炎のゴブレット
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ナツキとハリーにとってそれからの日々は、ダンブルドア先生の計らいで思ったよりは幾分か穏やかなものになった。
ハリー、ロン、ハーマイオニーと一緒に談話室でカードゲームをしたり、湖のほとりを歩いたり、ジョージやフレッドにからかわれては笑い、時にはハグリッドの小屋でお茶をご馳走になったり。空いた時間には、西塔の秘密の部屋を訪れて、サイラスに静かに近況を報告する日もあった。
「ママは、ダンブルドアに聞きにいったんだ。君が夏休みに、まっすぐ僕んちに来ていいかって。だけど、ダンブルドアは、君が少なくとも最初だけはダーズリーのところに帰って欲しいんだって。」
ある日のロンの言葉にナツキたちは首を傾げた。誰もその答えを知らなかったが、ナツキはそれが何だかとても大事なことに思えた。
学期末のパーティの直前、ナツキは荷物をトランクに詰め込んでいた。ナツキもハリーも、直接あの夜について尋ねられることはなかったが、ひそひそ話の餌食にはなっていた。
以前のように「男好き」などと陰口を叩かれることはなくなったものの、代わりにささやかれる新しい噂も、決して心地よいものではなかった。
ハリーたちとともにナツキが大広間に足を踏み入れたとき、まず目に飛び込んできたのは、見慣れたはずの賑やかな装飾が、どこにも見当たらないことだった。
普段なら、四つの寮それぞれの色と紋章が誇らしげに掲げられている天井からは、代わりに一面の黒い垂れ幕が静かに垂れていた。セドリック・ディゴリーの死を悼む、慎ましい喪の装いだった。
ダンブルドア先生が立ち上がった。
「今年も終わりがやってきた。」
ダンブルドア先生はゆっくりと口を開いた。
「今夜は皆に色々と話したいことがある。しかし、まず初めに、一人の立派な生徒を失ったことを悼もう。・・・さあ、みんな起立して、盃をあげよう。セドリック・ディゴリーのために。」
全員がその言葉に従い起立した。
ナツキもゴブレットを握りしめながら、セドリックのまっすぐな笑顔を思い出していた。そして唱和した。
「セドリック・ディゴリー。」
静まり返った大広間に、その名が澄んだ鐘の音のように響いた。
ダンブルドア先生は、一拍置いてから口を開いた。
「セドリックはハッフルパフ寮の特性の多くを備えた、模範的な生徒じゃった。忠実な良き友であり、勤勉であり、フェアプレイを尊んだ。」
その瞬間、ナツキの胸に、セドリックと過ごした数々の場面が一気に蘇ってきた。
図書館の静けさの中で、丁寧に課題を教えてくれた横顔。塔の階段で迷っていた自分を、呆れるでも笑うでもなく、優しい声で導いてくれたこと。少し頬を赤らめながら、それでも真剣に「君が好きだ」と告げてきた、あのまっすぐな瞳。
気持ちを返すことはできず、最後の最後にはひどい喧嘩をしたままになってしまった。
けれど間違いなく、ナツキにとっては大切な友達の一人であったのだ。
ナツキの頬を涙が伝った。
そのままナツキは真っ直ぐにダンブルドア先生を見つめた。
「セドリック・ディゴリーはヴォルデモート卿に殺された。」
先生の言葉で、大広間に恐怖に駆られたざわめきが走った。
「魔法省はわしがこのことを皆に話すことを望んでおらぬ。その理由はヴォルデモート卿の復活を信じられぬからじゃ。しかしわしは、大抵の場合、真実は嘘に勝ると信じておる。さらに、セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕うことは、セドリックの名誉を汚すものだと信ずる。」
大広間中がダンブルドア先生を驚き、恐れながら見ていた。
「セドリックの死に関連して、何人かの名前を挙げねばなるまい。もちろんハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンのことじゃ。」
大広間にざわめきが広がった。何人かが、こちらの方を見て、また校長先生に視線を戻した。
「ハリ・ポッターとナツキ・ゴドリクソンは、それぞれが辛くもヴォルデモート卿の手を逃れた。」
ダンブルドア先生はハリーの方を向いた。
「自分の命をとして、ハリー・ポッターはセドリックの亡骸をホグワーツに連れ帰ったのじゃ。ヴォルデモート卿に対峙した魔法使いのなかで、あらゆる意味でこれほどの勇気を示したものは、そう多くはない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。」
そして、言葉を切ると、ダンブルドアはナツキにゆっくりと視線を向けた。
「ナツキ・ゴドリクソンはヴォルデモート卿の試練を退け、奴には思いつかない方法でここに戻ってきた。窮地の中で、その選択ができるものもまた、そう多くない。それは勇気であり、愛ともいえるじゃろう。」
ダンブルドア先生はゴブレットを持ちあげ、並んで座るナツキとハリーを見た。
「それがゆえに、わしはハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンを讃えたい。」
すると大広間の皆が同じように起立しゴブレットを持ち上げた。
「ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。目的を同じくし、心を開くならば、習慣や言葉の違いは全く問題にはならぬ。」
ダンブルドアの声は徐々に重みを増しながら、厳かに続いた。
「わしの考えでは、我々は暗く困難な時を迎えようとしている。・・・セドリックを忘れるでないぞ・・・。正しきことと易きことのどちらかの選択を迫られたときは、思い出すのじゃ。一人の善良な、親切で勇敢な少年の身に何が起こったのかを。たまたまヴォルデモート卿の通り道に迷い出たばかりに。セドリック・ディゴリーを忘れるでないぞ。」
こうして今年度最後の晩餐会は、例年とは違う空気のまま幕を下ろした。
ロンドンへ向かうホグワーツ特急の旅が始まり、ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは今この時にダンブルドア先生がどんな措置を取っているだろうかと話し続けた。
話がリータ・スキーターの話題に移ったとき、ハーマイオニーが自慢げにとんでもないことを言った。
「リータ・スキーターは未登録の『動物もどき』なの。あの女は変身して、黄金虫になるの。」
そう言いながら、ハーマイオニーは鞄から小さなガラス瓶を取り出した。中には、ぷっくりと太った黄金虫が、じたばたと脚を動かしていた。
そのときコンパートメントのドアがすーっと開いた。
「なかなかやるじゃないか、グレンジャー。」
ドラコ・マルフォイだ。ハリーはすぐに「出ていけ」と言った。
「君は負け組を選んだんだ、ポッター!言ったはずだぞ!トマダチは慎重に選んだほうがいいと僕が言ったはずだ!覚えてるか?ホグワーツに来る最初の日に、列車の中で出会った時のことを?間違ったのとは付き合わないことだって、そう言ったはずだ!」
マルフォイがロンとハーマイオニーを顎でしゃくった。
「もう手遅れだ、ポッター!闇の帝王が戻ってきたからには、そいつらは最初にやられる!穢れた血やマグル好きが最初だ!いや、二番目か。ディゴリーが最、いっ」
その瞬間、マルフォイの言葉はぷつりと途切れた。
ナツキが無言で渾身の力を込めて、彼の脛を蹴り飛ばしたのだ。マルフォイは情けない声を上げて前のめりに倒れかけた。
しかもそれだけではなかった。誰かがコンパートメントで花火を一箱爆発させたような音がした。
気づけばドアの前には、マルフォイだけでなくクラッブとゴイルも倒れており、三人ともぐったりと気を失っていた。どうやらナツキたちがそれぞれに呪いを放っていたらしい。
しかも、その呪いはナツキたちだけによるものではなかった。
フレッドがゴイルを踏みつけて、ジョージがマルフォイを踏みつけながらコンパートメントに入ってきた。
「面白い効果が出たなあ。誰だい、『できものの呪い』をかけたのは?」
ジョージの問いにハリーが「僕」と答えた。
「変だな。俺は『クラゲ足』を使ったんだがなあ。どうにもこの二つは一緒に使ってはいけないらしい。こいつ、顔中にクラゲの脚が生えてるぜ。おい、こいつらここに置いとかないほうがいいぞ。装飾には向かないからな。」
ジョージはそう言って、ひどい有様になっている三人をロン、ハリーと共に、コンパートメントの外に押し出した。
戻ってくると、ジョージは空いていたナツキの隣にどっかりと腰を下ろし、ふと笑いながら言った。
「ナツキも呪いをかけちまえばよかったのに。脛もかわいそうだけどな。」
ナツキは肩をすくめながら答えた。
「クラゲ足まみれでよくわかんないけど、舌もつれの呪いをかけたよ。」
「ああ、なるほどな。ピッタリだ。」
六人で笑っていると、ハリーがジョージに向かって口を開いた。
「ねえ、教えてくれないか?誰を脅迫していたの?」
フレッドとジョージの笑顔がぴたりと消え、顔を見合わせる。ハリー、ロン、ハーマイオニーも、一瞬の沈黙を逃さず、鋭い目で二人を見つめた。
「いいじゃん。別に二人とも、誰かに迷惑をかけたわけじゃないよ。もちろん、犯罪もしてないし。」
ナツキが口を挟むと、ロンが少しむっとして言った。
「そりゃ、ナツキは知ってるからそういえるだけさ。」
その言葉に、フレッドが小さくため息をつき、軽く手を上げてロンを制した。
「おいおい、ナツキを責めるのはやめてくれ。・・・・ルード・バグマンさ。」
フレッドはジョージと二人で、クィディッチ・ワールドカップでガブマンに賭け金を持ち逃げされたことを伝えた。
「そりゃあ、ナツキがあんなに一生懸命君たちに協力するわけだ・・・・。」
ロンがぼそりとつぶやきながら、納得したように座席に体を沈めた。
残りの旅は、笑ったり語ったりしているうちに、あっという間に過ぎていった。気がつけば、ホグワーツ特急はロンドンの9と3/4番線に滑り込んでいた。
ナツキは検知不可能拡大呪文のかけられたトランクのおかげで、荷物は見た目ほど重くなかった。ロンとハーマイオニーがトランクを抱えて、相変わらずクラゲ足まみれのマルフォイたちを跨いでいくのを手伝う。
ナツキも席を立とうとしたその時、ハリーがフレッドとジョージに声をかけた。
「受け取って。」
ハリーはジョージの手に袋を押し付けた。それは対抗試合の賞金だった。
ジョージもフレッドも目を丸くした。だがナツキはハリーがそうしたくなる気持ちが痛いほど理解できた。
「僕、いらないんだ。」
「狂ったか?」
ジョージが袋をハリーに押し返そうとした。
「ううん。狂ってない。君たちが受け取って、発明を続けてよ。これ、悪戯専門店のためさ。」
フレッドとジョージはまだ信じられれないものを見る目でハリーを見つめていた。
「いいかい。君たちが受け取ってくれないなら、僕これをドブに捨てちゃう。僕、欲しくないし、必要ないんだ。でも、少し笑わせてほしい。僕たち全員、笑いが必要なんだ。僕の感じでは、間も無く僕たち、これまでよりももっと笑いが必要になる。」
「・・・ハリー、これ、一千ガリオンもあるはずだ。」
ジョージが信じられないといった声でつぶやいた。ハリーはニヤッと笑ってみせた。
「そうさ。カナリア・クリームがいくつつくれるかな?」
フレッドとジョージはしばらく目を合わせたまま固まっていたが、ハリーは杖を取り出した。
「さあ、受け取れ。さもないと呪いをかけるぞ。今ならすごい呪いを知ってるんだから。ただ、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?ロンに新しいドレスローブを買ってあげて。君たちからだと言って。」
そう言ってハリーはマルフォイたちを跨いでコンパートメントを出て行ってしまった。
唖然とする二人に向かってナツキは苦笑しながら口を開いた。
「もらってあげて。そのお金、ハリーに嫌なことを思い出させちゃうんだと思う。それよりは、確かに二人に笑わせてもらったほうがハリーのためだよ。」
「そうかなあ?」
フレッドがそう言って、不満げにジョージを見た。
「それでも足りないっていうんなら私も出資しちゃうよ。」
ナツキが冗談めかしてそう言うと、ジョージが慌てた。
「それはやめてくれ!」
その反応に、ナツキは笑った。きっとそう言うだろうと、分かっていた。
「それが嫌ならハリーのは受け取ってね。さ、早く、降りよう!」
そう言って、ナツキは軽やかにマルフォイを踏んづけて、ホームへ飛び出した。
柵の向こうで、ハリー、ロン、ハーマイオニーにハグをしてしばしの別れを告げる。その脇でついに受け取ることを決めたジョージがハリーにモゴモゴとお礼を言っていた。
ナツキはフレッドの前に立ち、「フレッド、またね」と声をかけた。
「ああ、次の学期も面白いこと考えておくからな。」
フレッドはいつものいたずらっぽい笑みを浮かべ、ナツキを軽く抱きしめた。そして、ジョージの前に立った。
「ジョージも、またね。」
ナツキがそう言うと、ジョージは静かに微笑み、言った。
「ああ。ナツキも、大丈夫そうならハリーと遊びにこいよ。」
「うん。」
ナツキはくすっと笑いながら、そのまま両腕を広げた。ジョージも自然とその腕を受け止め、しっかりと抱きしめてくれた。
そして、ナツキはジョージの頬に、そっとキスを一つ、そしてもう一方にも、もう一つ。
ナツキからそんなことをするのは初めてだったから、ジョージは一瞬動きを止め、それから少し照れたように笑った。
みんなに手を振って、ナツキは遠くに見えるアバーフォースの元へ駆けていく。背中に残る彼の視線が、ずっと優しく見送ってくれているのを感じながら。
<炎のゴブレット 完>
ハリー、ロン、ハーマイオニーと一緒に談話室でカードゲームをしたり、湖のほとりを歩いたり、ジョージやフレッドにからかわれては笑い、時にはハグリッドの小屋でお茶をご馳走になったり。空いた時間には、西塔の秘密の部屋を訪れて、サイラスに静かに近況を報告する日もあった。
「ママは、ダンブルドアに聞きにいったんだ。君が夏休みに、まっすぐ僕んちに来ていいかって。だけど、ダンブルドアは、君が少なくとも最初だけはダーズリーのところに帰って欲しいんだって。」
ある日のロンの言葉にナツキたちは首を傾げた。誰もその答えを知らなかったが、ナツキはそれが何だかとても大事なことに思えた。
学期末のパーティの直前、ナツキは荷物をトランクに詰め込んでいた。ナツキもハリーも、直接あの夜について尋ねられることはなかったが、ひそひそ話の餌食にはなっていた。
以前のように「男好き」などと陰口を叩かれることはなくなったものの、代わりにささやかれる新しい噂も、決して心地よいものではなかった。
ハリーたちとともにナツキが大広間に足を踏み入れたとき、まず目に飛び込んできたのは、見慣れたはずの賑やかな装飾が、どこにも見当たらないことだった。
普段なら、四つの寮それぞれの色と紋章が誇らしげに掲げられている天井からは、代わりに一面の黒い垂れ幕が静かに垂れていた。セドリック・ディゴリーの死を悼む、慎ましい喪の装いだった。
ダンブルドア先生が立ち上がった。
「今年も終わりがやってきた。」
ダンブルドア先生はゆっくりと口を開いた。
「今夜は皆に色々と話したいことがある。しかし、まず初めに、一人の立派な生徒を失ったことを悼もう。・・・さあ、みんな起立して、盃をあげよう。セドリック・ディゴリーのために。」
全員がその言葉に従い起立した。
ナツキもゴブレットを握りしめながら、セドリックのまっすぐな笑顔を思い出していた。そして唱和した。
「セドリック・ディゴリー。」
静まり返った大広間に、その名が澄んだ鐘の音のように響いた。
ダンブルドア先生は、一拍置いてから口を開いた。
「セドリックはハッフルパフ寮の特性の多くを備えた、模範的な生徒じゃった。忠実な良き友であり、勤勉であり、フェアプレイを尊んだ。」
その瞬間、ナツキの胸に、セドリックと過ごした数々の場面が一気に蘇ってきた。
図書館の静けさの中で、丁寧に課題を教えてくれた横顔。塔の階段で迷っていた自分を、呆れるでも笑うでもなく、優しい声で導いてくれたこと。少し頬を赤らめながら、それでも真剣に「君が好きだ」と告げてきた、あのまっすぐな瞳。
気持ちを返すことはできず、最後の最後にはひどい喧嘩をしたままになってしまった。
けれど間違いなく、ナツキにとっては大切な友達の一人であったのだ。
ナツキの頬を涙が伝った。
そのままナツキは真っ直ぐにダンブルドア先生を見つめた。
「セドリック・ディゴリーはヴォルデモート卿に殺された。」
先生の言葉で、大広間に恐怖に駆られたざわめきが走った。
「魔法省はわしがこのことを皆に話すことを望んでおらぬ。その理由はヴォルデモート卿の復活を信じられぬからじゃ。しかしわしは、大抵の場合、真実は嘘に勝ると信じておる。さらに、セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕うことは、セドリックの名誉を汚すものだと信ずる。」
大広間中がダンブルドア先生を驚き、恐れながら見ていた。
「セドリックの死に関連して、何人かの名前を挙げねばなるまい。もちろんハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンのことじゃ。」
大広間にざわめきが広がった。何人かが、こちらの方を見て、また校長先生に視線を戻した。
「ハリ・ポッターとナツキ・ゴドリクソンは、それぞれが辛くもヴォルデモート卿の手を逃れた。」
ダンブルドア先生はハリーの方を向いた。
「自分の命をとして、ハリー・ポッターはセドリックの亡骸をホグワーツに連れ帰ったのじゃ。ヴォルデモート卿に対峙した魔法使いのなかで、あらゆる意味でこれほどの勇気を示したものは、そう多くはない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。」
そして、言葉を切ると、ダンブルドアはナツキにゆっくりと視線を向けた。
「ナツキ・ゴドリクソンはヴォルデモート卿の試練を退け、奴には思いつかない方法でここに戻ってきた。窮地の中で、その選択ができるものもまた、そう多くない。それは勇気であり、愛ともいえるじゃろう。」
ダンブルドア先生はゴブレットを持ちあげ、並んで座るナツキとハリーを見た。
「それがゆえに、わしはハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンを讃えたい。」
すると大広間の皆が同じように起立しゴブレットを持ち上げた。
「ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。目的を同じくし、心を開くならば、習慣や言葉の違いは全く問題にはならぬ。」
ダンブルドアの声は徐々に重みを増しながら、厳かに続いた。
「わしの考えでは、我々は暗く困難な時を迎えようとしている。・・・セドリックを忘れるでないぞ・・・。正しきことと易きことのどちらかの選択を迫られたときは、思い出すのじゃ。一人の善良な、親切で勇敢な少年の身に何が起こったのかを。たまたまヴォルデモート卿の通り道に迷い出たばかりに。セドリック・ディゴリーを忘れるでないぞ。」
こうして今年度最後の晩餐会は、例年とは違う空気のまま幕を下ろした。
ロンドンへ向かうホグワーツ特急の旅が始まり、ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは今この時にダンブルドア先生がどんな措置を取っているだろうかと話し続けた。
話がリータ・スキーターの話題に移ったとき、ハーマイオニーが自慢げにとんでもないことを言った。
「リータ・スキーターは未登録の『動物もどき』なの。あの女は変身して、黄金虫になるの。」
そう言いながら、ハーマイオニーは鞄から小さなガラス瓶を取り出した。中には、ぷっくりと太った黄金虫が、じたばたと脚を動かしていた。
そのときコンパートメントのドアがすーっと開いた。
「なかなかやるじゃないか、グレンジャー。」
ドラコ・マルフォイだ。ハリーはすぐに「出ていけ」と言った。
「君は負け組を選んだんだ、ポッター!言ったはずだぞ!トマダチは慎重に選んだほうがいいと僕が言ったはずだ!覚えてるか?ホグワーツに来る最初の日に、列車の中で出会った時のことを?間違ったのとは付き合わないことだって、そう言ったはずだ!」
マルフォイがロンとハーマイオニーを顎でしゃくった。
「もう手遅れだ、ポッター!闇の帝王が戻ってきたからには、そいつらは最初にやられる!穢れた血やマグル好きが最初だ!いや、二番目か。ディゴリーが最、いっ」
その瞬間、マルフォイの言葉はぷつりと途切れた。
ナツキが無言で渾身の力を込めて、彼の脛を蹴り飛ばしたのだ。マルフォイは情けない声を上げて前のめりに倒れかけた。
しかもそれだけではなかった。誰かがコンパートメントで花火を一箱爆発させたような音がした。
気づけばドアの前には、マルフォイだけでなくクラッブとゴイルも倒れており、三人ともぐったりと気を失っていた。どうやらナツキたちがそれぞれに呪いを放っていたらしい。
しかも、その呪いはナツキたちだけによるものではなかった。
フレッドがゴイルを踏みつけて、ジョージがマルフォイを踏みつけながらコンパートメントに入ってきた。
「面白い効果が出たなあ。誰だい、『できものの呪い』をかけたのは?」
ジョージの問いにハリーが「僕」と答えた。
「変だな。俺は『クラゲ足』を使ったんだがなあ。どうにもこの二つは一緒に使ってはいけないらしい。こいつ、顔中にクラゲの脚が生えてるぜ。おい、こいつらここに置いとかないほうがいいぞ。装飾には向かないからな。」
ジョージはそう言って、ひどい有様になっている三人をロン、ハリーと共に、コンパートメントの外に押し出した。
戻ってくると、ジョージは空いていたナツキの隣にどっかりと腰を下ろし、ふと笑いながら言った。
「ナツキも呪いをかけちまえばよかったのに。脛もかわいそうだけどな。」
ナツキは肩をすくめながら答えた。
「クラゲ足まみれでよくわかんないけど、舌もつれの呪いをかけたよ。」
「ああ、なるほどな。ピッタリだ。」
六人で笑っていると、ハリーがジョージに向かって口を開いた。
「ねえ、教えてくれないか?誰を脅迫していたの?」
フレッドとジョージの笑顔がぴたりと消え、顔を見合わせる。ハリー、ロン、ハーマイオニーも、一瞬の沈黙を逃さず、鋭い目で二人を見つめた。
「いいじゃん。別に二人とも、誰かに迷惑をかけたわけじゃないよ。もちろん、犯罪もしてないし。」
ナツキが口を挟むと、ロンが少しむっとして言った。
「そりゃ、ナツキは知ってるからそういえるだけさ。」
その言葉に、フレッドが小さくため息をつき、軽く手を上げてロンを制した。
「おいおい、ナツキを責めるのはやめてくれ。・・・・ルード・バグマンさ。」
フレッドはジョージと二人で、クィディッチ・ワールドカップでガブマンに賭け金を持ち逃げされたことを伝えた。
「そりゃあ、ナツキがあんなに一生懸命君たちに協力するわけだ・・・・。」
ロンがぼそりとつぶやきながら、納得したように座席に体を沈めた。
残りの旅は、笑ったり語ったりしているうちに、あっという間に過ぎていった。気がつけば、ホグワーツ特急はロンドンの9と3/4番線に滑り込んでいた。
ナツキは検知不可能拡大呪文のかけられたトランクのおかげで、荷物は見た目ほど重くなかった。ロンとハーマイオニーがトランクを抱えて、相変わらずクラゲ足まみれのマルフォイたちを跨いでいくのを手伝う。
ナツキも席を立とうとしたその時、ハリーがフレッドとジョージに声をかけた。
「受け取って。」
ハリーはジョージの手に袋を押し付けた。それは対抗試合の賞金だった。
ジョージもフレッドも目を丸くした。だがナツキはハリーがそうしたくなる気持ちが痛いほど理解できた。
「僕、いらないんだ。」
「狂ったか?」
ジョージが袋をハリーに押し返そうとした。
「ううん。狂ってない。君たちが受け取って、発明を続けてよ。これ、悪戯専門店のためさ。」
フレッドとジョージはまだ信じられれないものを見る目でハリーを見つめていた。
「いいかい。君たちが受け取ってくれないなら、僕これをドブに捨てちゃう。僕、欲しくないし、必要ないんだ。でも、少し笑わせてほしい。僕たち全員、笑いが必要なんだ。僕の感じでは、間も無く僕たち、これまでよりももっと笑いが必要になる。」
「・・・ハリー、これ、一千ガリオンもあるはずだ。」
ジョージが信じられないといった声でつぶやいた。ハリーはニヤッと笑ってみせた。
「そうさ。カナリア・クリームがいくつつくれるかな?」
フレッドとジョージはしばらく目を合わせたまま固まっていたが、ハリーは杖を取り出した。
「さあ、受け取れ。さもないと呪いをかけるぞ。今ならすごい呪いを知ってるんだから。ただ、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?ロンに新しいドレスローブを買ってあげて。君たちからだと言って。」
そう言ってハリーはマルフォイたちを跨いでコンパートメントを出て行ってしまった。
唖然とする二人に向かってナツキは苦笑しながら口を開いた。
「もらってあげて。そのお金、ハリーに嫌なことを思い出させちゃうんだと思う。それよりは、確かに二人に笑わせてもらったほうがハリーのためだよ。」
「そうかなあ?」
フレッドがそう言って、不満げにジョージを見た。
「それでも足りないっていうんなら私も出資しちゃうよ。」
ナツキが冗談めかしてそう言うと、ジョージが慌てた。
「それはやめてくれ!」
その反応に、ナツキは笑った。きっとそう言うだろうと、分かっていた。
「それが嫌ならハリーのは受け取ってね。さ、早く、降りよう!」
そう言って、ナツキは軽やかにマルフォイを踏んづけて、ホームへ飛び出した。
柵の向こうで、ハリー、ロン、ハーマイオニーにハグをしてしばしの別れを告げる。その脇でついに受け取ることを決めたジョージがハリーにモゴモゴとお礼を言っていた。
ナツキはフレッドの前に立ち、「フレッド、またね」と声をかけた。
「ああ、次の学期も面白いこと考えておくからな。」
フレッドはいつものいたずらっぽい笑みを浮かべ、ナツキを軽く抱きしめた。そして、ジョージの前に立った。
「ジョージも、またね。」
ナツキがそう言うと、ジョージは静かに微笑み、言った。
「ああ。ナツキも、大丈夫そうならハリーと遊びにこいよ。」
「うん。」
ナツキはくすっと笑いながら、そのまま両腕を広げた。ジョージも自然とその腕を受け止め、しっかりと抱きしめてくれた。
そして、ナツキはジョージの頬に、そっとキスを一つ、そしてもう一方にも、もう一つ。
ナツキからそんなことをするのは初めてだったから、ジョージは一瞬動きを止め、それから少し照れたように笑った。
みんなに手を振って、ナツキは遠くに見えるアバーフォースの元へ駆けていく。背中に残る彼の視線が、ずっと優しく見送ってくれているのを感じながら。
<炎のゴブレット 完>