炎のゴブレット
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木曜の「変身術」のクラスが終わろうとした頃、マクゴナガル先生が声を張り上げた。
「さあ、ポッターもウィーズリーも、年相応な振る舞いをしていただきたいものです。」
マクゴナガル先生は二人を怖い目で睨んだ。二人がだまし杖でチャンバラなんかしてるからだ。ジョージ達は儲かるからいいだろうけど。
「皆さんにお話があります。クリスマス・ダンスパーティが近づきました。」
ナツキと同じ四年生のグリフィンドールの仲間達は目をパチクリさせた。
「さて、ダンスパーティは四年生以上が参加を許されます。下級生を招待することは可能ですが。」
マクゴナガル先生の話は続いた。ラベンダーとパーバティがくすくす笑っていたが、何がおかしいのかナツキにはわからなかった。
「パーティ用のドレスローブを着用なさい。ダンスパーティは大広間で、クリスマスの夜8時から始まり、夜中の12時に終わります。」
マクゴナガル先生はことさらに念を入れて、全員を見回した。
「クリスマス・ダンスパーティは私たち全員にとって、コホン、髪を解き放ち、羽目を外すチャンスです。しかし、だからと言って、決してホグワーツの生徒に期待される行動基準を緩めるわけではありません。」
先生は最後にきっちり締めて、そういった。
ベルが鳴り、先生がハリーを呼んだので、さっきので怒られるのだろうとナツキはハリーを置いて教室の外に出た。
「クリスマス休暇にみんなも残るってことかな?」
「ええ・・・そうね・・・」
「ハーマイオニー?どうかした?」
ハーマイオニーが周りをチラチラ見て、居心地悪そうにした。
「私は今一生懸命どうするのが一番ナツキのためになるのか考えているの。」
「え?ありがとう?」
「とりあえず、あなた、あまり一人にならない方がいいわ。談話室でも迂闊にわたしたちから離れない方がいいかも。」
ナツキは一瞬きょとんとしたが、ハーマイオニーの真剣な表情を見て、素直にうなずいた。
「うん、わかった。」
そんな話をしていたら、教室からハリーが真っ青な顔で出てきた。
「コッテリ搾られた?」
ナツキが冗談めかしてきくとハリーは答えた。
「その方がずっとマシさ・・・・。代表選手は、ダンスパーティの最初にパートナーと踊らないといけないんだって・・・・・」
「うわぁ、それは恥ずかしいね。ダンスってどうやって踊るの?」
ナツキが誰ならダンスが踊れるかと考えたところで、真っ先にマルフォイを思い浮かべてしまって、思いっきりかぶりをふった。
「ナツキを誘えばいいじゃない!」
ハーマイオニーが妙案だとばかりに言った。
「どんな踊りを踊ってもハリーが責めないんだったら別にいいよ。」
ナツキは何のけなしにそう答えたが、ハリーは口籠った。
「そっか、ナツキか・・・それが一番・・・うーんと・・・」
その様子を見て、ハーマイオニーの目がぱちりと見開かれる。
「まあ!ハリー、あなた、誘いたい子がいるのね!」
「え、そうなの?ならその子を誘いないと!ハリーに誘われたらきっと喜んでくれるよ。」
ナツキもニコニコとハリーにエールを送る。しかしハリーはまだまごまごしていた。恥ずかしがっているのだと、ナツキにもわかった。
ハリーも大変だな、なんて呑気に思っていたナツキは、この時を境に生活が一変するだなんて思ってもみなかった。
「・・・ねえ、ハーマイオニー、私達、あとをつけられてない?」
ハーマイオニーと二人で古代ルーン文字の教室に向かう石畳の廊下。ナツキはふと、後ろからの気配に眉をひそめた。
ナツキがこっそり振り返ると、男子生徒が3人ほど、距離を保ってついてきている。しかも、あからさまに目が合った。
「ねえ、もしかして、私、フレッドに顔面がとんでもないことになる薬でも盛られてる?」
「いいえ。盛られていたら、もっとマシだったと思うわ。」
「どういうこと?」
ナツキが戸惑って再度振り返ると、ついてきていた男子が4人に増えていた。
「増えてる!?」
焦ったナツキは小走りになり、ハーマイオニーとともに教室に駆け込み、空いている席に滑り込むように座った。
「はあ・・・・あれなんなの?」
「つまりね、あなた、目立ってるのよ。」
「今年はまだ問題起こしてないよ!?あ、いや、年齢線には吹っ飛ばされたけど、あれ、私の他にもまあまあいたみたいだし・・・」
なんとも心外だと言わんばかりにナツキはそう言った。
「バカね。違うわよ。女の子としてってこと。つまり、あなた今、モテてるの。」
「へ?」
「わからないの?あなた、ダンスパーティに誘われようとしてるのよ。」
「えーーーー!?」
ナツキの驚きの声が、教室中に響き渡った。
ハーマイオニーのいうことは、どうやら当たっていたらしかった。どういうことか本当にわからなかったが、ナツキの時間割が出回っているようだった。つまり、いつも一人で向かうマグル学の教室までの道のりが最悪というわけだ。
ナツキの数メートル後ろを、まるでカルガモの親子のように、男子生徒たちがゾロゾロと距離を保ちながらついてくるのだ。
(えっ、なに?私、パンくずでも撒いてた?)
思わず心の中でツッコむも、彼らの目的は明らかだった。ちらりと振り返ると、目が合った瞬間に慌てて視線を逸らされる始末。仕方なくナツキは、何事もないふりで早足になった。
運の悪いことにマグル学の教室は1階にあった。つまり、生徒の往来が最も激しい、大広間の目と鼻の先だ。
(うー、最悪!)
ナツキは顔をしかめながら廊下を小走りで進む。が、ついにその瞬間は訪れた。
「ご、ゴドリクソン!」
突然、後ろから名前を呼ばれ、足がピタリと止まる。やられた、と思った次の瞬間。
「おれとダンスパーティー、行かないか!?」
「ぼ、僕も!あの、パートナーがいなかったら、でいいんだけど!」
「いや!ゴドリクソン、俺と!」
まさかの申し込みラッシュが、大広間前という一番目立つ場所で巻き起こった。通りかかった上級生も下級生も立ち止まり、何ごとかと注目し始める。
ナツキは頭を抱えそうになるのをぐっと堪え、その男子達をみた。そしてふとあることに気づいて、頭に血が上った。
「よくもそんなことをぬけぬけと私に言えるね!ハリーの悪口をいうような人とどうして私が踊ると思ったの!」
ひとり、ふたり、いや、何人も。彼らの何人かは、あの騒動のとき、セドリックのバッジをつけてハリーを平気で嘲っていた。わざとハリーに聞こえるように。
「絶対にお断り!!」
ナツキは、彼らの顔をにらみつけるように見回すと、そのままくるりと踵を返し、さっさとマグル学の教室へと入っていった。扉が音を立てて閉まると、残された生徒たちはしばし呆然と立ち尽くした。
ナツキが2時間続きの長い長いマグル学を受けている最中に、「お断り事件」はあっという間に城中に広まった。もちろんそれは、グリフィンドールの談話室にいた双子の耳にも届いた。
「おい、相棒、夜まで待ってる余裕はないぜ。俺もお前もナツキの人気具合を舐めてた。談話室に帰ってくる前に、ハリーの悪口を言ったことがない潔白のセドリック・ディゴリーが間違いなく申し込むぞ。」
フレッドは口元をゆがめて、焚きつけるように言った。
「・・・言ってくる・・。ダメだったら、慰めてくれ。」
「ああ。ついでにレオーネを借りてきてくれ。バグマンにラブレターを送らなきゃな。」
そんな調子で送り出されたジョージは、走り出すように談話室を飛び出していった。
一方、その頃のナツキは、嫌いではないのに相変わらず苦手なマグル学がようやく終わり、授業前の騒ぎもすっかり忘れていた。
先ほどの「お断り事件」で、ハリーへの悪口に心当たりのある、つまりホグワーツの大半が、ナツキを誘うのを諦めた。誘いをOKされるどころか、怒り狂って大声で「お断り」と言われる勇気を皆、持つことができなかった。
そんなわけで、ナツキは静かにグリフィンドール塔へ向かっていた。
「あ、ナツキ!」
静けさを破る声がした。振り返ると、セドリックが息を切らして立っていた。
「セドリック!どうしたの?授業?」
「あー、えっと、君を探してたんだ。」
「私を?」
セドリックは少し落ち着かない様子で辺りを見渡し、意を決したように口を開いた。
「あの、僕と、」
その時、ドサッとした鈍い音がして、ナツキはそちらをみた。
「え!?ちょっと、何してるの?」
目線の先、階段の下に、ジョージがうずくまっていたのだ。顔を真っ赤にしている。
「もしかして落ちたの?」
慌てて駆け寄り、ナツキが見上げると、結構高い階段だ。さっきの音から考えると、かなり上の方から落ちたのではないだろうか。
「大丈夫、ジョージ?」
「あ、ああ。」
ジョージは耳まで真っ赤だった。
「痛いの?医務室行こう?」
「い、いや、大丈夫だ・・・」
ナツキがセドリック・ディゴリーと話しているのを階段の上から見かけて、慌てて降りようとしたら落ちてしまった、なんてことをジョージは恥ずかしくいえたもんじゃなかった。
「そうだ、ディゴリー・・・!」
ジョージが思い出すと、セドリックはナツキの後ろに立っていて、ジョージを心配そうにみていた。
「今、そこで会ったの。ねえ、ジョージ、本当に大丈夫?」
ジョージは今のナツキの発言で、まだ彼女はセドリックに誘われていないんじゃないかという希望を持った。
「な、なあ、ナツキ、その、」
「うん?」
ジョージはぐっと拳を握りしめた。
「レオーネを貸してくれ!!」
ジョージが大声でそう言った。ナツキはその声の大きさに驚いたが、すぐに「いいよ」と言った。
「急ぎの用事なら一緒にフクロウ小屋に行こう?」
ジョージはすぐに一番の用を伝えられなかった自分に愕然としたが、ナツキのこの提案は喜ばしいものだった。しかし、彼にとって喜ばしくない奴がいたのを忘れていた。
「あ、まって、ナツキ。すぐに済むから聞いてほしいんだ。あのね、」
「ん?」
ジョージはこれまでにないほどの危機を察知した。そして、セドリックよりも早く、その言葉を口にした。
「俺とパーティに行こう!」
ナツキは目を丸くした。
「待って、ナツキ。僕も、君を誘おうとしたんだ。僕のパートナーになってほしい。」
ナツキはさらに目を丸くした。
「え?えーっと・・・」
困惑しているナツキの姿を見ながら、ジョージは、自分自身を俯瞰するような視点で見ていた。
階段から落ちた直後で、制服はぐちゃぐちゃ。髪も乱れて、靴の片方の紐はほどけかけてる。一方のセドリックはというと、制服はきっちり整っていて、動揺のかけらも見せず、まるでフィクションのワンシーンのように穏やかに立っている。
ホグワーツの代表選手。成績も優秀。人望もある。完璧で、非の打ち所がない。
しかも誘い方まで、穏やかでスマートだった。ジョージは階段から転げ落ちて、真っ赤な顔で息を切らしながら、勢い任せで大声を張り上げただけ。
そんな思いを抱えていたジョージの横で、ナツキが口を開いた。
「ごめんね、セドリック。ジョージの方が少しだけ早かったから、ジョージと行くね。先着順ってことで・・・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、ジョージの中でぐちゃぐちゃだった感情が、ふっと緩んだ。
自分なんかが選ばれるはずがない、そう思い詰めていた心の中に、ぽっと火が灯るような、温かいものが広がっていく。
ナツキはさらに続けた。
「あと、代表選手はみんなの前で踊らないといけないってハリーから聞いてて・・・・ちょっとそれも・・・うーん・・・ごめんね。もちろん、セドリックが嫌なわけじゃないよ。ただ、今回は、ごめんね?」
言葉を選びながら、ナツキはセドリックを傷つけないように伝えようした。セドリックは一瞬だけ黙りこくったが、やがて微笑んで首を振った。
「あ、いや、いいんだ。うん。」
そう言うと、彼は目を伏せて、静かにその場を後にした。
その背中には、普段の爽やかで堂々とした姿はなく、どこか所在なさげで、ただぽつりとした影だけが残っていた。
「エピスキー。」
しばらくぼーっとしていたジョージは、痛みが引くにつれだんだんと冷静になってきた。ナツキが治癒の呪文をかけてくれたのだと気づいた頃には、どこも痛く無くなっていた。
「あ、わり・・・・ありがとな。」
「痛みは?全くもう・・・何をそんなに焦ってたの?」
「いや、もう、何でもないんだ・・・痛みもない。」
「そう?」
ジョージの歯切れの悪い様子に、ナツキはますます不思議そうな顔をした。こんなジョージを見るのは初めてだった。
「もしかして、バグマンとのやりとり、うまくいってない?」
ナツキがそう尋ねると、ジョージは一瞬まばたきをしてから、視線をそらした。
「あー・・・それは、まあ、うまくはいってない。」
「そう。じゃあ、早くフクロウ小屋行かないと。」
「うん。あ、いや、ごめん、ナツキ。手紙持ってるのフレッドだ。自分達で行くから、大丈夫さ。」
どこかぼうっとしていたジョージは、談話室が近づくにつれて、いつもどおりになっていった。いや、浮かれていた。しかし、ナツキはそのことに気づかずに、「ボール・ダッシュ」と合言葉を言って、談話室へと入っていった。
翌日からナツキはとあることに気づいた。
朝食の時に、今度は大広間で、新たな誘いが待っていた。周囲には当然ながら大勢の生徒がいる。「ダンスパーティのパートナーに」と声をかけてきたのは、ダームストラングの生徒。歓迎会で白いスープを欲しがっていた、あの礼儀正しい彼だった。
彼はナツキの知る限りハリーのことを悪く言っていない。シリウスに「気をつけろ」と言われていたとはいえ、「ダームストラングだからダメ」なんて偏見に満ちた発言をするのは、ナツキの信条に反する。
けれど、今日は昨日とは違っていた。ナツキには、魔法のような断り文句があったのだ。
「ごめんなさい。もう、一緒に行く人を決めちゃったの。」
そのやり取りが大広間でなされたおかげで、ナツキのダンスパーティの相手が決まったという噂は、瞬く間に広まった。結果として、ナツキは煩わしい視線や誘いから解放され、ようやく元通りの平穏な日々を手に入れることができたのだった。
そんな中、ナツキはついに、ロンのために動き出した。彼のドレスローブのフリルをなんとかする約束を思い出したのである。
この日のナツキは、図書館の一角で『ドレスローブの歴史―ヒラヒラふりふり―』という本を開いていた。ハーマイオニーが隣で黙々と勉強している中、ナツキはページをめくりながら、フリルの構造や縫い目の処理に熱心に目を走らせていた。
すると、不意に誰かの影がふたりの机の脇に差した。
顔を上げると、そこには、よく図書館で見かけるヴィクトール・クラムが立っていた。彼は無言のまま、やや緊張した面持ちでハーマイオニーを見下ろしていた。
「何かしら?あのね、もしナツキを誘いたいんだったら、彼女はもう予約済みよ。」
ハーマイオニーがイライラしながらそう言った。クラムが図書館にいることで、黄色い声の女の子たちも図書館についてくるのでいつも彼に苛立っていたのだ。
「ちがう。ゔぉく、キミを、誘いたくて。」
その瞬間、ハーマイオニーの表情が固まった。
目を見開いたまま、一拍、二拍、沈黙が流れる。まるでページの途中で読み間違えたような顔をして、彼女はクラムをじっと見つめていた。
「わたしを?」
ようやく絞り出すようにそう言うと、今度はナツキの方をちらりと見た。まるで「聞き間違いじゃないわよね?」と無言で確認するかのように。
ナツキは、何も言わずに小さく頷いた。
ハーマイオニーの頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。そして彼女は、小さく息を吐いて、ほんのわずかに微笑んだ。
「ええ、よろこんで。ご一緒します。」
ナツキは照れたハーマイオニーをそっと見守りながら、本のページを静かに閉じた。
「さあ、ポッターもウィーズリーも、年相応な振る舞いをしていただきたいものです。」
マクゴナガル先生は二人を怖い目で睨んだ。二人がだまし杖でチャンバラなんかしてるからだ。ジョージ達は儲かるからいいだろうけど。
「皆さんにお話があります。クリスマス・ダンスパーティが近づきました。」
ナツキと同じ四年生のグリフィンドールの仲間達は目をパチクリさせた。
「さて、ダンスパーティは四年生以上が参加を許されます。下級生を招待することは可能ですが。」
マクゴナガル先生の話は続いた。ラベンダーとパーバティがくすくす笑っていたが、何がおかしいのかナツキにはわからなかった。
「パーティ用のドレスローブを着用なさい。ダンスパーティは大広間で、クリスマスの夜8時から始まり、夜中の12時に終わります。」
マクゴナガル先生はことさらに念を入れて、全員を見回した。
「クリスマス・ダンスパーティは私たち全員にとって、コホン、髪を解き放ち、羽目を外すチャンスです。しかし、だからと言って、決してホグワーツの生徒に期待される行動基準を緩めるわけではありません。」
先生は最後にきっちり締めて、そういった。
ベルが鳴り、先生がハリーを呼んだので、さっきので怒られるのだろうとナツキはハリーを置いて教室の外に出た。
「クリスマス休暇にみんなも残るってことかな?」
「ええ・・・そうね・・・」
「ハーマイオニー?どうかした?」
ハーマイオニーが周りをチラチラ見て、居心地悪そうにした。
「私は今一生懸命どうするのが一番ナツキのためになるのか考えているの。」
「え?ありがとう?」
「とりあえず、あなた、あまり一人にならない方がいいわ。談話室でも迂闊にわたしたちから離れない方がいいかも。」
ナツキは一瞬きょとんとしたが、ハーマイオニーの真剣な表情を見て、素直にうなずいた。
「うん、わかった。」
そんな話をしていたら、教室からハリーが真っ青な顔で出てきた。
「コッテリ搾られた?」
ナツキが冗談めかしてきくとハリーは答えた。
「その方がずっとマシさ・・・・。代表選手は、ダンスパーティの最初にパートナーと踊らないといけないんだって・・・・・」
「うわぁ、それは恥ずかしいね。ダンスってどうやって踊るの?」
ナツキが誰ならダンスが踊れるかと考えたところで、真っ先にマルフォイを思い浮かべてしまって、思いっきりかぶりをふった。
「ナツキを誘えばいいじゃない!」
ハーマイオニーが妙案だとばかりに言った。
「どんな踊りを踊ってもハリーが責めないんだったら別にいいよ。」
ナツキは何のけなしにそう答えたが、ハリーは口籠った。
「そっか、ナツキか・・・それが一番・・・うーんと・・・」
その様子を見て、ハーマイオニーの目がぱちりと見開かれる。
「まあ!ハリー、あなた、誘いたい子がいるのね!」
「え、そうなの?ならその子を誘いないと!ハリーに誘われたらきっと喜んでくれるよ。」
ナツキもニコニコとハリーにエールを送る。しかしハリーはまだまごまごしていた。恥ずかしがっているのだと、ナツキにもわかった。
ハリーも大変だな、なんて呑気に思っていたナツキは、この時を境に生活が一変するだなんて思ってもみなかった。
「・・・ねえ、ハーマイオニー、私達、あとをつけられてない?」
ハーマイオニーと二人で古代ルーン文字の教室に向かう石畳の廊下。ナツキはふと、後ろからの気配に眉をひそめた。
ナツキがこっそり振り返ると、男子生徒が3人ほど、距離を保ってついてきている。しかも、あからさまに目が合った。
「ねえ、もしかして、私、フレッドに顔面がとんでもないことになる薬でも盛られてる?」
「いいえ。盛られていたら、もっとマシだったと思うわ。」
「どういうこと?」
ナツキが戸惑って再度振り返ると、ついてきていた男子が4人に増えていた。
「増えてる!?」
焦ったナツキは小走りになり、ハーマイオニーとともに教室に駆け込み、空いている席に滑り込むように座った。
「はあ・・・・あれなんなの?」
「つまりね、あなた、目立ってるのよ。」
「今年はまだ問題起こしてないよ!?あ、いや、年齢線には吹っ飛ばされたけど、あれ、私の他にもまあまあいたみたいだし・・・」
なんとも心外だと言わんばかりにナツキはそう言った。
「バカね。違うわよ。女の子としてってこと。つまり、あなた今、モテてるの。」
「へ?」
「わからないの?あなた、ダンスパーティに誘われようとしてるのよ。」
「えーーーー!?」
ナツキの驚きの声が、教室中に響き渡った。
ハーマイオニーのいうことは、どうやら当たっていたらしかった。どういうことか本当にわからなかったが、ナツキの時間割が出回っているようだった。つまり、いつも一人で向かうマグル学の教室までの道のりが最悪というわけだ。
ナツキの数メートル後ろを、まるでカルガモの親子のように、男子生徒たちがゾロゾロと距離を保ちながらついてくるのだ。
(えっ、なに?私、パンくずでも撒いてた?)
思わず心の中でツッコむも、彼らの目的は明らかだった。ちらりと振り返ると、目が合った瞬間に慌てて視線を逸らされる始末。仕方なくナツキは、何事もないふりで早足になった。
運の悪いことにマグル学の教室は1階にあった。つまり、生徒の往来が最も激しい、大広間の目と鼻の先だ。
(うー、最悪!)
ナツキは顔をしかめながら廊下を小走りで進む。が、ついにその瞬間は訪れた。
「ご、ゴドリクソン!」
突然、後ろから名前を呼ばれ、足がピタリと止まる。やられた、と思った次の瞬間。
「おれとダンスパーティー、行かないか!?」
「ぼ、僕も!あの、パートナーがいなかったら、でいいんだけど!」
「いや!ゴドリクソン、俺と!」
まさかの申し込みラッシュが、大広間前という一番目立つ場所で巻き起こった。通りかかった上級生も下級生も立ち止まり、何ごとかと注目し始める。
ナツキは頭を抱えそうになるのをぐっと堪え、その男子達をみた。そしてふとあることに気づいて、頭に血が上った。
「よくもそんなことをぬけぬけと私に言えるね!ハリーの悪口をいうような人とどうして私が踊ると思ったの!」
ひとり、ふたり、いや、何人も。彼らの何人かは、あの騒動のとき、セドリックのバッジをつけてハリーを平気で嘲っていた。わざとハリーに聞こえるように。
「絶対にお断り!!」
ナツキは、彼らの顔をにらみつけるように見回すと、そのままくるりと踵を返し、さっさとマグル学の教室へと入っていった。扉が音を立てて閉まると、残された生徒たちはしばし呆然と立ち尽くした。
ナツキが2時間続きの長い長いマグル学を受けている最中に、「お断り事件」はあっという間に城中に広まった。もちろんそれは、グリフィンドールの談話室にいた双子の耳にも届いた。
「おい、相棒、夜まで待ってる余裕はないぜ。俺もお前もナツキの人気具合を舐めてた。談話室に帰ってくる前に、ハリーの悪口を言ったことがない潔白のセドリック・ディゴリーが間違いなく申し込むぞ。」
フレッドは口元をゆがめて、焚きつけるように言った。
「・・・言ってくる・・。ダメだったら、慰めてくれ。」
「ああ。ついでにレオーネを借りてきてくれ。バグマンにラブレターを送らなきゃな。」
そんな調子で送り出されたジョージは、走り出すように談話室を飛び出していった。
一方、その頃のナツキは、嫌いではないのに相変わらず苦手なマグル学がようやく終わり、授業前の騒ぎもすっかり忘れていた。
先ほどの「お断り事件」で、ハリーへの悪口に心当たりのある、つまりホグワーツの大半が、ナツキを誘うのを諦めた。誘いをOKされるどころか、怒り狂って大声で「お断り」と言われる勇気を皆、持つことができなかった。
そんなわけで、ナツキは静かにグリフィンドール塔へ向かっていた。
「あ、ナツキ!」
静けさを破る声がした。振り返ると、セドリックが息を切らして立っていた。
「セドリック!どうしたの?授業?」
「あー、えっと、君を探してたんだ。」
「私を?」
セドリックは少し落ち着かない様子で辺りを見渡し、意を決したように口を開いた。
「あの、僕と、」
その時、ドサッとした鈍い音がして、ナツキはそちらをみた。
「え!?ちょっと、何してるの?」
目線の先、階段の下に、ジョージがうずくまっていたのだ。顔を真っ赤にしている。
「もしかして落ちたの?」
慌てて駆け寄り、ナツキが見上げると、結構高い階段だ。さっきの音から考えると、かなり上の方から落ちたのではないだろうか。
「大丈夫、ジョージ?」
「あ、ああ。」
ジョージは耳まで真っ赤だった。
「痛いの?医務室行こう?」
「い、いや、大丈夫だ・・・」
ナツキがセドリック・ディゴリーと話しているのを階段の上から見かけて、慌てて降りようとしたら落ちてしまった、なんてことをジョージは恥ずかしくいえたもんじゃなかった。
「そうだ、ディゴリー・・・!」
ジョージが思い出すと、セドリックはナツキの後ろに立っていて、ジョージを心配そうにみていた。
「今、そこで会ったの。ねえ、ジョージ、本当に大丈夫?」
ジョージは今のナツキの発言で、まだ彼女はセドリックに誘われていないんじゃないかという希望を持った。
「な、なあ、ナツキ、その、」
「うん?」
ジョージはぐっと拳を握りしめた。
「レオーネを貸してくれ!!」
ジョージが大声でそう言った。ナツキはその声の大きさに驚いたが、すぐに「いいよ」と言った。
「急ぎの用事なら一緒にフクロウ小屋に行こう?」
ジョージはすぐに一番の用を伝えられなかった自分に愕然としたが、ナツキのこの提案は喜ばしいものだった。しかし、彼にとって喜ばしくない奴がいたのを忘れていた。
「あ、まって、ナツキ。すぐに済むから聞いてほしいんだ。あのね、」
「ん?」
ジョージはこれまでにないほどの危機を察知した。そして、セドリックよりも早く、その言葉を口にした。
「俺とパーティに行こう!」
ナツキは目を丸くした。
「待って、ナツキ。僕も、君を誘おうとしたんだ。僕のパートナーになってほしい。」
ナツキはさらに目を丸くした。
「え?えーっと・・・」
困惑しているナツキの姿を見ながら、ジョージは、自分自身を俯瞰するような視点で見ていた。
階段から落ちた直後で、制服はぐちゃぐちゃ。髪も乱れて、靴の片方の紐はほどけかけてる。一方のセドリックはというと、制服はきっちり整っていて、動揺のかけらも見せず、まるでフィクションのワンシーンのように穏やかに立っている。
ホグワーツの代表選手。成績も優秀。人望もある。完璧で、非の打ち所がない。
しかも誘い方まで、穏やかでスマートだった。ジョージは階段から転げ落ちて、真っ赤な顔で息を切らしながら、勢い任せで大声を張り上げただけ。
そんな思いを抱えていたジョージの横で、ナツキが口を開いた。
「ごめんね、セドリック。ジョージの方が少しだけ早かったから、ジョージと行くね。先着順ってことで・・・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、ジョージの中でぐちゃぐちゃだった感情が、ふっと緩んだ。
自分なんかが選ばれるはずがない、そう思い詰めていた心の中に、ぽっと火が灯るような、温かいものが広がっていく。
ナツキはさらに続けた。
「あと、代表選手はみんなの前で踊らないといけないってハリーから聞いてて・・・・ちょっとそれも・・・うーん・・・ごめんね。もちろん、セドリックが嫌なわけじゃないよ。ただ、今回は、ごめんね?」
言葉を選びながら、ナツキはセドリックを傷つけないように伝えようした。セドリックは一瞬だけ黙りこくったが、やがて微笑んで首を振った。
「あ、いや、いいんだ。うん。」
そう言うと、彼は目を伏せて、静かにその場を後にした。
その背中には、普段の爽やかで堂々とした姿はなく、どこか所在なさげで、ただぽつりとした影だけが残っていた。
「エピスキー。」
しばらくぼーっとしていたジョージは、痛みが引くにつれだんだんと冷静になってきた。ナツキが治癒の呪文をかけてくれたのだと気づいた頃には、どこも痛く無くなっていた。
「あ、わり・・・・ありがとな。」
「痛みは?全くもう・・・何をそんなに焦ってたの?」
「いや、もう、何でもないんだ・・・痛みもない。」
「そう?」
ジョージの歯切れの悪い様子に、ナツキはますます不思議そうな顔をした。こんなジョージを見るのは初めてだった。
「もしかして、バグマンとのやりとり、うまくいってない?」
ナツキがそう尋ねると、ジョージは一瞬まばたきをしてから、視線をそらした。
「あー・・・それは、まあ、うまくはいってない。」
「そう。じゃあ、早くフクロウ小屋行かないと。」
「うん。あ、いや、ごめん、ナツキ。手紙持ってるのフレッドだ。自分達で行くから、大丈夫さ。」
どこかぼうっとしていたジョージは、談話室が近づくにつれて、いつもどおりになっていった。いや、浮かれていた。しかし、ナツキはそのことに気づかずに、「ボール・ダッシュ」と合言葉を言って、談話室へと入っていった。
翌日からナツキはとあることに気づいた。
朝食の時に、今度は大広間で、新たな誘いが待っていた。周囲には当然ながら大勢の生徒がいる。「ダンスパーティのパートナーに」と声をかけてきたのは、ダームストラングの生徒。歓迎会で白いスープを欲しがっていた、あの礼儀正しい彼だった。
彼はナツキの知る限りハリーのことを悪く言っていない。シリウスに「気をつけろ」と言われていたとはいえ、「ダームストラングだからダメ」なんて偏見に満ちた発言をするのは、ナツキの信条に反する。
けれど、今日は昨日とは違っていた。ナツキには、魔法のような断り文句があったのだ。
「ごめんなさい。もう、一緒に行く人を決めちゃったの。」
そのやり取りが大広間でなされたおかげで、ナツキのダンスパーティの相手が決まったという噂は、瞬く間に広まった。結果として、ナツキは煩わしい視線や誘いから解放され、ようやく元通りの平穏な日々を手に入れることができたのだった。
そんな中、ナツキはついに、ロンのために動き出した。彼のドレスローブのフリルをなんとかする約束を思い出したのである。
この日のナツキは、図書館の一角で『ドレスローブの歴史―ヒラヒラふりふり―』という本を開いていた。ハーマイオニーが隣で黙々と勉強している中、ナツキはページをめくりながら、フリルの構造や縫い目の処理に熱心に目を走らせていた。
すると、不意に誰かの影がふたりの机の脇に差した。
顔を上げると、そこには、よく図書館で見かけるヴィクトール・クラムが立っていた。彼は無言のまま、やや緊張した面持ちでハーマイオニーを見下ろしていた。
「何かしら?あのね、もしナツキを誘いたいんだったら、彼女はもう予約済みよ。」
ハーマイオニーがイライラしながらそう言った。クラムが図書館にいることで、黄色い声の女の子たちも図書館についてくるのでいつも彼に苛立っていたのだ。
「ちがう。ゔぉく、キミを、誘いたくて。」
その瞬間、ハーマイオニーの表情が固まった。
目を見開いたまま、一拍、二拍、沈黙が流れる。まるでページの途中で読み間違えたような顔をして、彼女はクラムをじっと見つめていた。
「わたしを?」
ようやく絞り出すようにそう言うと、今度はナツキの方をちらりと見た。まるで「聞き間違いじゃないわよね?」と無言で確認するかのように。
ナツキは、何も言わずに小さく頷いた。
ハーマイオニーの頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。そして彼女は、小さく息を吐いて、ほんのわずかに微笑んだ。
「ええ、よろこんで。ご一緒します。」
ナツキは照れたハーマイオニーをそっと見守りながら、本のページを静かに閉じた。