炎のゴブレット
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3月に入ってから届いたシリウスの手紙にナツキたちは驚愕した。
ーーーーー
ホグズミードから出る道に、柵が立っている。土曜の午後2時に、そこにいること。食べ物を持てるだけ持ってきてくれ。
ーーーーー
ホグズミードにいるのだと、誰もが察した。
「ナツキ、ダンブルドア先生がなんとかしてくれるって言ってたんだよね?」
「う、うん。だから、多分、大丈夫だと思って安心してたんだけど・・・。お父さんだって、しっかり隠れてるはずだろうし。」
ナツキもハリーも、もちろんシリウスの身を案じていた。けれどそれ以上に、彼にまた会えるかもしれないという喜びが胸を満たしていた。
そんなある日。「魔法薬学」の授業中、スリザリンのパンジー・パーキンソンがクスクス笑いながらハーマイオニーに雑誌を投げて寄こした。
「あなたの関心がありそうな記事が載ってるわよ、グレンジャー!」
ナツキたちは地下牢教室の一番後ろの席で、スネイプ先生の目を盗みながらそれをパラパラとめくった。そして、ハーマイオニーがある記事で手を止めた。
『ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み』――そんなタイトルの下に、ハリーのカラー写真が載っていた。
記事はまるでハーマイオニーがハリーの恋人で、愛の妙薬を使って彼を籠絡したかのように書かれていた。読んだナツキは思わず口をついて出た。
「うっわ、」
彼女がスキーターに喧嘩を打ったということは聞いていたので、おそらくその報復だろう。ロンは歯軋りしながら怒っていた。
「だから言ったじゃないか!リータ・スキーターに構うなってそう言ったろう!あいつ、君のことをなんていうか、緋色のおべべ扱いだ!」
・・・緋色のおべべ?
ナツキとハーマイオニーは同時にその奇妙な言葉に眉をひそめた。そしてハーマイオニーはふっと吹き出した。
「せいぜいこの程度なら、リータも衰えたものね。馬鹿馬鹿しいの一言だわ。」
ハーマイオニーが一切気にしていなくて、こう言ったものだからナツキは感心した。さすがハーマイオニーだ。しかし一つ気にかかることがあるらしい。
「夏休みにきてくれって、ビクトールが私に言ったこと、どうして知ってるのかしら?」
「それっていつ?」
放心するロンを傍目にナツキは尋ねた。すると、第2の課題のすぐ後だという。あの場にスキーターはいなかったはずだ。
しかし、ついにそんなコソコソ話がスネイプ先生にバレて、グリフィンドールは大いに減点された。
「『ハリーポッターの密やかな胸の痛み』・・・おう、おう、ポッター、今度はなんの病気かね?・・・『ハリーの応援団としては、次にはもっとふさわしい相手に心を捧げることを願うばかりである。』感動的ではないか。」
スネイプ先生は記事を皮肉たっぷりに読み上げながら、ハリーとハーマイオニーに恥をかかせた。
「ウィーズリー、ここに残れ。ミスグレンジャー、ミス・パーキンソンの横に。ポッターとゴドリクソンは我輩の机の前のテーブルへ移動だ。さあ、」
怒りに震えるハリーと共に、ナツキは一番前のテーブルに鍋を引きずっていった。
そこでスネイプ先生がまたチクチクとハリーに嫌味攻撃を始めた。
「そこで、きちんと警告しておくぞ、ポッター。今度我輩の研究室に忍び込んだところを捕まえたら、」
「僕、先生の研究室に近づいたことなどありません。」
ハリーが怒ったように言ったので、ナツキはチラリと横を見た。なんの話だ?
「毒ツルヘビの皮、鰓昆布。どちらも我輩個人の保管庫のものだ。誰が盗んだかはわかっている。」
毒ツルヘビの皮にはナツキも覚えがある。二年の頃にポリジュース薬を作るために盗んだ。ハーマイオニーが。
でもそれを今持ち出すことにナツキは違和感を覚えた。
「先生、ハリーは盗んでいません。毒ツルヘビの皮なんて何に使うのかわかりませんし、ハリーが第2の課題で使った鰓昆布は友達からもらったものです。」
スネイプ先生はぎろりとナツキを睨んだ。
「おやおやゴドリクソン、随分とポッターを庇うんだな。我輩が察するに、ポッターの次の相手は、君ということかな。随分と君にも、奔放な噂があるようだし・・・・・。」
「先生、私はよくアルバ・ゴドリクソンに似ていると言われますが、別な人の面影でも見えるのですか?」
例えば、シリウス・ブラックの。とは言わなかった。しかし、先生には通じただろう。
ナツキはただ真っ直ぐスネイプの目を見つめた。スネイプ先生は一瞬の沈黙の後、口を開いた。
「・・・・いいや、ゴドリクソン先生に、瓜二つだ・・・」
「そうでしょうね。」
スネイプ先生はそこで話をするのをやめた。
ナツキの言葉を最後に、教室では皆が黙々と作業を進めた。しばらくして、教室の扉をノックする音がした。ダームストラングのカルカロフだった。
カルカロフはスネイプ先生の近くまでくると、「話がある」と言った。スネイプ先生は「授業の後」と返し続けた。結局カルカロフは2時限続きの授業の間、ずっと待っていた。
やがて、授業終了の2分前。ハリーが手元のアルマジロの胆汁の瓶をわざとらしく倒した。中身が机から床にこぼれ、派手な音が響く。
「うわっ、ナツキ、ごめん。」
とぼけた様子で言いながら、ハリーは床を拭くふりをしてしゃがみこんだ。その横顔を見て、ナツキはふっと笑いそうになった。完全に、わざとだ。
ノロノロ床を拭くハリーに全てを任せ、ナツキは教室を出た。
翌日、四人は正午に城を出てホグズミードへ向かった。最初に鰓昆布のお礼にドビーのためのお土産を買うとハリーが言ったので、みんなで思いっきり派手な靴下を選び抜いた。
そして、約束の場所へ向かった。
村の郊外で、住宅もまばらだ。ナツキも余りこの辺りに来たことはなかった。そして、道のはずれの柵のところに、大きな黒い犬がいた。新聞を咥えている。
ナツキは思わず駆け寄って、その犬を抱きしめた。ちょっと、獣臭かったが、それも気にならなかった。
尻尾を振る犬のシリウスのあとを四人はついていく。柵を乗り越えた先は、山の麓だ。四人は30分ほど、汗をかきながら険しい山道を登った。
シリウスの姿が消えたと思ったら、目立たないところに涼しい洞窟があった。そこには、ヒッポグリフのバックビークもいた。みんなでお辞儀をすると、バックビークもそれに返した。
黒い犬はシリウス・ブラックの姿に戻っていた。ボロボロのローブを着た父は、非常に痩せていた。
「チキン!」
シリウスは掠れた声でそう言った。ハリーとナツキは慌てて食べ物を取り出し、彼に渡した。
「ほとんどネズミばかり食べて生きていた。ホグズミードからあまりたくさん食べ物を盗むわけにもいかない。注意を引くことになるからね。」
「・・・そんな・・・」
ナツキが唇をかみしめると、シリウスは肩をすくめた。
「私のことは心配しなくていい。愛すべき野良犬のふりをしているから。」
心配するハリーとナツキの表情を見て、シリウスはやわらかく笑った。
「私は現場にいたいのだ。誰かが新聞を捨てるたびに拾っていたのだが、どうやら心配してるのは私だけではないようだ。」
シリウスが差した新聞に、皆で口々に意見する。
「整理してみよう。」
シリウスが言った。
「始め恥もべ妖精が、貴賓席に座っていた。クラウチの席を取っていた、そうだね?」
「「「「そう。」」」」
「しかし、クラウチは試合には現れなかった。」
ハリーが頷いてそれに答えた。
「あの人、忙し過ぎてこれなかったって言ってたと思う。」
「ハリー、貴賓席を離れた時、杖があるかどうかポケットの中を探ってみたか?」
「・・・『闇の印』を作り出した誰かが、僕の杖を貴賓席で盗んだってこと?」
「その可能性はある。」
ハリーとシリウスのやりとりで、ナツキたちは貴賓席にいた人たちを次々と挙げていった。しかし、決定打はない。
ハーマイオニーはウィンキーを庇いたいためか、ルード・バグマンを疑っていた。確かに、彼の当時の行動は怪しかったが、ナツキはその理由を知っている。
「バグマンじゃないと思う。あの時、あの人、ゴブリンと揉めてたんだよ。借金があるんだって。前にホグズミードに来た時、ゴブリンから聞いたの。」
「なるほど。じゃあ、バグマンの疑いは幾分か晴れるな。」
シリウスは腕を組んでそういった。ハーマイオニーは面白くなさそうな顔をした。
「『闇の印』が現れて、妖精がハリーの杖を持ったまま発見された時、クラウチは何をしたかね?」
あの時クラウチ氏は、茂みの様子を見にいったが、そこには何もなかった。
「・・・・クラウチは自分のしもべ妖精以外の誰かだと決めつけたかっただろうな。それで、しもべ妖精をクビにしたのかね?」
「そうよ!」
ハーマイオニーが憤慨した。
シリウスは髭の伸びた顔を手で撫でながら、考えに没頭しているようだった。
「バーティ・クラウチがずっと不在だ・・・・。わざわざ席を取らせておきながら観戦にはこなかった。三校対抗試合の復活に随分尽力したのに、それにも来なくなった。クラウチらしくない。」
「クラウチさんのこと、知ってるの?」
ナツキが何ともなしにそう聞くと、シリウスの顔が曇った。
「ああ、クラウチのことはよく知っている。私をアズカバンに遅れと命令を出したやつだ。裁判もせずに。」
「え!?」
ナツキは目の前が真っ暗で、次第に怒りに燃えていくのがわかった。
「・・・裁判が、なかったの!?じゃあ、お父さんがこんな生活してるのは、あいつのせいだってこと!?」
シリウスは困ったようにナツキを見た。
「それはナツキも知っての通り、ピーターのせいだ。」
「・・そう、だけど・・・でも、それだけじゃなかったんだ・・・・!信じられない!!だって、だって、直前呪文を調べるとか、いろいろ手立てはあったはずでしょ!」
ナツキの声が震えると、シリウスは優しく語りかけた。
「ナツキ、落ち着いて。その話はまた後にしよう。」
「でも・・・・・!」
「こちらへおいで。」
ナツキは渋々立ち上がり、シリウスの隣に腰を下ろした。シリウスは微笑みながら彼女の肩をそっと抱いた。
その温もりに包まれているうちに、ナツキの怒りは、ゆっくりと静まっていった。
「クラウチは次の魔法大臣と噂されていた。」
娘の肩を抱きながら、シリウスは続けた。
「素晴らしい魔法使いだ。強力な魔法力、それに権力欲。ああ、ヴォルデモートの支持者だったことはない。彼は常に闇の陣営にはっきり対抗していた。」
シリウスは少し目を伏せたあと、低く呟いた。
「しかし、闇の陣営に反対を唱えていた多くのものが・・・いや、わかるまい。若い君たちには・・・・」
ロンがそのシリウスの言葉に苛ついたようだ。
「わかるかもしれないじゃないか。言ってみてよ。」
「いいだろう、試してみよう。」
シリウスは微笑んで、ゆっくりと語り始めた。
「ヴォルデモートが今、強大だと考えてごらん。誰が敵で味方かわからない。あいつには人を操る力がある。家族や友達でさえ怖くなる。魔法省は大混乱だ。至る所で恐怖だ。・・・パニック、混乱・・・・そういう時代だった。」
洞窟の中の空気が、冷たく張り詰めた。
「・・・いや、そういう時にこそ、最良の面を発揮するものもいれば、最悪の面が出る者もある。」
ナツキはシリウスの声の重みを感じていた。
「クラウチは魔法省でたちまち頭角を表し、ヴォルデモートに従う者に極めて厳しい措置を取り始めた。裁判なしに吸魂鬼の手に渡されたのは私だけではない。クラウチは、疑わしい者に対して、許されざる呪文を使用することを許可した。」
ナツキもハリー達も息を呑んだ。
「あいつは、冷酷無情になってしまったと言える。確かに、あいつを支持するものもいた。あいつが魔法大臣に就くのは時間の問題だと思われた。・・・しかしその時不幸な事件があった。」
シリウスの口元が皮肉げに歪んだ。
「クラウチの息子が死喰い人の一味と一緒に捕まった。」
ハーマイオニーが息を呑んで尋ねた。
「クラウチの息子が捕まった?」
「そう。あのバーティにとっては、相当きついショックだったろうね。たまには早く仕事を切り上げるべきだった。自分の息子をよく知るべきだったのだ。」
しかし、クラウチ氏は迷わず吸魂鬼に息子を差し出したのだと、シリウスは語った。
「彼は私の房に近い独房に入れられた。その日が暮れることには、母親を呼んで泣き叫んだ。2、3日すると大人しくなったがね。みんな姉妹には静かになったものだ・・・眠っている時に悲鳴をあげる以外は・・・・」
シリウスの目に一瞬生気がなくなった。ナツキは黙って、その肩に寄り添った。父の腕がほんの少しだけ力を込めて、彼女を抱き寄せる。やがてシリウスの瞳に、ふたたび優しい温もりが戻ってきた。
「それじゃ、息子はまだアズカバンにいるの?」
ハリーが尋ねると、シリウスは首を横に振った。クラウチ氏の息子は、投獄から一年後に死んだそうだ。後を追うように、クラウチ氏の奥さんも亡くなったという。
「クラウチは、全てをやり遂げたと思った時に、全てを失った。息子は死に、奥方もなくなり、家名は汚された。人気も大きく落ち込んだ。れっきとした家柄の、立派な若者が、なぜそこまで大きく道を誤ったのかと、人々は疑問に思い始めた。結論は、父親が息子を構ってやらなかったからだ、ということになった。」
長い沈黙が訪れた。それを破ったのはハリーだった。
「ムーディは、クラウチが闇の魔法使うを捕まえることに取り憑かれてるって言ってた。」
「ああ。ほとんど病的だと聞いた。」
「そして、学校に忍び込んで、スネイプの研究室を家探ししたんだ!」
ロンが勝ち誇ったように言った。
「でも、忍び込む必要はないよね?」
ナツキが言葉を挟んだ。
「審査員なんだから堂々と来ればいいのに。」
ロンは一瞬、言葉を失ったように口を閉ざした。
「そうだな。審査員として来れば、スネイプを見張る格好な口実ができる。」
シリウスはそう言った。彼はスネイプを少しばかり疑っているようにナツキは感じた。そして、ハリーは昨日、「魔法薬学」でのカルカロフとスネイプのやりとりについて話し始めた。
「カルカロフはとっても心配そうだった。スネイプに自分の腕の何かを見せていたけど、なんだか、僕には見えなかった。」
「スネイプに自分の腕の何かを見せた?」
シリウスは当惑した。髪を指でかきむしり、そしてまた肩をすくめた。
「わからないな・・・・。それでも、ダンブルドアがスネイプを信用しているというのは事実だ。」
「それなら、ムーディとクラウチは、どうしてそんなにスネイプの研究室に入りたがるんだろう。」
ロンが首を傾げて聞いた。ナツキはふと考えた。ムーディ先生に関しては、もともと疑り深い性格だから、スネイプに限らず、誰の部屋でも調べたがったのかもしれない。
そして、シリウスもまた、似たような推測を口にした。
「しかし、クラウチはまた別だ・・・。本当に病気か?なぜそんな身を引きずってまでスネイプの研究室に入り込んだ?貴賓席に来れないほど重要なことは?対抗試合の審査をするべき時に何をやっていたんだ?」
シリウスは黙り込んだ。少しして、ロンに、パーシーにクラウチ氏とバーサ・ジョーキンズについて探りを入れるよう頼んだ。
「何時かな?」
シリウスの言葉に、ハリーは腕時計を見ようとして、表情を曇らせた。
その時計は壊れていた。かつてナツキが誕生日に贈った、秒針の代わりに金のスニッチが動いていた特別な時計だった。
「・・・ごめん、ナツキ。気に入ってたんだけど。」
「いいよ。また何かあげるね。」
ハーマイオニーが腕時計を確認し、「3時半よ」と顔を上げて言った。
「もう学校に戻ったほうがいい。いいか、よく聞きなさい、」
シリウスはハリーとナツキをじっと見た。
「君たちは、私に会うために学校を抜け出したりしないでくれ。」
「え?」
ナツキはとてもショックな言葉を聞いて、思わず声を漏らした。シリウスは穏やかに彼女を見つめた。
「ナツキ、いいね?」
ナツキは渋々頷いた。シリウスはわずかにほっとした表情を浮かべてから、続けた。
「ここ宛にメモを送ってくれ。これからも、おかしなことがあったら知りたい。しかし許可なしにホグワーツを出たりしないように。試合が終わるまで、つまり6月まではダメだ。」
そして、少しだけ声を落とすと、意味ありげに口元を緩めた。
「それから、大切なことが一つ、君たちの間で私の話をするときは、『スナッフルズ』と呼びなさい。」
シリウスはナツキを見て口角を上げた。その名前は、昨年度、ナツキが犬のシリウスを、そうとは知らずに付けた名前だ。
ハリーたちは荷物をまとめ、洞窟を出る準備を始めていた。
そのとき、シリウスがふと声をかけた。
「ナツキ、少しいいか?」
そう言って、彼女に手招きをする。
ナツキがそっと近づくと、シリウスは穏やかな声で尋ねた。
「君の悩みは解決したかい?」
「あ、」
ナツキは少し驚いた顔をしてから、思い出した。以前、ほんの少しだけ、恋についてを父に相談したのだ。
途端に顔が熱くなり、ナツキは照れ隠しのようにうつむいた。そして、こくりと小さくうなずいた。
シリウスは娘の様子を見つめながら、少しだけ顔をしかめる。
「・・・・・全く、父としては複雑な気分だ。君の好きな人というのは、ハリーなのか?」
期待するような目でシリウスはナツキを見た。だが当然ナツキは首を横に振った。
「ではロンか?」
「ううん。ロンのお兄ちゃん。この前、バレンタインから、付き合うことになったの。」
シリウスの表情が固まった。まるで、予想外だったようだ。でもそれは当然だ。シリウスは、ナツキのハリー、ロン、ハーマイオニー以外との交友関係を知らないのだから。
「ロンと同じ赤毛で、双子の片割れで、悪戯ずきで、優しい人。」
その言葉に、シリウスは目を細めた。しばらく黙ったまま娘を見つめていたが、やがて小さく息をつき、低い声で言った。
「・・・そうか・・・・」
そして、ぽつりと続けた。
「ナツキ、もう少しゆっくり大人になってくれると私としては安心だ。せっかく父になったというのに寂しくなる話ばかりだ。」
シリウスはそう言うと、ナツキの頬にキスをした。
「君を世界で一番愛してるのは私だからな。」
ナツキはつい吹き出してしまった。そして、少し照れながらもまっすぐ父を見て言った。
「私もお父さんのこと、愛してるよ。」
シリウスの顔に安堵が浮かんだ。これが二人の父と娘として初めてまともに過ごした時間となった。それは言葉にできないほど、あたたかかった。
ーーーーー
ホグズミードから出る道に、柵が立っている。土曜の午後2時に、そこにいること。食べ物を持てるだけ持ってきてくれ。
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ホグズミードにいるのだと、誰もが察した。
「ナツキ、ダンブルドア先生がなんとかしてくれるって言ってたんだよね?」
「う、うん。だから、多分、大丈夫だと思って安心してたんだけど・・・。お父さんだって、しっかり隠れてるはずだろうし。」
ナツキもハリーも、もちろんシリウスの身を案じていた。けれどそれ以上に、彼にまた会えるかもしれないという喜びが胸を満たしていた。
そんなある日。「魔法薬学」の授業中、スリザリンのパンジー・パーキンソンがクスクス笑いながらハーマイオニーに雑誌を投げて寄こした。
「あなたの関心がありそうな記事が載ってるわよ、グレンジャー!」
ナツキたちは地下牢教室の一番後ろの席で、スネイプ先生の目を盗みながらそれをパラパラとめくった。そして、ハーマイオニーがある記事で手を止めた。
『ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み』――そんなタイトルの下に、ハリーのカラー写真が載っていた。
記事はまるでハーマイオニーがハリーの恋人で、愛の妙薬を使って彼を籠絡したかのように書かれていた。読んだナツキは思わず口をついて出た。
「うっわ、」
彼女がスキーターに喧嘩を打ったということは聞いていたので、おそらくその報復だろう。ロンは歯軋りしながら怒っていた。
「だから言ったじゃないか!リータ・スキーターに構うなってそう言ったろう!あいつ、君のことをなんていうか、緋色のおべべ扱いだ!」
・・・緋色のおべべ?
ナツキとハーマイオニーは同時にその奇妙な言葉に眉をひそめた。そしてハーマイオニーはふっと吹き出した。
「せいぜいこの程度なら、リータも衰えたものね。馬鹿馬鹿しいの一言だわ。」
ハーマイオニーが一切気にしていなくて、こう言ったものだからナツキは感心した。さすがハーマイオニーだ。しかし一つ気にかかることがあるらしい。
「夏休みにきてくれって、ビクトールが私に言ったこと、どうして知ってるのかしら?」
「それっていつ?」
放心するロンを傍目にナツキは尋ねた。すると、第2の課題のすぐ後だという。あの場にスキーターはいなかったはずだ。
しかし、ついにそんなコソコソ話がスネイプ先生にバレて、グリフィンドールは大いに減点された。
「『ハリーポッターの密やかな胸の痛み』・・・おう、おう、ポッター、今度はなんの病気かね?・・・『ハリーの応援団としては、次にはもっとふさわしい相手に心を捧げることを願うばかりである。』感動的ではないか。」
スネイプ先生は記事を皮肉たっぷりに読み上げながら、ハリーとハーマイオニーに恥をかかせた。
「ウィーズリー、ここに残れ。ミスグレンジャー、ミス・パーキンソンの横に。ポッターとゴドリクソンは我輩の机の前のテーブルへ移動だ。さあ、」
怒りに震えるハリーと共に、ナツキは一番前のテーブルに鍋を引きずっていった。
そこでスネイプ先生がまたチクチクとハリーに嫌味攻撃を始めた。
「そこで、きちんと警告しておくぞ、ポッター。今度我輩の研究室に忍び込んだところを捕まえたら、」
「僕、先生の研究室に近づいたことなどありません。」
ハリーが怒ったように言ったので、ナツキはチラリと横を見た。なんの話だ?
「毒ツルヘビの皮、鰓昆布。どちらも我輩個人の保管庫のものだ。誰が盗んだかはわかっている。」
毒ツルヘビの皮にはナツキも覚えがある。二年の頃にポリジュース薬を作るために盗んだ。ハーマイオニーが。
でもそれを今持ち出すことにナツキは違和感を覚えた。
「先生、ハリーは盗んでいません。毒ツルヘビの皮なんて何に使うのかわかりませんし、ハリーが第2の課題で使った鰓昆布は友達からもらったものです。」
スネイプ先生はぎろりとナツキを睨んだ。
「おやおやゴドリクソン、随分とポッターを庇うんだな。我輩が察するに、ポッターの次の相手は、君ということかな。随分と君にも、奔放な噂があるようだし・・・・・。」
「先生、私はよくアルバ・ゴドリクソンに似ていると言われますが、別な人の面影でも見えるのですか?」
例えば、シリウス・ブラックの。とは言わなかった。しかし、先生には通じただろう。
ナツキはただ真っ直ぐスネイプの目を見つめた。スネイプ先生は一瞬の沈黙の後、口を開いた。
「・・・・いいや、ゴドリクソン先生に、瓜二つだ・・・」
「そうでしょうね。」
スネイプ先生はそこで話をするのをやめた。
ナツキの言葉を最後に、教室では皆が黙々と作業を進めた。しばらくして、教室の扉をノックする音がした。ダームストラングのカルカロフだった。
カルカロフはスネイプ先生の近くまでくると、「話がある」と言った。スネイプ先生は「授業の後」と返し続けた。結局カルカロフは2時限続きの授業の間、ずっと待っていた。
やがて、授業終了の2分前。ハリーが手元のアルマジロの胆汁の瓶をわざとらしく倒した。中身が机から床にこぼれ、派手な音が響く。
「うわっ、ナツキ、ごめん。」
とぼけた様子で言いながら、ハリーは床を拭くふりをしてしゃがみこんだ。その横顔を見て、ナツキはふっと笑いそうになった。完全に、わざとだ。
ノロノロ床を拭くハリーに全てを任せ、ナツキは教室を出た。
翌日、四人は正午に城を出てホグズミードへ向かった。最初に鰓昆布のお礼にドビーのためのお土産を買うとハリーが言ったので、みんなで思いっきり派手な靴下を選び抜いた。
そして、約束の場所へ向かった。
村の郊外で、住宅もまばらだ。ナツキも余りこの辺りに来たことはなかった。そして、道のはずれの柵のところに、大きな黒い犬がいた。新聞を咥えている。
ナツキは思わず駆け寄って、その犬を抱きしめた。ちょっと、獣臭かったが、それも気にならなかった。
尻尾を振る犬のシリウスのあとを四人はついていく。柵を乗り越えた先は、山の麓だ。四人は30分ほど、汗をかきながら険しい山道を登った。
シリウスの姿が消えたと思ったら、目立たないところに涼しい洞窟があった。そこには、ヒッポグリフのバックビークもいた。みんなでお辞儀をすると、バックビークもそれに返した。
黒い犬はシリウス・ブラックの姿に戻っていた。ボロボロのローブを着た父は、非常に痩せていた。
「チキン!」
シリウスは掠れた声でそう言った。ハリーとナツキは慌てて食べ物を取り出し、彼に渡した。
「ほとんどネズミばかり食べて生きていた。ホグズミードからあまりたくさん食べ物を盗むわけにもいかない。注意を引くことになるからね。」
「・・・そんな・・・」
ナツキが唇をかみしめると、シリウスは肩をすくめた。
「私のことは心配しなくていい。愛すべき野良犬のふりをしているから。」
心配するハリーとナツキの表情を見て、シリウスはやわらかく笑った。
「私は現場にいたいのだ。誰かが新聞を捨てるたびに拾っていたのだが、どうやら心配してるのは私だけではないようだ。」
シリウスが差した新聞に、皆で口々に意見する。
「整理してみよう。」
シリウスが言った。
「始め恥もべ妖精が、貴賓席に座っていた。クラウチの席を取っていた、そうだね?」
「「「「そう。」」」」
「しかし、クラウチは試合には現れなかった。」
ハリーが頷いてそれに答えた。
「あの人、忙し過ぎてこれなかったって言ってたと思う。」
「ハリー、貴賓席を離れた時、杖があるかどうかポケットの中を探ってみたか?」
「・・・『闇の印』を作り出した誰かが、僕の杖を貴賓席で盗んだってこと?」
「その可能性はある。」
ハリーとシリウスのやりとりで、ナツキたちは貴賓席にいた人たちを次々と挙げていった。しかし、決定打はない。
ハーマイオニーはウィンキーを庇いたいためか、ルード・バグマンを疑っていた。確かに、彼の当時の行動は怪しかったが、ナツキはその理由を知っている。
「バグマンじゃないと思う。あの時、あの人、ゴブリンと揉めてたんだよ。借金があるんだって。前にホグズミードに来た時、ゴブリンから聞いたの。」
「なるほど。じゃあ、バグマンの疑いは幾分か晴れるな。」
シリウスは腕を組んでそういった。ハーマイオニーは面白くなさそうな顔をした。
「『闇の印』が現れて、妖精がハリーの杖を持ったまま発見された時、クラウチは何をしたかね?」
あの時クラウチ氏は、茂みの様子を見にいったが、そこには何もなかった。
「・・・・クラウチは自分のしもべ妖精以外の誰かだと決めつけたかっただろうな。それで、しもべ妖精をクビにしたのかね?」
「そうよ!」
ハーマイオニーが憤慨した。
シリウスは髭の伸びた顔を手で撫でながら、考えに没頭しているようだった。
「バーティ・クラウチがずっと不在だ・・・・。わざわざ席を取らせておきながら観戦にはこなかった。三校対抗試合の復活に随分尽力したのに、それにも来なくなった。クラウチらしくない。」
「クラウチさんのこと、知ってるの?」
ナツキが何ともなしにそう聞くと、シリウスの顔が曇った。
「ああ、クラウチのことはよく知っている。私をアズカバンに遅れと命令を出したやつだ。裁判もせずに。」
「え!?」
ナツキは目の前が真っ暗で、次第に怒りに燃えていくのがわかった。
「・・・裁判が、なかったの!?じゃあ、お父さんがこんな生活してるのは、あいつのせいだってこと!?」
シリウスは困ったようにナツキを見た。
「それはナツキも知っての通り、ピーターのせいだ。」
「・・そう、だけど・・・でも、それだけじゃなかったんだ・・・・!信じられない!!だって、だって、直前呪文を調べるとか、いろいろ手立てはあったはずでしょ!」
ナツキの声が震えると、シリウスは優しく語りかけた。
「ナツキ、落ち着いて。その話はまた後にしよう。」
「でも・・・・・!」
「こちらへおいで。」
ナツキは渋々立ち上がり、シリウスの隣に腰を下ろした。シリウスは微笑みながら彼女の肩をそっと抱いた。
その温もりに包まれているうちに、ナツキの怒りは、ゆっくりと静まっていった。
「クラウチは次の魔法大臣と噂されていた。」
娘の肩を抱きながら、シリウスは続けた。
「素晴らしい魔法使いだ。強力な魔法力、それに権力欲。ああ、ヴォルデモートの支持者だったことはない。彼は常に闇の陣営にはっきり対抗していた。」
シリウスは少し目を伏せたあと、低く呟いた。
「しかし、闇の陣営に反対を唱えていた多くのものが・・・いや、わかるまい。若い君たちには・・・・」
ロンがそのシリウスの言葉に苛ついたようだ。
「わかるかもしれないじゃないか。言ってみてよ。」
「いいだろう、試してみよう。」
シリウスは微笑んで、ゆっくりと語り始めた。
「ヴォルデモートが今、強大だと考えてごらん。誰が敵で味方かわからない。あいつには人を操る力がある。家族や友達でさえ怖くなる。魔法省は大混乱だ。至る所で恐怖だ。・・・パニック、混乱・・・・そういう時代だった。」
洞窟の中の空気が、冷たく張り詰めた。
「・・・いや、そういう時にこそ、最良の面を発揮するものもいれば、最悪の面が出る者もある。」
ナツキはシリウスの声の重みを感じていた。
「クラウチは魔法省でたちまち頭角を表し、ヴォルデモートに従う者に極めて厳しい措置を取り始めた。裁判なしに吸魂鬼の手に渡されたのは私だけではない。クラウチは、疑わしい者に対して、許されざる呪文を使用することを許可した。」
ナツキもハリー達も息を呑んだ。
「あいつは、冷酷無情になってしまったと言える。確かに、あいつを支持するものもいた。あいつが魔法大臣に就くのは時間の問題だと思われた。・・・しかしその時不幸な事件があった。」
シリウスの口元が皮肉げに歪んだ。
「クラウチの息子が死喰い人の一味と一緒に捕まった。」
ハーマイオニーが息を呑んで尋ねた。
「クラウチの息子が捕まった?」
「そう。あのバーティにとっては、相当きついショックだったろうね。たまには早く仕事を切り上げるべきだった。自分の息子をよく知るべきだったのだ。」
しかし、クラウチ氏は迷わず吸魂鬼に息子を差し出したのだと、シリウスは語った。
「彼は私の房に近い独房に入れられた。その日が暮れることには、母親を呼んで泣き叫んだ。2、3日すると大人しくなったがね。みんな姉妹には静かになったものだ・・・眠っている時に悲鳴をあげる以外は・・・・」
シリウスの目に一瞬生気がなくなった。ナツキは黙って、その肩に寄り添った。父の腕がほんの少しだけ力を込めて、彼女を抱き寄せる。やがてシリウスの瞳に、ふたたび優しい温もりが戻ってきた。
「それじゃ、息子はまだアズカバンにいるの?」
ハリーが尋ねると、シリウスは首を横に振った。クラウチ氏の息子は、投獄から一年後に死んだそうだ。後を追うように、クラウチ氏の奥さんも亡くなったという。
「クラウチは、全てをやり遂げたと思った時に、全てを失った。息子は死に、奥方もなくなり、家名は汚された。人気も大きく落ち込んだ。れっきとした家柄の、立派な若者が、なぜそこまで大きく道を誤ったのかと、人々は疑問に思い始めた。結論は、父親が息子を構ってやらなかったからだ、ということになった。」
長い沈黙が訪れた。それを破ったのはハリーだった。
「ムーディは、クラウチが闇の魔法使うを捕まえることに取り憑かれてるって言ってた。」
「ああ。ほとんど病的だと聞いた。」
「そして、学校に忍び込んで、スネイプの研究室を家探ししたんだ!」
ロンが勝ち誇ったように言った。
「でも、忍び込む必要はないよね?」
ナツキが言葉を挟んだ。
「審査員なんだから堂々と来ればいいのに。」
ロンは一瞬、言葉を失ったように口を閉ざした。
「そうだな。審査員として来れば、スネイプを見張る格好な口実ができる。」
シリウスはそう言った。彼はスネイプを少しばかり疑っているようにナツキは感じた。そして、ハリーは昨日、「魔法薬学」でのカルカロフとスネイプのやりとりについて話し始めた。
「カルカロフはとっても心配そうだった。スネイプに自分の腕の何かを見せていたけど、なんだか、僕には見えなかった。」
「スネイプに自分の腕の何かを見せた?」
シリウスは当惑した。髪を指でかきむしり、そしてまた肩をすくめた。
「わからないな・・・・。それでも、ダンブルドアがスネイプを信用しているというのは事実だ。」
「それなら、ムーディとクラウチは、どうしてそんなにスネイプの研究室に入りたがるんだろう。」
ロンが首を傾げて聞いた。ナツキはふと考えた。ムーディ先生に関しては、もともと疑り深い性格だから、スネイプに限らず、誰の部屋でも調べたがったのかもしれない。
そして、シリウスもまた、似たような推測を口にした。
「しかし、クラウチはまた別だ・・・。本当に病気か?なぜそんな身を引きずってまでスネイプの研究室に入り込んだ?貴賓席に来れないほど重要なことは?対抗試合の審査をするべき時に何をやっていたんだ?」
シリウスは黙り込んだ。少しして、ロンに、パーシーにクラウチ氏とバーサ・ジョーキンズについて探りを入れるよう頼んだ。
「何時かな?」
シリウスの言葉に、ハリーは腕時計を見ようとして、表情を曇らせた。
その時計は壊れていた。かつてナツキが誕生日に贈った、秒針の代わりに金のスニッチが動いていた特別な時計だった。
「・・・ごめん、ナツキ。気に入ってたんだけど。」
「いいよ。また何かあげるね。」
ハーマイオニーが腕時計を確認し、「3時半よ」と顔を上げて言った。
「もう学校に戻ったほうがいい。いいか、よく聞きなさい、」
シリウスはハリーとナツキをじっと見た。
「君たちは、私に会うために学校を抜け出したりしないでくれ。」
「え?」
ナツキはとてもショックな言葉を聞いて、思わず声を漏らした。シリウスは穏やかに彼女を見つめた。
「ナツキ、いいね?」
ナツキは渋々頷いた。シリウスはわずかにほっとした表情を浮かべてから、続けた。
「ここ宛にメモを送ってくれ。これからも、おかしなことがあったら知りたい。しかし許可なしにホグワーツを出たりしないように。試合が終わるまで、つまり6月まではダメだ。」
そして、少しだけ声を落とすと、意味ありげに口元を緩めた。
「それから、大切なことが一つ、君たちの間で私の話をするときは、『スナッフルズ』と呼びなさい。」
シリウスはナツキを見て口角を上げた。その名前は、昨年度、ナツキが犬のシリウスを、そうとは知らずに付けた名前だ。
ハリーたちは荷物をまとめ、洞窟を出る準備を始めていた。
そのとき、シリウスがふと声をかけた。
「ナツキ、少しいいか?」
そう言って、彼女に手招きをする。
ナツキがそっと近づくと、シリウスは穏やかな声で尋ねた。
「君の悩みは解決したかい?」
「あ、」
ナツキは少し驚いた顔をしてから、思い出した。以前、ほんの少しだけ、恋についてを父に相談したのだ。
途端に顔が熱くなり、ナツキは照れ隠しのようにうつむいた。そして、こくりと小さくうなずいた。
シリウスは娘の様子を見つめながら、少しだけ顔をしかめる。
「・・・・・全く、父としては複雑な気分だ。君の好きな人というのは、ハリーなのか?」
期待するような目でシリウスはナツキを見た。だが当然ナツキは首を横に振った。
「ではロンか?」
「ううん。ロンのお兄ちゃん。この前、バレンタインから、付き合うことになったの。」
シリウスの表情が固まった。まるで、予想外だったようだ。でもそれは当然だ。シリウスは、ナツキのハリー、ロン、ハーマイオニー以外との交友関係を知らないのだから。
「ロンと同じ赤毛で、双子の片割れで、悪戯ずきで、優しい人。」
その言葉に、シリウスは目を細めた。しばらく黙ったまま娘を見つめていたが、やがて小さく息をつき、低い声で言った。
「・・・そうか・・・・」
そして、ぽつりと続けた。
「ナツキ、もう少しゆっくり大人になってくれると私としては安心だ。せっかく父になったというのに寂しくなる話ばかりだ。」
シリウスはそう言うと、ナツキの頬にキスをした。
「君を世界で一番愛してるのは私だからな。」
ナツキはつい吹き出してしまった。そして、少し照れながらもまっすぐ父を見て言った。
「私もお父さんのこと、愛してるよ。」
シリウスの顔に安堵が浮かんだ。これが二人の父と娘として初めてまともに過ごした時間となった。それは言葉にできないほど、あたたかかった。