炎のゴブレット
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いよいよ木曜日になった。ナツキたちは期待と興奮を胸に、「闇の魔術に対する防衛術」の教室の最前列に腰を下ろした。
ムーディ先生がゆっくりと前へ出てきて、教室を見回した。
「そんなもの、しまってしまえ。教科書だ。」
その一言に、生徒たちは顔を輝かせながらカバンへ教科書を押し戻す。
「わしの役目は魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前達を最低限まで引き上げることにある。わしの持ち時間は一一年だ。」
「え?ずっといるんじゃないの?」
思わず口走ったロンの言葉に、ムーディ先生はふっと笑った。
「おっまえはアーサー・ウィーズリーの息子だな、え?お前の父親のおかげで、数日前、窮地を脱した・・・・。」
ムーディ先生は一年の任期が終われば、再び隠遁生活に戻るつもりだという。きっと、見た目よりずっと年を重ねているのだろう。
「では、すぐ取り掛かる。・・・さて、魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」
ナツキはその答えを知っていたが、積極的に言いたくはなかった。小さく手を挙げようとしたとき、ムーディ先生の視線はロンへ向いた。
「えーと、パパが一つ話してくれたんですけど、確か『服従の呪文』とかなんとか?」
「ああ、その通りだ。」
ムーディ先生は机の上に小さな蜘蛛を一匹置き、杖を振り上げて呪文を唱えた。
「インペリオ。」
すると蜘蛛は跳ねるように動き出し、ムーディの指示でピタリと止まったり、タップダンスのような奇妙な動きを始めたりした。教室にくすくすと笑いが漏れる。
「面白いと思うのか?わしがお前達に同じことをしたら、喜ぶか?・・・・完全な支配だ。」
教室は一瞬で静まり返った。ムーディ先生は「服従の呪文」の恐ろしさを説いてきかせた。
「他の呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」
今度はネビルが控えめに手を挙げた。ムーディ先生は彼を見つめた。
「・・・・『磔の呪文』」
「お前はロングボトムという名だな?」
ネビルが頷いたのを確認したムーディ先生は蜘蛛を大きくし、「クルーシオ」と唱えた。
たちまち、蜘蛛は足を折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、痙攣し始めた。蜘蛛に声帯があれば悲鳴をあげていただろう。
「やめて!」
ハーマイオニーが金切り声を上げた。彼女は顔色の悪いネビルを見ていた。先生は杖を離したが、蜘蛛はまだヒクヒクしていた。
「『磔の呪文』は使えれば、拷問に親指締めもナイフも必要ない。これもかつて盛んに使われた。」
ムーディ先生はナツキを見た。
「この中には、実際に『磔の呪文』をかけられたことがある者がいる。今は幸いにして元気にしているが・・・皆が皆、そうだとは限らん。」
ナツキが「磔の呪文」をかけられたのは一年生の時。ヴォルデモートを後頭部に貼り付けたクィレルによるものだった。あの痛みは、単なる苦痛ではなかった。体の奥まで焼き尽くされるような、意識すら霧のように崩れていくような、言葉にできない感覚だった。思い出したくもない。でも、忘れられるものではなかった。
「よろしい・・・他の呪文を何か知っている者はいるか?」
ナツキは、その問いに答えられる自信があった。けれど、どうしても手を挙げる気にはなれなかった。そんな中、震えるように細く手を上げたのは、ハーマイオニーだった。
「アバダ ケダブラ。」
ハーマイオニーは囁くような声で言った。
「ああ。そうだ。最後にして最悪の呪文。・・・死の呪いだ。」
ムーディ先生は、三番目の蜘蛛に向かって杖を振り上げた。
「アバダ ケダブラ!」
ムーディ先生の声が轟き、緑の閃光が走った。そして、蜘蛛は仰向けにひっくり返った。傷も何もない。だが、死んでしまったのだ。
「気持ちの良い者ではない。しかも反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残ったものは、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている。」
視線が、ハリーに注がれた。
ナツキも無意識に横目でハリーを見た。その拳はテーブルの下でぎゅっと握りしめられていた。
「さて、反対呪文がないなら、なぜお前達に見せたりするのか?それはお前達が知っておかなければならないからだ。最悪の事態がどういうものか、お前達は味わっおかなければならない。せいぜいそんなものと向き合うような目に合わぬようにするんだな。油断大敵!!」
それからの授業は許されざる呪文について、ノートを取ることに終始した。楽しい気持ちではなかった。
授業が終わり、ロンは興奮しているようだった。しかし、ナツキもハリーもハーマイオニーもそんな気持ちにはなれなかった。
とりわけハーマイオニーは、ネビルの様子が気になって仕方ないようだった。
廊下に出ると、ネビルは壁際に一人ぽつんと立っていた。
「ネビル?ネビル、あなた、大丈夫?」
ハーマイオニーがそっと声をかけると、ネビルはびくりと肩を揺らし、不自然なほど明るい声で答えた。
その時、コツコツと音がしたと思ったらムーディ先生が後ろから現れた。
「大丈夫だぞ、坊主。わしの部屋にくるか?おいで。茶でも飲もう・・・・」
ネビルは動かなかった。ムーディ先生は次にハリーを見た。
「お前は大丈夫だな?ポッター?」
「はい。」
ハリーが短く答える。ムーディ先生はナツキにも視線を移した。
「ゴドリクソン、お前は?」
「大丈夫です。」
そう答えながらも、ナツキの中には何とも言えない重さが残っていた。ムーディ先生に、それは伝わってしまっているような気がした。
「知らねばならん。酷いかもしれん、多分な。しかし、お前達は知らねばならん。知らぬふりをしてどうなるものでもない・・・。さあ、おいで。ロングボトム。お前が興味を持ちそうな本が何冊かある。」
そう言って、ムーディ先生はネビルに再び語りかけた。ネビルは促されるまま先生の方へついていった。
ロンはまだ何か言いたそうだったが、ナツキたちの重い空気に気づいたのか、口を閉じた。四人はそのまま、大広間へ向かって歩き出した。誰も何も言わず、ただ足音だけが静かに石造りの廊下に響いていた。
ナツキは夕食後図書室へ向かった。ジョージとフレッドに協力するためだ。図書室でハーマイオニーの姿をチラリとみたが、双子に全面的に協力していることをよくは思わないだろうから、ナツキは離れたところで書物を漁った。
「年齢制限・・・年齢制限・・・あった。・・・うっ、」
一冊の本の中に、すでに何十通りもの年齢制限の術が紹介されていた。それぞれに対して、回避策を考える必要がある。
「よし、やるぞ・・・!!」
ナツキは羊皮紙を広げ、年齢制限の呪文名を片っ端から列挙し、それに対応する対策案を一つずつ丁寧に書き出していく。
「この魔法薬を作るには確か10日くらい掛かるから・・・明日にでも取り掛かろう・・・・材料は・・・フクロウ通販で取り寄せられるかな・・・・」
やることが多いと気づいてからは、「やることリスト:優先順」も別で作成する。
作業が進むにつれ、必要な工程が次々に明らかになってきたため、「やることリスト:優先順」も別に作成することにした。
数時間があっという間に過ぎ、双子と共有したいことも出てきて、ようやくナツキは筆を止めた。抱えた羊皮紙の束を手に、談話室へと急いだ。
談話室の隅に、珍しく静かに座っている双子の姿が見えた。リー・ジョーダンの姿もない。これはイタズラの話合いではなさそうだと、ナツキはそっと近づく。
「ジョージ、フレッド。」
ナツキの声に、フレッドが顔を上げた。
「ああ、ナツキか。」
彼の表情は珍しく真剣だった。周囲を見回し、ナツキにもっと近くに来るよう手招きする。
「ルード・バグマンに手紙を書こうとしてたんだ。というか夏休み中に一度送ったんだ。もしかしたら、間違ってレプラコーンの金貨で支払ったのかもと思って。」
ジョージがそう言った。フレッドがそれにつづけた。
「だが奴さん、全然返事を寄越さないときたもんだ。だから、また催促状を出してみようと思ってな。俺たちが賭け金にしたのはレプラコーンの偽金じゃあないぜって送らないとな。」
「待て待て。それじゃ、俺たちが奴さんを非難してるみたいだ。もっと、慎重にやらなきゃ・・・・」
ジョージとフレッドは相当参っているようだった。
「ナツキ、それは?そんなに宿題が出たのか?」
ジョージがナツキの抱えている羊皮紙に目をやった。
「ううん。年齢制限に関する魔法と、それぞれの対抗策をまとめてたの。二人が立候補できるように。今夜その話をしようと思って来たんだけど・・・。ごめんね、タイミング悪かったかな。でも、思ったより種類が多くて、それぞれ対応しようとしたら私ひとりじゃ足りなくて・・・二人にも手伝ってほしくて・・・・・」
ナツキの声は、次第に小さくなっていった。
しかし、ジョージとフレッドは驚いたように目を丸くさせ、顔を見合わせた。
「おいおい、俺ら、ナツキに全部押し付けたつもりなんてなかったぜ。自分達のことなのに。」
フレッドが申し訳なさそうにそういった。ナツキはフレッドのこんなしおらしい顔を見るのは初めてな気がした。
「バグマンのことにかかりきりになっちまってごめんな。」
ジョージはナツキの頭にそっと手を置いた。
「何すりゃいい?」
「えっと、」
ナツキは羊皮紙を広げた。
「こっちが対策を並べたやつで、こっちがその中で、対策に時間がかかりそうなものからリストアップしたの。それで、この辺の魔法薬は・・・・・」
ナツキの指が羊皮紙の文字をなぞる。その目は真剣で、双子もまた、彼女の説明に耳を傾けていた。
「よし、じゃあひとまずはこれを手分けしてやろう。他の年齢制限の方法も調べていくことも並行して、だ。」
フレッドがテキパキと指示を出し、ナツキとジョージは頷いた。
「さて、今日のところはこの辺にしてそろそろ寝るか。おやすみ、ナツキ。」
「おやすみ、フレッド。」
ナツキは笑顔でそう返した。
その後、ジョージにも同じように「おやすみ」と言おうとしたのだが、目が合った瞬間、ふいに言葉が止まった。
二人の間に、ほんの数秒の沈黙が生まれる。
「おやすみ、ナツキ。」
ジョージが優しく微笑みながら、いつものようにナツキの頭にポンと手を置いた。
「・・・うん。おやすみ、ジョージ。」
ナツキは少しだけ声が遅れてしまった自分に気づいた。ジョージの手のぬくもりが不思議と心に残っていた。
双子が男子部屋の方へ階段を上っていくのを見送り、ナツキも立ち上がった。まだ暖炉のそばで宿題をしていたハリーとロンに「おやすみ」と声をかけ、女子寮の階段をのぼった。
その頃、フレッドとジョージはベッドに入り、カーテンを閉めた寝台の中で、他のルームメイトを起こさないよう声を潜めて話していた。
「お前、絶対惚れ直しただろ。」
フレッドは枕に顔をうずめながら、ニヤニヤ笑った。
「・・・・あんなの、惚れ直すなって言われた方が無理だろ・・・・」
ジョージは小さな声でそう返した。耳がほんのり赤くなっていた。
「一人で羊皮紙何枚も書いて、俺たちのためにだぜ・・・。もう、ほんとに参った・・・・。」
「好きだって言わないのか?」
フレッドは茶化すように言いながらも、相棒のことを真剣に考えてそう言った。
「・・・・ナツキにその準備ができてるとは思わないんだ。」
ジョージはぽつりと続けた。
「あいつ、しょっちゅうハリー達と事件に巻き込まれたりするだろ。自分のことでずっと精一杯だった。まだ、そういうの・・・男を好きだとか、恋とか、考えたことないと思うんだ。」
「今まではな。」
フレッドは静かに返した。
「でも、ナツキだって、いつまでもガキのままではいてくれないんだぜ。現にどうみてもディゴリーはナツキに首ったけだ。他にもナツキのことをいいなって思ってるやつは、絶対いる。中身が最高なのは言うまでもないが、年々かわいくなってきてるしな。あいつがそっくりだって噂のばあさん、学生の頃は相当モテたって話、知ってるか?」
ジョージは、しばらく沈黙してから、ゆっくりと目を閉じ、天井を仰ぐように小さく息を吐いた。
「・・・・わかってる。」
ジョージはゆっくりと目を閉じ、天井を仰ぐように小さく息を吐いた。
「けどもう少し、悪巧みの共犯者でいさせてくれ。」
「おいおい、ずいぶん殊勝なこと言うじゃないか。」
フレッドは笑ったが、それ以上からかうことはなかった。
ムーディ先生がゆっくりと前へ出てきて、教室を見回した。
「そんなもの、しまってしまえ。教科書だ。」
その一言に、生徒たちは顔を輝かせながらカバンへ教科書を押し戻す。
「わしの役目は魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前達を最低限まで引き上げることにある。わしの持ち時間は一一年だ。」
「え?ずっといるんじゃないの?」
思わず口走ったロンの言葉に、ムーディ先生はふっと笑った。
「おっまえはアーサー・ウィーズリーの息子だな、え?お前の父親のおかげで、数日前、窮地を脱した・・・・。」
ムーディ先生は一年の任期が終われば、再び隠遁生活に戻るつもりだという。きっと、見た目よりずっと年を重ねているのだろう。
「では、すぐ取り掛かる。・・・さて、魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」
ナツキはその答えを知っていたが、積極的に言いたくはなかった。小さく手を挙げようとしたとき、ムーディ先生の視線はロンへ向いた。
「えーと、パパが一つ話してくれたんですけど、確か『服従の呪文』とかなんとか?」
「ああ、その通りだ。」
ムーディ先生は机の上に小さな蜘蛛を一匹置き、杖を振り上げて呪文を唱えた。
「インペリオ。」
すると蜘蛛は跳ねるように動き出し、ムーディの指示でピタリと止まったり、タップダンスのような奇妙な動きを始めたりした。教室にくすくすと笑いが漏れる。
「面白いと思うのか?わしがお前達に同じことをしたら、喜ぶか?・・・・完全な支配だ。」
教室は一瞬で静まり返った。ムーディ先生は「服従の呪文」の恐ろしさを説いてきかせた。
「他の呪文を知っている者はいるか?何か禁じられた呪文を?」
今度はネビルが控えめに手を挙げた。ムーディ先生は彼を見つめた。
「・・・・『磔の呪文』」
「お前はロングボトムという名だな?」
ネビルが頷いたのを確認したムーディ先生は蜘蛛を大きくし、「クルーシオ」と唱えた。
たちまち、蜘蛛は足を折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、痙攣し始めた。蜘蛛に声帯があれば悲鳴をあげていただろう。
「やめて!」
ハーマイオニーが金切り声を上げた。彼女は顔色の悪いネビルを見ていた。先生は杖を離したが、蜘蛛はまだヒクヒクしていた。
「『磔の呪文』は使えれば、拷問に親指締めもナイフも必要ない。これもかつて盛んに使われた。」
ムーディ先生はナツキを見た。
「この中には、実際に『磔の呪文』をかけられたことがある者がいる。今は幸いにして元気にしているが・・・皆が皆、そうだとは限らん。」
ナツキが「磔の呪文」をかけられたのは一年生の時。ヴォルデモートを後頭部に貼り付けたクィレルによるものだった。あの痛みは、単なる苦痛ではなかった。体の奥まで焼き尽くされるような、意識すら霧のように崩れていくような、言葉にできない感覚だった。思い出したくもない。でも、忘れられるものではなかった。
「よろしい・・・他の呪文を何か知っている者はいるか?」
ナツキは、その問いに答えられる自信があった。けれど、どうしても手を挙げる気にはなれなかった。そんな中、震えるように細く手を上げたのは、ハーマイオニーだった。
「アバダ ケダブラ。」
ハーマイオニーは囁くような声で言った。
「ああ。そうだ。最後にして最悪の呪文。・・・死の呪いだ。」
ムーディ先生は、三番目の蜘蛛に向かって杖を振り上げた。
「アバダ ケダブラ!」
ムーディ先生の声が轟き、緑の閃光が走った。そして、蜘蛛は仰向けにひっくり返った。傷も何もない。だが、死んでしまったのだ。
「気持ちの良い者ではない。しかも反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残ったものは、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている。」
視線が、ハリーに注がれた。
ナツキも無意識に横目でハリーを見た。その拳はテーブルの下でぎゅっと握りしめられていた。
「さて、反対呪文がないなら、なぜお前達に見せたりするのか?それはお前達が知っておかなければならないからだ。最悪の事態がどういうものか、お前達は味わっおかなければならない。せいぜいそんなものと向き合うような目に合わぬようにするんだな。油断大敵!!」
それからの授業は許されざる呪文について、ノートを取ることに終始した。楽しい気持ちではなかった。
授業が終わり、ロンは興奮しているようだった。しかし、ナツキもハリーもハーマイオニーもそんな気持ちにはなれなかった。
とりわけハーマイオニーは、ネビルの様子が気になって仕方ないようだった。
廊下に出ると、ネビルは壁際に一人ぽつんと立っていた。
「ネビル?ネビル、あなた、大丈夫?」
ハーマイオニーがそっと声をかけると、ネビルはびくりと肩を揺らし、不自然なほど明るい声で答えた。
その時、コツコツと音がしたと思ったらムーディ先生が後ろから現れた。
「大丈夫だぞ、坊主。わしの部屋にくるか?おいで。茶でも飲もう・・・・」
ネビルは動かなかった。ムーディ先生は次にハリーを見た。
「お前は大丈夫だな?ポッター?」
「はい。」
ハリーが短く答える。ムーディ先生はナツキにも視線を移した。
「ゴドリクソン、お前は?」
「大丈夫です。」
そう答えながらも、ナツキの中には何とも言えない重さが残っていた。ムーディ先生に、それは伝わってしまっているような気がした。
「知らねばならん。酷いかもしれん、多分な。しかし、お前達は知らねばならん。知らぬふりをしてどうなるものでもない・・・。さあ、おいで。ロングボトム。お前が興味を持ちそうな本が何冊かある。」
そう言って、ムーディ先生はネビルに再び語りかけた。ネビルは促されるまま先生の方へついていった。
ロンはまだ何か言いたそうだったが、ナツキたちの重い空気に気づいたのか、口を閉じた。四人はそのまま、大広間へ向かって歩き出した。誰も何も言わず、ただ足音だけが静かに石造りの廊下に響いていた。
ナツキは夕食後図書室へ向かった。ジョージとフレッドに協力するためだ。図書室でハーマイオニーの姿をチラリとみたが、双子に全面的に協力していることをよくは思わないだろうから、ナツキは離れたところで書物を漁った。
「年齢制限・・・年齢制限・・・あった。・・・うっ、」
一冊の本の中に、すでに何十通りもの年齢制限の術が紹介されていた。それぞれに対して、回避策を考える必要がある。
「よし、やるぞ・・・!!」
ナツキは羊皮紙を広げ、年齢制限の呪文名を片っ端から列挙し、それに対応する対策案を一つずつ丁寧に書き出していく。
「この魔法薬を作るには確か10日くらい掛かるから・・・明日にでも取り掛かろう・・・・材料は・・・フクロウ通販で取り寄せられるかな・・・・」
やることが多いと気づいてからは、「やることリスト:優先順」も別で作成する。
作業が進むにつれ、必要な工程が次々に明らかになってきたため、「やることリスト:優先順」も別に作成することにした。
数時間があっという間に過ぎ、双子と共有したいことも出てきて、ようやくナツキは筆を止めた。抱えた羊皮紙の束を手に、談話室へと急いだ。
談話室の隅に、珍しく静かに座っている双子の姿が見えた。リー・ジョーダンの姿もない。これはイタズラの話合いではなさそうだと、ナツキはそっと近づく。
「ジョージ、フレッド。」
ナツキの声に、フレッドが顔を上げた。
「ああ、ナツキか。」
彼の表情は珍しく真剣だった。周囲を見回し、ナツキにもっと近くに来るよう手招きする。
「ルード・バグマンに手紙を書こうとしてたんだ。というか夏休み中に一度送ったんだ。もしかしたら、間違ってレプラコーンの金貨で支払ったのかもと思って。」
ジョージがそう言った。フレッドがそれにつづけた。
「だが奴さん、全然返事を寄越さないときたもんだ。だから、また催促状を出してみようと思ってな。俺たちが賭け金にしたのはレプラコーンの偽金じゃあないぜって送らないとな。」
「待て待て。それじゃ、俺たちが奴さんを非難してるみたいだ。もっと、慎重にやらなきゃ・・・・」
ジョージとフレッドは相当参っているようだった。
「ナツキ、それは?そんなに宿題が出たのか?」
ジョージがナツキの抱えている羊皮紙に目をやった。
「ううん。年齢制限に関する魔法と、それぞれの対抗策をまとめてたの。二人が立候補できるように。今夜その話をしようと思って来たんだけど・・・。ごめんね、タイミング悪かったかな。でも、思ったより種類が多くて、それぞれ対応しようとしたら私ひとりじゃ足りなくて・・・二人にも手伝ってほしくて・・・・・」
ナツキの声は、次第に小さくなっていった。
しかし、ジョージとフレッドは驚いたように目を丸くさせ、顔を見合わせた。
「おいおい、俺ら、ナツキに全部押し付けたつもりなんてなかったぜ。自分達のことなのに。」
フレッドが申し訳なさそうにそういった。ナツキはフレッドのこんなしおらしい顔を見るのは初めてな気がした。
「バグマンのことにかかりきりになっちまってごめんな。」
ジョージはナツキの頭にそっと手を置いた。
「何すりゃいい?」
「えっと、」
ナツキは羊皮紙を広げた。
「こっちが対策を並べたやつで、こっちがその中で、対策に時間がかかりそうなものからリストアップしたの。それで、この辺の魔法薬は・・・・・」
ナツキの指が羊皮紙の文字をなぞる。その目は真剣で、双子もまた、彼女の説明に耳を傾けていた。
「よし、じゃあひとまずはこれを手分けしてやろう。他の年齢制限の方法も調べていくことも並行して、だ。」
フレッドがテキパキと指示を出し、ナツキとジョージは頷いた。
「さて、今日のところはこの辺にしてそろそろ寝るか。おやすみ、ナツキ。」
「おやすみ、フレッド。」
ナツキは笑顔でそう返した。
その後、ジョージにも同じように「おやすみ」と言おうとしたのだが、目が合った瞬間、ふいに言葉が止まった。
二人の間に、ほんの数秒の沈黙が生まれる。
「おやすみ、ナツキ。」
ジョージが優しく微笑みながら、いつものようにナツキの頭にポンと手を置いた。
「・・・うん。おやすみ、ジョージ。」
ナツキは少しだけ声が遅れてしまった自分に気づいた。ジョージの手のぬくもりが不思議と心に残っていた。
双子が男子部屋の方へ階段を上っていくのを見送り、ナツキも立ち上がった。まだ暖炉のそばで宿題をしていたハリーとロンに「おやすみ」と声をかけ、女子寮の階段をのぼった。
その頃、フレッドとジョージはベッドに入り、カーテンを閉めた寝台の中で、他のルームメイトを起こさないよう声を潜めて話していた。
「お前、絶対惚れ直しただろ。」
フレッドは枕に顔をうずめながら、ニヤニヤ笑った。
「・・・・あんなの、惚れ直すなって言われた方が無理だろ・・・・」
ジョージは小さな声でそう返した。耳がほんのり赤くなっていた。
「一人で羊皮紙何枚も書いて、俺たちのためにだぜ・・・。もう、ほんとに参った・・・・。」
「好きだって言わないのか?」
フレッドは茶化すように言いながらも、相棒のことを真剣に考えてそう言った。
「・・・・ナツキにその準備ができてるとは思わないんだ。」
ジョージはぽつりと続けた。
「あいつ、しょっちゅうハリー達と事件に巻き込まれたりするだろ。自分のことでずっと精一杯だった。まだ、そういうの・・・男を好きだとか、恋とか、考えたことないと思うんだ。」
「今まではな。」
フレッドは静かに返した。
「でも、ナツキだって、いつまでもガキのままではいてくれないんだぜ。現にどうみてもディゴリーはナツキに首ったけだ。他にもナツキのことをいいなって思ってるやつは、絶対いる。中身が最高なのは言うまでもないが、年々かわいくなってきてるしな。あいつがそっくりだって噂のばあさん、学生の頃は相当モテたって話、知ってるか?」
ジョージは、しばらく沈黙してから、ゆっくりと目を閉じ、天井を仰ぐように小さく息を吐いた。
「・・・・わかってる。」
ジョージはゆっくりと目を閉じ、天井を仰ぐように小さく息を吐いた。
「けどもう少し、悪巧みの共犯者でいさせてくれ。」
「おいおい、ずいぶん殊勝なこと言うじゃないか。」
フレッドは笑ったが、それ以上からかうことはなかった。