炎のゴブレット
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クリスマス休暇がやってきた。ナツキはサイラスに会いに行こうと、西塔の階段を登っていた。
「?」
踊り場に差しかかったところで、ナツキは足を止めた。何やらサイラスから拒絶される感じがしたのだ。サイラスがナツキに会いたくないというとはあまり考えられない。ということは部屋の周囲の気配を探れるサイラスが、誰かが近づいていると警報を発しているのだろう。
今はやめておこう
ナツキは踵を返した。そこでふと、ナツキはサイラスのざっくりした感情がなぜか伝わってくるが、サイラスはナツキの感情を読み取っているのだろうかと不思議に思った。
考えながら廊下を曲がったその瞬間、
「うひゃあっ!」
危うく誰かと正面衝突しそうになった。
「前を見て歩け。いついかなる時も油断大敵だ。」
そこにいたのはムーディ先生だった。彼はまったく動揺する様子もなく、まるでナツキが来ることを知っていたかのような顔で立っていた。
「すみません、ムーディ先生。」
「構わん。暇なら、茶でも飲むか?ん?」
唐突な誘いにナツキは一瞬だけ戸惑ったが、断る理由もなく頷いた。
ムーディ先生の部屋はキテレツだった。去年のルーピン先生の部屋とは全く違う。部屋の隅には、奇妙な鏡と、常に揺れている一つ目の魔眼が置かれていた。
「そこに座れ。ミルクは?砂糖は?」
「どっちも欲しいです。」
そう言って、ムーディ先生は大ぶりなティーポットから湯気の立つ紅茶を注ぎ始めた。
「お前さんは、ポッターと親友らしいな。」
「はい。そうです。」
ムーディ先生はちょっと荒々しくカップをゴトンと置いた。そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「苦労するだろうな。」
「まあ、そうですね。・・・いただきます。」
ナツキは丁寧にカップを持ち上げた。少し熱すぎる紅茶が唇に触れる。
ムーディ先生は椅子に深く腰を沈め、じっと彼女を観察するようにしていた。魔眼はくるくると絶えず回っていて、部屋のあらゆるもの、ナツキの手元、顔の動き、表情の変化までも見逃していないようだった。
「ポッターは運の強いガキだ。だが、そのぶん厄介な敵がいる。」
ぽつりと、先生は言った。
「お前さんが親友だというのは、まっこと運の強いやつだ。そうは思わんか?」
ナツキは嬉しくて、口角が上がった。
「はい、そう思います。」
「ふっふ。そうかそうか。ゴドリクソン、お前さんはいい闇祓いになるだろうな。一番敵に回したくないタイプだ。」
それは褒め言葉のようでいて、どこか底知れぬ響きを伴っていた。ナツキはわずかに背筋を伸ばした。
「そろそろ行きますね。お茶、ごちそうさまでした。」
「うむ。」
ムーディ先生はそれ以上何も言わず、椅子にもたれかかったまま、ただ眼だけがギョロギョロとナツキの動きを追っていた。
扉を開けて外に出ると、廊下の空気はひんやりとしていて、部屋の中よりずっと澄んでいるような気がした。ナツキはひとつ深呼吸をしてから、階段を降り始めた。
いい人、だと思う。でも、なんか、不思議な感じ。
胸の奥に小さなざらつきのようなものを残したまま、ナツキはムーディ先生の部屋をあとにした。
「ナツキ!」
廊下を歩いていると、ハリー、ロン、ハーマイオニーに呼び止められた。
「シリウスから手紙が来た。僕と、君にも。」
「え!」
休暇の大和釣り騒ぎの談話室の隅で、ナツキたちは手紙を開けた。ハリーへの手紙には、一つ目の課題への賛辞と警戒を続けろ、とのことだった。
「ナツキの方にはなんて?」
ハリーにそう尋ねられ、ナツキは手紙を開いた。
「えっと・・・」
ーーーーー
ナツキへ
去年のクリスマスにハリーには立派な箒を贈ったけれど、君には何もしていなかったね。すまない。ダンスパーティがあると小耳に挟んだから、少し早めのクリスマスプレゼントを同封しておいた。気に入ってもらえるといいんだが。
私は元気にしている。君たちのことがいつも気がかりだ。無理はするな。何かあったら知らせておくれ。いつでも君たちの力になる。
愛しているよ。
シリウスより
ーーーーー
ナツキはそっと便箋をたたみ、封筒の中を覗き込んだ。
中に入っていたのは、小さな赤い石のついたピアスだった。深紅の石は艶やかに光を反射している。
「まあ、それ、ナツキのいつもつけているブレスレットとも合うわね。」
「うん・・・」
ナツキは軽く頷きながら、手首に巻かれた銀のブレスレットに視線を落とした。それは、昨年のクリスマス、天文台でジョージがそっと手渡してくれたものだ。それにも、小さな赤い石がはめられている。
「でもさ、ナツキってピアスの穴、開いてないよな? シリウス、気づいてないんじゃないか?」
ロンがそんなことを言って、ハーマイオニーがすかさず呆れたように肩をすくめた。
「バカね。そうじゃないのよ。たぶん自分がきっかけになりたかったのよ。」
「え?」
ロンがぽかんとした。
クリスマスがやってきた。
「ナツキ、メリークリスマス。」
「メリークリスマス!」
同室の女の子たちが、ベッドのカーテンを開けながら次々と声をかけてくる。眩しいほどの笑顔と、紙で包まれた包みを両手に抱えた姿に、ナツキは思わず笑みをこぼした。
こんなににぎやかで、温かい空気に包まれた朝は初めてだ。
「プレゼントの開封をしないと!」
ラベンダーの声に応じて、皆が一斉に包みを手に取る。色とりどりのリボンが解かれ、包装紙がパリパリと音を立ててはがされていく。
一つだけ、去年と同じ異質なプレゼントがあった。ペタンコのクリスマスカードだけ。
ーーーーーー
ナツキへ
メリークリスマス!
プレゼントはパーティの後に渡す。
楽しみにしてな。
ジョージ
ーーーーー
ナツキはカードを読みながら、ふっと笑みをこぼした。
「ね、ハーマイオニー、お願いがあるんだけど、」
「わかってるわ。ピアスの穴を開けて欲しいんでしょ?今開けちゃう?」
ナツキは考えた。今夜にはダンスパーティがあるのだ。どうせなら、そこでおめかししたい気持ちになった。
「パーティの直前にしようかな。」
「いいわよ。じゃあ夕方ね。さ、ナツキ、今のうちにドレスローブを用意したほうがいいと思うわ。」
そう言って彼女は、自分のベッドの天蓋にハンガーを引っかけ、そこに淡い水色の可愛らしいドレスローブを吊るした。
ナツキもそれに倣って、トランクを開ける。中から、丁寧にたたまれた数枚のドレスローブを取り出して、ひとつずつベッドの上に並べていった。
どれも、アバーフォースが選んで入れてくれた、ゴドリクソン家のドレスローブだった。最新の流行とは少し違うかもしれないけれど、細部までこだわりが光り、どれも美しく気品がある。
「それが一番ナツキにピッタリだわ。」
そう言ってハーマイオニーが指差したのは、深い赤色を基調としたドレスローブだった。金糸の繊細な刺繍が裾や袖にほどこされ、光の加減で静かに輝いている。
ナツキは手に取り、胸元にあてて鏡の前に立ってみた。
「これ、素敵だけど、少し派手じゃないかな?」
「いいえ。ぴったりよ!」
そう言うと、ハーマイオニーは大げさに肩をすくめて続けた。
「グリフィンドールの色だわ。あなたが着ないで誰が着るの?」
「じゃあ・・・これにしようかな。」
ハーマイオニーがにっこりと微笑んだ。
午後になると、ナツキは中庭に出て、ハリーやロン、フレッド、ジョージと一緒に雪合戦をして遊んだ。ハーマイオニーはそれを離れたところから眺めていた。
皆の笑い声が絶えず、寒さなどまったく気にならなかった。
ジョージは相変わらず的確な狙いで雪玉を飛ばし、ナツキは何度も頭や肩に直撃を受けたが、そのたびに笑い転げた。
「ナツキ、そろそろ行きましょう!」
「え?どこに?」
ハーマイオニーが叫んだ。
「パーティの準備をしなきゃ!」
「まだ5時だよ!?わぶっ!?」
言いかけたところで、フレッドの雪玉が勢いよく飛んできて、まさかの直撃。口に思いっきり雪が入り、ナツキはその場でむせながら笑い崩れた。
「ダメよ!ほら!早く!」
ハーマイオニーは容赦なく手を引こうとする。
「はーい。あっ!ロンのローブ、男子部屋に置いておくねーーー!」
「わーー、ナツキ、本当にありがとーーー!うわっ」
ナツキはジョージの大雪玉が当たったロンを笑って、雪を払って立ち上がり、雪合戦の輪から抜けた。
グリフィンドール塔の女子部屋に入るとハーマイオニーが申し訳なさそうに言った。
「本当は私の準備を手伝って欲しかったの。その、私も、ビクトール・クラムのパートナーになったからには、綺麗にしたいし・・・・・」
そう言ってハーマイオニーがナツキに渡したのは「スリークイージーの直毛薬」だった。
「任せて!」
鏡の前に並んで座り、ナツキはハーマイオニーの髪にやさしく薬をなじませていく。普段はくるくると自由に跳ねるその髪が、少しずつ落ち着いた光沢を帯び、きれいに整っていくのがわかった。
「わあ!いいんじゃないかな?こういうハーマイオニーもいいと思う。」
「ありがとう。」
ハーマイオニーはポッと顔を赤らめた。
「じゃあ、次は私がお返しをする番ね・・・耳を見せて・・・」
ナツキはそっと髪をかき上げて、片耳を差し出す。これはだいぶ緊張するかも。
ハーマイオニーはスカートのポケットから、小さな瓶と細い銀の針を取り出した。
「痛みはほとんどないはずよ。ちょっとだけ、ピリッとするかもしれないけど。」
「うん、大丈夫。お願い。」
「じゃあ、いくわよ。」
一瞬の沈黙。
「はい、終わり。」
ほとんど痛みもなく、ナツキは驚いて目を瞬いた。ピリッとした感覚は確かにあったが、それもすぐに消えてなくなった。
「さあ、こっちも。」
同じようにもう片方の耳にも施術を終えると、ハーマイオニーは小さな箱から赤い石のピアスを取り出し、丁寧に取りつけてくれた。
「まあ、ナツキ、完璧よ。さすがシリウスね。ナツキにばっちりあっているわ。」
ナツキが鏡に映った自分を見つめると、そこには、いつもより少しだけ大人びた表情の自分がいた。
深紅の小さな石が、控えめに輝いていた。
「ありがとう、ハーマイオニー。」
「さあ、ドレスローブを着ましょうか。」
立ち上がると、二人はそれぞれのドレスローブにそっと手を通した。
鏡に映る自分は、いつものホグワーツのローブ姿ではなくて、なんだか不思議な気分だった。
二人は視線を合わせて、少しだけ笑い合った。
これから始まる、特別な夜に期待を向けて。
「?」
踊り場に差しかかったところで、ナツキは足を止めた。何やらサイラスから拒絶される感じがしたのだ。サイラスがナツキに会いたくないというとはあまり考えられない。ということは部屋の周囲の気配を探れるサイラスが、誰かが近づいていると警報を発しているのだろう。
今はやめておこう
ナツキは踵を返した。そこでふと、ナツキはサイラスのざっくりした感情がなぜか伝わってくるが、サイラスはナツキの感情を読み取っているのだろうかと不思議に思った。
考えながら廊下を曲がったその瞬間、
「うひゃあっ!」
危うく誰かと正面衝突しそうになった。
「前を見て歩け。いついかなる時も油断大敵だ。」
そこにいたのはムーディ先生だった。彼はまったく動揺する様子もなく、まるでナツキが来ることを知っていたかのような顔で立っていた。
「すみません、ムーディ先生。」
「構わん。暇なら、茶でも飲むか?ん?」
唐突な誘いにナツキは一瞬だけ戸惑ったが、断る理由もなく頷いた。
ムーディ先生の部屋はキテレツだった。去年のルーピン先生の部屋とは全く違う。部屋の隅には、奇妙な鏡と、常に揺れている一つ目の魔眼が置かれていた。
「そこに座れ。ミルクは?砂糖は?」
「どっちも欲しいです。」
そう言って、ムーディ先生は大ぶりなティーポットから湯気の立つ紅茶を注ぎ始めた。
「お前さんは、ポッターと親友らしいな。」
「はい。そうです。」
ムーディ先生はちょっと荒々しくカップをゴトンと置いた。そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「苦労するだろうな。」
「まあ、そうですね。・・・いただきます。」
ナツキは丁寧にカップを持ち上げた。少し熱すぎる紅茶が唇に触れる。
ムーディ先生は椅子に深く腰を沈め、じっと彼女を観察するようにしていた。魔眼はくるくると絶えず回っていて、部屋のあらゆるもの、ナツキの手元、顔の動き、表情の変化までも見逃していないようだった。
「ポッターは運の強いガキだ。だが、そのぶん厄介な敵がいる。」
ぽつりと、先生は言った。
「お前さんが親友だというのは、まっこと運の強いやつだ。そうは思わんか?」
ナツキは嬉しくて、口角が上がった。
「はい、そう思います。」
「ふっふ。そうかそうか。ゴドリクソン、お前さんはいい闇祓いになるだろうな。一番敵に回したくないタイプだ。」
それは褒め言葉のようでいて、どこか底知れぬ響きを伴っていた。ナツキはわずかに背筋を伸ばした。
「そろそろ行きますね。お茶、ごちそうさまでした。」
「うむ。」
ムーディ先生はそれ以上何も言わず、椅子にもたれかかったまま、ただ眼だけがギョロギョロとナツキの動きを追っていた。
扉を開けて外に出ると、廊下の空気はひんやりとしていて、部屋の中よりずっと澄んでいるような気がした。ナツキはひとつ深呼吸をしてから、階段を降り始めた。
いい人、だと思う。でも、なんか、不思議な感じ。
胸の奥に小さなざらつきのようなものを残したまま、ナツキはムーディ先生の部屋をあとにした。
「ナツキ!」
廊下を歩いていると、ハリー、ロン、ハーマイオニーに呼び止められた。
「シリウスから手紙が来た。僕と、君にも。」
「え!」
休暇の大和釣り騒ぎの談話室の隅で、ナツキたちは手紙を開けた。ハリーへの手紙には、一つ目の課題への賛辞と警戒を続けろ、とのことだった。
「ナツキの方にはなんて?」
ハリーにそう尋ねられ、ナツキは手紙を開いた。
「えっと・・・」
ーーーーー
ナツキへ
去年のクリスマスにハリーには立派な箒を贈ったけれど、君には何もしていなかったね。すまない。ダンスパーティがあると小耳に挟んだから、少し早めのクリスマスプレゼントを同封しておいた。気に入ってもらえるといいんだが。
私は元気にしている。君たちのことがいつも気がかりだ。無理はするな。何かあったら知らせておくれ。いつでも君たちの力になる。
愛しているよ。
シリウスより
ーーーーー
ナツキはそっと便箋をたたみ、封筒の中を覗き込んだ。
中に入っていたのは、小さな赤い石のついたピアスだった。深紅の石は艶やかに光を反射している。
「まあ、それ、ナツキのいつもつけているブレスレットとも合うわね。」
「うん・・・」
ナツキは軽く頷きながら、手首に巻かれた銀のブレスレットに視線を落とした。それは、昨年のクリスマス、天文台でジョージがそっと手渡してくれたものだ。それにも、小さな赤い石がはめられている。
「でもさ、ナツキってピアスの穴、開いてないよな? シリウス、気づいてないんじゃないか?」
ロンがそんなことを言って、ハーマイオニーがすかさず呆れたように肩をすくめた。
「バカね。そうじゃないのよ。たぶん自分がきっかけになりたかったのよ。」
「え?」
ロンがぽかんとした。
クリスマスがやってきた。
「ナツキ、メリークリスマス。」
「メリークリスマス!」
同室の女の子たちが、ベッドのカーテンを開けながら次々と声をかけてくる。眩しいほどの笑顔と、紙で包まれた包みを両手に抱えた姿に、ナツキは思わず笑みをこぼした。
こんなににぎやかで、温かい空気に包まれた朝は初めてだ。
「プレゼントの開封をしないと!」
ラベンダーの声に応じて、皆が一斉に包みを手に取る。色とりどりのリボンが解かれ、包装紙がパリパリと音を立ててはがされていく。
一つだけ、去年と同じ異質なプレゼントがあった。ペタンコのクリスマスカードだけ。
ーーーーーー
ナツキへ
メリークリスマス!
プレゼントはパーティの後に渡す。
楽しみにしてな。
ジョージ
ーーーーー
ナツキはカードを読みながら、ふっと笑みをこぼした。
「ね、ハーマイオニー、お願いがあるんだけど、」
「わかってるわ。ピアスの穴を開けて欲しいんでしょ?今開けちゃう?」
ナツキは考えた。今夜にはダンスパーティがあるのだ。どうせなら、そこでおめかししたい気持ちになった。
「パーティの直前にしようかな。」
「いいわよ。じゃあ夕方ね。さ、ナツキ、今のうちにドレスローブを用意したほうがいいと思うわ。」
そう言って彼女は、自分のベッドの天蓋にハンガーを引っかけ、そこに淡い水色の可愛らしいドレスローブを吊るした。
ナツキもそれに倣って、トランクを開ける。中から、丁寧にたたまれた数枚のドレスローブを取り出して、ひとつずつベッドの上に並べていった。
どれも、アバーフォースが選んで入れてくれた、ゴドリクソン家のドレスローブだった。最新の流行とは少し違うかもしれないけれど、細部までこだわりが光り、どれも美しく気品がある。
「それが一番ナツキにピッタリだわ。」
そう言ってハーマイオニーが指差したのは、深い赤色を基調としたドレスローブだった。金糸の繊細な刺繍が裾や袖にほどこされ、光の加減で静かに輝いている。
ナツキは手に取り、胸元にあてて鏡の前に立ってみた。
「これ、素敵だけど、少し派手じゃないかな?」
「いいえ。ぴったりよ!」
そう言うと、ハーマイオニーは大げさに肩をすくめて続けた。
「グリフィンドールの色だわ。あなたが着ないで誰が着るの?」
「じゃあ・・・これにしようかな。」
ハーマイオニーがにっこりと微笑んだ。
午後になると、ナツキは中庭に出て、ハリーやロン、フレッド、ジョージと一緒に雪合戦をして遊んだ。ハーマイオニーはそれを離れたところから眺めていた。
皆の笑い声が絶えず、寒さなどまったく気にならなかった。
ジョージは相変わらず的確な狙いで雪玉を飛ばし、ナツキは何度も頭や肩に直撃を受けたが、そのたびに笑い転げた。
「ナツキ、そろそろ行きましょう!」
「え?どこに?」
ハーマイオニーが叫んだ。
「パーティの準備をしなきゃ!」
「まだ5時だよ!?わぶっ!?」
言いかけたところで、フレッドの雪玉が勢いよく飛んできて、まさかの直撃。口に思いっきり雪が入り、ナツキはその場でむせながら笑い崩れた。
「ダメよ!ほら!早く!」
ハーマイオニーは容赦なく手を引こうとする。
「はーい。あっ!ロンのローブ、男子部屋に置いておくねーーー!」
「わーー、ナツキ、本当にありがとーーー!うわっ」
ナツキはジョージの大雪玉が当たったロンを笑って、雪を払って立ち上がり、雪合戦の輪から抜けた。
グリフィンドール塔の女子部屋に入るとハーマイオニーが申し訳なさそうに言った。
「本当は私の準備を手伝って欲しかったの。その、私も、ビクトール・クラムのパートナーになったからには、綺麗にしたいし・・・・・」
そう言ってハーマイオニーがナツキに渡したのは「スリークイージーの直毛薬」だった。
「任せて!」
鏡の前に並んで座り、ナツキはハーマイオニーの髪にやさしく薬をなじませていく。普段はくるくると自由に跳ねるその髪が、少しずつ落ち着いた光沢を帯び、きれいに整っていくのがわかった。
「わあ!いいんじゃないかな?こういうハーマイオニーもいいと思う。」
「ありがとう。」
ハーマイオニーはポッと顔を赤らめた。
「じゃあ、次は私がお返しをする番ね・・・耳を見せて・・・」
ナツキはそっと髪をかき上げて、片耳を差し出す。これはだいぶ緊張するかも。
ハーマイオニーはスカートのポケットから、小さな瓶と細い銀の針を取り出した。
「痛みはほとんどないはずよ。ちょっとだけ、ピリッとするかもしれないけど。」
「うん、大丈夫。お願い。」
「じゃあ、いくわよ。」
一瞬の沈黙。
「はい、終わり。」
ほとんど痛みもなく、ナツキは驚いて目を瞬いた。ピリッとした感覚は確かにあったが、それもすぐに消えてなくなった。
「さあ、こっちも。」
同じようにもう片方の耳にも施術を終えると、ハーマイオニーは小さな箱から赤い石のピアスを取り出し、丁寧に取りつけてくれた。
「まあ、ナツキ、完璧よ。さすがシリウスね。ナツキにばっちりあっているわ。」
ナツキが鏡に映った自分を見つめると、そこには、いつもより少しだけ大人びた表情の自分がいた。
深紅の小さな石が、控えめに輝いていた。
「ありがとう、ハーマイオニー。」
「さあ、ドレスローブを着ましょうか。」
立ち上がると、二人はそれぞれのドレスローブにそっと手を通した。
鏡に映る自分は、いつものホグワーツのローブ姿ではなくて、なんだか不思議な気分だった。
二人は視線を合わせて、少しだけ笑い合った。
これから始まる、特別な夜に期待を向けて。