アズカバンの囚人
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奇妙な群れだった。クルックシャンクスが先頭に立って階段を下り、そのあとをルーピン先生、ペティグリュー、ロンが、まるでムカデ競走のようにつながって下りた。シリウスがスネイプの杖を使ってスネイプ先生を宙吊りにし、ナツキはその後に続いた。ハリーとハーマイオニーがしんがりだった。
「これがどういうことなのか、わかるかい?」
トンネルをのろのろと進みながら、出し抜けにシリウスがナツキとハリーに話しかけた。
「ぺティグリューを引き渡すということが。」
「あなたが自由の身になる。」
「そうだ・・・しかし、それだけではない。・・・誰かに聞いたかも知らないが・・・ハリー、わたしは君の名付け親でもあるんだよ。」
「ええ、知っています。」
「そして、君の父親だ。」
シリウスの目が潤んでいるように見えた。
「ハリー、君の両親は、わたしを君の後見人に決めたのだ。」
シリウスの声が緊張した。ナツキとハリーは次の言葉を待った。
「もちろん、ナツキがアバーフォースと、ハリーがおじさんやおばさんとこのまま一緒に暮らしたいというなら、その気持はよくわかるつもりだ。しかし・・・まあ・・・考えてくれないか。わたしの汚名が晴れたら・・・もし君達が・・・別の家族がほしいと思うなら・・・・」
「あなたとハリーと暮らすの?」
ナツキは尋ねた。ハリーが後ろで頭をぶつけたような音がした。
「ダーズリー一家と別れるの?そして、あなたとナツキと?」
「むろん、君達はそんなことは望まないだろうと思ったが・・・・。よくわかるよ。ただ、もしかしたらわたしと、と思ってね・・・・」
「とんでもない!もちろん、ダーズリーのところなんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引越せますか?」
シリウスがくるりと振り返ってハリーを見た。スネイプの頭が天井をゴリゴリこすっていたが、シリウスは気にも留めない様子だ。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」
「・・・・ナツキは?」
シリウスは恐る恐るナツキの顔を見た。
「私、お祖母さんが残してくれた家があるよ。結構大きいし、三人でも住めるよ。」
ナツキがそう答えるとシリウスのげっそりした顔が、急に笑顔になった。骸骨のようなお面の後ろに十歳若返った顔が輝いて見えるようだった。
「ナツキ、これが済んだら、リズに会いたいんだ・・・。墓の場所はわかるかい?」
ナツキは最初、リズが誰かわからなかった。だがすぐに、それが母エリザベスの愛称だと気づいた。
「え?あ、うん・・・・。あの・・・お母さんのこと・・・愛してたの?」
ナツキがそう質問すると、シリウスは一瞬何を聞かれたのかわからないような顔をした。しかしすぐに優しい目をナツキに向けた。
「だから君が生まれたんだ。籍こそいれなかったが・・・もしかしてそれが心配の種か?・・・・二人でそうしようと相談して決めたんだ。わたしは今でも彼女を愛してるよ・・・・・。娘の君もだ。」
スネイプ先生を天井にガンガンぶつけながら、シリウスは続けた。
「ナツキだけでも助けることができてよかった。」
ナツキは不思議な気分になった。こんな優しい目を何度も見たことがあるような気がするのだ。どこで、見たのだろうか。
そんなことを考えていると、トンネルの出口についた。クルックシャンクスが木の幹のあのコブを押してくれたらしい。
校庭はすでに真っ暗だった。無言で、全員が歩きだした。ペティグリューは相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。
「ちょっとでも変なまねをしてみろ、ピーター。」
前のほうで、ルーピン先生が脅すように言った。みんな無言でひたすら校庭を歩いた。窓の灯が徐々に大きくなってきた。すると、その時、雲が切れた。一行は月明りを浴びていた。
シリウスが立ちすくんだ。シリウスは片手をさっと上げてナツキ、ハリー、ハーマイオニーを制止した。ナツキは思い出した。ルーピン先生は今夜薬を飲んでいないことを。
「逃げろ!」
シリウスが低い声で言った。
「ダメ!ロンが!」
ナツキは叫んだ。ハリーも同じ理由で逃げなかった。シリウスは両腕をナツキとハリーの胸に回してぐいと引き戻した。
「わたしに任せて・・・逃げるんだ!」
恐ろしい唸り声がした。狼人間となったルーピン先生が後ろ足で立ち上がり、バキバキと牙を打ち鳴らした時、シリウスの姿もハリーのそばから消えていた。変身したのだ。巨大な、クマのような犬が躍り出た。狼人間が自分を縛っていた手錠を捻じ切った時、犬が狼人間の首に食らいついて後ろに引き戻し、ロンやペティグリューから遠ざけた。二匹は、牙と牙とががっちりと噛み合い、鉤爪が互いを引き裂き合っていた・・・。
ナツキは呆然とその光景を見てしまっていた。ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
「エクスペリアームス!!」
ナツキは叫んだペティグリューがルーピン先生の落とした杖に飛びついていたからだ。ルーピン先生の杖が空中に高々と舞い上がり、見えなくなった。
「動くな!」
ハリーは前方に向かって走りながら叫んだ。しかし遅かった。ペティグリューはもう変身していた。草むらを慌てて走り去る音が聞こえた。
ひと声高く吠える声と低く唸る声とが聞こえた。ナツキとハリーが振り返ると、狼人間が逃げ出すところだった。森に向かって疾駆していく。
「シリウス、あいつが逃げた。ペティグリューが変身した!」
ハリーが大声をあげた。シリウスは血を流していた。鼻面と背に深手を負っていた。
「エピスキー!!」
ナツキは咄嗟に治癒の呪文を放っていた。シリウスは、素早く立ち上がり、足音を響かせて校庭を走り去った。
ナツキたちは、ロンに駆けよった。ロンは目を半眼に見開き、口はだらりと開いていた。生きているのは確かだ。息をしているのが聞こえる。しかし、ロンは二人の顔がわからないようだった。
「とにかく、城にロンとスネイプ先生を連れて行こう。ダンブルドア先生に助けてもらわないと。」
ナツキの言葉にハリーもハーマイオニーも頷いた。
しかし、その時、暗闇の中から、キャンキャンと苦痛を訴えるような犬の鳴き声が聞こえてきた。
「お父さん」「シリウス」
ナツキとハリーは闇を見つめてつぶやいた。そして二人は目を合わせ、意を結した。
ナツキとハリーが駆けだした。ハーマイオニーもあとに続いた。甲高い鳴き声は湖のそばから聞こえてくるようだ。キャンキャンという鳴き声が急にやんだ。湖のほとりにたどり着いた時、それがなぜなのかを目撃した。シリウスは人の姿に戻っていた。うずくまり、両手で頭を抱えている。
「やめろおおお。やめてくれええええ・・・頼む・・・・」
吸魂鬼だ。少なくとも百人が、真っ黒な塊になって、湖の周りからこちらに、滑るように近づいてくる。
ナツキは幸せなことを考え、そして無我夢中で叫んだ。
「エクスペクト・パトローナム!!!」
「ハーマイオニー、何か幸せなことを考えるんだ!」
ハリーが杖を上げながら叫んだ。ハーマイオニーも同じように杖を振るがうまくいかない。
ナツキとハリーは何度も唱えた。
「エクスペクト・パトローナム!!」
ブラックは大きく身震いして引っくり返り、地面に横たわり動かなくなった。死人のように蒼白い顔だった。
「お父さん!!!お父さん!!エクスペクト・パトローナム!!!」
銀色のもやが出る。しかしこんな数の吸魂鬼を追い払えるほどではない。吸魂鬼が近づいてくる。もう三メートルと離れていない。
ドサッとハーマイオニーが倒れた。ナツキとハリーは無我夢中だった。
「「エクスペクト・パトローナム!!!」」
足りない。守護霊の呪文が小さい。どんどん吸魂鬼が群がってくる。
『アバダ・ケダブラ』
『キャアアアア!!』
『このガキさえいれば闇の帝王も他の死喰い人も・・・・シリウスだってそうそう手は出せない・・・』
許せない・・・ピーター・ペティグリュー・・・
『見つけたぞ!お前・・・リリーとジェームズを・・・・待て、何を持っている・・・・その手に抱いているのは何だ!!?』
『おお、シリウス・・・。やめておくれ、ほら、お前の可愛い娘が泣いているよ。』
『ナツキなのか!?エリザベスはどうした!?・・・お前、まさかエリザベスにまで手をかけたのか・・・・・!?ナツキを放せ!!その子だけは・・・!救ってみせる・・・・!』
大きな爆発音と「アクシオ!」と呪文が聞こえた。大好きな温もりに包まれた。
ダメだ・・・今ここで・・・私がやられたら・・・ハリーも、お父さんも・・・・
ナツキは必死で目を開けた。
すっぽり包み込んでいる霧を貫いて、銀色の光が見えるような気がした。寒くて、吐き気がする。体を起こせない。
何かが見えた。
何かが、吸魂鬼を追い払っている。何かがナツキ、ハリー、シリウス、ハーマイオニーの周りをぐるぐる回っている。ザーザーという吸魂鬼の息がしだいに消えていった。吸魂鬼が去っていく・・・暖かさが戻ってきた・・・。
「これがどういうことなのか、わかるかい?」
トンネルをのろのろと進みながら、出し抜けにシリウスがナツキとハリーに話しかけた。
「ぺティグリューを引き渡すということが。」
「あなたが自由の身になる。」
「そうだ・・・しかし、それだけではない。・・・誰かに聞いたかも知らないが・・・ハリー、わたしは君の名付け親でもあるんだよ。」
「ええ、知っています。」
「そして、君の父親だ。」
シリウスの目が潤んでいるように見えた。
「ハリー、君の両親は、わたしを君の後見人に決めたのだ。」
シリウスの声が緊張した。ナツキとハリーは次の言葉を待った。
「もちろん、ナツキがアバーフォースと、ハリーがおじさんやおばさんとこのまま一緒に暮らしたいというなら、その気持はよくわかるつもりだ。しかし・・・まあ・・・考えてくれないか。わたしの汚名が晴れたら・・・もし君達が・・・別の家族がほしいと思うなら・・・・」
「あなたとハリーと暮らすの?」
ナツキは尋ねた。ハリーが後ろで頭をぶつけたような音がした。
「ダーズリー一家と別れるの?そして、あなたとナツキと?」
「むろん、君達はそんなことは望まないだろうと思ったが・・・・。よくわかるよ。ただ、もしかしたらわたしと、と思ってね・・・・」
「とんでもない!もちろん、ダーズリーのところなんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引越せますか?」
シリウスがくるりと振り返ってハリーを見た。スネイプの頭が天井をゴリゴリこすっていたが、シリウスは気にも留めない様子だ。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」
「・・・・ナツキは?」
シリウスは恐る恐るナツキの顔を見た。
「私、お祖母さんが残してくれた家があるよ。結構大きいし、三人でも住めるよ。」
ナツキがそう答えるとシリウスのげっそりした顔が、急に笑顔になった。骸骨のようなお面の後ろに十歳若返った顔が輝いて見えるようだった。
「ナツキ、これが済んだら、リズに会いたいんだ・・・。墓の場所はわかるかい?」
ナツキは最初、リズが誰かわからなかった。だがすぐに、それが母エリザベスの愛称だと気づいた。
「え?あ、うん・・・・。あの・・・お母さんのこと・・・愛してたの?」
ナツキがそう質問すると、シリウスは一瞬何を聞かれたのかわからないような顔をした。しかしすぐに優しい目をナツキに向けた。
「だから君が生まれたんだ。籍こそいれなかったが・・・もしかしてそれが心配の種か?・・・・二人でそうしようと相談して決めたんだ。わたしは今でも彼女を愛してるよ・・・・・。娘の君もだ。」
スネイプ先生を天井にガンガンぶつけながら、シリウスは続けた。
「ナツキだけでも助けることができてよかった。」
ナツキは不思議な気分になった。こんな優しい目を何度も見たことがあるような気がするのだ。どこで、見たのだろうか。
そんなことを考えていると、トンネルの出口についた。クルックシャンクスが木の幹のあのコブを押してくれたらしい。
校庭はすでに真っ暗だった。無言で、全員が歩きだした。ペティグリューは相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。
「ちょっとでも変なまねをしてみろ、ピーター。」
前のほうで、ルーピン先生が脅すように言った。みんな無言でひたすら校庭を歩いた。窓の灯が徐々に大きくなってきた。すると、その時、雲が切れた。一行は月明りを浴びていた。
シリウスが立ちすくんだ。シリウスは片手をさっと上げてナツキ、ハリー、ハーマイオニーを制止した。ナツキは思い出した。ルーピン先生は今夜薬を飲んでいないことを。
「逃げろ!」
シリウスが低い声で言った。
「ダメ!ロンが!」
ナツキは叫んだ。ハリーも同じ理由で逃げなかった。シリウスは両腕をナツキとハリーの胸に回してぐいと引き戻した。
「わたしに任せて・・・逃げるんだ!」
恐ろしい唸り声がした。狼人間となったルーピン先生が後ろ足で立ち上がり、バキバキと牙を打ち鳴らした時、シリウスの姿もハリーのそばから消えていた。変身したのだ。巨大な、クマのような犬が躍り出た。狼人間が自分を縛っていた手錠を捻じ切った時、犬が狼人間の首に食らいついて後ろに引き戻し、ロンやペティグリューから遠ざけた。二匹は、牙と牙とががっちりと噛み合い、鉤爪が互いを引き裂き合っていた・・・。
ナツキは呆然とその光景を見てしまっていた。ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
「エクスペリアームス!!」
ナツキは叫んだペティグリューがルーピン先生の落とした杖に飛びついていたからだ。ルーピン先生の杖が空中に高々と舞い上がり、見えなくなった。
「動くな!」
ハリーは前方に向かって走りながら叫んだ。しかし遅かった。ペティグリューはもう変身していた。草むらを慌てて走り去る音が聞こえた。
ひと声高く吠える声と低く唸る声とが聞こえた。ナツキとハリーが振り返ると、狼人間が逃げ出すところだった。森に向かって疾駆していく。
「シリウス、あいつが逃げた。ペティグリューが変身した!」
ハリーが大声をあげた。シリウスは血を流していた。鼻面と背に深手を負っていた。
「エピスキー!!」
ナツキは咄嗟に治癒の呪文を放っていた。シリウスは、素早く立ち上がり、足音を響かせて校庭を走り去った。
ナツキたちは、ロンに駆けよった。ロンは目を半眼に見開き、口はだらりと開いていた。生きているのは確かだ。息をしているのが聞こえる。しかし、ロンは二人の顔がわからないようだった。
「とにかく、城にロンとスネイプ先生を連れて行こう。ダンブルドア先生に助けてもらわないと。」
ナツキの言葉にハリーもハーマイオニーも頷いた。
しかし、その時、暗闇の中から、キャンキャンと苦痛を訴えるような犬の鳴き声が聞こえてきた。
「お父さん」「シリウス」
ナツキとハリーは闇を見つめてつぶやいた。そして二人は目を合わせ、意を結した。
ナツキとハリーが駆けだした。ハーマイオニーもあとに続いた。甲高い鳴き声は湖のそばから聞こえてくるようだ。キャンキャンという鳴き声が急にやんだ。湖のほとりにたどり着いた時、それがなぜなのかを目撃した。シリウスは人の姿に戻っていた。うずくまり、両手で頭を抱えている。
「やめろおおお。やめてくれええええ・・・頼む・・・・」
吸魂鬼だ。少なくとも百人が、真っ黒な塊になって、湖の周りからこちらに、滑るように近づいてくる。
ナツキは幸せなことを考え、そして無我夢中で叫んだ。
「エクスペクト・パトローナム!!!」
「ハーマイオニー、何か幸せなことを考えるんだ!」
ハリーが杖を上げながら叫んだ。ハーマイオニーも同じように杖を振るがうまくいかない。
ナツキとハリーは何度も唱えた。
「エクスペクト・パトローナム!!」
ブラックは大きく身震いして引っくり返り、地面に横たわり動かなくなった。死人のように蒼白い顔だった。
「お父さん!!!お父さん!!エクスペクト・パトローナム!!!」
銀色のもやが出る。しかしこんな数の吸魂鬼を追い払えるほどではない。吸魂鬼が近づいてくる。もう三メートルと離れていない。
ドサッとハーマイオニーが倒れた。ナツキとハリーは無我夢中だった。
「「エクスペクト・パトローナム!!!」」
足りない。守護霊の呪文が小さい。どんどん吸魂鬼が群がってくる。
『アバダ・ケダブラ』
『キャアアアア!!』
『このガキさえいれば闇の帝王も他の死喰い人も・・・・シリウスだってそうそう手は出せない・・・』
許せない・・・ピーター・ペティグリュー・・・
『見つけたぞ!お前・・・リリーとジェームズを・・・・待て、何を持っている・・・・その手に抱いているのは何だ!!?』
『おお、シリウス・・・。やめておくれ、ほら、お前の可愛い娘が泣いているよ。』
『ナツキなのか!?エリザベスはどうした!?・・・お前、まさかエリザベスにまで手をかけたのか・・・・・!?ナツキを放せ!!その子だけは・・・!救ってみせる・・・・!』
大きな爆発音と「アクシオ!」と呪文が聞こえた。大好きな温もりに包まれた。
ダメだ・・・今ここで・・・私がやられたら・・・ハリーも、お父さんも・・・・
ナツキは必死で目を開けた。
すっぽり包み込んでいる霧を貫いて、銀色の光が見えるような気がした。寒くて、吐き気がする。体を起こせない。
何かが見えた。
何かが、吸魂鬼を追い払っている。何かがナツキ、ハリー、シリウス、ハーマイオニーの周りをぐるぐる回っている。ザーザーという吸魂鬼の息がしだいに消えていった。吸魂鬼が去っていく・・・暖かさが戻ってきた・・・。