「大事な展示品が！」

「館長。ホールにはまだガスが！」

「くっ！」

視界もまだ開けず、館長は悔しそうに唇を噛む。

暗かった館内に、明かりが灯る。

その明かりの眩しさに目を細めて、明るさに慣れて改めてホールの方へ顔を向ける。

「予備電源に切り替わったんだ。」

「隣の展示室だ！」

ホールのガスも少なくなり、なるだけガスを吸わないようにしながら、牙琉、奥沢、館長は隣の展示室に移動した。

「ええい！紅葉姫を盗むのはハッタリ！

本当の目的は西の展示室の作品だったんじゃ！」


12月4日　某時刻　

ささやき美術館・西展示室　



西の展示室に入るが、ガラスケースの中には展示品が置かれていた。

その状況に警部が眉間にシワをよせる。

「おいっ作品はちゃんとあるじゃないか。さっきの報告はどういうことだ？」

その答えに西の展示室に居たものは全員首をかしげる。

「いえ、そのような報告はしてません。無線は砂嵐で使えませんでしたから。」

「突然破裂音はしましたが、それ以外に異常はありません」

「しまった！」

牙琉は慌てて紅葉姫が飾られてる展示室に戻った。

東の展示室の入口から紅葉姫を探す。

館長は頭を抱え、悲鳴をあげる。

「なっない！紅葉姫がぁ！」

東展示室に残されていた警官はガラスケースの前で倒れていた。

ガラスケースにはぽっかりと穴があき、肝心の人形のすがたは消えていた。

「嘘の情報を流して、混乱させた内に紅葉姫を盗んだんだ！」

「ええい警察はあてにならん！わしがこの手であの泥棒を捕まえてやる！

無線が使えないのなら放送室でこのビルの封鎖を放送するんじゃ。

まだあの泥棒は外に出ていないはず。」

そういって館長は東の展示室を飛び出す。