炎のゴブレット
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クリスマスの翌日は、みんな朝寝坊した。ナツキは不思議な気持ちで朝を迎えながらも、いつも通り振る舞った。
「ハグリッドが半巨人?うーん、でも、正直、今更じゃない?私たちと同じサイズではないよ。」
ハリーとロンから、ナツキとハーマイオニーはハグリッドとマダム・マクシームの会話について聞かされた。
「・・・ハグリッド、ボーバトンの校長先生のこと好きだったのかな?」
「ウーン、そんな感じはしたけど。」
ナツキがふと漏らした問いにハリーは不思議そうに返した。
「でも、ナツキがそういうことを気にするのって、なんだか珍しいね。」
「え?あー、そんな気分の時もあるでしょ。」
ナツキは思わず目を見開いて、適当にその場を誤魔化したのだった。
その後四人で朝食を食べてから、ナツキはひとりで中庭へ出た。雪はすっかり止んで、澄んだ冬の光が城の壁を柔らかく照らしている。
宿題をしに図書室に行きたいけれど、もしかしたらそこにセドリックがいるかもしれない。彼とはよくそこで会っていたから。
私は昨夜、なんて答えればよかったんだろう。
セドリックの声が、何度も頭の中で繰り返される。
──好きだよ、ナツキ。ずっと、君のことが好きだった。
あんなに優しくて、まっすぐな目で言われて、何も答えられなかった自分が情けなかった。
セドリックは人気者で、いつも誰に対しても穏やかで、公平だった。そんな彼に、好きだと言われたことは、きっと幸せなことだろう。
でも、自分の気持ちはもう、はっきりしている。
わたしが好きなのは、ジョージなんだ。
そう思えば思うほど、胸の奥がちくりと痛んだ。セドリックのことを嫌いになったわけじゃない。むしろ、とても大切な存在だった。だからこそ、好きだと言われたことで、落胆している自分にも気づいた。
「・・・ごめんね、セドリック・・・」
小さく、誰にも聞こえないように呟いた声が、静かな雪の中に消えていった。
その時、ふいに足音が聞こえた。
「こんなとこで、また迷子かと思ったぞ。」
その声にナツキが振り返ると、ジョージが手をポケットにつっこんだまま、にやりと笑って立っていた。
「あ、えっと・・・」
ナツキは自分でも信じられないほどぎこちない声を出していた。普段なら「迷子」を揶揄われたところで軽口で返せるはずなのに、今日はまったく上手くいかない。
「か、考え事してただけ。」
なんだかジョージと目を合わせていられなくて、視線をそっと逸らした。
「なんかあったか?」
ジョージが、それに気づかないわけがないのを失念していた。彼はすぐに何かを察してしまって、中庭のベンチに腰掛ける、ナツキの脇に腰を下ろした。
「ハリーの心配事?」
「・・・え?・・・あ、」
ナツキは驚いた。ハリーの対抗試合のことをすっかり忘れていた自分に。ホグワーツに入ってからは、いつもハリーの心配をしてばかりの日々だった。なのに、自分のことでいっぱいになっていた。
ナツキは視線を落としたまま、小さく首を振った。
「ううん、なんでもないよ。」
「・・・そう?」
ジョージはそれ以上、何も聞かなかった。ただ、少しだけ体をナツキのほうに寄せて、同じ景色を見てくれた。
無理に踏み込んでこないジョージの優しさに、ナツキは胸が熱くなるのを感じた。
そうだ、私は、彼のこういうところが好きなんだ。
笑わせてくれるところも、意地悪な冗談も、私が惨めで辛かった時、誰よりも優しく寄り添ってくれた、思いやり深いところも。
彼と一緒にいるときのが一番安心できる。
あの夜のことが頭をよぎった。セドリックのまっすぐな告白。優しい言葉。あたたかい眼差し。
でも彼に「好き」とは、言えなかった。わたしが、本当に想っている人は、目の前にいる、この人だから。
横目でジョージを見ると、燃えるような赤毛と、空を見上げる彼の横顔が見えた。
ジョージは私のことをどう思っているんだろう。
ロンの親友?ジニーみたいな妹?
それとも、女の子として、少しくらい、意識してくれているんだろうか?
そんなことを考えた瞬間、自分でもびっくりするくらい顔が熱くなった。たぶん、もう真っ赤になってる。
どうか今だけは、ジョージがこっちを見ませんように。
ナツキは思わず、視線を空に逃がした。
「そうだ、ナツキ、またレオーネ借りていいか?調べたいことができて・・・どうした?着込み過ぎてスクリュートみたいに真っ赤だぜ。」
「・・・・レオーネにゆっくーり運ぶよう言わないと。」
そう言い返しながら、ナツキは顔の火照りをごまかすようにマフラーに口を埋めた。
「勘弁してくれ!」
冗談を交わし合いながらも、ナツキの心は少しずつ落ち着いていった。
「じゃあ、私は図書室行ってくるね。宿題をしないといけないから。」
「了解。じゃ、俺はフクロウ小屋に行くぜ。」
ジョージが手をひらひらと振って歩き去っていくのを見送ってから、ナツキはそっと息をついた。
彼の背中を目で追ってしまう自分に、もう嘘はつけなかった。セドリックには、ちゃんと気持ちを伝えよう。
ナツキは、雪の残る石畳を踏みしめながら図書室へと向かった。
図書館の窓辺に座って、ナツキは黙々と宿題を進めていた。羊皮紙に薬草学のレポートが半分ほど書き終わっている。
自然と視線が、入口の方を何度も泳いでしまう。けれどそこに現れるのは話したことのない下級生ばかりで、セドリックの姿はない。
ひとまず夕食前には宿題を終わらせようと気持ちを切り替えた時だった。
「ナツキ、宿題?」
声に振り向けば、セドリックが側に立っていた。はにかむように微笑んでいる。
「セドリック・・・・あの、」
「ん?」
ナツキも咄嗟に立ち上がっていた。
「少しだけ話せる?」
「・・・うん・・・」
セドリックは一呼吸置いてから、そう言って頷いた。
ナツキは近くのマグル学の教室が空いているので、そこにセドリックを連れ込んだ。教室は静かだった。
ナツキは机の端に軽く腰を下ろし、ほんの少しだけ指先を握りしめた。彼の目をまっすぐに見ながら、言った。
「昨日のことだけど、」
セドリックの表情が、ゆっくりと引き締まっていく。ナツキはひとつ、大きく息を吸って、続けた。
「すごく嬉しかった。セドリックが、私のことをそんなふうに想ってくれて。でも・・・私は・・・ごめんなさい。」
沈黙。静かな教室に、時計の針の音だけが響いたような気がした。
「・・・去年、君は、この教室の場所がわからなくて、困っていたね。」
セドリックはポツリポツリと話し始めた。ナツキは彼が突然そんな話をするのだから戸惑った。
「その前から、君のこと、かわいい子だなって思ってたんだ。・・・でもあの時、君が困っていたのを見て、これはチャンスだって思った。それで自分が授業に遅れそうになるのも気にせずに、君をしょっちゅう教室に送り届けた。・・・ばかみたいだろ?」
苦笑するセドリックにナツキは何も言えなかった。セドリックは続けた。
「君と話すたびに、どんどん惹かれていったんだ。可愛いだけじゃなくて、真面目で、穏やかで、でも芯が強くて、いつも何かに一生懸命で。・・・・・あっという間に本気で好きになってた。」
ナツキは、言葉を失っていた。セドリックが、こんなにも長く、自分のことを見ていてくれたなんて、気づかなかった。きっとそれに気づける余裕がなかったんだ。
「でも君が一生懸命になるのは、いつだって僕じゃない誰かのためだった。」
ナツキは息を呑んだ。
「ハリーやウィーズリーたち、ハグリッドや、ヒッポグリフ・・・。君の優しさは、いつも誰かのためにあったけど、その誰かに、僕は一度もなれなかった。」
静かな声だった。責めるようでも、恨むようでもなかった。ただ、事実を静かに受け入れている声だった。
「僕が、クィディッチでキャプテンになっても、対抗試合の代表選手になってもそれは変わらなかった・・・・・」
セドリックはゆっくりとナツキを見つめながら、言葉を続けた。
「僕の、何がダメだった?」
その声は、怒りでも責めでもなく、自分自身への問いかけのように静かだった。けれどその奥には、抑えきれない切なさが滲んでいた。
「もし僕が、ハリーに勝って、優勝杯を獲得したら・・・・僕のことを見てくれる?」
まっすぐに向けられたその視線が、ナツキの胸を強く締めつけた。
辛い。とても辛いけど、言わないといけないことはわかっていた。
ナツキはそっと目を伏せて、小さく息を吸った。
「セドリックに、ダメなところなんてひとつもないよ。優しくて、真っ直ぐで、誰からも尊敬されてて・・・・本当に素敵な人。」
言葉にするほど、自分がどれほど幸運な告白を受けていたのかを痛感する。だからこそ、はっきり伝えなくてはならなかった。
「・・・でも・・・ごめんなさい。私・・・・好きな人がいるの。その人以外を、好きになれると思えないの。」
精一杯の気持ちだった。本当は彼を傷つけたくなかった。けれど、それでも、正直でいたかった。
ナツキは、ぎゅっと手を握りしめ、顔を上げてセドリックを見つめた。
「本当に、ごめんね。私はセドリックと・・・今までみたいな、友達でいたい・・・・」
その一言に、セドリックの表情が静かに揺れた。わずかに目を伏せ、苦笑のようなものが唇に浮かぶ。
「・・・友達か・・・」
ぽつりと、呟くような声。
「わかったよ。努力する。でも、たぶん、難しいと思う。だって僕は、一度だって、君をただの友達として見たことがないんだから。」
そのまま静かに、けれどどこか切なげに微笑んだ。
「・・・ナツキ、僕とまた仲良くしたいなら、僕の気持ち、受け止めてよ。」
「セドリック、それは・・・」
「僕、諦めが悪いんだ。・・・卑怯だったかな・・・。君が誰を想っていても、それでも僕は、君のこと、好きでいたい。君に振り向いてもらいたい。」
その言葉には、恋の終わりを受け入れきれないセドリックの正直すぎる思いが詰まっていた。
ナツキは何も言えずに立ち尽くし、セドリックは小さく笑ってから、教室をそっと後にした。
ひとり教室に残されたナツキはしばらく何も考えることができなかった。ようやく体が動き始めた時、大広間の夕食にもグリフィンドール塔にも行きにくかった。
広間へ行けば、セドリックにまた会ってしまうかもしれない。談話室に戻れば、ジョージがいるかもしれない。どちらにも、今の気持ちのままでは会いたくなかった。
体は勝手に西塔へと向かっていた。
石段を上りきり、回転扉の先にはいつもの静寂が広がっていた。
「・・・サイラス?」
ナツキの声に、暖炉の前で眠っていたサイラスが、ゆっくりと目を開いた。
「顔が少し曇っているようだな。」
ナツキは黙ってその前に腰を下ろした。言葉がすぐには出てこなかった。
「ねえ、サイラス。恋って、なんだと思う?」
サイラスはしばらく沈黙し、尾の先をわずかに動かしてから、口を開いた。
「・・・アルバにも昔似たようなことを聞かれた。その時私は、『恋をしないから分からない』と答えたんだ。思えば、もっと気の利いた返しをするべきだったんだろう・・・・。アルバはあの時苦しんでいた。」
彼の瞳がゆっくりとナツキに向けられる。
「・・・・ナツキ、お前も苦しいのか?」
ナツキは、ぽつりと呟いた。
「・・・セドリックを、傷つけた。友達じゃ、なくなっちゃった・・・・・・私はジョージが好きだから・・・ジョージが私をどう思ってるかは分からないけど。」
ナツキの言葉で、サイラスは彼女の周りで何が起こったのかをあらかた察した。
「苦しい選択をしたのだな。それでも誠実に答えたその勇気を誇るべきだろう。」
ナツキは、ふとサイラスの金の瞳を見つめた。
「こんな気持ちになるのに、どうして人は恋をするの?」
「より良い血を後世につなげるためだ。」
「いや、まあ、それはそうなんだろうけどさ。」
サイラスからやたらと動物らしい回答が出て、ナツキは笑ってしまった。
「私は恋をしない。だから、お前の気持ちを完全に理解することはできない。」
サイラスは、ゆっくりと尾を揺らしながら続けた。
「ナツキの話を聞くことはできる。だが、的確な助言を求めるのなら、恋を知る誰かに話してみるといい。父親に手紙を出すのはどうだろうか。恋を知っているから、ナツキが生まれたのだろう?」
ナツキは思わず目を見開いた。思いもよらなかった言葉だった。
「・・・そう、だね。」
シリウスの顔が脳裏に浮かぶ。ぶっきらぼうだけど、時々見せる不器用な優しさ。そうだ、自分は父と母が恋をしたから生まれてきた。そのことが、少しだけ心を強くしてくれた気がした。
ナツキは羽ペンを取りインクをつけた。
ーーーーー
お父さんへ
お元気ですか。ピアスありがとう。みんなが似合っていると言ってくれます。でも似合い過ぎてたんでしょう。
ダンスパーティの日、友達に好きだと言われました。でも私には、すでに好きな人がいて、その気持ちに応えることができませんでした。
断るしかなかったんです。
その人とは、もう友達じゃいられない気がしています。大切に思っていたのに、失ってしまったかもしれません。
お父さんは、お母さんと恋をしたとき、辛いと感じたことはありましたか?
ハリーが大変なときに、こんなことを聞いてしまってごめんなさい。
でも、私の近くで、恋をちゃんと知っていそうな人が、お父さんしか思いつかなくて。
ナツキより
ーーーーー
「ハグリッドが半巨人?うーん、でも、正直、今更じゃない?私たちと同じサイズではないよ。」
ハリーとロンから、ナツキとハーマイオニーはハグリッドとマダム・マクシームの会話について聞かされた。
「・・・ハグリッド、ボーバトンの校長先生のこと好きだったのかな?」
「ウーン、そんな感じはしたけど。」
ナツキがふと漏らした問いにハリーは不思議そうに返した。
「でも、ナツキがそういうことを気にするのって、なんだか珍しいね。」
「え?あー、そんな気分の時もあるでしょ。」
ナツキは思わず目を見開いて、適当にその場を誤魔化したのだった。
その後四人で朝食を食べてから、ナツキはひとりで中庭へ出た。雪はすっかり止んで、澄んだ冬の光が城の壁を柔らかく照らしている。
宿題をしに図書室に行きたいけれど、もしかしたらそこにセドリックがいるかもしれない。彼とはよくそこで会っていたから。
私は昨夜、なんて答えればよかったんだろう。
セドリックの声が、何度も頭の中で繰り返される。
──好きだよ、ナツキ。ずっと、君のことが好きだった。
あんなに優しくて、まっすぐな目で言われて、何も答えられなかった自分が情けなかった。
セドリックは人気者で、いつも誰に対しても穏やかで、公平だった。そんな彼に、好きだと言われたことは、きっと幸せなことだろう。
でも、自分の気持ちはもう、はっきりしている。
わたしが好きなのは、ジョージなんだ。
そう思えば思うほど、胸の奥がちくりと痛んだ。セドリックのことを嫌いになったわけじゃない。むしろ、とても大切な存在だった。だからこそ、好きだと言われたことで、落胆している自分にも気づいた。
「・・・ごめんね、セドリック・・・」
小さく、誰にも聞こえないように呟いた声が、静かな雪の中に消えていった。
その時、ふいに足音が聞こえた。
「こんなとこで、また迷子かと思ったぞ。」
その声にナツキが振り返ると、ジョージが手をポケットにつっこんだまま、にやりと笑って立っていた。
「あ、えっと・・・」
ナツキは自分でも信じられないほどぎこちない声を出していた。普段なら「迷子」を揶揄われたところで軽口で返せるはずなのに、今日はまったく上手くいかない。
「か、考え事してただけ。」
なんだかジョージと目を合わせていられなくて、視線をそっと逸らした。
「なんかあったか?」
ジョージが、それに気づかないわけがないのを失念していた。彼はすぐに何かを察してしまって、中庭のベンチに腰掛ける、ナツキの脇に腰を下ろした。
「ハリーの心配事?」
「・・・え?・・・あ、」
ナツキは驚いた。ハリーの対抗試合のことをすっかり忘れていた自分に。ホグワーツに入ってからは、いつもハリーの心配をしてばかりの日々だった。なのに、自分のことでいっぱいになっていた。
ナツキは視線を落としたまま、小さく首を振った。
「ううん、なんでもないよ。」
「・・・そう?」
ジョージはそれ以上、何も聞かなかった。ただ、少しだけ体をナツキのほうに寄せて、同じ景色を見てくれた。
無理に踏み込んでこないジョージの優しさに、ナツキは胸が熱くなるのを感じた。
そうだ、私は、彼のこういうところが好きなんだ。
笑わせてくれるところも、意地悪な冗談も、私が惨めで辛かった時、誰よりも優しく寄り添ってくれた、思いやり深いところも。
彼と一緒にいるときのが一番安心できる。
あの夜のことが頭をよぎった。セドリックのまっすぐな告白。優しい言葉。あたたかい眼差し。
でも彼に「好き」とは、言えなかった。わたしが、本当に想っている人は、目の前にいる、この人だから。
横目でジョージを見ると、燃えるような赤毛と、空を見上げる彼の横顔が見えた。
ジョージは私のことをどう思っているんだろう。
ロンの親友?ジニーみたいな妹?
それとも、女の子として、少しくらい、意識してくれているんだろうか?
そんなことを考えた瞬間、自分でもびっくりするくらい顔が熱くなった。たぶん、もう真っ赤になってる。
どうか今だけは、ジョージがこっちを見ませんように。
ナツキは思わず、視線を空に逃がした。
「そうだ、ナツキ、またレオーネ借りていいか?調べたいことができて・・・どうした?着込み過ぎてスクリュートみたいに真っ赤だぜ。」
「・・・・レオーネにゆっくーり運ぶよう言わないと。」
そう言い返しながら、ナツキは顔の火照りをごまかすようにマフラーに口を埋めた。
「勘弁してくれ!」
冗談を交わし合いながらも、ナツキの心は少しずつ落ち着いていった。
「じゃあ、私は図書室行ってくるね。宿題をしないといけないから。」
「了解。じゃ、俺はフクロウ小屋に行くぜ。」
ジョージが手をひらひらと振って歩き去っていくのを見送ってから、ナツキはそっと息をついた。
彼の背中を目で追ってしまう自分に、もう嘘はつけなかった。セドリックには、ちゃんと気持ちを伝えよう。
ナツキは、雪の残る石畳を踏みしめながら図書室へと向かった。
図書館の窓辺に座って、ナツキは黙々と宿題を進めていた。羊皮紙に薬草学のレポートが半分ほど書き終わっている。
自然と視線が、入口の方を何度も泳いでしまう。けれどそこに現れるのは話したことのない下級生ばかりで、セドリックの姿はない。
ひとまず夕食前には宿題を終わらせようと気持ちを切り替えた時だった。
「ナツキ、宿題?」
声に振り向けば、セドリックが側に立っていた。はにかむように微笑んでいる。
「セドリック・・・・あの、」
「ん?」
ナツキも咄嗟に立ち上がっていた。
「少しだけ話せる?」
「・・・うん・・・」
セドリックは一呼吸置いてから、そう言って頷いた。
ナツキは近くのマグル学の教室が空いているので、そこにセドリックを連れ込んだ。教室は静かだった。
ナツキは机の端に軽く腰を下ろし、ほんの少しだけ指先を握りしめた。彼の目をまっすぐに見ながら、言った。
「昨日のことだけど、」
セドリックの表情が、ゆっくりと引き締まっていく。ナツキはひとつ、大きく息を吸って、続けた。
「すごく嬉しかった。セドリックが、私のことをそんなふうに想ってくれて。でも・・・私は・・・ごめんなさい。」
沈黙。静かな教室に、時計の針の音だけが響いたような気がした。
「・・・去年、君は、この教室の場所がわからなくて、困っていたね。」
セドリックはポツリポツリと話し始めた。ナツキは彼が突然そんな話をするのだから戸惑った。
「その前から、君のこと、かわいい子だなって思ってたんだ。・・・でもあの時、君が困っていたのを見て、これはチャンスだって思った。それで自分が授業に遅れそうになるのも気にせずに、君をしょっちゅう教室に送り届けた。・・・ばかみたいだろ?」
苦笑するセドリックにナツキは何も言えなかった。セドリックは続けた。
「君と話すたびに、どんどん惹かれていったんだ。可愛いだけじゃなくて、真面目で、穏やかで、でも芯が強くて、いつも何かに一生懸命で。・・・・・あっという間に本気で好きになってた。」
ナツキは、言葉を失っていた。セドリックが、こんなにも長く、自分のことを見ていてくれたなんて、気づかなかった。きっとそれに気づける余裕がなかったんだ。
「でも君が一生懸命になるのは、いつだって僕じゃない誰かのためだった。」
ナツキは息を呑んだ。
「ハリーやウィーズリーたち、ハグリッドや、ヒッポグリフ・・・。君の優しさは、いつも誰かのためにあったけど、その誰かに、僕は一度もなれなかった。」
静かな声だった。責めるようでも、恨むようでもなかった。ただ、事実を静かに受け入れている声だった。
「僕が、クィディッチでキャプテンになっても、対抗試合の代表選手になってもそれは変わらなかった・・・・・」
セドリックはゆっくりとナツキを見つめながら、言葉を続けた。
「僕の、何がダメだった?」
その声は、怒りでも責めでもなく、自分自身への問いかけのように静かだった。けれどその奥には、抑えきれない切なさが滲んでいた。
「もし僕が、ハリーに勝って、優勝杯を獲得したら・・・・僕のことを見てくれる?」
まっすぐに向けられたその視線が、ナツキの胸を強く締めつけた。
辛い。とても辛いけど、言わないといけないことはわかっていた。
ナツキはそっと目を伏せて、小さく息を吸った。
「セドリックに、ダメなところなんてひとつもないよ。優しくて、真っ直ぐで、誰からも尊敬されてて・・・・本当に素敵な人。」
言葉にするほど、自分がどれほど幸運な告白を受けていたのかを痛感する。だからこそ、はっきり伝えなくてはならなかった。
「・・・でも・・・ごめんなさい。私・・・・好きな人がいるの。その人以外を、好きになれると思えないの。」
精一杯の気持ちだった。本当は彼を傷つけたくなかった。けれど、それでも、正直でいたかった。
ナツキは、ぎゅっと手を握りしめ、顔を上げてセドリックを見つめた。
「本当に、ごめんね。私はセドリックと・・・今までみたいな、友達でいたい・・・・」
その一言に、セドリックの表情が静かに揺れた。わずかに目を伏せ、苦笑のようなものが唇に浮かぶ。
「・・・友達か・・・」
ぽつりと、呟くような声。
「わかったよ。努力する。でも、たぶん、難しいと思う。だって僕は、一度だって、君をただの友達として見たことがないんだから。」
そのまま静かに、けれどどこか切なげに微笑んだ。
「・・・ナツキ、僕とまた仲良くしたいなら、僕の気持ち、受け止めてよ。」
「セドリック、それは・・・」
「僕、諦めが悪いんだ。・・・卑怯だったかな・・・。君が誰を想っていても、それでも僕は、君のこと、好きでいたい。君に振り向いてもらいたい。」
その言葉には、恋の終わりを受け入れきれないセドリックの正直すぎる思いが詰まっていた。
ナツキは何も言えずに立ち尽くし、セドリックは小さく笑ってから、教室をそっと後にした。
ひとり教室に残されたナツキはしばらく何も考えることができなかった。ようやく体が動き始めた時、大広間の夕食にもグリフィンドール塔にも行きにくかった。
広間へ行けば、セドリックにまた会ってしまうかもしれない。談話室に戻れば、ジョージがいるかもしれない。どちらにも、今の気持ちのままでは会いたくなかった。
体は勝手に西塔へと向かっていた。
石段を上りきり、回転扉の先にはいつもの静寂が広がっていた。
「・・・サイラス?」
ナツキの声に、暖炉の前で眠っていたサイラスが、ゆっくりと目を開いた。
「顔が少し曇っているようだな。」
ナツキは黙ってその前に腰を下ろした。言葉がすぐには出てこなかった。
「ねえ、サイラス。恋って、なんだと思う?」
サイラスはしばらく沈黙し、尾の先をわずかに動かしてから、口を開いた。
「・・・アルバにも昔似たようなことを聞かれた。その時私は、『恋をしないから分からない』と答えたんだ。思えば、もっと気の利いた返しをするべきだったんだろう・・・・。アルバはあの時苦しんでいた。」
彼の瞳がゆっくりとナツキに向けられる。
「・・・・ナツキ、お前も苦しいのか?」
ナツキは、ぽつりと呟いた。
「・・・セドリックを、傷つけた。友達じゃ、なくなっちゃった・・・・・・私はジョージが好きだから・・・ジョージが私をどう思ってるかは分からないけど。」
ナツキの言葉で、サイラスは彼女の周りで何が起こったのかをあらかた察した。
「苦しい選択をしたのだな。それでも誠実に答えたその勇気を誇るべきだろう。」
ナツキは、ふとサイラスの金の瞳を見つめた。
「こんな気持ちになるのに、どうして人は恋をするの?」
「より良い血を後世につなげるためだ。」
「いや、まあ、それはそうなんだろうけどさ。」
サイラスからやたらと動物らしい回答が出て、ナツキは笑ってしまった。
「私は恋をしない。だから、お前の気持ちを完全に理解することはできない。」
サイラスは、ゆっくりと尾を揺らしながら続けた。
「ナツキの話を聞くことはできる。だが、的確な助言を求めるのなら、恋を知る誰かに話してみるといい。父親に手紙を出すのはどうだろうか。恋を知っているから、ナツキが生まれたのだろう?」
ナツキは思わず目を見開いた。思いもよらなかった言葉だった。
「・・・そう、だね。」
シリウスの顔が脳裏に浮かぶ。ぶっきらぼうだけど、時々見せる不器用な優しさ。そうだ、自分は父と母が恋をしたから生まれてきた。そのことが、少しだけ心を強くしてくれた気がした。
ナツキは羽ペンを取りインクをつけた。
ーーーーー
お父さんへ
お元気ですか。ピアスありがとう。みんなが似合っていると言ってくれます。でも似合い過ぎてたんでしょう。
ダンスパーティの日、友達に好きだと言われました。でも私には、すでに好きな人がいて、その気持ちに応えることができませんでした。
断るしかなかったんです。
その人とは、もう友達じゃいられない気がしています。大切に思っていたのに、失ってしまったかもしれません。
お父さんは、お母さんと恋をしたとき、辛いと感じたことはありましたか?
ハリーが大変なときに、こんなことを聞いてしまってごめんなさい。
でも、私の近くで、恋をちゃんと知っていそうな人が、お父さんしか思いつかなくて。
ナツキより
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