12月4日　午前10時12分　

ヒノクレホテル・ささやき美術館

ヒノクレホテルの最上階にあるささやき美術館。

館内にあるエレベーターの金属製の扉が開き、黒ブーツの足元が現れる。

チャリっと金属のこすれる音が、エレベーター前の渡り廊下で響く。

左右に開かれた扉から、紫のレザージャケットを羽織りサングラスをかけた青年が姿を現す。

青年は顔のパーツが整った綺麗な顔立ちをしていた。

エレベーターから出てきた怪しげな美青年の前に、警官が二名ほど立ちふさがる。

「待て！ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「もし、通りたくばボディチェックをしてからだ」

サングラスをかけた男は、前髪をかきあげた。

「やれやれ。僕にも身体検査をするなんて、徹底した警備で安心したよ。」

そういって青年はサングラスを外す。

「あっあなたは！？」

青年のスカイブルーの瞳が警官たちを見る。

「牙琉検事！どうしてあなたがここへ！？」

「風の気まぐれかな。

今どき予告状を出すレトロな泥棒を見てみたくてね。」

牙琉検事なら…、

いやしかし、

警官は顔を見合わす。

「そのっ、失礼でありますが、鬼風は変装の名人でありますからして……その……」

「OK　素直にボディチェックを受けるよ。」

言いにくそうに口篭る警官たちのために、牙琉は身体検査をしやすいように両手を上げてみせた。

警官が上着やズボンを手で叩き、調べる。

「すみませんが、その、金属類を外していただけますか？」

もう一方の警官が、金属探知機を持ちながら、牙琉に声をかけた。

ベルトやアクセサリーを警官に渡し、金属探知機を体のまわりにあてられる。

チェックが終わると、二人の警官はびしっと敬礼をする。

「「ご協力感謝します！」」

「ご苦労様」

牙琉はスマートに片手をあげ、鬼風の獲物が展示されているスペースへと足を進めた。