糸から滑り落ち、鬼風が地面に叩きつけられた。

「おい！」

牙琉は床に転がった鬼の上半身を起こし、声をかける。

「しっかりしろ！」

「あぁああああああ！」

断末魔のような叫びをあげ、ビックンと背中を大きく浮かした。

フラっと体が沈むのと同じスピードで鬼風の体が縮み始める。

短かった髪が伸び、形の良い鼻はするすると形を変えていく。

腕の中で起こっている光景に、牙琉は青い瞳を大きく見開いた。

「鬼っ……風……？」

荒い息を繰り返しながら、鬼は胸を掻き毟るように押さえる。

「一体……アンタは……」

牙琉ははさきほど提示した自分の推理が間違っていたことを理解した。

だが、目の前で起きたことを受け止めるには、まだ彼には時間が必要だった。

「アハハハ！」

耳障りな女の声に牙琉はハッと前を見る。

「鬼といえど、女に戻った今じゃ勝負は目に見えてるわね」


鬼風は言う事を聞かない体を無理矢理動かして立ち上がろうとしたが、腕を掴まれて阻止された。

「無茶だ。」

「無茶じゃないさ」

彼の腕を振り払い、立ち上がろうとする。

牙琉は再度鬼風の腕を取り、無理矢理座らせる。

「君はあいつに負けてただろ。」

鬼風は口を閉じ、黙っている。

鬼風の長い前髪の下で口元が片方につり上がった。

パンッと牙琉の手を振り払い、彼を突き放す。

「――――下がってろ。」