炎のゴブレット
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ウィーズリーおじさんがバグマンから譲り受けた席は、なんと貴賓席だった。最上階のボックス席、しかもど真ん中だ。
ナツキはワクワクしながら辺りを見回していた。観客席のすべてが見下ろせて、風も心地よく吹き抜ける。そのとき、ふと視界の端で、ハリーが何か小さな影に話しかけているのが見えた。
「しもべ妖精?」
近づいてみると、そこにいたのはウィンキーと名乗る屋敷しもべ妖精だった。どうやらハリーと、別の妖精、ドビーの妖精の話をしている。
ナツキはドビーに会ったことはなかったが、どうやら彼は“自由なしもべ妖精”として話題になっているようだった。給金をもらえる仕事を探していて、妖精界ではかなり異端らしい。
しかし、ナツキの目を引いたのはウィンキーの方だった。小さな手足を震わせ、耳をぴくぴくさせながら、ボックス席の端にちょこんと座っている。
「寒いの?」
ナツキが声をかけると、ウィンキーはびくっとして、ぺこりと頭を下げた。
「ナツキ・ゴドリクソン様!私は、高いところが、全くお好きではないのでございます。でも、ご主人様がこの貴賓席に行けとおっしゃいましたので、いらっしゃいましたのでございます。」
独特の丁寧な口調で、ウィンキーはそう答えた。ナツキとハリーは思わず顔を見合わせて、眉をひそめた。どう見てもウィンキーは怯えているし、ここにいたくないようだった。
「戻っていいなら、いいのにね。」
ナツキはそっとつぶやいたが、妖精にそんな選択肢があるわけもなさそうだった。
しばらくすると、貴賓席には次々と来賓が入ってきた。魔法省関係者らしき人物が多く、ウィーズリーおじさんはそのたびに挨拶を繰り返していた。
声をかけてきたのは魔法大臣、コーネリウス・ファッジだった。ファッジはハリーを得意げに外国の魔法使いに紹介して回っていたが、どうにも言葉が通じていないようで、苦戦している様子だった。
「ああ、ファッジ。お元気ですかな?」
ナツキは「うげっ」という声を飲み込んだ。現れたのはマルフォイ一家。マルフォイ氏はファッジと満足げに握手を交わしている。
嫌味ったらしく笑うマルフォイ氏の目が、今度はハーマイオニーに移った。あからさまに値踏みするような視線だ。だが、さすがに魔法大臣の前では何も言えなかったのか、彼は黙ってそのまま自分の席に向かっていった。
「ムカつくやつだ。」
ロンが声を潜めて言った。ナツキは強く頷いた。
そのとき、
「みなさん。宜しいかな?」
ルード・バグマンが貴賓席に勢いよく飛び込んできた。
「大臣、ご準備は?」
「君さえ良ければ、ルード、いつでもいい。」
バグマンは自分の喉に杖を当てて「ソノーラス」と唱え、スタジアムに呼びかけた。
「レディーズ・アンド・ジェントルメン!ようこそ!第422回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦にようこそ!」
観衆が叫び拍手した。貴賓席正面の巨大黒板には「ブルガリア 0 アイルランド 0」と書かれていた。
「さて、前置きはこれくらいにして、早速ご紹介しましょう。ブルガリア・ナショナルチームのマスコット!」
ナツキたちはなんだろうかと食い入るようにみた。
「あーっ!ヴィーラだ!」
おじさんは急にメガネを外し、慌ててローブで拭いてそう言った。
ヴィーラたちが空中を舞いながら踊り始めると、貴賓席の空気が一変した。
ロンが口を半開きにして立ち上がりかけた。隣のハリーも、どこかうっとりとした顔でヴィーラたちを見つめている。ナツキの右隣のフレッドとジョージはすでに柵の方に身を乗り出していた。
「ちょ、危ないよ!」
ナツキは戸惑いながら、ハリーとロン、そして双子の様子を見回した。さっきまで元気だった彼らが、いまやまるで夢を見ているかのような顔をしている。
そんな中で、ナツキは不意に視線を感じた。
ジョージだった。
彼は柵に手をかけたまま、ヴィーラではなくナツキの方を見ていた。いや、見ようとしていた、というのが正確かもしれない。視線が何度かヴィーラの方へ引き寄せられそうになり、そのたびに、彼は眉をしかめて意識的に顔をナツキの方へ向け直しているのだ。
「ジョージが不思議な動きをしている・・・・!」
そのとき左から舌打ちが聞こえた。
「まったく、男って。」
ハーマイオニーが両腕を組み、眉間にしわを寄せてヴィーラを睨んでいた。
「ほんと、呆れるわ。」
「これって魔法なの?」
ナツキが尋ねると、彼女は深くうなずいた。
「魅了の魔法みたいなものよ。ヴィーラは女性愛者に対して特別な影響を与えるの。」
「ふーん?ジョージの変な動きもそれ?」
「ええ。でもあれは『変な動き』じゃなくて『必死の抵抗』っていうのよ。まあ半分しか成功してないみたいだけど、」
ナツキはこらえきれずに小さく笑った。ジョージの眉間の皺と顔を背けるたびに逸らす視線が、どうにも滑稽で可愛かった。
その時、音楽がピタリと止んだ。ヴィーラたちが退場し始めると、スタジアム中から一斉に不満の声が上がった。名残惜しそうな歓声と怒号が交差する中、ハーマイオニーは腕を組んで、ため息交じりに言った。
「ほんと、情けないわね。」
彼女が怒っている理由は、明らかに他の観客たちとは違った。
「さて次は、どうぞ、杖を高く掲げてください。アイルランド・ナショナルチームのマスコットに向かって!」
バグマンの声が響くやいなや、巨大な緑と金色の彗星が夜空を裂いてスタジアムに飛び込んできた。鮮やかな虹色の軌跡を描きながら、宙に巨大な三つ葉のクローバー、シャムロックの形を作り出す。
「わあっ!」
ナツキは思わず息を呑んだ。それはレプラコーンの群れだった。無数の金貨をまき散らしながら空を舞う彼らは、観客の頭上をくるくると回っていた。
「ほーら!万眼鏡の分だよ!これで君、僕にクリスマス・プレゼントを買わないと行けないぞ、やーい!」
ロンが万眼鏡を構えながら、上機嫌でハリーにからかいの声を飛ばす。
「わあ!」
ナツキは空を舞う金貨とレプラコーンたちを夢中で見上げた。その横で、ジョージがふっと笑う。
「こういうのなら、抵抗しなくても見てられるな。」
ナツキは思わず彼の方を見たが、ジョージは今度こそ空を見上げていた。
そして、レプラコーンが光の波となって消えていくと、いよいよ選手たちが入場を始めた。ナツキたちは皆で万眼鏡を覗き込む。
「試あぁぁぁぁい、開始!」
ナツキはこんなにすごいクィディッチの試合を初めてみた。スニッチが金の閃光となって走り、選手たちは空中で信じられないスピードで旋回し、衝突し、飛び回っていた。
「「うわっ!」」
選手の一人が背面宙返りのようにブラッジャーをかわした瞬間、ナツキとジョージは同時に声を上げ、思わず見合って笑い合った。
「おい、見たか今の!?」
「見た見た!信じらんない動きだった!」
ジョージはナツキの肩を軽く叩いて、「今日はお前、いい席に恵まれてるな!」とからかい気味に言った。ナツキは「そうねだ!」と笑顔で応じた。
歓声、風の音、選手たちのスピード、すべてがナツキの心を奪っていた。そして、その横で一緒に盛り上がるジョージの笑顔が、何だかすごく近く感じられた。
最初の10分で、アイルランドは30対0とリードしていた。スコアボードの数字が増えるたびに、スタジアム中が揺れるような歓声に包まれた。試合運びはますます速くなり、選手たちの動きも荒っぽくなっていく。
「耳に指で栓をして!」
ウィーズリーおじさんの声に訳もわからず従った。ヴィーラが祝いの踊りを始めていた。ああ、これの対策か、とナツキは思った。男ではないナツキには必要のない対策だ。
その時、スタジアムの空気が一変した。二人のシーカー、ビクトール・クラムとリンチが、空から一直線にダイビングしていた。
「地面に衝突するわ!」
隣でハーマイオニーが悲鳴を上げる。観客の多くが息を呑んだ。
だが、ビクトール・クラムは最後の1秒でかろうじて放棄を引き上げた。一方でリンチはドスッという鈍い音をスタジアム中に響かせた。
「バカ者!クラムはフェイントをかけたのに!」
ウィーズリーおじさんが呻くように言った。観客席でも悲鳴とため息が入り混じる。
「タイムです!」
ルード・バグマンが声を張り上げ、試合が一時中断されたことを知らせた。
「ウロンスキー・フェイントだ。初めて見たぜ!」
ジョージがフレッドに、嬉しそうに話しかけていた。その目は輝いていて、まるで宝石のようだとナツキは思った。
試合が再開された後の十五分は、さらに速く、さらに荒々しくなっていた。選手たちはまるで命を削るように空を飛び交い、歓声と悲鳴がスタジアムを満たしていた。
アイルランドは勢いそのままにリードを広げ、スコアボードには「130対10」の数字が浮かんでいる。
その時、審判のモスタファーが長いホイッスルを鳴らした。
「え?なに?反則?」
「コビングだな。肘の使いすぎさ。」
ジョージが腕を組みながら冷静に言った。顔は興奮気味だが、視線はきちんとピッチを追っている。
ペナルティ・スローがアイルランドに与えられ、両陣営の応援団、レプラコーンとヴィーラも騒ぎ始めた。男性陣は再びヴィーラ対策で耳を塞いでいる。
審判のモスタファーもどうやらヴィーラの影響をもろに受けてしまったようで、妙に腰をくねらせながらピッチ中央で踊っている。
「うわ、」
ナツキが呆れたように言った直後、駆け寄った魔法医が迷いなくモスタファーの脛を蹴り飛ばした。彼はその場にうずくまり、正気を取り戻したらしく、慌ててホイッスルを吹き直した。
再開した試合はこれまでみたことがないほど凶暴になっていた。反則スレスレだ。
そして騒ぎの一角、レプラコーンの上空では怒ったヴィーラたちが美しさも忘れて炎を投げつけていた。レプラコーンたちはそれを金貨のように跳ね返して応戦している。
「だから外見だけにつられてはダメなんだ!」
ウィーズリーおじさんが叫んだ。
クアッフルが再び激しいスピードでパスされていく。ホウキが唸り、プレイヤーたちが次々と宙を切り裂く。ナツキは手に汗を握っていた。
「リンチを見て!」
ハリーが叫んだ。アイルランドにシーカー、リンチがスニッチを見つけたのだ。しかし、クラムもピッタリ後ろについていた。二人が一対になってピッチに突っ込んでいく。
「わあああ!ぶつかる!!」
「いーや、片方だけさ。」
ジョージが淡々と言った。目は鋭く、まるで結果をすでに知っているかのようだった。
そしてその通りになった。
リンチはスニッチに釣られすぎてバランスを崩し、ピッチに叩きつけられた。一方のクラムは見事に体勢を保ち、その手には金色に輝くスニッチが、しっかりと握られていた。
観客席のあちこちからどよめきが起きる。スコアボードが点滅し、「ブルガリア 160 アイルランド 170」の文字が浮かび上がった。
「クラムがスニッチをとりました!しかし勝者はアイルランドです!なんたること!誰がこれを予想したでしょう!」
バグマンが大声で実況し、スタジアムは歓声と困惑が入り混じった渦の中に包まれた。
ナツキは恐る恐る右隣の双子を見た。ジョージとフレッドが顔を見合わせて、どちらからともなくニヤリと笑った。
「言っただろ? スニッチはクラム、勝者はアイルランド。」
「見事に的中。いやあ、バグマンさん、喜んでくれるかな?」
ナツキは一瞬ぽかんとしたあと、手に持っていた万眼鏡を落としそうになった。
そんな会話をしている間にも、空にはアイルランドカラーの花火が打ち上がり、レプラコーンたちが歓喜のダンスを披露していた。四方からアイルランド国歌が聞こえる。一方で、ヴィーラたちはつまらなそうだ。
突然、まばゆい白い光が貴賓席を照らし、金の縁取りの施された優勝杯がゆっくりと浮かび上がって運び込まれてきた。観客が息を呑む中、アイルランドの選手たちがファッジやブルガリアの大臣と笑顔で握手を交わし、その中心でキャプテンが誇らしげに優勝杯を高々と掲げた。
ナツキたちは感覚がなくなるほどの拍手を送った。手のひらが赤くなっているのにも気づかないほどだった。スタジアム全体が揺れるような歓声に包まれる中、選手たちがウイニング飛行を始め、スタジアムを何周もまわった。
「この試合は、これから何年も語り草になるだろうな。」
バグマンがしゃがれ声で話した。
「実に予想外の展開だった。・・・・ああ、そうか。そう、君たちに借りが・・・いくらかな?」
フレッドとジョージが自分達の座席の背を跨いで、ルード・バグマンの前に立っていた。顔中でにっこり笑い、手を突き出して。
ナツキはワクワクしながら辺りを見回していた。観客席のすべてが見下ろせて、風も心地よく吹き抜ける。そのとき、ふと視界の端で、ハリーが何か小さな影に話しかけているのが見えた。
「しもべ妖精?」
近づいてみると、そこにいたのはウィンキーと名乗る屋敷しもべ妖精だった。どうやらハリーと、別の妖精、ドビーの妖精の話をしている。
ナツキはドビーに会ったことはなかったが、どうやら彼は“自由なしもべ妖精”として話題になっているようだった。給金をもらえる仕事を探していて、妖精界ではかなり異端らしい。
しかし、ナツキの目を引いたのはウィンキーの方だった。小さな手足を震わせ、耳をぴくぴくさせながら、ボックス席の端にちょこんと座っている。
「寒いの?」
ナツキが声をかけると、ウィンキーはびくっとして、ぺこりと頭を下げた。
「ナツキ・ゴドリクソン様!私は、高いところが、全くお好きではないのでございます。でも、ご主人様がこの貴賓席に行けとおっしゃいましたので、いらっしゃいましたのでございます。」
独特の丁寧な口調で、ウィンキーはそう答えた。ナツキとハリーは思わず顔を見合わせて、眉をひそめた。どう見てもウィンキーは怯えているし、ここにいたくないようだった。
「戻っていいなら、いいのにね。」
ナツキはそっとつぶやいたが、妖精にそんな選択肢があるわけもなさそうだった。
しばらくすると、貴賓席には次々と来賓が入ってきた。魔法省関係者らしき人物が多く、ウィーズリーおじさんはそのたびに挨拶を繰り返していた。
声をかけてきたのは魔法大臣、コーネリウス・ファッジだった。ファッジはハリーを得意げに外国の魔法使いに紹介して回っていたが、どうにも言葉が通じていないようで、苦戦している様子だった。
「ああ、ファッジ。お元気ですかな?」
ナツキは「うげっ」という声を飲み込んだ。現れたのはマルフォイ一家。マルフォイ氏はファッジと満足げに握手を交わしている。
嫌味ったらしく笑うマルフォイ氏の目が、今度はハーマイオニーに移った。あからさまに値踏みするような視線だ。だが、さすがに魔法大臣の前では何も言えなかったのか、彼は黙ってそのまま自分の席に向かっていった。
「ムカつくやつだ。」
ロンが声を潜めて言った。ナツキは強く頷いた。
そのとき、
「みなさん。宜しいかな?」
ルード・バグマンが貴賓席に勢いよく飛び込んできた。
「大臣、ご準備は?」
「君さえ良ければ、ルード、いつでもいい。」
バグマンは自分の喉に杖を当てて「ソノーラス」と唱え、スタジアムに呼びかけた。
「レディーズ・アンド・ジェントルメン!ようこそ!第422回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦にようこそ!」
観衆が叫び拍手した。貴賓席正面の巨大黒板には「ブルガリア 0 アイルランド 0」と書かれていた。
「さて、前置きはこれくらいにして、早速ご紹介しましょう。ブルガリア・ナショナルチームのマスコット!」
ナツキたちはなんだろうかと食い入るようにみた。
「あーっ!ヴィーラだ!」
おじさんは急にメガネを外し、慌ててローブで拭いてそう言った。
ヴィーラたちが空中を舞いながら踊り始めると、貴賓席の空気が一変した。
ロンが口を半開きにして立ち上がりかけた。隣のハリーも、どこかうっとりとした顔でヴィーラたちを見つめている。ナツキの右隣のフレッドとジョージはすでに柵の方に身を乗り出していた。
「ちょ、危ないよ!」
ナツキは戸惑いながら、ハリーとロン、そして双子の様子を見回した。さっきまで元気だった彼らが、いまやまるで夢を見ているかのような顔をしている。
そんな中で、ナツキは不意に視線を感じた。
ジョージだった。
彼は柵に手をかけたまま、ヴィーラではなくナツキの方を見ていた。いや、見ようとしていた、というのが正確かもしれない。視線が何度かヴィーラの方へ引き寄せられそうになり、そのたびに、彼は眉をしかめて意識的に顔をナツキの方へ向け直しているのだ。
「ジョージが不思議な動きをしている・・・・!」
そのとき左から舌打ちが聞こえた。
「まったく、男って。」
ハーマイオニーが両腕を組み、眉間にしわを寄せてヴィーラを睨んでいた。
「ほんと、呆れるわ。」
「これって魔法なの?」
ナツキが尋ねると、彼女は深くうなずいた。
「魅了の魔法みたいなものよ。ヴィーラは女性愛者に対して特別な影響を与えるの。」
「ふーん?ジョージの変な動きもそれ?」
「ええ。でもあれは『変な動き』じゃなくて『必死の抵抗』っていうのよ。まあ半分しか成功してないみたいだけど、」
ナツキはこらえきれずに小さく笑った。ジョージの眉間の皺と顔を背けるたびに逸らす視線が、どうにも滑稽で可愛かった。
その時、音楽がピタリと止んだ。ヴィーラたちが退場し始めると、スタジアム中から一斉に不満の声が上がった。名残惜しそうな歓声と怒号が交差する中、ハーマイオニーは腕を組んで、ため息交じりに言った。
「ほんと、情けないわね。」
彼女が怒っている理由は、明らかに他の観客たちとは違った。
「さて次は、どうぞ、杖を高く掲げてください。アイルランド・ナショナルチームのマスコットに向かって!」
バグマンの声が響くやいなや、巨大な緑と金色の彗星が夜空を裂いてスタジアムに飛び込んできた。鮮やかな虹色の軌跡を描きながら、宙に巨大な三つ葉のクローバー、シャムロックの形を作り出す。
「わあっ!」
ナツキは思わず息を呑んだ。それはレプラコーンの群れだった。無数の金貨をまき散らしながら空を舞う彼らは、観客の頭上をくるくると回っていた。
「ほーら!万眼鏡の分だよ!これで君、僕にクリスマス・プレゼントを買わないと行けないぞ、やーい!」
ロンが万眼鏡を構えながら、上機嫌でハリーにからかいの声を飛ばす。
「わあ!」
ナツキは空を舞う金貨とレプラコーンたちを夢中で見上げた。その横で、ジョージがふっと笑う。
「こういうのなら、抵抗しなくても見てられるな。」
ナツキは思わず彼の方を見たが、ジョージは今度こそ空を見上げていた。
そして、レプラコーンが光の波となって消えていくと、いよいよ選手たちが入場を始めた。ナツキたちは皆で万眼鏡を覗き込む。
「試あぁぁぁぁい、開始!」
ナツキはこんなにすごいクィディッチの試合を初めてみた。スニッチが金の閃光となって走り、選手たちは空中で信じられないスピードで旋回し、衝突し、飛び回っていた。
「「うわっ!」」
選手の一人が背面宙返りのようにブラッジャーをかわした瞬間、ナツキとジョージは同時に声を上げ、思わず見合って笑い合った。
「おい、見たか今の!?」
「見た見た!信じらんない動きだった!」
ジョージはナツキの肩を軽く叩いて、「今日はお前、いい席に恵まれてるな!」とからかい気味に言った。ナツキは「そうねだ!」と笑顔で応じた。
歓声、風の音、選手たちのスピード、すべてがナツキの心を奪っていた。そして、その横で一緒に盛り上がるジョージの笑顔が、何だかすごく近く感じられた。
最初の10分で、アイルランドは30対0とリードしていた。スコアボードの数字が増えるたびに、スタジアム中が揺れるような歓声に包まれた。試合運びはますます速くなり、選手たちの動きも荒っぽくなっていく。
「耳に指で栓をして!」
ウィーズリーおじさんの声に訳もわからず従った。ヴィーラが祝いの踊りを始めていた。ああ、これの対策か、とナツキは思った。男ではないナツキには必要のない対策だ。
その時、スタジアムの空気が一変した。二人のシーカー、ビクトール・クラムとリンチが、空から一直線にダイビングしていた。
「地面に衝突するわ!」
隣でハーマイオニーが悲鳴を上げる。観客の多くが息を呑んだ。
だが、ビクトール・クラムは最後の1秒でかろうじて放棄を引き上げた。一方でリンチはドスッという鈍い音をスタジアム中に響かせた。
「バカ者!クラムはフェイントをかけたのに!」
ウィーズリーおじさんが呻くように言った。観客席でも悲鳴とため息が入り混じる。
「タイムです!」
ルード・バグマンが声を張り上げ、試合が一時中断されたことを知らせた。
「ウロンスキー・フェイントだ。初めて見たぜ!」
ジョージがフレッドに、嬉しそうに話しかけていた。その目は輝いていて、まるで宝石のようだとナツキは思った。
試合が再開された後の十五分は、さらに速く、さらに荒々しくなっていた。選手たちはまるで命を削るように空を飛び交い、歓声と悲鳴がスタジアムを満たしていた。
アイルランドは勢いそのままにリードを広げ、スコアボードには「130対10」の数字が浮かんでいる。
その時、審判のモスタファーが長いホイッスルを鳴らした。
「え?なに?反則?」
「コビングだな。肘の使いすぎさ。」
ジョージが腕を組みながら冷静に言った。顔は興奮気味だが、視線はきちんとピッチを追っている。
ペナルティ・スローがアイルランドに与えられ、両陣営の応援団、レプラコーンとヴィーラも騒ぎ始めた。男性陣は再びヴィーラ対策で耳を塞いでいる。
審判のモスタファーもどうやらヴィーラの影響をもろに受けてしまったようで、妙に腰をくねらせながらピッチ中央で踊っている。
「うわ、」
ナツキが呆れたように言った直後、駆け寄った魔法医が迷いなくモスタファーの脛を蹴り飛ばした。彼はその場にうずくまり、正気を取り戻したらしく、慌ててホイッスルを吹き直した。
再開した試合はこれまでみたことがないほど凶暴になっていた。反則スレスレだ。
そして騒ぎの一角、レプラコーンの上空では怒ったヴィーラたちが美しさも忘れて炎を投げつけていた。レプラコーンたちはそれを金貨のように跳ね返して応戦している。
「だから外見だけにつられてはダメなんだ!」
ウィーズリーおじさんが叫んだ。
クアッフルが再び激しいスピードでパスされていく。ホウキが唸り、プレイヤーたちが次々と宙を切り裂く。ナツキは手に汗を握っていた。
「リンチを見て!」
ハリーが叫んだ。アイルランドにシーカー、リンチがスニッチを見つけたのだ。しかし、クラムもピッタリ後ろについていた。二人が一対になってピッチに突っ込んでいく。
「わあああ!ぶつかる!!」
「いーや、片方だけさ。」
ジョージが淡々と言った。目は鋭く、まるで結果をすでに知っているかのようだった。
そしてその通りになった。
リンチはスニッチに釣られすぎてバランスを崩し、ピッチに叩きつけられた。一方のクラムは見事に体勢を保ち、その手には金色に輝くスニッチが、しっかりと握られていた。
観客席のあちこちからどよめきが起きる。スコアボードが点滅し、「ブルガリア 160 アイルランド 170」の文字が浮かび上がった。
「クラムがスニッチをとりました!しかし勝者はアイルランドです!なんたること!誰がこれを予想したでしょう!」
バグマンが大声で実況し、スタジアムは歓声と困惑が入り混じった渦の中に包まれた。
ナツキは恐る恐る右隣の双子を見た。ジョージとフレッドが顔を見合わせて、どちらからともなくニヤリと笑った。
「言っただろ? スニッチはクラム、勝者はアイルランド。」
「見事に的中。いやあ、バグマンさん、喜んでくれるかな?」
ナツキは一瞬ぽかんとしたあと、手に持っていた万眼鏡を落としそうになった。
そんな会話をしている間にも、空にはアイルランドカラーの花火が打ち上がり、レプラコーンたちが歓喜のダンスを披露していた。四方からアイルランド国歌が聞こえる。一方で、ヴィーラたちはつまらなそうだ。
突然、まばゆい白い光が貴賓席を照らし、金の縁取りの施された優勝杯がゆっくりと浮かび上がって運び込まれてきた。観客が息を呑む中、アイルランドの選手たちがファッジやブルガリアの大臣と笑顔で握手を交わし、その中心でキャプテンが誇らしげに優勝杯を高々と掲げた。
ナツキたちは感覚がなくなるほどの拍手を送った。手のひらが赤くなっているのにも気づかないほどだった。スタジアム全体が揺れるような歓声に包まれる中、選手たちがウイニング飛行を始め、スタジアムを何周もまわった。
「この試合は、これから何年も語り草になるだろうな。」
バグマンがしゃがれ声で話した。
「実に予想外の展開だった。・・・・ああ、そうか。そう、君たちに借りが・・・いくらかな?」
フレッドとジョージが自分達の座席の背を跨いで、ルード・バグマンの前に立っていた。顔中でにっこり笑い、手を突き出して。