第三話:魚の水を得たるが如し
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1月10日 午前10時
総合病院 病室
フレームのないメガネに、パッチリとした猫目の女医さんが口を開く。
「あなたの担当医になった十六夜(イザヨイ)です。よろしく。」
「よっよよよろしくお願いします。」
バイクの事故で脳の状態を調べたいので、テストをすると言われたのは昨日のことだった。
なにをするんだろうと緊張していたが、イザヨイ先生曰く詳しい自己紹介や簡単な日常のテストをするだけらしい。
それでも人見知りの私からしたら、あまり親しくない人と話すだけで結構辛かったりする。
あぁ、早く終わんないかなぁ。
「それじゃ、これから簡単な質問をしていくから答えていってね。」
「はっはい。」
「そう、気を張らなくても大丈夫だよ」
「あぁ、すみません!」
「まず、あなたのお名前は?」
「……#やま##み#です。」
「今の服装を説明してください。」
本当にどうでも良いような簡単なことしか聞かないんだなぁ。
「あっと、夕日に近いオレンジ色の寝巻きを着てます。」
「好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」
「えっと……好きなものですか?」
うーんと頭を捻って、言葉を整理する。
「おはぎとおせんべい。あと、緑茶も。嫌いなものは……甘すぎる物」
「よく利用する施設は?」
「施設???」
なに。施設って。
公共施設のことでいいのか?
「えっと、施設って、よく行くお店とかでも良いんですよね?」
「うん、そうそう。」
「それなら、図書館とか……」
アニ●イトと、●しんばん……etc
「……本屋です。」
頭に浮かんだお店をまとめてそう答えた。
「そこに行く理由は?」
「理由!?」
行きたいから行く……じゃダメだよね……。
「えっと……本が好きだから?」
間違ってはいない。たまにCDとかも買うけど。
「朝、目覚めはよい方ですか?」
「とても悪いです。」
「趣味はなんですか?」
お見合いかっと心の中でツッコんだ。
もわもわと趣味となりそうな答えを考えていたら、漫画という単語が頭の中で浮かぶが、消去した。
「……読書です。」
嘘は言ってない。
「特技はありますか?」
「あーっと……」
特技と言われて、脳内でそれらしいものを探し出そうとするが、思い浮かばなかった。
「ないです。」
寂しいが事実なのでしょうがない。
「自分の性格を自分で分析してみてください。」
「分析……」
就職活動のときにやってみたが、ネガティブってことぐらいしか出てこなかったな。
「臆病で、融通が利かない性格ですね。」
あと空気が読めないところ。
「自分を漢字一文字で表すとしたら、どんな字になりますか?」
「漢字ですか。」
段々と多少考えないと言葉にできないような質問が多くなってきた。
「えーっと……」
腐または枯という漢字が出てきたが、すぐに口に出さなかった。
「落……ですかね」
そんな感じで順調に答えていた。ある質問がでてくるまでは。
「現在、何かお仕事はされていますか?」
ピクッと肩が跳ねたのが自分でもわかった。
「あっ……」
声が出せなかった。
「答えにくい質問はパスしてもいいんですよ」
「そのっ……話すのは嫌じゃないというか……」
嫌ではない。
ただ、話していいのかどうか、迷惑になりはしないだろうかと考えて声が出せない。
顔を俯かせていると、石鹸と花の匂いの混ざった甘いような香りが鼻をくすぐる。
そっと膝の上で固く握っていた拳に、手を置かれた。
「胸の内に溜めていると、苦しくなる一方ですよ。
口に出すだけでも、状況の整理にもなると思うし、話してみたらどうかな。」
手をそっと握りながら、覗き込んできた顔は、春の日差しを思わせるような、どこか安心した暖かさが感じられた。
「私は……その……五年ほど勤めていたんです。会社に」
ポツリポツリと自分の置かれた境遇を話し始めた。
総合病院 病室
フレームのないメガネに、パッチリとした猫目の女医さんが口を開く。
「あなたの担当医になった十六夜(イザヨイ)です。よろしく。」
「よっよよよろしくお願いします。」
バイクの事故で脳の状態を調べたいので、テストをすると言われたのは昨日のことだった。
なにをするんだろうと緊張していたが、イザヨイ先生曰く詳しい自己紹介や簡単な日常のテストをするだけらしい。
それでも人見知りの私からしたら、あまり親しくない人と話すだけで結構辛かったりする。
あぁ、早く終わんないかなぁ。
「それじゃ、これから簡単な質問をしていくから答えていってね。」
「はっはい。」
「そう、気を張らなくても大丈夫だよ」
「あぁ、すみません!」
「まず、あなたのお名前は?」
「……#やま##み#です。」
「今の服装を説明してください。」
本当にどうでも良いような簡単なことしか聞かないんだなぁ。
「あっと、夕日に近いオレンジ色の寝巻きを着てます。」
「好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」
「えっと……好きなものですか?」
うーんと頭を捻って、言葉を整理する。
「おはぎとおせんべい。あと、緑茶も。嫌いなものは……甘すぎる物」
「よく利用する施設は?」
「施設???」
なに。施設って。
公共施設のことでいいのか?
「えっと、施設って、よく行くお店とかでも良いんですよね?」
「うん、そうそう。」
「それなら、図書館とか……」
アニ●イトと、●しんばん……etc
「……本屋です。」
頭に浮かんだお店をまとめてそう答えた。
「そこに行く理由は?」
「理由!?」
行きたいから行く……じゃダメだよね……。
「えっと……本が好きだから?」
間違ってはいない。たまにCDとかも買うけど。
「朝、目覚めはよい方ですか?」
「とても悪いです。」
「趣味はなんですか?」
お見合いかっと心の中でツッコんだ。
もわもわと趣味となりそうな答えを考えていたら、漫画という単語が頭の中で浮かぶが、消去した。
「……読書です。」
嘘は言ってない。
「特技はありますか?」
「あーっと……」
特技と言われて、脳内でそれらしいものを探し出そうとするが、思い浮かばなかった。
「ないです。」
寂しいが事実なのでしょうがない。
「自分の性格を自分で分析してみてください。」
「分析……」
就職活動のときにやってみたが、ネガティブってことぐらいしか出てこなかったな。
「臆病で、融通が利かない性格ですね。」
あと空気が読めないところ。
「自分を漢字一文字で表すとしたら、どんな字になりますか?」
「漢字ですか。」
段々と多少考えないと言葉にできないような質問が多くなってきた。
「えーっと……」
腐または枯という漢字が出てきたが、すぐに口に出さなかった。
「落……ですかね」
そんな感じで順調に答えていた。ある質問がでてくるまでは。
「現在、何かお仕事はされていますか?」
ピクッと肩が跳ねたのが自分でもわかった。
「あっ……」
声が出せなかった。
「答えにくい質問はパスしてもいいんですよ」
「そのっ……話すのは嫌じゃないというか……」
嫌ではない。
ただ、話していいのかどうか、迷惑になりはしないだろうかと考えて声が出せない。
顔を俯かせていると、石鹸と花の匂いの混ざった甘いような香りが鼻をくすぐる。
そっと膝の上で固く握っていた拳に、手を置かれた。
「胸の内に溜めていると、苦しくなる一方ですよ。
口に出すだけでも、状況の整理にもなると思うし、話してみたらどうかな。」
手をそっと握りながら、覗き込んできた顔は、春の日差しを思わせるような、どこか安心した暖かさが感じられた。
「私は……その……五年ほど勤めていたんです。会社に」
ポツリポツリと自分の置かれた境遇を話し始めた。