炎のゴブレット
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ナツキはダンブルドア先生に見送られ、大広間へと夕食をとりにやって来た。晩餐はすでに終わりかけており、テーブルの上も空の皿が目立ち始めている。ハリーたちの姿は見当たらなかった。
「ナツキ、遅かったな。」
声をかけてきたのはジョージだった。彼は一人、まだ席に残って待っていてくれたようだ。
「ジョージ!ごめん、待っててくれたの?」
ナツキは恐縮しながらジョージの隣に腰を下ろし、手早く料理を皿に取り分けて口に運んだ。
「それで、ダンブルドア先生から伝言があるの。今晩、私が校長室に行ったことは、他の人には言わないでほしいんだって。」
ナツキが小声で言うと、ジョージは目を丸くした。
「私もそんなに隠すべきだとは思わないんだけど・・・」
「わかったよ。とにかく早く食っちまえ。待ってるから。」
ナツキは急いで食事を済ませ、二人で談話室に戻ろうとしたところ、ちょうどハリーが太った婦人の肖像の前に立っているのを見つけた。
「ハリー!どこに行ってたの?」
ナツキが声をかけると、ハリーはふり返り、興奮気味に答えた。
「フクロウ小屋に行ってきたんだ。スナッフルズに手紙を出してきた。」
ハリーは興奮しているようだった。ダンブルドア先生が言っていた彼の「夢」に関して話をしたいのだろう。
談話室でジョージと別れ、ナツキとハリーは、ロンとハーマイオニーと合流した。
ハリーはすぐさま話し始めた。
彼は校長室でペンシーブを覗き、クラウチ・ジュニアの裁判を見たこと、スネイプ先生が元死喰い人だったこと、そして自分が見た夢について、ひと息に語った。
「スネイプを信用してるのか?」
ロンが訝しげに尋ね、ハリーは「うん」と答えた。ハーマイオニーはしばらく黙ったあと、バグマンが死喰い人に情報を流したことについて触れた。
「ルード・バグマンが死喰い人ってことはあり得ない。」
ナツキはきっぱりといった。ハーマイオニーの目は、どうしてそう言えるのかと即座に訴えていた。
「あの人は優秀なクィディッチ選手だったかもしれないけど、あなた達が死喰い人ならあの人を仲間に引き入れたいと思う?それよりも、あの人の『うっかり』を利用した方が死喰い人にするよりもずっと有益だよ。」
「・・・それはまあ、そうかもしれないけど、」
ハーマイオニーは歯切れ悪くそう返した。そのとき、ふとハーマイオニーがナツキの方を見て尋ねた。
「ところでナツキは、今まで何をしていたの?夕食にいなかったけど・・・」
ハーマイオニーが何気なく問いかけると、ナツキは少し肩をすくめて答えた。
「さっき、終わりがけに急いで食べてきたよ。ちょっと・・・そのへんをうろうろしてたら、遅くなっちゃって。」
その言葉を聞いた瞬間、ロンが「またか」と言いたげに眉をひそめ、どこか同情するような視線を向けてきた。ハリーもハーマイオニーも、それ以上は何も言わず、まるで黙って察したかのように話題を変えた。
——ああ、間違いない。また迷子になっていたんだろう、って思ってるに違いない。
ナツキは追及されなかったことに、ほっとする気持ちと同時に、誤解された悔しさがこみ上げてきて、なんとも複雑な気分になった。
第3の課題が近づいてきた。それは同時に、ハリー以外の三人に期末試験が近づいていることを意味する。
「しばらくは一人で練習するよ。」
ハリーはそんなふうに遠慮がちに言った。
「心配しないで。少なくとも『闇の魔術に対する防衛術』では、私たち、きっと最高点をとるわよ。」
「僕たちが『闇祓い』になる時のために、いい訓練さ。」
ナツキもにっこりと笑いながら言った。
「私たち、今までも成績は何だかんだうまくやってきたから気にしないで。ハリーはハリーのやるべきことに集中!集中!」
その言葉に、ハリーは少しだけ肩の力を抜いて、小さくうなずいた。
6月に入ると、学校中の至る所で四人に出くわすのにうんざりしたマクゴナガル先生が、空いている「変身術」の教室を昼休みに使ってよろしいと、許可をくれた。
「なかなかいい線いってるわ。このうちどれかは必ず役に立つはずよ。でもそろそろ緊張感が必要ね。」
ハーマイオニーが習得呪文リストに印をつけながら言った。そして、ナツキとハリーを交互に見た。
「実践練習のためにナツキとの決闘をメニューに組み込みましょう。」
「え?私?」
ナツキは思わず声を上げた。
「そうよ。この中であなたが一番『防衛術』の呪文をうまく使えるわ。」
ロンはニヤリとしながらハリーの背中を軽くたたいた。
「手加減しろよ、ハリー。ナツキになんかあったら、ジョージに一生カナリアにされるぜ。」
ハリーは苦笑いを浮かべながら、ちらりとナツキを見た。
「でもさ、手加減したらこっちが即失神だよ。ナツキは、こういうことに関しては手厳しいんだ。」
ナツキは、わずかに頬を染めて眉をひそめた。
「ちょっと、それ褒めてるの?」
「うーんどうだろう?」
ハリーが肩をすくめると、教室に小さな笑いが広がった。
あっという間に第3の課題の前日になった。
ナツキとハーマイオニーは午後の『古代ルーン文字』の試験を終え、ハリーとの練習に向かっていた。
「ナツキ、」
名前を呼ばれ、ナツキは振り向いて、目を見開いた。
「・・・セドリック・・・?」
そこにはセドリックが立っていた。彼の表情はどこか決意に満ちていて、その目はまっすぐにナツキを見つめていた。
彼と話をするのはとても久しぶりだった。大広間で見かけたり、廊下で彼女らしき可愛い子と歩くのを見かけたりはしたが、こうして向き合うのは、数ヶ月ぶりで、なんだか緊張した。
そんな二人の様子を見て、ハーマイオニーがそっと口を開いた。
「じゃあ、私は先に行ってるわね。」
「え、ちょ、」
ナツキの返事を待たず、ハーマイオニーはその場を離れてしまった。
残されたのは、ナツキとセドリックのふたりだけ。
「少しだけ、時間もらえるかな?」
セドリックが静かにそう尋ねると、ナツキは戸惑いながらも小さくうなずいた。
彼に案内されて歩いていくと、人気のない廊下の一角にある使われていない教室の扉が開かれた。
二人きりになると、セドリックはナツキに向き直り、真剣な眼差しで口を開いた。
「こんな形でまた君を引き止めるなんて、自分でもどうかしてるって思ってる。でも・・・」
彼はひと呼吸おいてから、まっすぐに言った。
「それでも、君のことがどうしても忘れられない。」
ナツキは信じられない気持ちだった。
「・・・でも、もう、恋人ができたんじゃないの?だから、友達でいようって・・・」
ナツキは戸惑いながらも、静かに問い返した。
セドリックは、苦笑に近い表情を浮かべた。
「そうだね。チョウは素敵な子だし、今でも一緒にいる。でも、君を前にすると、全部が揺らぐんだ。」
彼の言葉は、まるで告白というより懺悔のようだった。ナツキは、それを聞いた瞬間、胸の奥にずしんと重たいものが沈んでいくのを感じた。
「どういうこと?あなたは今、恋人がいるのに、私に好きって言ってるの?」
セドリックははっとしたように表情を曇らせ、慌てて言葉を継いだ。
「わ、別れようと思ってる。でも、彼女、それを察して言わせてくれなくて・・・」
ナツキは何だか哀しくなってきた。セドリックは何かを続けようとしたが、その前にナツキは口を開いた。
「もし、私が今ここで『私も好き』って言ったらどうするの?恋人を裏切って、私と付き合う?もしそうなったら、私が、周りにどう言われるかとか考えた?」
その問いに、セドリックは固まった。
「人の恋人を奪っただのって聞こえるように陰口を叩かれるの。あなたにはそんな経験ないでしょうね。」
「それは、えっと、ごめん。君を怒らせるつもりは・・・・」
セドリックが戸惑いながら言いかけたその瞬間、ナツキは感情を抑えきれなくなった。
「私だって怒りたくない!!!」
その声が、がらんとした教室に鋭く響き渡った。
セドリックはその言葉に顔をゆがめ、必死に言葉を吐き出した。
「ごめんよ、ナツキ。違うんだ。我慢できなかった。ウィーズリーと、一緒に笑ってるのを見るのが、苦しくてたまらないんだ。
胸が張り裂けそうなんだ・・・・!どうしても、君ばかり目で追ってしまうんだよ・・・・。僕も、どうしたらいいか、わからないんだ・・・。」
あまりにも切ない彼の声に、ナツキは息をのんだ。
ナツキは一度だけ、ゆっくりと目を閉じた。そして、確かに言った。
「ジョージは、私のことを無視して、自分の都合を押し付けてきたりしない。」
その言葉は、静かでありながら、重く、鋭くセドリックの胸を貫いた。
「セドリックは本気だと思ってるかもしれないけど、私はそれを愛だとは思わない。」
その瞬間、教室の空気がぴたりと止まった。セドリックは何も言い返さなかった。できなかった。ただ、うつむいたまま、唇を噛みしめていた。
ナツキは、くるりと背を向け、まっすぐに扉へ向かって歩き出した。
静まり返った空き教室の扉が、やがて音もなく閉じられた。
ナツキは扉を出て、廊下をひとり歩く。やがて練習のために使っている空き教室にたどり着いた。
扉を開けると、ハリーが真剣な顔で呪文の確認をしており、その隣でロンが気だるげに床に座り込んでいる。ハーマイオニーは机の上に広げたチェックリストに目を通していたが、ナツキの姿を見つけるとすぐに顔を上げた。
「ナツキ、大丈夫?」
その声は、どこまでも優しく、静かだった。すべてを察しているような目だった。
ナツキは一瞬だけ戸惑ったが、すぐに微笑みを浮かべてうなずいた。
「うん。ちょっと考え事してただけ。」
ハーマイオニーは、言葉にしないまま、ほんの少しだけナツキの手を取って、軽く握った。その温もりに、ナツキは胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
「ありがとう。」
そう呟いてから、ナツキは教室の中央に歩み出る。
「さあ、ハリー。次は私が相手になる番でしょ?」
笑顔を作ったその声には、まだかすかに哀しみがにじんでいたが、瞳はもう前を見据えていた。
そしてその背を、ハーマイオニーはそっと見守っていた。
夕方、練習が終わった頃には、四人の体はすっかり疲れ切っていた。みんな今日の成果に満足げだった。
その後、大広間で簡単な夕食をとった。話題は翌日の第三の課題へと移り、空気は自然と引き締まっていった。
食事を終えた後、四人はグリフィンドール塔へと戻った。談話室で明日に向けてはないあい、さらに夜が更けナツキとハーマイオニーは女子寮へ向かった。
カーテンの閉まったベッドの中、誰もが試験や課題のことで頭がいっぱいのはずなのに、ナツキとハーマイオニー以外はもう寝息を立てていた。
ナツキはしばらくベッドの中で天井を見上げていたが、ずっと胸の奥に引っかかっていた感情が、静けさと共にじわじわと浮かび上がってきた。
「・・・ハーマイオニー、まだ起きてたら、聞いてほしいんだけど・・・・」
遠慮がちな声でそう呼びかけると、すぐに柔らかな声が返ってきた。
「ええ。もちろんよ。」
カーテンがそっとめくられ、ハーマイオニーがナツキの顔を覗き込んだ。その瞳は、何もかもわかっているように、優しく揺れていた。
ナツキは、毛布をかけたまま身を起こし、小さな声で話し始めた。
「・・・私、クリスマスに、ダンスパーティでセドリックに好きだって言われて、断ったの。それで・・・」
ナツキは、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
告白を断った日のこと。ジョージと付き合った日のこと。セドリックに恋人ができたと言われたこと。
そして、恋人がいながら、今日再び自分に想いを告げてきたこと。
その時、どんな言葉を返したのか。どんなふうに、背を向けたのか。
「私、間違ってたのかな・・・当てつけみたいに、ジョージのことを持ち出しちゃった・・・・」
ナツキは自分の言葉に、どこか情けなさを覚えて目を伏せた。
「ナツキは間違ってなんかいないわ。あなたがしたことは、正しいことよ。セドリックやチョウに対しても、もちろんジョージにも一番誠実な対応だったはずよ。あなたのそういうところを、私は誇りに思うわ。」
ナツキはその言葉に、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。
「ありがとう、ハーマイオニー。」
「ううん。こっちこそ、話してくれてありがとう。」
静まり返った女子寮のなかで、時間がゆっくりと流れていた。
やがてナツキはカーテンを閉め、目を閉じた。
明日には、ついに第三の課題が待っている。
「ナツキ、遅かったな。」
声をかけてきたのはジョージだった。彼は一人、まだ席に残って待っていてくれたようだ。
「ジョージ!ごめん、待っててくれたの?」
ナツキは恐縮しながらジョージの隣に腰を下ろし、手早く料理を皿に取り分けて口に運んだ。
「それで、ダンブルドア先生から伝言があるの。今晩、私が校長室に行ったことは、他の人には言わないでほしいんだって。」
ナツキが小声で言うと、ジョージは目を丸くした。
「私もそんなに隠すべきだとは思わないんだけど・・・」
「わかったよ。とにかく早く食っちまえ。待ってるから。」
ナツキは急いで食事を済ませ、二人で談話室に戻ろうとしたところ、ちょうどハリーが太った婦人の肖像の前に立っているのを見つけた。
「ハリー!どこに行ってたの?」
ナツキが声をかけると、ハリーはふり返り、興奮気味に答えた。
「フクロウ小屋に行ってきたんだ。スナッフルズに手紙を出してきた。」
ハリーは興奮しているようだった。ダンブルドア先生が言っていた彼の「夢」に関して話をしたいのだろう。
談話室でジョージと別れ、ナツキとハリーは、ロンとハーマイオニーと合流した。
ハリーはすぐさま話し始めた。
彼は校長室でペンシーブを覗き、クラウチ・ジュニアの裁判を見たこと、スネイプ先生が元死喰い人だったこと、そして自分が見た夢について、ひと息に語った。
「スネイプを信用してるのか?」
ロンが訝しげに尋ね、ハリーは「うん」と答えた。ハーマイオニーはしばらく黙ったあと、バグマンが死喰い人に情報を流したことについて触れた。
「ルード・バグマンが死喰い人ってことはあり得ない。」
ナツキはきっぱりといった。ハーマイオニーの目は、どうしてそう言えるのかと即座に訴えていた。
「あの人は優秀なクィディッチ選手だったかもしれないけど、あなた達が死喰い人ならあの人を仲間に引き入れたいと思う?それよりも、あの人の『うっかり』を利用した方が死喰い人にするよりもずっと有益だよ。」
「・・・それはまあ、そうかもしれないけど、」
ハーマイオニーは歯切れ悪くそう返した。そのとき、ふとハーマイオニーがナツキの方を見て尋ねた。
「ところでナツキは、今まで何をしていたの?夕食にいなかったけど・・・」
ハーマイオニーが何気なく問いかけると、ナツキは少し肩をすくめて答えた。
「さっき、終わりがけに急いで食べてきたよ。ちょっと・・・そのへんをうろうろしてたら、遅くなっちゃって。」
その言葉を聞いた瞬間、ロンが「またか」と言いたげに眉をひそめ、どこか同情するような視線を向けてきた。ハリーもハーマイオニーも、それ以上は何も言わず、まるで黙って察したかのように話題を変えた。
——ああ、間違いない。また迷子になっていたんだろう、って思ってるに違いない。
ナツキは追及されなかったことに、ほっとする気持ちと同時に、誤解された悔しさがこみ上げてきて、なんとも複雑な気分になった。
第3の課題が近づいてきた。それは同時に、ハリー以外の三人に期末試験が近づいていることを意味する。
「しばらくは一人で練習するよ。」
ハリーはそんなふうに遠慮がちに言った。
「心配しないで。少なくとも『闇の魔術に対する防衛術』では、私たち、きっと最高点をとるわよ。」
「僕たちが『闇祓い』になる時のために、いい訓練さ。」
ナツキもにっこりと笑いながら言った。
「私たち、今までも成績は何だかんだうまくやってきたから気にしないで。ハリーはハリーのやるべきことに集中!集中!」
その言葉に、ハリーは少しだけ肩の力を抜いて、小さくうなずいた。
6月に入ると、学校中の至る所で四人に出くわすのにうんざりしたマクゴナガル先生が、空いている「変身術」の教室を昼休みに使ってよろしいと、許可をくれた。
「なかなかいい線いってるわ。このうちどれかは必ず役に立つはずよ。でもそろそろ緊張感が必要ね。」
ハーマイオニーが習得呪文リストに印をつけながら言った。そして、ナツキとハリーを交互に見た。
「実践練習のためにナツキとの決闘をメニューに組み込みましょう。」
「え?私?」
ナツキは思わず声を上げた。
「そうよ。この中であなたが一番『防衛術』の呪文をうまく使えるわ。」
ロンはニヤリとしながらハリーの背中を軽くたたいた。
「手加減しろよ、ハリー。ナツキになんかあったら、ジョージに一生カナリアにされるぜ。」
ハリーは苦笑いを浮かべながら、ちらりとナツキを見た。
「でもさ、手加減したらこっちが即失神だよ。ナツキは、こういうことに関しては手厳しいんだ。」
ナツキは、わずかに頬を染めて眉をひそめた。
「ちょっと、それ褒めてるの?」
「うーんどうだろう?」
ハリーが肩をすくめると、教室に小さな笑いが広がった。
あっという間に第3の課題の前日になった。
ナツキとハーマイオニーは午後の『古代ルーン文字』の試験を終え、ハリーとの練習に向かっていた。
「ナツキ、」
名前を呼ばれ、ナツキは振り向いて、目を見開いた。
「・・・セドリック・・・?」
そこにはセドリックが立っていた。彼の表情はどこか決意に満ちていて、その目はまっすぐにナツキを見つめていた。
彼と話をするのはとても久しぶりだった。大広間で見かけたり、廊下で彼女らしき可愛い子と歩くのを見かけたりはしたが、こうして向き合うのは、数ヶ月ぶりで、なんだか緊張した。
そんな二人の様子を見て、ハーマイオニーがそっと口を開いた。
「じゃあ、私は先に行ってるわね。」
「え、ちょ、」
ナツキの返事を待たず、ハーマイオニーはその場を離れてしまった。
残されたのは、ナツキとセドリックのふたりだけ。
「少しだけ、時間もらえるかな?」
セドリックが静かにそう尋ねると、ナツキは戸惑いながらも小さくうなずいた。
彼に案内されて歩いていくと、人気のない廊下の一角にある使われていない教室の扉が開かれた。
二人きりになると、セドリックはナツキに向き直り、真剣な眼差しで口を開いた。
「こんな形でまた君を引き止めるなんて、自分でもどうかしてるって思ってる。でも・・・」
彼はひと呼吸おいてから、まっすぐに言った。
「それでも、君のことがどうしても忘れられない。」
ナツキは信じられない気持ちだった。
「・・・でも、もう、恋人ができたんじゃないの?だから、友達でいようって・・・」
ナツキは戸惑いながらも、静かに問い返した。
セドリックは、苦笑に近い表情を浮かべた。
「そうだね。チョウは素敵な子だし、今でも一緒にいる。でも、君を前にすると、全部が揺らぐんだ。」
彼の言葉は、まるで告白というより懺悔のようだった。ナツキは、それを聞いた瞬間、胸の奥にずしんと重たいものが沈んでいくのを感じた。
「どういうこと?あなたは今、恋人がいるのに、私に好きって言ってるの?」
セドリックははっとしたように表情を曇らせ、慌てて言葉を継いだ。
「わ、別れようと思ってる。でも、彼女、それを察して言わせてくれなくて・・・」
ナツキは何だか哀しくなってきた。セドリックは何かを続けようとしたが、その前にナツキは口を開いた。
「もし、私が今ここで『私も好き』って言ったらどうするの?恋人を裏切って、私と付き合う?もしそうなったら、私が、周りにどう言われるかとか考えた?」
その問いに、セドリックは固まった。
「人の恋人を奪っただのって聞こえるように陰口を叩かれるの。あなたにはそんな経験ないでしょうね。」
「それは、えっと、ごめん。君を怒らせるつもりは・・・・」
セドリックが戸惑いながら言いかけたその瞬間、ナツキは感情を抑えきれなくなった。
「私だって怒りたくない!!!」
その声が、がらんとした教室に鋭く響き渡った。
セドリックはその言葉に顔をゆがめ、必死に言葉を吐き出した。
「ごめんよ、ナツキ。違うんだ。我慢できなかった。ウィーズリーと、一緒に笑ってるのを見るのが、苦しくてたまらないんだ。
胸が張り裂けそうなんだ・・・・!どうしても、君ばかり目で追ってしまうんだよ・・・・。僕も、どうしたらいいか、わからないんだ・・・。」
あまりにも切ない彼の声に、ナツキは息をのんだ。
ナツキは一度だけ、ゆっくりと目を閉じた。そして、確かに言った。
「ジョージは、私のことを無視して、自分の都合を押し付けてきたりしない。」
その言葉は、静かでありながら、重く、鋭くセドリックの胸を貫いた。
「セドリックは本気だと思ってるかもしれないけど、私はそれを愛だとは思わない。」
その瞬間、教室の空気がぴたりと止まった。セドリックは何も言い返さなかった。できなかった。ただ、うつむいたまま、唇を噛みしめていた。
ナツキは、くるりと背を向け、まっすぐに扉へ向かって歩き出した。
静まり返った空き教室の扉が、やがて音もなく閉じられた。
ナツキは扉を出て、廊下をひとり歩く。やがて練習のために使っている空き教室にたどり着いた。
扉を開けると、ハリーが真剣な顔で呪文の確認をしており、その隣でロンが気だるげに床に座り込んでいる。ハーマイオニーは机の上に広げたチェックリストに目を通していたが、ナツキの姿を見つけるとすぐに顔を上げた。
「ナツキ、大丈夫?」
その声は、どこまでも優しく、静かだった。すべてを察しているような目だった。
ナツキは一瞬だけ戸惑ったが、すぐに微笑みを浮かべてうなずいた。
「うん。ちょっと考え事してただけ。」
ハーマイオニーは、言葉にしないまま、ほんの少しだけナツキの手を取って、軽く握った。その温もりに、ナツキは胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
「ありがとう。」
そう呟いてから、ナツキは教室の中央に歩み出る。
「さあ、ハリー。次は私が相手になる番でしょ?」
笑顔を作ったその声には、まだかすかに哀しみがにじんでいたが、瞳はもう前を見据えていた。
そしてその背を、ハーマイオニーはそっと見守っていた。
夕方、練習が終わった頃には、四人の体はすっかり疲れ切っていた。みんな今日の成果に満足げだった。
その後、大広間で簡単な夕食をとった。話題は翌日の第三の課題へと移り、空気は自然と引き締まっていった。
食事を終えた後、四人はグリフィンドール塔へと戻った。談話室で明日に向けてはないあい、さらに夜が更けナツキとハーマイオニーは女子寮へ向かった。
カーテンの閉まったベッドの中、誰もが試験や課題のことで頭がいっぱいのはずなのに、ナツキとハーマイオニー以外はもう寝息を立てていた。
ナツキはしばらくベッドの中で天井を見上げていたが、ずっと胸の奥に引っかかっていた感情が、静けさと共にじわじわと浮かび上がってきた。
「・・・ハーマイオニー、まだ起きてたら、聞いてほしいんだけど・・・・」
遠慮がちな声でそう呼びかけると、すぐに柔らかな声が返ってきた。
「ええ。もちろんよ。」
カーテンがそっとめくられ、ハーマイオニーがナツキの顔を覗き込んだ。その瞳は、何もかもわかっているように、優しく揺れていた。
ナツキは、毛布をかけたまま身を起こし、小さな声で話し始めた。
「・・・私、クリスマスに、ダンスパーティでセドリックに好きだって言われて、断ったの。それで・・・」
ナツキは、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
告白を断った日のこと。ジョージと付き合った日のこと。セドリックに恋人ができたと言われたこと。
そして、恋人がいながら、今日再び自分に想いを告げてきたこと。
その時、どんな言葉を返したのか。どんなふうに、背を向けたのか。
「私、間違ってたのかな・・・当てつけみたいに、ジョージのことを持ち出しちゃった・・・・」
ナツキは自分の言葉に、どこか情けなさを覚えて目を伏せた。
「ナツキは間違ってなんかいないわ。あなたがしたことは、正しいことよ。セドリックやチョウに対しても、もちろんジョージにも一番誠実な対応だったはずよ。あなたのそういうところを、私は誇りに思うわ。」
ナツキはその言葉に、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。
「ありがとう、ハーマイオニー。」
「ううん。こっちこそ、話してくれてありがとう。」
静まり返った女子寮のなかで、時間がゆっくりと流れていた。
やがてナツキはカーテンを閉め、目を閉じた。
明日には、ついに第三の課題が待っている。