…………。



「つまらない話をしてすみませんでした……」

小さい頃からなにひとつ変わらず、年ばかり取ってしまった自分が情けなかった。

昔から口が悪かった。

思ったことも深く考えずに、口に出してしまう。

だから、平気で人を傷つけてるのに気付かなかった。

あまり考えず人の欠点を口に出して反感を買った。

本音と建前をうまく使い分ける。

それが組織にいて円滑に関係を進める。

そのことを年が上がるにつれ少しずつ理解はじめるようになってから、私は自分の思ったことを口にするのができなくなっていった。

慣れてくれば多少の会話はできる。

けど、自分の言葉が怒りを買ったり無意識に傷つけたりするのが怖く、本音をぶつけて話せる人はいなかった。

だから、人としゃべるのは怖い。

自分の無能さと、汚い言葉を言ってしまうことが怖い。

会社でのトラブルも、私の浅はかさが起こしたものだ。

結局、会社ってのはある意味戦争の場だ。

本音と建前を使いわける口の上手さ。

的確な人間関係の状況判断。

職場の空気を読み取る鋭さ。

その能力を駆使して、組織の一員となる。

それに失敗した私は社会からドロップアウトをするのはしょうがない。

クビになったその日に事故り、一ヶ月も入院してしまった。

せっかくコツコツと貯めた貯金もいくら残るかどうかはわからない。

目の前にそっとお茶を差し出された。

コトっとテーブルの上に置かれた湯呑には、暖かな湯気が立ち上っている。

「あっありがとうございます……」

頭を下げながら、湯呑を手にとった。

一口のお茶を喉に流すと、お茶の熱が冷え切った体にしみる。

……暖かい。

湯呑の熱に安心して、熱が体に行き渡り心が緩んだ瞬間、瞼を焼くような熱い涙が眼から溢れてきた。

そっと音もなく先生が私を抱き寄せた。

やっとこらえて忍び泣きになっていたのが、彼女に背中をさすられ、激しい嗚咽へと変わってしまった。

悔しかった。

悲しかった。

辛かった。

怖かった。

寂しかった。

怒りたかった。

絶望したかった。

ぐるぐると体を駆け巡る激しい負の感情が、私の胸の内から溢れていくようだった。

我慢してきたものが、涙となって落ち続けていく。