アズカバンの囚人
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ナツキは目を開けた。そこは医務室で、隣にはハリーが、その隣にはハーマイオニーがいた。マダム・ポンフリーは見たこともないような大きなチョコレートを手にしていた。
「あなたたち三人は、ここに入院です。わたしが大丈夫だというまで。・・・ポッター、何をしてるんですか?」
ハリーは上半身を起こし、メガネを掛け、杖を取り上げていた。
「校長先生にお目にかかるんです。」
「ポッター、大丈夫ですよ。ブラックは捕まえました。上の階に閉じ込められています。吸魂鬼が間もなく『キス』を施します。」
「「「えーっ!」」」
ナツキ達は叫んでベッドから飛び降りた。
その叫び声が、廊下まで聞こえたらしく、次の瞬間、コーネリウス・ファッジとスネイプが病室に入ってきた。
「ハリー、ハリー、何事だね?」
「大臣、聞いてください!シリウス・ブラックは無実です!」
しかし、何を言っても大臣は取り合ってくれなかった。スネイプ先生もしかりだ。
再びドアが開いた。今度はダンブルドア先生だった。
「すまないね、ポピー。だが、わしはミスター・ポッターとミス・ゴドリクソンとミス・グレンジャーに話があるんじゃ。たった今、シリウス・ブラックと話をしてきたばかりじゃよ・・・」
「さぞかし、ポッターに吹き込んだと同じお伽噺をお聞かせしたことでしょうな?」
スネイプが吐き捨てるように言った。
「ネズミが何だとか、ぺティグリューが生きているとか。」
「さよう、ブラックの話はまさにそれじゃ。」
しかしああだこうだ言うスネイプ先生を黙らせ、ダンブルドア先生は言った。
「わしは、ハリーとナツキとハーマイオニーと四人だけで話したいのじゃが、コーネリウス、セブルス、ポピー。席をはずしてくれないかの。事は急を要する。」
マダム・ポンフリーは口をきっと結んで、病棟の端にある自分の事務所に向かって大股に歩き、バタンとドアを閉めて出ていった。ファッジはベストにぶら下げていた大きな金の懐中時計を見た。スネイプは踵を返し、ファッジが開けて待っていたドアから肩をいからせて出ていった。ドアが閉まると、ダンブルドアはナツキたちのほうを向いた。
ナツキ達が同時に、堰を切ったように話しだした。しかし、ダンブルドアは手を上げて、洪水のような説明を制止した。
「今度は君たちが聞く番じゃ。ブラックの言っていることを証明するものは何ひとつない。君たちの証言だけじゃ。十三歳の魔法使いが三人、何を言おうと、誰も納得はせん。あの通りには、シリウスがぺティグリューを殺したと証言する目撃者が、いっぱいいたのじゃ。わし自身、魔法省に、シリウスがポッターの『秘密の守人』だったと証言した。」
「ルーピン先生が話してくださいます。」
どうしても我慢できず、ハリーが口を挟んだ。
「ルーピン先生はいまは森の奥深くにいて、誰にも何も話すことができん。さらに言うておくが、狼人間は、我々の仲間うちでは信用されておらんからの。狼人間が支持したところでほとんど役には立たんじゃろう。それに、ルーピンとシリウスは旧知の仲でもある。よくお聞き。もう遅すぎる。わかるかの?スネイプ先生の語る真相のほうが、君たちの話より説得力があるということを知らねばならん。」
「スネイプ先生はお父さんに恨みがあるんです!!」
ナツキは訴えた。
「シリウスも無実の人間らしい振舞いをしなかった。『太った婦人』を襲った。グリフィンドールにナイフを持って押し入った。生きていても死んでいても、とにかくぺティグリューがいなければ、シリウスに対する判決を覆すのは無理というものじゃ。」
「でも、ダンブルドア先生は、僕たちを信じてくださってます。」
「そのとおりじゃ。しかし、わしは、ほかの人間に真実を悟らせる力はないし、魔法大臣の判決を覆すことも・・・・」
なんてことだ。頼みの綱のダンブルドア先生でさえ何もできないだなんて。
「必要なのは・・・・時間じゃ。」
ハーマイオニーは何か言いかけた。そして、ハッと目を丸くした。
「さあ、よく聞くのじゃ。」
ダンブルドア先生はごく低い声で、しかも、はっきりと言った。
「シリウスは、八階のフリットウィック先生の事務所に閉じ込められておる。西塔の右から十三番目の窓じゃ。首尾よく運べば、君たちは、今夜、一つといわずもっと、罪なきものの命を救うことができるじゃろう。ただし、忘れるでないぞ。見られてはならん。ミス・グレンジャー、規則は知っておろうな。どんな危険を冒すのか、君は知っておろう・・・・・誰にも見られてはならんぞ。」
ダンブルドア先生は踵を返し、ドアのところまで行って振り返った。
「君たちを閉じ込めておこう。いまは、真夜中五分前じゃ。ミス・グレンジャー、三回引っくり返せばよいじゃろう。幸運を祈る。」
ダンブルドア先生は扉を閉めた。ナツキとハリーは何が何だかわからない。
しかし、ハーマイオニーはローブの襟のあたりをゴソゴソ探っていた。そして中からとても長くて細い金の鎖を引っ張り出した。
「ナツキ、ハリー、こっちに来て!早く!」
ハリーとナツキはよくわからないままその声に従った。ハーマイオニーは金の鎖をナツキとハリーの首にもかけた。
「いいわね?」
ハーマイオニーが息を詰めて言った。
「僕たち、何してるんだい?」
「あ、ハーマイオニー、もしかしてこれ・・・・」
ハリーにはまったく見当がつかなかったが、ナツキには思い当たる節があった。ハーマイオニーは砂時計を三回引っくり返した。暗い病室が溶けるようになくなった。ぼやけた色や形が、どんどん三人を追い越していく。
やがて固い地面に足が着くのを感じた。誰もいない玄関ホールに、ナツキとハリー、ハーマイオニーは並んで立っていた。
「こっちへ!」
ハーマイオニーはナツキとハリーの腕をつかみ、箒置き場の前まで連れてきた。
「ハーマイオニー、逆転時計を使っていたんだね。」
「そうよ。3時間前まで時間を逆戻りさせたの。」
ポカンとするハリーにハーマイオニーは逆転時計のことを説明した。
「シッ!聞いて!誰か来るわ!たぶん、たぶん私たちよ!」
ハーマイオニーは箒置き場の戸に耳を押しつけていた。
「3時間前は・・・私たち、ハグリッドの小屋に行ったんだ。」
「そうよ。」
ハーマイオニーの耳はまだ戸に張りついている。
「絶対私たちだわ。あの足音は多くても四人だもの。それに、私たち『透明マント』をかぶってるから、ゆっくり歩いているし 。私たち、正面の石段を下りたわ。」
ハーマイオニーは困惑した顔でこちらを見た。
「ナツキ、ハリー、ダンブルドアが私たちに何をさせたいのか、私、わからないわ。どうして三時間戻せっておっしゃったのかしら?それがどうしてシリウスを救うことになるのかしら?」
「ダンブルドアが変えたいと思っている何かが、この時間帯に起こったに違いない。」
「・・・・ダンブルドア先生、一つといわずもっと、罪なき命を救うことができるって言ってなかった・・・・?」
ハリーはナツキの言葉でハッと気づいた。
「僕たち、バックビークを救うんだ!」
「でも、それがどうしてシリウスを救うことになるの?」
「ダンブルドアが、窓がどこにあるか、いま教えてくれたばかりだ。フリットウィック先生の事務所の窓だ!そこにシリウスが閉じ込められている!僕たち、バックビークに乗って、その窓まで飛んでいき、シリウスを救い出すんだよ!シリウスはバックビークに乗って逃げられる。バックビークと一緒に逃げられるんだ!」
ナツキもその意味は理解したが、途方もなく難しいことなのではないかと察した。ハーマイオニーも同じ意見らしい。でも、やるしかない。
「外には誰もいないみたいだ。さあ、行こう・・・」
ハリーは戸を押し開けた。玄関ホールには誰もいない。できるだけ静かに、急いで、二箒置き場を飛び出し、石段を下りた。
「ハグリッドの小屋の戸口から見えないようにしなきゃ。じゃないと、私たち、自分たちに見られてしまう!ハグリッドの小屋に私たちがもう着くころだわ!」
ナツキたちは全速力で走った。野菜畑を突っ切り、温室にたどり着き、その陰でひと呼吸入れてから、また走った。
「ハグリッドのところまで忍んでいかなくちゃ。見つからないようにね、ハリー、ナツキ、」
ハグリッドの小屋の戸口が垣間見え、戸を叩く音が聞こえた。急いで太い樫の木の陰に隠れ、幹の両脇から覗いた。ハグリッドが、青ざめた顔で震えながら、戸口に顔を出し、誰が戸を叩いたのかとそこら中を見回した。透明マントを被ったナツキ達と会話をしているのが聞こえた。そして扉が閉まる音がした。
「・・・・なんか不思議な気分だね。」
「こんな変てこなこと、僕たちいままでやったことないよ!」
「もうちょっと行きましょう。もっとバックビークに近づかないと!」
木々の間をこっそり進み、かぼちゃ畑の柵につながれて、落ち着かない様子のヒッポグリフが見えるところまでやってきた。ハリーがいざ逃そうとすると、ハーマイオニーがそれを止めた。
「いまバックビークを連れ出したら、委員会の人たちはハグリッドが逃がしたと思うわ!外につながれているところを、あの人たちが見るまでは待たなくちゃ!」
「それじゃ、やる時間が六十秒くらいしかないよ。」
その時、陶器の割れる音が、ハグリッドの小屋から聞こえてきた。
「ハグリッドがミルク入れを壊したのよ。もうすぐ、私がスキャバーズを見つけるわ・・・・・」
「ハーマイオニー、もし、僕たちが、中に飛び込んで、ぺティグリューを取っ捕まえたらどうだろう。」
「ダメよ!わからないの? 私たち、もっとも大切な魔法界の規則を一つ破っているところなのよ!時間を変えるなんて、誰もやってはいけないことなの。だーれも!ダンブルドアの言葉を聞いたわね。もし誰かに見られたら。」
「ハリー、ダメだよ。」
ナツキもハーマイオニーにつづけた。
「自分が時間を操れることを知っていても、大変なことが起きてしまうって、聞いたよ。本当に、すごく、大変なことが。何回かひどい事故が起きたのを聞いたことがあるの。」
「わかったよ。ちょっと思いついただけ。僕、ただ考えて・・・」
「ハリーの気持ちはちゃんとわかってる。」
「ウン・・・」
その時ハーマイオニーは城のほうを指差した。ダンブルドア先生、ファッジ、年老いた委員会のメンバー、それに死刑執行人のマクネアが石段を下りてくる。間もなく、ハグリッドの小屋の裏口が開き、ナツキは自分自身と、ハリーとロンとハーマイオニーがハグリッドと一緒に出てくるのを見た。木の陰に立って、自分の後ろ姿を見るのは、まったく奇妙な感覚だった。
ハグリッドがバックビークに話しかけている。それから四人に向かって「行け。もう行け」と言った。ハグリッドの小屋の戸口を叩く音がした。死刑執行人の一行の到着だ。ハグリッドは振り返り、裏戸を半開きにして小屋の中に入っていった。透明マントに隠れた自分たちが遠ざかっていくのがわかった。
ファッジの声が聞こえた。
「ハグリッド、我々は、その、死刑執行の正式な通知を読みあげねばならん。短くすますつもりだ。それから君とマクネアが書類にサインする。マクネア、君も聞くことになっている。それが手続きだ。」
マクネアの顔が窓から消えた。いまだ。いましかない。
「ここで待ってて。僕がやる。」
ハリーが囁いた。ナツキとハーマイオニーは頷いた。
ハリーは木陰から飛び出し、かぼちゃ畑の柵を飛び越え、バックビークに近づいた。 ハリーは以前に一度やったようにお辞儀した。バックビークは鱗で覆われた膝を曲げていったん身を低くし、また立ち上がった。ハリーは、バックビークを柵に縛りつけている綱を解こうとした。今のところ、うまく行っている。
「・・・・死刑は斬首とし、委員会の任命する執行人、ワルデン・マクネアによって執行され・・・・・」
「バックビーク、来るんだ。」
ハリーがつぶやくように話しかけた。ハリーは全体重をかけて綱を引っ張ったが、バックビークは前脚で踏ん張った。バックビークはなかなか動いてくれなかった。ナツキはたまらず囁いた。
「お願い、バックビーク、こっちに来て・・・・・!」
するとさっきまで踏ん張っていたバックビークがするっとナツキの方へ向かってきたのだ。
「ハリー、早く!」
ハーマイオニーの口の形だけでそう急かした。
「バックビーク、急ごう。」
ナツキが小さな声でそういうと、バックビークもスタスタと走った。ハグリッドの裏庭はもう見えなくなっていた。
「止まって!みんなが音を聞きつけるかも・・・」
ハリーが囁いた。ハグリッドの裏戸がバタンと開いた。ナツキ、ハリー、ハーマイオニー、バックビークは、じっと音をたてずにたたずんだ。
「ここにつながれていたんだ!俺は見たんだ!ここだった!」
死刑執行人がカンカンに怒った声が聞こえた。
「これは異なこと。」
ダンブルドア先生が言った。どこかおもしろがっているような声だった。シュッという音に続いて、ドサッと斧を振り下ろす音がした。死刑執行人が癇癪を起こして斧を柵に振り下ろしたらしい。それから吠えるような声がした。そして、前のときには聞こえなかったハグリッドの言葉が、すすり泣きに混じって聞こえてきた。
「いない!いない!よかった。かわいい嘴のビーキー、いなくなっちまった!きっと自分で自由になったんだ!ビーキー、賢いビーキー!」
バックビークは、ハグリッドのところに行こうとして綱を引っぱりはじめた。
「ダメ、バックビーク。」
ナツキがそういうと、不思議なことにバックビークは悲しそうにハグリッドの方へ行くのを諦めた。
「マクネア、バックビークが盗まれたのなら、盗人はバックビークを歩かせて連れていくと思うかね?」
ダンブルドア先生はまだおもしろがっているような声だった。
「どうせなら、空を探すがよい、ハグリッド、お茶を一杯いただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいの。」
「は、はい、先生さま。」
ハグリッドは、うれしくて力が抜けたようだった。
「さあ、どうする?」
ハリーが周りを見回しながら囁いた。
「ここに隠れていなきゃ。」
「お父さんはがあそこに行くのは2時間後くらいだね・・・・」
「移動しなくちゃ。『暴れ柳』が見えるところにいないといけないよ。じゃないと、僕ら、何が起こっているのかわからなくなるし。」
ナツキとハーマイオニーは頷いた。暗闇がだんだんと濃くなってきた。暴れ柳が見えるあたりまで行くと、ロンが見えた。
それから、どこからともなく、もう三人の姿が現れるのが見えた。ナツキ自身とハリーとハーマイオニーがロンを追ってくる。そしてロンがスライディングするのを見た。 「捕まえた!」とロンの声がした。
「今度はシリウスだ!」
ハリーが言った。「柳」の根元から、大きな犬の姿が躍り出た。犬がハリーを転がし、ロンをくわえた。
「ここから見てると、よけいひどく見えるよね?」
「うん。ちょっと・・・やり過ぎに見える・・・・うわ、痛そう・・・」
「暴れ柳」はギシギシと軋み、低いほうの枝を鞭のように動かしていた。三人は自分たち自身が木の幹にたどり着こうとあちこち走り回るのを見ていた。そして、木が動かなくなった。
「僕たちが入っていくよ・・・・」
みんなの姿が消えたとたん、「柳」はまた動きだした。その数秒後、二人はすぐ近くで足音を聞いた。ダンブルドア、マクネア、ファッジ、それに年老いた委員会のメンバーが城へ戻るところだった。ダンブルドア先生だけが、あの柳に気づいてくれればいいのに、とナツキ達は思った。
その後しばらくの間、あたりには誰もいなかった。そしてルーピン先生が今度は現れた。
「ルーピンが『マント』を拾ってくれてたらなぁ。そこに置きっぱなしになってるのに。もし、いま僕が急いで走っていってマントを取ってくれば、スネイプはマントを手に入れることができなくなるし、そうすれば・・・・・」
「だめ!」
「ハリー、私たち、姿を見られてはいけないのよ!」
ハリーはナツキとハーマイオニーを信じられないと言う顔で見た。
「君、どうして我慢できるんだい?ナツキなんて、それだけでシリウスが助かるかもしれないんだよ?・・・僕、『マント』を取ってくる!」
「だめ!」
ナツキとハーマイオニーはハリーのローブをぐっと掴んだ。
「ハリー、本当にダメなの。本当に危ないことなの。シリウス・ブラックを助けるどころか、もっと最悪なことになりかねない。時間を操る魔法は、本当に甘くみちゃいけないんだよ。」
ナツキが真剣な顔でそう言った。
「わかったよ・・・。」
それからほんの二分も経たないうちに、城の扉が再び開き、スネイプ先生が突然姿を現し、「柳」に向かって走りだした。木のそばで急に立ち止まり、周りを見回し、「マント」をつかみ、持ち上げて見ている。
スネイプ先生はマントで姿を消しながら、柳の中に入って行った。
「これで全部ね。」
ハーマイオニーが静かに言った。あとは自分達が出てくるのを待つだけだ。
「ハリー、ナツキ、私わからないことがあるの。どうして吸魂鬼はシリウスを捕まえられなかったのかしら?私、吸魂鬼がやってくるところまでは覚えてるんだけど、それから気を失ったと思う。」
「ああ、本当だ。確かに不思議だね。私も何か、明るくなったなと思ったところで気を失っちゃった・・・・」
不思議に思うハーマイオニーとナツキにハリーは何を見たのか話した。吸魂鬼がハリーにキスをしようとしたこと、湖の向こうから大きな銀色の二つの塊が失踪してきて、吸魂鬼を退却させたこと。
「それって、守護霊だよね?あんな大勢の吸魂鬼を追い払うなんて・・・・・ダンブルドア先生が戻ってきたのかな?」
ナツキがそう尋ねるとハリーは首を振った。
「僕・・・・僕、父さんと母さんだと思った。」
ナツキはなんと言って良いかわからなかった。代わりにハーマイオニーが言いにくそうに、ハリーのお父さんは亡くなっていると伝えた。
「わかってるよ。多分、気のせいだ。だけど・・・僕の見た限りでは・・・父さんみたいだった・・・。あともう一人は女の人だったから、あれはきっと母さんなんだ。」
ハリーは自重気味に「馬鹿げてるって、わかってるよ」と言った。
「・・・・ううん。馬鹿げてるなんて思わないよ・・・・。」
ナツキは静かにそういった。そして、1時間以上が経ってから、ようやく中から自分達が出てきた。
「・・・ハリー、だめ。私だってペティグリューを殺してやりたい・・・・。でも、今出て行ってはだめ。」
ナツキはハリーが動く前にそういった。
月が現れ、ルーピン先生の姿が変わっていった。
「ナツキ、ハーマイオニー、ルーピンが間も無く森に駆け込んでくる。僕達のいるところに!」
そういえばそうだった!ナツキは顔を青くした。とりあえず、今は誰もいないであろうハグリッドの小屋へ行くことにした。
小屋へつき、ファングの出迎えを交わして、窓から様子を見た。ここからではよくわからない。
「ねえ、僕、また外に出て方がいいと思うんだ。」
「そうだね。何が起こってるのか見えないし、ちょっとタイミングがわからないよね。」
ハリーとナツキがそういうと、ハーマイオニーはハリーが暴走しないか心配という顔をした。
「まあナツキがいるなら・・・。私、ここでバックビーク止まってる。でも、二人とも気をつけて。狼人間がいるし、吸魂鬼も・・・」
ナツキとハリーは頷いて外に出た。遠くでキャンキャンとシリウスの鳴き声が聞こえる。
「・・・・お父さんの声だ・・・・!」
「ギリギリのところまで、見に行こう・・・・。守護霊の呪文を使った人が誰かわかるかもしれない。」
ナツキもそれは気になっていたので、慎重に歩を進めた。湖が見える距離まで近づき、二人で息を殺して、吸魂鬼の群れを眺めながら近づいた。
するとハリーが走り出した。
ナツキはハリーと叫ぶこともできなかった。なんてったって、近すぎる。急いで追いかけることしかできなかった。
だんだん湖の近くに来て、銀色の光が見えた。過去の自分とハリーが守護霊を作り出そうとしている。
「父さん、どこなの?早く・・・・」
ハリーの言葉に、ナツキは胸が苦しくなった。しかし誰かが現れる様子はない。
そして、ナツキは吸魂鬼が過去の自分達に群がっていることの方に気を取られた。怖い。恐怖がナツキの脳裏に蘇ってきた。
"どうしても怖くなっちまったら、俺を思いだせ。心強いだろ?"
ふと思い出した言葉がナツキの心を温かくした。
「・・・違う。ナツキ。僕が見たのは、僕らだ・・・・・エクスペクト!パトローナム!」
「エクスペクト・パトローナム!!」
ハリーにつられ、ほとんど無意識で守護霊の呪文を唱えていた。すると、二人の杖の先から、目も眩むほど眩しい銀色の動物が噴き出した。
二体の守護霊は、過去の自分達に群がる吸魂鬼を追い払っていく。そして、静かに二体はまた二人の元に戻ってきた。
雄鹿と、雌の獅子だった。
「プロングズ、」
ハリーが泣きそうな声で呟いた。二体の守護霊はフッと消えた。その時、後ろから蹄の音が聞こえた。ハーマイオニーとバックビークだ。
ハーマイオニーは怒っていたが、それよりも自分達のやるべきことを思い出す。
ダンブルドア先生が病棟のドアに鍵をかけるまで約45分。それまでにシリウス・ブラックを救わないといけない。
ナツキはその時、死刑執行人が吸魂鬼を迎えにいこうとしているのを確認した。
ナツキ達は目を見合わせて、バックビークに乗った。三人乗っても、バックビークはへっちゃらそうだ。
「・・・バックビーク、あっちにいくの。わかる?」
ナツキがそういうと、バックビークは飛び上がり、音もなく城の上階へと近づいた。そして、目的の場所にたどり着くと、ハリーは手綱を引いた。
ハリーが窓を叩くと、呆気に取られた顔のシリウスがいた。
「アロホモラ!」
ハーマイオニーが呪文で窓の鍵を開ける。
「ど、どうやって・・・?」
「乗って。時間がないんです。」
ハリーがそういうと、バックビークは四人目の乗客を乗せた。それでも、大丈夫そうだ。
バックビークは西塔の天辺まで、高々と舞い上がった。
「お父さん、これを持って行って!」
ナツキはオリバンダーの店で買った自分の杖をシリウスに手渡した。
「だ、だめだ!これはナツキの、」
「もう一本持ってるからいいの!早く!いいから!」
「もう一人の子は、ロンはどうした?」
その問いに急ぎながらハリーは大丈夫だと答えた。
「なんと礼を言ったらいいのか・・・・」
「「「行って!!」」」
シリウスはバックビークを空の方に向けた。
「また会おう。君は、本当にお父さんの子だ、ハリー。 ・・・・・・・ナツキ、愛してるよ。」
ナツキはまた、どこかで見たことのある優しい目だと思った。
シリウスはバックビークと共に飛び立った。段々と小さくなっていった。二人は行ってしまったのだ。
「あなたたち三人は、ここに入院です。わたしが大丈夫だというまで。・・・ポッター、何をしてるんですか?」
ハリーは上半身を起こし、メガネを掛け、杖を取り上げていた。
「校長先生にお目にかかるんです。」
「ポッター、大丈夫ですよ。ブラックは捕まえました。上の階に閉じ込められています。吸魂鬼が間もなく『キス』を施します。」
「「「えーっ!」」」
ナツキ達は叫んでベッドから飛び降りた。
その叫び声が、廊下まで聞こえたらしく、次の瞬間、コーネリウス・ファッジとスネイプが病室に入ってきた。
「ハリー、ハリー、何事だね?」
「大臣、聞いてください!シリウス・ブラックは無実です!」
しかし、何を言っても大臣は取り合ってくれなかった。スネイプ先生もしかりだ。
再びドアが開いた。今度はダンブルドア先生だった。
「すまないね、ポピー。だが、わしはミスター・ポッターとミス・ゴドリクソンとミス・グレンジャーに話があるんじゃ。たった今、シリウス・ブラックと話をしてきたばかりじゃよ・・・」
「さぞかし、ポッターに吹き込んだと同じお伽噺をお聞かせしたことでしょうな?」
スネイプが吐き捨てるように言った。
「ネズミが何だとか、ぺティグリューが生きているとか。」
「さよう、ブラックの話はまさにそれじゃ。」
しかしああだこうだ言うスネイプ先生を黙らせ、ダンブルドア先生は言った。
「わしは、ハリーとナツキとハーマイオニーと四人だけで話したいのじゃが、コーネリウス、セブルス、ポピー。席をはずしてくれないかの。事は急を要する。」
マダム・ポンフリーは口をきっと結んで、病棟の端にある自分の事務所に向かって大股に歩き、バタンとドアを閉めて出ていった。ファッジはベストにぶら下げていた大きな金の懐中時計を見た。スネイプは踵を返し、ファッジが開けて待っていたドアから肩をいからせて出ていった。ドアが閉まると、ダンブルドアはナツキたちのほうを向いた。
ナツキ達が同時に、堰を切ったように話しだした。しかし、ダンブルドアは手を上げて、洪水のような説明を制止した。
「今度は君たちが聞く番じゃ。ブラックの言っていることを証明するものは何ひとつない。君たちの証言だけじゃ。十三歳の魔法使いが三人、何を言おうと、誰も納得はせん。あの通りには、シリウスがぺティグリューを殺したと証言する目撃者が、いっぱいいたのじゃ。わし自身、魔法省に、シリウスがポッターの『秘密の守人』だったと証言した。」
「ルーピン先生が話してくださいます。」
どうしても我慢できず、ハリーが口を挟んだ。
「ルーピン先生はいまは森の奥深くにいて、誰にも何も話すことができん。さらに言うておくが、狼人間は、我々の仲間うちでは信用されておらんからの。狼人間が支持したところでほとんど役には立たんじゃろう。それに、ルーピンとシリウスは旧知の仲でもある。よくお聞き。もう遅すぎる。わかるかの?スネイプ先生の語る真相のほうが、君たちの話より説得力があるということを知らねばならん。」
「スネイプ先生はお父さんに恨みがあるんです!!」
ナツキは訴えた。
「シリウスも無実の人間らしい振舞いをしなかった。『太った婦人』を襲った。グリフィンドールにナイフを持って押し入った。生きていても死んでいても、とにかくぺティグリューがいなければ、シリウスに対する判決を覆すのは無理というものじゃ。」
「でも、ダンブルドア先生は、僕たちを信じてくださってます。」
「そのとおりじゃ。しかし、わしは、ほかの人間に真実を悟らせる力はないし、魔法大臣の判決を覆すことも・・・・」
なんてことだ。頼みの綱のダンブルドア先生でさえ何もできないだなんて。
「必要なのは・・・・時間じゃ。」
ハーマイオニーは何か言いかけた。そして、ハッと目を丸くした。
「さあ、よく聞くのじゃ。」
ダンブルドア先生はごく低い声で、しかも、はっきりと言った。
「シリウスは、八階のフリットウィック先生の事務所に閉じ込められておる。西塔の右から十三番目の窓じゃ。首尾よく運べば、君たちは、今夜、一つといわずもっと、罪なきものの命を救うことができるじゃろう。ただし、忘れるでないぞ。見られてはならん。ミス・グレンジャー、規則は知っておろうな。どんな危険を冒すのか、君は知っておろう・・・・・誰にも見られてはならんぞ。」
ダンブルドア先生は踵を返し、ドアのところまで行って振り返った。
「君たちを閉じ込めておこう。いまは、真夜中五分前じゃ。ミス・グレンジャー、三回引っくり返せばよいじゃろう。幸運を祈る。」
ダンブルドア先生は扉を閉めた。ナツキとハリーは何が何だかわからない。
しかし、ハーマイオニーはローブの襟のあたりをゴソゴソ探っていた。そして中からとても長くて細い金の鎖を引っ張り出した。
「ナツキ、ハリー、こっちに来て!早く!」
ハリーとナツキはよくわからないままその声に従った。ハーマイオニーは金の鎖をナツキとハリーの首にもかけた。
「いいわね?」
ハーマイオニーが息を詰めて言った。
「僕たち、何してるんだい?」
「あ、ハーマイオニー、もしかしてこれ・・・・」
ハリーにはまったく見当がつかなかったが、ナツキには思い当たる節があった。ハーマイオニーは砂時計を三回引っくり返した。暗い病室が溶けるようになくなった。ぼやけた色や形が、どんどん三人を追い越していく。
やがて固い地面に足が着くのを感じた。誰もいない玄関ホールに、ナツキとハリー、ハーマイオニーは並んで立っていた。
「こっちへ!」
ハーマイオニーはナツキとハリーの腕をつかみ、箒置き場の前まで連れてきた。
「ハーマイオニー、逆転時計を使っていたんだね。」
「そうよ。3時間前まで時間を逆戻りさせたの。」
ポカンとするハリーにハーマイオニーは逆転時計のことを説明した。
「シッ!聞いて!誰か来るわ!たぶん、たぶん私たちよ!」
ハーマイオニーは箒置き場の戸に耳を押しつけていた。
「3時間前は・・・私たち、ハグリッドの小屋に行ったんだ。」
「そうよ。」
ハーマイオニーの耳はまだ戸に張りついている。
「絶対私たちだわ。あの足音は多くても四人だもの。それに、私たち『透明マント』をかぶってるから、ゆっくり歩いているし 。私たち、正面の石段を下りたわ。」
ハーマイオニーは困惑した顔でこちらを見た。
「ナツキ、ハリー、ダンブルドアが私たちに何をさせたいのか、私、わからないわ。どうして三時間戻せっておっしゃったのかしら?それがどうしてシリウスを救うことになるのかしら?」
「ダンブルドアが変えたいと思っている何かが、この時間帯に起こったに違いない。」
「・・・・ダンブルドア先生、一つといわずもっと、罪なき命を救うことができるって言ってなかった・・・・?」
ハリーはナツキの言葉でハッと気づいた。
「僕たち、バックビークを救うんだ!」
「でも、それがどうしてシリウスを救うことになるの?」
「ダンブルドアが、窓がどこにあるか、いま教えてくれたばかりだ。フリットウィック先生の事務所の窓だ!そこにシリウスが閉じ込められている!僕たち、バックビークに乗って、その窓まで飛んでいき、シリウスを救い出すんだよ!シリウスはバックビークに乗って逃げられる。バックビークと一緒に逃げられるんだ!」
ナツキもその意味は理解したが、途方もなく難しいことなのではないかと察した。ハーマイオニーも同じ意見らしい。でも、やるしかない。
「外には誰もいないみたいだ。さあ、行こう・・・」
ハリーは戸を押し開けた。玄関ホールには誰もいない。できるだけ静かに、急いで、二箒置き場を飛び出し、石段を下りた。
「ハグリッドの小屋の戸口から見えないようにしなきゃ。じゃないと、私たち、自分たちに見られてしまう!ハグリッドの小屋に私たちがもう着くころだわ!」
ナツキたちは全速力で走った。野菜畑を突っ切り、温室にたどり着き、その陰でひと呼吸入れてから、また走った。
「ハグリッドのところまで忍んでいかなくちゃ。見つからないようにね、ハリー、ナツキ、」
ハグリッドの小屋の戸口が垣間見え、戸を叩く音が聞こえた。急いで太い樫の木の陰に隠れ、幹の両脇から覗いた。ハグリッドが、青ざめた顔で震えながら、戸口に顔を出し、誰が戸を叩いたのかとそこら中を見回した。透明マントを被ったナツキ達と会話をしているのが聞こえた。そして扉が閉まる音がした。
「・・・・なんか不思議な気分だね。」
「こんな変てこなこと、僕たちいままでやったことないよ!」
「もうちょっと行きましょう。もっとバックビークに近づかないと!」
木々の間をこっそり進み、かぼちゃ畑の柵につながれて、落ち着かない様子のヒッポグリフが見えるところまでやってきた。ハリーがいざ逃そうとすると、ハーマイオニーがそれを止めた。
「いまバックビークを連れ出したら、委員会の人たちはハグリッドが逃がしたと思うわ!外につながれているところを、あの人たちが見るまでは待たなくちゃ!」
「それじゃ、やる時間が六十秒くらいしかないよ。」
その時、陶器の割れる音が、ハグリッドの小屋から聞こえてきた。
「ハグリッドがミルク入れを壊したのよ。もうすぐ、私がスキャバーズを見つけるわ・・・・・」
「ハーマイオニー、もし、僕たちが、中に飛び込んで、ぺティグリューを取っ捕まえたらどうだろう。」
「ダメよ!わからないの? 私たち、もっとも大切な魔法界の規則を一つ破っているところなのよ!時間を変えるなんて、誰もやってはいけないことなの。だーれも!ダンブルドアの言葉を聞いたわね。もし誰かに見られたら。」
「ハリー、ダメだよ。」
ナツキもハーマイオニーにつづけた。
「自分が時間を操れることを知っていても、大変なことが起きてしまうって、聞いたよ。本当に、すごく、大変なことが。何回かひどい事故が起きたのを聞いたことがあるの。」
「わかったよ。ちょっと思いついただけ。僕、ただ考えて・・・」
「ハリーの気持ちはちゃんとわかってる。」
「ウン・・・」
その時ハーマイオニーは城のほうを指差した。ダンブルドア先生、ファッジ、年老いた委員会のメンバー、それに死刑執行人のマクネアが石段を下りてくる。間もなく、ハグリッドの小屋の裏口が開き、ナツキは自分自身と、ハリーとロンとハーマイオニーがハグリッドと一緒に出てくるのを見た。木の陰に立って、自分の後ろ姿を見るのは、まったく奇妙な感覚だった。
ハグリッドがバックビークに話しかけている。それから四人に向かって「行け。もう行け」と言った。ハグリッドの小屋の戸口を叩く音がした。死刑執行人の一行の到着だ。ハグリッドは振り返り、裏戸を半開きにして小屋の中に入っていった。透明マントに隠れた自分たちが遠ざかっていくのがわかった。
ファッジの声が聞こえた。
「ハグリッド、我々は、その、死刑執行の正式な通知を読みあげねばならん。短くすますつもりだ。それから君とマクネアが書類にサインする。マクネア、君も聞くことになっている。それが手続きだ。」
マクネアの顔が窓から消えた。いまだ。いましかない。
「ここで待ってて。僕がやる。」
ハリーが囁いた。ナツキとハーマイオニーは頷いた。
ハリーは木陰から飛び出し、かぼちゃ畑の柵を飛び越え、バックビークに近づいた。 ハリーは以前に一度やったようにお辞儀した。バックビークは鱗で覆われた膝を曲げていったん身を低くし、また立ち上がった。ハリーは、バックビークを柵に縛りつけている綱を解こうとした。今のところ、うまく行っている。
「・・・・死刑は斬首とし、委員会の任命する執行人、ワルデン・マクネアによって執行され・・・・・」
「バックビーク、来るんだ。」
ハリーがつぶやくように話しかけた。ハリーは全体重をかけて綱を引っ張ったが、バックビークは前脚で踏ん張った。バックビークはなかなか動いてくれなかった。ナツキはたまらず囁いた。
「お願い、バックビーク、こっちに来て・・・・・!」
するとさっきまで踏ん張っていたバックビークがするっとナツキの方へ向かってきたのだ。
「ハリー、早く!」
ハーマイオニーの口の形だけでそう急かした。
「バックビーク、急ごう。」
ナツキが小さな声でそういうと、バックビークもスタスタと走った。ハグリッドの裏庭はもう見えなくなっていた。
「止まって!みんなが音を聞きつけるかも・・・」
ハリーが囁いた。ハグリッドの裏戸がバタンと開いた。ナツキ、ハリー、ハーマイオニー、バックビークは、じっと音をたてずにたたずんだ。
「ここにつながれていたんだ!俺は見たんだ!ここだった!」
死刑執行人がカンカンに怒った声が聞こえた。
「これは異なこと。」
ダンブルドア先生が言った。どこかおもしろがっているような声だった。シュッという音に続いて、ドサッと斧を振り下ろす音がした。死刑執行人が癇癪を起こして斧を柵に振り下ろしたらしい。それから吠えるような声がした。そして、前のときには聞こえなかったハグリッドの言葉が、すすり泣きに混じって聞こえてきた。
「いない!いない!よかった。かわいい嘴のビーキー、いなくなっちまった!きっと自分で自由になったんだ!ビーキー、賢いビーキー!」
バックビークは、ハグリッドのところに行こうとして綱を引っぱりはじめた。
「ダメ、バックビーク。」
ナツキがそういうと、不思議なことにバックビークは悲しそうにハグリッドの方へ行くのを諦めた。
「マクネア、バックビークが盗まれたのなら、盗人はバックビークを歩かせて連れていくと思うかね?」
ダンブルドア先生はまだおもしろがっているような声だった。
「どうせなら、空を探すがよい、ハグリッド、お茶を一杯いただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいの。」
「は、はい、先生さま。」
ハグリッドは、うれしくて力が抜けたようだった。
「さあ、どうする?」
ハリーが周りを見回しながら囁いた。
「ここに隠れていなきゃ。」
「お父さんはがあそこに行くのは2時間後くらいだね・・・・」
「移動しなくちゃ。『暴れ柳』が見えるところにいないといけないよ。じゃないと、僕ら、何が起こっているのかわからなくなるし。」
ナツキとハーマイオニーは頷いた。暗闇がだんだんと濃くなってきた。暴れ柳が見えるあたりまで行くと、ロンが見えた。
それから、どこからともなく、もう三人の姿が現れるのが見えた。ナツキ自身とハリーとハーマイオニーがロンを追ってくる。そしてロンがスライディングするのを見た。 「捕まえた!」とロンの声がした。
「今度はシリウスだ!」
ハリーが言った。「柳」の根元から、大きな犬の姿が躍り出た。犬がハリーを転がし、ロンをくわえた。
「ここから見てると、よけいひどく見えるよね?」
「うん。ちょっと・・・やり過ぎに見える・・・・うわ、痛そう・・・」
「暴れ柳」はギシギシと軋み、低いほうの枝を鞭のように動かしていた。三人は自分たち自身が木の幹にたどり着こうとあちこち走り回るのを見ていた。そして、木が動かなくなった。
「僕たちが入っていくよ・・・・」
みんなの姿が消えたとたん、「柳」はまた動きだした。その数秒後、二人はすぐ近くで足音を聞いた。ダンブルドア、マクネア、ファッジ、それに年老いた委員会のメンバーが城へ戻るところだった。ダンブルドア先生だけが、あの柳に気づいてくれればいいのに、とナツキ達は思った。
その後しばらくの間、あたりには誰もいなかった。そしてルーピン先生が今度は現れた。
「ルーピンが『マント』を拾ってくれてたらなぁ。そこに置きっぱなしになってるのに。もし、いま僕が急いで走っていってマントを取ってくれば、スネイプはマントを手に入れることができなくなるし、そうすれば・・・・・」
「だめ!」
「ハリー、私たち、姿を見られてはいけないのよ!」
ハリーはナツキとハーマイオニーを信じられないと言う顔で見た。
「君、どうして我慢できるんだい?ナツキなんて、それだけでシリウスが助かるかもしれないんだよ?・・・僕、『マント』を取ってくる!」
「だめ!」
ナツキとハーマイオニーはハリーのローブをぐっと掴んだ。
「ハリー、本当にダメなの。本当に危ないことなの。シリウス・ブラックを助けるどころか、もっと最悪なことになりかねない。時間を操る魔法は、本当に甘くみちゃいけないんだよ。」
ナツキが真剣な顔でそう言った。
「わかったよ・・・。」
それからほんの二分も経たないうちに、城の扉が再び開き、スネイプ先生が突然姿を現し、「柳」に向かって走りだした。木のそばで急に立ち止まり、周りを見回し、「マント」をつかみ、持ち上げて見ている。
スネイプ先生はマントで姿を消しながら、柳の中に入って行った。
「これで全部ね。」
ハーマイオニーが静かに言った。あとは自分達が出てくるのを待つだけだ。
「ハリー、ナツキ、私わからないことがあるの。どうして吸魂鬼はシリウスを捕まえられなかったのかしら?私、吸魂鬼がやってくるところまでは覚えてるんだけど、それから気を失ったと思う。」
「ああ、本当だ。確かに不思議だね。私も何か、明るくなったなと思ったところで気を失っちゃった・・・・」
不思議に思うハーマイオニーとナツキにハリーは何を見たのか話した。吸魂鬼がハリーにキスをしようとしたこと、湖の向こうから大きな銀色の二つの塊が失踪してきて、吸魂鬼を退却させたこと。
「それって、守護霊だよね?あんな大勢の吸魂鬼を追い払うなんて・・・・・ダンブルドア先生が戻ってきたのかな?」
ナツキがそう尋ねるとハリーは首を振った。
「僕・・・・僕、父さんと母さんだと思った。」
ナツキはなんと言って良いかわからなかった。代わりにハーマイオニーが言いにくそうに、ハリーのお父さんは亡くなっていると伝えた。
「わかってるよ。多分、気のせいだ。だけど・・・僕の見た限りでは・・・父さんみたいだった・・・。あともう一人は女の人だったから、あれはきっと母さんなんだ。」
ハリーは自重気味に「馬鹿げてるって、わかってるよ」と言った。
「・・・・ううん。馬鹿げてるなんて思わないよ・・・・。」
ナツキは静かにそういった。そして、1時間以上が経ってから、ようやく中から自分達が出てきた。
「・・・ハリー、だめ。私だってペティグリューを殺してやりたい・・・・。でも、今出て行ってはだめ。」
ナツキはハリーが動く前にそういった。
月が現れ、ルーピン先生の姿が変わっていった。
「ナツキ、ハーマイオニー、ルーピンが間も無く森に駆け込んでくる。僕達のいるところに!」
そういえばそうだった!ナツキは顔を青くした。とりあえず、今は誰もいないであろうハグリッドの小屋へ行くことにした。
小屋へつき、ファングの出迎えを交わして、窓から様子を見た。ここからではよくわからない。
「ねえ、僕、また外に出て方がいいと思うんだ。」
「そうだね。何が起こってるのか見えないし、ちょっとタイミングがわからないよね。」
ハリーとナツキがそういうと、ハーマイオニーはハリーが暴走しないか心配という顔をした。
「まあナツキがいるなら・・・。私、ここでバックビーク止まってる。でも、二人とも気をつけて。狼人間がいるし、吸魂鬼も・・・」
ナツキとハリーは頷いて外に出た。遠くでキャンキャンとシリウスの鳴き声が聞こえる。
「・・・・お父さんの声だ・・・・!」
「ギリギリのところまで、見に行こう・・・・。守護霊の呪文を使った人が誰かわかるかもしれない。」
ナツキもそれは気になっていたので、慎重に歩を進めた。湖が見える距離まで近づき、二人で息を殺して、吸魂鬼の群れを眺めながら近づいた。
するとハリーが走り出した。
ナツキはハリーと叫ぶこともできなかった。なんてったって、近すぎる。急いで追いかけることしかできなかった。
だんだん湖の近くに来て、銀色の光が見えた。過去の自分とハリーが守護霊を作り出そうとしている。
「父さん、どこなの?早く・・・・」
ハリーの言葉に、ナツキは胸が苦しくなった。しかし誰かが現れる様子はない。
そして、ナツキは吸魂鬼が過去の自分達に群がっていることの方に気を取られた。怖い。恐怖がナツキの脳裏に蘇ってきた。
"どうしても怖くなっちまったら、俺を思いだせ。心強いだろ?"
ふと思い出した言葉がナツキの心を温かくした。
「・・・違う。ナツキ。僕が見たのは、僕らだ・・・・・エクスペクト!パトローナム!」
「エクスペクト・パトローナム!!」
ハリーにつられ、ほとんど無意識で守護霊の呪文を唱えていた。すると、二人の杖の先から、目も眩むほど眩しい銀色の動物が噴き出した。
二体の守護霊は、過去の自分達に群がる吸魂鬼を追い払っていく。そして、静かに二体はまた二人の元に戻ってきた。
雄鹿と、雌の獅子だった。
「プロングズ、」
ハリーが泣きそうな声で呟いた。二体の守護霊はフッと消えた。その時、後ろから蹄の音が聞こえた。ハーマイオニーとバックビークだ。
ハーマイオニーは怒っていたが、それよりも自分達のやるべきことを思い出す。
ダンブルドア先生が病棟のドアに鍵をかけるまで約45分。それまでにシリウス・ブラックを救わないといけない。
ナツキはその時、死刑執行人が吸魂鬼を迎えにいこうとしているのを確認した。
ナツキ達は目を見合わせて、バックビークに乗った。三人乗っても、バックビークはへっちゃらそうだ。
「・・・バックビーク、あっちにいくの。わかる?」
ナツキがそういうと、バックビークは飛び上がり、音もなく城の上階へと近づいた。そして、目的の場所にたどり着くと、ハリーは手綱を引いた。
ハリーが窓を叩くと、呆気に取られた顔のシリウスがいた。
「アロホモラ!」
ハーマイオニーが呪文で窓の鍵を開ける。
「ど、どうやって・・・?」
「乗って。時間がないんです。」
ハリーがそういうと、バックビークは四人目の乗客を乗せた。それでも、大丈夫そうだ。
バックビークは西塔の天辺まで、高々と舞い上がった。
「お父さん、これを持って行って!」
ナツキはオリバンダーの店で買った自分の杖をシリウスに手渡した。
「だ、だめだ!これはナツキの、」
「もう一本持ってるからいいの!早く!いいから!」
「もう一人の子は、ロンはどうした?」
その問いに急ぎながらハリーは大丈夫だと答えた。
「なんと礼を言ったらいいのか・・・・」
「「「行って!!」」」
シリウスはバックビークを空の方に向けた。
「また会おう。君は、本当にお父さんの子だ、ハリー。 ・・・・・・・ナツキ、愛してるよ。」
ナツキはまた、どこかで見たことのある優しい目だと思った。
シリウスはバックビークと共に飛び立った。段々と小さくなっていった。二人は行ってしまったのだ。