鬼の鋭い視線は変わらない。

「おぉ怖い。……一般人に紛れて生活していれば平和に暮らせたのに

こんな馬鹿げた泥棒をするなんて。」

「私は目立つのが好きだからね。人が驚く姿を見るのは楽しくて。」

「嘘ばかり」

「嘘かどうかなんてわかるわけないだろ」

「まぁ、嘘かわからなくても、アンタたちの目的は予想がつくけどね。」

「はっ。虫けらに化け物の考えなんてわかるのかね？」

鬼は不敵に笑う。

「余裕を見せてるフリは大分上手いようだけど、

もうアンタの狙いはバレてるわよ」

「なんのことだか」

鬼の言葉に、蜘蛛は黙って唇を釣り上げた。

「アンタのバックアップをしているのは、U-G91かしら？あの便利な人工頭脳があればどこにでも入り放題よね。」

「……勝手に思い出話に浸らないでくれるかな」

突如、牙琉が会話に口をはさんだ。

「あらあら、ごめんなさいね。」

下唇を噛み、牙琉は口を開く。

「……君たちは一体何者なんだ？」

水蜘蛛がくすくすと笑い声を上げる。

「いいわ、教えてあげる。

私たちは簡単に言えば秘密組織みたいなものでね。」

「例えば、――――――誘拐組織とか？」

「あら。多少は知ってるのね。まぁ、芋田がしくじったから、多少は漏れるとは思ったけど」

「やっぱり、彼は自殺なんかじゃなかったんだな」

「芋田って……アンタが担当した裁判の被告人で、確か誘拐組織の実行犯だろ？」

鬼風がそう訊くと、牙琉は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……その裁判の翌日、彼は留置場で自殺した」

「自殺？」

「あぁ。十分な検証もされずに、彼は自殺と処理されたんだ。」

「……それで、あんたは芋田の発言から、私を追いかけてたわけね」

「どうやら、僕の予想通りだったみたいだ」

牙琉は水蜘蛛をじっと睨むが、くすくすと笑うだけで水蜘蛛は答えない。

「怪盗鬼風。」

「なんだ？イケメン検事？」

鋭い目を蜘蛛に向けた状態で、鬼が返事をした。

「君と組織はどういう関係なんだ？」

「悪いけど、黙秘させてもらう。」

「あらあら、そんなツレないこと言わなくてもいいじゃない。」

鬼はきつく目を細めて、水蜘蛛を見る。

「あなたイイ男だから、私が特別に教えてあげるわ。

この子は私たちの組織の一員になるために教育されてたんだけど……上が使えないと判断した実験台なの。」

「実験台……だって……？」

牙琉は鬼風に視線を向けるが、鬼は居心地が悪そうに視線をそらした。

「"鬼の子"。夕間の連中がそう呼んでいたから組織は

アンタが強い駒になるかもしれないと期待してたわ。

まぁ、とんだ期待外れだったけどね。まさかあんなに弱いガキんちょだったとは。

だけど、アンタは組織にとって最悪な形でその能力を開花させてくれた。」

「悪いが、組織の呼び名通り"蓑虫"のように成長するまえに腐ったりしたくなかったんだよ」

「おしゃべりはここまでにしましょうか。そうそう、カレハがたどり着くまで待ってるんじゃ、あなたも退屈よね。」

パチンッと蜘蛛が指を鳴らすと、どこからかチェーンの回る音が聞こえてくる。

ライトに照らされ、牙琉の前にチェーンソーが現れた。

「さぁ、色男。あなたはどんな表情を見せてくれるのかしら？」

糸につるされている、高速で刃が回転しているチェーンソーが、牙琉に迫ってくる。

「なっ！？」

「あははは！ほらほら早くしないとイケメンの顔がぐちゃぐちゃになるわよ？」

鬼風は糸から糸へ飛び移りながら、牙琉の元へと急いだ。

牙琉は褐色の顔がさらに暗くなりながら、身をよじった。

彼の整った鼻先にノコギリのチェーンが迫る。

「うぉおおおお！」

鬼はクナイを飛ばすが、チェーンソーの刃に当たっただけだった。

きんっと音を立てただけでチェーンソーの止まる気配はない。