第二話:紅葉に置けば紅の露
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「こちらが噂の【紅葉姫】ですか。」
ガラスケースの中を見ていた館長は、背後から聞こえた声に思わず振り返った。
「おお!これはこれは」
声をかけてきた人物に館長は青年の方に体を向け、手を差し出した。
「はじめまして、牙琉検事。
ささやき美術館の館長をしている佐々木重吾です。」
牙琉は差し出された手を握り返した。
「あなたの活躍はよく存じあげております。
いやぁ、姪っ子があなたの大ファンでして、あとでサインを頂いてもいいですかな?」
「もちろん、いいですよ」
褐色の肌から覗く白い歯を見せた笑みに、館長は眩しそうに目を微かに細めた。
牙琉はちらっと館長の背後にあるガラスケースに目を向ける。
「そちらが例の予告状に書かれていたモノですか?」
「そうです。」
佐々木は顔を真っ赤にして、イラ立ちながら口を開く。
「腹立たしいこと極まりないですぞ。
こんな予告状を送りつけて、我が美術館の大事な紅葉姫を盗もうなんぞ!」
スーツのポケットから白いカードを取り出し、キッと文面を睨んでいる。
「その予告状、見せてもらってもよろしいですか?」
「かまいませんとも」
そういって館長は牙琉にカードを差し出した。
「"南天の実が色付き 大雪の日
闇夜に包まれる 宵五つ
月夜の、ささやき美術館から
紅葉姫を 頂き参上仕る"……」
軽く読み上げ、牙琉はガラスケースへと目を向けた。
「今回警備を担当する警部の推測によると、鬼風は12月4日である本日の午後8時に紅葉姫を盗むそうです。」
「その警部はどちらに?」
「あそこにいらっしゃいます」
警備員や部下に指示を出している中年の人物を館長は指差す。
牙琉が警部の姿に目を鋭く細めると、館長の目の前の紅葉姫に視線を移す。
「しかし、見事ですね。」
牙琉検事はガラスケースを上から覗きこみ、紅葉の散った紅の着物に身を包む女の人形を見つめる。
「燃えるような情熱を身にまとい華麗に舞うこのお姫様は
まるで今にも動き出しそうだ。」
腰まである艶やかな緑の黒髪
卵型の雪のような白い顔立ち
切れ上がった黒真珠のような瞳
柳のような細長い眉
上品な鼻筋
瑞々しく膨らむ丹花の唇。
一目見ただけで背筋を震わせるような、妖艶な雰囲気を持つ人形であった。
今にも着物を振り、舞を踊り出しそうであった。
「これも金山繁座衛門の作品なんですね」
館長の方へ向き直りながら、牙琉は口を開く。
「鬼風は奇妙な泥棒だと聞いたんです。宝石や金銭は一切盗まずとある人物の作品しか盗まない。」
「私も知人から聞いた噂なのですが。
その人物というのが、生人形で一風を風靡した名工。金山繁左衛門(カネヤマ ハンザエモン)らしいですな。
金山の作品はよく知っていますぞ。
彼の作品はまるで生きているかのように精巧で、今にも動き出してしまいそうだと言われております。
生きてる内はその作品を評価されることはなく、死後彼の作品が注目されるようになりました。
そのためか、金山自身についての情報をほとんど残されておりません。」
紅葉姫の作者の話を聞き終えると、牙琉は館長へと尋ねる。
「このお姫様を守るための警備の状況はどうなっていますか?」
ポケットから取り出した美術館の案内図を使って、館長は警備の状況を牙琉に説明しはじめる。
「この美術館は東と西それぞれに展示室があり、両方の展示室の真ん中にエレベーターとホール、受付があります。」
コツコツと図の三か所を指で叩く。
「主な侵入経路は三つ。エレベーターとそれぞれ隅に設置された東と西の階段。そこには2名ずつ。
西の展示室には10名ほど。
紅葉姫のあるガラスケースの周りはその二倍の20名ほどで固めてあります。
この状況ならそう簡単に盗まれる心配はないでしょう。」
「なるほど。それは確かに万全な警備ですね」
「少々、愉快犯に大げさな警備かもしれませんがな」
「……鬼風を甘く見ないほうがいいですよ」
ガラスケースの中を見ていた館長は、背後から聞こえた声に思わず振り返った。
「おお!これはこれは」
声をかけてきた人物に館長は青年の方に体を向け、手を差し出した。
「はじめまして、牙琉検事。
ささやき美術館の館長をしている佐々木重吾です。」
牙琉は差し出された手を握り返した。
「あなたの活躍はよく存じあげております。
いやぁ、姪っ子があなたの大ファンでして、あとでサインを頂いてもいいですかな?」
「もちろん、いいですよ」
褐色の肌から覗く白い歯を見せた笑みに、館長は眩しそうに目を微かに細めた。
牙琉はちらっと館長の背後にあるガラスケースに目を向ける。
「そちらが例の予告状に書かれていたモノですか?」
「そうです。」
佐々木は顔を真っ赤にして、イラ立ちながら口を開く。
「腹立たしいこと極まりないですぞ。
こんな予告状を送りつけて、我が美術館の大事な紅葉姫を盗もうなんぞ!」
スーツのポケットから白いカードを取り出し、キッと文面を睨んでいる。
「その予告状、見せてもらってもよろしいですか?」
「かまいませんとも」
そういって館長は牙琉にカードを差し出した。
「"南天の実が色付き 大雪の日
闇夜に包まれる 宵五つ
月夜の、ささやき美術館から
紅葉姫を 頂き参上仕る"……」
軽く読み上げ、牙琉はガラスケースへと目を向けた。
「今回警備を担当する警部の推測によると、鬼風は12月4日である本日の午後8時に紅葉姫を盗むそうです。」
「その警部はどちらに?」
「あそこにいらっしゃいます」
警備員や部下に指示を出している中年の人物を館長は指差す。
牙琉が警部の姿に目を鋭く細めると、館長の目の前の紅葉姫に視線を移す。
「しかし、見事ですね。」
牙琉検事はガラスケースを上から覗きこみ、紅葉の散った紅の着物に身を包む女の人形を見つめる。
「燃えるような情熱を身にまとい華麗に舞うこのお姫様は
まるで今にも動き出しそうだ。」
腰まである艶やかな緑の黒髪
卵型の雪のような白い顔立ち
切れ上がった黒真珠のような瞳
柳のような細長い眉
上品な鼻筋
瑞々しく膨らむ丹花の唇。
一目見ただけで背筋を震わせるような、妖艶な雰囲気を持つ人形であった。
今にも着物を振り、舞を踊り出しそうであった。
「これも金山繁座衛門の作品なんですね」
館長の方へ向き直りながら、牙琉は口を開く。
「鬼風は奇妙な泥棒だと聞いたんです。宝石や金銭は一切盗まずとある人物の作品しか盗まない。」
「私も知人から聞いた噂なのですが。
その人物というのが、生人形で一風を風靡した名工。金山繁左衛門(カネヤマ ハンザエモン)らしいですな。
金山の作品はよく知っていますぞ。
彼の作品はまるで生きているかのように精巧で、今にも動き出してしまいそうだと言われております。
生きてる内はその作品を評価されることはなく、死後彼の作品が注目されるようになりました。
そのためか、金山自身についての情報をほとんど残されておりません。」
紅葉姫の作者の話を聞き終えると、牙琉は館長へと尋ねる。
「このお姫様を守るための警備の状況はどうなっていますか?」
ポケットから取り出した美術館の案内図を使って、館長は警備の状況を牙琉に説明しはじめる。
「この美術館は東と西それぞれに展示室があり、両方の展示室の真ん中にエレベーターとホール、受付があります。」
コツコツと図の三か所を指で叩く。
「主な侵入経路は三つ。エレベーターとそれぞれ隅に設置された東と西の階段。そこには2名ずつ。
西の展示室には10名ほど。
紅葉姫のあるガラスケースの周りはその二倍の20名ほどで固めてあります。
この状況ならそう簡単に盗まれる心配はないでしょう。」
「なるほど。それは確かに万全な警備ですね」
「少々、愉快犯に大げさな警備かもしれませんがな」
「……鬼風を甘く見ないほうがいいですよ」