炎のゴブレット
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
早朝、ナツキが談話室に降りると、そこにはハリーの姿だけがあった。ハリーはナツキを見ると焦ったようにナツキに頭を下げた。
「ど、どうしたの?」
ナツキが驚いて尋ねると、ハリーは不安げに手紙を握りしめたまま、声を震わせて言った。
「昨日、シリウスから手紙が来たんだ。僕、僕・・・あんな手紙書かなければよかった!!僕のせいで捕まっちゃったらどうしよう!!」
ナツキはハリーが西塔のフクロウ小屋に行くというので、その道中でシリウスから来た手紙を見せてもらった。それでハリーは、やっぱり大丈夫だという趣旨の手紙を送ろうとしていたのだ。
「お父さんはそんなすぐ捕まるようなヘマはしないだろうけど・・・。やっぱり、傷のことはダンブルドア先生に言うべきことなんだね。」
ナツキは真剣な表情で続けた。
「ハリー、前にも手紙で書いたけど、アブが言ってたの。『復活は時間の問題かもしれないけど、だからって召使いが一人増えたくらいで、すぐにヴォルデモートが完全復活できるわけじゃない』って。でも、私はその時に備えて、準備をするに越したことはないと思うの。盾の呪文は練習しておいた方がいいと思う。今できることをしよう。私も一緒にするから。」
ハリーは小さくうなずいた。やっと、気持ちが少し落ち着いたようだった。
「・・・そうだね。ナツキ、いつもありがとう。」
ヘドウィグに手紙を託し、空へ送り出したあと、ふたりは連れ立って朝食のために大広間へ向かった。
その日の朝食の最中、ナツキがトーストにマーマレードジャムを塗っていると、隣に座っていたハーマイオニーが突然バッジを差し出してきた。
「・・・・えーっと、ごめん、ハーマイオニー、食事中なんだけど・・・・」
そのバッジにはSPEW(反吐)と書かれている。
「違うわ!エス・ピー・イー・ダブリューよ!Society for the Promotion of Elfish Welfareの略!!しもべ妖精福祉振興協会よ!」
ハーマイオニーは目をきらきらさせながら続けた。
「ホグワーツには、無償で働かされているしもべ妖精がたくさんいるの。彼らの待遇を見直すべきだと思わない?これは、その第一歩なのよ!」
「えーと、そうなんだ。」
ナツキはトーストにガブっとかじりつき、わざと口をもぐもぐさせたまま、少しだけ曖昧に笑ってみせた。
「うん、ハーマイオニーの言ってること、すごく大事だと思う。でも、私、ちょっと今は他に集中したいことがあるから。」
なるべく柔らかく、でもはっきりと伝えて、ナツキはトーストを頬張ると席を立った。何か言われる前に、ハーマイオニーに軽く手を振って広間をあとにした。
残されたハーマイオニーは、ぽつんとバッジを手の中で握りしめながら呆然とつぶやいた。
「そんなナツキに副会長をお願いしようと思ってたのに!」
「おいおい、ハーマイオニー、忘れたのか?」
横からロンが口を挟んだ。
「ナツキの血筋は魔法界でも名家だぞ。ナツキは、屋敷しもべ妖精を平気でこき使う側の人間なんだぜ。」
ハーマイオニーはロンの言葉に、まるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、顔を青ざめさせた。
「そんな、でも、あの気のいいナツキに限って、そんなこと・・・・!」
「だって、ナツキ、よく厨房から食べ物もらってきてるだろ? あれって、しもべ妖精に頼んでるんだぜ。お茶菓子とか、夜食とかさ。」
ハーマイオニーは真っ青になった。
「ほ、ほんとだわ・・・!」
ハーマイオニーの目が見開かれた。
「確かに、ナツキ、ベッドメイキングとか、ちょっとだらしないところがあるもの!今朝だって、毛布が半分床に落ちてたわ!」
ロンが「そんなの普通じゃないのか?」と呟こうとしたが、ハーマイオニーは完全に自分の世界に突入していた。
「そうよ・・・つまりナツキは、それが当たり前になってるのよ!しもべ妖精が全部やってくれるのが当然って、無意識のうちに思い込んでるのよ・・・!」
バッジを握りしめるハーマイオニーの目が、熱を帯びてギラギラと光った。
「それって完全に依存だわ!変えなきゃ!」
ハーマイオニーの中で、何かに火がついた。
ロンとハリーはナツキを気の毒に思いながら、静かにトーストをかじっていた。
それから、ナツキは授業以外のほとんどの時間を西塔の秘密の部屋で過ごした。
「・・・攪拌して・・・・ここで、干しイラクサを・・・・入れる!」
もう何種類目かわからない魔法薬を調合していた。それでも焦っていた。まだやることはたくさんある。
「法的なものが一番厄介かも。錯乱の呪文が通じるのかな・・・。きっと防護されいているから・・・・・」
呟きながらも思考は止まらない。対策リストにいくつもメモ書きをしていく。
「ナツキ、もう寮へ戻る頃だ。」
「え?あ、ああ、そうだね。」
サイラスに促されて部屋を出る。戻った後は、談話室の片隅でウィーズリーの双子と深夜までひそひそ作戦会議。そして数時間だけ寝て、また朝が来る。
そんな日々が続いていた。
来年度にOWLを控えた四年生は、授業も大変だった。
「闇の魔術に対する防衛術」ではムーディ先生が一人ひとりに「服従の呪文」をかけ、どこまで抵抗できるかを試すという実地訓練が行われた。
「いたっ!」
ナツキは反射的に椅子から立ち上がろうとして、脛を机にぶつけてしまった。
「よーしそれだ!ゴドリクソン!」
ムーディ先生は嬉しそうに叫んだ。
「お前達、見たか・・・。ポッターとゴドリクソンは戦った。よーし、ポッター、もう一度やってみろ。」
その後はナツキもハリーもヘロヘロだった。二人が成功するまでムーディ先生は呪文をかけ続けたのだ。
そしてある日の放課後、
「・・・ナツキ、ナツキ。」
ふと名前を呼ばれて、ナツキはハッと目を覚ました。ここは図書室。うっかり居眠りしてしまっていたらしい。
目の前には、心配そうにこちらを覗き込むセドリック・ディゴリーの顔。
「大丈夫?寝てないんじゃない?」
ナツキは気まずそうに笑って誤魔化し、机の上を見る。そこには、未完成の古代ルーンの翻訳課題と、かすれたインクの筆跡。
「急いでやらないと・・・・!」
小声で呟き、ナツキは急いで羽ペンを走らせはじめた。
「無理しすぎない方がいいよ。手伝えることがあれば言って。」
「うん、ありがとう。今は大丈夫!」
ナツキはできるだけやわらかく言いながらも、手元の羊皮紙に視線を落とし、羽ペンを走らせ続けた。
「僕、対抗試合に・・・・・」
何か言いかけて、しかしそのまま言葉を濁した。彼女が耳を傾ける余裕がないことを察して、小さく笑う。
「いや、なんでもない。じゃあ、頑張ってね。」
またある日の、「尻尾爆発スクリュート」の世話終わり、ナツキやハリー達が玄関ホールに着くと、人でごった返していて進めなかった。
「何?ロン、何か見える?」
一番のっぽのロンが爪先立ちして、掲示板を覗き込んだ。
「わお!ボーバトンとダームストラングが10月30日にくるって!歓迎会をするらしい!」
「あと1週間!?」
ナツキの心臓が跳ねた。残り7日で、フレッドとジョージが年齢制限の壁を越える準備を整えなければいけない。魔法薬、呪文、念のためのバックアップ計画。まだ、終わっていない。
「セドリックのやつ、知ってるかな?僕、知らせてやろう・・・」
近くにいたアーニー・マクミランがそう言って足早に去っていった。
「セドリックが試合に?」
当然だ。彼は17歳。年齢制限なんて気にする必要もない。正々堂々と立候補できる。
ナツキはそれに悔しい思いが湧き上がった。セドリックじゃなくて、ジョージかフレッドが代表になって、優勝して、賞金を獲得しないといけないのに。
「君は、あいつがハンサムだから好きなだけだろ。」
その一言に、ナツキはぎょっとして顔を上げた。ナツキが暗い気持ちになっていたところで、ロンがハーマイオニーを皮肉ったのだった。
「セドリックはいい人だよ!」
ナツキは咄嗟に口をついて出た言葉に、自分で驚いた。
「・・・優しい人だよ。勉強もできるし・・・。代表に立候補するのは、何も変じゃない。」
言葉を並べながらも、自分でもその声がどこかうわずって聞こえるのを感じた。まるで自分に言い聞かせているようだ。
セドリックは悪くない。何ひとつ責める理由なんてない。
ナツキは俯き、唇を噛んだ。自分の中で、いろんな想いがぶつかり合っていた。ナツキはなんだか惨めな気持ちになった。
10月30日の朝、大広間は三校対抗試合の到来を祝うように華やかに飾り付けられていた。
ナツキは人の波から少し離れた隅の席に、ジョージとフレッドと肩を並べて座っていた。
「・・・返事、こないの?」
「ああ。完全に無視されてる。バグマンのやろう・・・あの賭けをあてにしてたのに・・・・!」
ナツキの質問にフレッドが忌々しそうに言った。
「そいつは確かに当て外れさ。だけど、あいつが自分で直接俺たちに話す気がないなら、結局、俺たちが手紙を出さなきゃならないだろう。じゃなきゃ、奴の手に押し付ける。いつまで経っても俺たちを避けてることはできないよ。」
「レオーネは準備バッチリだよ。ぐいぐい渡せって言ったら、やってくれる子だよ!」
ジョージの言葉にナツキは鼻息を荒くして返した。
「何がやってくれる子なんだい?」
割り込むようにロンの声が後ろから飛んできて、双子はあからさまにイライラした。
「三校対抗試合ってどんなものか、何かわかったの?エントリーするのに、何かもっと方法を考えた?」
ハリーが興味深そうに聞いてきた。ナツキは主に年齢制限の対策に注力していたため、試合そのものについてはあまり調べていない。
「マクゴナガルがいうには、代表選手が課題をいかにうまくこなすかによって、点数がつけられるそうだ。」
ジョージが言った。
「誰が審査員になるの?」
「参加校の校長先生は必ず審査員になるわね。」
ハリーの質問にハーマイオニーは答えた。そのままの勢いで、彼女は話題を屋敷しもべ妖精の待遇問題へと持っていった。
ハーマイオニーの視線がナツキを刺すように向いてきて、ナツキは慌てて目を逸らした。しかし、彼女がジョージとフレッドに2シックル出してバッジを買えと迫ったときには、黙っていられなかった。
「ハーマイオニー、二人にそんなこと言わないで。」
ほとんど一文なしの彼らに2シックルでもお金を請求するなんて、と思ってナツキはハーマイオニーにきつい口調で言ってしまった。
ハーマイオニーの顔がさっと曇るのを見て、ナツキは「あ」と口を噤んだ。
「いいさ、ナツキ。ハーマイオニーは勘違いしてるんだ。」
ジョージはニヤニヤ笑ってハーマイオニーをみた。
「俺たちは何度も厨房に行ったことがある。食べ物を失敬しに。そして俺たちは連中にあってるが、連中は幸せなんだ。正解一いい仕事を持ってると思ってる。」
「それはあの人たちが教育も受けてないし、洗脳されてるからだわ!」
その時、フクロウ便が到着し、ヘドウィグがハリーの肩に止まった。
父親からの返事がもう来た。前はあんなに時間がかかっていたのに。つまり、近くに来てしまったのだと察した。
「ナツキ、来て。」
ハリーの元へ行き、一緒に手紙を読んだ。そこには、ヘドウィグを使わずに、ホグワーツで起きていることを知らせてほしいということだった。
ハリーには、簡単に捕まるような人ではないと強がりを言ったが、心配だった。次アズカバンに投獄されたら、間違いなく吸魂鬼のキスが待っている。
「大丈夫だよ。ハリーは、自分のことを考えて。盾の呪文は練習してる?」
「あ、うん。まだ、ナツキほど上手にはできないけど。」
「ハリーならすぐできるよ。私はたまたま先に勉強しただけだから。」
そう言ってナツキは再び双子の元に行った。ナツキの頭はパンク寸前だった。ジョージ達の夢の手伝い、ハリーと自分に迫っているかもしれない危機、父が捕まるかもしれないこと、山のような宿題、古代ルーン文字の習得、ついでにロンのドレスローブのフリルの処理。
「・・・ジョージ、さっきはありがとう。ハーマイオニーと喧嘩しちゃうところだった。」
ジョージは心配そうに眉を寄せ、優しく彼女の肩に手を置いた。
「いいんだ。・・・ナツキ、ありがとうな。辛くなったらちゃんと言えよ?」
「うん。大丈夫だよ。」
ナツキは笑顔でうなずきながらも、胸の奥に込み上げる何かをぐっと押し込んで、また前を向いた。ジョージがまた心配そうな顔をしたのにも気づかないふりをした。
その日の授業をすべて終え、夕方の空が茜に染まり始めた頃、ホグワーツ城はどこかそわそわと浮き足立っていた。いよいよ、ボーバトンとダームストラングの生徒たちが到着する。
ナツキは、朝よりもさらに焦燥を募らせていた。
グリフィンドール塔前では、マクゴナガル先生を先頭に、生徒たちが整列して列を作っていた。
「ナツキ、ほら・・・・・」
考えすぎで前に進まないナツキを見かねたハリーが、ナツキの背をそっと押した。
「君、去年のハーマイオニーみたくなってるよ。きっと色々背負いすぎなんだ。」
「・・・うん・・・大丈夫だよ。」
ナツキは小さく笑ってみせたが、その顔は明らかに疲れきっていた。
ハリーは今学期に入ってどれだけナツキの「大丈夫」という言葉を聞いただろうかと思った。何度聞いても、その「大丈夫」は大丈夫そうには聞こえなかった。
城の前でホグワーツ生が空を見上げていた。まもなく18時だ。その時ダンブルドア先生が声を上げた。
「ほっほー!わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近づいてくるぞ!」
森の上空から、何か大きなものが城に向かって疾走してきた。大きな大きな、パステルブルーの馬車が天馬に引かれて飛んで来た。
ナツキの顔に、久々に輝きが戻る。年齢制限や宿題や心配ごとのすべてを忘れてしまいそうな光景に、自然と目を奪われていた。
大広間の前の芝生に馬車が着陸すると、大きなドアが開いた。中から現れたのは、淡い水色のローブに身を包んだ十数人の生徒たち。そして、その先頭には、ハグリッドよりもさらに大きな女性が、どっしりとした足取りで現れた。
「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。」
あの大きな女性がボーバトンの校長のようだ。その後ろから寒そうに震えるボーバトンの生徒が十数人歩いてきた。
やがて、皆が再び静まり返る。今度は、ダームストラングの到着を待っていた。そのとき、湖から低い「ゴロゴロ」という音が響いてきた。黒い水面を割って、ゆっくりと巨大な船が湖面に浮かび上がってきた。
「ちょっと不気味だね。」
[ナツキがハリーの方を見て言うと、ハリーは彼女が久々に表情を見せたのが嬉しくて、微笑みながら「うん」と頷いた。
そのとき、船の舳先から階段が下り、十数人の生徒たちが姿を現した。皆、毛皮のコートを身にまとい、堂々とした足取りで歩いてくる。その先頭に立つ男は、分厚い外套を翻しながら、快活な声を響かせた。
「ダンブルドア!元気かね!」
「元気いっぱいじゃよ。カルカロフ校長。」
カルカロフはダンブルドア先生に近づき、両手で握手した。
「なつかしのホグワーツ城!ここにこれたのは嬉しい。・・・ビクトール、こっちへ。暖かいところへ来るがいい。」
カルカロフが呼びかけると、後ろから一人の生徒が前に出てきた。その顔を見て、ロンが目を見開いて叫んだ。
「ハリー、クラムだ!」
「ど、どうしたの?」
ナツキが驚いて尋ねると、ハリーは不安げに手紙を握りしめたまま、声を震わせて言った。
「昨日、シリウスから手紙が来たんだ。僕、僕・・・あんな手紙書かなければよかった!!僕のせいで捕まっちゃったらどうしよう!!」
ナツキはハリーが西塔のフクロウ小屋に行くというので、その道中でシリウスから来た手紙を見せてもらった。それでハリーは、やっぱり大丈夫だという趣旨の手紙を送ろうとしていたのだ。
「お父さんはそんなすぐ捕まるようなヘマはしないだろうけど・・・。やっぱり、傷のことはダンブルドア先生に言うべきことなんだね。」
ナツキは真剣な表情で続けた。
「ハリー、前にも手紙で書いたけど、アブが言ってたの。『復活は時間の問題かもしれないけど、だからって召使いが一人増えたくらいで、すぐにヴォルデモートが完全復活できるわけじゃない』って。でも、私はその時に備えて、準備をするに越したことはないと思うの。盾の呪文は練習しておいた方がいいと思う。今できることをしよう。私も一緒にするから。」
ハリーは小さくうなずいた。やっと、気持ちが少し落ち着いたようだった。
「・・・そうだね。ナツキ、いつもありがとう。」
ヘドウィグに手紙を託し、空へ送り出したあと、ふたりは連れ立って朝食のために大広間へ向かった。
その日の朝食の最中、ナツキがトーストにマーマレードジャムを塗っていると、隣に座っていたハーマイオニーが突然バッジを差し出してきた。
「・・・・えーっと、ごめん、ハーマイオニー、食事中なんだけど・・・・」
そのバッジにはSPEW(反吐)と書かれている。
「違うわ!エス・ピー・イー・ダブリューよ!Society for the Promotion of Elfish Welfareの略!!しもべ妖精福祉振興協会よ!」
ハーマイオニーは目をきらきらさせながら続けた。
「ホグワーツには、無償で働かされているしもべ妖精がたくさんいるの。彼らの待遇を見直すべきだと思わない?これは、その第一歩なのよ!」
「えーと、そうなんだ。」
ナツキはトーストにガブっとかじりつき、わざと口をもぐもぐさせたまま、少しだけ曖昧に笑ってみせた。
「うん、ハーマイオニーの言ってること、すごく大事だと思う。でも、私、ちょっと今は他に集中したいことがあるから。」
なるべく柔らかく、でもはっきりと伝えて、ナツキはトーストを頬張ると席を立った。何か言われる前に、ハーマイオニーに軽く手を振って広間をあとにした。
残されたハーマイオニーは、ぽつんとバッジを手の中で握りしめながら呆然とつぶやいた。
「そんなナツキに副会長をお願いしようと思ってたのに!」
「おいおい、ハーマイオニー、忘れたのか?」
横からロンが口を挟んだ。
「ナツキの血筋は魔法界でも名家だぞ。ナツキは、屋敷しもべ妖精を平気でこき使う側の人間なんだぜ。」
ハーマイオニーはロンの言葉に、まるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、顔を青ざめさせた。
「そんな、でも、あの気のいいナツキに限って、そんなこと・・・・!」
「だって、ナツキ、よく厨房から食べ物もらってきてるだろ? あれって、しもべ妖精に頼んでるんだぜ。お茶菓子とか、夜食とかさ。」
ハーマイオニーは真っ青になった。
「ほ、ほんとだわ・・・!」
ハーマイオニーの目が見開かれた。
「確かに、ナツキ、ベッドメイキングとか、ちょっとだらしないところがあるもの!今朝だって、毛布が半分床に落ちてたわ!」
ロンが「そんなの普通じゃないのか?」と呟こうとしたが、ハーマイオニーは完全に自分の世界に突入していた。
「そうよ・・・つまりナツキは、それが当たり前になってるのよ!しもべ妖精が全部やってくれるのが当然って、無意識のうちに思い込んでるのよ・・・!」
バッジを握りしめるハーマイオニーの目が、熱を帯びてギラギラと光った。
「それって完全に依存だわ!変えなきゃ!」
ハーマイオニーの中で、何かに火がついた。
ロンとハリーはナツキを気の毒に思いながら、静かにトーストをかじっていた。
それから、ナツキは授業以外のほとんどの時間を西塔の秘密の部屋で過ごした。
「・・・攪拌して・・・・ここで、干しイラクサを・・・・入れる!」
もう何種類目かわからない魔法薬を調合していた。それでも焦っていた。まだやることはたくさんある。
「法的なものが一番厄介かも。錯乱の呪文が通じるのかな・・・。きっと防護されいているから・・・・・」
呟きながらも思考は止まらない。対策リストにいくつもメモ書きをしていく。
「ナツキ、もう寮へ戻る頃だ。」
「え?あ、ああ、そうだね。」
サイラスに促されて部屋を出る。戻った後は、談話室の片隅でウィーズリーの双子と深夜までひそひそ作戦会議。そして数時間だけ寝て、また朝が来る。
そんな日々が続いていた。
来年度にOWLを控えた四年生は、授業も大変だった。
「闇の魔術に対する防衛術」ではムーディ先生が一人ひとりに「服従の呪文」をかけ、どこまで抵抗できるかを試すという実地訓練が行われた。
「いたっ!」
ナツキは反射的に椅子から立ち上がろうとして、脛を机にぶつけてしまった。
「よーしそれだ!ゴドリクソン!」
ムーディ先生は嬉しそうに叫んだ。
「お前達、見たか・・・。ポッターとゴドリクソンは戦った。よーし、ポッター、もう一度やってみろ。」
その後はナツキもハリーもヘロヘロだった。二人が成功するまでムーディ先生は呪文をかけ続けたのだ。
そしてある日の放課後、
「・・・ナツキ、ナツキ。」
ふと名前を呼ばれて、ナツキはハッと目を覚ました。ここは図書室。うっかり居眠りしてしまっていたらしい。
目の前には、心配そうにこちらを覗き込むセドリック・ディゴリーの顔。
「大丈夫?寝てないんじゃない?」
ナツキは気まずそうに笑って誤魔化し、机の上を見る。そこには、未完成の古代ルーンの翻訳課題と、かすれたインクの筆跡。
「急いでやらないと・・・・!」
小声で呟き、ナツキは急いで羽ペンを走らせはじめた。
「無理しすぎない方がいいよ。手伝えることがあれば言って。」
「うん、ありがとう。今は大丈夫!」
ナツキはできるだけやわらかく言いながらも、手元の羊皮紙に視線を落とし、羽ペンを走らせ続けた。
「僕、対抗試合に・・・・・」
何か言いかけて、しかしそのまま言葉を濁した。彼女が耳を傾ける余裕がないことを察して、小さく笑う。
「いや、なんでもない。じゃあ、頑張ってね。」
またある日の、「尻尾爆発スクリュート」の世話終わり、ナツキやハリー達が玄関ホールに着くと、人でごった返していて進めなかった。
「何?ロン、何か見える?」
一番のっぽのロンが爪先立ちして、掲示板を覗き込んだ。
「わお!ボーバトンとダームストラングが10月30日にくるって!歓迎会をするらしい!」
「あと1週間!?」
ナツキの心臓が跳ねた。残り7日で、フレッドとジョージが年齢制限の壁を越える準備を整えなければいけない。魔法薬、呪文、念のためのバックアップ計画。まだ、終わっていない。
「セドリックのやつ、知ってるかな?僕、知らせてやろう・・・」
近くにいたアーニー・マクミランがそう言って足早に去っていった。
「セドリックが試合に?」
当然だ。彼は17歳。年齢制限なんて気にする必要もない。正々堂々と立候補できる。
ナツキはそれに悔しい思いが湧き上がった。セドリックじゃなくて、ジョージかフレッドが代表になって、優勝して、賞金を獲得しないといけないのに。
「君は、あいつがハンサムだから好きなだけだろ。」
その一言に、ナツキはぎょっとして顔を上げた。ナツキが暗い気持ちになっていたところで、ロンがハーマイオニーを皮肉ったのだった。
「セドリックはいい人だよ!」
ナツキは咄嗟に口をついて出た言葉に、自分で驚いた。
「・・・優しい人だよ。勉強もできるし・・・。代表に立候補するのは、何も変じゃない。」
言葉を並べながらも、自分でもその声がどこかうわずって聞こえるのを感じた。まるで自分に言い聞かせているようだ。
セドリックは悪くない。何ひとつ責める理由なんてない。
ナツキは俯き、唇を噛んだ。自分の中で、いろんな想いがぶつかり合っていた。ナツキはなんだか惨めな気持ちになった。
10月30日の朝、大広間は三校対抗試合の到来を祝うように華やかに飾り付けられていた。
ナツキは人の波から少し離れた隅の席に、ジョージとフレッドと肩を並べて座っていた。
「・・・返事、こないの?」
「ああ。完全に無視されてる。バグマンのやろう・・・あの賭けをあてにしてたのに・・・・!」
ナツキの質問にフレッドが忌々しそうに言った。
「そいつは確かに当て外れさ。だけど、あいつが自分で直接俺たちに話す気がないなら、結局、俺たちが手紙を出さなきゃならないだろう。じゃなきゃ、奴の手に押し付ける。いつまで経っても俺たちを避けてることはできないよ。」
「レオーネは準備バッチリだよ。ぐいぐい渡せって言ったら、やってくれる子だよ!」
ジョージの言葉にナツキは鼻息を荒くして返した。
「何がやってくれる子なんだい?」
割り込むようにロンの声が後ろから飛んできて、双子はあからさまにイライラした。
「三校対抗試合ってどんなものか、何かわかったの?エントリーするのに、何かもっと方法を考えた?」
ハリーが興味深そうに聞いてきた。ナツキは主に年齢制限の対策に注力していたため、試合そのものについてはあまり調べていない。
「マクゴナガルがいうには、代表選手が課題をいかにうまくこなすかによって、点数がつけられるそうだ。」
ジョージが言った。
「誰が審査員になるの?」
「参加校の校長先生は必ず審査員になるわね。」
ハリーの質問にハーマイオニーは答えた。そのままの勢いで、彼女は話題を屋敷しもべ妖精の待遇問題へと持っていった。
ハーマイオニーの視線がナツキを刺すように向いてきて、ナツキは慌てて目を逸らした。しかし、彼女がジョージとフレッドに2シックル出してバッジを買えと迫ったときには、黙っていられなかった。
「ハーマイオニー、二人にそんなこと言わないで。」
ほとんど一文なしの彼らに2シックルでもお金を請求するなんて、と思ってナツキはハーマイオニーにきつい口調で言ってしまった。
ハーマイオニーの顔がさっと曇るのを見て、ナツキは「あ」と口を噤んだ。
「いいさ、ナツキ。ハーマイオニーは勘違いしてるんだ。」
ジョージはニヤニヤ笑ってハーマイオニーをみた。
「俺たちは何度も厨房に行ったことがある。食べ物を失敬しに。そして俺たちは連中にあってるが、連中は幸せなんだ。正解一いい仕事を持ってると思ってる。」
「それはあの人たちが教育も受けてないし、洗脳されてるからだわ!」
その時、フクロウ便が到着し、ヘドウィグがハリーの肩に止まった。
父親からの返事がもう来た。前はあんなに時間がかかっていたのに。つまり、近くに来てしまったのだと察した。
「ナツキ、来て。」
ハリーの元へ行き、一緒に手紙を読んだ。そこには、ヘドウィグを使わずに、ホグワーツで起きていることを知らせてほしいということだった。
ハリーには、簡単に捕まるような人ではないと強がりを言ったが、心配だった。次アズカバンに投獄されたら、間違いなく吸魂鬼のキスが待っている。
「大丈夫だよ。ハリーは、自分のことを考えて。盾の呪文は練習してる?」
「あ、うん。まだ、ナツキほど上手にはできないけど。」
「ハリーならすぐできるよ。私はたまたま先に勉強しただけだから。」
そう言ってナツキは再び双子の元に行った。ナツキの頭はパンク寸前だった。ジョージ達の夢の手伝い、ハリーと自分に迫っているかもしれない危機、父が捕まるかもしれないこと、山のような宿題、古代ルーン文字の習得、ついでにロンのドレスローブのフリルの処理。
「・・・ジョージ、さっきはありがとう。ハーマイオニーと喧嘩しちゃうところだった。」
ジョージは心配そうに眉を寄せ、優しく彼女の肩に手を置いた。
「いいんだ。・・・ナツキ、ありがとうな。辛くなったらちゃんと言えよ?」
「うん。大丈夫だよ。」
ナツキは笑顔でうなずきながらも、胸の奥に込み上げる何かをぐっと押し込んで、また前を向いた。ジョージがまた心配そうな顔をしたのにも気づかないふりをした。
その日の授業をすべて終え、夕方の空が茜に染まり始めた頃、ホグワーツ城はどこかそわそわと浮き足立っていた。いよいよ、ボーバトンとダームストラングの生徒たちが到着する。
ナツキは、朝よりもさらに焦燥を募らせていた。
グリフィンドール塔前では、マクゴナガル先生を先頭に、生徒たちが整列して列を作っていた。
「ナツキ、ほら・・・・・」
考えすぎで前に進まないナツキを見かねたハリーが、ナツキの背をそっと押した。
「君、去年のハーマイオニーみたくなってるよ。きっと色々背負いすぎなんだ。」
「・・・うん・・・大丈夫だよ。」
ナツキは小さく笑ってみせたが、その顔は明らかに疲れきっていた。
ハリーは今学期に入ってどれだけナツキの「大丈夫」という言葉を聞いただろうかと思った。何度聞いても、その「大丈夫」は大丈夫そうには聞こえなかった。
城の前でホグワーツ生が空を見上げていた。まもなく18時だ。その時ダンブルドア先生が声を上げた。
「ほっほー!わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近づいてくるぞ!」
森の上空から、何か大きなものが城に向かって疾走してきた。大きな大きな、パステルブルーの馬車が天馬に引かれて飛んで来た。
ナツキの顔に、久々に輝きが戻る。年齢制限や宿題や心配ごとのすべてを忘れてしまいそうな光景に、自然と目を奪われていた。
大広間の前の芝生に馬車が着陸すると、大きなドアが開いた。中から現れたのは、淡い水色のローブに身を包んだ十数人の生徒たち。そして、その先頭には、ハグリッドよりもさらに大きな女性が、どっしりとした足取りで現れた。
「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。」
あの大きな女性がボーバトンの校長のようだ。その後ろから寒そうに震えるボーバトンの生徒が十数人歩いてきた。
やがて、皆が再び静まり返る。今度は、ダームストラングの到着を待っていた。そのとき、湖から低い「ゴロゴロ」という音が響いてきた。黒い水面を割って、ゆっくりと巨大な船が湖面に浮かび上がってきた。
「ちょっと不気味だね。」
[ナツキがハリーの方を見て言うと、ハリーは彼女が久々に表情を見せたのが嬉しくて、微笑みながら「うん」と頷いた。
そのとき、船の舳先から階段が下り、十数人の生徒たちが姿を現した。皆、毛皮のコートを身にまとい、堂々とした足取りで歩いてくる。その先頭に立つ男は、分厚い外套を翻しながら、快活な声を響かせた。
「ダンブルドア!元気かね!」
「元気いっぱいじゃよ。カルカロフ校長。」
カルカロフはダンブルドア先生に近づき、両手で握手した。
「なつかしのホグワーツ城!ここにこれたのは嬉しい。・・・ビクトール、こっちへ。暖かいところへ来るがいい。」
カルカロフが呼びかけると、後ろから一人の生徒が前に出てきた。その顔を見て、ロンが目を見開いて叫んだ。
「ハリー、クラムだ!」