第一話:嘘吐きは泥棒のはじまり
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同日 午後6時8分
鬼寺・境内
西に沈みかけている夕日が鬼寺を赤く照らし出す。
「居たぞ!あそこだ!」
母屋の屋根のてっぺんで般若の男が優雅に仁王立ちをしている。
地面には警官たちが彼を捕まえようと待ち構えていた。
「お前は完全に包囲されている!もう逃げ場はないぞ!」
ざっと大きく風が吹き、母屋の周りに植えられた紅葉が、鬼風の周りに舞い散る。
警官たちに囲まれても、鬼は落ち着いていた。
「気に食わねえお天道さんもいなくなったことだし、物騒なことはお互いなしにしようじゃねえか」
陽気な声が舞い散る紅葉に紛れて、警官たちの上に降ってくる。
「山といえば川、花といえば吉野、紅葉といえば鹿、さて鬼と言やぁ?」
鬼は懐から袋を取り出し、手を突っ込む。
「豆ってか!」
手の中のモノを足元に叩きつける。
パンパンという強烈な破裂音と、目の眩む閃光が発せられる。
爆音と凶暴な光により、警官たちは目を固く閉じ、そのばに縮こまる。
音が止み、皆の視力が元に戻ったとき、屋根の上の鬼はどこにも見当たらなかった。
「くそっ!逃がすなっ!追えっ!」
「まだこの辺りにいるはずだ!」
「うわぁわわあ!せっせんぱっ!」
オドロキたちは警官の波にもまれていた。
後輩が警官の波にさらわれ姿が遠のいていく。
「きっ希月っうああああ!」
それを見てオドロキは声をかけるが、背後から警官にタックルされ、体勢を崩した。
「おっと。」
だが、地面に倒れて警官に踏まれるのを、腹に回された手によって免れた。
「大丈夫かい?」
「あっありがとうございます」
「とりあえず、こっちに」
オドロキを助けた警官が、オドロキの手を取って人の間をくぐり抜けていく。
「あのっ黄色いスーツを着た女の子を見かけませんでしたか?」
「女の子?」
警官たちから抜け出すと、オドロキが眼鏡の警官に尋ねる。
眼鏡の警官はあぁと声をあげる。
「あの子は可哀想に。階段の方まで流されていたよ。運悪いとそのまま警官たちと一緒に山を降りてしまうかもしれないね。」
「急いで追いかけないと。」
「私も行こう。」
警官が腰に手を当て、警官たちが去って行った方をキッと睨む。
「鬼風を捕まえなければいけないしね」
その瞬間、鼓動の音と共に、オドロキの腕輪がギュッときつく締まった。
オドロキは反射的にパシッと警官の手首を掴んでいた。
「どうしたんだい?」
警官は小首をかしげて、オドロキに目を向ける。
オドロキは目を眇めて、警官の顔をじっと見据えた。
「……あなた、鬼風ですね?」
穏やかな表情を浮かべていた警官の顔に、不快な感情が混ざる。
「君は失礼な奴のようだな。私が鬼風だという証拠もないのに濡れ衣を着せるなんて。」
「ありますよ。」
すぐに返ってきた言葉に、警官は意表を突かれたような顔をした
「制服のポケットを見せてください。」
「……なぜ?」
警官は動揺を顔の奥に隠そうとしたが、赤い弁護士はそれを見逃さなかった。
「あなたは≪鬼風≫という言葉を発するとき、なにかを隠すように上着のポケットに触れているんですよ。
一体その中にはどんな大事な物が入っているんですか?」
オドロキは畳みかけるように、警官に詰め寄る。
警官は舌打ちをして、忌々しそうにオドロキをじっと見つめた。
だが、警官は顔を俯かせ、肩を震わせた。
「はっはは。すごいなぁ君、優秀な探偵になれそうだね。」
警官の手が制服を滑りポケットへと吸い込まれると、中から鬼切り像をゆっくりと取り出した。
「やっぱり、アンタが鬼風か。」
「ふふん♪その通り。」
警官が警帽を取ると、ニヒルな笑みを浮かべた青年の顔があった。
その顔を見て、オドロキの脳内ではある記憶が蘇る。
「あなたは、お昼に会った!?」
そこに居たのは、ココネの財布を取り返した眼鏡の青年だった。
「初めてだよ。私の変装を見抜いた人間は。……さすがと言うべきかな。」
オドロキはギリッと彼の腕を強く握る。
「さぁ、観念してください。盗んだ物を返して大人しく警察に捕まってもらいますよ。」
「そうだな、警察に捕まるのはいやだけど。像は返してあげてもいいよ。どうせこれ偽物だしね。」
「偽物?」
「そっ。この鬼寺にあると思ったんだけどね。」
「どうして偽物なんてわかるんだよ」
「どうしてだと思う?」
青年はニコニコと笑う。
オドロキはさらに目つきを細めた。
「ヒントをあげるよ。
私の予告状の最後に入ってるあの“家紋”さ。」
カードの最後に記されていた紅葉のマークがオドロキの脳裏に浮かんだ。
「あの最後についてる紅葉のマークが?」
鬼は目を細めながら、彼の言葉に頷いた。
「さて、この像を返す前に、君にひとつ質問していいかな。」
鬼風はそう言った瞬間、オドロキとの間合いを詰めた。
鬼風の顔がオドロキの鼻先に触れそうなほど近くなる。
オドロキは思わず目をつぶり、攻撃を予知して身を引いた。
鬼風はさらに距離を縮め、首を軽く傾ける。
鬼風の口が、オドロキの唇に噛みついた。
口元の感触に、オドロキは訳が分からず固まった。
鬼風はフリーズしている彼の手にすばやくお宝を握らせる。
「……君は“運命”を信じる?」」
彼の顔を覗きこみながら、鬼は静かに問いかけた。
だが、オドロキは顔面蒼白になりながら口をぱくぱくさせていて、問いに答えられる状態ではなかった。
「あれ?もしかして初めてだった?」
ニッコリと笑みを浮かべるメガネの男を見て、オドロキの青かった顔がさっと赤くなる。
彼の拳が鬼風の頬に吸い込まれていく。
バキッと鈍い音が響いた。
「っつつ。……純情だねー」
クスクスと笑う男に、オドロキが二発目の拳を放とうとした。
「ごめんね。」
その言葉は、キスをしたことへの謝罪か、二発目を食らわないことへの謝罪か。
鬼風の親指がぴっと赤い玉をはじくと、玉はオドロキの広いオデコに当たる。
玉から出た白いガスでゴホゴホッとオドロキはむせた。
「まっまて……」
目が虚ろになり、オドロキは膝から崩れ落ちた。
赤い弁護士が倒れたのを見届けると、鬼風は闇夜に姿を消した。
鬼寺・境内
西に沈みかけている夕日が鬼寺を赤く照らし出す。
「居たぞ!あそこだ!」
母屋の屋根のてっぺんで般若の男が優雅に仁王立ちをしている。
地面には警官たちが彼を捕まえようと待ち構えていた。
「お前は完全に包囲されている!もう逃げ場はないぞ!」
ざっと大きく風が吹き、母屋の周りに植えられた紅葉が、鬼風の周りに舞い散る。
警官たちに囲まれても、鬼は落ち着いていた。
「気に食わねえお天道さんもいなくなったことだし、物騒なことはお互いなしにしようじゃねえか」
陽気な声が舞い散る紅葉に紛れて、警官たちの上に降ってくる。
「山といえば川、花といえば吉野、紅葉といえば鹿、さて鬼と言やぁ?」
鬼は懐から袋を取り出し、手を突っ込む。
「豆ってか!」
手の中のモノを足元に叩きつける。
パンパンという強烈な破裂音と、目の眩む閃光が発せられる。
爆音と凶暴な光により、警官たちは目を固く閉じ、そのばに縮こまる。
音が止み、皆の視力が元に戻ったとき、屋根の上の鬼はどこにも見当たらなかった。
「くそっ!逃がすなっ!追えっ!」
「まだこの辺りにいるはずだ!」
「うわぁわわあ!せっせんぱっ!」
オドロキたちは警官の波にもまれていた。
後輩が警官の波にさらわれ姿が遠のいていく。
「きっ希月っうああああ!」
それを見てオドロキは声をかけるが、背後から警官にタックルされ、体勢を崩した。
「おっと。」
だが、地面に倒れて警官に踏まれるのを、腹に回された手によって免れた。
「大丈夫かい?」
「あっありがとうございます」
「とりあえず、こっちに」
オドロキを助けた警官が、オドロキの手を取って人の間をくぐり抜けていく。
「あのっ黄色いスーツを着た女の子を見かけませんでしたか?」
「女の子?」
警官たちから抜け出すと、オドロキが眼鏡の警官に尋ねる。
眼鏡の警官はあぁと声をあげる。
「あの子は可哀想に。階段の方まで流されていたよ。運悪いとそのまま警官たちと一緒に山を降りてしまうかもしれないね。」
「急いで追いかけないと。」
「私も行こう。」
警官が腰に手を当て、警官たちが去って行った方をキッと睨む。
「鬼風を捕まえなければいけないしね」
その瞬間、鼓動の音と共に、オドロキの腕輪がギュッときつく締まった。
オドロキは反射的にパシッと警官の手首を掴んでいた。
「どうしたんだい?」
警官は小首をかしげて、オドロキに目を向ける。
オドロキは目を眇めて、警官の顔をじっと見据えた。
「……あなた、鬼風ですね?」
穏やかな表情を浮かべていた警官の顔に、不快な感情が混ざる。
「君は失礼な奴のようだな。私が鬼風だという証拠もないのに濡れ衣を着せるなんて。」
「ありますよ。」
すぐに返ってきた言葉に、警官は意表を突かれたような顔をした
「制服のポケットを見せてください。」
「……なぜ?」
警官は動揺を顔の奥に隠そうとしたが、赤い弁護士はそれを見逃さなかった。
「あなたは≪鬼風≫という言葉を発するとき、なにかを隠すように上着のポケットに触れているんですよ。
一体その中にはどんな大事な物が入っているんですか?」
オドロキは畳みかけるように、警官に詰め寄る。
警官は舌打ちをして、忌々しそうにオドロキをじっと見つめた。
だが、警官は顔を俯かせ、肩を震わせた。
「はっはは。すごいなぁ君、優秀な探偵になれそうだね。」
警官の手が制服を滑りポケットへと吸い込まれると、中から鬼切り像をゆっくりと取り出した。
「やっぱり、アンタが鬼風か。」
「ふふん♪その通り。」
警官が警帽を取ると、ニヒルな笑みを浮かべた青年の顔があった。
その顔を見て、オドロキの脳内ではある記憶が蘇る。
「あなたは、お昼に会った!?」
そこに居たのは、ココネの財布を取り返した眼鏡の青年だった。
「初めてだよ。私の変装を見抜いた人間は。……さすがと言うべきかな。」
オドロキはギリッと彼の腕を強く握る。
「さぁ、観念してください。盗んだ物を返して大人しく警察に捕まってもらいますよ。」
「そうだな、警察に捕まるのはいやだけど。像は返してあげてもいいよ。どうせこれ偽物だしね。」
「偽物?」
「そっ。この鬼寺にあると思ったんだけどね。」
「どうして偽物なんてわかるんだよ」
「どうしてだと思う?」
青年はニコニコと笑う。
オドロキはさらに目つきを細めた。
「ヒントをあげるよ。
私の予告状の最後に入ってるあの“家紋”さ。」
カードの最後に記されていた紅葉のマークがオドロキの脳裏に浮かんだ。
「あの最後についてる紅葉のマークが?」
鬼は目を細めながら、彼の言葉に頷いた。
「さて、この像を返す前に、君にひとつ質問していいかな。」
鬼風はそう言った瞬間、オドロキとの間合いを詰めた。
鬼風の顔がオドロキの鼻先に触れそうなほど近くなる。
オドロキは思わず目をつぶり、攻撃を予知して身を引いた。
鬼風はさらに距離を縮め、首を軽く傾ける。
鬼風の口が、オドロキの唇に噛みついた。
口元の感触に、オドロキは訳が分からず固まった。
鬼風はフリーズしている彼の手にすばやくお宝を握らせる。
「……君は“運命”を信じる?」」
彼の顔を覗きこみながら、鬼は静かに問いかけた。
だが、オドロキは顔面蒼白になりながら口をぱくぱくさせていて、問いに答えられる状態ではなかった。
「あれ?もしかして初めてだった?」
ニッコリと笑みを浮かべるメガネの男を見て、オドロキの青かった顔がさっと赤くなる。
彼の拳が鬼風の頬に吸い込まれていく。
バキッと鈍い音が響いた。
「っつつ。……純情だねー」
クスクスと笑う男に、オドロキが二発目の拳を放とうとした。
「ごめんね。」
その言葉は、キスをしたことへの謝罪か、二発目を食らわないことへの謝罪か。
鬼風の親指がぴっと赤い玉をはじくと、玉はオドロキの広いオデコに当たる。
玉から出た白いガスでゴホゴホッとオドロキはむせた。
「まっまて……」
目が虚ろになり、オドロキは膝から崩れ落ちた。
赤い弁護士が倒れたのを見届けると、鬼風は闇夜に姿を消した。