炎のゴブレット
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ナツキは考えを巡らせ、ハーマイオニーに向かって尋ねた。
「森って姿くらまし時はできるの?」
「いいえ。森も敷地内よ。」
ハーマイオニーの答えに、ハリーはクラウチ氏がそれもできないほど弱っていたと付け加えた。
「・・・いずれにせよ、ここで話していても答えは見つからないね。朝になったらすぐ、お父さんにすぐに手紙を送ろう。」
夜明けになると、四人はこっそり寮を抜け出して、フクロウ小屋へ向かう。
「ハリーもう一回話してちょうだい。クラウチさんは、何を喋ったの?」
眠そうな目をこすりながら、ハーマイオニーが問いかける。
「もう話しただろ。訳のわからないことだったって。ダンブルドアに何かを警告したいって。バーサ・ジョーキンズの名前ははっきり言った。もう死んでると思ってるらしいよ。何かが自分のせいだって、何度も繰り返してた。・・・自分の息子のことを言った。」
「アズカバン送りにしたこと後悔してたのかな。・・・どんなに闇の魔法使いに対して潔癖でも血の通った人間ってことか・・・」
ナツキはこの晩考えられるいろんなことを考えた。そして、ふと目を伏せて口を開く。
「ヴォルデモートが、より強くなっているって言ってたのが、私は一番気になる。その時は、意識がはっきりしていたんだよね?」
ナツキの問いに、ハリーは静かに頷いた。その名前が出た瞬間、ロンがビクリと身を震わせたが、ナツキは気にも留めず話を続けた。
「私の考えでは、クラウチさんはどこかでヴォルデモートのことを知った。それで、口封じでおかしくされた。ヴォルデモートがまだ復活していなくて、彼のもとにはピーター・ペティグリューとおそらくもう一人の部下がいると仮定して、もう一人の部下が活発に動いていると思う。」
「どうしてだい?」
ロンが恐々きいた。
「お父さんはクラウチさんを素晴らしい魔法使いだって言ってたでしょ?ペティグリューがあまり優秀じゃなかったって話を聞く限り、クラウチさんがやられたとは考えられない。」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは静かにナツキの話を聞いた。
「一番の問題は、クラウチさんがいつ、あいつに会ったかと言うこと。」
フクロウ小屋への階段を登りながらナツキは淡々と話す。
「今年度が始まる前、つまり対抗試合の前だったらと言うのが一番最悪のパターン。」
一段、また一段と足を進めながら、ナツキは口調を静かに落とした。
「ここからは完全に私の想像だけど・・・。対抗試合前にクラウチさんが、ヴォルデモートかその配下に会って『服従の呪文』をかけられた。クラウチさんは魔法省の役人だから、きっといろんな情報が聞ける。そしてヴォルデモートはそこで対抗試合の開催を知り、」
ナツキは振り返って、ハリーの目をまっすぐ見た。
「ハリーを対抗試合に出場させ、殺すことを企てた。」
ハリーは思わず息を呑み、眉をひそめて言った。
「じゃあ、僕の名前をゴブレットに入れたのが、クラウチってこと?」
ナツキは肩をすくめた。
「言ったでしょ。後半は全部私の想像。でもクラウチさんの言うことが正しいなら、前半はそんなに的外れじゃないと思う。でももう一つ、大事なことがある。」
「・・・なんだい?」
ハリーは恐々尋ねた。
「また想像だけど、クラウチさんは『服従の呪い』を自力で解いた。それで、ダンブルドア先生に助けを求めたけど、それがあいつらにバレた。・・・・ペティグリューであれば、ホグワーツへの侵入は難しくない。私はあいつがクラウチさんを始末したんじゃないかと思ってる。」
しばらくの沈黙のあと、ハリーが歯を食いしばるようにして言った。
「スネイプに邪魔されなけりゃ間に合ってたかもしれないのに!」
フクロウの止まり木を見上げながらハリーは怒りを膨らませた。彼がいなければ、ダンブルドア先生がもっと早くに駆けつけられたのだ。
「しっ!」
突然ハーマイオニーが制した。
誰かがフクロウ小屋に続く階段を上がってくる。口論しているようだ。ナツキはそれがすぐに、ジョージたちの声だと気づいた。
「脅迫だよ、それは。」
「これまでは行儀よくやってきたんだ。もう汚い手に出る時だ。」
ナツキはすぐに彼らが。バグマンの話をしていると気づいた。ハリーたちに聞かれてもそこまで困ると思えなかったが、人がいることを知らせるべく、わざとらしく大きめの咳払いをした。
ナツキの咳払いで一瞬の沈黙が訪れてすぐ、フクロウ小屋の扉がバーンとあいた。
「こんなとこで何してるんだ?」
ロンとフレッドが同時に叫んだ。
「フクロウ便を出しに。」
ハリーとジョージが同時に答えた。
「え?こんな時間に?」
ハーマイオニーとフレッドが言った。微妙な沈黙が流れ、ナツキは思わず苦笑いを浮かべた。
「君たちが何も聞かなけりゃ、俺たちも君たちが何しているか聞かないことにしよう。」
フレッドがにやりと笑って言った。しかし、ロンが「誰を脅迫するんだい?」と食ってかかるように尋ねた瞬間、その笑みは消えた。
「前にも言ったけどな、ロン、鼻の形を変えたくなかったら、引っ込んでろ。もっとも鼻の形は変えたほうがいいかもしれないけどな。」
ロンは大層怒っているようだった。自分の兄弟が誰かを脅迫しようとしていると知ったら、当然の反応かもしれない。
ナツキが、間に入るべきかどうか迷っていたその時、ジョージとふと目が合った。
「冗談だって、ロン。・・・お前、少しあの懐かしの兄貴に似てきたぞ。このままいけば、お前も監督生になれる。ナツキ、レオーネ借りていいか?」
「いいよ。」
ジョージはレオーネの足に手紙をくくりつけてそう言った。
「そんなのになるもんか!」
熱くなってそういったロンを無視して、ジョージはレオーネを飛び立たせた。そしてナツキの方へ近づいた。
「さーて、ナツキ、もしバラしたら、大広間で口を塞いじまうからな。」
「へ?バラさないよ。」
ぽかんとした顔で答えるナツキに、ジョージは少し驚いたように目を丸くし、フレッドと視線を交わして苦笑した。そして二人はロンに向かって嫌味っぽく「じゃあな」と言ってフクロウ小屋を出て行った。
「ナツキ、あの二人って、クラウチのこと、何か知ってるの?」
ハーマイオニーはそう尋ねた。
「ううん。そういうんじゃないよ。」
「ナツキ、教えてくれよ。あの二人、最近金儲けに取り憑かれてるんだ。真剣に、店を始めようとしてる。」
ロンが詰め寄るように言うと、ナツキは少し困ったように笑って肩をすくめた。
「まあ、私は二人を応援してる、とだけ。」
「頼むよ、ナツキ。君が少し恥ずかしい思いをするだけだろ!それくらいの秘密なら言っても構わないじゃないか!」
ナツキは目をパチクリさせると、呆れたようにハーマイオニーが言った。
「バカね、ロン。ナツキ、さっきのジョージの言葉の意味を理解してないのよ。それに、ナツキは絶対にそれを許さないわ。だからジョージはあんなこと言ったのよ。」
ハーマイオニーが呆れて言った。
「え?何を私は許さないの?」
よくわかっていない反応を示したナツキに、ハリーがかわいそうなものを見るような目で口を開いた。
「えーとね、ナツキ、さっきジョージは、秘密をバラしたら大広間の大勢人がいる前で、キスをして口を塞いで黙らせる、ってことを言いたかったんだ。」
ナツキは一瞬きょとんとした後、顔を真っ赤にした。ハーマイオニーは「やっぱりね」とばかりにため息をつき、ロンは「あいつらほんと信じられないな」と呆れた声を漏らしていた。
早朝そんなことがあったが、ムーディ先生に昨夜どうなったのかを聞こうということになった。
いつも以上に退屈に感じる「魔法史」の後、かひつ修正して。 早朝そんなことがあったが、ムーディ先生に昨夜どうなったのかを聞こうということになった。
いつも以上に退屈に感じる「魔法史」の後、四人は防衛術の教室に急いだ。ムーディ先生はちょうど一年生の授業が終わった後のようだった。
「こっちへ来い。」
ムーディ先生はからになった教室に四人を招き入れた。
「みつけたのですか?クラウチさんを?」
ハリーは前置きなしにそう聞いたが、ムーディ先生は「いや」と言って、酒瓶を引っ張り出した。
ハリーが貸した「忍びの地図」も使ったが見つけられなかったという。
「それじゃやっぱり『姿くらまし』術?」
「ロン!学校の敷地内では『姿くらまし』はできないの!消えるには、何か他の方法があるんですね?先生?」
ロンに再三注意しながらハーマイオニーはムーディ先生を見た。
「お前もプロの『闇祓い』になることを考えても良い一人だな。グレンジャー考えることが筋道立っておる。」
ムーディ先生の言葉に、ハーマイオニーは頬を赤らめた。ハリーは間髪入れずに言った。
「でも、さっきナツキが言っていたことの方が、ずっと筋が通ってると思う。」
「ゴドリクソンの?」
ムーディ先生の魔法の目がギョロリとナツキに向いた。
「私、ハリーから聞いたクラウチさんの発言を色々常げて考えてみたんです。それで・・・・」
ナツキは先ほどフクロウ小屋に行く途中に話した推測をムーディ先生にも話した。
「・・・・ああ、まっこと、お前は敵に回したくない。今すぐ魔法省で働いてもいいくらいだ。」
ムーディ先生は傷だらけの口角を不気味に上げた。
「さーて、お前たちは探偵ごっこをしておるようだな。クラウチはお前たちの手にはおえん。魔法省が捜索に乗り出すだろう。ポッター、お前は第3の課題に集中することだ。」
「え?」
ハリーは不意を疲れ、少ししてから思い出したように「ええ」と言った。
「今度はポッターが勝って当然だ。当面は・・・ポッター、警戒を怠るな。油断大敵だ。」
そう言ってムーディ先生は酒瓶をグーっと一飲みした。
その翌朝、シリウスからの返事が、フクロウ便で届いた。
その手紙には、厳しい口調で、一人で夜に出歩くな、第3の課題の準備をしろと書かれていた。そして、もう変なところへ出ていかないと、約束の手紙を送れ、とも書かれていた。
ハリーはシリウスが学校時代に自分のしたことを棚に上げてそんな注意をするものだから少し腹を立てていた。
「ハリーを心配してるんだよ。」
「でもナツキ、考えてみてよ。君の話は筋が通ってる。それは認める。でも、僕は狙われていないんだ。だってそうだろ?クラウチが殺されたとして、僕は何もされていないんだ。」
ナツキは口をつぐんだ。しかしそれは答えがないからではない。でも、言うべきだと思い口を開いた。
「・・・・私が、そのことを考えなかったと思う?」
「え?」
ハリーが面食らったような顔をした。
「ヴォルデモートは、あなたのことを自分で殺したがってるんじゃないかって思う。それか、簡単には殺さないと思う。自分を破滅まで追い込んだんだから。」
その言葉に、ハリーは息を呑み、しばらく黙り込んだ。空気がぴんと張りつめた。空気を変えようとしたのか、ハーマイオニーがそっと口を開いた。
「ハリー、誰にもわからないのよ。おかしなことがたくさん起こっていることだけはわかってる。あなたはすぐに第3の課題のトレーニングを始めるべきだわ。それに、すぐにスナッフルズに返事を書いて。二度と一人で抜け出したりしないと約束しなきゃ。」
ナツキはふと気づいた。これは自分にも当てはまるやつだと。そう気づいて、ナツキはしばらくの間、西塔の秘密の部屋へ足を運ぶのを控えることにしたのだった。
月曜の昼食時、ロンは大の字になって倒れたまま「ミセス・ノリスを攫ってこれないか?」と言った。ハリーに練習のため、5回連続で失神呪文をかけられたからだ。
ちゃんと後ろのクッションに倒れろというハーマイオニーとの諍いがまた始まった頃、ナツキはハリーの前に出た。
「ハリー、私とやろう。ハーマイオニー、その間に呪いを調べておいて。」
「わかったわ。」
ナツキとハリーは向き合った。ハリーがさっきよりも緊張した。
「ナツキ、いくよ。ステューピファイ!」
「プロテゴ!」
パーンと乾いた音が響き、呪文同士が空中でぶつかった。
しばらくすると、ベルが鳴り、ハリーたちはそれぞれの選択している授業へと向かった。ナツキはその場で少し待った。
「ナツキ、」
待ち人が来た。ジョージだ。次の時間は「マグル学」なので、ナツキはハリーたちと別れ、一人になってしまう。だから、そうならないように、あの日以来、彼はいつもこうして迎えに来てくれるのだ。
ナツキへのヒソヒソ話は、いまだに廊下のあちこちから聞こえてくる。呆れるほどしつこい。だが、ジョージの隣にいると、不思議と気にならなくなるのだった。
「ハリーの練習はうまくいってるか?」
「うん。ロンはもう付き合いたくないみたいだけど。」
ナツキが肩をすくめてそう答えると、ジョージはおかしそうにニヤッと笑った。
そんな話をしていると、すぐに「マグル学」の教室へ着いた。
「じゃあ、終わる頃に迎えに来る。」
「うん。ありがとう。」
ナツキが微笑むと、ジョージは軽く手を振って廊下を引き返していった。その背中を見送りながら、ナツキはそっと教室の扉を開けた。
「じゃあ、今日はここまで。」
バーベッジ先生の合図とともに、マグル学の授業が終わった。ナツキは教科書を閉じ、椅子から立ち上がる。教室の外に出ると、すぐにジョージの姿が目に入った。
「おつかれ、ナツキ。」
廊下の壁にもたれて待っていたジョージが、片手を軽く挙げて笑った。
「ありがと。待たせちゃった?」
ナツキが小走りで近づくと、ジョージは肩をすくめて、にやりと笑った。
「ああ。今か今かと待ち侘びたぜ。あんまり遅いから、教室に花火でも飛ばそうかと思ってたところだ。」
「またそんなこと言って。」
ナツキは呆れながらも笑ってしまう。彼がこうして迎えに来てくれるのはやはりうれしい。
「夕食まで時間あるし、少し歩かないか?」
「いいよ。」
ナツキは笑顔で頷いた。
「ではお嬢さん、お手をどうぞ。」
ジョージは少し大げさにお辞儀をして、ナツキに手を差し出した。ナツキは笑いながら、その手を取った。
ジョージとそのまま手を繋いで、静かな廊下を歩いていく。たどり着いたのは、北の塔の途中にある古びた踊り場。アーチ状の窓から差し込む光が、ほこりを帯びてゆらゆらと浮かんでいる。
「眺めもいいし、悪くないだろ?人がそんなにこないから、よくフレッドとここで悪巧みをするんだ。たまーに、フィルチのやつがくるけどな。」
ジョージが窓辺に腰を下ろし、ナツキもその隣に並んで座った。
「こうやって、ナツキとゆっくり話せる時間、意外と貴重なんだよな。最近、というかいつもか。ハリーのことで忙しそうだ。」
「え、ご、ごめん。」
ナツキがうつむきかけた瞬間、ジョージの手がそっと頬に触れた。
「勘違いすんなよ?責めてるんじゃない。俺だって、ハリーを応援してる。」
ジョージとの距離が近づいて、ナツキはぽっと顔を赤くした。
「ただ、時々ナツキを独り占めしたいって思うくらいは許してくれ。」
心臓の音が大きくなる。ナツキが顔を上げると、ジョージの瞳ががゆっくりと近づいてきて、思わず目を閉じた。その瞬間、唇がそっと重なった。
想いが通じた日以来、二度目のキスだった。
一瞬だけ触れたそのぬくもりに、ナツキの頬は一気に熱を帯びた。
「・・・真っ赤。もう少し慣れてくれたっていいだろ?」
ジョージがいたずらっぽく微笑んで言う。ナツキは俯いたまま小さく返した。
「ま、まだ無理・・・・それに、ジョージだって少し赤いよ。」
仕返しのつもりでそう言うと、ジョージが少しだけ口元を引きつらせたように笑った。
「歳上面するので俺は精一杯なんだよ。察してくれ。」
甘く、優しく、不器用さを見せるジョージにナツキの心臓は恐ろしいくらいに跳ね上がった。
「じゃあ、えっと、れ、練習、する?」
ナツキの言葉にジョージは目を丸くした。
「や、やっぱり今のなし!!忘れて!!」
自分の言葉にパニックになったナツキが、茹で上がった大イカのように顔を真っ赤にして手をブンブン振ると、ジョージはふっと笑いながらぐっと彼女を抱き寄せた。
そして、顔を近づけ、悪戯っぽく口角をあげた。
「忘れられないなぁ。」
またみるみる近づくジョージの顔にナツキはぎゅっと目を瞑った。
また唇が触れそうになる、その時。
「おや、これは・・・・」
ふたりが飛び上がるようにして振り向くと、階段の上に人影があった。
「どうやらわしは、なんとも不本意な登場をしてしまったようじゃ。」
ダンブルドア先生だった。
ナツキの顔は今度こそ本当に火がついたかと思うほど熱くなり、ジョージも珍しく口をぱくぱくさせて何も言えなかった。
「どうぞ、わしのことは気にせず続けておくれと言いたいところじゃが、ちょうどナツキと話したいことがあるんじゃ。ピブルのことで・・・・」
「あ!」
ナツキは真っ赤な顔のまま、慌てて先生の言葉に反応した。空気が一瞬にして現実に引き戻され、ふたりの甘い時間はあっけなく幕を閉じたのだった。
「そんなわけで、ミスター・ジョージ・ウィーズリー、大変申し訳ないんじゃが、ナツキをちょいとお借りしても良いかね?」
「ああ、えっと、はい。先生。」
ジョージは、彼にしては珍しく呆けたような顔で、すんなりと返事をした。その頬もうっすら赤く染まっているのは、気のせいではなかった。
「心配せずとも、夕食どきには大広間にナツキを返すでな。」
そう言ってダンブルドア先生は、ひょいとウィンクをひとつジョージに送った。そして、まだ気持ちがふわふわと定まらないナツキを、やさしく手招きした。
「森って姿くらまし時はできるの?」
「いいえ。森も敷地内よ。」
ハーマイオニーの答えに、ハリーはクラウチ氏がそれもできないほど弱っていたと付け加えた。
「・・・いずれにせよ、ここで話していても答えは見つからないね。朝になったらすぐ、お父さんにすぐに手紙を送ろう。」
夜明けになると、四人はこっそり寮を抜け出して、フクロウ小屋へ向かう。
「ハリーもう一回話してちょうだい。クラウチさんは、何を喋ったの?」
眠そうな目をこすりながら、ハーマイオニーが問いかける。
「もう話しただろ。訳のわからないことだったって。ダンブルドアに何かを警告したいって。バーサ・ジョーキンズの名前ははっきり言った。もう死んでると思ってるらしいよ。何かが自分のせいだって、何度も繰り返してた。・・・自分の息子のことを言った。」
「アズカバン送りにしたこと後悔してたのかな。・・・どんなに闇の魔法使いに対して潔癖でも血の通った人間ってことか・・・」
ナツキはこの晩考えられるいろんなことを考えた。そして、ふと目を伏せて口を開く。
「ヴォルデモートが、より強くなっているって言ってたのが、私は一番気になる。その時は、意識がはっきりしていたんだよね?」
ナツキの問いに、ハリーは静かに頷いた。その名前が出た瞬間、ロンがビクリと身を震わせたが、ナツキは気にも留めず話を続けた。
「私の考えでは、クラウチさんはどこかでヴォルデモートのことを知った。それで、口封じでおかしくされた。ヴォルデモートがまだ復活していなくて、彼のもとにはピーター・ペティグリューとおそらくもう一人の部下がいると仮定して、もう一人の部下が活発に動いていると思う。」
「どうしてだい?」
ロンが恐々きいた。
「お父さんはクラウチさんを素晴らしい魔法使いだって言ってたでしょ?ペティグリューがあまり優秀じゃなかったって話を聞く限り、クラウチさんがやられたとは考えられない。」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは静かにナツキの話を聞いた。
「一番の問題は、クラウチさんがいつ、あいつに会ったかと言うこと。」
フクロウ小屋への階段を登りながらナツキは淡々と話す。
「今年度が始まる前、つまり対抗試合の前だったらと言うのが一番最悪のパターン。」
一段、また一段と足を進めながら、ナツキは口調を静かに落とした。
「ここからは完全に私の想像だけど・・・。対抗試合前にクラウチさんが、ヴォルデモートかその配下に会って『服従の呪文』をかけられた。クラウチさんは魔法省の役人だから、きっといろんな情報が聞ける。そしてヴォルデモートはそこで対抗試合の開催を知り、」
ナツキは振り返って、ハリーの目をまっすぐ見た。
「ハリーを対抗試合に出場させ、殺すことを企てた。」
ハリーは思わず息を呑み、眉をひそめて言った。
「じゃあ、僕の名前をゴブレットに入れたのが、クラウチってこと?」
ナツキは肩をすくめた。
「言ったでしょ。後半は全部私の想像。でもクラウチさんの言うことが正しいなら、前半はそんなに的外れじゃないと思う。でももう一つ、大事なことがある。」
「・・・なんだい?」
ハリーは恐々尋ねた。
「また想像だけど、クラウチさんは『服従の呪い』を自力で解いた。それで、ダンブルドア先生に助けを求めたけど、それがあいつらにバレた。・・・・ペティグリューであれば、ホグワーツへの侵入は難しくない。私はあいつがクラウチさんを始末したんじゃないかと思ってる。」
しばらくの沈黙のあと、ハリーが歯を食いしばるようにして言った。
「スネイプに邪魔されなけりゃ間に合ってたかもしれないのに!」
フクロウの止まり木を見上げながらハリーは怒りを膨らませた。彼がいなければ、ダンブルドア先生がもっと早くに駆けつけられたのだ。
「しっ!」
突然ハーマイオニーが制した。
誰かがフクロウ小屋に続く階段を上がってくる。口論しているようだ。ナツキはそれがすぐに、ジョージたちの声だと気づいた。
「脅迫だよ、それは。」
「これまでは行儀よくやってきたんだ。もう汚い手に出る時だ。」
ナツキはすぐに彼らが。バグマンの話をしていると気づいた。ハリーたちに聞かれてもそこまで困ると思えなかったが、人がいることを知らせるべく、わざとらしく大きめの咳払いをした。
ナツキの咳払いで一瞬の沈黙が訪れてすぐ、フクロウ小屋の扉がバーンとあいた。
「こんなとこで何してるんだ?」
ロンとフレッドが同時に叫んだ。
「フクロウ便を出しに。」
ハリーとジョージが同時に答えた。
「え?こんな時間に?」
ハーマイオニーとフレッドが言った。微妙な沈黙が流れ、ナツキは思わず苦笑いを浮かべた。
「君たちが何も聞かなけりゃ、俺たちも君たちが何しているか聞かないことにしよう。」
フレッドがにやりと笑って言った。しかし、ロンが「誰を脅迫するんだい?」と食ってかかるように尋ねた瞬間、その笑みは消えた。
「前にも言ったけどな、ロン、鼻の形を変えたくなかったら、引っ込んでろ。もっとも鼻の形は変えたほうがいいかもしれないけどな。」
ロンは大層怒っているようだった。自分の兄弟が誰かを脅迫しようとしていると知ったら、当然の反応かもしれない。
ナツキが、間に入るべきかどうか迷っていたその時、ジョージとふと目が合った。
「冗談だって、ロン。・・・お前、少しあの懐かしの兄貴に似てきたぞ。このままいけば、お前も監督生になれる。ナツキ、レオーネ借りていいか?」
「いいよ。」
ジョージはレオーネの足に手紙をくくりつけてそう言った。
「そんなのになるもんか!」
熱くなってそういったロンを無視して、ジョージはレオーネを飛び立たせた。そしてナツキの方へ近づいた。
「さーて、ナツキ、もしバラしたら、大広間で口を塞いじまうからな。」
「へ?バラさないよ。」
ぽかんとした顔で答えるナツキに、ジョージは少し驚いたように目を丸くし、フレッドと視線を交わして苦笑した。そして二人はロンに向かって嫌味っぽく「じゃあな」と言ってフクロウ小屋を出て行った。
「ナツキ、あの二人って、クラウチのこと、何か知ってるの?」
ハーマイオニーはそう尋ねた。
「ううん。そういうんじゃないよ。」
「ナツキ、教えてくれよ。あの二人、最近金儲けに取り憑かれてるんだ。真剣に、店を始めようとしてる。」
ロンが詰め寄るように言うと、ナツキは少し困ったように笑って肩をすくめた。
「まあ、私は二人を応援してる、とだけ。」
「頼むよ、ナツキ。君が少し恥ずかしい思いをするだけだろ!それくらいの秘密なら言っても構わないじゃないか!」
ナツキは目をパチクリさせると、呆れたようにハーマイオニーが言った。
「バカね、ロン。ナツキ、さっきのジョージの言葉の意味を理解してないのよ。それに、ナツキは絶対にそれを許さないわ。だからジョージはあんなこと言ったのよ。」
ハーマイオニーが呆れて言った。
「え?何を私は許さないの?」
よくわかっていない反応を示したナツキに、ハリーがかわいそうなものを見るような目で口を開いた。
「えーとね、ナツキ、さっきジョージは、秘密をバラしたら大広間の大勢人がいる前で、キスをして口を塞いで黙らせる、ってことを言いたかったんだ。」
ナツキは一瞬きょとんとした後、顔を真っ赤にした。ハーマイオニーは「やっぱりね」とばかりにため息をつき、ロンは「あいつらほんと信じられないな」と呆れた声を漏らしていた。
早朝そんなことがあったが、ムーディ先生に昨夜どうなったのかを聞こうということになった。
いつも以上に退屈に感じる「魔法史」の後、かひつ修正して。 早朝そんなことがあったが、ムーディ先生に昨夜どうなったのかを聞こうということになった。
いつも以上に退屈に感じる「魔法史」の後、四人は防衛術の教室に急いだ。ムーディ先生はちょうど一年生の授業が終わった後のようだった。
「こっちへ来い。」
ムーディ先生はからになった教室に四人を招き入れた。
「みつけたのですか?クラウチさんを?」
ハリーは前置きなしにそう聞いたが、ムーディ先生は「いや」と言って、酒瓶を引っ張り出した。
ハリーが貸した「忍びの地図」も使ったが見つけられなかったという。
「それじゃやっぱり『姿くらまし』術?」
「ロン!学校の敷地内では『姿くらまし』はできないの!消えるには、何か他の方法があるんですね?先生?」
ロンに再三注意しながらハーマイオニーはムーディ先生を見た。
「お前もプロの『闇祓い』になることを考えても良い一人だな。グレンジャー考えることが筋道立っておる。」
ムーディ先生の言葉に、ハーマイオニーは頬を赤らめた。ハリーは間髪入れずに言った。
「でも、さっきナツキが言っていたことの方が、ずっと筋が通ってると思う。」
「ゴドリクソンの?」
ムーディ先生の魔法の目がギョロリとナツキに向いた。
「私、ハリーから聞いたクラウチさんの発言を色々常げて考えてみたんです。それで・・・・」
ナツキは先ほどフクロウ小屋に行く途中に話した推測をムーディ先生にも話した。
「・・・・ああ、まっこと、お前は敵に回したくない。今すぐ魔法省で働いてもいいくらいだ。」
ムーディ先生は傷だらけの口角を不気味に上げた。
「さーて、お前たちは探偵ごっこをしておるようだな。クラウチはお前たちの手にはおえん。魔法省が捜索に乗り出すだろう。ポッター、お前は第3の課題に集中することだ。」
「え?」
ハリーは不意を疲れ、少ししてから思い出したように「ええ」と言った。
「今度はポッターが勝って当然だ。当面は・・・ポッター、警戒を怠るな。油断大敵だ。」
そう言ってムーディ先生は酒瓶をグーっと一飲みした。
その翌朝、シリウスからの返事が、フクロウ便で届いた。
その手紙には、厳しい口調で、一人で夜に出歩くな、第3の課題の準備をしろと書かれていた。そして、もう変なところへ出ていかないと、約束の手紙を送れ、とも書かれていた。
ハリーはシリウスが学校時代に自分のしたことを棚に上げてそんな注意をするものだから少し腹を立てていた。
「ハリーを心配してるんだよ。」
「でもナツキ、考えてみてよ。君の話は筋が通ってる。それは認める。でも、僕は狙われていないんだ。だってそうだろ?クラウチが殺されたとして、僕は何もされていないんだ。」
ナツキは口をつぐんだ。しかしそれは答えがないからではない。でも、言うべきだと思い口を開いた。
「・・・・私が、そのことを考えなかったと思う?」
「え?」
ハリーが面食らったような顔をした。
「ヴォルデモートは、あなたのことを自分で殺したがってるんじゃないかって思う。それか、簡単には殺さないと思う。自分を破滅まで追い込んだんだから。」
その言葉に、ハリーは息を呑み、しばらく黙り込んだ。空気がぴんと張りつめた。空気を変えようとしたのか、ハーマイオニーがそっと口を開いた。
「ハリー、誰にもわからないのよ。おかしなことがたくさん起こっていることだけはわかってる。あなたはすぐに第3の課題のトレーニングを始めるべきだわ。それに、すぐにスナッフルズに返事を書いて。二度と一人で抜け出したりしないと約束しなきゃ。」
ナツキはふと気づいた。これは自分にも当てはまるやつだと。そう気づいて、ナツキはしばらくの間、西塔の秘密の部屋へ足を運ぶのを控えることにしたのだった。
月曜の昼食時、ロンは大の字になって倒れたまま「ミセス・ノリスを攫ってこれないか?」と言った。ハリーに練習のため、5回連続で失神呪文をかけられたからだ。
ちゃんと後ろのクッションに倒れろというハーマイオニーとの諍いがまた始まった頃、ナツキはハリーの前に出た。
「ハリー、私とやろう。ハーマイオニー、その間に呪いを調べておいて。」
「わかったわ。」
ナツキとハリーは向き合った。ハリーがさっきよりも緊張した。
「ナツキ、いくよ。ステューピファイ!」
「プロテゴ!」
パーンと乾いた音が響き、呪文同士が空中でぶつかった。
しばらくすると、ベルが鳴り、ハリーたちはそれぞれの選択している授業へと向かった。ナツキはその場で少し待った。
「ナツキ、」
待ち人が来た。ジョージだ。次の時間は「マグル学」なので、ナツキはハリーたちと別れ、一人になってしまう。だから、そうならないように、あの日以来、彼はいつもこうして迎えに来てくれるのだ。
ナツキへのヒソヒソ話は、いまだに廊下のあちこちから聞こえてくる。呆れるほどしつこい。だが、ジョージの隣にいると、不思議と気にならなくなるのだった。
「ハリーの練習はうまくいってるか?」
「うん。ロンはもう付き合いたくないみたいだけど。」
ナツキが肩をすくめてそう答えると、ジョージはおかしそうにニヤッと笑った。
そんな話をしていると、すぐに「マグル学」の教室へ着いた。
「じゃあ、終わる頃に迎えに来る。」
「うん。ありがとう。」
ナツキが微笑むと、ジョージは軽く手を振って廊下を引き返していった。その背中を見送りながら、ナツキはそっと教室の扉を開けた。
「じゃあ、今日はここまで。」
バーベッジ先生の合図とともに、マグル学の授業が終わった。ナツキは教科書を閉じ、椅子から立ち上がる。教室の外に出ると、すぐにジョージの姿が目に入った。
「おつかれ、ナツキ。」
廊下の壁にもたれて待っていたジョージが、片手を軽く挙げて笑った。
「ありがと。待たせちゃった?」
ナツキが小走りで近づくと、ジョージは肩をすくめて、にやりと笑った。
「ああ。今か今かと待ち侘びたぜ。あんまり遅いから、教室に花火でも飛ばそうかと思ってたところだ。」
「またそんなこと言って。」
ナツキは呆れながらも笑ってしまう。彼がこうして迎えに来てくれるのはやはりうれしい。
「夕食まで時間あるし、少し歩かないか?」
「いいよ。」
ナツキは笑顔で頷いた。
「ではお嬢さん、お手をどうぞ。」
ジョージは少し大げさにお辞儀をして、ナツキに手を差し出した。ナツキは笑いながら、その手を取った。
ジョージとそのまま手を繋いで、静かな廊下を歩いていく。たどり着いたのは、北の塔の途中にある古びた踊り場。アーチ状の窓から差し込む光が、ほこりを帯びてゆらゆらと浮かんでいる。
「眺めもいいし、悪くないだろ?人がそんなにこないから、よくフレッドとここで悪巧みをするんだ。たまーに、フィルチのやつがくるけどな。」
ジョージが窓辺に腰を下ろし、ナツキもその隣に並んで座った。
「こうやって、ナツキとゆっくり話せる時間、意外と貴重なんだよな。最近、というかいつもか。ハリーのことで忙しそうだ。」
「え、ご、ごめん。」
ナツキがうつむきかけた瞬間、ジョージの手がそっと頬に触れた。
「勘違いすんなよ?責めてるんじゃない。俺だって、ハリーを応援してる。」
ジョージとの距離が近づいて、ナツキはぽっと顔を赤くした。
「ただ、時々ナツキを独り占めしたいって思うくらいは許してくれ。」
心臓の音が大きくなる。ナツキが顔を上げると、ジョージの瞳ががゆっくりと近づいてきて、思わず目を閉じた。その瞬間、唇がそっと重なった。
想いが通じた日以来、二度目のキスだった。
一瞬だけ触れたそのぬくもりに、ナツキの頬は一気に熱を帯びた。
「・・・真っ赤。もう少し慣れてくれたっていいだろ?」
ジョージがいたずらっぽく微笑んで言う。ナツキは俯いたまま小さく返した。
「ま、まだ無理・・・・それに、ジョージだって少し赤いよ。」
仕返しのつもりでそう言うと、ジョージが少しだけ口元を引きつらせたように笑った。
「歳上面するので俺は精一杯なんだよ。察してくれ。」
甘く、優しく、不器用さを見せるジョージにナツキの心臓は恐ろしいくらいに跳ね上がった。
「じゃあ、えっと、れ、練習、する?」
ナツキの言葉にジョージは目を丸くした。
「や、やっぱり今のなし!!忘れて!!」
自分の言葉にパニックになったナツキが、茹で上がった大イカのように顔を真っ赤にして手をブンブン振ると、ジョージはふっと笑いながらぐっと彼女を抱き寄せた。
そして、顔を近づけ、悪戯っぽく口角をあげた。
「忘れられないなぁ。」
またみるみる近づくジョージの顔にナツキはぎゅっと目を瞑った。
また唇が触れそうになる、その時。
「おや、これは・・・・」
ふたりが飛び上がるようにして振り向くと、階段の上に人影があった。
「どうやらわしは、なんとも不本意な登場をしてしまったようじゃ。」
ダンブルドア先生だった。
ナツキの顔は今度こそ本当に火がついたかと思うほど熱くなり、ジョージも珍しく口をぱくぱくさせて何も言えなかった。
「どうぞ、わしのことは気にせず続けておくれと言いたいところじゃが、ちょうどナツキと話したいことがあるんじゃ。ピブルのことで・・・・」
「あ!」
ナツキは真っ赤な顔のまま、慌てて先生の言葉に反応した。空気が一瞬にして現実に引き戻され、ふたりの甘い時間はあっけなく幕を閉じたのだった。
「そんなわけで、ミスター・ジョージ・ウィーズリー、大変申し訳ないんじゃが、ナツキをちょいとお借りしても良いかね?」
「ああ、えっと、はい。先生。」
ジョージは、彼にしては珍しく呆けたような顔で、すんなりと返事をした。その頬もうっすら赤く染まっているのは、気のせいではなかった。
「心配せずとも、夕食どきには大広間にナツキを返すでな。」
そう言ってダンブルドア先生は、ひょいとウィンクをひとつジョージに送った。そして、まだ気持ちがふわふわと定まらないナツキを、やさしく手招きした。