炎のゴブレット
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ナツキは大広間のジョージの脇に腰を下ろした。いつもならハリーたちと並んで座るが、今日は席数個分だけ離れていた。双子と何か企んでいることはすでに周囲にバレているらしく、とくに誰も何も言わなかった。
「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた、客人の皆さん。三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。さあ、それでは、大いに飲み、食し、かつ寛いでくだされ!」
目の前に御馳走の乗った皿が現れた。中には見慣れない食べ物もある。
「これ、何?」
ナツキが指さしたのは、白く濁ったスープのようなものだった。
「クリームシチューじゃないのか?」
フレッドは適当に答えた。ナツキはとりあえず慣れているものを食べていた。緊張して、それ以外喉を通らないかもと思ったからだ。
「ナツキ、そこまで気を張らなくていいさ。俺もフレッドも、もし失敗してもナツキのせいだとは思わない。」
周りに聞こえないようにジョージがそう言った。
「・・・でも、私・・・・ううん。とりあえず今は、成功することを考えよう!」
「とりあえずナツキはちゃんと食えよ。」
フレッドがすかさずナツキの口に肉を突っ込んだ。
「ふぉふぇっふぉ(フレッド)!!」
「おーう、ナツキは口に肉を詰め込んでも可憐だぜ。」
そう言ってさっさとフレッドはデザートに手をつけた。なんてやつだ。その時、ナツキの背後から不意に低い声がかかった。
「フィスクシュッペ、」
びくっと肩を跳ねさせて振り返ると、ダームストラングの制服を着た少年が立っていた。
「食ゔぇないな、ら、くれ。」
辿々しい英語でそう言ったのはダームストラングの少年だった。
「これ?」
ナツキが指差したスープを確認すると、少年は小さくうなずいた。
「どうぞ。これ、そちらのお料理なんだね。フィス・・えっと、なんだっけ?」
ナツキがボウルを持って手渡しながら聞くと、少年は手を添えてそれを受け取り、ゆっくりと答えた。
「フィスクシュッペ。」
その時、少年の目がふとナツキの手元から顔へ、そしてその瞳へと静かに移った。彼の視線がナツキをとらえたまま、ぱちぱちと瞬きをする。
「ふぃしゅくすっぺ?」
「フィスクシュッペ。」
少年は照れくさそうに笑ってナツキの間違いを訂正し、軽く頭を下げると、人混みの中に戻っていった。
ジョージはその一部始終をに見ていた。少年の目がナツキを捉えた瞬間の、あの表情を見逃さなかった。あれは大なり小なりナツキに好意を抱いた顔だ。
「異文化交流もほどほどにな。」
ジョージはぼそっと呟きながら、何でもないふうを装ってフォークを口に運んだ。
「おいおい、相棒。そのフォークにゃ、何も刺さってないぜ。」
隣で見ていたフレッドが、ニヤニヤしながらジョージの肩を突いた。ジョージは低く返したが、耳の先が赤くなっているのをごまかせてはいなかった。
そんな時、ナツキがそっとジョージのローブの袖を引っ張った。
「じょ、ジョージ、フレッド・・・」
その時、ナツキがジョージのローブの袖を掴んだ。
「ん?」
「あ、あれ・・・」
ナツキが見ていたのは教職員テーブルだ。教職員用の長テーブルに、見覚えのある二人の男が並んで座っていた。ひとりはバーテミウス・クラウチ氏。そしてもうひとりは、
「バグマン・・・!?」
ジョージがつぶやいた。
「あの野郎、抜け抜けと・・・・」
フレッドが低く、怒りを押し殺した声で言い放つ。
「そっか、魔法省が協力してるって言ってたもんね。あの人たちの部署なんだ。ねえ、ジョージ、もしかして、ただ忙しかったから、手紙を返せなかったのかな・・・・?」
ナツキの手はまだジョージのローブを握っていた。
「だといいけどな・・・・」
みんながデザートを食べ終え、ダンブルドア先生が立ち上がった。ジョージとフレッドはバグマンを一旦忘れ、身を乗り出してその話を聞こうとした。
「時はきた。三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。」
ダンブルドア先生はクラウチ氏とバグマンを紹介した。盛り上がる広間で、ナツキは複雑な思いで控えめにペチペチと拍手をした。彼らはなんと審査員でもあるらしい。
「それでは、フィルチさん、箱をこれへ。」
大広間にやけに豪華な箱をフィルチが持ってきた。何が入っているのだろうか。
「・・・課題は三つあり、今学年を通して、間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される。」
大広間に緊張が走った。
「皆も知っての通り、試合で競うのは3人の代表選手じゃ。参加三校から各一人ずつ。選手は課題の一つ一つをどのように巧みにこなすかで採点され、総合点が最も高いものが優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者・・・『炎のゴブレット』じゃ。」
ダンブルドア先生が杖で箱を叩くと、ゆっくりと蓋が開き、そこから先生は大きな木のゴブレットを取り出した。その淵からは青白い炎が踊っていた。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志あるものは、これから24時間の内に、その名を提出するよう。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは、各校を代表するに最も相応しいと判断した三人の名前を返して寄越すであろう。」
ダンブルドア先生は続けた。
「年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう、『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にワシが『年齢線』を引くことにする。17歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ。最後に、この試合で競おうとする者にはっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。」
後半はナツキの耳にあまり届かなかった。年齢線だ!ただの年齢線なら、対策済みである。
ジョージとフレッドがナツキを見た。三人の間に、言葉にしなくても通じ合う確信のようなものがあった。
「さて、もう寝る時間じゃ。みんな、おやすみ。」
みんないっしょに大広間を横切る。フレッドは目をキラキラさせていた。
「年齢線か!ナツキ!最高だ!『老け薬』作ってたよな?それでごまかせる!一旦名前をゴブレットに入れて仕舞えば、もうこっちのもんさ!」
「ハリー、君はやるな?立候補するんだろ?ナツキは多めに薬を作ってくれてるぞ!」
ジョージも嬉しそうにハリーにそう声をかけた。
翌日の土曜日は、多くの生徒が早起きをした。ナツキもその一人だ。多くの生徒が浮き足立つ中、ナツキは朝靄の残る玄関ホールに早くから現れていた。
彼女は、ゴブレットの周囲に描かれた、淡い金色の年齢線を、床すれすれに顔を近づけ、四つん這いになってじっと見つめていた。
「これ本当に年齢線だけ・・・・?ダンブルド先生がそんな簡単なものを・・・・?」
周囲の生徒たちは、彼女の奇行に距離を取り、ひそひそと囁いていた。その様子をうずうずしながら見ていたロンが、我慢できずに声をかけた。
「ナツキ、もう誰か名前を入れた?」
「朝からいるけどホグワーツの人はまだ。」
そこで笑い声が聞こえた。フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンが急いで階段を降りてくるところだった。
「ナツキ!やったぜ。今飲んできた。」
「一人一滴だ。」
フレッドとジョージがナツキに向かって言った。
「うん。それで年齢は十分。ただちょっと待って。それだけで行けるとは思えないから、私、錯乱の呪文をかける。そしたら、すぐに、線を越えて。私に何があっても。」
ナツキの言葉にジョージが眉を顰めた。
「おいおい、ダンブルドアはそんな危険な者は流石に仕込まないだろ。」
「うん。それは私も信じてるよ。でもちょっと吹っ飛んだりするかもしれないし。そうなっても気にしないで。」
「オーケーさ。」
ジョージはためらったが、フレッドは即座にそう返事をした。
「いいか?それじゃ、行くぞ。俺が一番乗りだ。」
フレッドが「フレッド・ウィーズリー ホグワーツ」と書いたメモをポケットから取り出した。
ナツキは杖を向け、大きく息を吸った。
「コンファンド!」
線に向かって杖を向けた。線がブルっと僅かに滲んだ気がした、その瞬間、妨害の呪文か何かでナツキはポーンと玄関ホールから外まで飛ばされてしまった。
「ナツキ!」
ロンと一緒に来ていたハリーの声が聞こえた。
ドスンッ!
「うぐぅ・・・」
ナツキは石畳の上に尻餅をついた。突き上げるような衝撃に、思わず呻き声が漏れた。
「いたた・・・・・。まあでも錯乱の呪文はかかった気がするなぁ・・・」
ナツキが尻を押さえながら玄関ホールへ戻ると、そこは爆笑の渦に包まれていた。彼女が吹き飛ばされている間に、双子にも異変が起きていたらしい。
ジョージとフレッドに見事なふさふさの白い顎髭が生えていた。当の二人も笑っていた。
「忠告したはずじゃ。」
玄関ホールの中央で、ダンブルドア先生が微笑を浮かべていた。目をキラキラと輝かせながら、完全に面白がっているようだった。
「二人とも、マダム・ポンフリーのところへ行くが良い。」
ゲラゲラ笑っているリーが付き添って、二人は医務室へ向かっていった。
「おっと!ミス・ゴドリクソン、尻餅でもついたのかね?」
「・・・・ジョージ達は、失敗しちゃったんですか?」
返事を待つまでもなかった。
「いやはや、ミス・ゴドリクソンの錯乱呪文で年齢線が少々不機嫌になったようじゃの。・・・ほいっと、これで元通りじゃ。」
そう言いながら、ダンブルドア先生は杖をひと振りした。ほんのりとにじんでいた金色の円が、ふたたび澄んだ光を放ち、きれいに描き直された。
ナツキはショックだった。ダンブルドア先生を出し抜くなんて、無理だったんだ。
どうしよう。これではジョージとフレッドの夢が、叶えられない。
ナツキは渋々ながら、医務室へと向かった。扉を開けると、マダム・ポンフリーが腰に手を当てて、頬を膨らませていた。
「まったくもう!先生方のご忠告がまるで耳に入っていなかったようですね!ウィーズリー兄弟!・・・・・ミス・ゴドリクソン!あなたもですか!?」
ナツキは扉のところで硬直した。
「あ、あの、お見舞いで・・・」
「そうですか!お見舞い、けっこう!でしたら静かに!今たいへん忙しいのですから!」
ぴしゃりとした口調と同時に、実に小気味よい「フン!」という効果音が聞こえた気がした。
室内にはすでに顎髭もじゃもじゃの双子が並んで座っており、どちらもニヤニヤしながらナツキを見ていた。リー・ジョーダンの姿が見えないのは、おそらく追い出されたのだろう。
ナツキは椅子に腰掛ける二人の傍らに立ち、目を伏せた。
「ごめんね、二人とも・・・私・・・役に立たなかった・・・・」
「何言ってんだ。ナツキに責任なんかないさ。」
フレッドは肩をすくめて、いつもの軽口を叩いた。だがナツキは首を横に振る。
「で、でも、これじゃ一千ガリオンが・・・お店が・・・・」
目を潤ませるナツキにフレッドはギョッとした。一方でジョージは、落ち着いたままナツキの頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫さ。ルード・バグマンも今はホグワーツにいることだし、なんとか掛け合うよ。」
ナツキはその温もりに目を閉じた。視界が霞むなか、彼の顎髭がふわふわ揺れているのが見えた。
「ねえ、ジョージ・・・・」
「ん?」
「・・・・そのお髭、触ってみてもいい?」
ナツキが顔を上げて尋ねると、ジョージはいつもの調子で口角を上げた。
「どうぞ。遠慮なく。今だけ限定、ふわもこヒゲ体験だ。」
ナツキはくすっと笑い、指先でそっと白い髭を撫でた。それから10分後には二人の髭は綺麗さっぱり無くなっていた。
三人で医務室を出た瞬間、フレッドが「あっ」と何かを思い出したように声を上げた。
「そうだ。俺、アンジェリーナに用があったんだ。じゃあ、お先に!」
それだけ言って、くるりと踵を返し、足早に廊下の向こうへ消えていった。
ジョージはその背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。
「変な気、使いやがって。」
だが、隣を歩くナツキにはその声は届かなかった。
「ナツキ、このところずっとバタバタしてたろ?少し、散歩でもしないか?」
「うん。」
ふたりは並んで中庭へ向かった。すっかり秋の気配が濃くなった空気が、肌にひんやりと触れた。みんな玄関ホールにいるのだろうか、生徒の姿はどこにもなかった。
ナツキはそっとベンチに腰を下ろした。ジョージも黙って隣に座る。
「・・・私、自分がこんなに傲慢だなんて知らなかった・・・。その気になれば、ダンブルドア先生の呪文も破れると思っちゃったんだ・・・・」
ナツキはポツリとそう言った。
「違うさ。」
ジョージは即座に否定した。
「傲慢だからじゃない。君が、優しい人だから、俺らの助けになろうと必死になっただけだ。」
その言葉にナツキがゆっくり顔を上げると、ジョージの目が真っ直ぐ自分を見ていた。いつも通りの、あたたかい光を宿した優しい瞳だった。
「傲慢な人は、みんな笑ってんのに、泣きそうになったりしないんだよ。」
ナツキはジョージの言葉にこらえていたものがふっと緩み、照れくさそうに笑った。
「・・・ごめん。私、ジョージがいると、なんか涙もろくなるっていうか・・・・フレッドのこと、困らせちゃったね。」
ジョージはそのナツキの言葉にドキッとした。なんだか、自分がひどく特別に思えたのだ。
ナツキが目を伏せたその時、ジョージは腕をそっとナツキの肩を抱き寄せた。
「ジョージ?」
ジョージは拒まれないことを確かめるように、慎重に頭をナツキの頭に寄せた。
「・・・・少し寒いな。こうしてていい?」
ナツキは驚きつつも、ゆっくりとうなずいた。ジョージの肩に頭を預ける。彼の体温が心地よかった。
ふたりの間に言葉はなかった。ただ、風が木々を揺らす音だけが、静かな中庭に漂っていた。
夜になると、ナツキはハリー達と大広間にいた。グリフィンドール生たちは、アンジェリーナ・ジョンソンがホグワーツ代表に選ばれるよう、皆で願っていた。ナツキもその一人だった。少し前まで自分がどうにかしようとしていたことが、今では懐かしく思えるほどだった。
やがて、パーティーの終盤。ダンブルドア先生が立ち上がり、広間は一気に静まり返った。
「さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは、大広間の一番前に来るがよい。そして隣の部屋に入るよう。」
ダンブルドア先生が杖を大きく一振りすると、ゴブレットの炎が赤く色を変え、火花を散らしながら羊皮紙を吐き出した。
「ダームストラングの代表じゃ、ビクトール・クラム。」
その名が読み上げられると、ホグワーツの生徒からも大きな拍手が湧いた。世界的なクィディッチ選手、ビクトール・クラムに異を唱える者はいない。
またゴブレットは赤く燃え上がり、羊皮紙が飛び出た。
「ボーバトンの代表選手は、フラー・デラクール!」
綺麗な少女が立ち上がった。ロンがぽーっと見ている。
そしてまた、ゴブレットが羊皮紙を吐き出した。
「ホグワーツの代表は、セドリック・ディゴリー!」
ナツキは大きく拍手をした。フレッドとジョージが気にするなと言ってくれたから、もう気にするのはやめだ。仲の良いセドリックが選ばれた。ならば精一杯応援するだけだ。
「結構、結構!さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も、みんな打ち揃って、あらん限りの力を振り絞り、代表選手達を応援してくれることを信じておる。選手に声援を送ることで・・・」
しかし、そこでダンブルドア先生はふと言葉を止めた。口を閉じ、ゴブレットの方を見つめる。
その瞬間だった。
「炎のゴブレット」が再び赤々と燃え上がり、火柱が音を立てて吹き上がった。ざわめく大広間の中、四枚目の羊皮紙が放り出されるように空中を舞った。
異常事態に、空気が固まる。
ダンブルドア先生はそれを手に取り、羊皮紙に書かれた名前をじっと見つめた。いつも穏やかなその顔が、わずかにこわばっているのがわかった。
沈黙ののち、低く、静かな声が広間に響いた。
「ハリー・ポッター。」
隣でハリーが動けずにいるのが見えた。頭の中では警鐘が鳴り響いていた。
「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた、客人の皆さん。三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。さあ、それでは、大いに飲み、食し、かつ寛いでくだされ!」
目の前に御馳走の乗った皿が現れた。中には見慣れない食べ物もある。
「これ、何?」
ナツキが指さしたのは、白く濁ったスープのようなものだった。
「クリームシチューじゃないのか?」
フレッドは適当に答えた。ナツキはとりあえず慣れているものを食べていた。緊張して、それ以外喉を通らないかもと思ったからだ。
「ナツキ、そこまで気を張らなくていいさ。俺もフレッドも、もし失敗してもナツキのせいだとは思わない。」
周りに聞こえないようにジョージがそう言った。
「・・・でも、私・・・・ううん。とりあえず今は、成功することを考えよう!」
「とりあえずナツキはちゃんと食えよ。」
フレッドがすかさずナツキの口に肉を突っ込んだ。
「ふぉふぇっふぉ(フレッド)!!」
「おーう、ナツキは口に肉を詰め込んでも可憐だぜ。」
そう言ってさっさとフレッドはデザートに手をつけた。なんてやつだ。その時、ナツキの背後から不意に低い声がかかった。
「フィスクシュッペ、」
びくっと肩を跳ねさせて振り返ると、ダームストラングの制服を着た少年が立っていた。
「食ゔぇないな、ら、くれ。」
辿々しい英語でそう言ったのはダームストラングの少年だった。
「これ?」
ナツキが指差したスープを確認すると、少年は小さくうなずいた。
「どうぞ。これ、そちらのお料理なんだね。フィス・・えっと、なんだっけ?」
ナツキがボウルを持って手渡しながら聞くと、少年は手を添えてそれを受け取り、ゆっくりと答えた。
「フィスクシュッペ。」
その時、少年の目がふとナツキの手元から顔へ、そしてその瞳へと静かに移った。彼の視線がナツキをとらえたまま、ぱちぱちと瞬きをする。
「ふぃしゅくすっぺ?」
「フィスクシュッペ。」
少年は照れくさそうに笑ってナツキの間違いを訂正し、軽く頭を下げると、人混みの中に戻っていった。
ジョージはその一部始終をに見ていた。少年の目がナツキを捉えた瞬間の、あの表情を見逃さなかった。あれは大なり小なりナツキに好意を抱いた顔だ。
「異文化交流もほどほどにな。」
ジョージはぼそっと呟きながら、何でもないふうを装ってフォークを口に運んだ。
「おいおい、相棒。そのフォークにゃ、何も刺さってないぜ。」
隣で見ていたフレッドが、ニヤニヤしながらジョージの肩を突いた。ジョージは低く返したが、耳の先が赤くなっているのをごまかせてはいなかった。
そんな時、ナツキがそっとジョージのローブの袖を引っ張った。
「じょ、ジョージ、フレッド・・・」
その時、ナツキがジョージのローブの袖を掴んだ。
「ん?」
「あ、あれ・・・」
ナツキが見ていたのは教職員テーブルだ。教職員用の長テーブルに、見覚えのある二人の男が並んで座っていた。ひとりはバーテミウス・クラウチ氏。そしてもうひとりは、
「バグマン・・・!?」
ジョージがつぶやいた。
「あの野郎、抜け抜けと・・・・」
フレッドが低く、怒りを押し殺した声で言い放つ。
「そっか、魔法省が協力してるって言ってたもんね。あの人たちの部署なんだ。ねえ、ジョージ、もしかして、ただ忙しかったから、手紙を返せなかったのかな・・・・?」
ナツキの手はまだジョージのローブを握っていた。
「だといいけどな・・・・」
みんながデザートを食べ終え、ダンブルドア先生が立ち上がった。ジョージとフレッドはバグマンを一旦忘れ、身を乗り出してその話を聞こうとした。
「時はきた。三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。」
ダンブルドア先生はクラウチ氏とバグマンを紹介した。盛り上がる広間で、ナツキは複雑な思いで控えめにペチペチと拍手をした。彼らはなんと審査員でもあるらしい。
「それでは、フィルチさん、箱をこれへ。」
大広間にやけに豪華な箱をフィルチが持ってきた。何が入っているのだろうか。
「・・・課題は三つあり、今学年を通して、間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される。」
大広間に緊張が走った。
「皆も知っての通り、試合で競うのは3人の代表選手じゃ。参加三校から各一人ずつ。選手は課題の一つ一つをどのように巧みにこなすかで採点され、総合点が最も高いものが優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者・・・『炎のゴブレット』じゃ。」
ダンブルドア先生が杖で箱を叩くと、ゆっくりと蓋が開き、そこから先生は大きな木のゴブレットを取り出した。その淵からは青白い炎が踊っていた。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志あるものは、これから24時間の内に、その名を提出するよう。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは、各校を代表するに最も相応しいと判断した三人の名前を返して寄越すであろう。」
ダンブルドア先生は続けた。
「年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう、『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にワシが『年齢線』を引くことにする。17歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ。最後に、この試合で競おうとする者にはっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。」
後半はナツキの耳にあまり届かなかった。年齢線だ!ただの年齢線なら、対策済みである。
ジョージとフレッドがナツキを見た。三人の間に、言葉にしなくても通じ合う確信のようなものがあった。
「さて、もう寝る時間じゃ。みんな、おやすみ。」
みんないっしょに大広間を横切る。フレッドは目をキラキラさせていた。
「年齢線か!ナツキ!最高だ!『老け薬』作ってたよな?それでごまかせる!一旦名前をゴブレットに入れて仕舞えば、もうこっちのもんさ!」
「ハリー、君はやるな?立候補するんだろ?ナツキは多めに薬を作ってくれてるぞ!」
ジョージも嬉しそうにハリーにそう声をかけた。
翌日の土曜日は、多くの生徒が早起きをした。ナツキもその一人だ。多くの生徒が浮き足立つ中、ナツキは朝靄の残る玄関ホールに早くから現れていた。
彼女は、ゴブレットの周囲に描かれた、淡い金色の年齢線を、床すれすれに顔を近づけ、四つん這いになってじっと見つめていた。
「これ本当に年齢線だけ・・・・?ダンブルド先生がそんな簡単なものを・・・・?」
周囲の生徒たちは、彼女の奇行に距離を取り、ひそひそと囁いていた。その様子をうずうずしながら見ていたロンが、我慢できずに声をかけた。
「ナツキ、もう誰か名前を入れた?」
「朝からいるけどホグワーツの人はまだ。」
そこで笑い声が聞こえた。フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンが急いで階段を降りてくるところだった。
「ナツキ!やったぜ。今飲んできた。」
「一人一滴だ。」
フレッドとジョージがナツキに向かって言った。
「うん。それで年齢は十分。ただちょっと待って。それだけで行けるとは思えないから、私、錯乱の呪文をかける。そしたら、すぐに、線を越えて。私に何があっても。」
ナツキの言葉にジョージが眉を顰めた。
「おいおい、ダンブルドアはそんな危険な者は流石に仕込まないだろ。」
「うん。それは私も信じてるよ。でもちょっと吹っ飛んだりするかもしれないし。そうなっても気にしないで。」
「オーケーさ。」
ジョージはためらったが、フレッドは即座にそう返事をした。
「いいか?それじゃ、行くぞ。俺が一番乗りだ。」
フレッドが「フレッド・ウィーズリー ホグワーツ」と書いたメモをポケットから取り出した。
ナツキは杖を向け、大きく息を吸った。
「コンファンド!」
線に向かって杖を向けた。線がブルっと僅かに滲んだ気がした、その瞬間、妨害の呪文か何かでナツキはポーンと玄関ホールから外まで飛ばされてしまった。
「ナツキ!」
ロンと一緒に来ていたハリーの声が聞こえた。
ドスンッ!
「うぐぅ・・・」
ナツキは石畳の上に尻餅をついた。突き上げるような衝撃に、思わず呻き声が漏れた。
「いたた・・・・・。まあでも錯乱の呪文はかかった気がするなぁ・・・」
ナツキが尻を押さえながら玄関ホールへ戻ると、そこは爆笑の渦に包まれていた。彼女が吹き飛ばされている間に、双子にも異変が起きていたらしい。
ジョージとフレッドに見事なふさふさの白い顎髭が生えていた。当の二人も笑っていた。
「忠告したはずじゃ。」
玄関ホールの中央で、ダンブルドア先生が微笑を浮かべていた。目をキラキラと輝かせながら、完全に面白がっているようだった。
「二人とも、マダム・ポンフリーのところへ行くが良い。」
ゲラゲラ笑っているリーが付き添って、二人は医務室へ向かっていった。
「おっと!ミス・ゴドリクソン、尻餅でもついたのかね?」
「・・・・ジョージ達は、失敗しちゃったんですか?」
返事を待つまでもなかった。
「いやはや、ミス・ゴドリクソンの錯乱呪文で年齢線が少々不機嫌になったようじゃの。・・・ほいっと、これで元通りじゃ。」
そう言いながら、ダンブルドア先生は杖をひと振りした。ほんのりとにじんでいた金色の円が、ふたたび澄んだ光を放ち、きれいに描き直された。
ナツキはショックだった。ダンブルドア先生を出し抜くなんて、無理だったんだ。
どうしよう。これではジョージとフレッドの夢が、叶えられない。
ナツキは渋々ながら、医務室へと向かった。扉を開けると、マダム・ポンフリーが腰に手を当てて、頬を膨らませていた。
「まったくもう!先生方のご忠告がまるで耳に入っていなかったようですね!ウィーズリー兄弟!・・・・・ミス・ゴドリクソン!あなたもですか!?」
ナツキは扉のところで硬直した。
「あ、あの、お見舞いで・・・」
「そうですか!お見舞い、けっこう!でしたら静かに!今たいへん忙しいのですから!」
ぴしゃりとした口調と同時に、実に小気味よい「フン!」という効果音が聞こえた気がした。
室内にはすでに顎髭もじゃもじゃの双子が並んで座っており、どちらもニヤニヤしながらナツキを見ていた。リー・ジョーダンの姿が見えないのは、おそらく追い出されたのだろう。
ナツキは椅子に腰掛ける二人の傍らに立ち、目を伏せた。
「ごめんね、二人とも・・・私・・・役に立たなかった・・・・」
「何言ってんだ。ナツキに責任なんかないさ。」
フレッドは肩をすくめて、いつもの軽口を叩いた。だがナツキは首を横に振る。
「で、でも、これじゃ一千ガリオンが・・・お店が・・・・」
目を潤ませるナツキにフレッドはギョッとした。一方でジョージは、落ち着いたままナツキの頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫さ。ルード・バグマンも今はホグワーツにいることだし、なんとか掛け合うよ。」
ナツキはその温もりに目を閉じた。視界が霞むなか、彼の顎髭がふわふわ揺れているのが見えた。
「ねえ、ジョージ・・・・」
「ん?」
「・・・・そのお髭、触ってみてもいい?」
ナツキが顔を上げて尋ねると、ジョージはいつもの調子で口角を上げた。
「どうぞ。遠慮なく。今だけ限定、ふわもこヒゲ体験だ。」
ナツキはくすっと笑い、指先でそっと白い髭を撫でた。それから10分後には二人の髭は綺麗さっぱり無くなっていた。
三人で医務室を出た瞬間、フレッドが「あっ」と何かを思い出したように声を上げた。
「そうだ。俺、アンジェリーナに用があったんだ。じゃあ、お先に!」
それだけ言って、くるりと踵を返し、足早に廊下の向こうへ消えていった。
ジョージはその背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。
「変な気、使いやがって。」
だが、隣を歩くナツキにはその声は届かなかった。
「ナツキ、このところずっとバタバタしてたろ?少し、散歩でもしないか?」
「うん。」
ふたりは並んで中庭へ向かった。すっかり秋の気配が濃くなった空気が、肌にひんやりと触れた。みんな玄関ホールにいるのだろうか、生徒の姿はどこにもなかった。
ナツキはそっとベンチに腰を下ろした。ジョージも黙って隣に座る。
「・・・私、自分がこんなに傲慢だなんて知らなかった・・・。その気になれば、ダンブルドア先生の呪文も破れると思っちゃったんだ・・・・」
ナツキはポツリとそう言った。
「違うさ。」
ジョージは即座に否定した。
「傲慢だからじゃない。君が、優しい人だから、俺らの助けになろうと必死になっただけだ。」
その言葉にナツキがゆっくり顔を上げると、ジョージの目が真っ直ぐ自分を見ていた。いつも通りの、あたたかい光を宿した優しい瞳だった。
「傲慢な人は、みんな笑ってんのに、泣きそうになったりしないんだよ。」
ナツキはジョージの言葉にこらえていたものがふっと緩み、照れくさそうに笑った。
「・・・ごめん。私、ジョージがいると、なんか涙もろくなるっていうか・・・・フレッドのこと、困らせちゃったね。」
ジョージはそのナツキの言葉にドキッとした。なんだか、自分がひどく特別に思えたのだ。
ナツキが目を伏せたその時、ジョージは腕をそっとナツキの肩を抱き寄せた。
「ジョージ?」
ジョージは拒まれないことを確かめるように、慎重に頭をナツキの頭に寄せた。
「・・・・少し寒いな。こうしてていい?」
ナツキは驚きつつも、ゆっくりとうなずいた。ジョージの肩に頭を預ける。彼の体温が心地よかった。
ふたりの間に言葉はなかった。ただ、風が木々を揺らす音だけが、静かな中庭に漂っていた。
夜になると、ナツキはハリー達と大広間にいた。グリフィンドール生たちは、アンジェリーナ・ジョンソンがホグワーツ代表に選ばれるよう、皆で願っていた。ナツキもその一人だった。少し前まで自分がどうにかしようとしていたことが、今では懐かしく思えるほどだった。
やがて、パーティーの終盤。ダンブルドア先生が立ち上がり、広間は一気に静まり返った。
「さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは、大広間の一番前に来るがよい。そして隣の部屋に入るよう。」
ダンブルドア先生が杖を大きく一振りすると、ゴブレットの炎が赤く色を変え、火花を散らしながら羊皮紙を吐き出した。
「ダームストラングの代表じゃ、ビクトール・クラム。」
その名が読み上げられると、ホグワーツの生徒からも大きな拍手が湧いた。世界的なクィディッチ選手、ビクトール・クラムに異を唱える者はいない。
またゴブレットは赤く燃え上がり、羊皮紙が飛び出た。
「ボーバトンの代表選手は、フラー・デラクール!」
綺麗な少女が立ち上がった。ロンがぽーっと見ている。
そしてまた、ゴブレットが羊皮紙を吐き出した。
「ホグワーツの代表は、セドリック・ディゴリー!」
ナツキは大きく拍手をした。フレッドとジョージが気にするなと言ってくれたから、もう気にするのはやめだ。仲の良いセドリックが選ばれた。ならば精一杯応援するだけだ。
「結構、結構!さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も、みんな打ち揃って、あらん限りの力を振り絞り、代表選手達を応援してくれることを信じておる。選手に声援を送ることで・・・」
しかし、そこでダンブルドア先生はふと言葉を止めた。口を閉じ、ゴブレットの方を見つめる。
その瞬間だった。
「炎のゴブレット」が再び赤々と燃え上がり、火柱が音を立てて吹き上がった。ざわめく大広間の中、四枚目の羊皮紙が放り出されるように空中を舞った。
異常事態に、空気が固まる。
ダンブルドア先生はそれを手に取り、羊皮紙に書かれた名前をじっと見つめた。いつも穏やかなその顔が、わずかにこわばっているのがわかった。
沈黙ののち、低く、静かな声が広間に響いた。
「ハリー・ポッター。」
隣でハリーが動けずにいるのが見えた。頭の中では警鐘が鳴り響いていた。