炎のゴブレット
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校長室には、ハリーとシリウス、それにダンブルドア校長が沈黙の中にいた。
ハリーはヴォルデモートの復活とセドリックの死で呆然としていたところに、ナツキが目の前で姿を消して、気が気ではなかった。焦燥と不安が、その場にいるもの全ての胸を焼いていた。
──そのとき。
パチン!
乾いた空気の裂けるような音とともに、執務室の床の一角が淡く揺らめいた。次の瞬間、小柄な屋敷しもべ妖精が現れ、手を引くようにして、ひとりの少女が姿を現した。
その瞬間、ハリーの額の傷がズキンと鋭く痛んだ。焼けつくような痛みに、思わず顔をしかめ、額に手をやる。
「ナツキ!っつ・・・!」
ハリーは叫んだ。しかし、額の痛みはなかなか引かなく、駆け寄ることができなかった。
ナツキはピブルに支えられながらよろめき、足元をふらつかせた。顔は紙のように蒼白で、唇はかすかに震えている。ピブルの手を強く握りしめていた。
「ナツキ!」
シリウスは椅子を蹴るようにして立ち上がり、すぐさま娘を抱きしめた。
「無事だったのか・・・どこに・・・」
だがナツキはすぐには答えなかった。ただ、視線を伏せ、喉を震わせながら、かすれた声で呟いた。
「・・・ヴォルデモートのところに・・・・いたの・・・」
その言葉に、執務室の空気が凍りついた。
ダンブルドアは無言で席を立ち、彼女の前まで歩み寄る。
「よく・・よくぞ戻ってきた・・・・・詳しく、話を聞かせてくれるか、ナツキ?ハリーもじゃ。迷路のポートキーに触れてから、何が起こったのか、わしは知る必要があるのじゃ。」
ナツキは肩を震わせた。
「ダンブルドア、明日の朝まで待てませんか?眠らせてやりましょう。休ませてやりましょう。」
シリウスはナツキとハリーの肩に手を置きながらそういった。
ダンブルドア先生はナツキとハリーの目を交互に見た。
「・・・それで救えるのなら、君たちを魔法の眠りにつかせ、今夜の出来事を考えるのを先延ばしにすることで救えるなら、わしはそうするじゃる。しかし、そうではないのじゃ。」
その声は柔らかくも、確かな重みがあった。
「君たちは、わしの期待を遥かに超える勇気を示した。もう一度、その勇気を示してほしい。何が起きたか、わしらに聞かせてくれ。」
不死鳥のフォークスが柔らかに震える声で泣いた。ナツキは先生の言っていることは痛いほどわかった。でも、さっき起きたことを口にするのは、あまりにも辛いことだ。
ナツキは唇をきつく噛みしめ、俯いたまま固まっていた。沈黙を破ったのは、ハリーだった。
「・・・・僕とセドリックは、同時に優勝杯に手を触れました。」
そしてハリーは話し始めた。セドリックの死、ヴォルデモートの復活、現れた死喰い人たち。墓地で起きたことを、震える声で、ひとつひとつ絞り出すように。
「僕の血が、他の誰の血よりも、あの人を強くするとあの人自身が言ってました。」
ナツキは、ハリーの横顔を見つめながら、言葉にできない感情が胸にこみ上げるのを感じていた。
ハリーは話続けた。ヴォルデモートとの決闘でおきた、不思議なことを息を詰まらせながら、杖がつながったのだと言った。
「杖がつながった?なぜなんだ?」
「直前呪文じゃな。」
シリウスの問いにダンブルドア先生は答えた。
「ハリーの杖とヴォルデモートの杖には共通の芯が使ってある。それぞれに同じ不死鳥の尾羽が1枚ずつ入っている。実は、この不死鳥なのじゃ。」
「僕の杖の羽根は、フォークスの?」
ダンブルドア先生がいうには、共通の芯を持つ兄弟杖は、互いに相手に対して正常に作動しないのだという。そして、セドリックをはじめとした、ハリーの両親を含む殺された人たちが現れたのだと。
ハリーは俯き、拳を握りしめた。
ナツキは黙ってそれを見つめていた。さっきまでヴォルデモートの前にいた自分の肌に、まだ冷たい記憶がこびりついている。けれど、ハリーがその場で立ち向かってきたことを想像し、胸が締めつけられた。
ハリーはもう言葉を続けられなくなっていた。
「もう一度言う。ハリー、今夜君はわしの期待を遥かに超える勇気を示した。」
ダンブルドア先生は慈愛に満ちた瞳でハリーを労った。そして今度は、ゆっくりとナツキに視線を移す。
「・・・・ナツキ、君も、勇気を出してくれぬか?」
ナツキは眉根を寄せて、ここまでずっと繋がれていたピブルの手を強く握った。
「ムーディ先生に、ハリーのためにお茶を入れろと頼まれて、茶器に触れました。それが、ポートキーでした。気づくと私は、墓場にいました。多分、ハリーがいたところと同じです。」
その言葉に、再び室内の空気が張り詰める。
「・・・私は・・・すぐに、ヴォルデモートと対面しました。そしてすぐに、杖がないことに気づきました。ポートキーに触れる直前に、呼び寄せ呪文で奪われていたんだと思います。」
ナツキは、喉の奥で何かがせり上がるのを感じながらも、かすれた声を押し出すように続けた。
「彼は、・・・・死喰い人を呼ばず、私と二人きりで話をしたいと言いました。そして、場所を移されました。どこか古い屋敷の寝室でした。」
指が、無意識にピブルの手を強く握る。震えが止まらない。その一言で場の空気がぴんと張り詰めた。
「ヴォルデモートは私に取引を持ちかけました。『お前が、俺様のものになるのであれば、ハリー・ポッターには手を出さないでやってもいい』と・・・」
ナツキは視線を伏せ、唇を噛んだ。ハリーが息を呑んだのがわかった。
「私は死喰い人への勧誘なのかと訊きました。でもそれは、違ったんです。・・・彼は、私を・・ベッドに押し付けて・・・・」
ガタリと音を立てて、シリウスが無意識に近くの器具を倒した。床に落ちたそれが、無機質な音を立てて転がる。
「・・・私の娘に・・そんな悍ましいことをしたのか・・・!?」
シリウスの手が怒りで大きく震えていた。声は低く震え、今にも爆発しそうな怒りが全身から噴き出していた。
「・・・後は、何もされてない・・・。あいつは、楽しそうにに、考える時間を5分やるって言って、部屋から出ていった。それで・・・それで・・・。」
声が詰まった。記憶が喉元を塞ぎ、胸を締めつける。ナツキの肩が震える。
「ピブルを呼んだの。・・・・ハリー、ごめんね。」
「え?」
驚いたようにハリーが顔を上げた。
「ハリーを、助けられるチャンスだったかも知れない・・・!なのに、私は逃げた・・・・!怖くて、どうしても、そこに居られなかった・・・・!」
ナツキの頬を伝って、熱い涙が静かに落ちる。目をそらすようにうつむき、ピブルの手をぎゅっと握りしめた。
しかし、ハリーは静かに首を横に振った。
「逃げてよかったんだ!そんなの・・・君が犠牲になるなんて、絶対に間違ってる。そんなんで生き残っても、僕、嬉しくないよ・・・!」
ハリーの声は小さかったが、はっきりと強い意志がこもっていた。
「よくぞ言った、ハリー。」
ダンブルドア先生は重々しく息を吐いた。
「ナツキ、よく、よく戻ってきてくれた。よく、ピブルを頼ろうと思うてくれた・・・・!辛かったろう。怖かったろう。よく、よくぞ、打ち明ける勇気を出してくれた・・・。」
その老いた手が、そっとナツキの肩に触れた。
「わしは君を誇りに思う。そしてナツキの選択を迷わず受け入れた、ハリー、君のこともじゃ。」
その手の温もりは、ゆっくりと冷え切った心を包み込むようだった。
「医務室へ行こうぞ。今夜は寮に戻らぬ方が良い。魔法睡眠薬、それに安静じゃ・・・、シリウス、二人と一緒にいてくれるかの?」
シリウスが頷いて、黒い犬に変身した。
階下へ向かい、ダンブルドア先生が医務室のドアを開けると、そこにはウィーズリーおばさん、ビル、ロン、ハーマイオニー、フレッドとジョージが、マダム・ポンフリーを取り囲んでいた。どうやら、「ハリーとナツキはどこか」「何が起こったか」と問い詰めていた様子だ。
「なんでナツキはまだ戻って来ないんだ!?」
ジョージがそう叫んだ時、扉の向こうから姿を現したのは、顔を青ざめさせたナツキとハリー、そして彼らを静かに先導するダンブルドア先生だった。ピブルがナツキの腕に寄り添い、黒い犬がハリーとナツキの足元を守るように歩いていた。
「ハリー!ナツキ!」
ウィーズリーおばさんが胸元を押さえて駆け寄ろうとするのを、ダンブルドア先生がそっと手をあげて制した。
「モリー、聞いておくれ。二人は、今夜、恐ろしい試練をくぐり抜けてきた。それをわしのために、もう一度再現してくれたばかりじゃ。」
先生の目は、温かくも厳しいまなざしで一同を見渡した。
「今二人に必要なのは、安らかに眠ることじゃ。もし二人が、みんなにここにいてほしれけば、そうしてよろしい。ただし、二人が答えられる状態になるまでは、」
そこで一拍、声を落としながら、はっきりと言った。
「質問してはならぬぞ。絶対に質問してはならぬ。」
ナツキはこれほど感謝することがあるだろうかとさえ思った。きっとハリーも同じ気持ちだろう。
「ハリー、ナツキ、わしは、ファッジに会ったらすぐに戻ってこよう。ああ、ナツキの杖も持ってこなくてはな。明日、わしが学校のみんなに話をする。それまで、明日もここにおるのじゃぞ。」
ダンブルドア先生はそう言ってその場を去った。
マダム・ポンフリーはナツキたちを近くのベッドに連れて行った。ナツキはまだピブルの手を引いていた。
隅のベッドに本物らしきムーディ先生が横たわっていた。
「あの人は大丈夫ですか?」
ハリーがそう聞くと、マダム・ポンフリーは二人にパジャマを渡し、それぞれのカーテンを閉めながら「大丈夫ですよ」と言った。
ナツキはぎこちなくパジャマに着替え、ふわりとしたシーツの中に身を沈めた。身体は冷え切っていたが、ようやく温もりが戻ってくるような気がした。
傍らでは、ピブルが小さな椅子にちょこんと腰かけ、心配そうにナツキの手をそっと握っていた。大きな耳を垂らし、今にも涙をこぼしそうな目で、じっと彼女の顔を見つめている。
ナツキとハリーを仕切っていたところだけカーテンが開けられ、みんながカーテンを回り込んで二人のベッドを取り囲んだ。
ナツキはぼんやりと周囲を見渡し、その中でジョージの視線とばったりぶつかった。
いつもの、安心する包み込むような優しい目だった。
ナツキは胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じ、そっと目を逸らしてしまった。見つめ返すことも、言葉を交わすことも今は難しかった。
「僕たち、大丈夫。疲れてるだけ。ね、ナツキ?」
ハリーのそのありがたい言葉にナツキはコクコクと頷いた。
マダム・ポンフリーは紫色の薬とゴブレットを二つ持ってきた。
「ハリー、ナツキ、これを全部飲まないといけません。この薬で、夢を見ずに眠ることができます。」
二人はその言葉に従い、ゴブレットに注がれた薬を飲んだ。ナツキは全て飲み切る前に睡魔が襲ってきて、ピブルの手を握ったまま、静かに目を閉じた。
ナツキはぼんやり目を覚ました。ピブルがハッとしたようにこちらを覗いている。しかし眠い。また寝ようと瞼を閉じようとした。
しかし、誰かの怒鳴り合いが聞こえてナツキは結局目を開けた。ピブルは困ったようにキョロキョロと首を動かしていた。
「残念だが、ミネルバ、仕方ない・・・」
「絶対に、あれを城の中に入れてはならなかったのです!」
ファッジ大臣とマクゴナガル先生の声だと思ったら、ドアがパーンと開いた。
ウィーズリーおばさんが二人に静かにするよう怒ろうとした時、ダンブルドア先生の声がした。
「何事じゃ。病人たちに迷惑じゃろう?ミネルバ、あなたらしくもない・・・バーティ・クラウチを監視するようにお願いしたはずじゃが・・・」
「もう見張る必要がなくなりました。ダンブルドア!」
マクゴナガル先生が叫んだ。その理由はすぐにわかった。ファッジが、護衛の吸魂鬼を従えて城へに入り、その吸魂鬼がクラウチ・ジュニアにキスをしてしまったのだ。
「どのみちクラウチがどうなろうと何の損失にもなりはせん!」
ファッジは怒鳴り返したが、ダンブルドアの声にはいつになく冷たい怒気がにじんでいた。
「しかし、コーネリウス、もはや証言ができまい。」
「あいつは支離滅裂だ!奴は、全て例のあの人の命令でやったと思い込んでいたらしい!」
ナツキは半ば夢の中にいた頭が、その言葉に鋭く引き戻されるのを感じた。思い込みなどでは断じてない。
「『確かに』ヴォルデモート卿が命令していたのじゃ。コーネリウス。ヴォルデモートは肉体を取り戻した。」
「例のあの人が復活した・・・?馬鹿馬鹿しい。おいおい、ダンブルドア・・・」
ダンブルドア先生は大臣に、真実薬を飲ませ、クラウチ・ジュニアから聞き取ったこと、ハリーとナツキがヴォルデモートを目撃したことを告げた。
「ダンブルドア、あなたは、あー、本件に関してナツキと、あー、ハリーの言葉を信じると言うわけですな?」
室内に一瞬、凍りつくような沈黙が広がった。どこかでシリウスが低く唸り声をあげているのが聞こえる。
「もちろんじゃ、わしはハリーとナツキを信じる。」
大臣はなおも信じようとはしなかった。そこへ寝ていると思っていたハリーの声がした。
「ファッジ大臣、あなたは、リータ・スキーターの記事を読んでいらっしゃるのですね。」
「だとしたらどうだと言うのかね。蛇語使いだって?それに、城の至る所でおかしな発作を起こすとか・・・」
ナツキも流石に体を起こした。眠っているふりをする必要はないだろう。ピブルが心配そうにこちらを見ている。
ダンブルドア先生は大臣に詰め寄っていた。
「コーネリウス、聞くがいい。ハリーは正常じゃ。」
「お言葉だが、ダンブルドア・・・・」
ファッジが言い切るよりも早く、ハリーが堪えかねたように声を荒げた。
「でも、僕はヴォルデモートが復活するのを、見たんだ!僕は、死喰い人を見たんだ!名前をみんな挙げることだってできる!」
「ダンブルドア、この子らは去年も学期末に散々訳のわからん話をしていた。話がだんだん大袈裟になってくる。」
ナツキは大臣の言葉に愕然とした。その時、マクゴナガル先生がまた叫んだ。
「愚か者!!セドリック・ディゴリー!クラウチ氏!この二人の死が、狂気の無差別殺人だとでも言うのですか!」
「反証はない!どうやら諸君は、この十三年間、我々が堂々として築いてきたものを、全て覆すような大混乱を引き起こそうと言う所存だな!」
ナツキはもう、我慢ならなかった。心の奥底から、感情が噴き出すように声が出た。
「セドリックの死をそんなことに使うわけがない!!!」
震える声を吐き出しながら、ナツキは唇をきつく噛み締めた。
「ヴォルデモートは、帰ってきた。」
ダンブルドア先生は繰り返した。
「ファッジ、あなたがその事実をすぐさま認め、必要な措置を講じれば、我々はまだこの状況を救えるかも知れぬ。」
ダンブルドア先生が厳しく言い放ったが、大臣の耳には届かないようだった。彼は、ただ頑なに首を振り続けていた。その場にいた全員が、言葉を失いながらも、大臣を睨みつけていた。
「目を瞑ろうという決意がそれほど硬いなら、コーネリウス。袂を分つ時がきた。」
ダンブルドア先生は淡々とそう告げた。そこにずいっとスネイプ先生が現れ、左の袖を捲り上げた。
そこには闇の印があった。
「1時間ほど前には黒く焼け焦げて、もっとはっきりしていた。・・・この印が、今年になってから、ずっと鮮明になってきていた。カルカロフのもだ。」
それでもファッジは認めようとはしなかった。なおも、首を振るばかりだ。
「あなたも先生方も、一体何をふざけているのやら、ダンブルドア、私にはさっぱり。しかし、もう聞くだけ聞いた。私も、もう何も言うことはない。」
そう吐き捨てるように言うと、ファッジは部屋を出ようとした。だが一度立ち止まり、くるりと向きを変えると、ハリーの前へと詰め寄った。
「君の賞金だ。」
そう言って、重々しい袋を床に置き、踵を返してそのまま部屋を後にした。一瞬、誰もが言葉を失った。
やがてダンブルドア先生が凛とした声で言った。
「やるべきことがある。」
そして、部屋に残る者たちへ矢継ぎ早に指示を与え始めた。
シリウスは人間の姿に戻り、昔の仲間たちに警戒態勢を伝えるよう命じられた。
「え、」
「でも、」
ナツキとハリーはほぼ同時にそう言った。別れたくなかったのだ。
「またすぐ会えるよ、ナツキ、ハリー。約束する。しかし、私は自分にできることをしなければならない。わかるね?」
ナツキとハリーは静かに頷いた。
シリウスはハリの手をぎゅっと握り、ナツキの額にキスをした。そして再び黒い犬に変身して、駆け出していった。
ダンブルドア先生も、「残りの薬を飲むのじゃ」とだけ言い残して、静かにその場を去っていった。
医務室には、ハーマイオニー、ロン、ウィーズリーおばさん、フレッド、ジョージ、そしてピブルが残った。
ウィーズリーおばさんがハリーに薬を手渡した。
「ゆっくりおやすみ、しばらく何か他のことを考えるのよ。賞金で何を買うかを考えなさいな!」
「金貨なんかいらない。セドリックのものだったんだ。・・・僕と一緒に優勝杯を握ろうって、僕が言ったんだ。」
ハリーの涙声に、ウィーズリーおばさんは黙って彼を強く抱きしめた。
ナツキの胸にも、込み上げる思いが押し寄せた。
セドリックとは、最後に、喧嘩をしたままだ。そのまま、彼は死んでしまった。もっと、いい方法があったんじゃないかと思わずにはいられなかった。
ナツキのベッドに、ジョージが腰掛けた。
「ナツキ、ほら、飲んで。今は休もうぜ・・・・?」
ナツキはもうどうしたらいいかわからなかった。
「ナツキ様、ピブルはずっとここにおります。おやすみして大丈夫です。」
ピブルが珍しく密やかな声でそう告げて、ナツキはようやく安心した。
ジョージからゴブレットを受け取り、一気に飲み干すと、途端に重い眠気が襲ってきた。
ピブルの小さな手の温もりと、頭をそっと撫でてくれる大きな手に包まれながらナツキは、静かに、深い眠りに落ちていった。
ハリーはヴォルデモートの復活とセドリックの死で呆然としていたところに、ナツキが目の前で姿を消して、気が気ではなかった。焦燥と不安が、その場にいるもの全ての胸を焼いていた。
──そのとき。
パチン!
乾いた空気の裂けるような音とともに、執務室の床の一角が淡く揺らめいた。次の瞬間、小柄な屋敷しもべ妖精が現れ、手を引くようにして、ひとりの少女が姿を現した。
その瞬間、ハリーの額の傷がズキンと鋭く痛んだ。焼けつくような痛みに、思わず顔をしかめ、額に手をやる。
「ナツキ!っつ・・・!」
ハリーは叫んだ。しかし、額の痛みはなかなか引かなく、駆け寄ることができなかった。
ナツキはピブルに支えられながらよろめき、足元をふらつかせた。顔は紙のように蒼白で、唇はかすかに震えている。ピブルの手を強く握りしめていた。
「ナツキ!」
シリウスは椅子を蹴るようにして立ち上がり、すぐさま娘を抱きしめた。
「無事だったのか・・・どこに・・・」
だがナツキはすぐには答えなかった。ただ、視線を伏せ、喉を震わせながら、かすれた声で呟いた。
「・・・ヴォルデモートのところに・・・・いたの・・・」
その言葉に、執務室の空気が凍りついた。
ダンブルドアは無言で席を立ち、彼女の前まで歩み寄る。
「よく・・よくぞ戻ってきた・・・・・詳しく、話を聞かせてくれるか、ナツキ?ハリーもじゃ。迷路のポートキーに触れてから、何が起こったのか、わしは知る必要があるのじゃ。」
ナツキは肩を震わせた。
「ダンブルドア、明日の朝まで待てませんか?眠らせてやりましょう。休ませてやりましょう。」
シリウスはナツキとハリーの肩に手を置きながらそういった。
ダンブルドア先生はナツキとハリーの目を交互に見た。
「・・・それで救えるのなら、君たちを魔法の眠りにつかせ、今夜の出来事を考えるのを先延ばしにすることで救えるなら、わしはそうするじゃる。しかし、そうではないのじゃ。」
その声は柔らかくも、確かな重みがあった。
「君たちは、わしの期待を遥かに超える勇気を示した。もう一度、その勇気を示してほしい。何が起きたか、わしらに聞かせてくれ。」
不死鳥のフォークスが柔らかに震える声で泣いた。ナツキは先生の言っていることは痛いほどわかった。でも、さっき起きたことを口にするのは、あまりにも辛いことだ。
ナツキは唇をきつく噛みしめ、俯いたまま固まっていた。沈黙を破ったのは、ハリーだった。
「・・・・僕とセドリックは、同時に優勝杯に手を触れました。」
そしてハリーは話し始めた。セドリックの死、ヴォルデモートの復活、現れた死喰い人たち。墓地で起きたことを、震える声で、ひとつひとつ絞り出すように。
「僕の血が、他の誰の血よりも、あの人を強くするとあの人自身が言ってました。」
ナツキは、ハリーの横顔を見つめながら、言葉にできない感情が胸にこみ上げるのを感じていた。
ハリーは話続けた。ヴォルデモートとの決闘でおきた、不思議なことを息を詰まらせながら、杖がつながったのだと言った。
「杖がつながった?なぜなんだ?」
「直前呪文じゃな。」
シリウスの問いにダンブルドア先生は答えた。
「ハリーの杖とヴォルデモートの杖には共通の芯が使ってある。それぞれに同じ不死鳥の尾羽が1枚ずつ入っている。実は、この不死鳥なのじゃ。」
「僕の杖の羽根は、フォークスの?」
ダンブルドア先生がいうには、共通の芯を持つ兄弟杖は、互いに相手に対して正常に作動しないのだという。そして、セドリックをはじめとした、ハリーの両親を含む殺された人たちが現れたのだと。
ハリーは俯き、拳を握りしめた。
ナツキは黙ってそれを見つめていた。さっきまでヴォルデモートの前にいた自分の肌に、まだ冷たい記憶がこびりついている。けれど、ハリーがその場で立ち向かってきたことを想像し、胸が締めつけられた。
ハリーはもう言葉を続けられなくなっていた。
「もう一度言う。ハリー、今夜君はわしの期待を遥かに超える勇気を示した。」
ダンブルドア先生は慈愛に満ちた瞳でハリーを労った。そして今度は、ゆっくりとナツキに視線を移す。
「・・・・ナツキ、君も、勇気を出してくれぬか?」
ナツキは眉根を寄せて、ここまでずっと繋がれていたピブルの手を強く握った。
「ムーディ先生に、ハリーのためにお茶を入れろと頼まれて、茶器に触れました。それが、ポートキーでした。気づくと私は、墓場にいました。多分、ハリーがいたところと同じです。」
その言葉に、再び室内の空気が張り詰める。
「・・・私は・・・すぐに、ヴォルデモートと対面しました。そしてすぐに、杖がないことに気づきました。ポートキーに触れる直前に、呼び寄せ呪文で奪われていたんだと思います。」
ナツキは、喉の奥で何かがせり上がるのを感じながらも、かすれた声を押し出すように続けた。
「彼は、・・・・死喰い人を呼ばず、私と二人きりで話をしたいと言いました。そして、場所を移されました。どこか古い屋敷の寝室でした。」
指が、無意識にピブルの手を強く握る。震えが止まらない。その一言で場の空気がぴんと張り詰めた。
「ヴォルデモートは私に取引を持ちかけました。『お前が、俺様のものになるのであれば、ハリー・ポッターには手を出さないでやってもいい』と・・・」
ナツキは視線を伏せ、唇を噛んだ。ハリーが息を呑んだのがわかった。
「私は死喰い人への勧誘なのかと訊きました。でもそれは、違ったんです。・・・彼は、私を・・ベッドに押し付けて・・・・」
ガタリと音を立てて、シリウスが無意識に近くの器具を倒した。床に落ちたそれが、無機質な音を立てて転がる。
「・・・私の娘に・・そんな悍ましいことをしたのか・・・!?」
シリウスの手が怒りで大きく震えていた。声は低く震え、今にも爆発しそうな怒りが全身から噴き出していた。
「・・・後は、何もされてない・・・。あいつは、楽しそうにに、考える時間を5分やるって言って、部屋から出ていった。それで・・・それで・・・。」
声が詰まった。記憶が喉元を塞ぎ、胸を締めつける。ナツキの肩が震える。
「ピブルを呼んだの。・・・・ハリー、ごめんね。」
「え?」
驚いたようにハリーが顔を上げた。
「ハリーを、助けられるチャンスだったかも知れない・・・!なのに、私は逃げた・・・・!怖くて、どうしても、そこに居られなかった・・・・!」
ナツキの頬を伝って、熱い涙が静かに落ちる。目をそらすようにうつむき、ピブルの手をぎゅっと握りしめた。
しかし、ハリーは静かに首を横に振った。
「逃げてよかったんだ!そんなの・・・君が犠牲になるなんて、絶対に間違ってる。そんなんで生き残っても、僕、嬉しくないよ・・・!」
ハリーの声は小さかったが、はっきりと強い意志がこもっていた。
「よくぞ言った、ハリー。」
ダンブルドア先生は重々しく息を吐いた。
「ナツキ、よく、よく戻ってきてくれた。よく、ピブルを頼ろうと思うてくれた・・・・!辛かったろう。怖かったろう。よく、よくぞ、打ち明ける勇気を出してくれた・・・。」
その老いた手が、そっとナツキの肩に触れた。
「わしは君を誇りに思う。そしてナツキの選択を迷わず受け入れた、ハリー、君のこともじゃ。」
その手の温もりは、ゆっくりと冷え切った心を包み込むようだった。
「医務室へ行こうぞ。今夜は寮に戻らぬ方が良い。魔法睡眠薬、それに安静じゃ・・・、シリウス、二人と一緒にいてくれるかの?」
シリウスが頷いて、黒い犬に変身した。
階下へ向かい、ダンブルドア先生が医務室のドアを開けると、そこにはウィーズリーおばさん、ビル、ロン、ハーマイオニー、フレッドとジョージが、マダム・ポンフリーを取り囲んでいた。どうやら、「ハリーとナツキはどこか」「何が起こったか」と問い詰めていた様子だ。
「なんでナツキはまだ戻って来ないんだ!?」
ジョージがそう叫んだ時、扉の向こうから姿を現したのは、顔を青ざめさせたナツキとハリー、そして彼らを静かに先導するダンブルドア先生だった。ピブルがナツキの腕に寄り添い、黒い犬がハリーとナツキの足元を守るように歩いていた。
「ハリー!ナツキ!」
ウィーズリーおばさんが胸元を押さえて駆け寄ろうとするのを、ダンブルドア先生がそっと手をあげて制した。
「モリー、聞いておくれ。二人は、今夜、恐ろしい試練をくぐり抜けてきた。それをわしのために、もう一度再現してくれたばかりじゃ。」
先生の目は、温かくも厳しいまなざしで一同を見渡した。
「今二人に必要なのは、安らかに眠ることじゃ。もし二人が、みんなにここにいてほしれけば、そうしてよろしい。ただし、二人が答えられる状態になるまでは、」
そこで一拍、声を落としながら、はっきりと言った。
「質問してはならぬぞ。絶対に質問してはならぬ。」
ナツキはこれほど感謝することがあるだろうかとさえ思った。きっとハリーも同じ気持ちだろう。
「ハリー、ナツキ、わしは、ファッジに会ったらすぐに戻ってこよう。ああ、ナツキの杖も持ってこなくてはな。明日、わしが学校のみんなに話をする。それまで、明日もここにおるのじゃぞ。」
ダンブルドア先生はそう言ってその場を去った。
マダム・ポンフリーはナツキたちを近くのベッドに連れて行った。ナツキはまだピブルの手を引いていた。
隅のベッドに本物らしきムーディ先生が横たわっていた。
「あの人は大丈夫ですか?」
ハリーがそう聞くと、マダム・ポンフリーは二人にパジャマを渡し、それぞれのカーテンを閉めながら「大丈夫ですよ」と言った。
ナツキはぎこちなくパジャマに着替え、ふわりとしたシーツの中に身を沈めた。身体は冷え切っていたが、ようやく温もりが戻ってくるような気がした。
傍らでは、ピブルが小さな椅子にちょこんと腰かけ、心配そうにナツキの手をそっと握っていた。大きな耳を垂らし、今にも涙をこぼしそうな目で、じっと彼女の顔を見つめている。
ナツキとハリーを仕切っていたところだけカーテンが開けられ、みんながカーテンを回り込んで二人のベッドを取り囲んだ。
ナツキはぼんやりと周囲を見渡し、その中でジョージの視線とばったりぶつかった。
いつもの、安心する包み込むような優しい目だった。
ナツキは胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じ、そっと目を逸らしてしまった。見つめ返すことも、言葉を交わすことも今は難しかった。
「僕たち、大丈夫。疲れてるだけ。ね、ナツキ?」
ハリーのそのありがたい言葉にナツキはコクコクと頷いた。
マダム・ポンフリーは紫色の薬とゴブレットを二つ持ってきた。
「ハリー、ナツキ、これを全部飲まないといけません。この薬で、夢を見ずに眠ることができます。」
二人はその言葉に従い、ゴブレットに注がれた薬を飲んだ。ナツキは全て飲み切る前に睡魔が襲ってきて、ピブルの手を握ったまま、静かに目を閉じた。
ナツキはぼんやり目を覚ました。ピブルがハッとしたようにこちらを覗いている。しかし眠い。また寝ようと瞼を閉じようとした。
しかし、誰かの怒鳴り合いが聞こえてナツキは結局目を開けた。ピブルは困ったようにキョロキョロと首を動かしていた。
「残念だが、ミネルバ、仕方ない・・・」
「絶対に、あれを城の中に入れてはならなかったのです!」
ファッジ大臣とマクゴナガル先生の声だと思ったら、ドアがパーンと開いた。
ウィーズリーおばさんが二人に静かにするよう怒ろうとした時、ダンブルドア先生の声がした。
「何事じゃ。病人たちに迷惑じゃろう?ミネルバ、あなたらしくもない・・・バーティ・クラウチを監視するようにお願いしたはずじゃが・・・」
「もう見張る必要がなくなりました。ダンブルドア!」
マクゴナガル先生が叫んだ。その理由はすぐにわかった。ファッジが、護衛の吸魂鬼を従えて城へに入り、その吸魂鬼がクラウチ・ジュニアにキスをしてしまったのだ。
「どのみちクラウチがどうなろうと何の損失にもなりはせん!」
ファッジは怒鳴り返したが、ダンブルドアの声にはいつになく冷たい怒気がにじんでいた。
「しかし、コーネリウス、もはや証言ができまい。」
「あいつは支離滅裂だ!奴は、全て例のあの人の命令でやったと思い込んでいたらしい!」
ナツキは半ば夢の中にいた頭が、その言葉に鋭く引き戻されるのを感じた。思い込みなどでは断じてない。
「『確かに』ヴォルデモート卿が命令していたのじゃ。コーネリウス。ヴォルデモートは肉体を取り戻した。」
「例のあの人が復活した・・・?馬鹿馬鹿しい。おいおい、ダンブルドア・・・」
ダンブルドア先生は大臣に、真実薬を飲ませ、クラウチ・ジュニアから聞き取ったこと、ハリーとナツキがヴォルデモートを目撃したことを告げた。
「ダンブルドア、あなたは、あー、本件に関してナツキと、あー、ハリーの言葉を信じると言うわけですな?」
室内に一瞬、凍りつくような沈黙が広がった。どこかでシリウスが低く唸り声をあげているのが聞こえる。
「もちろんじゃ、わしはハリーとナツキを信じる。」
大臣はなおも信じようとはしなかった。そこへ寝ていると思っていたハリーの声がした。
「ファッジ大臣、あなたは、リータ・スキーターの記事を読んでいらっしゃるのですね。」
「だとしたらどうだと言うのかね。蛇語使いだって?それに、城の至る所でおかしな発作を起こすとか・・・」
ナツキも流石に体を起こした。眠っているふりをする必要はないだろう。ピブルが心配そうにこちらを見ている。
ダンブルドア先生は大臣に詰め寄っていた。
「コーネリウス、聞くがいい。ハリーは正常じゃ。」
「お言葉だが、ダンブルドア・・・・」
ファッジが言い切るよりも早く、ハリーが堪えかねたように声を荒げた。
「でも、僕はヴォルデモートが復活するのを、見たんだ!僕は、死喰い人を見たんだ!名前をみんな挙げることだってできる!」
「ダンブルドア、この子らは去年も学期末に散々訳のわからん話をしていた。話がだんだん大袈裟になってくる。」
ナツキは大臣の言葉に愕然とした。その時、マクゴナガル先生がまた叫んだ。
「愚か者!!セドリック・ディゴリー!クラウチ氏!この二人の死が、狂気の無差別殺人だとでも言うのですか!」
「反証はない!どうやら諸君は、この十三年間、我々が堂々として築いてきたものを、全て覆すような大混乱を引き起こそうと言う所存だな!」
ナツキはもう、我慢ならなかった。心の奥底から、感情が噴き出すように声が出た。
「セドリックの死をそんなことに使うわけがない!!!」
震える声を吐き出しながら、ナツキは唇をきつく噛み締めた。
「ヴォルデモートは、帰ってきた。」
ダンブルドア先生は繰り返した。
「ファッジ、あなたがその事実をすぐさま認め、必要な措置を講じれば、我々はまだこの状況を救えるかも知れぬ。」
ダンブルドア先生が厳しく言い放ったが、大臣の耳には届かないようだった。彼は、ただ頑なに首を振り続けていた。その場にいた全員が、言葉を失いながらも、大臣を睨みつけていた。
「目を瞑ろうという決意がそれほど硬いなら、コーネリウス。袂を分つ時がきた。」
ダンブルドア先生は淡々とそう告げた。そこにずいっとスネイプ先生が現れ、左の袖を捲り上げた。
そこには闇の印があった。
「1時間ほど前には黒く焼け焦げて、もっとはっきりしていた。・・・この印が、今年になってから、ずっと鮮明になってきていた。カルカロフのもだ。」
それでもファッジは認めようとはしなかった。なおも、首を振るばかりだ。
「あなたも先生方も、一体何をふざけているのやら、ダンブルドア、私にはさっぱり。しかし、もう聞くだけ聞いた。私も、もう何も言うことはない。」
そう吐き捨てるように言うと、ファッジは部屋を出ようとした。だが一度立ち止まり、くるりと向きを変えると、ハリーの前へと詰め寄った。
「君の賞金だ。」
そう言って、重々しい袋を床に置き、踵を返してそのまま部屋を後にした。一瞬、誰もが言葉を失った。
やがてダンブルドア先生が凛とした声で言った。
「やるべきことがある。」
そして、部屋に残る者たちへ矢継ぎ早に指示を与え始めた。
シリウスは人間の姿に戻り、昔の仲間たちに警戒態勢を伝えるよう命じられた。
「え、」
「でも、」
ナツキとハリーはほぼ同時にそう言った。別れたくなかったのだ。
「またすぐ会えるよ、ナツキ、ハリー。約束する。しかし、私は自分にできることをしなければならない。わかるね?」
ナツキとハリーは静かに頷いた。
シリウスはハリの手をぎゅっと握り、ナツキの額にキスをした。そして再び黒い犬に変身して、駆け出していった。
ダンブルドア先生も、「残りの薬を飲むのじゃ」とだけ言い残して、静かにその場を去っていった。
医務室には、ハーマイオニー、ロン、ウィーズリーおばさん、フレッド、ジョージ、そしてピブルが残った。
ウィーズリーおばさんがハリーに薬を手渡した。
「ゆっくりおやすみ、しばらく何か他のことを考えるのよ。賞金で何を買うかを考えなさいな!」
「金貨なんかいらない。セドリックのものだったんだ。・・・僕と一緒に優勝杯を握ろうって、僕が言ったんだ。」
ハリーの涙声に、ウィーズリーおばさんは黙って彼を強く抱きしめた。
ナツキの胸にも、込み上げる思いが押し寄せた。
セドリックとは、最後に、喧嘩をしたままだ。そのまま、彼は死んでしまった。もっと、いい方法があったんじゃないかと思わずにはいられなかった。
ナツキのベッドに、ジョージが腰掛けた。
「ナツキ、ほら、飲んで。今は休もうぜ・・・・?」
ナツキはもうどうしたらいいかわからなかった。
「ナツキ様、ピブルはずっとここにおります。おやすみして大丈夫です。」
ピブルが珍しく密やかな声でそう告げて、ナツキはようやく安心した。
ジョージからゴブレットを受け取り、一気に飲み干すと、途端に重い眠気が襲ってきた。
ピブルの小さな手の温もりと、頭をそっと撫でてくれる大きな手に包まれながらナツキは、静かに、深い眠りに落ちていった。