炎のゴブレット
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「賭けをしたなんて母さんには絶対言うんじゃないよ。」
階段を降りながら、ウィーズリーおじさんが双子に哀願した。
「親父、心配ご無用。このお金にはビッグな計画がかかっている。取り上げられたくはないさ。」
フレッドが胸を張ってそう返した。
スタジアムからキャンプ場までは人波でごった返していた。大声で試合を振り返る声、勝利の歌、口笛。世界全体がクィディッチの熱狂に包まれていた。
ようやくテントに戻った頃には、足は棒のようで、喉はカラカラだった。でも、ナツキもみんなもまだ試合の興奮が胸を高鳴らせていて、眠気はどこか遠くの話だった。
結局、みんなで温かいココアを飲みながら、夜ふかしをすることになった。ジニーが眠気に負けてココアをこぼしたのをきっかけに、ようやく「全員寝なさい」とおじさんが促した。
ナツキはジニーとハーマイオニーと共に、隣のテントへ移動した。ベッドに身体を沈めると、心地よい疲労感が体を包んだ。ジニーのベッドからは、すぐに規則正しい寝息が聞こえ始め、ハーマイオニーもそのすぐ後に静かになった。
ナツキは眠りに落ちる直前、微かに思った。
今日は選手みたいに箒に乗る夢を見れるかも・・・
けれど、その夜、ナツキが見た夢は、空でも、スタジアムでもなかった。
どこか知らない森の中だった。光が柔らかく差し込む場所で、風が葉を撫でていた。
ナツキは誰かの腕の中にいた。
温かくて、大きくて、力強いのに優しくて、自分のすべてを包み込むような抱擁だ。
顔を見ようとしても、なぜか見えない。まるで夢の霧が顔の輪郭を覆っているみたいだった。でも、不思議と怖くなかった。
その人は何も言わなかった。ただ、ナツキをぎゅっと抱きしめたまま、ゆっくりと背中をさすってくれていた。
安堵と、どこかくすぐったいような心地よさが胸に広がる。ナツキはそのぬくもりに身を預けると、自然と微笑んでいた。その腕が、ほんの少し、愉快な悪戯のように背中で指を動かしていたことにナツキは気づかなかった。
そして――
遠くのほうで、誰かの叫び声が響いた。
「外に出ろ!魔法省の人間を呼べ!」
現実が、悪夢のような音を連れてナツキの夢を切り裂いた。
まだ誰かのぬくもりが身体に残っているような気がしたが、テントの外の空気はただ事ではない何かが起きていることを知らせていた。
バッと身体を起こし、耳を澄ます。騒がしい。叫び声、駆け足。何かが燃えるような音や悲鳴も聞こえた。
「・・・・何・・・・!?」
ナツキは隣のベッドに身を沈めているハーマイオニーを揺すった。彼女はすぐに目を覚まし、薄暗いテントの中で身を起こした。
「火事?」
「わかんない。でも、すごく嫌な音がする。ジニー!」
ナツキはジニーの肩も揺らした。ジニーもすぐに目を開け、眠たそうに顔をしかめながら身体を起こした。
そのとき、バサッとテントの入り口が開きウィーズリーおじさんが現れた。息が荒く、いつもの穏やかな笑みは影を潜めている。
「みんな、上着だけ持ってすぐに出なさい!」
ナツキたちがテントの外に出ると、ハリーたちもすでに外に出ていた。上空には人影――いや、ロバーツさん一家が空中に逆さまに吊るされている。宙に浮いた彼らはくるくると回され、あざけるような笑い声が響いていた。その下には、仮面とフードで顔を隠した一団がいた。威嚇するように魔法を放ち、興奮した様子で暴れまわっている。
「私らは魔法省を助太刀する。お前達、森へ入りなさい。バラバラになるんじゃないぞ。片がついたら迎えにいくから!」
おじさんがそういうと、ビル、チャーリー、パーシーも不気味な一団に向かって駆け出していった。
フレッドを先頭に、ナツキたちは慌ただしく森へと逃げ込んだ。
一歩森に足を踏み入れると、そこは真っ暗で混雑していた。「うわっ」とロンの叫ぶ声が聞こえた。ハーマイオニーがすぐさま駆け寄り、「ルーモス」と唱える。杖先がぼんやりと明るくなった。
「木の根につまずいた。」
ならよかった、と安心したのも束の間、嫌な声がした。
「まあ、そのデカ足じゃ、無理もない。」
ドラコ・マルフォイだ。
「君たち、急いで逃げたほうがいいんじゃないのかい?その子が見つかったら困るんじゃないのか?」
マルフォイは顎でハーマイオニーを指し示す。
「連中はマグルを狙ってる。空中で下着を見せびらかしたいかい?だったら、ここにいればいい。連中はこっちへ向かっている。みんなで散々笑ってあげるよ。」
「ハーマイオニーは魔女だ。」
ハリーが短く言い放った。声に怒気が滲んでいる。ナツキも怒りで手が震えていたが、すぐに別の疑問が頭をよぎった。
「あなたあの人達と知り合いなの!?」
マルフォイは肩をすくめ、冷笑を浮かべた。
「さあね。けど、『穢れた血』がどうなるか、見物だろ?。」
「口を慎め!!」
ロンが叫んだ。
「臆病な連中だねぇ?君のパパがみんなに隠れているようにって言ったんだろう?一体何を考えているやら。マグルを助け出すつもりかねぇ?」
「魔法を使えないマグルを弄ぶのは臆病と言わないの?あなたの父親はどこにいるの!」
「あそこに、仮面をつけているんじゃないのか?」
ナツキとハリーは熱くなった。
「もういいわ、行きましょう!」
ハーマイオニーが間に割って入るように、ナツキとハリーの腕を掴んだ。
「行きましょうったら!」
強く言いながら、彼女は小道の方へとナツキ達を引っ張った。振り返ると、いつの間にかフレッド、ジョージ、そしてジニーとも離れ離れになってしまっていた。
「ルーモス。」
ナツキがそう唱え、ロンもそれに続いた。ハリーもポケットの杖を出そうとした。
「あれ、嫌だな。そんなはずは・・・僕、杖を無くしちゃったよ!」
ナツキ達はあたりを探したが、それらしきものはない。テントに置き忘れたか、ここに来るまでに落としてきてしまったのか。
「おじさんたちと合流したら、呼び寄せ呪文を使ってもらおう。すぐに見つかるよ。」
「ウン。」
ナツキはハリーを慰めようとそう言ったが、こんな状況で杖を持たないのはきっと不安だろうと思った。
その時、ガサガサっと音がした。するとすぐそばの茂みからウィンキーが飛び出した。動き方が変で、まるで見えない誰かに引き止められているようだった。
「悪い魔法使い達がいる!人が高く・・・空に高く!ウィンキーは退くのです!」
そう言ってウィンキーは何かに抗いながら消えていった。きっとウィンキーは隠れて良いと言う許可がないままここへきて、後ろめたくてあんな動きをしているのだろう。
「屋敷妖精って、とっても不当な扱いを受けてるわ!」
ハーマイオニーはクラウチ氏のウィンキーの扱いに憤慨していた。森のはずれから爆音が響き、ロンが「とにかく先へいこう。ね?」とハーマイオニーを気遣わしげに言った。ナツキもそれに賛成だった。マルフォイはムカつくが、本当にハーマイオニーが狙われてしまう可能性が大きいように思えたのだ。
暗い小道をジョージ達を探しながら、森の奥へと入っていく。ゴブリンやヴィーラ、魔法使い達を追い越していく。
周囲にはもう他の人の姿はない。森を逃げ惑っていた群衆の声も、遠くに聞こえる。
「僕たち、ここで待てばいいと思うよ。」
ハリーがそういった。そして次の言葉を紡ぐ前に、ルード・バグマンが木の影から現れた。なんだか真っ青だ。
「誰だ?こんなところで、ポツンと、いったい何をしているんだね?」
どうやらバグマンはキャンプ場の騒ぎに気づいていなかったらしい。そのことを知ると、ポンと姿くらましした。おそらくそちらへ向かったのだろう。
「なんだったの?」
ナツキが思わず呟いたとき、ハリーがぽつりと口を開いた。
「静かになってきたかな?」
確かに、さっきまで遠くに響いていた怒号や悲鳴は、もうほとんど聞こえない。
「みんな無事だといいけど。」
「大丈夫さ。」
心配するハーマイオニーにポケットから出したクラム人形を眺めながらロンが優しくそういった。ナツキはふと、ロンはジョージの弟なんだな、と思った。
「ウィーズリーおじさんが、ルシウス・マルフォイを捕まえてくれるといいけどね。」
「ナツキの言う通りだ。おじさんはマルフォイの尻尾を掴みたいっていつもそう言ってた。」
ナツキとハリーの言葉にロンもそうなることを望んだ。
「今夜のように魔法省が総動員されているときにあんなことをするなんて、狂ってるわ。」
ハーマイオニーは続けた。
「つまりね、あんなことをしたら、タダじゃ済まないじゃない?飲みすぎたのかしら、それとも、単に・・・・」
ハーマイオニーが突然言葉を切って後ろを振り向いた。ナツキ達も急いでそちらを見た。誰かがここに向かってよろよろやってくる音がする。
「誰かいますか?」
ハリーの声が、静まり返った森に吸い込まれるように消えていった。
しかし、確かに“何か”がそこにいる。気配がある。重い空気がまとわりつくように辺りを包み、ナツキは咄嗟に杖を握り直した。
そして前触れなく、聞き覚えのない声が静寂を破った。
「モースモードル。」
巨大な、緑色に輝く何かが、暗闇から立ち上った。ロンがそれを凝視しながら「あれは一体?」と呟いた。
巨大な髑髏だった。エメラルド色の髑髏の口から、舌のように蛇が這い出していた。
ナツキの背筋が凍った。
「・・・闇の印・・・!」
思わず息を呑み、ハリーの手を掴んだ。
「ハリー、早く!逃げなきゃ!」
ハーマイオニーも表情を引きつらせ、ロンの手を取って叫んだ。
「ロン!急いで!!!」
ナツキが叫んだそのとき、ポンポンと聞き慣れた音がした。姿表しの音だ。
気づけば四人は二十人ほどの魔法使いに囲まれていた。中には見たことのある魔法使いもいる。包囲した魔法使い達は手に杖を持っていて、それをこちらへ向けていた。
「プロテゴ!!」
「伏せろ!」
ナツキとハリーの叫びはほぼ同時だった。
「ステューピファイ!!」
耳をつんざく轟音が四方から押し寄せた。二十人近い魔法使いたちが一斉に発した赤い閃光が、雷のように四人を襲う。だが、ナツキの放った守護呪文が、それを寸前で受け止めた。強烈な力に押し返されながらも、盾はギリギリのところで保たれている。
ナツキは包囲人の杖先から再び炎のような赤い光が迸るのを見た。
また再び盾が魔法の一斉砲撃をぎりぎりで受け止め、爆ぜるような光と衝撃が周囲を包んだ。
ナツキは息を切らせながら、一歩前に出た。友達を背に庇うように、しっかりと足を地につける。
「なんなの!?」
震える声ではなかった。凛とした声だった。だが、目の前の敵意から大切な人たちを守らなければならないという強い決意だけが、彼女を突き動かしていた。
対峙する二十本の杖にも怯まないその姿に、誰かがわずかにためらいを見せた、そのときだった――
「やめろ!!」
聞き覚えのある声が叫んだ。
「やめてくれ!私の息子だ!ああ、なんてことだ!ナツキも杖を下ろすんだ!」
ウィーズリーおじさんだった。魔法使い達は杖を下ろした。
「ナツキ!下ろすんだ!」
「下ろしません!この人たち、きっと死喰い人です!!」
ナツキが叫んだ。そして間髪入れずに、「馬鹿なことを言うな」とクラウチ氏の叫びが聞こえた。
「どけ、アーサー。誰がやった?お前達の誰が『闇の印』を出したのだ?」
当然、ナツキたちは口々に否定した。その時ようやく彼女は、どうして自分たちが魔法省の職員に囲まれたのかを理解した。
「お前達は犯罪の現場にいた!」
「お前達、あの印はどこから出てきたんだね?」
クラウチ氏の剣幕をよそに、ウィーズリーおじさんが冷静に訊いた。ハーマイオニーが指を震わせながら木立の方を指した。
「木立の影に誰かいたわ。何か叫んだの。呪文を・・・」
「ほう。あそこに誰が立っていたというのかね?」
クラウチ氏のハーマイオニーの目は何も信じる気はなさそうだった。しかしそう言った態度をとっているのはクラウチ氏だけだった。
「『失神光線』があの木立を突き抜けた。犯人に当たった可能性は大きい。」
エイモス・ディゴリーがそう言って、木立に進んでいった。
「よし!捕まえたぞ!ここに誰かいる!気を失ってるぞ!こりゃあ、なんと、まさか・・・・」
彼が引きずり出してきたのは、小さな屋敷しもべ妖精、ウィンキーだった。ぐったりと気を失っている。しかもその手には、一本の杖が握られていた。
「あれ、それ、僕のだ!」
最悪なことが起きた。見覚えがあるな、と思っていたら、その杖はハリーのものだったのだ。
「それ、僕の杖です!落としたんです!」
「落としたんです?自白しているのか?『闇の印』を作り出した後で投げ捨てたとでも?」
エイモスの疑いの目が光った。その物言いに、ナツキの怒りが爆ぜた。
「ハリー・ポッターを侮辱しているんですか!?」
彼女の声が、夜の森に響いた。
「ナツキ、落ち着いて!」
おじさんがとりなす。しかし、ナツキの目はディゴリー氏を鋭く見据えていた。
「しかし、エイモス、彼女のいうことはわかるね?いやしくもハリー・ポッターが『闇の印』を作り出すことがあり得るか?」
ディゴリー氏は口ごもった。
「それに、僕、あそこに落としたんじゃありません。森に入ったすぐ後になくなっていることに気づいたんです。」
するとクラウチ氏は再びウィンキーに疑いの目を向けた。でもナツキ達にはウィンキーが呪文を唱えていないという確信があった。
「男の人の声でした。間違っても、ウィンキーのような高い声じゃありません。」
ハーマイオニーもナツキの言葉に頷いた。ハリーとロンも違う声だと援護した。
ディゴリー氏が直前呪文をハリーの杖に使った。するとそれは間違いなく、闇の印を打ち出す呪文であった。三度、クラウチ氏はウィンキーを疑った。
激昂するクラウチ氏をなだめ、ウィーズリーおじさんはウィンキーから真相を聞き出した。
ハリーが落とした杖を誰かが拾い、闇の印を作り、姿くらましした。そこへたまたま運悪く、ウィンキーが来て、杖を拾った。これまでで一番筋が通っていた話だった。
「ウィンキーは今夜、私が到底あり得ないと思っていた行動をとった。こやつは私に従わなかった。それは『洋服』に値する。」
「おやめください!洋服だけはおやめください!」
ウィンキーは叫んだ。ひどく居心地の悪い沈黙が流れた。
「あー、ところで、その子の処罰はどうする?」
エイモス・ディゴリーがナツキを指差した。
「ホグワーツの外で、君たちは魔法を使ってはいけないはずだ。」
「エイモス、さっきのナツキの話を聞いただろう。彼女達は罪を犯していなかった。そこで突然失神呪文を向けられたら、身を守るために行動するのは当然だろう。」
ウィーズリーおじさんは怒ってそう言った。
「いや、しかしだな、」
ナツキは処罰がどうこうより、エイモス・ディゴリーへの苛立ちが募った。
「『闇の印』が現れて、訳もわからず魔法使いに囲まれました。まるでハリー・ポッターを狙っているかのように。・・・私があなた方を魔法省の役人のふりをしたヴォルデモートの手先だと勘違いしたのはそんなに不思議なことですか?」
ナツキが「ヴォルデモート」といったことでその場の空気が冷えきった。
「・・・何れにせよ君たちの管轄ではないはずだ。不当使用取締局から沙汰があればナツキも応じるだろう。さて、差し支えなければ、私はみんなを連れてテントに戻るとしよう。エイモス、その杖は語るべきことを語り尽くした。ハリーに返してもらえまいか?」
エイモスはウィーズリーおじさんに言葉に従い、ハリーに杖を渡した。
「さあ、四人とも、おいで。」
しかしハーマイオニーだけは動かなかった。ウィンキーが気になるのだ。早くテントに戻りたいというウィーズリーおじさんの説得で、ハーマイオニーも歩き出した。
キャンプ場のテントに戻ると、双子達もそこにいた。ビルとパーシーは負傷していて、チャーリーもシャツが裂けていた。
ウィーズリーおじさんが、先ほどの出来事、森での騒動、“闇の印”の出現、ウィンキーの件までを簡潔に話すと、ウィーズリーの兄弟達は信じられないというような表情で顔を見合わせた。
「ねえ、誰か、あの髑髏みたいなのがなんなのか、教えてくれないかな。なんで大騒ぎするの?ナツキも、なんでそんなにピリピリしてるんだ・・・・?」
ロンが待ちきれないように言った。おじさんが、闇の印の恐ろしさについてゆっくりと説明した。誰かを殺す時、決まって打ち上がっていた印なのだと。
ビルが傷の具合を確かめながら言った。
「死喰い人達があれをみた途端、怖がって逃げてしまった。仮面を引っぺがしてやろうとしても、そこまで近づかないうちに『姿くらまし』してしまった。」
「怖がって?あの印を作ったのは、死喰い人ではないの?」
ナツキが不思議そうに尋ねると、ビルは説明した。
「あの死喰い人はつまり、今アズカバンに入っている本当の死喰い人からしたら、あの手この手で嘘をついて逃げた裏切り者なんだ。だからキャンプ場で馬鹿騒ぎしてた奴らは、逃げ出した。」
朝の3時を回っていた。ナツキは隣のテントのベッドに入ったが、眠れそうな気はしなかった。
ただどうしようもなくシリウス・ブラックに会いたくなった。
階段を降りながら、ウィーズリーおじさんが双子に哀願した。
「親父、心配ご無用。このお金にはビッグな計画がかかっている。取り上げられたくはないさ。」
フレッドが胸を張ってそう返した。
スタジアムからキャンプ場までは人波でごった返していた。大声で試合を振り返る声、勝利の歌、口笛。世界全体がクィディッチの熱狂に包まれていた。
ようやくテントに戻った頃には、足は棒のようで、喉はカラカラだった。でも、ナツキもみんなもまだ試合の興奮が胸を高鳴らせていて、眠気はどこか遠くの話だった。
結局、みんなで温かいココアを飲みながら、夜ふかしをすることになった。ジニーが眠気に負けてココアをこぼしたのをきっかけに、ようやく「全員寝なさい」とおじさんが促した。
ナツキはジニーとハーマイオニーと共に、隣のテントへ移動した。ベッドに身体を沈めると、心地よい疲労感が体を包んだ。ジニーのベッドからは、すぐに規則正しい寝息が聞こえ始め、ハーマイオニーもそのすぐ後に静かになった。
ナツキは眠りに落ちる直前、微かに思った。
今日は選手みたいに箒に乗る夢を見れるかも・・・
けれど、その夜、ナツキが見た夢は、空でも、スタジアムでもなかった。
どこか知らない森の中だった。光が柔らかく差し込む場所で、風が葉を撫でていた。
ナツキは誰かの腕の中にいた。
温かくて、大きくて、力強いのに優しくて、自分のすべてを包み込むような抱擁だ。
顔を見ようとしても、なぜか見えない。まるで夢の霧が顔の輪郭を覆っているみたいだった。でも、不思議と怖くなかった。
その人は何も言わなかった。ただ、ナツキをぎゅっと抱きしめたまま、ゆっくりと背中をさすってくれていた。
安堵と、どこかくすぐったいような心地よさが胸に広がる。ナツキはそのぬくもりに身を預けると、自然と微笑んでいた。その腕が、ほんの少し、愉快な悪戯のように背中で指を動かしていたことにナツキは気づかなかった。
そして――
遠くのほうで、誰かの叫び声が響いた。
「外に出ろ!魔法省の人間を呼べ!」
現実が、悪夢のような音を連れてナツキの夢を切り裂いた。
まだ誰かのぬくもりが身体に残っているような気がしたが、テントの外の空気はただ事ではない何かが起きていることを知らせていた。
バッと身体を起こし、耳を澄ます。騒がしい。叫び声、駆け足。何かが燃えるような音や悲鳴も聞こえた。
「・・・・何・・・・!?」
ナツキは隣のベッドに身を沈めているハーマイオニーを揺すった。彼女はすぐに目を覚まし、薄暗いテントの中で身を起こした。
「火事?」
「わかんない。でも、すごく嫌な音がする。ジニー!」
ナツキはジニーの肩も揺らした。ジニーもすぐに目を開け、眠たそうに顔をしかめながら身体を起こした。
そのとき、バサッとテントの入り口が開きウィーズリーおじさんが現れた。息が荒く、いつもの穏やかな笑みは影を潜めている。
「みんな、上着だけ持ってすぐに出なさい!」
ナツキたちがテントの外に出ると、ハリーたちもすでに外に出ていた。上空には人影――いや、ロバーツさん一家が空中に逆さまに吊るされている。宙に浮いた彼らはくるくると回され、あざけるような笑い声が響いていた。その下には、仮面とフードで顔を隠した一団がいた。威嚇するように魔法を放ち、興奮した様子で暴れまわっている。
「私らは魔法省を助太刀する。お前達、森へ入りなさい。バラバラになるんじゃないぞ。片がついたら迎えにいくから!」
おじさんがそういうと、ビル、チャーリー、パーシーも不気味な一団に向かって駆け出していった。
フレッドを先頭に、ナツキたちは慌ただしく森へと逃げ込んだ。
一歩森に足を踏み入れると、そこは真っ暗で混雑していた。「うわっ」とロンの叫ぶ声が聞こえた。ハーマイオニーがすぐさま駆け寄り、「ルーモス」と唱える。杖先がぼんやりと明るくなった。
「木の根につまずいた。」
ならよかった、と安心したのも束の間、嫌な声がした。
「まあ、そのデカ足じゃ、無理もない。」
ドラコ・マルフォイだ。
「君たち、急いで逃げたほうがいいんじゃないのかい?その子が見つかったら困るんじゃないのか?」
マルフォイは顎でハーマイオニーを指し示す。
「連中はマグルを狙ってる。空中で下着を見せびらかしたいかい?だったら、ここにいればいい。連中はこっちへ向かっている。みんなで散々笑ってあげるよ。」
「ハーマイオニーは魔女だ。」
ハリーが短く言い放った。声に怒気が滲んでいる。ナツキも怒りで手が震えていたが、すぐに別の疑問が頭をよぎった。
「あなたあの人達と知り合いなの!?」
マルフォイは肩をすくめ、冷笑を浮かべた。
「さあね。けど、『穢れた血』がどうなるか、見物だろ?。」
「口を慎め!!」
ロンが叫んだ。
「臆病な連中だねぇ?君のパパがみんなに隠れているようにって言ったんだろう?一体何を考えているやら。マグルを助け出すつもりかねぇ?」
「魔法を使えないマグルを弄ぶのは臆病と言わないの?あなたの父親はどこにいるの!」
「あそこに、仮面をつけているんじゃないのか?」
ナツキとハリーは熱くなった。
「もういいわ、行きましょう!」
ハーマイオニーが間に割って入るように、ナツキとハリーの腕を掴んだ。
「行きましょうったら!」
強く言いながら、彼女は小道の方へとナツキ達を引っ張った。振り返ると、いつの間にかフレッド、ジョージ、そしてジニーとも離れ離れになってしまっていた。
「ルーモス。」
ナツキがそう唱え、ロンもそれに続いた。ハリーもポケットの杖を出そうとした。
「あれ、嫌だな。そんなはずは・・・僕、杖を無くしちゃったよ!」
ナツキ達はあたりを探したが、それらしきものはない。テントに置き忘れたか、ここに来るまでに落としてきてしまったのか。
「おじさんたちと合流したら、呼び寄せ呪文を使ってもらおう。すぐに見つかるよ。」
「ウン。」
ナツキはハリーを慰めようとそう言ったが、こんな状況で杖を持たないのはきっと不安だろうと思った。
その時、ガサガサっと音がした。するとすぐそばの茂みからウィンキーが飛び出した。動き方が変で、まるで見えない誰かに引き止められているようだった。
「悪い魔法使い達がいる!人が高く・・・空に高く!ウィンキーは退くのです!」
そう言ってウィンキーは何かに抗いながら消えていった。きっとウィンキーは隠れて良いと言う許可がないままここへきて、後ろめたくてあんな動きをしているのだろう。
「屋敷妖精って、とっても不当な扱いを受けてるわ!」
ハーマイオニーはクラウチ氏のウィンキーの扱いに憤慨していた。森のはずれから爆音が響き、ロンが「とにかく先へいこう。ね?」とハーマイオニーを気遣わしげに言った。ナツキもそれに賛成だった。マルフォイはムカつくが、本当にハーマイオニーが狙われてしまう可能性が大きいように思えたのだ。
暗い小道をジョージ達を探しながら、森の奥へと入っていく。ゴブリンやヴィーラ、魔法使い達を追い越していく。
周囲にはもう他の人の姿はない。森を逃げ惑っていた群衆の声も、遠くに聞こえる。
「僕たち、ここで待てばいいと思うよ。」
ハリーがそういった。そして次の言葉を紡ぐ前に、ルード・バグマンが木の影から現れた。なんだか真っ青だ。
「誰だ?こんなところで、ポツンと、いったい何をしているんだね?」
どうやらバグマンはキャンプ場の騒ぎに気づいていなかったらしい。そのことを知ると、ポンと姿くらましした。おそらくそちらへ向かったのだろう。
「なんだったの?」
ナツキが思わず呟いたとき、ハリーがぽつりと口を開いた。
「静かになってきたかな?」
確かに、さっきまで遠くに響いていた怒号や悲鳴は、もうほとんど聞こえない。
「みんな無事だといいけど。」
「大丈夫さ。」
心配するハーマイオニーにポケットから出したクラム人形を眺めながらロンが優しくそういった。ナツキはふと、ロンはジョージの弟なんだな、と思った。
「ウィーズリーおじさんが、ルシウス・マルフォイを捕まえてくれるといいけどね。」
「ナツキの言う通りだ。おじさんはマルフォイの尻尾を掴みたいっていつもそう言ってた。」
ナツキとハリーの言葉にロンもそうなることを望んだ。
「今夜のように魔法省が総動員されているときにあんなことをするなんて、狂ってるわ。」
ハーマイオニーは続けた。
「つまりね、あんなことをしたら、タダじゃ済まないじゃない?飲みすぎたのかしら、それとも、単に・・・・」
ハーマイオニーが突然言葉を切って後ろを振り向いた。ナツキ達も急いでそちらを見た。誰かがここに向かってよろよろやってくる音がする。
「誰かいますか?」
ハリーの声が、静まり返った森に吸い込まれるように消えていった。
しかし、確かに“何か”がそこにいる。気配がある。重い空気がまとわりつくように辺りを包み、ナツキは咄嗟に杖を握り直した。
そして前触れなく、聞き覚えのない声が静寂を破った。
「モースモードル。」
巨大な、緑色に輝く何かが、暗闇から立ち上った。ロンがそれを凝視しながら「あれは一体?」と呟いた。
巨大な髑髏だった。エメラルド色の髑髏の口から、舌のように蛇が這い出していた。
ナツキの背筋が凍った。
「・・・闇の印・・・!」
思わず息を呑み、ハリーの手を掴んだ。
「ハリー、早く!逃げなきゃ!」
ハーマイオニーも表情を引きつらせ、ロンの手を取って叫んだ。
「ロン!急いで!!!」
ナツキが叫んだそのとき、ポンポンと聞き慣れた音がした。姿表しの音だ。
気づけば四人は二十人ほどの魔法使いに囲まれていた。中には見たことのある魔法使いもいる。包囲した魔法使い達は手に杖を持っていて、それをこちらへ向けていた。
「プロテゴ!!」
「伏せろ!」
ナツキとハリーの叫びはほぼ同時だった。
「ステューピファイ!!」
耳をつんざく轟音が四方から押し寄せた。二十人近い魔法使いたちが一斉に発した赤い閃光が、雷のように四人を襲う。だが、ナツキの放った守護呪文が、それを寸前で受け止めた。強烈な力に押し返されながらも、盾はギリギリのところで保たれている。
ナツキは包囲人の杖先から再び炎のような赤い光が迸るのを見た。
また再び盾が魔法の一斉砲撃をぎりぎりで受け止め、爆ぜるような光と衝撃が周囲を包んだ。
ナツキは息を切らせながら、一歩前に出た。友達を背に庇うように、しっかりと足を地につける。
「なんなの!?」
震える声ではなかった。凛とした声だった。だが、目の前の敵意から大切な人たちを守らなければならないという強い決意だけが、彼女を突き動かしていた。
対峙する二十本の杖にも怯まないその姿に、誰かがわずかにためらいを見せた、そのときだった――
「やめろ!!」
聞き覚えのある声が叫んだ。
「やめてくれ!私の息子だ!ああ、なんてことだ!ナツキも杖を下ろすんだ!」
ウィーズリーおじさんだった。魔法使い達は杖を下ろした。
「ナツキ!下ろすんだ!」
「下ろしません!この人たち、きっと死喰い人です!!」
ナツキが叫んだ。そして間髪入れずに、「馬鹿なことを言うな」とクラウチ氏の叫びが聞こえた。
「どけ、アーサー。誰がやった?お前達の誰が『闇の印』を出したのだ?」
当然、ナツキたちは口々に否定した。その時ようやく彼女は、どうして自分たちが魔法省の職員に囲まれたのかを理解した。
「お前達は犯罪の現場にいた!」
「お前達、あの印はどこから出てきたんだね?」
クラウチ氏の剣幕をよそに、ウィーズリーおじさんが冷静に訊いた。ハーマイオニーが指を震わせながら木立の方を指した。
「木立の影に誰かいたわ。何か叫んだの。呪文を・・・」
「ほう。あそこに誰が立っていたというのかね?」
クラウチ氏のハーマイオニーの目は何も信じる気はなさそうだった。しかしそう言った態度をとっているのはクラウチ氏だけだった。
「『失神光線』があの木立を突き抜けた。犯人に当たった可能性は大きい。」
エイモス・ディゴリーがそう言って、木立に進んでいった。
「よし!捕まえたぞ!ここに誰かいる!気を失ってるぞ!こりゃあ、なんと、まさか・・・・」
彼が引きずり出してきたのは、小さな屋敷しもべ妖精、ウィンキーだった。ぐったりと気を失っている。しかもその手には、一本の杖が握られていた。
「あれ、それ、僕のだ!」
最悪なことが起きた。見覚えがあるな、と思っていたら、その杖はハリーのものだったのだ。
「それ、僕の杖です!落としたんです!」
「落としたんです?自白しているのか?『闇の印』を作り出した後で投げ捨てたとでも?」
エイモスの疑いの目が光った。その物言いに、ナツキの怒りが爆ぜた。
「ハリー・ポッターを侮辱しているんですか!?」
彼女の声が、夜の森に響いた。
「ナツキ、落ち着いて!」
おじさんがとりなす。しかし、ナツキの目はディゴリー氏を鋭く見据えていた。
「しかし、エイモス、彼女のいうことはわかるね?いやしくもハリー・ポッターが『闇の印』を作り出すことがあり得るか?」
ディゴリー氏は口ごもった。
「それに、僕、あそこに落としたんじゃありません。森に入ったすぐ後になくなっていることに気づいたんです。」
するとクラウチ氏は再びウィンキーに疑いの目を向けた。でもナツキ達にはウィンキーが呪文を唱えていないという確信があった。
「男の人の声でした。間違っても、ウィンキーのような高い声じゃありません。」
ハーマイオニーもナツキの言葉に頷いた。ハリーとロンも違う声だと援護した。
ディゴリー氏が直前呪文をハリーの杖に使った。するとそれは間違いなく、闇の印を打ち出す呪文であった。三度、クラウチ氏はウィンキーを疑った。
激昂するクラウチ氏をなだめ、ウィーズリーおじさんはウィンキーから真相を聞き出した。
ハリーが落とした杖を誰かが拾い、闇の印を作り、姿くらましした。そこへたまたま運悪く、ウィンキーが来て、杖を拾った。これまでで一番筋が通っていた話だった。
「ウィンキーは今夜、私が到底あり得ないと思っていた行動をとった。こやつは私に従わなかった。それは『洋服』に値する。」
「おやめください!洋服だけはおやめください!」
ウィンキーは叫んだ。ひどく居心地の悪い沈黙が流れた。
「あー、ところで、その子の処罰はどうする?」
エイモス・ディゴリーがナツキを指差した。
「ホグワーツの外で、君たちは魔法を使ってはいけないはずだ。」
「エイモス、さっきのナツキの話を聞いただろう。彼女達は罪を犯していなかった。そこで突然失神呪文を向けられたら、身を守るために行動するのは当然だろう。」
ウィーズリーおじさんは怒ってそう言った。
「いや、しかしだな、」
ナツキは処罰がどうこうより、エイモス・ディゴリーへの苛立ちが募った。
「『闇の印』が現れて、訳もわからず魔法使いに囲まれました。まるでハリー・ポッターを狙っているかのように。・・・私があなた方を魔法省の役人のふりをしたヴォルデモートの手先だと勘違いしたのはそんなに不思議なことですか?」
ナツキが「ヴォルデモート」といったことでその場の空気が冷えきった。
「・・・何れにせよ君たちの管轄ではないはずだ。不当使用取締局から沙汰があればナツキも応じるだろう。さて、差し支えなければ、私はみんなを連れてテントに戻るとしよう。エイモス、その杖は語るべきことを語り尽くした。ハリーに返してもらえまいか?」
エイモスはウィーズリーおじさんに言葉に従い、ハリーに杖を渡した。
「さあ、四人とも、おいで。」
しかしハーマイオニーだけは動かなかった。ウィンキーが気になるのだ。早くテントに戻りたいというウィーズリーおじさんの説得で、ハーマイオニーも歩き出した。
キャンプ場のテントに戻ると、双子達もそこにいた。ビルとパーシーは負傷していて、チャーリーもシャツが裂けていた。
ウィーズリーおじさんが、先ほどの出来事、森での騒動、“闇の印”の出現、ウィンキーの件までを簡潔に話すと、ウィーズリーの兄弟達は信じられないというような表情で顔を見合わせた。
「ねえ、誰か、あの髑髏みたいなのがなんなのか、教えてくれないかな。なんで大騒ぎするの?ナツキも、なんでそんなにピリピリしてるんだ・・・・?」
ロンが待ちきれないように言った。おじさんが、闇の印の恐ろしさについてゆっくりと説明した。誰かを殺す時、決まって打ち上がっていた印なのだと。
ビルが傷の具合を確かめながら言った。
「死喰い人達があれをみた途端、怖がって逃げてしまった。仮面を引っぺがしてやろうとしても、そこまで近づかないうちに『姿くらまし』してしまった。」
「怖がって?あの印を作ったのは、死喰い人ではないの?」
ナツキが不思議そうに尋ねると、ビルは説明した。
「あの死喰い人はつまり、今アズカバンに入っている本当の死喰い人からしたら、あの手この手で嘘をついて逃げた裏切り者なんだ。だからキャンプ場で馬鹿騒ぎしてた奴らは、逃げ出した。」
朝の3時を回っていた。ナツキは隣のテントのベッドに入ったが、眠れそうな気はしなかった。
ただどうしようもなくシリウス・ブラックに会いたくなった。