賢者の石
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「ナツキには前に話したんだけど・・・・・」
次のハリーはロンとナツキに、グリンゴッツの例の荷物が昨日の三頭犬が守っているものではないかという仮説を言った。この話の最中で、ナツキはようやく昨日のあの場所が、ダンブルドア先生が言ってはいけないと言っていた4階の廊下だと気づいた。
ハリーのクィディッチの練習が始まり、ナツキはロンと2人で宿題をしたり、1人で図書館に行ったり、双子とリー・ジョーダンの悪巧みに付き合わされたりしていた。ハーマイオニーはあれから授業中の必要最低限以外は口を聞いてくれなくなった。
授業に関しては順調に見えたが、一つだけ気がかりがあった。飛行訓練だ。1年生は必修で、学期末にもちょっとした試験があるらしい。ナツキは毎回ジョージに教わった箒を手にしていたが、まだ地上から5センチ浮き上がることまでしかできていなかった。
「あ、あの、フーチ先生はいらっしゃいますか?」
このままではいけないと思ったナツキは職員室へ向かった。
「ナツキ、どうしたんですか?」
「その、ご存知でしょうけど、私、箒が苦手で・・・・。できれば自主練習をしたいと思っているんですけど、先生、見てくれたりってできますか・・・・?」
マダム・フーチは厳しい先生であったが、優しい先生でもあった。ナツキのその姿勢を評価し、週に1度、放課後に練習に付き合ってくれると言ってくれた。
先生はグリフィンドールがクィディッチの練習をしている隅にナツキを呼び出した。「ハリーが練習している!」と感動を覚えながらも、自分も少しはマシになりたいと思ってフーチ先生と向き合った。
「では箒に跨って。・・・そう。よくできていますよ。怖がらずに、少しずつ高度を上げていきましょう。」
マダム・フーチはベテランの先生である。そのためか、ナツキが怖がっていることにはとっくに気づいていたようだ。
いつもの箒はナツキの言うことをよく聞いてくれた。足元がほんの少し地面から離れた。3センチ、4センチ、5センチ。ここで、腕が少し震えてきた。
「いいでしょう。その高さのまま、前に進んでみましょう。少しだけ、前傾姿勢になるのです。しっかり握って。そうです。」
「は、はい・・・!」
ナツキが言われた通り、少しだけ前屈みになると、箒はゆっくりと進んだ。地面からは5センチしか離れていないが、ナツキにとっては大きな一歩だった。
「では曲がってみましょう。体を右に傾けて。・・・そうです。では次は左に・・・・」
フィールドの真ん中ではクィディッチの代表選手たちがビュンビュン飛んで練習をしていた。傍でノロノロ超低空飛行をするナツキであったが、選手たちはそれを邪魔に思うでもなく、苦手なことを一生懸命努力するナツキを好ましく思っていた。
週に1度の練習を何度か繰り返しているうちに、休憩時間の代表選手たちがアドバイスをくれるようになった。筆頭はフレッドとジョージだ。
「お、ナツキ!上達したな!」
「足をもっと絞めた方がいいぜ。つま先はもう少し後ろを向けるんだ。」
ナツキが箒が苦手ということをジョージだけではなくフレッドも理解したので、練習中に限って彼らは絶対にふざけなかった。もちろんマダム・フーチが目を光らせていることも理由の一つだ。
そんなふうに忙しく過ごしていると、ホグワーツでの日々はあっという間に過ぎ去っていく。気づけばハロウィーンの日を迎えていた。
朝食を食べていると、レオーネが飛んできて、ナツキに手紙を渡した。先日アバーフォースに手紙を出してみたので、おそらくその返事だろう。
「ありがとう、レオーネ。」
レオーネは顎の辺りを撫でると気持ちよさそうにした。アバーフォースは手紙まで無愛想だったが、最後の「風邪ひくなよ」の一文は暖かかった。
「さあ、いままで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して!」
その日のフリットウィック先生の「呪文学」のクラスでは、ついに実際にものを飛ばすよう指示された。二人組になって、という指示が出ると、ハリーがすぐにこちらへきて一緒に組むことになった。
「・・・ネビルがすごくこっちをみてくるんだ。ナツキと組めてよかった。」
ナツキは返事は返さずに、苦笑した。確かにネビルとこの手の呪文を一緒に行うのは怖い。
ハリーがまず呪文を唱えた。机の上の羽は動かない。
「なんでだろう?よし、私もやってみる。ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」
フリットウィック先生を真似して、ナツキは高らかに呪文を唱えた。すると羽はふわりと浮き上がった。
「おお!ミス・ゴドリクソン!素晴らしい!私の授業では最速記録ですよ!グリフィンドールに5点差し上げましょう!」
先生が小さな体で喜びを表現した。ナツキもまさか一発でできるとは思わなかった。自分で得点するのは初めてだったので、嬉しさと少しの気恥ずかしさでナツキは頬を赤らめた。
すぐ後に時間差でハーマイオニーも呪文を成功させる。フリットウィック先生はグリフィンドールをベタ褒めしてくれた。
唯一機嫌が悪かったのはロンだった。
「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ!」
ハーマイオニーとペアを組んだロンは彼女への不満を大きな声で漏らした。
「まあまあ、ロン。落ち着きなよ。ハーマイオニーはロンに教えてあげようと思って言ったことなんだから、悪気があるわけじゃないんだよ。」
「悪気なくあんな最悪な態度を取れる方が問題だと思いますけどね!!!」
ナツキが宥めようとしてもロンの怒りは収まらなかった。今夜のハロウィーンパーティーで甘いお菓子を食べればロンの機嫌もおさまるだろうとナツキは楽観視していたが、そううまくはいかなかった。
誰かがハリーにぶつかり急いで追い越していった。クセのある髪が特徴的な後ろ姿は間違いなくハーマイオニーのものだった。ナツキとハリーは、彼女の泣いている横顔を見てしまった。
「ロン!仲直りしようよ!」
ロンは罪悪感があるように見えたが、そればかりは譲れなかったようで、彼らが仲直りすることはなかった。ハーマイオニーは次のクラスに顔を出さなかった。夜のパーティーの時間になっても広間に現れなかった。
耳に入ってきた情報では、どうもトイレで1人泣いているらしい。
ハリーとロンはすぐにご馳走に夢中になっていたが、ナツキはとてもそういう気分にはなれなかった。
ハーマイオニーを呼びに行こう。
そう思って、ナツキは一人、大広間を出て女子トイレに向かった。
「・・・っ・・・ひっく・・・」
鍵のかかった個室から啜り泣く声が聞こえた。ナツキはぎゅっと胸が締め付けられた気がした。
「ハーマイオニー?」
コンコンと控えめにノックをして彼女の名を呼んだ。
「・・っ・・・・ナツキ・・・?」
「ハロウィーンの宴が始まってるよ。美味しそうなお菓子がいっぱいあったよ。一緒に行こう?」
「・・・一人にしてほしいの・・・・ひっく・・・」
しゃくりあげたハーマイオニーの声を聞いて、ナツキはどうするのが彼女にとっていいことなのか分からなくなった。
「ロンは意地になってるだけで、ハーマイオニーのことが嫌いなわけじゃないよ。」
ハーマイオニーは返事をしなかった。啜り泣く声はまだ聞こえていた。ナツキはハーマイオニーの言う通り、一人にした方がいいのかもと思い始めた。
「じゃあ、ハーマイオニー、私は広間に行くけど、待ってるからね。お菓子、食べたくなったら来てね。」
そう言ってナツキはトイレを出ようとした。しかし、そこで妙な異臭がすることに気づいた。その臭いは次第に強くなっていく。
そしてドスン、と大きな足音が聞こえた気がした。
「・・・ハーマイオニー、さっきはああ言ったけど、緊急事態かも。今すぐそこから出てきて・・・・・」
「え?」
異変を感じ、そう言ったときにはもう遅かった。女子トイレの入り口から、ヌウっと怪物が現れた。あれは本で見たことがある。
「トロール!!?ハーマイオニー急いで出てきて!!」
トロールは棍棒を振り回し、洗面台を次々に破壊した。流石に異常事態に気づいたハーマイオニーは個室から出てきて、悲鳴を上げた。
「きゃあ!」
ナツキはハーマイオニーを背に、迷わず杖をトロールに向けた。
「フリペンド!!」
本で読んだだけで実際には使ったことのない衝撃呪文をトロールに向けて放った。トロールは仰け反ってよろめいたが、すぐに体勢を持ち直し、ナツキを見て棍棒を振り上げた。
まずい!!
そう思ったときだった。
「やーい!ウスノロ!」
ナツキはトロール越しにハリーとロンの姿を見た。ロンが金属パイプを投げつけたおかげでトロールの注意がそっちに向いた。
「走れ!」
ハリーの声に頷いて、ナツキは恐怖で泣き叫ぶハーマイオニーの手をひいたが、腰が抜けたようで彼女は立ち上がらない。
「ハーマイオニー!!立って!!」
トロールはロンに向かって行った。ハリーはどういうわけかトロールに向かっていき、首根っこにしがみついた。その反動で、彼の杖がトロールの鼻穴に刺さった。
「ハリー!」
ナツキは叫んだ。トロールがハリーを振り払おうと、今にも棍棒で叩こうとしていたからだ。また衝撃呪文を打とうかとも考えたが、うまく行くかもわからないし、最悪ハリーも怪我をしてしまう。
どうしようどうしよう!!!
パニックになるナツキだったが、その状況を打開したのはロンだった。
「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」
棍棒がトロールの手から離れ、空中を舞い上がり、そしてその脳天に直撃した。トロールはふらふらし、倒れ込んだ。
ハリーはブルブルしながら立ち上がった。4人は緊張しながらその場を離れようとトイレの入り口へと後退りした。
しかし、トロールは唸り声をあげ、立ち上がり、4人に向かってきたのだ。
「フリペンド!!!!!」
迷うことなく放ったナツキの衝撃呪文がトロールに直撃した。今度こそ完全にノックアウトしたようだ。
ハリーはかがみこんでその鼻から杖を恐る恐る取り上げた。
急にバタバタと音が聞こえ、4人は顔を見合わせた。この騒ぎを聞きつけた先生たちが続々と集まってきたのだ。
「一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか!」
見たことないくらいに起こりながら声を荒げたのはマクゴナガル先生だ。ナツキとハーマイオニーに関しては、なぜ怒られているのかも理解できていない。
「寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
寮にいるべき?そんな指示がハロウィーンパーティー中に?
ナツキはまだ状況が飲み込めない。しかし、ハーマイオニーは察したようだった。
「ナツキはお菓子の食べ過ぎでたまたまトイレにいただけです。ハリーとロンの二人は、私を探しにきたんです。私がトロールを探しにきたんです。私、一人でやっつけられると思いました。」
なぜか自分が食い意地の末、お腹を壊したことになっている、とナツキは驚きで口をぱくぱくさせた。
「もしナツキがここにきていなくて、ハリーとロンが後から駆けつけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。3人がトロールをノックアウトしてくれました。誰かを呼びに行く時間がなかったんです。もう、殺される寸前で。」
ナツキはここで漸く、事態を把握し始めた。おそらく、大広間ではトロールが出たことで寮に行くよう指示が出たんだろう。運悪くその場にいなかった自分が、これまた運悪くそのトロールに出くわしたのだとナツキはわかった。そして、それをいち早く察したハーマイオニーが、なんと先生たちに嘘をついて自分達を庇っているのだと気づいた。
「まあ、そういうことでしたら・・・・。ミス・グレンジャー、グリフィンドールから5点減点です。あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方が良いでしょう。」
ハーマイオニーはとぼとぼと帰っていった。なぜかナツキ、ハリー、ロンは残された。
「あなたたちは運がよかった。でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。」
トイレを出て、二つ上の階に上がるまで三人は何も話さなかった。
「3人で15点は少ないよな」とロンがぶつくさ言い、「3人で10点だろ。ハーマイオニーの5点を引くと」とハリーが訂正した。
「ああやって彼女が僕たちを助けてくれたのはたしかにありがたかったよ。だけど、僕たちがあいつを助けたのも確かなんだぜ。」
「僕たちが鍵をかけてヤツを閉じ込めたりしなかったら、助けは要らなかったかもしれないよ。」
「え、待って。それ、どういうこと!?」
ハリーはロンに正確な事実を思い出させた。
グリフィンドールの談話室はハロウィパーティーの続きで賑やかだった。ハーマイオニーだけが一人ポツンと扉のそばに立って三人を待っていた。
「あの、ありがとう・・・。」
ハーマイオニーの笑顔を見て、ナツキはさっきのハリーの鍵をかけた発言は一生胸の内にとどめておこうと決意した。何はともあれ、ロンとハーマイオニーが仲良くなったことが嬉しかった。
次のハリーはロンとナツキに、グリンゴッツの例の荷物が昨日の三頭犬が守っているものではないかという仮説を言った。この話の最中で、ナツキはようやく昨日のあの場所が、ダンブルドア先生が言ってはいけないと言っていた4階の廊下だと気づいた。
ハリーのクィディッチの練習が始まり、ナツキはロンと2人で宿題をしたり、1人で図書館に行ったり、双子とリー・ジョーダンの悪巧みに付き合わされたりしていた。ハーマイオニーはあれから授業中の必要最低限以外は口を聞いてくれなくなった。
授業に関しては順調に見えたが、一つだけ気がかりがあった。飛行訓練だ。1年生は必修で、学期末にもちょっとした試験があるらしい。ナツキは毎回ジョージに教わった箒を手にしていたが、まだ地上から5センチ浮き上がることまでしかできていなかった。
「あ、あの、フーチ先生はいらっしゃいますか?」
このままではいけないと思ったナツキは職員室へ向かった。
「ナツキ、どうしたんですか?」
「その、ご存知でしょうけど、私、箒が苦手で・・・・。できれば自主練習をしたいと思っているんですけど、先生、見てくれたりってできますか・・・・?」
マダム・フーチは厳しい先生であったが、優しい先生でもあった。ナツキのその姿勢を評価し、週に1度、放課後に練習に付き合ってくれると言ってくれた。
先生はグリフィンドールがクィディッチの練習をしている隅にナツキを呼び出した。「ハリーが練習している!」と感動を覚えながらも、自分も少しはマシになりたいと思ってフーチ先生と向き合った。
「では箒に跨って。・・・そう。よくできていますよ。怖がらずに、少しずつ高度を上げていきましょう。」
マダム・フーチはベテランの先生である。そのためか、ナツキが怖がっていることにはとっくに気づいていたようだ。
いつもの箒はナツキの言うことをよく聞いてくれた。足元がほんの少し地面から離れた。3センチ、4センチ、5センチ。ここで、腕が少し震えてきた。
「いいでしょう。その高さのまま、前に進んでみましょう。少しだけ、前傾姿勢になるのです。しっかり握って。そうです。」
「は、はい・・・!」
ナツキが言われた通り、少しだけ前屈みになると、箒はゆっくりと進んだ。地面からは5センチしか離れていないが、ナツキにとっては大きな一歩だった。
「では曲がってみましょう。体を右に傾けて。・・・そうです。では次は左に・・・・」
フィールドの真ん中ではクィディッチの代表選手たちがビュンビュン飛んで練習をしていた。傍でノロノロ超低空飛行をするナツキであったが、選手たちはそれを邪魔に思うでもなく、苦手なことを一生懸命努力するナツキを好ましく思っていた。
週に1度の練習を何度か繰り返しているうちに、休憩時間の代表選手たちがアドバイスをくれるようになった。筆頭はフレッドとジョージだ。
「お、ナツキ!上達したな!」
「足をもっと絞めた方がいいぜ。つま先はもう少し後ろを向けるんだ。」
ナツキが箒が苦手ということをジョージだけではなくフレッドも理解したので、練習中に限って彼らは絶対にふざけなかった。もちろんマダム・フーチが目を光らせていることも理由の一つだ。
そんなふうに忙しく過ごしていると、ホグワーツでの日々はあっという間に過ぎ去っていく。気づけばハロウィーンの日を迎えていた。
朝食を食べていると、レオーネが飛んできて、ナツキに手紙を渡した。先日アバーフォースに手紙を出してみたので、おそらくその返事だろう。
「ありがとう、レオーネ。」
レオーネは顎の辺りを撫でると気持ちよさそうにした。アバーフォースは手紙まで無愛想だったが、最後の「風邪ひくなよ」の一文は暖かかった。
「さあ、いままで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して!」
その日のフリットウィック先生の「呪文学」のクラスでは、ついに実際にものを飛ばすよう指示された。二人組になって、という指示が出ると、ハリーがすぐにこちらへきて一緒に組むことになった。
「・・・ネビルがすごくこっちをみてくるんだ。ナツキと組めてよかった。」
ナツキは返事は返さずに、苦笑した。確かにネビルとこの手の呪文を一緒に行うのは怖い。
ハリーがまず呪文を唱えた。机の上の羽は動かない。
「なんでだろう?よし、私もやってみる。ウィンガーディアム・レヴィオーサ!!」
フリットウィック先生を真似して、ナツキは高らかに呪文を唱えた。すると羽はふわりと浮き上がった。
「おお!ミス・ゴドリクソン!素晴らしい!私の授業では最速記録ですよ!グリフィンドールに5点差し上げましょう!」
先生が小さな体で喜びを表現した。ナツキもまさか一発でできるとは思わなかった。自分で得点するのは初めてだったので、嬉しさと少しの気恥ずかしさでナツキは頬を赤らめた。
すぐ後に時間差でハーマイオニーも呪文を成功させる。フリットウィック先生はグリフィンドールをベタ褒めしてくれた。
唯一機嫌が悪かったのはロンだった。
「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ!」
ハーマイオニーとペアを組んだロンは彼女への不満を大きな声で漏らした。
「まあまあ、ロン。落ち着きなよ。ハーマイオニーはロンに教えてあげようと思って言ったことなんだから、悪気があるわけじゃないんだよ。」
「悪気なくあんな最悪な態度を取れる方が問題だと思いますけどね!!!」
ナツキが宥めようとしてもロンの怒りは収まらなかった。今夜のハロウィーンパーティーで甘いお菓子を食べればロンの機嫌もおさまるだろうとナツキは楽観視していたが、そううまくはいかなかった。
誰かがハリーにぶつかり急いで追い越していった。クセのある髪が特徴的な後ろ姿は間違いなくハーマイオニーのものだった。ナツキとハリーは、彼女の泣いている横顔を見てしまった。
「ロン!仲直りしようよ!」
ロンは罪悪感があるように見えたが、そればかりは譲れなかったようで、彼らが仲直りすることはなかった。ハーマイオニーは次のクラスに顔を出さなかった。夜のパーティーの時間になっても広間に現れなかった。
耳に入ってきた情報では、どうもトイレで1人泣いているらしい。
ハリーとロンはすぐにご馳走に夢中になっていたが、ナツキはとてもそういう気分にはなれなかった。
ハーマイオニーを呼びに行こう。
そう思って、ナツキは一人、大広間を出て女子トイレに向かった。
「・・・っ・・・ひっく・・・」
鍵のかかった個室から啜り泣く声が聞こえた。ナツキはぎゅっと胸が締め付けられた気がした。
「ハーマイオニー?」
コンコンと控えめにノックをして彼女の名を呼んだ。
「・・っ・・・・ナツキ・・・?」
「ハロウィーンの宴が始まってるよ。美味しそうなお菓子がいっぱいあったよ。一緒に行こう?」
「・・・一人にしてほしいの・・・・ひっく・・・」
しゃくりあげたハーマイオニーの声を聞いて、ナツキはどうするのが彼女にとっていいことなのか分からなくなった。
「ロンは意地になってるだけで、ハーマイオニーのことが嫌いなわけじゃないよ。」
ハーマイオニーは返事をしなかった。啜り泣く声はまだ聞こえていた。ナツキはハーマイオニーの言う通り、一人にした方がいいのかもと思い始めた。
「じゃあ、ハーマイオニー、私は広間に行くけど、待ってるからね。お菓子、食べたくなったら来てね。」
そう言ってナツキはトイレを出ようとした。しかし、そこで妙な異臭がすることに気づいた。その臭いは次第に強くなっていく。
そしてドスン、と大きな足音が聞こえた気がした。
「・・・ハーマイオニー、さっきはああ言ったけど、緊急事態かも。今すぐそこから出てきて・・・・・」
「え?」
異変を感じ、そう言ったときにはもう遅かった。女子トイレの入り口から、ヌウっと怪物が現れた。あれは本で見たことがある。
「トロール!!?ハーマイオニー急いで出てきて!!」
トロールは棍棒を振り回し、洗面台を次々に破壊した。流石に異常事態に気づいたハーマイオニーは個室から出てきて、悲鳴を上げた。
「きゃあ!」
ナツキはハーマイオニーを背に、迷わず杖をトロールに向けた。
「フリペンド!!」
本で読んだだけで実際には使ったことのない衝撃呪文をトロールに向けて放った。トロールは仰け反ってよろめいたが、すぐに体勢を持ち直し、ナツキを見て棍棒を振り上げた。
まずい!!
そう思ったときだった。
「やーい!ウスノロ!」
ナツキはトロール越しにハリーとロンの姿を見た。ロンが金属パイプを投げつけたおかげでトロールの注意がそっちに向いた。
「走れ!」
ハリーの声に頷いて、ナツキは恐怖で泣き叫ぶハーマイオニーの手をひいたが、腰が抜けたようで彼女は立ち上がらない。
「ハーマイオニー!!立って!!」
トロールはロンに向かって行った。ハリーはどういうわけかトロールに向かっていき、首根っこにしがみついた。その反動で、彼の杖がトロールの鼻穴に刺さった。
「ハリー!」
ナツキは叫んだ。トロールがハリーを振り払おうと、今にも棍棒で叩こうとしていたからだ。また衝撃呪文を打とうかとも考えたが、うまく行くかもわからないし、最悪ハリーも怪我をしてしまう。
どうしようどうしよう!!!
パニックになるナツキだったが、その状況を打開したのはロンだった。
「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」
棍棒がトロールの手から離れ、空中を舞い上がり、そしてその脳天に直撃した。トロールはふらふらし、倒れ込んだ。
ハリーはブルブルしながら立ち上がった。4人は緊張しながらその場を離れようとトイレの入り口へと後退りした。
しかし、トロールは唸り声をあげ、立ち上がり、4人に向かってきたのだ。
「フリペンド!!!!!」
迷うことなく放ったナツキの衝撃呪文がトロールに直撃した。今度こそ完全にノックアウトしたようだ。
ハリーはかがみこんでその鼻から杖を恐る恐る取り上げた。
急にバタバタと音が聞こえ、4人は顔を見合わせた。この騒ぎを聞きつけた先生たちが続々と集まってきたのだ。
「一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか!」
見たことないくらいに起こりながら声を荒げたのはマクゴナガル先生だ。ナツキとハーマイオニーに関しては、なぜ怒られているのかも理解できていない。
「寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
寮にいるべき?そんな指示がハロウィーンパーティー中に?
ナツキはまだ状況が飲み込めない。しかし、ハーマイオニーは察したようだった。
「ナツキはお菓子の食べ過ぎでたまたまトイレにいただけです。ハリーとロンの二人は、私を探しにきたんです。私がトロールを探しにきたんです。私、一人でやっつけられると思いました。」
なぜか自分が食い意地の末、お腹を壊したことになっている、とナツキは驚きで口をぱくぱくさせた。
「もしナツキがここにきていなくて、ハリーとロンが後から駆けつけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。3人がトロールをノックアウトしてくれました。誰かを呼びに行く時間がなかったんです。もう、殺される寸前で。」
ナツキはここで漸く、事態を把握し始めた。おそらく、大広間ではトロールが出たことで寮に行くよう指示が出たんだろう。運悪くその場にいなかった自分が、これまた運悪くそのトロールに出くわしたのだとナツキはわかった。そして、それをいち早く察したハーマイオニーが、なんと先生たちに嘘をついて自分達を庇っているのだと気づいた。
「まあ、そういうことでしたら・・・・。ミス・グレンジャー、グリフィンドールから5点減点です。あなたには失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に帰った方が良いでしょう。」
ハーマイオニーはとぼとぼと帰っていった。なぜかナツキ、ハリー、ロンは残された。
「あなたたちは運がよかった。でも大人の野生トロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。」
トイレを出て、二つ上の階に上がるまで三人は何も話さなかった。
「3人で15点は少ないよな」とロンがぶつくさ言い、「3人で10点だろ。ハーマイオニーの5点を引くと」とハリーが訂正した。
「ああやって彼女が僕たちを助けてくれたのはたしかにありがたかったよ。だけど、僕たちがあいつを助けたのも確かなんだぜ。」
「僕たちが鍵をかけてヤツを閉じ込めたりしなかったら、助けは要らなかったかもしれないよ。」
「え、待って。それ、どういうこと!?」
ハリーはロンに正確な事実を思い出させた。
グリフィンドールの談話室はハロウィパーティーの続きで賑やかだった。ハーマイオニーだけが一人ポツンと扉のそばに立って三人を待っていた。
「あの、ありがとう・・・。」
ハーマイオニーの笑顔を見て、ナツキはさっきのハリーの鍵をかけた発言は一生胸の内にとどめておこうと決意した。何はともあれ、ロンとハーマイオニーが仲良くなったことが嬉しかった。