アズカバンの囚人
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三人はそのあと、誰にも見つからないように病棟へ向かった。
ドアが開き、ダンブルドア先生の背中が見えた。ドアを閉めて、杖を取り出した。
ナツキ達は前に飛び出した。
ダンブルドア先生は顔をあげ、にっこりと笑った。
「ようやった。さて音・・・三人とも出て行ったようじゃ、中にお入り。わしが鍵をかけよう。」
三人はベッドに潜り込んだ。鍵をかける音が聞こえる。次の瞬間マダム・ポンフリーが事務所から出てきた。
「校長先生がお帰りになったような音がしましたけど?これで私の患者さんの面倒を見させていただけるんでしょうね?」
ひどく怒っている。ナツキ達は黙って差し出された巨大チョコレートにかじりついた。その時怒声が聞こえた。
「奴は断じて姿くらましをしたのではない!!これは、断じて、何か、ポッターが、絡んでいる!!」
スネイプ先生の声だ。バーンと病室のドアが開き、ファッジ、スネイプ先生、ダンブルドア先生が入ってきた。
「こいつらが奴の逃亡に手を貸した!わかっているぞ!」
スネイプ先生はハリー、ナツキ、ハーマイオニーを指差して喚いた。
「もう十分じゃろう、セブルス。自分が何を言っているのか考えてみるが良い。このドアにはずっと鍵がかかっていたのじゃ。マダム・ポンフリー、この子達はベッドを離れたかね?」
「もちろん離れませんわ!」
マダム・ポンフリーの言葉にスネイプ先生は棒立ちになり、ドアを睨み付け、病室から出ていった。今度は大臣が喚いた。
「我が省はブラックを追い詰めたが奴はまたしても我が指の間からこぼれ落ちていきおった!あとはヒッポグリフの逃亡の話が漏れれば、ネタは十分だ。私は笑い物の種になる!」
「それで吸魂鬼は?学校から引き上げてくれるのじゃろうな?」
ダンブルドア先生が聞いた。
「ああ、連中は出ていかねばならん。罪もない子供にキスを執行しようとするとは、夢にも思わなかった・・・。全く手に負えん。全くいかん。ドラゴンに校門を護らせることを考えてはどうだろうね・・・」
「ハグリッドが喜ぶことじゃろう。」
ダンブルドア先生はそう言ってナツキたちにチラッと笑いかけた。
ダンブルドア先生達が出ていくと、ロンが目を覚ました。
「ハリー?僕たち、どうしてここにいるの?シリウスはどこだい?ルーピンは?何があったの?」
ナツキ達は顔を見合わせた。
翌日の昼にみんな退院したが、城にはほとんど誰もいなかった。ホグズミードに行っているのだ。しかし、四人は昨晩の大冒険を語り合った。
するとハグリッドがこちらにきた。とても嬉しそうだ。なんてったって、大好きなバックビークが逃げたんだから!
「だがな、朝んなって心配になった。もしかして、ルーピンに校庭のどっかで出くわさなんだろうかってな。だがルーピンは昨日の晩は何も食ってねえっていうんだ。」
「なんだって?」
ハリーがすぐさま聞いた。
「あー、スネイプが今朝、スリザリン生全員に話したんだ。・・・ルーピンは狼人間だ、とな。今頃荷物をまとめておるよ。」
ナツキ達は唖然とした。
「私、会いに行ってくる。」
「僕もいく。」
ナツキとハリーはそういった。できることはないかもしれないけど、とにかく会いたかったのだ。
ルーピン先生の部屋のドアは開いていた。ほとんど荷造りがすんでいる。使い古されたスーツケースがふたを開けたまま、ほとんど一杯になって置いてあった。ルーピンは机に覆いかぶさるようにして何かしていた。ハリーのノックで初めて顔を上げた。
「君たちがやってくるのが見えたよ。」
先生は「忍びの地図」を見ていた。
「今、ハグリッドに会いました。先生がお辞めになったって言ってました。嘘でしょう?」
「いや本当だ。」
「わ、私、先生が辞めるの嫌です。先生の授業、すごく楽しかったから・・・」
ナツキが言うと、ルーピン先生はニコッと笑った。
「セブルスがマーリン勲章を貰い損ねてね。そこでセブルスはついうっかり、今日の朝食で私が狼人間だと漏らしてしまった。明日の今頃は、親達からのふくろう便が届き始めるだろう。ハリー、ナツキ、誰も自分の子供が、狼人間に教えを受けるなんて望まないんだよ。それに、昨夜のことがあって、私もその通りだと思う。誰か君たちを噛んでいたかもしれないんだ。」
「先生、いかないでください!」
ハリーが懇願した。
「校長先生が今朝、私に話してくれた。ハリー、ナツキ、君たちは昨夜、ずいぶん多くの命を救ったそうだね。私が誇れることがあるとすれば、それは、君たちが、それほど多くを学んでくれたと言うことだ。君たちの守護霊のことを話しておくれ。」
ナツキとハリーは昨夜のことをルーピン先生に話した。話し終えると、先生はまた微笑んだ。
「君のお父さんはいつも牡鹿に変身した。だから私たちはプロングズと呼んでいたんだよ。・・・さあ、叫びの屋敷からこれを持ってきた。」
ルーピン先生はそういうと、ナツキとハリーに透明マントと忍びの地図を差し出した。
「私はもう、君達の先生ではない。だからこれを君たちに返しても別に後ろめたい気持ちはない。私には何の役にも立たないものだ。それに、君たちなら使い道を見つけることだろう。」
「ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズが僕を学校から誘い出したいと思うだろうって、前におっしゃいました。面白がってそうするだろうって。」
「ああ、その通りだったろうね。ジェームズだったら、自分の息子がこの城を抜け出す秘密の通路を一つも知らずに過ごしたなんてことになったら、大いに失望しただろう。シリウスもだ。これは間違いなく言える。」
ナツキはちょっと苦笑いをした。
「ナツキ、君は昨夜、狼人間を差別することは、マグルを差別するのと同じだと言ったね。私は嬉しかった。その言葉を言ってもらえたのは二度目だった。」
ナツキはルーピン先生の顔を見た。
「エリザベスが私にそう言ってくれたんだ。ホグワーツを卒業して、私が狼人間だとシリウスから聞いた時だった。大したことじゃないと笑って、そう言ってくれた。それを久しぶりに思い出したよ。」
「・・・私、お母さんに似ているって言われたの、初めてです。」
「君は見た目がアルバ先生にそっくりだ。あとシリウスにもね。二人とも容姿が目立つから、仕方ないさ。」
ナツキはなんだか新鮮な気持ちだ。父と母に似ていると言ってもらえることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。
ドアをノックする音が聞こえた。ダンブルドア先生の声だ。
「リーマス、門のところに馬車が来ておる。」
ルーピン先生はスーツケースを持った。
「それじゃ、さよなら。ハリー、ナツキ。君たちの先生になれて嬉しかったよ。またいつかきっと会える。校長、門までお見送りいただかなくて結構です。一人で大丈夫です。」
「それでは、さらばじゃ。リーマス。」
ルーピン先生は最後に笑顔をチラリと見せて部屋を出ていった。ナツキとハリーはなんとも言えない気持ちになった床を見た。
「どうしたね?そんなに浮かない顔をして。」
「私たち、何もできませんでした。」
「ペティグリューは逃げてしまいました。」
「何にもできなかったとな?」
ダンブルドア先生は続けた。
「ハリー、ナツキ。それどころか大きな変化をもたらしたのじゃよ。君たちは、真実を明らかにするのを手伝った。一人の無実の男を、恐ろしい運命から救ったのじゃ。」
その時ハリーが何かを思い出したように急いで喋り出した。
「ダンブルドア先生、ナツキ、昨日『占い学』の試験を受けていた時に、トレローニー先生がとっても、とっても変になったんです。」
「ほう?」
トレローニー先生というと、ナツキは一度しか見かけていない、あの風変わりな人か、と思った。
「声が太くなって、目が白目になって、こう言ったんです。『今夜、真夜中になる前、その召使いは自由の身となり、ご主人様の元に馳せ参ずるだろう。』こうも言いました、『闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう』」
「・・・ハリー、それって・・・・」
「それから先生はまた、普通というか、元に戻ったんです。しかも自分が言ったことを何も覚えていなくて。あれは、あれは先生が本当の予言をしたんでしょうか?」
ダンブルドア先生は少し感心したような顔をした。
「こんなことが起ころうとはのう。これでトレローニー先生の本当の予言は全部で二つになった。給料を上げてやるべきかの・・・」
ダンブルドア先生は呑気にそう言った。でも、ハリーが今行ったことが、予言だとしたら、それはヴォルデモートが蘇るということだ。
「シリウスとルーピン先生がペティグリューを殺そうとしたのに、僕たちは止めてしまった!もし、ヴォルデモートが戻ってくるとしたら・・・」
「・・・私たちのせいだ・・・」
「いや、そうではない。」
ダンブルドア先生は静かに言った。
「未来を予測するというのは、まさに非常に難しいことなのじゃ。君たちは実に気高いことをしたのじゃ。ペティグリューの命を救うという。」
「でもそれがヴォルデモートの復活につながるとしたら!」
「ペティグリューは君たちに命を救われ恩を受けた。君たちはヴォルデモートの元に借りのあるものを腹心として送り込んだのじゃ。魔法使いが魔法使いの命を救う時、二人の間にある種の絆が生まれる。ヴォルデモートが果たして、ハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンに仮のある者を自分の召使いとして望むかどうか疑わしい。わしの考えは外れてはおらんじゃろ。」
だがハリーもナツキもペティグリューとの絆なんて欲しくはなかった。
「これは最も深淵で不可解な魔法じゃよ。ハリー、ナツキ、わしを信じるが良い。いつか必ず、ペティグリューの命を助けて本当に良かったと思う日が来るじゃろう。ハリー、わしは君の父君をよう知っておる。君の父君も、ナツキ、君の母君もきっとペティグリューを助けたに違いない。わしには確信がある。」
ハリーは何かを覚悟したように目をあげた。
「昨日の夜、守護霊を作り出したのは、僕の父さんだと思ったんです。あの、湖の向こうに僕自身の姿を見た時のことです。僕、父さんの姿を見たと思ったんです。だから、その隣にいたナツキを母さんだと思いました。」
「無理もない。君は驚くほどジェームズに生写しじゃ。ただ、君の目だけは・・・母君の目じゃ。ハリー、君は昨夜、父君に会ったのじゃ。君の中に、父君の姿を見つけたのじゃよ。」
ダンブルドア先生はそう言って出て行った。
シリウスたちが姿を消した夜、何が起こったのかを知っているのはナツキたちとダンブルドア先生だけだった。
ルーピン先生がいなくなったことでグリフィンドール生はみんなガッカリしていた。
学期の最後の日、試験の結果が発表された。ナツキは全科目合格だった。
「お、ナツキ、良かったな。」
「わ!か、勝手に見ないでよ。」
ナツキが談話室で自分の成績を見ていると、後ろからこっそり覗き込んで声をかけたのはジョージだった。
「俺は大体スレスレだ。フレッドも。」
「勉強すればジョージもフレッドもそんない悪くないはずでしょ・・・・」
「そのすればが、俺らには難しいのさ。まあでも『まね妖怪』もうまくできたんだな。」
「うん。ジョージのおかげ・・で・・・」
ナツキはふと守護霊の呪文で、実体のある獅子を出した時のことを思い出した。
あの時、私は、ジョージを思い出したんだ。
「どうした?」
「あ、えーっと、う、うまく行ったよ。クソ爆弾最高だった。」
ジョージが、馬鹿なことをしているのを想像したんだ。それが、私の幸せなのだろうか。
「ならよかったぜ。」
悪戯が成功した時のようににやにや笑うジョージの目に、父シリウス・ブラックと同じ、優しさを感じた。
「あ、う、うん。」
「どうしたナツキ?歯切れ悪いな。腹痛いのか?」
「そんなことないよ。元気だよ。元気いっぱい!」
「そうか?なんかあったら言えよ。」
「うん。」
ジョージはそう言って、フレッドたちの方へ行った。ナツキは心臓がぎゅっと掴まれるような、それでいて不快ではないような、初めての感情を抱いた。
「???」
翌朝、ホグワーツ特急がホームから出発した。
「今年の夏はクィディッチのワールドカップだぜ!ハリー、ナツキ、ハーマイオニーも。泊まりにおいでよ。一緒に観にいこう!パパ、たいてい役所から切符が手に入るんだ。」
ロンの最高の提案で、元気のなかったハリーは多いに元気づいた。
「ハリー、そっちの窓の外にいるもの、何かしら。」
ハーマイオニーが突然言った。ナツキ達が窓を見ると小さいふくろうが手紙を運んでいた。ハリーは窓を開けて、それを捕まえた。
「・・・わー、可愛い。」
ナツキはそう言ったが、ヘドウィグとレオーネは気に入らなかったのか、カチカチと嘴を鳴らした。
ハリーは手紙を取り上げた。手紙は2通あった。ハリー宛と、ナツキ宛だ。シリウスからの手紙だった。ハリーの方の手紙には、無事であること、ファイアボルトはシリウスが送ったということ、そしてホグズミード許可証が入っていた。
「ナツキの方は?なんて書いてあるの?」
ハリーがナツキを急かした。
「えーと・・・」
ナツキは手紙を静かに読み上げた。
『ナツキへ。元気かね?私は無事だから、あまり心配しないでほしい。ただ残念だが君と約束したリズの墓参りは当分延期だろう。こんな父親ですまない。
去年私は、君を一目見ようともしたんだが、それは叶わなかった。私の脱獄を知った君の育て親が厳重に君を守っていたからだ。寂しくも思ったが、君が愛されていることはいいことだ。
森で君にあったことがあったね。あの時、私はとても葛藤した。君に正体を打ち明けようかと悩んだ。でもきっとそうしないことが正解だっただろう。私はリズのことを愛していたし、アルバ先生のことも尊敬していた。そんな二人にそっくりな娘をもてた私はどれだけ幸せ者か。だが最高なのは目と髪だな。
助けが必要になったら、私に手紙を書きなさい。私もまた近いうちに手紙を書くよ。』
ナツキはキングズ・クロス駅に行くまで何度もそれを読み返した。駅に着いて、みんなと別れた時、アバーフォースを見つけた。
「アブ!」
もう一人の父親だ。ナツキは心からそう思った。
「・・・・去年は、ごめんなさい。私、アブに、ひどいこと言った。」
アバーフォースは何も言わなかった。その代わりナツキの頭をポンポンと叩いた。
「なんだ、背がずいぶん伸びたんだな。」
「うん。私、きっとたくさん成長したの。」
ナツキはそう言って、大好きな養父を抱きしめた。
<アズカバンの囚人 完>
ドアが開き、ダンブルドア先生の背中が見えた。ドアを閉めて、杖を取り出した。
ナツキ達は前に飛び出した。
ダンブルドア先生は顔をあげ、にっこりと笑った。
「ようやった。さて音・・・三人とも出て行ったようじゃ、中にお入り。わしが鍵をかけよう。」
三人はベッドに潜り込んだ。鍵をかける音が聞こえる。次の瞬間マダム・ポンフリーが事務所から出てきた。
「校長先生がお帰りになったような音がしましたけど?これで私の患者さんの面倒を見させていただけるんでしょうね?」
ひどく怒っている。ナツキ達は黙って差し出された巨大チョコレートにかじりついた。その時怒声が聞こえた。
「奴は断じて姿くらましをしたのではない!!これは、断じて、何か、ポッターが、絡んでいる!!」
スネイプ先生の声だ。バーンと病室のドアが開き、ファッジ、スネイプ先生、ダンブルドア先生が入ってきた。
「こいつらが奴の逃亡に手を貸した!わかっているぞ!」
スネイプ先生はハリー、ナツキ、ハーマイオニーを指差して喚いた。
「もう十分じゃろう、セブルス。自分が何を言っているのか考えてみるが良い。このドアにはずっと鍵がかかっていたのじゃ。マダム・ポンフリー、この子達はベッドを離れたかね?」
「もちろん離れませんわ!」
マダム・ポンフリーの言葉にスネイプ先生は棒立ちになり、ドアを睨み付け、病室から出ていった。今度は大臣が喚いた。
「我が省はブラックを追い詰めたが奴はまたしても我が指の間からこぼれ落ちていきおった!あとはヒッポグリフの逃亡の話が漏れれば、ネタは十分だ。私は笑い物の種になる!」
「それで吸魂鬼は?学校から引き上げてくれるのじゃろうな?」
ダンブルドア先生が聞いた。
「ああ、連中は出ていかねばならん。罪もない子供にキスを執行しようとするとは、夢にも思わなかった・・・。全く手に負えん。全くいかん。ドラゴンに校門を護らせることを考えてはどうだろうね・・・」
「ハグリッドが喜ぶことじゃろう。」
ダンブルドア先生はそう言ってナツキたちにチラッと笑いかけた。
ダンブルドア先生達が出ていくと、ロンが目を覚ました。
「ハリー?僕たち、どうしてここにいるの?シリウスはどこだい?ルーピンは?何があったの?」
ナツキ達は顔を見合わせた。
翌日の昼にみんな退院したが、城にはほとんど誰もいなかった。ホグズミードに行っているのだ。しかし、四人は昨晩の大冒険を語り合った。
するとハグリッドがこちらにきた。とても嬉しそうだ。なんてったって、大好きなバックビークが逃げたんだから!
「だがな、朝んなって心配になった。もしかして、ルーピンに校庭のどっかで出くわさなんだろうかってな。だがルーピンは昨日の晩は何も食ってねえっていうんだ。」
「なんだって?」
ハリーがすぐさま聞いた。
「あー、スネイプが今朝、スリザリン生全員に話したんだ。・・・ルーピンは狼人間だ、とな。今頃荷物をまとめておるよ。」
ナツキ達は唖然とした。
「私、会いに行ってくる。」
「僕もいく。」
ナツキとハリーはそういった。できることはないかもしれないけど、とにかく会いたかったのだ。
ルーピン先生の部屋のドアは開いていた。ほとんど荷造りがすんでいる。使い古されたスーツケースがふたを開けたまま、ほとんど一杯になって置いてあった。ルーピンは机に覆いかぶさるようにして何かしていた。ハリーのノックで初めて顔を上げた。
「君たちがやってくるのが見えたよ。」
先生は「忍びの地図」を見ていた。
「今、ハグリッドに会いました。先生がお辞めになったって言ってました。嘘でしょう?」
「いや本当だ。」
「わ、私、先生が辞めるの嫌です。先生の授業、すごく楽しかったから・・・」
ナツキが言うと、ルーピン先生はニコッと笑った。
「セブルスがマーリン勲章を貰い損ねてね。そこでセブルスはついうっかり、今日の朝食で私が狼人間だと漏らしてしまった。明日の今頃は、親達からのふくろう便が届き始めるだろう。ハリー、ナツキ、誰も自分の子供が、狼人間に教えを受けるなんて望まないんだよ。それに、昨夜のことがあって、私もその通りだと思う。誰か君たちを噛んでいたかもしれないんだ。」
「先生、いかないでください!」
ハリーが懇願した。
「校長先生が今朝、私に話してくれた。ハリー、ナツキ、君たちは昨夜、ずいぶん多くの命を救ったそうだね。私が誇れることがあるとすれば、それは、君たちが、それほど多くを学んでくれたと言うことだ。君たちの守護霊のことを話しておくれ。」
ナツキとハリーは昨夜のことをルーピン先生に話した。話し終えると、先生はまた微笑んだ。
「君のお父さんはいつも牡鹿に変身した。だから私たちはプロングズと呼んでいたんだよ。・・・さあ、叫びの屋敷からこれを持ってきた。」
ルーピン先生はそういうと、ナツキとハリーに透明マントと忍びの地図を差し出した。
「私はもう、君達の先生ではない。だからこれを君たちに返しても別に後ろめたい気持ちはない。私には何の役にも立たないものだ。それに、君たちなら使い道を見つけることだろう。」
「ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズが僕を学校から誘い出したいと思うだろうって、前におっしゃいました。面白がってそうするだろうって。」
「ああ、その通りだったろうね。ジェームズだったら、自分の息子がこの城を抜け出す秘密の通路を一つも知らずに過ごしたなんてことになったら、大いに失望しただろう。シリウスもだ。これは間違いなく言える。」
ナツキはちょっと苦笑いをした。
「ナツキ、君は昨夜、狼人間を差別することは、マグルを差別するのと同じだと言ったね。私は嬉しかった。その言葉を言ってもらえたのは二度目だった。」
ナツキはルーピン先生の顔を見た。
「エリザベスが私にそう言ってくれたんだ。ホグワーツを卒業して、私が狼人間だとシリウスから聞いた時だった。大したことじゃないと笑って、そう言ってくれた。それを久しぶりに思い出したよ。」
「・・・私、お母さんに似ているって言われたの、初めてです。」
「君は見た目がアルバ先生にそっくりだ。あとシリウスにもね。二人とも容姿が目立つから、仕方ないさ。」
ナツキはなんだか新鮮な気持ちだ。父と母に似ていると言ってもらえることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。
ドアをノックする音が聞こえた。ダンブルドア先生の声だ。
「リーマス、門のところに馬車が来ておる。」
ルーピン先生はスーツケースを持った。
「それじゃ、さよなら。ハリー、ナツキ。君たちの先生になれて嬉しかったよ。またいつかきっと会える。校長、門までお見送りいただかなくて結構です。一人で大丈夫です。」
「それでは、さらばじゃ。リーマス。」
ルーピン先生は最後に笑顔をチラリと見せて部屋を出ていった。ナツキとハリーはなんとも言えない気持ちになった床を見た。
「どうしたね?そんなに浮かない顔をして。」
「私たち、何もできませんでした。」
「ペティグリューは逃げてしまいました。」
「何にもできなかったとな?」
ダンブルドア先生は続けた。
「ハリー、ナツキ。それどころか大きな変化をもたらしたのじゃよ。君たちは、真実を明らかにするのを手伝った。一人の無実の男を、恐ろしい運命から救ったのじゃ。」
その時ハリーが何かを思い出したように急いで喋り出した。
「ダンブルドア先生、ナツキ、昨日『占い学』の試験を受けていた時に、トレローニー先生がとっても、とっても変になったんです。」
「ほう?」
トレローニー先生というと、ナツキは一度しか見かけていない、あの風変わりな人か、と思った。
「声が太くなって、目が白目になって、こう言ったんです。『今夜、真夜中になる前、その召使いは自由の身となり、ご主人様の元に馳せ参ずるだろう。』こうも言いました、『闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう』」
「・・・ハリー、それって・・・・」
「それから先生はまた、普通というか、元に戻ったんです。しかも自分が言ったことを何も覚えていなくて。あれは、あれは先生が本当の予言をしたんでしょうか?」
ダンブルドア先生は少し感心したような顔をした。
「こんなことが起ころうとはのう。これでトレローニー先生の本当の予言は全部で二つになった。給料を上げてやるべきかの・・・」
ダンブルドア先生は呑気にそう言った。でも、ハリーが今行ったことが、予言だとしたら、それはヴォルデモートが蘇るということだ。
「シリウスとルーピン先生がペティグリューを殺そうとしたのに、僕たちは止めてしまった!もし、ヴォルデモートが戻ってくるとしたら・・・」
「・・・私たちのせいだ・・・」
「いや、そうではない。」
ダンブルドア先生は静かに言った。
「未来を予測するというのは、まさに非常に難しいことなのじゃ。君たちは実に気高いことをしたのじゃ。ペティグリューの命を救うという。」
「でもそれがヴォルデモートの復活につながるとしたら!」
「ペティグリューは君たちに命を救われ恩を受けた。君たちはヴォルデモートの元に借りのあるものを腹心として送り込んだのじゃ。魔法使いが魔法使いの命を救う時、二人の間にある種の絆が生まれる。ヴォルデモートが果たして、ハリー・ポッターとナツキ・ゴドリクソンに仮のある者を自分の召使いとして望むかどうか疑わしい。わしの考えは外れてはおらんじゃろ。」
だがハリーもナツキもペティグリューとの絆なんて欲しくはなかった。
「これは最も深淵で不可解な魔法じゃよ。ハリー、ナツキ、わしを信じるが良い。いつか必ず、ペティグリューの命を助けて本当に良かったと思う日が来るじゃろう。ハリー、わしは君の父君をよう知っておる。君の父君も、ナツキ、君の母君もきっとペティグリューを助けたに違いない。わしには確信がある。」
ハリーは何かを覚悟したように目をあげた。
「昨日の夜、守護霊を作り出したのは、僕の父さんだと思ったんです。あの、湖の向こうに僕自身の姿を見た時のことです。僕、父さんの姿を見たと思ったんです。だから、その隣にいたナツキを母さんだと思いました。」
「無理もない。君は驚くほどジェームズに生写しじゃ。ただ、君の目だけは・・・母君の目じゃ。ハリー、君は昨夜、父君に会ったのじゃ。君の中に、父君の姿を見つけたのじゃよ。」
ダンブルドア先生はそう言って出て行った。
シリウスたちが姿を消した夜、何が起こったのかを知っているのはナツキたちとダンブルドア先生だけだった。
ルーピン先生がいなくなったことでグリフィンドール生はみんなガッカリしていた。
学期の最後の日、試験の結果が発表された。ナツキは全科目合格だった。
「お、ナツキ、良かったな。」
「わ!か、勝手に見ないでよ。」
ナツキが談話室で自分の成績を見ていると、後ろからこっそり覗き込んで声をかけたのはジョージだった。
「俺は大体スレスレだ。フレッドも。」
「勉強すればジョージもフレッドもそんない悪くないはずでしょ・・・・」
「そのすればが、俺らには難しいのさ。まあでも『まね妖怪』もうまくできたんだな。」
「うん。ジョージのおかげ・・で・・・」
ナツキはふと守護霊の呪文で、実体のある獅子を出した時のことを思い出した。
あの時、私は、ジョージを思い出したんだ。
「どうした?」
「あ、えーっと、う、うまく行ったよ。クソ爆弾最高だった。」
ジョージが、馬鹿なことをしているのを想像したんだ。それが、私の幸せなのだろうか。
「ならよかったぜ。」
悪戯が成功した時のようににやにや笑うジョージの目に、父シリウス・ブラックと同じ、優しさを感じた。
「あ、う、うん。」
「どうしたナツキ?歯切れ悪いな。腹痛いのか?」
「そんなことないよ。元気だよ。元気いっぱい!」
「そうか?なんかあったら言えよ。」
「うん。」
ジョージはそう言って、フレッドたちの方へ行った。ナツキは心臓がぎゅっと掴まれるような、それでいて不快ではないような、初めての感情を抱いた。
「???」
翌朝、ホグワーツ特急がホームから出発した。
「今年の夏はクィディッチのワールドカップだぜ!ハリー、ナツキ、ハーマイオニーも。泊まりにおいでよ。一緒に観にいこう!パパ、たいてい役所から切符が手に入るんだ。」
ロンの最高の提案で、元気のなかったハリーは多いに元気づいた。
「ハリー、そっちの窓の外にいるもの、何かしら。」
ハーマイオニーが突然言った。ナツキ達が窓を見ると小さいふくろうが手紙を運んでいた。ハリーは窓を開けて、それを捕まえた。
「・・・わー、可愛い。」
ナツキはそう言ったが、ヘドウィグとレオーネは気に入らなかったのか、カチカチと嘴を鳴らした。
ハリーは手紙を取り上げた。手紙は2通あった。ハリー宛と、ナツキ宛だ。シリウスからの手紙だった。ハリーの方の手紙には、無事であること、ファイアボルトはシリウスが送ったということ、そしてホグズミード許可証が入っていた。
「ナツキの方は?なんて書いてあるの?」
ハリーがナツキを急かした。
「えーと・・・」
ナツキは手紙を静かに読み上げた。
『ナツキへ。元気かね?私は無事だから、あまり心配しないでほしい。ただ残念だが君と約束したリズの墓参りは当分延期だろう。こんな父親ですまない。
去年私は、君を一目見ようともしたんだが、それは叶わなかった。私の脱獄を知った君の育て親が厳重に君を守っていたからだ。寂しくも思ったが、君が愛されていることはいいことだ。
森で君にあったことがあったね。あの時、私はとても葛藤した。君に正体を打ち明けようかと悩んだ。でもきっとそうしないことが正解だっただろう。私はリズのことを愛していたし、アルバ先生のことも尊敬していた。そんな二人にそっくりな娘をもてた私はどれだけ幸せ者か。だが最高なのは目と髪だな。
助けが必要になったら、私に手紙を書きなさい。私もまた近いうちに手紙を書くよ。』
ナツキはキングズ・クロス駅に行くまで何度もそれを読み返した。駅に着いて、みんなと別れた時、アバーフォースを見つけた。
「アブ!」
もう一人の父親だ。ナツキは心からそう思った。
「・・・・去年は、ごめんなさい。私、アブに、ひどいこと言った。」
アバーフォースは何も言わなかった。その代わりナツキの頭をポンポンと叩いた。
「なんだ、背がずいぶん伸びたんだな。」
「うん。私、きっとたくさん成長したの。」
ナツキはそう言って、大好きな養父を抱きしめた。
<アズカバンの囚人 完>