花火を君と/辻
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「辻君の誕生日!?」
思わず大きな声をあげてしまった。
「そう、8月16日。なんの日か分かるでしょ?」
ひゃみちゃんがニヤリと笑いながらこちらを見ている。
「三門市花火大会の日……だよね」
「そうそう!その花火大会、辻君と一緒に行きなよ!」
いきなりひゃみちゃんに提案された難関に私はフリーズするしかなかった。
辻君への気持ちを自覚したからといって特に進展した事もなく相変わらず男の子は苦手な日々は続いていた。
ただ辻君だけは違う。ドキドキはするけど苦手だからこそ冷や汗が出るようなドキドキではない。
胸がちょっとキュッと苦しくなるような、そんなドキドキ。
辻君相手になら少し落ち着いて話せるようにはなった。辻君自身も私には慣れてくれたからなのか前よりもスムーズにお話してくれるようになった。
そんな些細な事だけでも嬉しいのに花火大会に誘う!?しかも辻君の誕生日だと言う。
家族と過ごすのではないだろうか、いやそもそも任務があるかもしれない。それよりなにより私に誘えるのだろうか?だってそれってデートって事だよね……
考えただけで胃が痛くなりそうだ。いつどうやって誘ったらいいだろう。
「苗字さん、どうしたの?……何か心配事?」
「えっ!?あ、いやごめんね。なんでもないの……」
学校からボーダー本部まで辻君とせっかく2人一緒に向かっていたのに考えていたのは花火大会にどう誘うかばかりだった。
ちなみにひゃみちゃんも同じく本部に行くはずなのに最近は私に気を使って2人で行くように仕向けてくれる。
辻君も前はひゃみちゃんがいないと私との会話もままならなかったのに2人でいる事を嫌がらない事に些細な幸せを感じていた。
辻君が不思議そうな顔でこちらを見てる。
「いや……えーっとあのね……」
いつまで経っても誘えないで後々後悔しても仕方ない!
「辻君……あの、花火大会の日って防衛任務とかあったりする?」
「えっ!?」
辻君のびっくりした顔もしかしたら初めて見たかも、なんて思いながら慌てて付け足す。
「あ!いや防衛任務なくても用事あったりするよね!ごめんね、気にしないで!」
返事が怖くてアワアワと両手を顔の前で振った。
「……ないよ」
「え?」
「その日は防衛任務も……用事もないよ……」
普段よりちょっと赤い顔をした辻君に胸がドクンと高鳴る。
「も、もし良かったら……一緒に花火大会、行きませんか?」
期待を込めて辻君をみつめる。息が止まりそうだ。
「俺で良ければ……えっと……もちろん」
その答えに天にも昇る気持ちとはこの事だろうかと思った。
その日から浴衣はどれにしよう?髪型はどうしよう?髪飾りは?下駄は?とひゃみちゃんや栞ちゃんに遥ちゃん(2人にも私の気持ちはすでに筒抜けだ)にと相談しまくった。
3人とも孫を見るかのような顔でとアワアワとしてる私を見ていた気がする。
そして大事な辻君への誕生日プレゼント。恐竜が好きなのはわかっているけれどこれはもう持ってるかも、これは子供っぽいかな、などと迷いに迷ってるうちにあっという間にその日は訪れた。
花火大会当日。朝からずっと緊張している。なんなら前日から、いや誘ったその日からずっと緊張している。男の子が苦手だった私がまさか男の子と2人で花火大会に出掛ける日が来るとは!しかも自分から誘って!
約束の時間が近付くにつれて緊張が高まり落ち着かなくなってきた。
普段は眉毛とリップ位でほとんど化粧もしないけれど今日は薄ら化粧をする。お気に入りの青みピンクにラメが入ったグロスを引いた。震える手ではみ出しそうになる。
何度か練習していたのに緊張のあまり髪をまとめるピンがなかなか上手く刺さらない。何度かチャレンジしてようやく綺麗にまとまった髪に白と紫のポンポン菊の髪飾りをつける。
さすがに着付けはお母さんに頼んだ。クーラーを効かせた部屋で慣れた手つきで私に浴衣を着せていく。
浴衣は白地に青や紫の紫陽花の柄に赤い帯の物にした。
「ふふっ、良く似合うわよ」
お母さんには誰と行くとは言っていないが、きっとお見通しなのだろう。嬉しそうに鏡越しに浴衣姿の私に声を掛けた。
慣れない下駄だからと時間に余裕をもって家を出た。
もしかしたら早く着きすぎてしまうかもしれない。でも家にいたって落ち着かないのだ。
街にはチラホラと同じように浴衣を着た人が同じ方向に向かって歩いていく。
友達同士、家族、カップル……。みんなウキウキと楽しそうに同じ場所へ向かって行く。その中の1人なんだなとどこか不思議な気持ちで待ち合わせ場所まで歩いていく。
やっぱり少し早かったかもしれない。携帯電話で時計を確認してふと顔を上げると待ち合わせ場所には辻君がいた。
シンプルな黒っぽい浴衣に薄いグレーの帯の辻君は余りにも格好良かった。
格好良過ぎてしばらく見蕩れて固まっていた私に辻君が気付いた。
「……!あ、苗字さん……」
「あ、えっと……辻君ももう来てたんだ」
見蕩れていた事が気恥ずかしくてちゃんと顔が見れない。
「うん……なんか早く着いちゃって……」
「ふふっ同じだね」
自分と同じ理由かもしれないと思って嬉しくなってしまい笑みが零れた。
目が合った、と思った途端辻君は「うっ」と唸った。
「辻君?」
「いや……あの……浴衣……似合うね」
思わぬ言葉に全身に一気に血が駆け巡った。頬がみるみる紅潮するのが自分でもわかる。
「う……あ、ありがとう……辻君も浴衣素敵だね」
「いや……うん……ありがとう……」
お互い下を向いてしまってこれではいつまで経っても花火大会どころではなくなってしまう。
意を決して顔を上げ辻君を見る。うーんやっぱり格好良い。
「えっと、とりあえず屋台でなにか買おうか?」
「あ……そうだよね、じゃあ行こっか……」
ようやく2人並んで人が流れて行く方向に歩き出した。
花火大会の会場が近付くに連れて屋台も増えたが人も増えてきて辻君を見失いそうになってしまう。
そうすると辻君が振り返っては「大丈夫?」と気遣ってくれるのだ。こういう優しい気遣いが出来る所が好きだ。改めて気付いて心惹かれる。
もうすぐ会場に着く、という時辻君が人波とは違う方向へ逸れていく。
「どうしたの?」
「あの……犬飼先輩に花火が良く見える穴場を教えてもらったんだ、だから……」
そう言う辻君に着いて行こうとしたが急に押し寄せた人波にはぐれそうになって思わず──
「待って!」
手を伸ばして辻君の浴衣の袂を掴んだ。思わず掴んでしまったものの自分の行動に自分で驚いた。辻君は一瞬びっくりした顔をしたものの「はぐれるといけないから……」とちょっと照れ臭そうにはしたけれど暗にそのままでいいと言ってくれた。
恥ずかしさでいっぱいだけれど嬉しくもあり、私はちょこんと袂を握ったまま辻君の後を着いて行った。
辻君に着いて行ったそこは会場から少し離れた警戒区域にほど近い公園だった。
場所柄あまり人は近付かないのだろう。私達以外には数組しか人はいなかった。
さすがにベンチは空いてなかったのでブランコの柵に並んで寄りかかる事にした。
お互い屋台で買った物を食べたりぽつりぽつりと話をして花火が上がるのを待った。
緊張しながらも一生懸命話してくれる辻君も好きだ。好きな恐竜の話をキラキラした眼で話す所もはにかんだ笑顔も。
辻君の綺麗な横顔を見ながらそんな事をぼんやり思っていると空に大輪の光の花が咲いた。
「あ!」
2人一緒に空を見上げる。繰り返し打ち上がる花火に辻君の横顔が赤や緑に照らされる。
思わず「綺麗……」と呟いた言葉は辻君の耳に届いたようで「花火、綺麗だね」と返ってきた。まさか貴方を見ていましたとも言えず「うん……そうだね」と答えて夜空を見つめた。
生まれて初めて人を好きになって、その人をデートに誘って一緒に花火を見てる。
そんな今この瞬間が幸せ過ぎて胸がいっぱいになってしまった。きっとこの恋が上手くいかなくたとしてもこの花火を生涯忘れる事はないだろう。
夜空を染める花火は余韻の残して消えていった。
「はぁ……終わっちゃったね……」
花火の余韻に浸ってほぅと息をついた。
「うん……なんかあっという間だったね」
打ち上がり始めた頃空の隅は少し明るかったけれどもう辺りは真っ暗だ。花火が終わった後のせいか余計暗く感じる。辺りを照らすのは古びた公園の電灯だけだ。
花火が終わって私は今日の本来の目的を思い出す。
「ねぇ……辻君……あのさ……」
誕生日をお祝いするのにこんなに緊張する事があるのだろうか。改めて辻君に向き合うと途端に恥ずかしくなってしまった。こんな事なら花火が打ち上がる前にパッと言ってパッとプレゼントを渡してしまえば良かった。
「お誕生日おめでとう!これ良かったら……」
どうにか吃らずに言えた!かごバッグに忍ばせていたプレゼントを辻君に渡す。
「えっ!?えっと……ありがとう……なんで誕生日って……」
暗くてわからないけれど赤くなってるんだろうなとさすがの私もわかる。
「ひゃみちゃんが教えてくれたの、花火大会の日が辻君の誕生日だよって……もしかして家族でお祝いとかあったかな?」
私はずっと気になっていた事を聞いた。せっかくの誕生日なのだしそうだったら申し訳ないなって。
「ううん、もうそんな歳でもないし……大丈夫だよ。あの……本当にありがとう」
そう笑ってくれた辻君に安心したのと嬉しいのでこちらまで笑みが零れた。
「そっか、良かった!誘ったけど大丈夫だったかなって心配だったの!ひゃみちゃんに教えて貰って誘えて良かった!」
安心して思わず言葉が口をついてでる。
「辻君と花火見れて良かった」
そうポロリと言葉が出てしまったが、嘘ではない本当の気持ちだ。恥ずかしさもあったけれどなんだか気分が高揚してしまって言ってしまった。
そんな私に辻君はアワアワとしていたけれど急にキュッと目を瞑ったかと思ったら意を決したように胸の前で拳を握ってこちらを見た。
「苗字さん……あのもし……良かったら……来年の花火大会も……一緒に見ませんか……」
その辻君の言葉に心の中に花火が打ち上がっていく音が聞こえた。
思わず大きな声をあげてしまった。
「そう、8月16日。なんの日か分かるでしょ?」
ひゃみちゃんがニヤリと笑いながらこちらを見ている。
「三門市花火大会の日……だよね」
「そうそう!その花火大会、辻君と一緒に行きなよ!」
いきなりひゃみちゃんに提案された難関に私はフリーズするしかなかった。
辻君への気持ちを自覚したからといって特に進展した事もなく相変わらず男の子は苦手な日々は続いていた。
ただ辻君だけは違う。ドキドキはするけど苦手だからこそ冷や汗が出るようなドキドキではない。
胸がちょっとキュッと苦しくなるような、そんなドキドキ。
辻君相手になら少し落ち着いて話せるようにはなった。辻君自身も私には慣れてくれたからなのか前よりもスムーズにお話してくれるようになった。
そんな些細な事だけでも嬉しいのに花火大会に誘う!?しかも辻君の誕生日だと言う。
家族と過ごすのではないだろうか、いやそもそも任務があるかもしれない。それよりなにより私に誘えるのだろうか?だってそれってデートって事だよね……
考えただけで胃が痛くなりそうだ。いつどうやって誘ったらいいだろう。
「苗字さん、どうしたの?……何か心配事?」
「えっ!?あ、いやごめんね。なんでもないの……」
学校からボーダー本部まで辻君とせっかく2人一緒に向かっていたのに考えていたのは花火大会にどう誘うかばかりだった。
ちなみにひゃみちゃんも同じく本部に行くはずなのに最近は私に気を使って2人で行くように仕向けてくれる。
辻君も前はひゃみちゃんがいないと私との会話もままならなかったのに2人でいる事を嫌がらない事に些細な幸せを感じていた。
辻君が不思議そうな顔でこちらを見てる。
「いや……えーっとあのね……」
いつまで経っても誘えないで後々後悔しても仕方ない!
「辻君……あの、花火大会の日って防衛任務とかあったりする?」
「えっ!?」
辻君のびっくりした顔もしかしたら初めて見たかも、なんて思いながら慌てて付け足す。
「あ!いや防衛任務なくても用事あったりするよね!ごめんね、気にしないで!」
返事が怖くてアワアワと両手を顔の前で振った。
「……ないよ」
「え?」
「その日は防衛任務も……用事もないよ……」
普段よりちょっと赤い顔をした辻君に胸がドクンと高鳴る。
「も、もし良かったら……一緒に花火大会、行きませんか?」
期待を込めて辻君をみつめる。息が止まりそうだ。
「俺で良ければ……えっと……もちろん」
その答えに天にも昇る気持ちとはこの事だろうかと思った。
その日から浴衣はどれにしよう?髪型はどうしよう?髪飾りは?下駄は?とひゃみちゃんや栞ちゃんに遥ちゃん(2人にも私の気持ちはすでに筒抜けだ)にと相談しまくった。
3人とも孫を見るかのような顔でとアワアワとしてる私を見ていた気がする。
そして大事な辻君への誕生日プレゼント。恐竜が好きなのはわかっているけれどこれはもう持ってるかも、これは子供っぽいかな、などと迷いに迷ってるうちにあっという間にその日は訪れた。
花火大会当日。朝からずっと緊張している。なんなら前日から、いや誘ったその日からずっと緊張している。男の子が苦手だった私がまさか男の子と2人で花火大会に出掛ける日が来るとは!しかも自分から誘って!
約束の時間が近付くにつれて緊張が高まり落ち着かなくなってきた。
普段は眉毛とリップ位でほとんど化粧もしないけれど今日は薄ら化粧をする。お気に入りの青みピンクにラメが入ったグロスを引いた。震える手ではみ出しそうになる。
何度か練習していたのに緊張のあまり髪をまとめるピンがなかなか上手く刺さらない。何度かチャレンジしてようやく綺麗にまとまった髪に白と紫のポンポン菊の髪飾りをつける。
さすがに着付けはお母さんに頼んだ。クーラーを効かせた部屋で慣れた手つきで私に浴衣を着せていく。
浴衣は白地に青や紫の紫陽花の柄に赤い帯の物にした。
「ふふっ、良く似合うわよ」
お母さんには誰と行くとは言っていないが、きっとお見通しなのだろう。嬉しそうに鏡越しに浴衣姿の私に声を掛けた。
慣れない下駄だからと時間に余裕をもって家を出た。
もしかしたら早く着きすぎてしまうかもしれない。でも家にいたって落ち着かないのだ。
街にはチラホラと同じように浴衣を着た人が同じ方向に向かって歩いていく。
友達同士、家族、カップル……。みんなウキウキと楽しそうに同じ場所へ向かって行く。その中の1人なんだなとどこか不思議な気持ちで待ち合わせ場所まで歩いていく。
やっぱり少し早かったかもしれない。携帯電話で時計を確認してふと顔を上げると待ち合わせ場所には辻君がいた。
シンプルな黒っぽい浴衣に薄いグレーの帯の辻君は余りにも格好良かった。
格好良過ぎてしばらく見蕩れて固まっていた私に辻君が気付いた。
「……!あ、苗字さん……」
「あ、えっと……辻君ももう来てたんだ」
見蕩れていた事が気恥ずかしくてちゃんと顔が見れない。
「うん……なんか早く着いちゃって……」
「ふふっ同じだね」
自分と同じ理由かもしれないと思って嬉しくなってしまい笑みが零れた。
目が合った、と思った途端辻君は「うっ」と唸った。
「辻君?」
「いや……あの……浴衣……似合うね」
思わぬ言葉に全身に一気に血が駆け巡った。頬がみるみる紅潮するのが自分でもわかる。
「う……あ、ありがとう……辻君も浴衣素敵だね」
「いや……うん……ありがとう……」
お互い下を向いてしまってこれではいつまで経っても花火大会どころではなくなってしまう。
意を決して顔を上げ辻君を見る。うーんやっぱり格好良い。
「えっと、とりあえず屋台でなにか買おうか?」
「あ……そうだよね、じゃあ行こっか……」
ようやく2人並んで人が流れて行く方向に歩き出した。
花火大会の会場が近付くに連れて屋台も増えたが人も増えてきて辻君を見失いそうになってしまう。
そうすると辻君が振り返っては「大丈夫?」と気遣ってくれるのだ。こういう優しい気遣いが出来る所が好きだ。改めて気付いて心惹かれる。
もうすぐ会場に着く、という時辻君が人波とは違う方向へ逸れていく。
「どうしたの?」
「あの……犬飼先輩に花火が良く見える穴場を教えてもらったんだ、だから……」
そう言う辻君に着いて行こうとしたが急に押し寄せた人波にはぐれそうになって思わず──
「待って!」
手を伸ばして辻君の浴衣の袂を掴んだ。思わず掴んでしまったものの自分の行動に自分で驚いた。辻君は一瞬びっくりした顔をしたものの「はぐれるといけないから……」とちょっと照れ臭そうにはしたけれど暗にそのままでいいと言ってくれた。
恥ずかしさでいっぱいだけれど嬉しくもあり、私はちょこんと袂を握ったまま辻君の後を着いて行った。
辻君に着いて行ったそこは会場から少し離れた警戒区域にほど近い公園だった。
場所柄あまり人は近付かないのだろう。私達以外には数組しか人はいなかった。
さすがにベンチは空いてなかったのでブランコの柵に並んで寄りかかる事にした。
お互い屋台で買った物を食べたりぽつりぽつりと話をして花火が上がるのを待った。
緊張しながらも一生懸命話してくれる辻君も好きだ。好きな恐竜の話をキラキラした眼で話す所もはにかんだ笑顔も。
辻君の綺麗な横顔を見ながらそんな事をぼんやり思っていると空に大輪の光の花が咲いた。
「あ!」
2人一緒に空を見上げる。繰り返し打ち上がる花火に辻君の横顔が赤や緑に照らされる。
思わず「綺麗……」と呟いた言葉は辻君の耳に届いたようで「花火、綺麗だね」と返ってきた。まさか貴方を見ていましたとも言えず「うん……そうだね」と答えて夜空を見つめた。
生まれて初めて人を好きになって、その人をデートに誘って一緒に花火を見てる。
そんな今この瞬間が幸せ過ぎて胸がいっぱいになってしまった。きっとこの恋が上手くいかなくたとしてもこの花火を生涯忘れる事はないだろう。
夜空を染める花火は余韻の残して消えていった。
「はぁ……終わっちゃったね……」
花火の余韻に浸ってほぅと息をついた。
「うん……なんかあっという間だったね」
打ち上がり始めた頃空の隅は少し明るかったけれどもう辺りは真っ暗だ。花火が終わった後のせいか余計暗く感じる。辺りを照らすのは古びた公園の電灯だけだ。
花火が終わって私は今日の本来の目的を思い出す。
「ねぇ……辻君……あのさ……」
誕生日をお祝いするのにこんなに緊張する事があるのだろうか。改めて辻君に向き合うと途端に恥ずかしくなってしまった。こんな事なら花火が打ち上がる前にパッと言ってパッとプレゼントを渡してしまえば良かった。
「お誕生日おめでとう!これ良かったら……」
どうにか吃らずに言えた!かごバッグに忍ばせていたプレゼントを辻君に渡す。
「えっ!?えっと……ありがとう……なんで誕生日って……」
暗くてわからないけれど赤くなってるんだろうなとさすがの私もわかる。
「ひゃみちゃんが教えてくれたの、花火大会の日が辻君の誕生日だよって……もしかして家族でお祝いとかあったかな?」
私はずっと気になっていた事を聞いた。せっかくの誕生日なのだしそうだったら申し訳ないなって。
「ううん、もうそんな歳でもないし……大丈夫だよ。あの……本当にありがとう」
そう笑ってくれた辻君に安心したのと嬉しいのでこちらまで笑みが零れた。
「そっか、良かった!誘ったけど大丈夫だったかなって心配だったの!ひゃみちゃんに教えて貰って誘えて良かった!」
安心して思わず言葉が口をついてでる。
「辻君と花火見れて良かった」
そうポロリと言葉が出てしまったが、嘘ではない本当の気持ちだ。恥ずかしさもあったけれどなんだか気分が高揚してしまって言ってしまった。
そんな私に辻君はアワアワとしていたけれど急にキュッと目を瞑ったかと思ったら意を決したように胸の前で拳を握ってこちらを見た。
「苗字さん……あのもし……良かったら……来年の花火大会も……一緒に見ませんか……」
その辻君の言葉に心の中に花火が打ち上がっていく音が聞こえた。