炎のゴブレット
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新学期が始まり、ホグワーツにもまた日常が戻ってきた。とはいえ、ハリーは依然として金の卵の謎に頭を抱えているようだった。ナツキも色々と知恵を振り絞ってみるが、答えは分からない。
新学期初日は「魔法生物飼育学」の授業の日だった。校庭はまだ深い雪に包まれていた。
「・・・あれ?」
ナツキは異変に気づいた。ハリーたちもだ。ハグリッドの小屋の外にいたのは、ハリーではなく白髪の老魔女、グラブリー・プランク先生だった。
「『魔法生物飼育学』の代用教師だよ。ハグリッドは気分が悪くてね。」
先生の言葉にナツキとハリーたちは目を合わせた。
その時、共同で授業を受けるスリザリン生たちが嬉しそうにやってきた。
「こっちへおいで。」
グリフィンドールとスリザリンの四年生たちは、彼女に導かれて城の敷地を抜け、禁じられた森のはずれへと向かっていった。
そこにある一本の木に大きな美しいユニコーンが繋がれていた。
「男の子は下がって!・・・女の子は前へ。気をつけて近づくように。さあ、ゆっくりと・・・・・」
ラベンダー・ブラウンが最初にユニコーンに近づき、そっとそのたてがみに手を添えた。ユニコーンは静かに瞬きをして、まるで受け入れたかのように鼻を鳴らした。
続いてパーバティ・パチルもそろそろと歩み寄り、たてがみの根元を撫でた。
ハーマイオニーは慎重な足取りで近づき、恐る恐るではあるが前脚のあたりをそっと撫でた。ユニコーンは一度彼女を見たあと、穏やかに頭を下げた。
「素晴らしい反応だよ、皆。次、君。」
グラブリー・プランク先生が軽く顎をしゃくってナツキを促した。
ナツキは胸の高鳴りを感じながら、ユニコーンへと歩み寄った。足元の雪がきゅっきゅっと音を立てる。その音がやけに大きく響くようで、思わず息を詰める。
指先がユニコーンのたてがみに届く寸前。
「ヒヒィィィィン!」
甲高い鳴き声が森に響いた。ユニコーンが首を振って後ろ足を蹴り上げる。まるで警戒心むき出しに拒絶するような動きだった。
「下がりなさい!」
グラブリー・プランク先生が鋭い声で叫び、ナツキは思わず飛び退いた。
「手を出すんじゃない。ああ、気にする事はない。女の子でも相性が悪いことは時々あるんだ。」
優しい声ではあったが、クラスの空気はすでにざわついていた。ナツキは何が起きたのかすぐには理解できず、その場に立ち尽くしていた。
すると後ろの方から、スリザリンの女子たちのひそひそ声が聞こえてきた。
「ユニコーンって、純粋な乙女を好むって言うじゃない。あの子、男好きだから、寄ってきてもらえないのよ。」
「声をかけてきた男子全員の相手をしてるって噂よ。」
「まあ、汚らわしい!」
その言葉は小さな声だったけれど、ナツキの耳にははっきりと届いた。
「ナツキ、気にすることないわ。」
すぐそばでハーマイオニーがそっと声をかけてくれた。
「先生も仰ったでしょう?たまたま相性が悪かっただけよ。あの子たち、あなたのモテっぷりに嫉妬してるのよ。」
ナツキはハーマイオニーに曖昧に笑みを返して、仕方なく女子の中でただ一人、グリフィンドールの男子生徒たちの中へ戻った。
そのとき、ロンが口を開いた。
「みろよ、ナツキ。ブスどもがナツキを見て、余計ブスな顔してなんか言ってるぜ。」
「ちょっと、ロン、言い過ぎ。」
そうは言っても、ナツキは思わず笑ってしまったのだった。
「それ、なに?」
「リータ・スキーターの記事だよ。」
そう言ってハリーが差し出したのは、日刊預言者新聞の最新号だった。ページを開くと、そこにはハグリッドを痛烈に非難する見出しが踊っていた。
「ひどい。」
ナツキは思わず声を漏らす。ハグリッドの血筋や外見にまで言及した、悪意に満ちた記事だった。
さらに腹立たしいことに、その中にはマルフォイの「ホグワーツの生徒の声」としてのインタビューが掲載されていた。いかにも嬉々として話したようなコメントが並んでいる。
ナツキは、じっと新聞の文字を見つめながら思った。こんな理不尽なことがまかり通っていいはずがない。ハグリッドは、誰よりも優しくて、温かくて、面白い先生で、大切な友達なのに。
でもスキーターはどうやってハグリッドが半巨人であるとわかったのだろうかと四人は首を傾げたのだった。
「ハグリッドに会いにいかなくちゃ!戻ってきてほしいって、ハグリッドに言うんだ!」
ハリーの言葉にナツキとロンはすぐに頷いた。ハーマイオニーは少し遅れて頷いた。
その夜四人はハグリッドの小屋に行った。しかし、小屋の中からはグリッドは結局出てこなかった。
その週はハグリッドがいないだけではなく、別なことでもナツキにとって最悪の日々になった。
マグル学の教室を出たときのことだった。廊下の先にビクトール・クラムが立っていた。彼はやや恥ずかしそうにナツキに近づいてきた。
「あの、ハームアイオウンニニーに、ヴォく、贈り物をしたくて、その友人の君二、相談にノッテほしい。」
「わあ!もちろん!・・・あ!あそこに座らない?」
ナツキは廊下の端にあるベンチを指差し、クラムも無言で頷いて一緒に腰を下ろした。声をひそめながら、ナツキはハーマイオニーの好みを一生懸命に説明した。
「ハーマイオニーは本が勉強が好きなの。だから本を上げると喜ぶよ。それでね・・・」
クラムは慣れない英語に時折うなずきながら、持参した小さなメモ帳に自分の言葉で記録していた。
廊下は夕方の授業終わりで人通りが多くなっていた。ナツキも何人かの女子生徒がこちらを見ていることに気づいていたが、クラムが有名人だからだろうと、特に気には留めなかった。
けれど、ふと聞こえてきたひそひそ声に、ナツキの背筋がひやりとした。
「見て、また男と。今度は親友の相手にまで手を出してるわ。」
「さすが男好き。ほんと軽いわよね、あの子。」
その言葉はナツキの胸を刺した。笑顔のまま気づかないふりをした。でも、心は静かに凍りついていた。
その日の夜、気分か沈んだナツキがまだ誰もいない女子部屋で、ベッドに入ろうとすると、窓のところでコツンと音がした。黒いフクロウだ。
ナツキがそっと近づくと、フクロウは一通の封筒を置いて、また静かに飛び去っていった。
震える指で封を切り、中の手紙を取り出す。
ーーーーー
ナツキへ
手紙、ちゃんと読んだよ。
まずは、ピアスを気に入ってくれて何よりだ。でもな、まさか娘から恋について相談を受ける日が来るとは思ってなかったよ。正直かなり寂しい気分になった。君がそれだけ大きくなったってことなんだろうな。
さて、恋について、だったな。
私が思うに、恋は思ってるより面倒で、思ってるより素晴らしくて、そして思ってるより、ずっと痛い。私はナツキの母さんに恋をして、そしていろんなことがあった。でも、不思議なことに、いくら辛くても、それでも君の母さんに恋してよかったと言える。だから、君という宝物ができたんだ。
君が友達を傷つけたと思っているなら、それだけ真剣だった証拠だ。誰かを好きになるってことは、誰かの期待に応えられなくなることでもある。でも、その苦しみを受け止めて、誰かを「好き」だと胸を張って思える自分でいてくれたら、それでいい。
父親として、遠くからしか見守れないのはつらい。辛い思いをする君を抱きしめてあげられたら、少しは君の元気の足しになるだろうに。
私はいつだって君の味方だ。ただ、まだ恋人を紹介したりはしないでくれ。心の準備ができていないからね。それと、これだけは断言できるが、君のことを世界で一番愛しているのは父である私だ。
シリウスより
ーーーーー
「ふふ、」
ナツキは思わず笑みをこぼした。
けれど、その笑みはすぐに揺らぎ、胸の奥にじんと寂しさが広がっていった。
夜の女子寮の部屋。カーテンを閉めたベッドの中、毛布の中でひとり、ランプの柔らかな灯りの下、手紙を読み返していた。
シリウスの文字は、どこか不器用で、でもあたたかかった。
「・・・会いたい・・・」
ぽつりとこぼれた声は、誰にも届かず、天蓋の布の中に吸い込まれていった。
一月半ばにホグズミード行きが許された。ナツキを取り巻く噂話は相変わらず酷いものだった。スリザリン生たちだけでなく、レイブンクローの女子たちまでもが、彼女の名前を口にしながら小声で笑ったり、顔をしかめたりしていた。
ナツキは表情には出さないようにしていたが、心の中に吸魂鬼が住み着いているような気分だった。
「僕、許せないよ。あんなの間違ってる。言い返していいかい?」
怒気を含んだハリーの声に、ナツキは顔を上げた。けれど先に口を開いたのはハーマイオニーだった。
「ダメよ、ハリー。今あなたが何か言ったら、余計にナツキが傷つくことになるわ。あなたが庇えば庇うほど、きっとまた『やっぱりハリーが本命なんだ』とか言って騒がれるに決まってるわ。」
ナツキもその通りだと思った。
「ありがとう、ハリー。でも大丈夫。ほんとに、気にしてないから。」
ナツキは笑って見せた。少し無理をしているのは自分でも分かっていたけれど、それでも今は、明るく振る舞う方がいい。
「ホグズミードに行こう?今日は楽しく過ごそうよ。」
そう言ってナツキが歩き出すと、ハリーとハーマイオニー、ロンも静かに後に続いた。
四人は「三本の箒」に入った。外店内は暖かく、バタービールの甘い香りが漂っていた。
「まあああ!あなたってば、ナツキなの? まあ、なんて美人になったの!ほんとにまあまあ!」
ナツキが扉をくぐった途端、カウンターからマダム・ロスメルタが目を見開いて声を上げた。
「お久しぶりです。」
ナツキは少し照れながら微笑んだ。
「大きくなったのねえ!さあ、遠慮しないでバタービールを飲んで。体があったまるわよ!」
そう言って、マダム・ロスメルタは泡の立つバタービールのジョッキを彼女の前に差し出した。ハリーたちにも同じように用意してくれる。
四人は笑顔でジョッキを受け取り、カウンターの一角に並んで腰を下ろした。一口飲んで、ふうっと息をついたその時だった。
「見て!」
突然ハーマイオニーがひそひそ声で言い、誰にも聞かれないように鏡の方をそっと指差した。
「・・・バグマンとゴブリン?」
鏡越しに見えたのはルード・バグマンと大勢のゴブリンだった。会話の雰囲気は明らかに穏やかではなかった。バグマンの顔は強ばっており、まるで闇の印が現れたあの夜のように、極度の緊張をにじませている。
「すぐだ。すぐだから!」
ナツキたちの席までかすかに届いたその声には、明らかに苛立ちが滲んでいた。バグマンが短くそう告げると、ゴブリンたちは無言で彼を睨みつけたまま、じっと動かない。
そのとき、バグマンの視線がふとこちらに向き、ハリーを見つけた。次の瞬間には、さっきまでの表情が嘘のように消え、彼はニコニコと笑顔を浮かべながら、こちらへと歩いてきた。
そしてハリーと二人で話したいといい、ハリーを連れて行ってしまった。
「ゴブリンと揉めてるように見えるね。」
ナツキがぽつりと呟くと、ハーマイオニーも頷いた。
「そうね。あの人ちょっといい加減だし、それでじゃない?」
「でも、俺らには関係ないさ。」
ロンは肩をすくめて、バタービールをひと口飲んだ。
ロンの言葉は正しいと思う。しかしナツキはどうしても気になった。ゴブリンたちと何か揉め事があるのなら、それはバグマンの弱みになるかもしれない。それを使って、ジョージとフレッドの力になれるかもしれない。
ジョッキを両手で包みながら、ナツキは鏡越しにゴブリンたちを観察した。彼らはバグマンを待っているようだった。
少しすると、そのうちの一人が、立ち上がり、店の外に出ようとした。外の空気を吸いたくなったのかもしれない。
「私、ちょっと話を聞いてみる。」
ナツキが椅子を引いて立ち上がると、ハーマイオニーが驚いた顔で口を開いた。
「え?どこへ・・・・」
「すぐ戻るから。大丈夫。」
ナツキは軽く笑って言い、ロンとハーマイオニーを残して、ゴブリンの後を追うようにして店を出た。
「あ、あの、すみません、」
声が少し上ずっていた。振り返ったゴブリンは、警戒心を隠さない目でナツキを見つめた。
「なんの用だ?」
「・・・あの、不躾なんですけど、ルード・バグマンと何を話していたのか、気になって・・・・」
そのゴブリンはナツキの言葉を聞いてひどく不愉快な顔をした。
「まさか君のような子供にまであいつは貸しがあるのか?」
ナツキより背の低いゴブリンはそう言ったのだ。ナツキは彼が警戒を解いたのがわかった。
「・・・貸しがあるのは私の友人です。二つ上で、まだ成人してません。・・・全財産を・・・」
言葉を重ねるうちに、胸の奥が苦しくなってきた。ジョージとフレッドがどれほどの想いで店を持つことを夢見ていたか、それを知っているからこそ、ナツキは涙が滲みそうになった。
それでも、唇を噛んでそれを飲み込む。
ゴブリンは少し目を細めた。冷たい雪の中で、しばらくナツキを見つめていたが、やがてポツリと呟いた。
「・・・・なんてやつだ。ルード・バグマン。」
ゴブリンはそう呟くと、ふとナツキに目を向け、まるで哀れみを含んだような視線を投げた。
「その友人の財産は、戻ってこない可能性が高い。」
静かな口調だったが、その言葉はナツキの胸に重く響いた。
「我々はグリンゴッツで働いている。あいつは、山のような借金を抱えているんだ。クィディッチ・ワールドカップのときに、いくらかは回収できたが、それでも全然足りない。」
「え?」
ナツキは思わず声を漏らした。ゴブリンは小さくため息をつき、静かに言った。
「お嬢さん。あいつは、本当にいい加減な男だ。賭け事にばかり手を出しては、逃げ回っている。気の毒だが、関わらない方がいい。」
雪が舞う路地で、ナツキは立ち尽くしたまま、ゴブリンの言葉を呑み込んでいた。
ナツキが「三本の箒」に戻ろうとすると、バグマンと小鬼たちがゾロゾロと出てくるところだった。
暖かい店内に入ると、フレッドとジョージが意気消沈して隅のテーブルについているのを見つけた。きっと入れ違いになっていたのだろう。
「あ、ナツキ、戻ったのね。」
ハーマイオニーはナツキを見て微笑んだ。
「うん。ちょっと、ジョージたちと話してくる。」
ナツキはゆっくりとテーブルに近づいた。
「隣、いい?」
ジョージが顔を上げ、少し驚いたように彼女を見たが、すぐに軽く頷いた。
「ああ、もちろんさ。」
ナツキは彼の隣に腰を下ろした。正面のフレッドもちらりと目を上げたが、何も言わずにジョッキを回している。
「さっき、バグマンのことで、ゴブリンの一人から少しだけ話を聞いたの。」
ナツキの声に、二人の双子が同時に動きを止めた。
「彼、グリンゴッツに大きな借金があるみたい。それで、クィディッチ・ワールドカップで持っていたお金を取り立てられたらしいの・・・・」
ジョージとフレッドは愕然とした顔でナツキを見た。フレッドは恐る恐る口を開いた。
「おいおい、まさかその金って、俺たちの賭け金じゃないよな?」
「・・・・・わからないけど、状況的には、あなたたちのお金も含まれていると思う。」
ジョージが何か言いかけたが、言葉にならなかった。フレッドは拳を握りしめたまま、唇を真一文字に結んだ。
「ゴブリンがいうには・・・・」
ナツキは、喉の奥に込み上げてくるものを必死に抑えながら、言葉を続けた。悔しくて、やるせなくて、胸がいっぱいになった。でも、本当に悔しいのは目の前の二人だ。だからこそ、ナツキは泣きたくなる気持ちをグッと噛み締めた。
「あ、あなたちの、財産は戻ってこない可能性が高いって・・・」
言い終えた瞬間、フレッドとジョージの表情が強張った。しばしの沈黙が流れ、三人の間に重たい空気が漂った。
フレッドが、深く息をついて天井を見上げ口を開いた。
「最悪だな、俺たち、あの時、勝ったんだぜ?誰よりもすごい賭けに勝ったのに。」
「勝ったのに、全部持っていかれてたなんて・・・・」
ジョージがようやく口を開いた。そしてナツキを見て、困ったように笑みを浮かべた。
「泣きそうになってる。」
ナツキは唇を噛んで首を横に振った。
「私、何もできなかった。・・・悔しい・・・。二人の夢が、あんな人に邪魔されるなんて・・・!」
その瞬間、ジョージがそっと彼女の手に自分の手を重ねた。少し荒れた指先が、ナツキの冷えた手を包み込む。驚いて顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。
「ナツキが何もできないわけないさ。俺たちのためにゴブリンから話を聞いてくれたんだろ?ありがとな。」
「そうだぜ。相棒の言う通りだ。ナツキは億人力だぜ。」
フレッドの言葉にナツキはようやく少しだけ笑みを浮かべた。
その時、ナツキはジョージと重なる手に視線を落としてしまった。そしてみるみるうちに顔に熱が集まっていくのがわかった。
ちょうどそのとき、三人の席にハーマイオニーが勢いよく顔を覗かせた。やや怒気を含んだその表情に、ナツキは一瞬たじろいだ。
「ナツキ!ハグリッドのところに行くわよ!もう逃げ隠れなんかさせないわ!あんな、人の出来損ないみたいな女のことでオタオタするなんて、絶対だめ!さあ、行くわよ!!」
「え?」
ハーマイオニーはナツキの手をむんずと掴み、パブの出口へ向かった。
ナツキはチラリと後ろを振り返り、「またね」と口をぱくぱくさせて連れていかれたのだった。
ナツキがハーマイオニーに引っ張られて「三本の箒」を出ていったあと、しばらくの沈黙が続いた。ジョージは無言で扉の方を見つめていた。
すると、向かいのフレッドが不意に口を開いた。
「完全に意識してたな。おまえのこと。」
ジョージはわざとらしく眉をひそめて返す。
「何の話だよ。」
「惚けんなよ。顔、真っ赤だったぞ。おまえじゃなくて、ナツキのな。」
ジョージは小さく笑って、ジョッキを指でくるくる回した。
「もう、ナツキは恋する準備ができたと思うか?」
フレッドは肩をすくめて、にやにやと笑いながら答える。
「少なくとも俺には、脈しかないように見えたぜ。」
ジョージは苦笑して息を吐いた。
「そうだといいけどな・・・・・。俺がどれだけ、誘惑し続けたと思ってんだ。」
「毎年クリスマス前になるたびに、何送るかでひとり唸ってるのは知ってるぜ。ちなみに寝言でも『これは重すぎるか?』って悩んでるからな。」
「それナツキに言うなよ。」
フレッドはわざとらしくウインクしてから、少し真面目な表情になって口を開いた。
「まあ、真剣な話、ナツキは誰かと早くくっついた方がいい。できれば、お前とな。そうすりゃ、あの不愉快な噂も、少しは収まるだろうしな。」
ジョージの表情が曇った。指先でテーブルを軽く叩きながら、ぽつりと呟く。
「あの噂・・・てっきりスリザリンあたりが言いふらしてると思ってた。でも、やたらと積極的に広めてるの、どうやらレイブンクローの女子らしい。」
「陰湿だな。」
「『あの子って、誰にでも笑いかける』とか『男に媚びてる』とか。どんなに頑張ったって、ナツキの足元にも及ばないからって、そこまで言って乏しめるか?」
フレッドはしばらく黙ってジョージを見ていたが、やがて静かに口を開いた。
「だったら、証明してやれよ。ナツキが媚びるのはお前だけだって。」
ジョージはゆっくりと目を閉じ、そして小さく頷いた。
新学期初日は「魔法生物飼育学」の授業の日だった。校庭はまだ深い雪に包まれていた。
「・・・あれ?」
ナツキは異変に気づいた。ハリーたちもだ。ハグリッドの小屋の外にいたのは、ハリーではなく白髪の老魔女、グラブリー・プランク先生だった。
「『魔法生物飼育学』の代用教師だよ。ハグリッドは気分が悪くてね。」
先生の言葉にナツキとハリーたちは目を合わせた。
その時、共同で授業を受けるスリザリン生たちが嬉しそうにやってきた。
「こっちへおいで。」
グリフィンドールとスリザリンの四年生たちは、彼女に導かれて城の敷地を抜け、禁じられた森のはずれへと向かっていった。
そこにある一本の木に大きな美しいユニコーンが繋がれていた。
「男の子は下がって!・・・女の子は前へ。気をつけて近づくように。さあ、ゆっくりと・・・・・」
ラベンダー・ブラウンが最初にユニコーンに近づき、そっとそのたてがみに手を添えた。ユニコーンは静かに瞬きをして、まるで受け入れたかのように鼻を鳴らした。
続いてパーバティ・パチルもそろそろと歩み寄り、たてがみの根元を撫でた。
ハーマイオニーは慎重な足取りで近づき、恐る恐るではあるが前脚のあたりをそっと撫でた。ユニコーンは一度彼女を見たあと、穏やかに頭を下げた。
「素晴らしい反応だよ、皆。次、君。」
グラブリー・プランク先生が軽く顎をしゃくってナツキを促した。
ナツキは胸の高鳴りを感じながら、ユニコーンへと歩み寄った。足元の雪がきゅっきゅっと音を立てる。その音がやけに大きく響くようで、思わず息を詰める。
指先がユニコーンのたてがみに届く寸前。
「ヒヒィィィィン!」
甲高い鳴き声が森に響いた。ユニコーンが首を振って後ろ足を蹴り上げる。まるで警戒心むき出しに拒絶するような動きだった。
「下がりなさい!」
グラブリー・プランク先生が鋭い声で叫び、ナツキは思わず飛び退いた。
「手を出すんじゃない。ああ、気にする事はない。女の子でも相性が悪いことは時々あるんだ。」
優しい声ではあったが、クラスの空気はすでにざわついていた。ナツキは何が起きたのかすぐには理解できず、その場に立ち尽くしていた。
すると後ろの方から、スリザリンの女子たちのひそひそ声が聞こえてきた。
「ユニコーンって、純粋な乙女を好むって言うじゃない。あの子、男好きだから、寄ってきてもらえないのよ。」
「声をかけてきた男子全員の相手をしてるって噂よ。」
「まあ、汚らわしい!」
その言葉は小さな声だったけれど、ナツキの耳にははっきりと届いた。
「ナツキ、気にすることないわ。」
すぐそばでハーマイオニーがそっと声をかけてくれた。
「先生も仰ったでしょう?たまたま相性が悪かっただけよ。あの子たち、あなたのモテっぷりに嫉妬してるのよ。」
ナツキはハーマイオニーに曖昧に笑みを返して、仕方なく女子の中でただ一人、グリフィンドールの男子生徒たちの中へ戻った。
そのとき、ロンが口を開いた。
「みろよ、ナツキ。ブスどもがナツキを見て、余計ブスな顔してなんか言ってるぜ。」
「ちょっと、ロン、言い過ぎ。」
そうは言っても、ナツキは思わず笑ってしまったのだった。
「それ、なに?」
「リータ・スキーターの記事だよ。」
そう言ってハリーが差し出したのは、日刊預言者新聞の最新号だった。ページを開くと、そこにはハグリッドを痛烈に非難する見出しが踊っていた。
「ひどい。」
ナツキは思わず声を漏らす。ハグリッドの血筋や外見にまで言及した、悪意に満ちた記事だった。
さらに腹立たしいことに、その中にはマルフォイの「ホグワーツの生徒の声」としてのインタビューが掲載されていた。いかにも嬉々として話したようなコメントが並んでいる。
ナツキは、じっと新聞の文字を見つめながら思った。こんな理不尽なことがまかり通っていいはずがない。ハグリッドは、誰よりも優しくて、温かくて、面白い先生で、大切な友達なのに。
でもスキーターはどうやってハグリッドが半巨人であるとわかったのだろうかと四人は首を傾げたのだった。
「ハグリッドに会いにいかなくちゃ!戻ってきてほしいって、ハグリッドに言うんだ!」
ハリーの言葉にナツキとロンはすぐに頷いた。ハーマイオニーは少し遅れて頷いた。
その夜四人はハグリッドの小屋に行った。しかし、小屋の中からはグリッドは結局出てこなかった。
その週はハグリッドがいないだけではなく、別なことでもナツキにとって最悪の日々になった。
マグル学の教室を出たときのことだった。廊下の先にビクトール・クラムが立っていた。彼はやや恥ずかしそうにナツキに近づいてきた。
「あの、ハームアイオウンニニーに、ヴォく、贈り物をしたくて、その友人の君二、相談にノッテほしい。」
「わあ!もちろん!・・・あ!あそこに座らない?」
ナツキは廊下の端にあるベンチを指差し、クラムも無言で頷いて一緒に腰を下ろした。声をひそめながら、ナツキはハーマイオニーの好みを一生懸命に説明した。
「ハーマイオニーは本が勉強が好きなの。だから本を上げると喜ぶよ。それでね・・・」
クラムは慣れない英語に時折うなずきながら、持参した小さなメモ帳に自分の言葉で記録していた。
廊下は夕方の授業終わりで人通りが多くなっていた。ナツキも何人かの女子生徒がこちらを見ていることに気づいていたが、クラムが有名人だからだろうと、特に気には留めなかった。
けれど、ふと聞こえてきたひそひそ声に、ナツキの背筋がひやりとした。
「見て、また男と。今度は親友の相手にまで手を出してるわ。」
「さすが男好き。ほんと軽いわよね、あの子。」
その言葉はナツキの胸を刺した。笑顔のまま気づかないふりをした。でも、心は静かに凍りついていた。
その日の夜、気分か沈んだナツキがまだ誰もいない女子部屋で、ベッドに入ろうとすると、窓のところでコツンと音がした。黒いフクロウだ。
ナツキがそっと近づくと、フクロウは一通の封筒を置いて、また静かに飛び去っていった。
震える指で封を切り、中の手紙を取り出す。
ーーーーー
ナツキへ
手紙、ちゃんと読んだよ。
まずは、ピアスを気に入ってくれて何よりだ。でもな、まさか娘から恋について相談を受ける日が来るとは思ってなかったよ。正直かなり寂しい気分になった。君がそれだけ大きくなったってことなんだろうな。
さて、恋について、だったな。
私が思うに、恋は思ってるより面倒で、思ってるより素晴らしくて、そして思ってるより、ずっと痛い。私はナツキの母さんに恋をして、そしていろんなことがあった。でも、不思議なことに、いくら辛くても、それでも君の母さんに恋してよかったと言える。だから、君という宝物ができたんだ。
君が友達を傷つけたと思っているなら、それだけ真剣だった証拠だ。誰かを好きになるってことは、誰かの期待に応えられなくなることでもある。でも、その苦しみを受け止めて、誰かを「好き」だと胸を張って思える自分でいてくれたら、それでいい。
父親として、遠くからしか見守れないのはつらい。辛い思いをする君を抱きしめてあげられたら、少しは君の元気の足しになるだろうに。
私はいつだって君の味方だ。ただ、まだ恋人を紹介したりはしないでくれ。心の準備ができていないからね。それと、これだけは断言できるが、君のことを世界で一番愛しているのは父である私だ。
シリウスより
ーーーーー
「ふふ、」
ナツキは思わず笑みをこぼした。
けれど、その笑みはすぐに揺らぎ、胸の奥にじんと寂しさが広がっていった。
夜の女子寮の部屋。カーテンを閉めたベッドの中、毛布の中でひとり、ランプの柔らかな灯りの下、手紙を読み返していた。
シリウスの文字は、どこか不器用で、でもあたたかかった。
「・・・会いたい・・・」
ぽつりとこぼれた声は、誰にも届かず、天蓋の布の中に吸い込まれていった。
一月半ばにホグズミード行きが許された。ナツキを取り巻く噂話は相変わらず酷いものだった。スリザリン生たちだけでなく、レイブンクローの女子たちまでもが、彼女の名前を口にしながら小声で笑ったり、顔をしかめたりしていた。
ナツキは表情には出さないようにしていたが、心の中に吸魂鬼が住み着いているような気分だった。
「僕、許せないよ。あんなの間違ってる。言い返していいかい?」
怒気を含んだハリーの声に、ナツキは顔を上げた。けれど先に口を開いたのはハーマイオニーだった。
「ダメよ、ハリー。今あなたが何か言ったら、余計にナツキが傷つくことになるわ。あなたが庇えば庇うほど、きっとまた『やっぱりハリーが本命なんだ』とか言って騒がれるに決まってるわ。」
ナツキもその通りだと思った。
「ありがとう、ハリー。でも大丈夫。ほんとに、気にしてないから。」
ナツキは笑って見せた。少し無理をしているのは自分でも分かっていたけれど、それでも今は、明るく振る舞う方がいい。
「ホグズミードに行こう?今日は楽しく過ごそうよ。」
そう言ってナツキが歩き出すと、ハリーとハーマイオニー、ロンも静かに後に続いた。
四人は「三本の箒」に入った。外店内は暖かく、バタービールの甘い香りが漂っていた。
「まあああ!あなたってば、ナツキなの? まあ、なんて美人になったの!ほんとにまあまあ!」
ナツキが扉をくぐった途端、カウンターからマダム・ロスメルタが目を見開いて声を上げた。
「お久しぶりです。」
ナツキは少し照れながら微笑んだ。
「大きくなったのねえ!さあ、遠慮しないでバタービールを飲んで。体があったまるわよ!」
そう言って、マダム・ロスメルタは泡の立つバタービールのジョッキを彼女の前に差し出した。ハリーたちにも同じように用意してくれる。
四人は笑顔でジョッキを受け取り、カウンターの一角に並んで腰を下ろした。一口飲んで、ふうっと息をついたその時だった。
「見て!」
突然ハーマイオニーがひそひそ声で言い、誰にも聞かれないように鏡の方をそっと指差した。
「・・・バグマンとゴブリン?」
鏡越しに見えたのはルード・バグマンと大勢のゴブリンだった。会話の雰囲気は明らかに穏やかではなかった。バグマンの顔は強ばっており、まるで闇の印が現れたあの夜のように、極度の緊張をにじませている。
「すぐだ。すぐだから!」
ナツキたちの席までかすかに届いたその声には、明らかに苛立ちが滲んでいた。バグマンが短くそう告げると、ゴブリンたちは無言で彼を睨みつけたまま、じっと動かない。
そのとき、バグマンの視線がふとこちらに向き、ハリーを見つけた。次の瞬間には、さっきまでの表情が嘘のように消え、彼はニコニコと笑顔を浮かべながら、こちらへと歩いてきた。
そしてハリーと二人で話したいといい、ハリーを連れて行ってしまった。
「ゴブリンと揉めてるように見えるね。」
ナツキがぽつりと呟くと、ハーマイオニーも頷いた。
「そうね。あの人ちょっといい加減だし、それでじゃない?」
「でも、俺らには関係ないさ。」
ロンは肩をすくめて、バタービールをひと口飲んだ。
ロンの言葉は正しいと思う。しかしナツキはどうしても気になった。ゴブリンたちと何か揉め事があるのなら、それはバグマンの弱みになるかもしれない。それを使って、ジョージとフレッドの力になれるかもしれない。
ジョッキを両手で包みながら、ナツキは鏡越しにゴブリンたちを観察した。彼らはバグマンを待っているようだった。
少しすると、そのうちの一人が、立ち上がり、店の外に出ようとした。外の空気を吸いたくなったのかもしれない。
「私、ちょっと話を聞いてみる。」
ナツキが椅子を引いて立ち上がると、ハーマイオニーが驚いた顔で口を開いた。
「え?どこへ・・・・」
「すぐ戻るから。大丈夫。」
ナツキは軽く笑って言い、ロンとハーマイオニーを残して、ゴブリンの後を追うようにして店を出た。
「あ、あの、すみません、」
声が少し上ずっていた。振り返ったゴブリンは、警戒心を隠さない目でナツキを見つめた。
「なんの用だ?」
「・・・あの、不躾なんですけど、ルード・バグマンと何を話していたのか、気になって・・・・」
そのゴブリンはナツキの言葉を聞いてひどく不愉快な顔をした。
「まさか君のような子供にまであいつは貸しがあるのか?」
ナツキより背の低いゴブリンはそう言ったのだ。ナツキは彼が警戒を解いたのがわかった。
「・・・貸しがあるのは私の友人です。二つ上で、まだ成人してません。・・・全財産を・・・」
言葉を重ねるうちに、胸の奥が苦しくなってきた。ジョージとフレッドがどれほどの想いで店を持つことを夢見ていたか、それを知っているからこそ、ナツキは涙が滲みそうになった。
それでも、唇を噛んでそれを飲み込む。
ゴブリンは少し目を細めた。冷たい雪の中で、しばらくナツキを見つめていたが、やがてポツリと呟いた。
「・・・・なんてやつだ。ルード・バグマン。」
ゴブリンはそう呟くと、ふとナツキに目を向け、まるで哀れみを含んだような視線を投げた。
「その友人の財産は、戻ってこない可能性が高い。」
静かな口調だったが、その言葉はナツキの胸に重く響いた。
「我々はグリンゴッツで働いている。あいつは、山のような借金を抱えているんだ。クィディッチ・ワールドカップのときに、いくらかは回収できたが、それでも全然足りない。」
「え?」
ナツキは思わず声を漏らした。ゴブリンは小さくため息をつき、静かに言った。
「お嬢さん。あいつは、本当にいい加減な男だ。賭け事にばかり手を出しては、逃げ回っている。気の毒だが、関わらない方がいい。」
雪が舞う路地で、ナツキは立ち尽くしたまま、ゴブリンの言葉を呑み込んでいた。
ナツキが「三本の箒」に戻ろうとすると、バグマンと小鬼たちがゾロゾロと出てくるところだった。
暖かい店内に入ると、フレッドとジョージが意気消沈して隅のテーブルについているのを見つけた。きっと入れ違いになっていたのだろう。
「あ、ナツキ、戻ったのね。」
ハーマイオニーはナツキを見て微笑んだ。
「うん。ちょっと、ジョージたちと話してくる。」
ナツキはゆっくりとテーブルに近づいた。
「隣、いい?」
ジョージが顔を上げ、少し驚いたように彼女を見たが、すぐに軽く頷いた。
「ああ、もちろんさ。」
ナツキは彼の隣に腰を下ろした。正面のフレッドもちらりと目を上げたが、何も言わずにジョッキを回している。
「さっき、バグマンのことで、ゴブリンの一人から少しだけ話を聞いたの。」
ナツキの声に、二人の双子が同時に動きを止めた。
「彼、グリンゴッツに大きな借金があるみたい。それで、クィディッチ・ワールドカップで持っていたお金を取り立てられたらしいの・・・・」
ジョージとフレッドは愕然とした顔でナツキを見た。フレッドは恐る恐る口を開いた。
「おいおい、まさかその金って、俺たちの賭け金じゃないよな?」
「・・・・・わからないけど、状況的には、あなたたちのお金も含まれていると思う。」
ジョージが何か言いかけたが、言葉にならなかった。フレッドは拳を握りしめたまま、唇を真一文字に結んだ。
「ゴブリンがいうには・・・・」
ナツキは、喉の奥に込み上げてくるものを必死に抑えながら、言葉を続けた。悔しくて、やるせなくて、胸がいっぱいになった。でも、本当に悔しいのは目の前の二人だ。だからこそ、ナツキは泣きたくなる気持ちをグッと噛み締めた。
「あ、あなたちの、財産は戻ってこない可能性が高いって・・・」
言い終えた瞬間、フレッドとジョージの表情が強張った。しばしの沈黙が流れ、三人の間に重たい空気が漂った。
フレッドが、深く息をついて天井を見上げ口を開いた。
「最悪だな、俺たち、あの時、勝ったんだぜ?誰よりもすごい賭けに勝ったのに。」
「勝ったのに、全部持っていかれてたなんて・・・・」
ジョージがようやく口を開いた。そしてナツキを見て、困ったように笑みを浮かべた。
「泣きそうになってる。」
ナツキは唇を噛んで首を横に振った。
「私、何もできなかった。・・・悔しい・・・。二人の夢が、あんな人に邪魔されるなんて・・・!」
その瞬間、ジョージがそっと彼女の手に自分の手を重ねた。少し荒れた指先が、ナツキの冷えた手を包み込む。驚いて顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。
「ナツキが何もできないわけないさ。俺たちのためにゴブリンから話を聞いてくれたんだろ?ありがとな。」
「そうだぜ。相棒の言う通りだ。ナツキは億人力だぜ。」
フレッドの言葉にナツキはようやく少しだけ笑みを浮かべた。
その時、ナツキはジョージと重なる手に視線を落としてしまった。そしてみるみるうちに顔に熱が集まっていくのがわかった。
ちょうどそのとき、三人の席にハーマイオニーが勢いよく顔を覗かせた。やや怒気を含んだその表情に、ナツキは一瞬たじろいだ。
「ナツキ!ハグリッドのところに行くわよ!もう逃げ隠れなんかさせないわ!あんな、人の出来損ないみたいな女のことでオタオタするなんて、絶対だめ!さあ、行くわよ!!」
「え?」
ハーマイオニーはナツキの手をむんずと掴み、パブの出口へ向かった。
ナツキはチラリと後ろを振り返り、「またね」と口をぱくぱくさせて連れていかれたのだった。
ナツキがハーマイオニーに引っ張られて「三本の箒」を出ていったあと、しばらくの沈黙が続いた。ジョージは無言で扉の方を見つめていた。
すると、向かいのフレッドが不意に口を開いた。
「完全に意識してたな。おまえのこと。」
ジョージはわざとらしく眉をひそめて返す。
「何の話だよ。」
「惚けんなよ。顔、真っ赤だったぞ。おまえじゃなくて、ナツキのな。」
ジョージは小さく笑って、ジョッキを指でくるくる回した。
「もう、ナツキは恋する準備ができたと思うか?」
フレッドは肩をすくめて、にやにやと笑いながら答える。
「少なくとも俺には、脈しかないように見えたぜ。」
ジョージは苦笑して息を吐いた。
「そうだといいけどな・・・・・。俺がどれだけ、誘惑し続けたと思ってんだ。」
「毎年クリスマス前になるたびに、何送るかでひとり唸ってるのは知ってるぜ。ちなみに寝言でも『これは重すぎるか?』って悩んでるからな。」
「それナツキに言うなよ。」
フレッドはわざとらしくウインクしてから、少し真面目な表情になって口を開いた。
「まあ、真剣な話、ナツキは誰かと早くくっついた方がいい。できれば、お前とな。そうすりゃ、あの不愉快な噂も、少しは収まるだろうしな。」
ジョージの表情が曇った。指先でテーブルを軽く叩きながら、ぽつりと呟く。
「あの噂・・・てっきりスリザリンあたりが言いふらしてると思ってた。でも、やたらと積極的に広めてるの、どうやらレイブンクローの女子らしい。」
「陰湿だな。」
「『あの子って、誰にでも笑いかける』とか『男に媚びてる』とか。どんなに頑張ったって、ナツキの足元にも及ばないからって、そこまで言って乏しめるか?」
フレッドはしばらく黙ってジョージを見ていたが、やがて静かに口を開いた。
「だったら、証明してやれよ。ナツキが媚びるのはお前だけだって。」
ジョージはゆっくりと目を閉じ、そして小さく頷いた。