炎のゴブレット
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第3の課題が行われる日の朝、グリフィンドールのテーブルは大賑わいだった。郵便配達フクロウが飛んできて、ナツキとハリーの前にカードを置いていった。
「スナッフルズからだ。」
ハリーはすぐにカードを開いて、にやりと笑った。
「『頑張れ』だってさ。足型付き。ナツキの方は?」
ナツキはカードをもらって嬉しそうなハリーに促され、父からのカードをみた。
「・・・『君も最後まで気を抜かず用心しろ』って。私のにも足型が押してある。」
ナツキが周りをうかがって、こそっとそう言った。カードをそっと閉じたナツキの指先には、わずかな緊張が宿っていた。
隣では、いつものようにハーマイオニーの元に「日刊預言者新聞」が届いていた。
彼女は無言で新聞を受け取ると、そのままパッと開き——次の瞬間、手にしていたかぼちゃジュースを思いきり新聞に吹きかけた。
「ハーマイオニー?」
ナツキ、ハリー、そしてロンが同時に顔を上げ、驚いたように彼女を見た。ハーマイオニーは慌てたように「なんでもないわ」と新聞を隠そうとした。が、ロンがそれをひったくった。
「なんてこった。よりによって今日かよ。あのババア。」
ロンが新聞を広げながら顔をしかめた。
「僕のことなんだね。」
ハリーが呆れたようにため息をつきながら言った。広間の向こうでスリザリンが嬉しそうにこちらにヤジを飛ばしているから、まあ間違いない。
ナツキとハリーが新聞を覗き込むと、案の定、見出しには大きくこう書かれていた。
「ハリー・ポッターの危険な奇行」
そこには、占い学の授業中に「額の傷が痛む」と言って突然教室から飛び出したことや、蛇語を操れることについて、歪んだ筆致で書き連ねられていた。
「僕にちょっと愛想が尽きたみたいだね。」
ハリーが全く気にした素振りもなくそう言ったので、ナツキは安心した。
「見る目がないよね。」
にやりと笑いながらそう返すと、ハリーも笑った。
しかし、やはりどうもスキーターがこれらの情報をどこから仕入れたのかに疑問が残る。「占い学」でハリーが窓を開けたとはいっても、教室はずっと高いところにあるのだ。
「魔法で盗聴する方法は君が見つけるはずだったよ!」
ハリーが言った。
「ずっと調べてるわ。でも私、でもね・・・・もしかしたら・・・」
ハーマイオニーは突然真剣な顔になり、宙をじっと見つめ始めた
「多分そうだわ・・それだったら誰にも見えないし・・・ムーディだって見えない・・・それに、窓のサンにだって乗れる・・・でもあの女は許されてない。絶対に許可されてない!間違いない!あの女を追い詰めたわよ!」
そして、ほとんど叫ぶように言った。
「ちょっと図書室に行かせて!調べたいことがあるの!」
そのまま、ハーマイオニーは大広間をばたばたと音を立てて駆け出していった。
「ハーマイオニー!?」
「あと10分で『魔法史』の試験だぞ!おったまげ!」
ナツキとロンはハーマイオニーの突然の行動にあっけに取られた。
ちょうどその時、マクゴナガル先生がハリーに近づいてきた。
「ポッター、代表選手は朝食後に大広間の脇の小部屋に集合です。」
「でも、競技は今夜です!」
ハリーが驚いて言うと、マクゴナガル先生はぴしりと頷いた。
「わかっています。いいですか、代表選手の家族が招待されて、最終課題の観戦に来ています。」
ハリーはナツキとロンをみて不思議そうに言った。
「まさか、マクゴナガル先生、ダーズリー達が来ると思ってるんじゃないだろうな?」
「「さあ・・・」」
ナツキとロンはそう返すしかなかった。
「あ、ロン!もう試験、始まっちゃう!行かないと!」
ナツキが慌てて立ち上がった。
「ほんとだ!僕ら、急がなきゃ!あとでな!」
パンのかけらをほおばりながら、ロンは荷物をかかえてバタバタと走り出す。
ナツキは急いで鞄を肩にかけ、ハリーに手を振った。
「またあとで!」
陽が高く登った頃、ナツキはようやく午前中の試験をすべて終え、大広間へと足を運んだ。
ナツキがロンとテーブルに座ってハリーを待っていると、ハリーだけではなく意外なお客さまが登場した。
「ママ!ビル!こんなところでどうしたの?」
「ハリーの最後の競技を見にきたのよ。」
驚くロンにウィーズリーおばさんは楽しそうにそう言った。少しすると、フレッド、ジョージ、ジニーもやってきた。
「ハリーの最高の家族だね。」
ナツキはハリーにこそっとそう告げた。ハリーは静かに微笑んだ。
「まるで『隠れ穴』だ。僕、ウィーズリーおばさん達が保護者としてきてくれるなんて、思っても見なかった。最高さ。」
そこへハーマイオニーが遅れてやってきた。
「こんにちは、ハーマイオニー。」
ウィーズリーおばさんが声をかけたが、その言い方はどこかよそよそしく、いつもの朗らかさがなかった。その一言に、ハーマイオニーの笑顔が一瞬でこわばった。
ナツキとハリーは顔を見合わせ、小さくうなずき合うと、すぐに声を重ねた。
「ウィーズリーおばさん、リータ・スキーターが『週刊魔女』に書いたあの馬鹿な記事を本気にしたりしてませんよね?」
ハリーが苦笑まじりに言うと、ナツキもすかさず続けた。
「ハーマイオニーはハリーのガールフレンドじゃないし、記事に書かれてるような性悪じゃないです。」
ハリーとナツキが口々にそういうとウィーズリーおばさんは慌てたように「もちろん、本気にしてませんよ」と言った。しかしその後は、おばさんのハーマイオニーに対する態度が温かくなり、すっかりいつもの優しいウィーズリー家のお母さんの顔に戻っていた。
あっという間に午後が過ぎ、晩餐も終わり、いよいよ最後の課題の時間になった。
「代表選手はバグマン氏に従って、今すぐ競技場に行くのじゃ。」
ダンブルドア先生のその言葉で、ハリーは立ち上がった。
ナツキはハリーと目を合わせた。ハリーは小さく笑い、わずかにうなずいた。ハリーはまっすぐにバグマン氏のもとへと歩いていった。
ナツキはその背中を、ずっと見送っていた。
それから数分して、選手以外も競技場へ向かった。ウィーズリーおばさん、ジニー、ビル、ロンとハーマイオニーの後に続いてスタンドの前列に座る。
そのとき、横からバタバタと軽い足音が近づいてきた。
「よっ、いい席だな。」
ひょいっと隣に飛び込んできたのは、ジョージとフレッドだった。双子はおそろいのにやり顔で、遠慮もなくナツキたちの列に割り込むように座った。
ナツキは、右側にふわりと感じたジョージの存在に、思わず肩の力が抜けた。すぐ隣にジョージがいる、それだけで、不思議と心が落ち着いた。
さっきまで胸の奥に残っていた緊張やざわめきが、少しずつ遠のいていく。
そう思った自分に気づいて、ナツキはそっと視線を前に戻した。
バグマンが杖を喉元に当てて「ソノーラス」と唱えた。
「紳士、淑女の皆さん。第3の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題が間も無く始まります!」
観客席に拍手と歓声が沸き起こった。
煌々と照らされた競技場の入り口の前には、すでに選手たちの姿が整列していた。そしてハリーが、スタンドに目を向けていた。
ナツキは彼の視線に気づき、目を細める。ハリーは、にこっと笑ってから、まっすぐこちらに手を振った。
ナツキもハーマイオニーもウィーズリー一家も迷わず手を振り返した。
「では、ホイッスルがなったら、ハリーとセドリック!」
バグマンが言った。ナツキはハリーを応援したい気持ちと、セドリックへの複雑な気持ちを同時に抱いた。
「いち、に、さん・・・」
バグマンがピッと笛を鳴らして、ハリーとセドリックは迷路の中に消えていった。
競技場を取り囲む巨大な生け垣は、外から中の様子がほとんど見えないようになっていた。
ナツキは前のめりになるようにして座っていた。両手をぎゅっと膝の上で組み、目を離すまいと生け垣の入口をじっと見つめている。
バグマンの声がふたたび響いた。
「続いて、ビクトール!」
拍手とともに、クラムが無言のまま現れ、そのまま迷路へと入っていった。すぐにまたバグマンの声が重なる。
「そして、フラー!」
フラーは迷いなくクラムの後を追って、迷路へと姿を消した。これで四人の代表選手すべてが迷路に入った。
ナツキは、ずっと生け垣の入り口を見つめていた。そこから誰かが戻ってくる気配は、当然ながらまだない。
何が起きているのか、誰が先行しているのか、ハリーが無事なのか、・・・何もわからない。
「大丈夫さ、ハリーだぜ。」
低く、落ち着いた声がすぐ隣から届いた。ナツキが横を向くと、ジョージがまっすぐ迷路を見つめたまま、少しだけ口元を緩めていた。
「優勝杯を持って一目散に帰ってくるさ。」
「ふふ、そうだね。」
ナツキは前を向き直し、もう一度迷路の入口を見つめた。さっきよりも少し、肩の力が抜けていた。
迷路の高い生垣の隙間から、盛んに呪文の光が漏れ出し始めた。紫や赤、緑に光る閃光が、一瞬だけ空を照らし、それがすぐに闇に溶けていった。
「・・・何が起きてるんだろう・・・」
ナツキは思わず小さな声でつぶやいた。
視線は迷路に釘付けのまま、不安が胸を締めつける。
そのとき、隣にいたジョージがそっとナツキの手に触れた。
温かく、優しいその手が、不安をやわらげようとするように、静かに握り返してくる。
ナツキは一瞬驚きながらも、黙ってその手を受け入れた。
鼓動が少しだけ落ち着きを取り戻す。
スタンドに、重たい緊張がじわじわと満ちていく。その時だった。
「・・・フラーだ・・・・!」
フラーのものと思われる甲高い悲鳴が、迷路の中から響いた。
生け垣が音を吸っているはずなのに、その叫びはスタンドの誰もが聞こえるほどはっきりとしていた。
ナツキは息をのんだ。隣で、ジョージもわずかに眉をひそめ、生垣を鋭く見つめた。
しばらくして、迷路の一部が開かれ、数人の教授に囲まれて、フラー・デラクールが姿を現した。
肩を支えられ、片足を引きずりながらよろよろと歩いている。その美しい顔は青ざめ、髪は乱れ、いつもの気品ある様子とはまるで別人のようだった。
生垣からは絶え間なく呪文の光が漏れ出ている。どの呪文が誰のものなのか、想像することしかできない。不安がじわじわと胸を締めつける。
そして空高く赤い花火が打ち上がった。
「救出の合図だ!」
誰かがそうつぶやいた次の瞬間、迷路の側面がざざざっと開かれ、その隙間から一人の選手が姿を現した。
「クラム!」
ナツキは思わず声を上げた。
担架に乗せられたクラムは意識があるのかないのか、ぐったりと横たわっている。二人目のリタイアに観客席がざわめき始める。
「・・・残ったのはハリーと、セドリックだ・・・・」
ナツキの声は、驚きとも、不安ともつかない重たい響きで、唇からこぼれ落ちた。手に汗がにじむのを感じながら、無意識にジョージの方を見やる。
すると、握っていた右手にぐっと力がこもった。隣のジョージも、じっと生垣の向こうを見つめたまま、小さく息をついた。
気づけば、先ほどまで断続的に走っていた呪文の閃光が、ぴたりと止んでいた。
ナツキは無意識に息を飲んだ。その静寂は、叫び声よりもずっと恐ろしいものに思えた。
それからどれだけ経っただろうか。
観客席全体が息をひそめ、誰もが迷路の向こうを見つめていたその時、青白い閃光が、競技場の中心に走った。
その閃光と共に優勝杯が地面に転がり現れた。
同時に、ハリーがその場に崩れるように現れた。
その腕には、ぐったりとしたセドリック・ディゴリーが抱えられていた。
「・・・・ハリーと・・・セドリック・・・・?」
ナツキの口から、かすれるような声が漏れた。セドリックの身体はあまりにも力なく、ぴくりとも動かない。
「セドリックは、大丈夫なの?」
ダンブルドア先生達がハリーのそばに駆け寄っていった。明らかに、只事ではない様子が、スタンドまで伝わった。そして最悪の声がナツキの耳に入った。
「ダンブルドア、死んでるぞ!」
大臣の声が聞こえた。空気が、凍りついた。
「セドリック・ディゴリーが死んでいる」と誰かがつぶやき、それは風に乗り、まるで呪文のように、スタンドを伝っていった。一人が言い、一人がまた繰り返し、それはやがて、観客全体を包むひとつの悲鳴となった。
「うそ・・・・」
ナツキは震える唇を押さえた。
「スナッフルズからだ。」
ハリーはすぐにカードを開いて、にやりと笑った。
「『頑張れ』だってさ。足型付き。ナツキの方は?」
ナツキはカードをもらって嬉しそうなハリーに促され、父からのカードをみた。
「・・・『君も最後まで気を抜かず用心しろ』って。私のにも足型が押してある。」
ナツキが周りをうかがって、こそっとそう言った。カードをそっと閉じたナツキの指先には、わずかな緊張が宿っていた。
隣では、いつものようにハーマイオニーの元に「日刊預言者新聞」が届いていた。
彼女は無言で新聞を受け取ると、そのままパッと開き——次の瞬間、手にしていたかぼちゃジュースを思いきり新聞に吹きかけた。
「ハーマイオニー?」
ナツキ、ハリー、そしてロンが同時に顔を上げ、驚いたように彼女を見た。ハーマイオニーは慌てたように「なんでもないわ」と新聞を隠そうとした。が、ロンがそれをひったくった。
「なんてこった。よりによって今日かよ。あのババア。」
ロンが新聞を広げながら顔をしかめた。
「僕のことなんだね。」
ハリーが呆れたようにため息をつきながら言った。広間の向こうでスリザリンが嬉しそうにこちらにヤジを飛ばしているから、まあ間違いない。
ナツキとハリーが新聞を覗き込むと、案の定、見出しには大きくこう書かれていた。
「ハリー・ポッターの危険な奇行」
そこには、占い学の授業中に「額の傷が痛む」と言って突然教室から飛び出したことや、蛇語を操れることについて、歪んだ筆致で書き連ねられていた。
「僕にちょっと愛想が尽きたみたいだね。」
ハリーが全く気にした素振りもなくそう言ったので、ナツキは安心した。
「見る目がないよね。」
にやりと笑いながらそう返すと、ハリーも笑った。
しかし、やはりどうもスキーターがこれらの情報をどこから仕入れたのかに疑問が残る。「占い学」でハリーが窓を開けたとはいっても、教室はずっと高いところにあるのだ。
「魔法で盗聴する方法は君が見つけるはずだったよ!」
ハリーが言った。
「ずっと調べてるわ。でも私、でもね・・・・もしかしたら・・・」
ハーマイオニーは突然真剣な顔になり、宙をじっと見つめ始めた
「多分そうだわ・・それだったら誰にも見えないし・・・ムーディだって見えない・・・それに、窓のサンにだって乗れる・・・でもあの女は許されてない。絶対に許可されてない!間違いない!あの女を追い詰めたわよ!」
そして、ほとんど叫ぶように言った。
「ちょっと図書室に行かせて!調べたいことがあるの!」
そのまま、ハーマイオニーは大広間をばたばたと音を立てて駆け出していった。
「ハーマイオニー!?」
「あと10分で『魔法史』の試験だぞ!おったまげ!」
ナツキとロンはハーマイオニーの突然の行動にあっけに取られた。
ちょうどその時、マクゴナガル先生がハリーに近づいてきた。
「ポッター、代表選手は朝食後に大広間の脇の小部屋に集合です。」
「でも、競技は今夜です!」
ハリーが驚いて言うと、マクゴナガル先生はぴしりと頷いた。
「わかっています。いいですか、代表選手の家族が招待されて、最終課題の観戦に来ています。」
ハリーはナツキとロンをみて不思議そうに言った。
「まさか、マクゴナガル先生、ダーズリー達が来ると思ってるんじゃないだろうな?」
「「さあ・・・」」
ナツキとロンはそう返すしかなかった。
「あ、ロン!もう試験、始まっちゃう!行かないと!」
ナツキが慌てて立ち上がった。
「ほんとだ!僕ら、急がなきゃ!あとでな!」
パンのかけらをほおばりながら、ロンは荷物をかかえてバタバタと走り出す。
ナツキは急いで鞄を肩にかけ、ハリーに手を振った。
「またあとで!」
陽が高く登った頃、ナツキはようやく午前中の試験をすべて終え、大広間へと足を運んだ。
ナツキがロンとテーブルに座ってハリーを待っていると、ハリーだけではなく意外なお客さまが登場した。
「ママ!ビル!こんなところでどうしたの?」
「ハリーの最後の競技を見にきたのよ。」
驚くロンにウィーズリーおばさんは楽しそうにそう言った。少しすると、フレッド、ジョージ、ジニーもやってきた。
「ハリーの最高の家族だね。」
ナツキはハリーにこそっとそう告げた。ハリーは静かに微笑んだ。
「まるで『隠れ穴』だ。僕、ウィーズリーおばさん達が保護者としてきてくれるなんて、思っても見なかった。最高さ。」
そこへハーマイオニーが遅れてやってきた。
「こんにちは、ハーマイオニー。」
ウィーズリーおばさんが声をかけたが、その言い方はどこかよそよそしく、いつもの朗らかさがなかった。その一言に、ハーマイオニーの笑顔が一瞬でこわばった。
ナツキとハリーは顔を見合わせ、小さくうなずき合うと、すぐに声を重ねた。
「ウィーズリーおばさん、リータ・スキーターが『週刊魔女』に書いたあの馬鹿な記事を本気にしたりしてませんよね?」
ハリーが苦笑まじりに言うと、ナツキもすかさず続けた。
「ハーマイオニーはハリーのガールフレンドじゃないし、記事に書かれてるような性悪じゃないです。」
ハリーとナツキが口々にそういうとウィーズリーおばさんは慌てたように「もちろん、本気にしてませんよ」と言った。しかしその後は、おばさんのハーマイオニーに対する態度が温かくなり、すっかりいつもの優しいウィーズリー家のお母さんの顔に戻っていた。
あっという間に午後が過ぎ、晩餐も終わり、いよいよ最後の課題の時間になった。
「代表選手はバグマン氏に従って、今すぐ競技場に行くのじゃ。」
ダンブルドア先生のその言葉で、ハリーは立ち上がった。
ナツキはハリーと目を合わせた。ハリーは小さく笑い、わずかにうなずいた。ハリーはまっすぐにバグマン氏のもとへと歩いていった。
ナツキはその背中を、ずっと見送っていた。
それから数分して、選手以外も競技場へ向かった。ウィーズリーおばさん、ジニー、ビル、ロンとハーマイオニーの後に続いてスタンドの前列に座る。
そのとき、横からバタバタと軽い足音が近づいてきた。
「よっ、いい席だな。」
ひょいっと隣に飛び込んできたのは、ジョージとフレッドだった。双子はおそろいのにやり顔で、遠慮もなくナツキたちの列に割り込むように座った。
ナツキは、右側にふわりと感じたジョージの存在に、思わず肩の力が抜けた。すぐ隣にジョージがいる、それだけで、不思議と心が落ち着いた。
さっきまで胸の奥に残っていた緊張やざわめきが、少しずつ遠のいていく。
そう思った自分に気づいて、ナツキはそっと視線を前に戻した。
バグマンが杖を喉元に当てて「ソノーラス」と唱えた。
「紳士、淑女の皆さん。第3の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題が間も無く始まります!」
観客席に拍手と歓声が沸き起こった。
煌々と照らされた競技場の入り口の前には、すでに選手たちの姿が整列していた。そしてハリーが、スタンドに目を向けていた。
ナツキは彼の視線に気づき、目を細める。ハリーは、にこっと笑ってから、まっすぐこちらに手を振った。
ナツキもハーマイオニーもウィーズリー一家も迷わず手を振り返した。
「では、ホイッスルがなったら、ハリーとセドリック!」
バグマンが言った。ナツキはハリーを応援したい気持ちと、セドリックへの複雑な気持ちを同時に抱いた。
「いち、に、さん・・・」
バグマンがピッと笛を鳴らして、ハリーとセドリックは迷路の中に消えていった。
競技場を取り囲む巨大な生け垣は、外から中の様子がほとんど見えないようになっていた。
ナツキは前のめりになるようにして座っていた。両手をぎゅっと膝の上で組み、目を離すまいと生け垣の入口をじっと見つめている。
バグマンの声がふたたび響いた。
「続いて、ビクトール!」
拍手とともに、クラムが無言のまま現れ、そのまま迷路へと入っていった。すぐにまたバグマンの声が重なる。
「そして、フラー!」
フラーは迷いなくクラムの後を追って、迷路へと姿を消した。これで四人の代表選手すべてが迷路に入った。
ナツキは、ずっと生け垣の入り口を見つめていた。そこから誰かが戻ってくる気配は、当然ながらまだない。
何が起きているのか、誰が先行しているのか、ハリーが無事なのか、・・・何もわからない。
「大丈夫さ、ハリーだぜ。」
低く、落ち着いた声がすぐ隣から届いた。ナツキが横を向くと、ジョージがまっすぐ迷路を見つめたまま、少しだけ口元を緩めていた。
「優勝杯を持って一目散に帰ってくるさ。」
「ふふ、そうだね。」
ナツキは前を向き直し、もう一度迷路の入口を見つめた。さっきよりも少し、肩の力が抜けていた。
迷路の高い生垣の隙間から、盛んに呪文の光が漏れ出し始めた。紫や赤、緑に光る閃光が、一瞬だけ空を照らし、それがすぐに闇に溶けていった。
「・・・何が起きてるんだろう・・・」
ナツキは思わず小さな声でつぶやいた。
視線は迷路に釘付けのまま、不安が胸を締めつける。
そのとき、隣にいたジョージがそっとナツキの手に触れた。
温かく、優しいその手が、不安をやわらげようとするように、静かに握り返してくる。
ナツキは一瞬驚きながらも、黙ってその手を受け入れた。
鼓動が少しだけ落ち着きを取り戻す。
スタンドに、重たい緊張がじわじわと満ちていく。その時だった。
「・・・フラーだ・・・・!」
フラーのものと思われる甲高い悲鳴が、迷路の中から響いた。
生け垣が音を吸っているはずなのに、その叫びはスタンドの誰もが聞こえるほどはっきりとしていた。
ナツキは息をのんだ。隣で、ジョージもわずかに眉をひそめ、生垣を鋭く見つめた。
しばらくして、迷路の一部が開かれ、数人の教授に囲まれて、フラー・デラクールが姿を現した。
肩を支えられ、片足を引きずりながらよろよろと歩いている。その美しい顔は青ざめ、髪は乱れ、いつもの気品ある様子とはまるで別人のようだった。
生垣からは絶え間なく呪文の光が漏れ出ている。どの呪文が誰のものなのか、想像することしかできない。不安がじわじわと胸を締めつける。
そして空高く赤い花火が打ち上がった。
「救出の合図だ!」
誰かがそうつぶやいた次の瞬間、迷路の側面がざざざっと開かれ、その隙間から一人の選手が姿を現した。
「クラム!」
ナツキは思わず声を上げた。
担架に乗せられたクラムは意識があるのかないのか、ぐったりと横たわっている。二人目のリタイアに観客席がざわめき始める。
「・・・残ったのはハリーと、セドリックだ・・・・」
ナツキの声は、驚きとも、不安ともつかない重たい響きで、唇からこぼれ落ちた。手に汗がにじむのを感じながら、無意識にジョージの方を見やる。
すると、握っていた右手にぐっと力がこもった。隣のジョージも、じっと生垣の向こうを見つめたまま、小さく息をついた。
気づけば、先ほどまで断続的に走っていた呪文の閃光が、ぴたりと止んでいた。
ナツキは無意識に息を飲んだ。その静寂は、叫び声よりもずっと恐ろしいものに思えた。
それからどれだけ経っただろうか。
観客席全体が息をひそめ、誰もが迷路の向こうを見つめていたその時、青白い閃光が、競技場の中心に走った。
その閃光と共に優勝杯が地面に転がり現れた。
同時に、ハリーがその場に崩れるように現れた。
その腕には、ぐったりとしたセドリック・ディゴリーが抱えられていた。
「・・・・ハリーと・・・セドリック・・・・?」
ナツキの口から、かすれるような声が漏れた。セドリックの身体はあまりにも力なく、ぴくりとも動かない。
「セドリックは、大丈夫なの?」
ダンブルドア先生達がハリーのそばに駆け寄っていった。明らかに、只事ではない様子が、スタンドまで伝わった。そして最悪の声がナツキの耳に入った。
「ダンブルドア、死んでるぞ!」
大臣の声が聞こえた。空気が、凍りついた。
「セドリック・ディゴリーが死んでいる」と誰かがつぶやき、それは風に乗り、まるで呪文のように、スタンドを伝っていった。一人が言い、一人がまた繰り返し、それはやがて、観客全体を包むひとつの悲鳴となった。
「うそ・・・・」
ナツキは震える唇を押さえた。