「さぁ、まずはお前から始末してあげる！」

水蜘蛛が打ち出したクナイを鬼が素手でキャッチした。

掴んだクナイの刃先から鬼の赤い血が滴り落ちる。

鬼風は掴んだままクナイを思いっ切り、引いた。

「！？」

グンッと糸が引っ張られ、水蜘蛛が鬼風の方へ引き寄せられた。

相手の異常な力に水蜘蛛は動揺を顔に走らせる。

「アンタのクナイはすべて糸がついてるのは知ってんだよ」

鬼の目の前まで落ちてきた水蜘蛛を見て、瞬時にクナイの糸を手に巻きつけていく。

至近距離まで水蜘蛛を引き寄せると、鬼はその糸で互いの片手をぐるぐる巻きにする。

「つーかまえたっ」

水蜘蛛の糸を利用して水蜘蛛の手に巻きつけ、逃げられないようにした。

「アンタ、接近戦は弱かったよな？」

「ふっ。女の体じゃ、まともな攻撃は打ち出せないわよ」

前髪の下で鬼の唇が吊り上る。

「ヤケを起こすくらいに冷静じゃないみたいね。」

「いんやぁ。予想通りの言葉で笑っちまった。」

鬼は水蜘蛛のみぞおちに静かに手のひらを置いた。

相手に呼吸を悟られないように、スッと微かに息を吸う。

―――呼吸を整えろ

――――――関節、筋肉、すべての力を手のひらに集中させろ

――――――――手を遠くへ飛ばすつもりで

「ハァアアアアアッッッ！！」

鬼は体内に練り上げた力を一気に手の平から爆発させた。

「うがぁあああああ！！」

水蜘蛛は腹からの激しい衝撃で、彼女の口から体液がぶちまかれる。

蜘蛛は白目になり、ぐらっと体が地に崩れ落ちた。

結ばれた手だけを残して、額を地面へとこすり付けた。

「はぁ……はぁ……」

呼吸を繰り返すたびに、キシキシッと不快な音に、顔をゆがめる。

……やっば、あばら、何本かいった。

「……ばかな……」

「おいおい忘れた？

私は、ピンチになればなるほど……能力が増すってことを。

私の能力を見つけだして、散々実験したのはアンタたちだろ？」

忌々しそうに顔を崩しながら、蜘蛛が吠える。

「お前は私に勝てないはずだ！」

「だったら、データに追加しときな。私はもうあの頃の“カレハ”じゃないってね。

……一応、アンタらには感謝してるんだ。」

鬼の瞳が暗い炎で冷たく燃える。

「アンタら組織は今の私を作ってくれた存在だからな」

しゅるっと結ばれていた片手を鬼が解く。

支えを失い、蜘蛛は完全に地面へとひれ伏した。

「確かに、私は弱い。

私の場合戦闘力は大してねえ。ただ人より少し頑丈で丈夫ってだけで。

多少の無茶してなんとかなってる状態なんだ」

弱々しい息をしながらぴくぴくっと体を痙攣させる蜘蛛を、鬼は見下ろす。

「だがな、≪夕間の鬼≫は

どんなに傷を負っても

負けて頭を足で踏みつけられるような屈辱を受けても

死の淵をさまよおうとも

何度でも地獄から這い上がって、蘇って、そして強くなる。」

ダンッと足を踏み鳴らし、声を張り上げる。

「覚えとけ！私はもう“カレハ”じゃねえ。

天下の悪党≪鬼風≫様だってな！」