「……なんだって？」

違和感を覚え、鬼風は牙琉に慌てて尋ねる。

「ちょっちょっと待て！それいつごろの話だ？」

「アナウンスの聞こえた18時のことさ」

……おかしい。

鬼風は牙琉の言葉にムジュンが含まれているのに気づく。

私は18時15分頃まで物置に隠れていたんだぞ？

それなのに、なんで18時頃に私の姿を地上で見かけるんだ？

「さぁ、そろそろ観念したらだどうだい？」

催眠玉は無駄使いはできねえ。

それならっ！一発ブチ込んで、こいつを気絶させるしか……

鬼風がそう拳を握った瞬間、背中にムカデが這い上がるような悪寒を感じた。

鬼は周囲に目を凝らす。

まっすぐに張った糸のようなものが鬼の瞳に映った

検事の首の前にまっすぐに張られた糸が光で反射している。

牙琉の首がその糸に触れそうになり、鬼は懐から小型のクナイを検事に投げつけた。

牙琉の顔の横を通り抜ける。

彼の金髪の一房が音もなく千切れて、宙に舞った。

キッと彼の綺麗な顔が、鬼風をきつく睨む。

「なにす「動くな！！」

鬼風の真剣な声色を聞き、牙琉は文句を言いかけた口をピタリッと閉じた。

鬼は牙琉の方を眼鏡越しに睨みつける。

「どういうつもりだ。

――――――≪水蜘蛛≫」

感情を押し殺してるような声で、牙琉の背後に音も無く現れた人物に問う。

「あらあら、なにを怒ってるの鬼風？」

鈴を転がすような女性の声が、牙琉の耳元で発せられる。

彼は後ろを振り向こうとしたが、体を動かすことができなかった。

「かっ体が……！？」

「そいつはただの検事だ！関係ない一般人を巻き込むとはどういうつもりだ！」

突如、するすると牙琉の体が宙に浮く。

「なっなんだ！？」

蜘蛛の巣状に張られた糸の真ん中に牙琉が張り付けられている。

彼の背後で青い二つの光が不気味に輝き、逆さ釣りの黒づくめの女性が現れた。

「つまらないわ。アンタが邪魔しなきゃこの色男の首が手に入ったのに」

目元を覆うマスクから彼女の青い目が光る。

その目は牙琉のうなじに向き、彼女の赤い舌が上唇をなめる。

水蜘蛛は恍惚とした笑みを浮かべ、すっと牙琉の喉仏を白い指がなで上げた。

その動作に牙琉の顔から血の気が引いていく。