アズカバンの囚人
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ナツキは全てではないがある程度のことを察していた。ルーピン先生は状況を飲み込めていないハリーたちに、順序立てて何が起こったのかを話そうとした。
狼人間であるルーピン先生と一緒にいるために、ジェームズ・ポッター達が動物もどきになったことを話したとき、また新たな人間がその場に現れた。
スネイプ先生が「透明マント」を脱ぎ捨て、杖をぴたりとルーピンに向けて立っていた。
「『暴れ柳』の根元でこれを見つけましてね。」
スネイプ先生は、杖をまっすぐルーピン先生の胸に突きつけたまま、「透明マント」を脇に投げ捨てた。
「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する。我輩がどうしてここを知ったのか、諸君は不思議に思っているだろうな?君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要なことはすべてわかった。君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ。」
「セブルス・・・・」
ルーピン先生が何か言いかけたが、スネイプはかまわず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思いつきませんでしたよ・・・・」
「セブルス、君は誤解している。君は、話を全部聞いていないんだ。説明させてくれ。シリウスはハリーを殺しにきたのではない。」
「今夜、また二人、アズカバン行きが出る。」
「シリウス・ブラックもルーピン先生もアズカバンにいく理由はない!!」
ナツキは杖をスネイプ先生に向けた。
「哀れだな・・・・ゴドリクソン。錯乱の呪文か、服従の呪いか。その男が何をしたのか、教えてやろうか?」
スネイプ先生はシリウス・ブラックを指差した。
「先生が言わなくても知ってます。私を助けたんだ。」
ナツキは譲らなかった。ルーピン先生が口を開いた。
「学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかね?」
バーン! スネイプ先生の杖から細い紐が蛇のように噴き出て、ルーピン先生に巻きついた。ルーピン先生は身動きできなくなった。怒りの唸り声をあげ、ブラックがスネイプ先生を襲おうとした。しかし、スネイプ先生はブラックの眉間にまっすぐ杖を突きつけた。
「やれるものならやるがいい。我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる。」
ナツキは迷わなかった。
「「「「エクスペリアームス!!」」」」
叫んだのはナツキだけではなかった。ハリー達も皆、同じ呪文を唱えた。スネイプ先生はノックアウトされた。
「こんなこと、君達がしてはいけなかった。」
ブラックがナツキとハリーを見ながら言った。
「私に任せておくべきだった。」
「エマンシパレ。」
ナツキはブラックの言い分をスルーして、ルーピン先生の縄を解いた。
「ナツキ、ハリー、ありがとう。」
「僕、まだあなたを信じるとは言ってません。でも、僕、ナツキのことは信じたいんです。ナツキのためです。話を聞かせてください。」
ルーピン先生の言葉にハリーが反発した。
「それでは、君に証拠を見せる時が来たようだ。君、ピーターを渡してくれ。さあ、」
ブラックの言葉にロンはスキャバーズをますますしっかりと胸に抱きしめた。
「冗談はやめてくれ。スキャバーズなんかに手を下すために、わざわざアズカバンを脱獄したって言うのかい?つまり・・・ねえ。ペティグリューがネズミに変身できたとしても、ネズミなんて何百万といるじゃないか。アズカバンに閉じ込められていたら、どのネズミが自分の探してるネズミかなんて、この人、どうやったらわかるって言うんだい?」
「そうだとも、シリウス。まともな疑問だよ。」
ルーピンがブラックに向かってちょっと眉根をよせた。
「あいつの居場所を、どうやって見つけ出したんだい?」
その答えは一年前の夏、「日刊予言者新聞」に載ったロンと家族の写真だった。そして、そこに、ロンの肩に、スキャバーズがいた。そのスキャバーズは、指が一本かけていた。
ルーピンがため息をついた。
「なんと単純明快なことだ・・・なんと小賢しい・・・あいつは自分で切ったのか?」
「変身する直前にな。あいつを追いつめた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。わたしがジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、わたしがやつに呪いをかけるより先に、やつは隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした。わたしには・・・・・奴が抱いていたナツキを呼び寄せることしかできなかった・・・・そしてあいつは素早く、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ・・・・」
「・・・私を抱いていた・・・・・?」
ナツキはどういうことだろうかと思ったが、シリウス・ブラックは話を続けた。しかしロンは信じることができずにいた。
「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」
ロンは、ベッドでゴロゴロ喉を鳴らしているクルックシャンクスを顎で指した。しかしクルックシャンクスはずっと、ブラックから真実を聞き協力していたのだ。
「ピーターを、わたしのところに連れてこようとした。しかし、できなかった。そこでわたしのためにグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた。誰か男の子のベッド脇の小机から持ってきたらしい。しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した。この猫は・・・クルックシャンクスという名だね?ピーターがベッドのシーツに血の痕を残していったと教えてくれた。・・・たぶん自分で自分を噛んだのだろう・・・そう、死んだと見せかけるのは、前にも一度うまくやったのだし・・・・」
この言葉でハリーはハッと我に返った。
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
ハリーは激しい語調で聞いた。
「おまえが、僕の両親を殺したと同じように、自分をも殺そうとしていると気づいたからじゃないか!」
「違う。ハリー。」
ルーピンが口を挟んだ。
「ハリー、わからないのか? 私たちは、ずっと、シリウスが君のご両親を裏切ったと思っていた。ピーターがシリウスを追いつめたと思っていた。しかし、それは逆だった。わからないかい? ピーターが君のお父さん、お母さんを裏切ったんだ。シリウスがピーターを追いつめたんだ。」
「嘘だ!ブラックが『秘密の守人』だった!ブラック自身があなたが来る前にそう言ったんだ。こいつは、自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」
ハリーはブラックを指差していた。ブラックはゆっくりと首を振った。落ち窪んだ目が急に潤んだように光った。
「ハリー、わたしが殺したも同然だ。最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのはわたしだ。ピーターに代えるように勧めた・・・わたしが悪いのだ。たしかに・・・二人が死んだ夜、わたしはピーターのところに行く手はずになっていた。ピーターが無事かどうか、確かめにいくことにしていた。ところが、ピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った跡がない。どうもおかしい。わたしは不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。そして、家が壊され、二人が死んでいるのを見た時・・・・わたしは悟った。ピーターが何をしたのかを。わたしが何をしてしまったのかを。」
涙声になり、ブラックは顔をそむけた。
「話はもう十分だ。」
ルーピン先生の声には、ハリーがこれまで聞いたことがないような、情け容赦のない響きがあった。
「本当は何が起こったのか、証明する道は唯一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい。」
ルーピン先生が答えた。ロンはためらったが、とうとうスキャバーズをさし出した。スキャバーズはキーキーと喚き続け、のた打ち回り、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
ブラックはもう、スネイプの杖をベッドから拾い上げていた。
ルーピン先生はスキャバーズを片手にしっかりつかみ、もう一方の手で杖を握った。そしてブラックと共に呪文を使った。
一瞬、スキャバーズは宙に浮き、そこに静止した。頭が床からシュッと上に伸び、手足が生え、次の瞬間、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩り、後ずさりしながら立っていた。
小柄な男だ。何となくネズミ臭さが漂っていた。男はハァハァと浅く、速い息遣いで、周りの全員を見回した。
「やあ、ピーター。しばらくだったね。」
ルーピン先生が朗らかに声をかけた。
「シ、シリウス・・・リ、リーマス・・・友よ・・・なつかしの友よ・・・・・」
ブラックの杖腕が上がったが、ルーピン先生がその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。
ナツキはその声を聞いて、感じたこともない怒りを感じた。
「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、いまおしゃべりしていたんだがね、ピーター。君はあのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな。」
「リーマス・・・君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね。・・・あいつはわたしを殺そうとしたんだ、リーマス・・・」
「嘘だ!!!」
ナツキは叫んだ。
「その声は・・・・お母さんに死の呪文をかけた声と同じだ!!」
「・・・・ナツキ、落ち着くんだ。真相を、ハリー達にも聞かせないといけない。」
ルーピン先生が静かに言った。
「こいつはジェームズとリリーを殺した。今度はわたしも殺そうとしてるんだ。・・・リーマス、助けておくれ・・・」
暗い底知れない目でペティグリューを睨みつけたブラックの顔が、いままで以上に骸骨のような形相に見えた。
「こいつがわたしを追ってくるとわかっていた!こいつがわたしを狙って戻ってくるとわかっていた!十二年も、わたしはこの時を待っていた!」
「シリウスがアズカバンを脱獄するとわかっていたと言うのか?いまだかつて脱獄した者は誰もいないのに?」
ルーピン先生は眉根を寄せた。
「こいつは、わたしたちの誰もが、夢の中でしか叶わないような闇の力を持っている!それがなければ、どうやってあそこから出られる?おそらく『名前を言ってはいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」
ブラックが笑いだした。ぞっとするような、虚ろな笑いが部屋中に響いた。
「ヴォルデモートがわたしに術を?・・・どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気づいたか?無理もないな、ピーター。昔の仲間はおまえのことをあまり快く思っていないようだ。違うか?」
「何のことやら・・・シリウス、君が何を言っているのやら・・・」
ペティグリューはますます荒い息をしながらモゴモゴ言った。
「おまえは十二年もの間、わたしから逃げていたのではない。ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたのだ。ヴォルデモートはおまえの情報でポッターの家に行った。そこでヴォルデモートが破滅した。ところがヴォルデモートの仲間は、一網打尽でアズカバンに入れられたわけではなかった。ピーター、その連中が、もしおまえがまだ生きていると風の便りに聞いたら・・・」
「何のことやら・・・何を話しているやら・・・・リーマス、君は信じないだろう・・・・こんなバカげた・・・・」
「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ。」
感情の起伏を示さず、ルーピンが言った。
「無実だ。でも怖かった!ヴォルデモート支持者がわたしを追っているなら、それは、大物の一人をわたしがアズカバンに送ったからだ・・・スパイのシリウス・ブラックだ!」
ブラックの顔が歪んだ。
「よくもそんなことを。」
ブラックは、突然、あの熊のように大きな犬に戻ったように唸った。
「わたしが?ヴォルデモートのスパイ?わたしがいつ、自分より強く、力のある者たちにへこへこした?しかし、ピーター、おまえは、おまえがスパイだということを、なぜ初めから見抜けなかったのか。迂闊だった。おまえはいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった。そうだな?かつてはそれが我々だった・・・わたしとリーマス・・・それにジェームズだった・・・・」
「わたしが、スパイなんて、正気の沙汰じゃない。けっして・・・どうしてそんなことが言えるのか、わたしにはさっぱり、」
「ジェームズとリリーはわたしが勧めたからおまえを『秘密の守人』にしたんだ。」
ブラックは歯噛みをした。その激しさに、ぺティグリューはたじたじと一歩下がった。
「わたしはこれこそ完璧な計画だと思った・・・・ヴォルデモートはきっとわたしを追う。おまえのような弱虫の、能なしを利用しようとは夢にも思わないだろう。・・・ヴォルデモートにポッター一家を売った時は、さぞかし、おまえの惨めな生涯の最高の瞬間だったろうな。」
ペティグリューの蒼ざめた顔で窓やドアのほうにちらちら視線を走らせていた。
「ルーピン先生、」
ハーマイオニーがおずおず口を開いた。
「あの・・・スキャバーズ、いえ、この・・・この人・・・ハリーの寮で三年間同じ寝室にいたんです。『例のあの人』の手先なら、いままでハリーを傷つけなかったのは、どうしてかしら?」
「そうだ!ありがとう!リーマス、聞いたかい?ハリーの髪の毛一本傷つけてはいない!そんなことをする理由がありますか?」
「その理由を教えてやろう。」
ブラックが言った。
「おまえは、自分のために得になることがなければ、誰のためにも何もしないやつだ。ヴォルデモートは十二年も隠れたままで、半死半生だと言われている。アルバス・ダンブルドアの目と鼻の先で、しかもまったく力を失った残骸のような魔法使いのために、殺人などするおまえか?そもそも魔法使いの家族に入り込んで飼ってもらったのは何のためだ?情報が聞ける状態にしておきたかったんだろう?え?おまえの昔の保護者が力を取り戻し、またその下に戻っても安全だという事態に備えて・・・・・」
ペティグリューは何度か口をパクパクさせた。話す能力をなくしたかに見えた。ブラックは口を開いた。
「信じてくれ、ハリー。わたしはけっしてジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら、わたしが死ぬほうがましだ。」
ペティグリューは、ガックリと膝をついた。そのままにじり出て、祈るように手を握り合わせ、這いつくばった。
「一緒にこいつを殺るか?」
「ああ、そうしよう。」
ルーピンが厳粛に言った。ルーピン先生とブラックは杖を向けた。
「やめてくれ・・・やめて・・・・」
ぺティグリューがあえいだ。そして、ロンのそばに転がり込んだ。
「ロン・・・わたしはいい友達・・・いいペットだったろう?わたしを殺させないでくれ、ロン。お願いだ・・・君はわたしの味方だろう?」
「自分のベッドにおまえを寝かせてたなんて!」
ペティグリューは膝を折ったまま向きを変え、前にのめりながらハーマイオニーのローブの裾をつかんだ。
「やさしいお嬢さん、賢いお嬢さん、あなたは・・・あなたならそんなことをさせないでしょう・・・助けて・・・」
ハーマイオニーはローブを引っ張り、しがみつくペティグリューの手からもぎ取り、怯えきった顔で壁際まで下がった。ペティグリューは、止めどなく震えながら、跪き、ハリーに向かってゆっくりと顔を上げた。
「ハリー・・・ハリー・・・君はお父さんに生き写しだ・・・そっくりだ・・・」
「ハリーに話しかけるとは、どういう神経だ?」
ブラックが大声を出した。
「ハリーに顔向けができるか?この子の前で、ジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?」
ペティグリューはナツキを見た。
「ナツキ・・・ナツキ・・・アルバ先生は情け深い方だったよ。・・君も・・・君も・・・・・」
「俺の娘にあんなことをしておいて、よくそんなことが言えるな!!!」
ブラックは耐えられないとばかりに激昂した。
「ジェームズとリリーの死を知って、お前を追いかけた先の光景に、私がどれだけ絶望したかわかるのか!?お前は・・・私が追ってくることを恐れ、ナツキを人質にしようと拐っていたんだ!!!しかもそのためにエリザベスにまで手をかけて!!!」
ブラックとルーピン先生が大股にペティグリューに近づき、肩をつかんで床の上に仰向けに叩きつけた。ペティグリューは座り込んで、恐怖にひくひく痙攣しながら二人を見つめた。
「おまえは、ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った。そしてエリザベスに手をかけたんだ。」
ブラックも体を震わせていた。
「否定するのか?」
ペティグリューはわっと泣きだした。おぞましい光景だった。
「シリウス、シリウス、わたしに何ができたというのだ?わたしは怖かった。シリウス、わたしは君や、リーマスやジェームズのように勇敢ではなかった。わたしはやろうと思ってやったのではない・・・・あの『名前を言ってはいけないあの人』が無理やり・・・・」
「嘘をつくな!」
ブラックが割れるような大声を出した。
「おまえは、ジェームズとリリーが死ぬ一年も前から、『あの人』に密通していた!おまえがスパイだった!」
「君にはわかってないんだ!シリウス、わたしが殺されかねなかったんだ!」
「それなら、死ねばよかったんだ!友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう!」
ブラックとルーピン先生が肩を並べて立ち、杖を上げた。
「おまえは気づくべきだったな。」
ルーピン先生が静かに言った。
「ヴォルデモートがおまえを殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ。」
「「やめて!!」」
ナツキとハリーが叫び、動いたのは同時だった。
「殺してはだめだ。殺しちゃいけない。」
ハリーはあえぎながら言った。ブラックとルーピン先生はショックを受けたようだった。
「ハリー、ナツキ、このクズのせいで、君達は親を亡くしたんだぞ。」
ブラックが唸った。
「このへこへこしているろくでなしは、あの時、君たちも死んでいたら、それを平然と眺めていたはずだ。聞いただろう。小汚い自分の命のほうが、何よりも大事だったのだ。」
「私だって殺してやりたいよ!!!・・・・でも・・この人が死んだら・・・・あなたの無実はどう証明すればいいの?」
ナツキの瞳が潤んだ。殺してやりたい。こんな男、殺してやりたい。でも、シリウス・ブラックが、父が、幸せになる未来につなげたかった。
「こいつを城まで連れていこう。僕たちの手で吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい・・・・殺すことだけはやめて。」
「ハリー!ナツキ!君たちは、ありがとう・・・こんなわたしに・・・ありがとう・・・・」
「おまえのために止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が、おまえみたいなもののために、殺人者になるのを望まないと思っただけだ。」
ブラックとルーピン先生は互いに顔を見合わせていた。それから二人同時に杖を下ろした。
「いいだろう。ハリー、脇に退いてくれ。」
ルーピン先生が言った。
「縛り上げるだけだ。誓ってそれだけだ。」
今度はルーピン先生の杖の先から、細い紐が噴き出て、次の瞬間、ペティグリューは縛られ、さるぐつわを噛まされて床の上でもがいていた。
「しかし、ピーター、もし変身したら・・・・やはり殺す。いいね、ハリー?ナツキ?」
ナツキとハリーは頷いた。それを見てルーピン先生が急にテキパキとさばきはじめた。
「ロン、わたしはマダム・ポンフリーほどうまく骨折を治すことができないから、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが一番いいだろう。」
ルーピン先生が呪文を唱え、副え木で固定したロンの足に包帯が巻きついた。
「スネイプ先生はどうしますか?」
ハーマイオニーが、首うなだれて伸びているスネイプ先生を見下ろしながら、小声で言った。
「こっちは別に悪いところはない。君たち四人とも、ちょっと・・・過激にやりすぎただけだ。スネイプはまだ気絶したままだ。ウム。我々が安全に城に戻るまで、このままにしておくのが一番いいだろう。こうして運べばいい。モビリコーパス!」
手首、首、膝に見えない糸が取りつけられたように、スネイプ先生の体が引っ張り上げられ、立ち上がった。頭部はまだぐらぐらと据わり心地悪そうに垂れ下がったままで、まるで異様な操り人形だ。
「誰か二人、こいつとつながっておかないと。」
ブラックが足の爪先でペティグリューを小突きながら言った。ルーピン先生とロンがそれに立候補した。
ペティグリューは二本足で立ち、その左腕はルーピンの右腕に、そして右腕はロンの左腕につながれていた。クルックシャンクスがひらりとベッドから飛び降り、先頭に立って部屋を出た。瓶洗いブラシのような尻尾を誇らしげにきりっと上げながら。
狼人間であるルーピン先生と一緒にいるために、ジェームズ・ポッター達が動物もどきになったことを話したとき、また新たな人間がその場に現れた。
スネイプ先生が「透明マント」を脱ぎ捨て、杖をぴたりとルーピンに向けて立っていた。
「『暴れ柳』の根元でこれを見つけましてね。」
スネイプ先生は、杖をまっすぐルーピン先生の胸に突きつけたまま、「透明マント」を脇に投げ捨てた。
「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する。我輩がどうしてここを知ったのか、諸君は不思議に思っているだろうな?君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要なことはすべてわかった。君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ。」
「セブルス・・・・」
ルーピン先生が何か言いかけたが、スネイプはかまわず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思いつきませんでしたよ・・・・」
「セブルス、君は誤解している。君は、話を全部聞いていないんだ。説明させてくれ。シリウスはハリーを殺しにきたのではない。」
「今夜、また二人、アズカバン行きが出る。」
「シリウス・ブラックもルーピン先生もアズカバンにいく理由はない!!」
ナツキは杖をスネイプ先生に向けた。
「哀れだな・・・・ゴドリクソン。錯乱の呪文か、服従の呪いか。その男が何をしたのか、教えてやろうか?」
スネイプ先生はシリウス・ブラックを指差した。
「先生が言わなくても知ってます。私を助けたんだ。」
ナツキは譲らなかった。ルーピン先生が口を開いた。
「学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかね?」
バーン! スネイプ先生の杖から細い紐が蛇のように噴き出て、ルーピン先生に巻きついた。ルーピン先生は身動きできなくなった。怒りの唸り声をあげ、ブラックがスネイプ先生を襲おうとした。しかし、スネイプ先生はブラックの眉間にまっすぐ杖を突きつけた。
「やれるものならやるがいい。我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる。」
ナツキは迷わなかった。
「「「「エクスペリアームス!!」」」」
叫んだのはナツキだけではなかった。ハリー達も皆、同じ呪文を唱えた。スネイプ先生はノックアウトされた。
「こんなこと、君達がしてはいけなかった。」
ブラックがナツキとハリーを見ながら言った。
「私に任せておくべきだった。」
「エマンシパレ。」
ナツキはブラックの言い分をスルーして、ルーピン先生の縄を解いた。
「ナツキ、ハリー、ありがとう。」
「僕、まだあなたを信じるとは言ってません。でも、僕、ナツキのことは信じたいんです。ナツキのためです。話を聞かせてください。」
ルーピン先生の言葉にハリーが反発した。
「それでは、君に証拠を見せる時が来たようだ。君、ピーターを渡してくれ。さあ、」
ブラックの言葉にロンはスキャバーズをますますしっかりと胸に抱きしめた。
「冗談はやめてくれ。スキャバーズなんかに手を下すために、わざわざアズカバンを脱獄したって言うのかい?つまり・・・ねえ。ペティグリューがネズミに変身できたとしても、ネズミなんて何百万といるじゃないか。アズカバンに閉じ込められていたら、どのネズミが自分の探してるネズミかなんて、この人、どうやったらわかるって言うんだい?」
「そうだとも、シリウス。まともな疑問だよ。」
ルーピンがブラックに向かってちょっと眉根をよせた。
「あいつの居場所を、どうやって見つけ出したんだい?」
その答えは一年前の夏、「日刊予言者新聞」に載ったロンと家族の写真だった。そして、そこに、ロンの肩に、スキャバーズがいた。そのスキャバーズは、指が一本かけていた。
ルーピンがため息をついた。
「なんと単純明快なことだ・・・なんと小賢しい・・・あいつは自分で切ったのか?」
「変身する直前にな。あいつを追いつめた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。わたしがジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、わたしがやつに呪いをかけるより先に、やつは隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした。わたしには・・・・・奴が抱いていたナツキを呼び寄せることしかできなかった・・・・そしてあいつは素早く、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ・・・・」
「・・・私を抱いていた・・・・・?」
ナツキはどういうことだろうかと思ったが、シリウス・ブラックは話を続けた。しかしロンは信じることができずにいた。
「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」
ロンは、ベッドでゴロゴロ喉を鳴らしているクルックシャンクスを顎で指した。しかしクルックシャンクスはずっと、ブラックから真実を聞き協力していたのだ。
「ピーターを、わたしのところに連れてこようとした。しかし、できなかった。そこでわたしのためにグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた。誰か男の子のベッド脇の小机から持ってきたらしい。しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した。この猫は・・・クルックシャンクスという名だね?ピーターがベッドのシーツに血の痕を残していったと教えてくれた。・・・たぶん自分で自分を噛んだのだろう・・・そう、死んだと見せかけるのは、前にも一度うまくやったのだし・・・・」
この言葉でハリーはハッと我に返った。
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
ハリーは激しい語調で聞いた。
「おまえが、僕の両親を殺したと同じように、自分をも殺そうとしていると気づいたからじゃないか!」
「違う。ハリー。」
ルーピンが口を挟んだ。
「ハリー、わからないのか? 私たちは、ずっと、シリウスが君のご両親を裏切ったと思っていた。ピーターがシリウスを追いつめたと思っていた。しかし、それは逆だった。わからないかい? ピーターが君のお父さん、お母さんを裏切ったんだ。シリウスがピーターを追いつめたんだ。」
「嘘だ!ブラックが『秘密の守人』だった!ブラック自身があなたが来る前にそう言ったんだ。こいつは、自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」
ハリーはブラックを指差していた。ブラックはゆっくりと首を振った。落ち窪んだ目が急に潤んだように光った。
「ハリー、わたしが殺したも同然だ。最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのはわたしだ。ピーターに代えるように勧めた・・・わたしが悪いのだ。たしかに・・・二人が死んだ夜、わたしはピーターのところに行く手はずになっていた。ピーターが無事かどうか、確かめにいくことにしていた。ところが、ピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った跡がない。どうもおかしい。わたしは不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。そして、家が壊され、二人が死んでいるのを見た時・・・・わたしは悟った。ピーターが何をしたのかを。わたしが何をしてしまったのかを。」
涙声になり、ブラックは顔をそむけた。
「話はもう十分だ。」
ルーピン先生の声には、ハリーがこれまで聞いたことがないような、情け容赦のない響きがあった。
「本当は何が起こったのか、証明する道は唯一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい。」
ルーピン先生が答えた。ロンはためらったが、とうとうスキャバーズをさし出した。スキャバーズはキーキーと喚き続け、のた打ち回り、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
ブラックはもう、スネイプの杖をベッドから拾い上げていた。
ルーピン先生はスキャバーズを片手にしっかりつかみ、もう一方の手で杖を握った。そしてブラックと共に呪文を使った。
一瞬、スキャバーズは宙に浮き、そこに静止した。頭が床からシュッと上に伸び、手足が生え、次の瞬間、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩り、後ずさりしながら立っていた。
小柄な男だ。何となくネズミ臭さが漂っていた。男はハァハァと浅く、速い息遣いで、周りの全員を見回した。
「やあ、ピーター。しばらくだったね。」
ルーピン先生が朗らかに声をかけた。
「シ、シリウス・・・リ、リーマス・・・友よ・・・なつかしの友よ・・・・・」
ブラックの杖腕が上がったが、ルーピン先生がその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。
ナツキはその声を聞いて、感じたこともない怒りを感じた。
「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、いまおしゃべりしていたんだがね、ピーター。君はあのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな。」
「リーマス・・・君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね。・・・あいつはわたしを殺そうとしたんだ、リーマス・・・」
「嘘だ!!!」
ナツキは叫んだ。
「その声は・・・・お母さんに死の呪文をかけた声と同じだ!!」
「・・・・ナツキ、落ち着くんだ。真相を、ハリー達にも聞かせないといけない。」
ルーピン先生が静かに言った。
「こいつはジェームズとリリーを殺した。今度はわたしも殺そうとしてるんだ。・・・リーマス、助けておくれ・・・」
暗い底知れない目でペティグリューを睨みつけたブラックの顔が、いままで以上に骸骨のような形相に見えた。
「こいつがわたしを追ってくるとわかっていた!こいつがわたしを狙って戻ってくるとわかっていた!十二年も、わたしはこの時を待っていた!」
「シリウスがアズカバンを脱獄するとわかっていたと言うのか?いまだかつて脱獄した者は誰もいないのに?」
ルーピン先生は眉根を寄せた。
「こいつは、わたしたちの誰もが、夢の中でしか叶わないような闇の力を持っている!それがなければ、どうやってあそこから出られる?おそらく『名前を言ってはいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」
ブラックが笑いだした。ぞっとするような、虚ろな笑いが部屋中に響いた。
「ヴォルデモートがわたしに術を?・・・どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気づいたか?無理もないな、ピーター。昔の仲間はおまえのことをあまり快く思っていないようだ。違うか?」
「何のことやら・・・シリウス、君が何を言っているのやら・・・」
ペティグリューはますます荒い息をしながらモゴモゴ言った。
「おまえは十二年もの間、わたしから逃げていたのではない。ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたのだ。ヴォルデモートはおまえの情報でポッターの家に行った。そこでヴォルデモートが破滅した。ところがヴォルデモートの仲間は、一網打尽でアズカバンに入れられたわけではなかった。ピーター、その連中が、もしおまえがまだ生きていると風の便りに聞いたら・・・」
「何のことやら・・・何を話しているやら・・・・リーマス、君は信じないだろう・・・・こんなバカげた・・・・」
「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ。」
感情の起伏を示さず、ルーピンが言った。
「無実だ。でも怖かった!ヴォルデモート支持者がわたしを追っているなら、それは、大物の一人をわたしがアズカバンに送ったからだ・・・スパイのシリウス・ブラックだ!」
ブラックの顔が歪んだ。
「よくもそんなことを。」
ブラックは、突然、あの熊のように大きな犬に戻ったように唸った。
「わたしが?ヴォルデモートのスパイ?わたしがいつ、自分より強く、力のある者たちにへこへこした?しかし、ピーター、おまえは、おまえがスパイだということを、なぜ初めから見抜けなかったのか。迂闊だった。おまえはいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった。そうだな?かつてはそれが我々だった・・・わたしとリーマス・・・それにジェームズだった・・・・」
「わたしが、スパイなんて、正気の沙汰じゃない。けっして・・・どうしてそんなことが言えるのか、わたしにはさっぱり、」
「ジェームズとリリーはわたしが勧めたからおまえを『秘密の守人』にしたんだ。」
ブラックは歯噛みをした。その激しさに、ぺティグリューはたじたじと一歩下がった。
「わたしはこれこそ完璧な計画だと思った・・・・ヴォルデモートはきっとわたしを追う。おまえのような弱虫の、能なしを利用しようとは夢にも思わないだろう。・・・ヴォルデモートにポッター一家を売った時は、さぞかし、おまえの惨めな生涯の最高の瞬間だったろうな。」
ペティグリューの蒼ざめた顔で窓やドアのほうにちらちら視線を走らせていた。
「ルーピン先生、」
ハーマイオニーがおずおず口を開いた。
「あの・・・スキャバーズ、いえ、この・・・この人・・・ハリーの寮で三年間同じ寝室にいたんです。『例のあの人』の手先なら、いままでハリーを傷つけなかったのは、どうしてかしら?」
「そうだ!ありがとう!リーマス、聞いたかい?ハリーの髪の毛一本傷つけてはいない!そんなことをする理由がありますか?」
「その理由を教えてやろう。」
ブラックが言った。
「おまえは、自分のために得になることがなければ、誰のためにも何もしないやつだ。ヴォルデモートは十二年も隠れたままで、半死半生だと言われている。アルバス・ダンブルドアの目と鼻の先で、しかもまったく力を失った残骸のような魔法使いのために、殺人などするおまえか?そもそも魔法使いの家族に入り込んで飼ってもらったのは何のためだ?情報が聞ける状態にしておきたかったんだろう?え?おまえの昔の保護者が力を取り戻し、またその下に戻っても安全だという事態に備えて・・・・・」
ペティグリューは何度か口をパクパクさせた。話す能力をなくしたかに見えた。ブラックは口を開いた。
「信じてくれ、ハリー。わたしはけっしてジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら、わたしが死ぬほうがましだ。」
ペティグリューは、ガックリと膝をついた。そのままにじり出て、祈るように手を握り合わせ、這いつくばった。
「一緒にこいつを殺るか?」
「ああ、そうしよう。」
ルーピンが厳粛に言った。ルーピン先生とブラックは杖を向けた。
「やめてくれ・・・やめて・・・・」
ぺティグリューがあえいだ。そして、ロンのそばに転がり込んだ。
「ロン・・・わたしはいい友達・・・いいペットだったろう?わたしを殺させないでくれ、ロン。お願いだ・・・君はわたしの味方だろう?」
「自分のベッドにおまえを寝かせてたなんて!」
ペティグリューは膝を折ったまま向きを変え、前にのめりながらハーマイオニーのローブの裾をつかんだ。
「やさしいお嬢さん、賢いお嬢さん、あなたは・・・あなたならそんなことをさせないでしょう・・・助けて・・・」
ハーマイオニーはローブを引っ張り、しがみつくペティグリューの手からもぎ取り、怯えきった顔で壁際まで下がった。ペティグリューは、止めどなく震えながら、跪き、ハリーに向かってゆっくりと顔を上げた。
「ハリー・・・ハリー・・・君はお父さんに生き写しだ・・・そっくりだ・・・」
「ハリーに話しかけるとは、どういう神経だ?」
ブラックが大声を出した。
「ハリーに顔向けができるか?この子の前で、ジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?」
ペティグリューはナツキを見た。
「ナツキ・・・ナツキ・・・アルバ先生は情け深い方だったよ。・・君も・・・君も・・・・・」
「俺の娘にあんなことをしておいて、よくそんなことが言えるな!!!」
ブラックは耐えられないとばかりに激昂した。
「ジェームズとリリーの死を知って、お前を追いかけた先の光景に、私がどれだけ絶望したかわかるのか!?お前は・・・私が追ってくることを恐れ、ナツキを人質にしようと拐っていたんだ!!!しかもそのためにエリザベスにまで手をかけて!!!」
ブラックとルーピン先生が大股にペティグリューに近づき、肩をつかんで床の上に仰向けに叩きつけた。ペティグリューは座り込んで、恐怖にひくひく痙攣しながら二人を見つめた。
「おまえは、ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った。そしてエリザベスに手をかけたんだ。」
ブラックも体を震わせていた。
「否定するのか?」
ペティグリューはわっと泣きだした。おぞましい光景だった。
「シリウス、シリウス、わたしに何ができたというのだ?わたしは怖かった。シリウス、わたしは君や、リーマスやジェームズのように勇敢ではなかった。わたしはやろうと思ってやったのではない・・・・あの『名前を言ってはいけないあの人』が無理やり・・・・」
「嘘をつくな!」
ブラックが割れるような大声を出した。
「おまえは、ジェームズとリリーが死ぬ一年も前から、『あの人』に密通していた!おまえがスパイだった!」
「君にはわかってないんだ!シリウス、わたしが殺されかねなかったんだ!」
「それなら、死ねばよかったんだ!友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう!」
ブラックとルーピン先生が肩を並べて立ち、杖を上げた。
「おまえは気づくべきだったな。」
ルーピン先生が静かに言った。
「ヴォルデモートがおまえを殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ。」
「「やめて!!」」
ナツキとハリーが叫び、動いたのは同時だった。
「殺してはだめだ。殺しちゃいけない。」
ハリーはあえぎながら言った。ブラックとルーピン先生はショックを受けたようだった。
「ハリー、ナツキ、このクズのせいで、君達は親を亡くしたんだぞ。」
ブラックが唸った。
「このへこへこしているろくでなしは、あの時、君たちも死んでいたら、それを平然と眺めていたはずだ。聞いただろう。小汚い自分の命のほうが、何よりも大事だったのだ。」
「私だって殺してやりたいよ!!!・・・・でも・・この人が死んだら・・・・あなたの無実はどう証明すればいいの?」
ナツキの瞳が潤んだ。殺してやりたい。こんな男、殺してやりたい。でも、シリウス・ブラックが、父が、幸せになる未来につなげたかった。
「こいつを城まで連れていこう。僕たちの手で吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい・・・・殺すことだけはやめて。」
「ハリー!ナツキ!君たちは、ありがとう・・・こんなわたしに・・・ありがとう・・・・」
「おまえのために止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が、おまえみたいなもののために、殺人者になるのを望まないと思っただけだ。」
ブラックとルーピン先生は互いに顔を見合わせていた。それから二人同時に杖を下ろした。
「いいだろう。ハリー、脇に退いてくれ。」
ルーピン先生が言った。
「縛り上げるだけだ。誓ってそれだけだ。」
今度はルーピン先生の杖の先から、細い紐が噴き出て、次の瞬間、ペティグリューは縛られ、さるぐつわを噛まされて床の上でもがいていた。
「しかし、ピーター、もし変身したら・・・・やはり殺す。いいね、ハリー?ナツキ?」
ナツキとハリーは頷いた。それを見てルーピン先生が急にテキパキとさばきはじめた。
「ロン、わたしはマダム・ポンフリーほどうまく骨折を治すことができないから、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが一番いいだろう。」
ルーピン先生が呪文を唱え、副え木で固定したロンの足に包帯が巻きついた。
「スネイプ先生はどうしますか?」
ハーマイオニーが、首うなだれて伸びているスネイプ先生を見下ろしながら、小声で言った。
「こっちは別に悪いところはない。君たち四人とも、ちょっと・・・過激にやりすぎただけだ。スネイプはまだ気絶したままだ。ウム。我々が安全に城に戻るまで、このままにしておくのが一番いいだろう。こうして運べばいい。モビリコーパス!」
手首、首、膝に見えない糸が取りつけられたように、スネイプ先生の体が引っ張り上げられ、立ち上がった。頭部はまだぐらぐらと据わり心地悪そうに垂れ下がったままで、まるで異様な操り人形だ。
「誰か二人、こいつとつながっておかないと。」
ブラックが足の爪先でペティグリューを小突きながら言った。ルーピン先生とロンがそれに立候補した。
ペティグリューは二本足で立ち、その左腕はルーピンの右腕に、そして右腕はロンの左腕につながれていた。クルックシャンクスがひらりとベッドから飛び降り、先頭に立って部屋を出た。瓶洗いブラシのような尻尾を誇らしげにきりっと上げながら。