海から突如、髪の長い女、貞子のような人物が現れた。
―――――訂正、女の姿の鬼風が現れた。
長い前髪を振り乱し、抱えていた紫の物体を岸へと放り投げる。
自分も岸へと上がり、紫の物体―――牙琉に目をやった。
「おいっ!牙琉!牙琉検事!」
顔をはたくが、彼の青い瞳はまぶたによって固く閉ざされている。
顔色は小麦肌のせいでわかりづらかったが、彼の唇は紫色に変色していた。
鬼風が彼の口元に手をかざすと、なにも感じられなかった。
そのまま首筋に手を置く。
目をつぶり、首の血管の動きを手の平で探る。
………トクン
ほんの微かな生命の音を感じ取り、鬼風は牙琉の胸に手をつく。
胸部の肋骨下側を両手で探った。
交わったところから指2本分上に、片方の手のひらの手首に近い部分を当てる。
その上にもう一方の手のひらを重ね、肘を伸ばし体の重みを使って思いっきり胸を押した。
手の平から感じる鼓動に合わせて、リズムよく圧迫する。
胸から手をどけると、彼の顎を持ち上げて頭を後ろへそらした。
牙琉の鼻をつまみ、鬼風の口が牙琉の口を覆う。
彼の気道に空気を送り込み、横目で胸の上下を確認した。
それを繰り返し、胸を圧迫していたときに、牙琉の口から液体が吐き出された。
彼の口元に耳をもってくる。
耳に微かな呼吸がかかった。
彼の体内にもう一度空気を送り込もうと、鬼風が彼の口を覆う。
その瞬間、牙琉の目が薄く開かれて、次に大きく見開かれた。
相手が起き上がる気配がしたので、鬼風はすぐに口を離し牙琉の上からどいた。
牙琉はがほっごほっと辛そうな呼吸を繰り返した。
口元を手の甲で拭いながら、鬼風を睨む。
「なにっ……するっ……!」
「人口呼吸」
しれっとした顔で、鬼風は答える。
「水は吐き出したけど、呼吸が弱かったから続けておいたんだよ。」
牙琉の唇は彼のジャケットのような紫ではなくなったが、表情はどこか弱々しい。
なにか言いたげにこちらを見る牙琉に、鬼はおどけたように肩をすくめた。
「人口呼吸されたことは、犬に噛まれたと思って諦めろ。
まっどうしても嫌なら、ファンの女の子に唇消毒してもらえ。」
「……なんで僕を助けたんだ?」
「気まぐれ」
鬼風は牙琉に背を向けて身なりを整えていたが、背後から感じる視線に振り返る。
若い検事が険しい目つきで鬼を見ているが、その瞳には戸惑いを宿していた。
その様子を見て、改めて鬼風は牙琉に向き直った。
「私を助けてくれたお礼さ。」
「は?」
牙琉は怪訝な顔をして、間抜けな声をあげる。
「僕が……君を?」
鬼は首を引っ込め、肩をこわばらせる。
「あっあの、その、飴は、お口に、あああ合いまっした?牙琉響也さん?」
そのおどおどした仕草の鬼風を見て、牙琉はあっと声をあげた。
「まさか、あのときの!?」
鬼はふっと唇を緩めて、ニヒルな笑みを浮かべた。
「あんまり自信満々に言わん方がいいぞ。僕は女性の顔を覚えるのが得意なんてさ」
そういうと鬼風は牙琉に背を向けた。
「恩はつくるの嫌いなんだよ。だから、アンタを助けた」
「それだけのために……?」
牙琉は不可解なものを見るような目で鬼を見つめていたが、ポーカーフェイスな笑みを浮かべる。
「それとも、恩を売って逃げようとっイテっ!」
彼の額に鬼風がデコピンをかまし、ゴッと鈍い音がした。
牙琉はオデコを両手で押さえながら、ぷるぷると痛みに震える。
そんな彼を、鬼風が前髪の下からジロッと睨んだ。
「だぁアホ。検察がそんな簡単に犯罪者に絆されてどうすんだよ。
だから、ダメ検察とか呼ばれるんだぞ。この税金ドロボー」
「なにも殴ることはないだろ!」
「殴ってないですぅ。デコピンしただけですぅ」
「屁理屈だ」
はぁとため息を吐いて、牙琉が鬼風を見る。
「誰もアンタを逃すなんて言ってないだろ」
「あっそう。ごめん。早とちり」
「……絶対に牢屋に送り込んでやるからな。」
憎々しそうに牙琉がぼやいた。
鬼は挑発的な笑みを顔に浮かべて、牙琉を見下ろす。
「それにはまず私を法廷に連れてっぅ」
腹を押さえてうずくまった鬼風に、牙琉は体を起こした。
「おいっ」
牙琉は鬼風のそばに近づき、声をかける。
「なっなんでもない」
「!なんだよこれ!」
黒装束だったので、見た目にはわかりずらかったが、彼女が腹を押さえていた手は真っ赤に染まっていた。
「かすり傷だ」
明らかに強がりだとわかる言葉に、牙琉は呆れたような表情を浮かべた。
「他人の心配より自分の心配しろよ。
君には聞きたいことがたっぷりあるけど、警察に連れて行くのは後だ。すぐに病院へ。」
牙琉は鬼風を抱き上げようと近づいた。
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
手の中から赤い球が飛び出し、牙琉の額でパァーンと割れて白い煙が漂う。
白い煙を吸い込むとげほっげほっっとむせて、牙琉の意識は遠のいた。
「舞台からアンタは退場してもらうよ
「催っ眠ガ…スっ…」
「おやすみ、検察の眠り姫さん」
異議ありっと答える気力もなく、牙琉はその場に倒れた。
日が暮れて、ちゅらら水族館の近くの海は夜の闇を吸い込み、真っ暗であった。
暗い海から突如、髪の長い女、貞子のような人物が現れた。
―――――訂正、女の姿の鬼風が現れた。
長い前髪を振り乱し、抱えていた紫の物体を岸へと放り投げる。
自分も岸へと上がり、紫の物体―――牙琉に目をやった。
「おいっ!牙琉!牙琉検事!」
顔をはたくが、彼の青い瞳はまぶたによって固く閉ざされている。
顔色は小麦肌のせいでわかりづらかったが、彼の唇は紫色に変色していた。
鬼風が彼の口元に手をかざすと、なにも感じられなかった。
そのまま首筋に手を置く。
目をつぶり、首の血管の動きを手の平で探る。
………トクン
ほんの微かな生命の音を感じ取り、鬼風は牙琉の胸に手をつく。
胸部の肋骨下側を両手で探った。
交わったところから指2本分上に、片方の手のひらの手首に近い部分を当てる。
その上にもう一方の手のひらを重ね、肘を伸ばし体の重みを使って思いっきり胸を押した。
手の平から感じる鼓動に合わせて、リズムよく圧迫する。
胸から手をどけると、彼の顎を持ち上げて頭を後ろへそらした。
牙琉の鼻をつまみ、鬼風の口が牙琉の口を覆う。
彼の気道に空気を送り込み、横目で胸の上下を確認した。
それを繰り返し、胸を圧迫していたときに、牙琉の口から液体が吐き出された。
彼の口元に耳をもってくる。
耳に微かな呼吸がかかった。
彼の体内にもう一度空気を送り込もうと、鬼風が彼の口を覆う。
その瞬間、牙琉の目が薄く開かれて、次に大きく見開かれた。
相手が起き上がる気配がしたので、鬼風はすぐに口を離し牙琉の上からどいた。
牙琉はがほっごほっと辛そうな呼吸を繰り返した。
口元を手の甲で拭いながら、鬼風を睨む。
「なにっ……するっ……!」
「人口呼吸」
しれっとした顔で、鬼風は答える。
「水は吐き出したけど、呼吸が弱かったから続けておいたんだよ。」
牙琉の唇は彼のジャケットのような紫ではなくなったが、表情はどこか弱々しい。
なにか言いたげにこちらを見る牙琉に、鬼はおどけたように肩をすくめた。
「人口呼吸されたことは、犬に噛まれたと思って諦めろ。
まっどうしても嫌なら、ファンの女の子に唇消毒してもらえ。」
「……なんで僕を助けたんだ?」
「気まぐれ」
鬼風は牙琉に背を向けて身なりを整えていたが、背後から感じる視線に振り返る。
若い検事が険しい目つきで鬼を見ているが、その瞳には戸惑いを宿していた。
その様子を見て、改めて鬼風は牙琉に向き直った。
「私を助けてくれたお礼さ。」
「は?」
牙琉は怪訝な顔をして、間抜けな声をあげる。
「僕が……君を?」
鬼は首を引っ込め、肩をこわばらせる。
「あっあの、その、飴は、お口に、あああ合いまっした?牙琉響也さん?」
そのおどおどした仕草の鬼風を見て、牙琉はあっと声をあげた。
「まさか、あのときの!?」
鬼はふっと唇を緩めて、ニヒルな笑みを浮かべた。
「あんまり自信満々に言わん方がいいぞ。僕は女性の顔を覚えるのが得意なんてさ」
そういうと鬼風は牙琉に背を向けた。
「恩はつくるの嫌いなんだよ。だから、アンタを助けた」
「それだけのために……?」
牙琉は不可解なものを見るような目で鬼を見つめていたが、ポーカーフェイスな笑みを浮かべる。
「それとも、恩を売って逃げようとっイテっ!」
彼の額に鬼風がデコピンをかまし、ゴッと鈍い音がした。
牙琉はオデコを両手で押さえながら、ぷるぷると痛みに震える。
そんな彼を、鬼風が前髪の下からジロッと睨んだ。
「だぁアホ。検察がそんな簡単に犯罪者に絆されてどうすんだよ。
だから、ダメ検察とか呼ばれるんだぞ。この税金ドロボー」
「なにも殴ることはないだろ!」
「殴ってないですぅ。デコピンしただけですぅ」
「屁理屈だ」
はぁとため息を吐いて、牙琉が鬼風を見る。
「誰もアンタを逃すなんて言ってないだろ」
「あっそう。ごめん。早とちり」
「……絶対に牢屋に送り込んでやるからな。」
憎々しそうに牙琉がぼやいた。
鬼は挑発的な笑みを顔に浮かべて、牙琉を見下ろす。
「それにはまず私を法廷に連れてっぅ」
腹を押さえてうずくまった鬼風に、牙琉は体を起こした。
「おいっ」
牙琉は鬼風のそばに近づき、声をかける。
「なっなんでもない」
「!なんだよこれ!」
黒装束だったので、見た目にはわかりずらかったが、彼女が腹を押さえていた手は真っ赤に染まっていた。
「かすり傷だ」
明らかに強がりだとわかる言葉に、牙琉は呆れたような表情を浮かべた。
「他人の心配より自分の心配しろよ。
君には聞きたいことがたっぷりあるけど、警察に連れて行くのは後だ。すぐに病院へ。」
牙琉は鬼風を抱き上げようと近づいた。
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
手の中から赤い球が飛び出し、牙琉の額でパァーンと割れて白い煙が漂う。
白い煙を吸い込むとげほっげほっっとむせて、牙琉の意識は遠のいた。
「舞台からアンタは退場してもらうよ
「催っ眠ガ…スっ…」
「おやすみ、検察の眠り姫さん」
異議ありっと答える気力もなく、牙琉はその場に倒れた。