炎のゴブレット
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ハリーとハーマイオニーが図書室でドラゴン対策を調べている間、ナツキはグリフィンドールの秘密の部屋で、同じくドラゴンの対策として色々と調べ物をしていた。
ナツキは、重たい革表紙の本をめくりながら、指先で古代ルーン文字の下をなぞる。
「・・・ドラゴンの、皮膚には、以下の魔法的・・・性質が組み込まれている・・・熱・・の耐性、呪文・・・低級呪文の反射・・・・・」
ページをめくるたび、ドラゴンという魔法生物のとんでもない防御力が浮き彫りになる。やっぱり、普通のやり方じゃ難しい。ハリーを助けるには、何か突破口が必要だ。
「もっとドラゴンのことが載ってる本ってない?」
「アルバはドラゴンのことをあまり調べていないからな・・・・。それにしても、だいぶルーン文字を読めるようになったな。」
サイラスが感心したようにそういった。
「攻撃もだが、防御も考えさせたほうがいい。アルバはずっと闇の魔法からの防御について調べていたから、その資料はたくさんあるはずだ。」
「うん。わかった。」
ナツキはサイラスの言う通りに、ドラゴンの攻撃を防げるようなものはないかと探した。
しばらく色々な呪文の本を眺めていたが、祖母の研究手記と思えるものの一冊に手を出した。彼女の研究手記は何冊もあるが、とにかく専門用語やルーン文字が多くて、まだ読んだことはなかった。
「・・・呪い・・許されざる・・盾・・・・」
ナツキはハッとした。
「お祖母さんは、許されざる呪文から、身を守る呪文を作ろうとしていたの?」
ナツキの問いに、サイラスはわずかに眉をひそめ、静かに首を振った。
「いいや。アルバが目指していたのは守ることではない。無かったことにすることだ。」
「無かったこと?・・・もしかして、反対呪文のこと?」
「・・・・そうだ。特に、死の呪文の反対呪文について熱心に研究していた。」
ナツキは、ページの上に指を置いたまま動けなかった。
「でも、反対呪文はないって、ムーディ先生は言ってた・・・・。できなかったんだね?」
「ああ。アルバス・ダンブルドアの協力を得ても無理だった。才知と情熱を尽くしても、死の呪文を真正面から打ち消すことはできなかった。」
サイラスの声には、悔しさとも悲しみともつかぬ複雑な感情がにじんでいた。
「そうなんだ・・・・・ダンブルドア先生も・・・・」
ナツキはパラパラとページをめくった。そこに一際目立つ字で呪文と杖の振り方が書かれていた。
「・・・この呪文は?あも、ら・・・えーと、アモランディアかな?」
彼はゆっくりと息を吸い込み、重たく吐き出した。ライオンである彼の吐息はちょっとした突風のようで、ナツキは思わず髪を押さえた。
「・・・・アルバは初めその呪文に希望を見出した。アルバス・ダンブルドアも理論は完璧だと評したらしい。しかし、ダメだったんだ。アルバもダンブルドアも呪文を発動できなかった。つまり、失敗作だ。あの時のアルバの落胆ぶりを昨日のことのように覚えているよ・・・・。」
サイラスの声には、深い哀しみがにじんでいた。
「反対呪文があれば、ハリーも私も、今頃家族と過ごしていたのかな?」
サイラスはソファで手記をパラパラとめくるナツキに擦り寄った。互いの寂しさを埋めるように、ナツキはサイラスの鬣に背を埋めて、再び手記を読むのだった。
ナツキはその日から暇があれば、祖母の手記を読むようになっていた。
しかし一向にドラゴンを出し抜く方法がわからなかったが、前日になってハリーが見つけてきたのだ。「薬草学」に遅れてきたハリーはナツキとハーマイオニーに言った。
「二人とも、助けてほしいんだ。」
ナツキは笑顔でハーマイオニーと顔を見合わせた。
「私たち、今までだってそうしてきたでしょう?」
「私とハーマイオニーは何をすればいい?」
「『呼び寄せ呪文』を明日の午後までにちゃんと覚える必要があるんだ。」
三人はすぐに練習を始めた。空き教室でハリーの練習につきっきりになった。
ハリーは練習のために「占い学」をサボろうとしたが、ハーマイオニーは「数占い」の授業を欠席することを断った。
「私はもう授業がないから付き合うよ。ハリーの「占い学」だってどうせあなたは明日死ぬでしょうとかしか言われないんでしょ?サボっていいと思う。」
「ナツキ、よくわかってるね。」
ハリーはニヤリと笑った。
ハーマイオニー不在の中、ハリーは何度も「アクシオ」と唱えたが、結果は芳しくなかった。
「なんで集中できないんだろう。集中しようと思うと、ドラゴンが頭の中に出てくるんだ・・・・」
「よし、じゃあ一回、落ち着こうか。」
ナツキはハリーの両肩に手を置いて向き合った。
「あなたは今までたくさんの壁を乗り越えてきた。ドラゴンなんて、ヴォルデモートと比べたらきっと屁でもない。」
ハリーは少し戸惑ったようにナツキを見つめた。
「ちゃんと想像してみて。明日の試練で、もしハリーが本当に本当の大ピンチになったら、私はどうすると思う?」
「ナツキは・・・助けに来てくれる。いつも、そうしてくれたから・・・・」
「でしょう?私のことだから、反則でもなんでもして、絶対に助けに行くに決まってる。さあ、まだこれでもドラゴンが怖い?」
一瞬の沈黙のあと、ハリーは小さく笑った。
「ほんとだ。ちょっとマシになったかも。」
「よし、じゃあまたやってみよう!」
ナツキが励ますと、ハリーは深呼吸し、杖を構えた。
「アクシオ!」
すると、目の前の本がふわりと浮き上がり、ハリーの手元にまっすぐ吸い寄せられた。
「やった!ハリー、見た!?できたよ!!この調子だよ!」
ナツキの声が教室中に明るく響いた。ハリーは少し照れたように笑いながら、力強く頷いた。
その日は結局深夜まで練習をした。ハリーは呼び寄せ呪文のコツを完璧に掴んだのだ。
翌日。いよいよ試練の時が近づくにつれ、ハリーは緊張で胃の辺りが重くなり、今にも吐きそうだった。
ナツキはずっとそのそばに付き添い、午前中はすれ違う生徒たちの視線や皮肉交じりの言葉からハリーを守るために神経を尖らせていた。特にスリザリン生とは距離をとろうと気を張った。
そして昼食時、マクゴナガル先生がハリーを呼びにきた。
「頑張って!ハリー!きっと大丈夫!」
ハーマイオニーが言った。ナツキもハリーに向き直る。
「ハリー、何も心配ない。何かあったら・・・・ってのは昨日言ったでしょ?もし不安になったら、私のことを思い出して。私はこれまでも、これからも、ずっとあなたの味方だからね。」
「うん。」
ハリーはマクゴナガル先生と共に、大広間を出て行った。
試練の時刻が近づき、ナツキはハーマイオニーと並んで観戦スタンドへと向かった。早めに出たと思ったのに、すでにほとんどの生徒たちが席に着いており、スタンドには緊張と興奮が入り混じったざわめきが広がっていた。
「ナツキ!ハーマイオニー!」
グリフィンドール生が固まっているスタンドの中段で手を振っていたのはジョージだった。その横にはフレッドとリー・ジョーダンもいる。
「ほら、隣あいてるぞ。」
ナツキはジョージの隣に腰を下ろした。その横にハーマイオニーが緊張した面持ちで座った。
やがて試練ではドラゴンが守る卵をとらないといけないという説明がなされた。そして開始が宣言され、観客たちは一斉に歓声を上げる。
最初に挑戦するのは、ホグワーツのもう一人の代表、セドリック・ディゴリーだった。
スタンドのあちこちから黄色い声援が飛ぶ。ハッフルパフの生徒たちは一斉に旗を振り、大きな声で名を呼んだ。
フィールドに姿を現したのは青白い鱗のドラゴンだった。鋭い目が獲物を探すように動いている。その鼻先では、かすかに火花が散っていた。
「スウェーデン・ショート・スナウト種だ。」
隣でジョージが息を呑んだ。
セドリックは慎重に間合いを詰めると、近くの岩を素早く杖で叩いた。岩は一瞬で、しっぽを振るラブラドールへと変わった。幻の犬はドラゴンの視界に入り、わざと吠えながら走り回る。観客がどよめいた。
「犬!?」
セドリックの変身呪文はものすっごく上手だ。だが、犬でよかったのかと疑問を抱かざるを得ない。
セドリックはその隙に、岩陰をすり抜けて卵へと忍び寄る。あと数歩で手が届くというその時、ショートスナウトがギョロリと眼を動かした。
「下がって!セドリック!」
ナツキが思わず声を上げる。
ドラゴンの口から、白熱の炎が一直線に放たれた。セドリックは咄嗟に防御呪文を唱えたが、炎の端が肩をかすめ、ローブの袖が焼け焦げた。
観客席が悲鳴に包まれる。
しかし、彼は怯まなかった。焦げた肩を押さえながらも、手を伸ばし、金の卵を力強く抱えたまま、転がるように走ってフィールドの端へと逃げた。
審判の旗が振られると、会場は大歓声に包まれた。
「よ、よかった・・・・生きてるみたい・・・。こんなのをあと3回もみないといけないの・・・・・?」
ナツキはハーマイオニーに寄りかかって遠い目でそう言った。
二番手は、ボーバトンの代表、フラー・デラクール。
彼女が対峙したのはウェールズ・グリーン種だった。フラーは魅惑の魔法でドラゴンを一瞬ぼんやりとさせ、その隙に突風の呪文で砂埃を巻き起こした。視界を遮りながら卵へと素早く接近――しかし、あと一歩のところで火を吐かれ、スカートの裾に炎が燃え移る。
慌てて呪文で火を消しながらも、なんとか卵を手にしてゴールに滑り込んだ。
三番手は、ダームストラングの代表、ビクトール・クラム。
彼が立ち向かうのは、中国火の玉種のドラゴン。クラムは杖をしっかりと構え、落ち着いた足取りで前に出た。そして隙を見て、ドラゴンの目に向かって鋭く呪文を放つ。その瞬間、火の玉種は顔を仰け反らせて激しくのたうち回った。そのせいで卵が割れてしまったのだ。しかし、その隙にクラムはすばやく駆け寄り、残った卵を抱え上げた。
「・・・・ハリーの番だ・・・ジョージ、あのドラゴンは何?なんか、今までのより一層凶暴に見えるんだけど・・・・・」
「おいおい、ありゃ、ホーンテールじゃねぇか?」
ジョージの顔色は良くなかった。それだけで、ハリーのくじ運が最悪だったことを察した。
そして運命のホイッスルがなる。
テントの奥から、杖を強く握りしめたハリー・ポッターが姿を現した。グリフィンドールの観客席からは大歓声がそれ以外からは野次のようなものが飛んでいた。ナツキは立ち上がって叫んだ。
「ハリー!!!頑張れーーー!!」
ナツキは前のめりに身を乗り出す
ハリーの前に立ちはだかるのは、漆黒の鱗を持つ、恐ろしく大きなハンガリー・ホーンテール。
ハリーは素早く杖を構え、叫んだ。
「アクシオ!ファイアボルト!」
その瞬間、空から風を切って黒い点が飛んできた。ファイアボルト――彼の愛用の箒だ。
ナツキはハーマイオニーと目を合わせた。
「よかった・・・・!!うまく行った!」
「やったわ!これでハリーの独壇場よ!!!」
ハリーは箒に飛び乗り、一気に空中へと舞い上がった。
ドラゴンが低く唸り、首を大きく振って炎を吐く。
火の柱が地面を焼き尽くし、ハリーの足元を掠めて爆ぜた。
「っ!!」
ナツキは思わず短く悲鳴をあげ、ジョージの腕にぎゅっとしがみついた。驚いたようにジョージはナツキを振り向いたが、ナツキはそれどころではなかった。ハリーから、片時も目を離すことができなかった。
ホーンテールは怒り狂い、空へ飛び立とうと身を浮かせるが、卵を守ることに気を取られて悩んでいるようだった。ハリーはその隙を突き、箒でドラゴンの周囲を何度も急旋回し、注意を惹きつけた。
ナツキは心臓が壊れそうなほど早く打っているのを感じながら、なおもジョージの腕に縋りついていた
「今だ!いけっ!ハリー!!」
ジョージが叫んだその瞬間、ハリーは一気に急降下。ドラゴンの背後、岩の影にある金の卵へと滑り込む。
ドラゴンが振り返る前に、ハリーは卵をひったくり、箒に飛び乗った!
「取ったーーーーー!!!」
スタジアム全体が爆発するような歓声に包まれた。ナツキはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「よ、よかった〜〜〜!」
「ほら、ナツキ!立って!ハリーのテントに行きましょう!!ほら、ジョージの腕も離してあげて!血が止まっちゃうわ!」
ハーマイオニーの指摘にナツキはハッとし、顔を真っ赤にしてジョージの腕を慌てて離した。
「え!?あ、ご、ごめんジョージ!!」
「いや、まぁ、生きててよかったよな、ハリーも、俺の腕も。」
ジョージは照れを誤魔化すように肩を竦めて笑った。ナツキは気を取り直して立ち上がろうとしたが、
「うわ、待って、力が入らない・・・・!」
「まあ、あなた腰が抜けちゃったのね。肩を貸すわ。」
ハーマイオニーがナツキを起こそうとした時、反対からナツキはグイと持ち上げられた。
「ロン!」
振り向くと、ロンが少し照れたような顔で立っていた。
「なあ、その、僕も行くよ。ハリーのとこに。」
その一言に、ナツキの体にふわっと温かい力が戻ってくる。パッと立ち上がり、元気よく叫んだ。
「よし!早く行こう!!」
三人はスタンドを飛び出し、押し寄せる観客をかき分けるようにしてハリーのテントへと走った。そして入口を見つけた瞬間、ナツキとハーマイオニーは迷うことなく中へと駆け込んだ。
「ハリー!!お疲れ様!!」
ナツキもハーマイオニーもハリーを激励した。しかし、ハリーは黙って佇むロンだけをみていた。
ロンの顔は青ざめ、どこか決意を固めたように固まっていた。そして、ぎこちない声で言った。
「ハリー、君の名前をゴブレットに入れたやつが誰だったにしろ、僕・・・・僕、奴らが君を殺そうとしてるんだと思う。」
ナツキには、その瞬間、ハリーの顔にふわりと血の気が戻っていくのがわかった。
「気がついたってわけかい?随分長いことかかったな。」
ハリーは冷たくそう言ったが、ナツキにはすぐにわかった。ハリーは嬉しいのだ。心から。
しばしの沈黙のあと、二人は見つめ合い、そして笑った。
その笑顔を見たハーマイオニーは、胸の奥から感情があふれ出し、とうとう泣き出してしまった。
「二人とも、本当に大バカなんだから!!」
しゃくりあげながら叫ぶハーマイオニーは二人を抱きしめると、ワンワン鳴き声をあげて走り去ってしまった。
「狂ってるよな。」
ロンは照れたようにそう言って、ナツキの方へ視線を向けた。どこか申し訳なさそうに、少しだけ目を伏せながら言った。
「・・・ナツキも、ごめん・・・。君が、兄貴たちを騙したりなんてするわけがないのに、ひどいこといった。」
ナツキは一瞬の間のあとにっこりと微笑んだ。
「それって何のことだっけ?」
その言葉に、ロンの顔が一気に赤くなり、ハリーは吹き出しそうになるのをこらえながら肩を震わせた。テントの中に、ほんの少し前までは考えられなかったようなあたたかい空気が流れていた。
「ハリーの点数が出るよ!二人とも、行こう!」
三人でテントをくぐり外に出る。ハリーはクラムと同点で1位だ。カルカロフがエコ贔屓を発揮してハリーに低い得点をつけたが、それでも1位タイだ。
ハリーはとても嬉しそうだった。とりわけロンがハリーの代わりにカルカロフに怒っていることが、何よりも嬉しそうだった。ナツキはハーマイオニーが泣いちゃったのを馬鹿にできないな、と思いながらその光景を見つめた。
いいことは他にもあった。
グリフィンドール以外のホグワーツ生もハリーに声援を送ったのだ。ナツキは久しぶりに、張り詰めていた緊張の糸を解くことができたのだった。
ナツキは、重たい革表紙の本をめくりながら、指先で古代ルーン文字の下をなぞる。
「・・・ドラゴンの、皮膚には、以下の魔法的・・・性質が組み込まれている・・・熱・・の耐性、呪文・・・低級呪文の反射・・・・・」
ページをめくるたび、ドラゴンという魔法生物のとんでもない防御力が浮き彫りになる。やっぱり、普通のやり方じゃ難しい。ハリーを助けるには、何か突破口が必要だ。
「もっとドラゴンのことが載ってる本ってない?」
「アルバはドラゴンのことをあまり調べていないからな・・・・。それにしても、だいぶルーン文字を読めるようになったな。」
サイラスが感心したようにそういった。
「攻撃もだが、防御も考えさせたほうがいい。アルバはずっと闇の魔法からの防御について調べていたから、その資料はたくさんあるはずだ。」
「うん。わかった。」
ナツキはサイラスの言う通りに、ドラゴンの攻撃を防げるようなものはないかと探した。
しばらく色々な呪文の本を眺めていたが、祖母の研究手記と思えるものの一冊に手を出した。彼女の研究手記は何冊もあるが、とにかく専門用語やルーン文字が多くて、まだ読んだことはなかった。
「・・・呪い・・許されざる・・盾・・・・」
ナツキはハッとした。
「お祖母さんは、許されざる呪文から、身を守る呪文を作ろうとしていたの?」
ナツキの問いに、サイラスはわずかに眉をひそめ、静かに首を振った。
「いいや。アルバが目指していたのは守ることではない。無かったことにすることだ。」
「無かったこと?・・・もしかして、反対呪文のこと?」
「・・・・そうだ。特に、死の呪文の反対呪文について熱心に研究していた。」
ナツキは、ページの上に指を置いたまま動けなかった。
「でも、反対呪文はないって、ムーディ先生は言ってた・・・・。できなかったんだね?」
「ああ。アルバス・ダンブルドアの協力を得ても無理だった。才知と情熱を尽くしても、死の呪文を真正面から打ち消すことはできなかった。」
サイラスの声には、悔しさとも悲しみともつかぬ複雑な感情がにじんでいた。
「そうなんだ・・・・・ダンブルドア先生も・・・・」
ナツキはパラパラとページをめくった。そこに一際目立つ字で呪文と杖の振り方が書かれていた。
「・・・この呪文は?あも、ら・・・えーと、アモランディアかな?」
彼はゆっくりと息を吸い込み、重たく吐き出した。ライオンである彼の吐息はちょっとした突風のようで、ナツキは思わず髪を押さえた。
「・・・・アルバは初めその呪文に希望を見出した。アルバス・ダンブルドアも理論は完璧だと評したらしい。しかし、ダメだったんだ。アルバもダンブルドアも呪文を発動できなかった。つまり、失敗作だ。あの時のアルバの落胆ぶりを昨日のことのように覚えているよ・・・・。」
サイラスの声には、深い哀しみがにじんでいた。
「反対呪文があれば、ハリーも私も、今頃家族と過ごしていたのかな?」
サイラスはソファで手記をパラパラとめくるナツキに擦り寄った。互いの寂しさを埋めるように、ナツキはサイラスの鬣に背を埋めて、再び手記を読むのだった。
ナツキはその日から暇があれば、祖母の手記を読むようになっていた。
しかし一向にドラゴンを出し抜く方法がわからなかったが、前日になってハリーが見つけてきたのだ。「薬草学」に遅れてきたハリーはナツキとハーマイオニーに言った。
「二人とも、助けてほしいんだ。」
ナツキは笑顔でハーマイオニーと顔を見合わせた。
「私たち、今までだってそうしてきたでしょう?」
「私とハーマイオニーは何をすればいい?」
「『呼び寄せ呪文』を明日の午後までにちゃんと覚える必要があるんだ。」
三人はすぐに練習を始めた。空き教室でハリーの練習につきっきりになった。
ハリーは練習のために「占い学」をサボろうとしたが、ハーマイオニーは「数占い」の授業を欠席することを断った。
「私はもう授業がないから付き合うよ。ハリーの「占い学」だってどうせあなたは明日死ぬでしょうとかしか言われないんでしょ?サボっていいと思う。」
「ナツキ、よくわかってるね。」
ハリーはニヤリと笑った。
ハーマイオニー不在の中、ハリーは何度も「アクシオ」と唱えたが、結果は芳しくなかった。
「なんで集中できないんだろう。集中しようと思うと、ドラゴンが頭の中に出てくるんだ・・・・」
「よし、じゃあ一回、落ち着こうか。」
ナツキはハリーの両肩に手を置いて向き合った。
「あなたは今までたくさんの壁を乗り越えてきた。ドラゴンなんて、ヴォルデモートと比べたらきっと屁でもない。」
ハリーは少し戸惑ったようにナツキを見つめた。
「ちゃんと想像してみて。明日の試練で、もしハリーが本当に本当の大ピンチになったら、私はどうすると思う?」
「ナツキは・・・助けに来てくれる。いつも、そうしてくれたから・・・・」
「でしょう?私のことだから、反則でもなんでもして、絶対に助けに行くに決まってる。さあ、まだこれでもドラゴンが怖い?」
一瞬の沈黙のあと、ハリーは小さく笑った。
「ほんとだ。ちょっとマシになったかも。」
「よし、じゃあまたやってみよう!」
ナツキが励ますと、ハリーは深呼吸し、杖を構えた。
「アクシオ!」
すると、目の前の本がふわりと浮き上がり、ハリーの手元にまっすぐ吸い寄せられた。
「やった!ハリー、見た!?できたよ!!この調子だよ!」
ナツキの声が教室中に明るく響いた。ハリーは少し照れたように笑いながら、力強く頷いた。
その日は結局深夜まで練習をした。ハリーは呼び寄せ呪文のコツを完璧に掴んだのだ。
翌日。いよいよ試練の時が近づくにつれ、ハリーは緊張で胃の辺りが重くなり、今にも吐きそうだった。
ナツキはずっとそのそばに付き添い、午前中はすれ違う生徒たちの視線や皮肉交じりの言葉からハリーを守るために神経を尖らせていた。特にスリザリン生とは距離をとろうと気を張った。
そして昼食時、マクゴナガル先生がハリーを呼びにきた。
「頑張って!ハリー!きっと大丈夫!」
ハーマイオニーが言った。ナツキもハリーに向き直る。
「ハリー、何も心配ない。何かあったら・・・・ってのは昨日言ったでしょ?もし不安になったら、私のことを思い出して。私はこれまでも、これからも、ずっとあなたの味方だからね。」
「うん。」
ハリーはマクゴナガル先生と共に、大広間を出て行った。
試練の時刻が近づき、ナツキはハーマイオニーと並んで観戦スタンドへと向かった。早めに出たと思ったのに、すでにほとんどの生徒たちが席に着いており、スタンドには緊張と興奮が入り混じったざわめきが広がっていた。
「ナツキ!ハーマイオニー!」
グリフィンドール生が固まっているスタンドの中段で手を振っていたのはジョージだった。その横にはフレッドとリー・ジョーダンもいる。
「ほら、隣あいてるぞ。」
ナツキはジョージの隣に腰を下ろした。その横にハーマイオニーが緊張した面持ちで座った。
やがて試練ではドラゴンが守る卵をとらないといけないという説明がなされた。そして開始が宣言され、観客たちは一斉に歓声を上げる。
最初に挑戦するのは、ホグワーツのもう一人の代表、セドリック・ディゴリーだった。
スタンドのあちこちから黄色い声援が飛ぶ。ハッフルパフの生徒たちは一斉に旗を振り、大きな声で名を呼んだ。
フィールドに姿を現したのは青白い鱗のドラゴンだった。鋭い目が獲物を探すように動いている。その鼻先では、かすかに火花が散っていた。
「スウェーデン・ショート・スナウト種だ。」
隣でジョージが息を呑んだ。
セドリックは慎重に間合いを詰めると、近くの岩を素早く杖で叩いた。岩は一瞬で、しっぽを振るラブラドールへと変わった。幻の犬はドラゴンの視界に入り、わざと吠えながら走り回る。観客がどよめいた。
「犬!?」
セドリックの変身呪文はものすっごく上手だ。だが、犬でよかったのかと疑問を抱かざるを得ない。
セドリックはその隙に、岩陰をすり抜けて卵へと忍び寄る。あと数歩で手が届くというその時、ショートスナウトがギョロリと眼を動かした。
「下がって!セドリック!」
ナツキが思わず声を上げる。
ドラゴンの口から、白熱の炎が一直線に放たれた。セドリックは咄嗟に防御呪文を唱えたが、炎の端が肩をかすめ、ローブの袖が焼け焦げた。
観客席が悲鳴に包まれる。
しかし、彼は怯まなかった。焦げた肩を押さえながらも、手を伸ばし、金の卵を力強く抱えたまま、転がるように走ってフィールドの端へと逃げた。
審判の旗が振られると、会場は大歓声に包まれた。
「よ、よかった・・・・生きてるみたい・・・。こんなのをあと3回もみないといけないの・・・・・?」
ナツキはハーマイオニーに寄りかかって遠い目でそう言った。
二番手は、ボーバトンの代表、フラー・デラクール。
彼女が対峙したのはウェールズ・グリーン種だった。フラーは魅惑の魔法でドラゴンを一瞬ぼんやりとさせ、その隙に突風の呪文で砂埃を巻き起こした。視界を遮りながら卵へと素早く接近――しかし、あと一歩のところで火を吐かれ、スカートの裾に炎が燃え移る。
慌てて呪文で火を消しながらも、なんとか卵を手にしてゴールに滑り込んだ。
三番手は、ダームストラングの代表、ビクトール・クラム。
彼が立ち向かうのは、中国火の玉種のドラゴン。クラムは杖をしっかりと構え、落ち着いた足取りで前に出た。そして隙を見て、ドラゴンの目に向かって鋭く呪文を放つ。その瞬間、火の玉種は顔を仰け反らせて激しくのたうち回った。そのせいで卵が割れてしまったのだ。しかし、その隙にクラムはすばやく駆け寄り、残った卵を抱え上げた。
「・・・・ハリーの番だ・・・ジョージ、あのドラゴンは何?なんか、今までのより一層凶暴に見えるんだけど・・・・・」
「おいおい、ありゃ、ホーンテールじゃねぇか?」
ジョージの顔色は良くなかった。それだけで、ハリーのくじ運が最悪だったことを察した。
そして運命のホイッスルがなる。
テントの奥から、杖を強く握りしめたハリー・ポッターが姿を現した。グリフィンドールの観客席からは大歓声がそれ以外からは野次のようなものが飛んでいた。ナツキは立ち上がって叫んだ。
「ハリー!!!頑張れーーー!!」
ナツキは前のめりに身を乗り出す
ハリーの前に立ちはだかるのは、漆黒の鱗を持つ、恐ろしく大きなハンガリー・ホーンテール。
ハリーは素早く杖を構え、叫んだ。
「アクシオ!ファイアボルト!」
その瞬間、空から風を切って黒い点が飛んできた。ファイアボルト――彼の愛用の箒だ。
ナツキはハーマイオニーと目を合わせた。
「よかった・・・・!!うまく行った!」
「やったわ!これでハリーの独壇場よ!!!」
ハリーは箒に飛び乗り、一気に空中へと舞い上がった。
ドラゴンが低く唸り、首を大きく振って炎を吐く。
火の柱が地面を焼き尽くし、ハリーの足元を掠めて爆ぜた。
「っ!!」
ナツキは思わず短く悲鳴をあげ、ジョージの腕にぎゅっとしがみついた。驚いたようにジョージはナツキを振り向いたが、ナツキはそれどころではなかった。ハリーから、片時も目を離すことができなかった。
ホーンテールは怒り狂い、空へ飛び立とうと身を浮かせるが、卵を守ることに気を取られて悩んでいるようだった。ハリーはその隙を突き、箒でドラゴンの周囲を何度も急旋回し、注意を惹きつけた。
ナツキは心臓が壊れそうなほど早く打っているのを感じながら、なおもジョージの腕に縋りついていた
「今だ!いけっ!ハリー!!」
ジョージが叫んだその瞬間、ハリーは一気に急降下。ドラゴンの背後、岩の影にある金の卵へと滑り込む。
ドラゴンが振り返る前に、ハリーは卵をひったくり、箒に飛び乗った!
「取ったーーーーー!!!」
スタジアム全体が爆発するような歓声に包まれた。ナツキはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「よ、よかった〜〜〜!」
「ほら、ナツキ!立って!ハリーのテントに行きましょう!!ほら、ジョージの腕も離してあげて!血が止まっちゃうわ!」
ハーマイオニーの指摘にナツキはハッとし、顔を真っ赤にしてジョージの腕を慌てて離した。
「え!?あ、ご、ごめんジョージ!!」
「いや、まぁ、生きててよかったよな、ハリーも、俺の腕も。」
ジョージは照れを誤魔化すように肩を竦めて笑った。ナツキは気を取り直して立ち上がろうとしたが、
「うわ、待って、力が入らない・・・・!」
「まあ、あなた腰が抜けちゃったのね。肩を貸すわ。」
ハーマイオニーがナツキを起こそうとした時、反対からナツキはグイと持ち上げられた。
「ロン!」
振り向くと、ロンが少し照れたような顔で立っていた。
「なあ、その、僕も行くよ。ハリーのとこに。」
その一言に、ナツキの体にふわっと温かい力が戻ってくる。パッと立ち上がり、元気よく叫んだ。
「よし!早く行こう!!」
三人はスタンドを飛び出し、押し寄せる観客をかき分けるようにしてハリーのテントへと走った。そして入口を見つけた瞬間、ナツキとハーマイオニーは迷うことなく中へと駆け込んだ。
「ハリー!!お疲れ様!!」
ナツキもハーマイオニーもハリーを激励した。しかし、ハリーは黙って佇むロンだけをみていた。
ロンの顔は青ざめ、どこか決意を固めたように固まっていた。そして、ぎこちない声で言った。
「ハリー、君の名前をゴブレットに入れたやつが誰だったにしろ、僕・・・・僕、奴らが君を殺そうとしてるんだと思う。」
ナツキには、その瞬間、ハリーの顔にふわりと血の気が戻っていくのがわかった。
「気がついたってわけかい?随分長いことかかったな。」
ハリーは冷たくそう言ったが、ナツキにはすぐにわかった。ハリーは嬉しいのだ。心から。
しばしの沈黙のあと、二人は見つめ合い、そして笑った。
その笑顔を見たハーマイオニーは、胸の奥から感情があふれ出し、とうとう泣き出してしまった。
「二人とも、本当に大バカなんだから!!」
しゃくりあげながら叫ぶハーマイオニーは二人を抱きしめると、ワンワン鳴き声をあげて走り去ってしまった。
「狂ってるよな。」
ロンは照れたようにそう言って、ナツキの方へ視線を向けた。どこか申し訳なさそうに、少しだけ目を伏せながら言った。
「・・・ナツキも、ごめん・・・。君が、兄貴たちを騙したりなんてするわけがないのに、ひどいこといった。」
ナツキは一瞬の間のあとにっこりと微笑んだ。
「それって何のことだっけ?」
その言葉に、ロンの顔が一気に赤くなり、ハリーは吹き出しそうになるのをこらえながら肩を震わせた。テントの中に、ほんの少し前までは考えられなかったようなあたたかい空気が流れていた。
「ハリーの点数が出るよ!二人とも、行こう!」
三人でテントをくぐり外に出る。ハリーはクラムと同点で1位だ。カルカロフがエコ贔屓を発揮してハリーに低い得点をつけたが、それでも1位タイだ。
ハリーはとても嬉しそうだった。とりわけロンがハリーの代わりにカルカロフに怒っていることが、何よりも嬉しそうだった。ナツキはハーマイオニーが泣いちゃったのを馬鹿にできないな、と思いながらその光景を見つめた。
いいことは他にもあった。
グリフィンドール以外のホグワーツ生もハリーに声援を送ったのだ。ナツキは久しぶりに、張り詰めていた緊張の糸を解くことができたのだった。