炎のゴブレット
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翌日の談話室でハリーは女子部屋から降りてきたナツキとハーマイオニーを呼び止めた。
「ちょっと、こっちに。」
談話室の隅に二人を連れていくと、ハリーは小さな声でシリウスから手紙が来たことを告げた。
「11月22日の午前1時に寮の暖炉のそばでナツキと二人で待てって。」
「私と二人だけで?」
ナツキは内心驚いたが、同時に察しもついた。暖炉のそばに、ということは、煙突飛行粉を使った通信に違いない。
「もしまだ誰か起きてたら、クソ爆弾でも撒いて追い払う?」
ナツキが冗談めかして言うと、ハーマイオニーは遠い目をして返した。
「最終手段ね。」
そうは言っても、それほど笑っていられる状況ではなかった。
ハリーを取り巻く環境は、悪くなっていった。原因はリータ・スキータの取材記事だ。根も葉もない嘘と歪曲のオンパレード。中でも最悪だったのは、ハリーとハーマイオニーの間にロマンスがあるかのように書かれていたことだった。
「ハリーはこんなナヨナヨしてない!」
ナツキは怒りを込めて記事を叩きつけた。だが、そんな彼女にも火の粉が降りかかってくる。
「ほら、あの子、ハリーに振られたんでしょ?」
「なのにまだ付きまとってるって話よ。」
あからさまに聞かせようとしているとしか思えないひそひそ声とクスクス笑い。ナツキは声の出どころをジロリと睨んだ。
「ナツキ、無視よ無視。」
ハーマイオニーはそういった。現に彼女はくだらない噂を無視する達人だった。ロンとハリーの間で板挟みになっていることには明らかに苛立ちを募らせていた。
ハリーもまた苛立っていた。
そのせいか、いつもだったら簡単にこなしていただろう呪文の習得が遅れていた。「呼び寄せ呪文」はクラスで一番習得が遅く、彼自身も信じられない様子だった。
理論をきちんと学べばコツがつかめるとハーマイオニーが言い出し、ナツキたちは放課後によく図書室にこもるようになった。
その日もナツキは、ハリーが机に向かって呪文の理屈を詰め込んでいる間、少し離れた棚の間で対抗試合に役立ちそうな本を物色していた。すると、背後から声がかかった。
「やあ、ナツキ。あの・・・元気?」
振り向くと、セドリック・ディゴリーが立っていた。
「そうだね。ハリーに振られたらしいけどとっても元気。」
ナツキは皮肉たっぷりにそう言った。しかしすぐに後悔した。セドリックは何も悪いことをしていないのだ。このところ「セドリックを応援しよう」バッジをみすぎているせいだ。
「・・・ごめん。セドリックに当たることじゃなかった。」
「いいんだ。あんなに色々おかしく噂されたらしょうがないよ。」
セドリックは穏やかに笑って、少し照れたように言葉を続けた。
「それより、えっと、明日のホグズミード、一緒に行かない?」
ナツキは一瞬きょとんとして、すぐに気づいた。明日がホグズミード行きの日だったことをすっかり忘れていた。
「あー・・・・、ごめんなさい。私、ジョージと一緒に行く約束をしちゃったの。」
その約束はずっと前から決まっていたものだ。セドリックも誘えばいいのかもしれないが、ジョージがセドリックを快く思っていないことをナツキは知っていた。「あなたも来る?」なんて言ったらいい顔はしないだろう。
「・・・ああ、そう・・・。うん。えっと、」
セドリックはなんだか随分歯切れが悪い。
「どうかした?」
セドリックは決心したようにナツキと目を合わせた。
「君って・・・ジョージ・ウィーズリーかハリー・ポッターと付き合ってるの?」
「え?」
ナツキは数度瞬きをした。私がジョージかハリーとつきあっている?交際しているのかを尋ねられているのだとわかるまでに数秒かかった。
「ううん。私、誰とも付き合ってないよ。」
「ほんと?」
「うん。ほんと。」
セドリックは柔らかく笑った。そして彼は微笑んだまま、少しだけ手を挙げて「またね」と言い残すと、図書室の奥へと姿を消した。
翌朝、ナツキはハーマイオニーにジョージとホグズミードにいくことを告げた。
「まあ、ナツキ、それって!」
「だからハリーと一緒にいてほしんだけど、任せてもいい?それとも他の人と行く約束しちゃった?」
「いいえ!いいえ!ハリーのことはしっかり任せて!ナツキはすこーしも気にしなくていいのよ。」
やたらと目を輝かせるハーマイオニーを不思議に思いながらも、ナツキはその言葉に甘えることにして、談話室のジョージと合流した。ジョージは、昨年のクリスマスにナツキが編んであげたマフラーを巻いていた。そのことがなんだか無性に嬉しかった。
「ナツキ、おはよう。行こうぜ。」
「うん。マフラー、似合ってる。」
「だろ?」
ナツキはジョージと共にホグワーツ城を出て、ホグズミードへ向かった。
「行きたいとこはある?」
「なら『三本の箒』に行こう!マダム・ロスメルタに挨拶したいの!」
「オーケイ。バタービールであったまろうぜ。」
ナツキは小さい時にホグズミードで育っていたため、昔からここにいる大人にはお世話になっていた。
「三本の箒」に近づいたとき、ジョージが急に立ち止まり、くるりと向きを変えた。
「ん? どうしたの?」
「変更だ、ナツキ。あそこにリータ・スキータがいた。」
ジョージは肩に軽く手をまわしながら歩き出す。
「ハリーと仲のいい君はいいカモだ。あることないこと書かれちまう。別の店にしよう。」
ナツキは頷いた。リータ・スキータがどれだけ嫌な記者かはもうとっくに知っていたので異論はなかった。
「前にジョージがフレッドとは行きにくいって言ってたところは?」
「あー・・・まあ試しに行ってみるか。後悔するなよ。」
「?」
そう言ってジョージがナツキを連れてやってきたのは「マダム・パディフッドの店」だった。ピンクの壁にフリル満載のショーウィンドウで、確かにフレッドと一緒に入るには勇気がいると思った。
「ああ、これは入りにくいね。でもジョージ達が気にするほどでもないと思うけど。」
「入ればわかるさ。」
そう言ってジョージは扉をあけた。店内もピンク色の壁にレースのカーテン、さらにハート形の装飾に囲まれていた。
「あちらへどうぞ。」
店主が差した先には二人掛けの小さなソファと小さなテーブルがあった。
「あれクラッブとゴイルだったら一人掛けでもきついね。」
「ああ。みっちみちだ。」
と、冗談を言いながらナツキはソファの端に腰掛けた。ジョージもその隣に座ったが、思った以上にソファは狭く、自然と肩が触れ合ってしまう。
とりあえず何か注文しようと、ナツキもジョージもメニューの一番上にあった紅茶とケーキのセットを頼んだ。
「俺はナツキが紅茶を飲み終わる前に出たがるに賭けるぜ。」
「なんで?」
ジョージがそういった理由はすぐに察した。たまたま目に入ったテーブルの一角で見たことのあるホグワーツ生がやたらと手を握り合っていた。ナツキはなんだか呆れた目をしてつぶやいた。
「・・・あの人たち、きっと手に剥がれなくなる魔法薬がついたんだ。」
「ぷっ、じゃあ、あっちは?」
吹き出したジョージが示した別のテーブルでは、見つめあっている男女の鼻と鼻がくっついていて、今にもキスをしそうだった。
居心地が悪いとはまさにこのことだった。
「ここ、カップルが来るお店なんだね。そりゃあフレッドとなんて来にくいよ。・・・・ケーキと紅茶は美味しい。」
ぶすりとナツキはケーキにフォークを刺した。
「ナツキはああいうの興味ない?」
ジョージがちらりと、鼻をくっつけ合っている隣のカップルを目で示しながら尋ねてきた。
「ないよ!ジョージはあるのかもしれないけど。」
またぶすりとケーキにフォークを突き刺す。明らかに落ち着かない様子を、なんだか可愛らしく思ったジョージは彼女を揶揄ってみることにした。
「ああ。俺は興味シンシンだね。ナツキと同じ四年生の頃だって、キスしたくて仕方なかったさ。」
「誰と!?」
ナツキが顔を顰めながらそう言ったので、ジョージはほんの一瞬目を丸くした。なんだかまるで、ナツキがやいているように見えたのだ。
「・・・・冗談さ。」
ほんの数秒の沈黙の後、ジョージはいつもどおり悪戯っぽく微笑んだ。
「そう。なら、ジョージも早く食べて。早く外の空気を吸いたいの。」
「賭けは俺の勝ちだな。」
ジョージは紅茶をひと口飲みながら、楽しげに、そしてやたらと嬉しそうに笑った。
店を出ると、ナツキはほっと息をついた。冷たい外気が火照った頬に気持ちよく、深呼吸するたびに甘ったるい店内の空気が抜けていくのを感じた。
「ふう。やっと普通の世界に戻ってきた気がする。」
ナツキが呟くと、ジョージはくすくすと笑った。二人はまた歩き出し、ゾンコのいたずら専門店ではジョージが目を輝かせながら新しい商品を品定めし、ナツキは呆れながらも笑ってついて回った。
その後、ハニーデュークスで甘いお菓子をたっぷり買い込むと、ナツキの腕には紙袋がいくつもぶらさがっていた。
「なんか、思ってたよりたくさん買っちゃったな。」
「俺がいてよかったな。」
そう言ってジョージが袋をひとつ、グイと引き取ってくれた瞬間、ナツキは少しだけ胸があたたかくなるのを感じた。
昼も過ぎ、風が強くなってきたころ、ジョージが空を見上げながら言った。
「腹減ってきたな。『三本の箒』でバタービールとパイでも・・・うわ、あのババア、まだいやがるぜ。」
そう言って顔をしかめたジョージの視線の先には、派手な羽根ペンをくるくる回しているリータ・スキータの姿があった。
「あそこでターゲット探しでもしてるのかな・・・」
ナツキもげんなりしたように言った。
「ねえジョージ・・・その、汚くても気にしないなら、行きたいとこあるんだけど・・・・」
「ん?ああ、いいぜ。そこに行こう。」
ジョージが何の迷いもなく答えると、ナツキは微笑み、少しだけ早足になって歩き出した。ナツキが向かったのは、ホグズミードの外れにある小さなパブ、「ホッグズ・ヘッド」。
「ここって、ナツキの父ちゃんの店じゃなかった?」
「そう。アブのご飯が食べたくなっちゃって・・・。ダメだった?」
「・・・・いいってことよ。」
ジョージにこれまでにないほどの緊張が走っていた。ナツキの家族に合うということは、彼にとって大変重大であった。
ギィ、と軋む音を立てて扉を開けると、店内は相変わらず薄暗く、ちょっぴりヤギ臭かった。
カウンターの奥では、アバーフォース・ダンブルドアが、無言でコップを磨いていた。彼はナツキの姿を見つけると、ようやく動きを止め、顔を上げた。
「ナツキ?来たのか。」
「うん。1クヌートくらいは負けてくれるかと思って。」
「・・・・カウンターに座れ。向こうは手癖の悪い奴がい・・・」
ナツキがカウンターに座った時、初めてアバーフォースは連れ合いがいることに気づき、話すのをやめた。
「誰だ?」
「ジョージだよ。ジョージ・ウィーズリー。話したことあるでしょ?」
ナツキがさらりと紹介すると、アバーフォースはジョージをじろりと睨みつけ、しばし間を置いてから低く唸るように言った。
「・・・・ああ・・ウィーズリーのとこの坊主か。」
「ど、どーも。」
アバーフォースはいつもより殊更不機嫌であった。しかしナツキはそれをいつも通りと判断して、何も思わなかった。一方のジョージは緊張で吐きそうだとすら思っていた。
「ちょっと遅いけど、お昼ご飯にするの。なんかちょうだい。」
アバーフォースは何も言わず、黙って背を向けて奥へと消えていく。
「・・・俺、嫌われた?」
「え?ああ、いつもあんな感じだよ。」
「ああ、なら、今日の機嫌は悪そうだ。」
「そんなことないけど。」
ほどなくして、アバーフォースは、大きめの皿に盛られたサンドイッチと、湯気の立つボウルをふたつ、黙ってカウンターに置いた。
「ありがとう。」
ジョージはボウルに手を伸ばし、一口スープをすすると、思わず目を丸くした。
「お?うまい。」
口にしてジョージは驚いてしまった。見た目はひどく普通、というより飲食店にしては地味だったが、味は悪くなかったのだ。
しばらくして満腹になり、ナツキもアバーフォースとの会話を楽しんだところで、店を出た。
「じゃあまたね。」
「ああ・・・・。風邪ひくなよ。」
いつものやりとりをして、ナツキはジョージと二人、ホグワーツ城への帰路に着いたのであった。
その夜、ナツキは談話室でハリーを待っていた。彼は深夜にハグリッドに呼ばれてしまったのだ。
「ハリー、まだかな。」
談話室から人はいなくなっていて、ナツキはホッとした。少なくともクソ爆弾を投げる必要はなさそうだ。
少しして入口の方から誰かが入ってくる音がした。
「ハリー!」
「ナツキ、ドラゴンだ。」
「え?」
その時、暖炉からシリウスの首が現れた。
「おとうさん!」
ナツキは目を輝かせた。暖炉越しではあるが、久しぶりの再会だ。
「なんかカッコ良くなった?」
「ああ、ちょっと整えたんだ。」
シリウスは目を細めた。
「ハリーは?君は元気かね?」
「僕は・・・・元気・・・ではない。」
ハリーは堰を切ったように、ゴブレットのこと、リータ・スキータのこと、廊下でみんなから揶揄われること、ロンのことを一気に話した。
「それに、ハグリッドがついさっき、第1の課題がなんなのか、僕に見せてくれたの。ドラゴンなんだ、ナツキ、シリウス。僕、もうおしまいだ。」
「ドラゴン!?」
ナツキは血の気が引き、思わず両手で頬を押さえた。
「大丈夫だ。ドラゴンは、ハリー、なんとかなる。しかしそれはちょっと後にしよう。ナツキ、ハリー、君たちに警告しておかなければならないことがあるんだ。」
シリウスは低い声で、急ぎ足で言葉を続けた。
「カルカロフだ。あいつは『死喰い人』だった。」
ナツキとハリーは驚いて目を合わせた。
「アズカバンで一緒だった。しかし、あいつは釈放された。ダンブルドアが今年『闇祓い』をホグワーツに置きたかったのはそのせいだ。絶対間違いない。カルカロフを逮捕したのはムーディだ。」
ナツキが眉を寄せた。
「釈放って?」
「仲間を売ったんだ。自分の代わりに随分多くのものをアズカバンに送った。あいつはアズカバンでは嫌われ者だ。そして出獄してからは、私の知る限り、自分の学校に入学するものには全員に『闇の魔術』を教えてきた。だから、ダームストラングの代表選手にも気をつけなさい。」
ナツキは息を呑んだ。
「じゃあ、お父さんは、カルカロフがハリーの名前を入れたって思ってるの?」
「え、でもそしたら、、、あの人、随分な役者だよ。カンカンに怒っていたように見えた。僕が参加するのを阻止しようとした。」
「奴は役者だ。それはわかっている。」
どうやらシリウスはカルカロフがハリーを殺そうとしていると言いたいのだと思ったが、確信には至らないらしい。そして彼はヴォルデモートが試合のことを知っている可能性が大きいと告げた。
「カルカロフは、ヴォルデモートの力が強大になって、自分を守ってくれると確信しなければ、その下に戻るような男ではないだろう。しかし、ゴブレットに君の名前を入れたのが誰であれ、理由があって入れたのだ。」
ハリーは肩を落とした。
「本当にうまい計画だよ。自分はのんびり計画しながら、ドラゴンに仕事をやらせておけばいいんだもの。」
「そうだ。そのドラゴンだが、ハリー、方法はある。『失神の呪文』
を使いたくても使うな。たった一人の呪文でノックアウトできるものではない。」
「うん、わかってる。さっき見たもの。」
ハリーが冷静にそう返した。兎にも角にもナツキはこの時点で安心した。ドラゴンをやり込める方法があるのなら、と力を抜いた。
「しかし、それが一人でもできる方法があるのだ。簡単な呪文があればいい、つまり、」
「シッ!」
その時、誰かの足音が聞こえ、ナツキは人差し指をたて、咄嗟にシリウスの言葉を遮った。
「行って!行って!誰か来る!」
ハリーは声を殺してそう言った。ナツキとハリーはなんの打ち合わせをすることなく、暖炉を背に隠した。後ろからポンと小さな音が聞こえ、彼がいなくなったことがわかった。
そこに現れたのはロンだった。
ナツキは頭を押さえたくなった。これは間違いなく、またこじれる。
案の定、ハリーとロンは言い合いになり、最後には互いに視線も言葉も交わさず、男子寮へと去っていった。
「・・・はあ、うまくいかないなあ・・・・」
ナツキはひとり、暖炉の前に残ってぽつりとつぶやいた。昼間のホグズミードでの楽しい時間が、まるで遠い昔の出来事のように思えた。
「ちょっと、こっちに。」
談話室の隅に二人を連れていくと、ハリーは小さな声でシリウスから手紙が来たことを告げた。
「11月22日の午前1時に寮の暖炉のそばでナツキと二人で待てって。」
「私と二人だけで?」
ナツキは内心驚いたが、同時に察しもついた。暖炉のそばに、ということは、煙突飛行粉を使った通信に違いない。
「もしまだ誰か起きてたら、クソ爆弾でも撒いて追い払う?」
ナツキが冗談めかして言うと、ハーマイオニーは遠い目をして返した。
「最終手段ね。」
そうは言っても、それほど笑っていられる状況ではなかった。
ハリーを取り巻く環境は、悪くなっていった。原因はリータ・スキータの取材記事だ。根も葉もない嘘と歪曲のオンパレード。中でも最悪だったのは、ハリーとハーマイオニーの間にロマンスがあるかのように書かれていたことだった。
「ハリーはこんなナヨナヨしてない!」
ナツキは怒りを込めて記事を叩きつけた。だが、そんな彼女にも火の粉が降りかかってくる。
「ほら、あの子、ハリーに振られたんでしょ?」
「なのにまだ付きまとってるって話よ。」
あからさまに聞かせようとしているとしか思えないひそひそ声とクスクス笑い。ナツキは声の出どころをジロリと睨んだ。
「ナツキ、無視よ無視。」
ハーマイオニーはそういった。現に彼女はくだらない噂を無視する達人だった。ロンとハリーの間で板挟みになっていることには明らかに苛立ちを募らせていた。
ハリーもまた苛立っていた。
そのせいか、いつもだったら簡単にこなしていただろう呪文の習得が遅れていた。「呼び寄せ呪文」はクラスで一番習得が遅く、彼自身も信じられない様子だった。
理論をきちんと学べばコツがつかめるとハーマイオニーが言い出し、ナツキたちは放課後によく図書室にこもるようになった。
その日もナツキは、ハリーが机に向かって呪文の理屈を詰め込んでいる間、少し離れた棚の間で対抗試合に役立ちそうな本を物色していた。すると、背後から声がかかった。
「やあ、ナツキ。あの・・・元気?」
振り向くと、セドリック・ディゴリーが立っていた。
「そうだね。ハリーに振られたらしいけどとっても元気。」
ナツキは皮肉たっぷりにそう言った。しかしすぐに後悔した。セドリックは何も悪いことをしていないのだ。このところ「セドリックを応援しよう」バッジをみすぎているせいだ。
「・・・ごめん。セドリックに当たることじゃなかった。」
「いいんだ。あんなに色々おかしく噂されたらしょうがないよ。」
セドリックは穏やかに笑って、少し照れたように言葉を続けた。
「それより、えっと、明日のホグズミード、一緒に行かない?」
ナツキは一瞬きょとんとして、すぐに気づいた。明日がホグズミード行きの日だったことをすっかり忘れていた。
「あー・・・・、ごめんなさい。私、ジョージと一緒に行く約束をしちゃったの。」
その約束はずっと前から決まっていたものだ。セドリックも誘えばいいのかもしれないが、ジョージがセドリックを快く思っていないことをナツキは知っていた。「あなたも来る?」なんて言ったらいい顔はしないだろう。
「・・・ああ、そう・・・。うん。えっと、」
セドリックはなんだか随分歯切れが悪い。
「どうかした?」
セドリックは決心したようにナツキと目を合わせた。
「君って・・・ジョージ・ウィーズリーかハリー・ポッターと付き合ってるの?」
「え?」
ナツキは数度瞬きをした。私がジョージかハリーとつきあっている?交際しているのかを尋ねられているのだとわかるまでに数秒かかった。
「ううん。私、誰とも付き合ってないよ。」
「ほんと?」
「うん。ほんと。」
セドリックは柔らかく笑った。そして彼は微笑んだまま、少しだけ手を挙げて「またね」と言い残すと、図書室の奥へと姿を消した。
翌朝、ナツキはハーマイオニーにジョージとホグズミードにいくことを告げた。
「まあ、ナツキ、それって!」
「だからハリーと一緒にいてほしんだけど、任せてもいい?それとも他の人と行く約束しちゃった?」
「いいえ!いいえ!ハリーのことはしっかり任せて!ナツキはすこーしも気にしなくていいのよ。」
やたらと目を輝かせるハーマイオニーを不思議に思いながらも、ナツキはその言葉に甘えることにして、談話室のジョージと合流した。ジョージは、昨年のクリスマスにナツキが編んであげたマフラーを巻いていた。そのことがなんだか無性に嬉しかった。
「ナツキ、おはよう。行こうぜ。」
「うん。マフラー、似合ってる。」
「だろ?」
ナツキはジョージと共にホグワーツ城を出て、ホグズミードへ向かった。
「行きたいとこはある?」
「なら『三本の箒』に行こう!マダム・ロスメルタに挨拶したいの!」
「オーケイ。バタービールであったまろうぜ。」
ナツキは小さい時にホグズミードで育っていたため、昔からここにいる大人にはお世話になっていた。
「三本の箒」に近づいたとき、ジョージが急に立ち止まり、くるりと向きを変えた。
「ん? どうしたの?」
「変更だ、ナツキ。あそこにリータ・スキータがいた。」
ジョージは肩に軽く手をまわしながら歩き出す。
「ハリーと仲のいい君はいいカモだ。あることないこと書かれちまう。別の店にしよう。」
ナツキは頷いた。リータ・スキータがどれだけ嫌な記者かはもうとっくに知っていたので異論はなかった。
「前にジョージがフレッドとは行きにくいって言ってたところは?」
「あー・・・まあ試しに行ってみるか。後悔するなよ。」
「?」
そう言ってジョージがナツキを連れてやってきたのは「マダム・パディフッドの店」だった。ピンクの壁にフリル満載のショーウィンドウで、確かにフレッドと一緒に入るには勇気がいると思った。
「ああ、これは入りにくいね。でもジョージ達が気にするほどでもないと思うけど。」
「入ればわかるさ。」
そう言ってジョージは扉をあけた。店内もピンク色の壁にレースのカーテン、さらにハート形の装飾に囲まれていた。
「あちらへどうぞ。」
店主が差した先には二人掛けの小さなソファと小さなテーブルがあった。
「あれクラッブとゴイルだったら一人掛けでもきついね。」
「ああ。みっちみちだ。」
と、冗談を言いながらナツキはソファの端に腰掛けた。ジョージもその隣に座ったが、思った以上にソファは狭く、自然と肩が触れ合ってしまう。
とりあえず何か注文しようと、ナツキもジョージもメニューの一番上にあった紅茶とケーキのセットを頼んだ。
「俺はナツキが紅茶を飲み終わる前に出たがるに賭けるぜ。」
「なんで?」
ジョージがそういった理由はすぐに察した。たまたま目に入ったテーブルの一角で見たことのあるホグワーツ生がやたらと手を握り合っていた。ナツキはなんだか呆れた目をしてつぶやいた。
「・・・あの人たち、きっと手に剥がれなくなる魔法薬がついたんだ。」
「ぷっ、じゃあ、あっちは?」
吹き出したジョージが示した別のテーブルでは、見つめあっている男女の鼻と鼻がくっついていて、今にもキスをしそうだった。
居心地が悪いとはまさにこのことだった。
「ここ、カップルが来るお店なんだね。そりゃあフレッドとなんて来にくいよ。・・・・ケーキと紅茶は美味しい。」
ぶすりとナツキはケーキにフォークを刺した。
「ナツキはああいうの興味ない?」
ジョージがちらりと、鼻をくっつけ合っている隣のカップルを目で示しながら尋ねてきた。
「ないよ!ジョージはあるのかもしれないけど。」
またぶすりとケーキにフォークを突き刺す。明らかに落ち着かない様子を、なんだか可愛らしく思ったジョージは彼女を揶揄ってみることにした。
「ああ。俺は興味シンシンだね。ナツキと同じ四年生の頃だって、キスしたくて仕方なかったさ。」
「誰と!?」
ナツキが顔を顰めながらそう言ったので、ジョージはほんの一瞬目を丸くした。なんだかまるで、ナツキがやいているように見えたのだ。
「・・・・冗談さ。」
ほんの数秒の沈黙の後、ジョージはいつもどおり悪戯っぽく微笑んだ。
「そう。なら、ジョージも早く食べて。早く外の空気を吸いたいの。」
「賭けは俺の勝ちだな。」
ジョージは紅茶をひと口飲みながら、楽しげに、そしてやたらと嬉しそうに笑った。
店を出ると、ナツキはほっと息をついた。冷たい外気が火照った頬に気持ちよく、深呼吸するたびに甘ったるい店内の空気が抜けていくのを感じた。
「ふう。やっと普通の世界に戻ってきた気がする。」
ナツキが呟くと、ジョージはくすくすと笑った。二人はまた歩き出し、ゾンコのいたずら専門店ではジョージが目を輝かせながら新しい商品を品定めし、ナツキは呆れながらも笑ってついて回った。
その後、ハニーデュークスで甘いお菓子をたっぷり買い込むと、ナツキの腕には紙袋がいくつもぶらさがっていた。
「なんか、思ってたよりたくさん買っちゃったな。」
「俺がいてよかったな。」
そう言ってジョージが袋をひとつ、グイと引き取ってくれた瞬間、ナツキは少しだけ胸があたたかくなるのを感じた。
昼も過ぎ、風が強くなってきたころ、ジョージが空を見上げながら言った。
「腹減ってきたな。『三本の箒』でバタービールとパイでも・・・うわ、あのババア、まだいやがるぜ。」
そう言って顔をしかめたジョージの視線の先には、派手な羽根ペンをくるくる回しているリータ・スキータの姿があった。
「あそこでターゲット探しでもしてるのかな・・・」
ナツキもげんなりしたように言った。
「ねえジョージ・・・その、汚くても気にしないなら、行きたいとこあるんだけど・・・・」
「ん?ああ、いいぜ。そこに行こう。」
ジョージが何の迷いもなく答えると、ナツキは微笑み、少しだけ早足になって歩き出した。ナツキが向かったのは、ホグズミードの外れにある小さなパブ、「ホッグズ・ヘッド」。
「ここって、ナツキの父ちゃんの店じゃなかった?」
「そう。アブのご飯が食べたくなっちゃって・・・。ダメだった?」
「・・・・いいってことよ。」
ジョージにこれまでにないほどの緊張が走っていた。ナツキの家族に合うということは、彼にとって大変重大であった。
ギィ、と軋む音を立てて扉を開けると、店内は相変わらず薄暗く、ちょっぴりヤギ臭かった。
カウンターの奥では、アバーフォース・ダンブルドアが、無言でコップを磨いていた。彼はナツキの姿を見つけると、ようやく動きを止め、顔を上げた。
「ナツキ?来たのか。」
「うん。1クヌートくらいは負けてくれるかと思って。」
「・・・・カウンターに座れ。向こうは手癖の悪い奴がい・・・」
ナツキがカウンターに座った時、初めてアバーフォースは連れ合いがいることに気づき、話すのをやめた。
「誰だ?」
「ジョージだよ。ジョージ・ウィーズリー。話したことあるでしょ?」
ナツキがさらりと紹介すると、アバーフォースはジョージをじろりと睨みつけ、しばし間を置いてから低く唸るように言った。
「・・・・ああ・・ウィーズリーのとこの坊主か。」
「ど、どーも。」
アバーフォースはいつもより殊更不機嫌であった。しかしナツキはそれをいつも通りと判断して、何も思わなかった。一方のジョージは緊張で吐きそうだとすら思っていた。
「ちょっと遅いけど、お昼ご飯にするの。なんかちょうだい。」
アバーフォースは何も言わず、黙って背を向けて奥へと消えていく。
「・・・俺、嫌われた?」
「え?ああ、いつもあんな感じだよ。」
「ああ、なら、今日の機嫌は悪そうだ。」
「そんなことないけど。」
ほどなくして、アバーフォースは、大きめの皿に盛られたサンドイッチと、湯気の立つボウルをふたつ、黙ってカウンターに置いた。
「ありがとう。」
ジョージはボウルに手を伸ばし、一口スープをすすると、思わず目を丸くした。
「お?うまい。」
口にしてジョージは驚いてしまった。見た目はひどく普通、というより飲食店にしては地味だったが、味は悪くなかったのだ。
しばらくして満腹になり、ナツキもアバーフォースとの会話を楽しんだところで、店を出た。
「じゃあまたね。」
「ああ・・・・。風邪ひくなよ。」
いつものやりとりをして、ナツキはジョージと二人、ホグワーツ城への帰路に着いたのであった。
その夜、ナツキは談話室でハリーを待っていた。彼は深夜にハグリッドに呼ばれてしまったのだ。
「ハリー、まだかな。」
談話室から人はいなくなっていて、ナツキはホッとした。少なくともクソ爆弾を投げる必要はなさそうだ。
少しして入口の方から誰かが入ってくる音がした。
「ハリー!」
「ナツキ、ドラゴンだ。」
「え?」
その時、暖炉からシリウスの首が現れた。
「おとうさん!」
ナツキは目を輝かせた。暖炉越しではあるが、久しぶりの再会だ。
「なんかカッコ良くなった?」
「ああ、ちょっと整えたんだ。」
シリウスは目を細めた。
「ハリーは?君は元気かね?」
「僕は・・・・元気・・・ではない。」
ハリーは堰を切ったように、ゴブレットのこと、リータ・スキータのこと、廊下でみんなから揶揄われること、ロンのことを一気に話した。
「それに、ハグリッドがついさっき、第1の課題がなんなのか、僕に見せてくれたの。ドラゴンなんだ、ナツキ、シリウス。僕、もうおしまいだ。」
「ドラゴン!?」
ナツキは血の気が引き、思わず両手で頬を押さえた。
「大丈夫だ。ドラゴンは、ハリー、なんとかなる。しかしそれはちょっと後にしよう。ナツキ、ハリー、君たちに警告しておかなければならないことがあるんだ。」
シリウスは低い声で、急ぎ足で言葉を続けた。
「カルカロフだ。あいつは『死喰い人』だった。」
ナツキとハリーは驚いて目を合わせた。
「アズカバンで一緒だった。しかし、あいつは釈放された。ダンブルドアが今年『闇祓い』をホグワーツに置きたかったのはそのせいだ。絶対間違いない。カルカロフを逮捕したのはムーディだ。」
ナツキが眉を寄せた。
「釈放って?」
「仲間を売ったんだ。自分の代わりに随分多くのものをアズカバンに送った。あいつはアズカバンでは嫌われ者だ。そして出獄してからは、私の知る限り、自分の学校に入学するものには全員に『闇の魔術』を教えてきた。だから、ダームストラングの代表選手にも気をつけなさい。」
ナツキは息を呑んだ。
「じゃあ、お父さんは、カルカロフがハリーの名前を入れたって思ってるの?」
「え、でもそしたら、、、あの人、随分な役者だよ。カンカンに怒っていたように見えた。僕が参加するのを阻止しようとした。」
「奴は役者だ。それはわかっている。」
どうやらシリウスはカルカロフがハリーを殺そうとしていると言いたいのだと思ったが、確信には至らないらしい。そして彼はヴォルデモートが試合のことを知っている可能性が大きいと告げた。
「カルカロフは、ヴォルデモートの力が強大になって、自分を守ってくれると確信しなければ、その下に戻るような男ではないだろう。しかし、ゴブレットに君の名前を入れたのが誰であれ、理由があって入れたのだ。」
ハリーは肩を落とした。
「本当にうまい計画だよ。自分はのんびり計画しながら、ドラゴンに仕事をやらせておけばいいんだもの。」
「そうだ。そのドラゴンだが、ハリー、方法はある。『失神の呪文』
を使いたくても使うな。たった一人の呪文でノックアウトできるものではない。」
「うん、わかってる。さっき見たもの。」
ハリーが冷静にそう返した。兎にも角にもナツキはこの時点で安心した。ドラゴンをやり込める方法があるのなら、と力を抜いた。
「しかし、それが一人でもできる方法があるのだ。簡単な呪文があればいい、つまり、」
「シッ!」
その時、誰かの足音が聞こえ、ナツキは人差し指をたて、咄嗟にシリウスの言葉を遮った。
「行って!行って!誰か来る!」
ハリーは声を殺してそう言った。ナツキとハリーはなんの打ち合わせをすることなく、暖炉を背に隠した。後ろからポンと小さな音が聞こえ、彼がいなくなったことがわかった。
そこに現れたのはロンだった。
ナツキは頭を押さえたくなった。これは間違いなく、またこじれる。
案の定、ハリーとロンは言い合いになり、最後には互いに視線も言葉も交わさず、男子寮へと去っていった。
「・・・はあ、うまくいかないなあ・・・・」
ナツキはひとり、暖炉の前に残ってぽつりとつぶやいた。昼間のホグズミードでの楽しい時間が、まるで遠い昔の出来事のように思えた。