アズカバンの囚人
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試験が迫っていた。ナツキは成績にはそれなりの自信があったが、唯一心配事があった。
「ナツキ?どうした?」
談話室で闇の魔術に対する防衛術の教科書を開いてボーッとしているとジョージが不思議に思ったのか声をかけてきた。
「ルーピン先生は『まね妖怪』を試験に出すと思うの。でも、ちょっと自信がなくて。」
おそらく、いや、間違いなく、トム・リドル少年が現れるだろう。彼を面白おかしくする想像が、どうしてもできる気がしない。
ジョージはジニーが拐われたことでトムの話を知っているから、教えても大丈夫だろうと思い、最も怖いものがトム・リドルであることを打ち明けた。
「ナツキがそんなに怖い思いを・・・いや、当然か。記憶とはいえ、あの人に変わりはないもんな・・・・。待ってろ。面白おかしくするのは俺の専売特許だ。えーと、俺ならまずはクソ爆弾を投げるな。」
「え!?」
ジョージの言葉にナツキは目が点になった。
「く、クソ爆弾を?」
「せっかくだ。本物にはできねえことしてやろうぜ。そうだな、クソ爆弾ついでに、ズボンの後ろに『闇の帝王専用オムツ』ってラベルでも貼っとけ。」
ナツキはその光景を想像してしまった。
「ぷ・・ふふ・・・・あはは!!!何それ!最高!」
ナツキは声を上げて笑った。笑いすぎてお腹が捩れそうになった。
「はー、よし、それで頑張ってみる。」
「まあ、でもあれだな。どうしても怖くなっちまったら、俺を思いだせ。」
「え?」
「心強いだろ?何ならボガートが俺になったっていいぜ。」
「そうだね。ふふ、ジョージがいれば、怖くないや。」
試験が始まり、週明けの城は異様な静けさに包まれた。月曜日の昼食時、三年生は「変身術」の教室から、血の気も失せ、よれよれになって出てきて、結果を比べ合ったり、試験の課題が難しすぎたと嘆いたりしていた。ティーポットを陸亀に変えるという課題もあった。ナツキはそれなりに上手くいった自信があった。
一つまた一つと試験科目が終わっていく。
闇の魔術に対する防衛術の試験は、ホグワーツ城の外での障害物競走のようで、授業で学んだいろいろな生物を攻略するものだった。そして、その最後に「まね妖怪」が現れた。
黒髪の整った顔の少年、トム・リドルは、ねっとりした視線をこちらに向けていた。
"せっかくだ。本物にはできねえことしてやろうぜ。"
ジョージの言葉が蘇った。
「・・・リディクラス!!」
一瞬の静寂。そして、
ブシュッ!!という爆音とともに足元でクソ爆弾が爆発し、薄茶色の煙に包まれる。煙の中から現れたのは、真面目な顔でマントをまといながらも、お尻に『闇の帝王専用オムツ』のラベルが貼られたトム・リドル。
「・・・ぷっ、あははははは!」
ナツキが「まね妖怪」と戦ったトランクから出るとルーピン先生が立っていた。
「素晴らしいよ、ナツキ!・・・満点だ。」
先生はそうこそっと耳打ちした。ナツキは嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
早くジョージに教えてあげたい。はやる気持ちを抑え、ナツキはハリー達と城に戻った。その途中、玄関ホールに魔法大臣がいた。
「やあ、ハリー!試験を受けてきたのかね?そろそろ試験も全部終わりかな?」
「はい。」
ハリーが答えた。ナツキ、ハーマイオニー、ロンは魔法大臣と親しく話すような仲ではないので、後ろのほうで何となくうろうろしていた。
「いい天気だ。それなのに・・・・。ハリー、あまりうれしくないお役目で来たんだがね。『危険生物処理委員会』が私に狂暴なヒッポグリフの処刑に立ち会ってほしいと言うんだ。ブラック事件の状況を調べるのにホグワーツに来る必要もあったので、ついでに立ち会ってくれというわけだ。」
「もう控訴裁判は終わったということですか?」
ロンが思わず進み出て口を挟んだ。
「いや、いや。今日の午後の予定だがね。」
「それだったら、処刑に立ち会う必要なんか全然なくなるかもしれないじゃないですか!ヒッポグリフは自由になるかも知れない!」
大臣が答える前に、その背後の扉を開けて、城の中から二人の魔法使いが現れた。一人はヨボヨボで、見ている目の前で萎び果てていくような大年寄り、もう一人は真っ黒な細い口髭を生やした、ガッチリと大柄の魔法使いだ。「危険生物処理委員会」の委員たちなのだろう。黒髭の男はベルトに挟んだ斧の刃を撫で上げていた。
その光景をみて逃げるように城の中へと入った。
「あいつら、見たか?斧まで用意してきてるんだぜ。どこが公正裁判だって言うんだ!」
「ロン、あなたのお父さま、魔法省で働いてるんでしょ?お父さまの上司に向かって、そんなこと言えないわよ!」
ハーマイオニーはそう言いながらも、自分も相当まいっているようだった。
「ハグリッドが今度は冷静になって、ちゃんと弁護しさえすれば、バックビークを処刑できるはずないじゃない・・・」
「だ、大丈夫だよ。ロンと私とで、実際の裁判を想定して、練習までしたんだよ。ハグリッドも、たくさん練習したし、上手くできてたよ・・・・」
ナツキの声はだんだんと尻すぼみになった。楽しいはずの昼食も楽しむことはできなかった。
ナツキとハーマイオニーは「マグル学」、ハリーとロンは「占い学」の試験を受けるためにそれぞれ分かれた。
試験が終わるとナツキとハーマイオニーは談話室へと共に戻った。
「さ、最後の問題って3ポンド20ペンスであってる?」
「違うわ、ナツキ。あれは3ポンド10ペンスよ。20ペンス硬貨と10ペンス硬貨を間違えたのね。」
「えっ、あれ10ペンスだったの?マグルのお金ってなんであんなに似てるの・・・・・じゃ、その前の問題は?『髪を乾かす』であってる?」
ハーマイオニーは一瞬キョトンとした。
「違うわ、ナツキ。あれはドライヤーじゃなくて電気ケトルよ。『湯を沸かす』が正解だわ。」
「で、でんきけとる・・・・・」
ナツキは気づいた。どうやら思ったよりマグル学の適性がないことに。
そんなこんなでガッカリしながら談話室でロンとハーマイオニーとハリーを待っていると、レオーネが談話室まで飛んできた。ハグリッドからだった。
ーーーーーーーーーー
控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちにできるこたぁ何にもねえんだから、来るなよ。おまえさんたちに見せたくねえ。
ーーーーーーーーーー
手紙は涙で濡れてかろうじて文字が読める状態だった。その手紙に息を呑んでいると、ハリーもやってきた。
「行かなきゃ。」
ハリーが即座に言った。
「ハグリッドが一人で死刑執行人を待つなんて、そんなことさせられないよ。」
「・・・そうだね。そんなことできない・・・・。そばにいてあげなきゃ!」
ハリーとナツキは口を固く引き結んだ。しかし処刑は日没だ。
「『透明マント』さえあればなあ・・・」
ハリーは先日のホグズミードの時に透明マントを置いてきてしまったのだ。
「どこにあるの?」
ハーマイオニーが聞いた。ハリーは、隻眼の魔女像の下にある抜け道に置いてきた次第を説明し、締めくくりにこう言った。
「スネイプがあの辺でまた僕を見かけたりしたら、僕、とっても困ったことになるよ。」
「それはそうだわ。スネイプが見かけるのがあなたならね。魔女の背中のコブはどうやって開けばいいの?」
「それは、杖で叩いて『ディセンディウム』って唱えるんだ。でも・・・」
ハーマイオニーは最後まで聞かずにさっさと談話室を横切り、「太った婦人」の肖像画を開け、姿を消した。十五分後、ハーマイオニーは、大事そうにたたんだ銀色の「透明マント」をローブの下に入れて現れた。
そして夜、夕食後に四人は透明マントにぎちぎちに入ってハグリッドの小屋へ向かった。
「来ちゃなんねえだろうが!」
ハグリッドはそう囁きながらも、小屋へ入れてくれた。ハグリッドは茫然自失としていた。
「茶、飲むか?」
ヤカンに伸びたハグリッドのでっかい手が、ブルブル震えていた。
「ハグリッド、バックビークはどこなの?」
ハーマイオニーがためらいがちに聞いた。
「俺・・・俺、あいつを外に出してやった。俺のかぼちゃ畑さ、つないでやった。木やなんか見たほうがいいだろうし・・・新鮮な空気も吸わせて・・・そのあとで・・・」
ハグリッドの手が激しく震え、持っていたミルク入れが手から滑り落ち、粉々になって床に飛び散った。
「ハグリッド、誰でもいい、何でもいいから、できることはないの?」
ハリーはハグリッドと並んで腰掛け、語気を強めて聞いた。
「そうだよ。私たちが、逃がしたりとかはできないの?」
「だめだ。ナツキ。それはならねえ。そんなのすぐにバレちまう。バレたら、お前さんら、退学どころじゃ済まねえかもしんねえ・・・」
「ダンブルドアは・・・」
「ダンブルドアは努力なさった。だけんど、委員会の決定を覆す力はお持ちじゃねえ。ルシウス・マルフォイがどんなやつか知っちょろうが、連中を脅したんだ、そうなんだ。だけんど、あっという間にスッパリいく・・・俺がそばについててやるし・・・」
ハグリッドはゴクリと唾を飲み込んだ。わずかの望み、慰めの欠けらを求めるかのように、ハグリッドの目が小屋のあちこちを虚ろにさまよった。
「ダンブルドアがおいでなさる。ことが・・・事が行われる時に。今朝手紙をくださった。俺の・・・俺のそばにいたいとおっしゃる。偉大なお方だ、ダンブルドアは・・・・」
代わりのミルク入れを探して、ハグリッドの戸棚をかき回していたハーマイオニーが、こらえきれずに、小さく、短く、すすり泣きを漏らした。ミルク入れを手に持ち、ハーマイオニーは背筋を伸ばして、ぐっと涙をこらえた。
「おまえさんたちは城に戻るんだ。おまえさんたちにゃ見せたくねえ。それに、初めっから、ここに来てはなんねえんだ・・・ファッジやダンブルドアが、おまえさんたちが許可ももらわずに外にいるのを見つけたら、ハリー、ナツキ、おまえさんら、厄介なことになるぞ。」
声もなく、ハーマイオニーの頬を涙が流れ落ちていた。しかし、ハグリッドに見せまいと、ハーマイオニーはお茶の支度にせわしなく動き回っていた。
「きゃあ!」
ミルクを瓶から容器に注ごうとしていたハーマイオニーが、突然叫び声をあげた。なんとスキャバースがそこにいたのだ。
「スキャバーズ!スキャバーズ、こんなところで、いったい何してるんだ?」
スキャバーズはボロボロだった。前よりやせこけ、毛がバッサリ抜けてあちらこちらが大きく禿げている。しかもロンの手の中で、必死に逃げようとするかのように身を捩っている。
「大丈夫だってば、スキャバーズ!猫はいないよ!ここにはおまえを傷つけるものは何にもないんだから!」
ハグリッドが急に立ち上がった。
「連中が来おった・・・・」
遠くの城の階段を何人かが下りてくる。先頭はダンブルドア先生で、その隣をせかせか歩いているのはファッジだ。二人の後ろから、委員会のメンバーの一人、ヨボヨボの大年寄りと、死刑執行人のマクネアがやってくる。
「おまえさんら、行かねばなんねえ。ここにいるとこを連中に見つかっちゃなんねえ・・・行け、はよう・・・・」
ロンはスキャバーズをポケットに押し込み、ハーマイオニーは「マント」を取り上げた。「裏口から出してやる」とハグリッドが言った。
裏庭に出て、ナツキは、かぼちゃ畑の後ろにある木につながれているバックビークを見た。バックビークは何かが起こっていると感じているらしい。猛々しい頭を左右に振り、不安げに地面を掻いている。
「・・・バックビーク・・・・」
ナツキがつぶやくと、バックビークがこちらをチラリとみた。目があった。
「・・・無理だよ。ハグリッド。バックビークは何も悪くないのに・・・・。」
「だめだ。ナツキ。もう行け。おまえさんらも。・・・・・行け!」
ハグリッドがきっぱりと言った。
「おまえさんたちが面倒なことになったら、ますます困る。そんでなくても最悪なんだ!」
しかたなかった。ハーマイオニーがナツキとハリーとロンにマントをかぶせた時、小屋の前で人声がするのが聞こえた。「急ぐんだ」ハグリッドの声がかすれた。
誰かが戸を叩いている。同時にハグリッドが大股で小屋に戻っていった。
ゆっくりと、四人は押し黙ってハグリッドの小屋を離れた。小屋の反対側に出た時、表の戸がバタンと閉まるのが聞こえた。
「お願い、急いで」ハーマイオニーが囁いた。
「耐えられないわ、私、とっても・・・」
西の空はルビーのように紅く燃えていた。ロンはぴたっと立ち止まったので、「ロン、お願いよ」とハーマイオニーが急かした。
「スキャバーズが・・・こいつ、どうしても・・・じっとしてないんだ・・・・」
ロンは、スキャバーズをポケットに押し込もうと前屈みになったが、ネズミは大暴れで、狂ったようにキーキー鳴きながら、ジタバタと身を捩り、ロンの手にガブリと噛みつこうとした。
「スキャバーズ、僕だよ。このバカヤロ、ロンだってば。」
ロンが声を殺して言った。三人の背後で戸が開く音がして、人声が聞こえた。ナツキは背後の低く響く声を聞くまいと努力した。ロンがまた立ち止まった。
「こいつを押さえてられないんだ。スキャバーズ、こら、黙れ。みんなに聞こえちまうよ・・・」
ネズミはキーキー喚き散らしていたが、その声でさえハグリッドの庭から聞こえてくる音をかき消すことはできなかった。誰という区別もつかない男たちの声が混じり合い、ふと静かになり、そして、突如、シュッ、ドサッとまぎれもない斧の音。
ハーマイオニーがよろめいた。
「やってしまった!し、信じられないわ・・・・あの人たち、やってしまったんだわ!」
「ナツキ?どうした?」
談話室で闇の魔術に対する防衛術の教科書を開いてボーッとしているとジョージが不思議に思ったのか声をかけてきた。
「ルーピン先生は『まね妖怪』を試験に出すと思うの。でも、ちょっと自信がなくて。」
おそらく、いや、間違いなく、トム・リドル少年が現れるだろう。彼を面白おかしくする想像が、どうしてもできる気がしない。
ジョージはジニーが拐われたことでトムの話を知っているから、教えても大丈夫だろうと思い、最も怖いものがトム・リドルであることを打ち明けた。
「ナツキがそんなに怖い思いを・・・いや、当然か。記憶とはいえ、あの人に変わりはないもんな・・・・。待ってろ。面白おかしくするのは俺の専売特許だ。えーと、俺ならまずはクソ爆弾を投げるな。」
「え!?」
ジョージの言葉にナツキは目が点になった。
「く、クソ爆弾を?」
「せっかくだ。本物にはできねえことしてやろうぜ。そうだな、クソ爆弾ついでに、ズボンの後ろに『闇の帝王専用オムツ』ってラベルでも貼っとけ。」
ナツキはその光景を想像してしまった。
「ぷ・・ふふ・・・・あはは!!!何それ!最高!」
ナツキは声を上げて笑った。笑いすぎてお腹が捩れそうになった。
「はー、よし、それで頑張ってみる。」
「まあ、でもあれだな。どうしても怖くなっちまったら、俺を思いだせ。」
「え?」
「心強いだろ?何ならボガートが俺になったっていいぜ。」
「そうだね。ふふ、ジョージがいれば、怖くないや。」
試験が始まり、週明けの城は異様な静けさに包まれた。月曜日の昼食時、三年生は「変身術」の教室から、血の気も失せ、よれよれになって出てきて、結果を比べ合ったり、試験の課題が難しすぎたと嘆いたりしていた。ティーポットを陸亀に変えるという課題もあった。ナツキはそれなりに上手くいった自信があった。
一つまた一つと試験科目が終わっていく。
闇の魔術に対する防衛術の試験は、ホグワーツ城の外での障害物競走のようで、授業で学んだいろいろな生物を攻略するものだった。そして、その最後に「まね妖怪」が現れた。
黒髪の整った顔の少年、トム・リドルは、ねっとりした視線をこちらに向けていた。
"せっかくだ。本物にはできねえことしてやろうぜ。"
ジョージの言葉が蘇った。
「・・・リディクラス!!」
一瞬の静寂。そして、
ブシュッ!!という爆音とともに足元でクソ爆弾が爆発し、薄茶色の煙に包まれる。煙の中から現れたのは、真面目な顔でマントをまといながらも、お尻に『闇の帝王専用オムツ』のラベルが貼られたトム・リドル。
「・・・ぷっ、あははははは!」
ナツキが「まね妖怪」と戦ったトランクから出るとルーピン先生が立っていた。
「素晴らしいよ、ナツキ!・・・満点だ。」
先生はそうこそっと耳打ちした。ナツキは嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
早くジョージに教えてあげたい。はやる気持ちを抑え、ナツキはハリー達と城に戻った。その途中、玄関ホールに魔法大臣がいた。
「やあ、ハリー!試験を受けてきたのかね?そろそろ試験も全部終わりかな?」
「はい。」
ハリーが答えた。ナツキ、ハーマイオニー、ロンは魔法大臣と親しく話すような仲ではないので、後ろのほうで何となくうろうろしていた。
「いい天気だ。それなのに・・・・。ハリー、あまりうれしくないお役目で来たんだがね。『危険生物処理委員会』が私に狂暴なヒッポグリフの処刑に立ち会ってほしいと言うんだ。ブラック事件の状況を調べるのにホグワーツに来る必要もあったので、ついでに立ち会ってくれというわけだ。」
「もう控訴裁判は終わったということですか?」
ロンが思わず進み出て口を挟んだ。
「いや、いや。今日の午後の予定だがね。」
「それだったら、処刑に立ち会う必要なんか全然なくなるかもしれないじゃないですか!ヒッポグリフは自由になるかも知れない!」
大臣が答える前に、その背後の扉を開けて、城の中から二人の魔法使いが現れた。一人はヨボヨボで、見ている目の前で萎び果てていくような大年寄り、もう一人は真っ黒な細い口髭を生やした、ガッチリと大柄の魔法使いだ。「危険生物処理委員会」の委員たちなのだろう。黒髭の男はベルトに挟んだ斧の刃を撫で上げていた。
その光景をみて逃げるように城の中へと入った。
「あいつら、見たか?斧まで用意してきてるんだぜ。どこが公正裁判だって言うんだ!」
「ロン、あなたのお父さま、魔法省で働いてるんでしょ?お父さまの上司に向かって、そんなこと言えないわよ!」
ハーマイオニーはそう言いながらも、自分も相当まいっているようだった。
「ハグリッドが今度は冷静になって、ちゃんと弁護しさえすれば、バックビークを処刑できるはずないじゃない・・・」
「だ、大丈夫だよ。ロンと私とで、実際の裁判を想定して、練習までしたんだよ。ハグリッドも、たくさん練習したし、上手くできてたよ・・・・」
ナツキの声はだんだんと尻すぼみになった。楽しいはずの昼食も楽しむことはできなかった。
ナツキとハーマイオニーは「マグル学」、ハリーとロンは「占い学」の試験を受けるためにそれぞれ分かれた。
試験が終わるとナツキとハーマイオニーは談話室へと共に戻った。
「さ、最後の問題って3ポンド20ペンスであってる?」
「違うわ、ナツキ。あれは3ポンド10ペンスよ。20ペンス硬貨と10ペンス硬貨を間違えたのね。」
「えっ、あれ10ペンスだったの?マグルのお金ってなんであんなに似てるの・・・・・じゃ、その前の問題は?『髪を乾かす』であってる?」
ハーマイオニーは一瞬キョトンとした。
「違うわ、ナツキ。あれはドライヤーじゃなくて電気ケトルよ。『湯を沸かす』が正解だわ。」
「で、でんきけとる・・・・・」
ナツキは気づいた。どうやら思ったよりマグル学の適性がないことに。
そんなこんなでガッカリしながら談話室でロンとハーマイオニーとハリーを待っていると、レオーネが談話室まで飛んできた。ハグリッドからだった。
ーーーーーーーーーー
控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちにできるこたぁ何にもねえんだから、来るなよ。おまえさんたちに見せたくねえ。
ーーーーーーーーーー
手紙は涙で濡れてかろうじて文字が読める状態だった。その手紙に息を呑んでいると、ハリーもやってきた。
「行かなきゃ。」
ハリーが即座に言った。
「ハグリッドが一人で死刑執行人を待つなんて、そんなことさせられないよ。」
「・・・そうだね。そんなことできない・・・・。そばにいてあげなきゃ!」
ハリーとナツキは口を固く引き結んだ。しかし処刑は日没だ。
「『透明マント』さえあればなあ・・・」
ハリーは先日のホグズミードの時に透明マントを置いてきてしまったのだ。
「どこにあるの?」
ハーマイオニーが聞いた。ハリーは、隻眼の魔女像の下にある抜け道に置いてきた次第を説明し、締めくくりにこう言った。
「スネイプがあの辺でまた僕を見かけたりしたら、僕、とっても困ったことになるよ。」
「それはそうだわ。スネイプが見かけるのがあなたならね。魔女の背中のコブはどうやって開けばいいの?」
「それは、杖で叩いて『ディセンディウム』って唱えるんだ。でも・・・」
ハーマイオニーは最後まで聞かずにさっさと談話室を横切り、「太った婦人」の肖像画を開け、姿を消した。十五分後、ハーマイオニーは、大事そうにたたんだ銀色の「透明マント」をローブの下に入れて現れた。
そして夜、夕食後に四人は透明マントにぎちぎちに入ってハグリッドの小屋へ向かった。
「来ちゃなんねえだろうが!」
ハグリッドはそう囁きながらも、小屋へ入れてくれた。ハグリッドは茫然自失としていた。
「茶、飲むか?」
ヤカンに伸びたハグリッドのでっかい手が、ブルブル震えていた。
「ハグリッド、バックビークはどこなの?」
ハーマイオニーがためらいがちに聞いた。
「俺・・・俺、あいつを外に出してやった。俺のかぼちゃ畑さ、つないでやった。木やなんか見たほうがいいだろうし・・・新鮮な空気も吸わせて・・・そのあとで・・・」
ハグリッドの手が激しく震え、持っていたミルク入れが手から滑り落ち、粉々になって床に飛び散った。
「ハグリッド、誰でもいい、何でもいいから、できることはないの?」
ハリーはハグリッドと並んで腰掛け、語気を強めて聞いた。
「そうだよ。私たちが、逃がしたりとかはできないの?」
「だめだ。ナツキ。それはならねえ。そんなのすぐにバレちまう。バレたら、お前さんら、退学どころじゃ済まねえかもしんねえ・・・」
「ダンブルドアは・・・」
「ダンブルドアは努力なさった。だけんど、委員会の決定を覆す力はお持ちじゃねえ。ルシウス・マルフォイがどんなやつか知っちょろうが、連中を脅したんだ、そうなんだ。だけんど、あっという間にスッパリいく・・・俺がそばについててやるし・・・」
ハグリッドはゴクリと唾を飲み込んだ。わずかの望み、慰めの欠けらを求めるかのように、ハグリッドの目が小屋のあちこちを虚ろにさまよった。
「ダンブルドアがおいでなさる。ことが・・・事が行われる時に。今朝手紙をくださった。俺の・・・俺のそばにいたいとおっしゃる。偉大なお方だ、ダンブルドアは・・・・」
代わりのミルク入れを探して、ハグリッドの戸棚をかき回していたハーマイオニーが、こらえきれずに、小さく、短く、すすり泣きを漏らした。ミルク入れを手に持ち、ハーマイオニーは背筋を伸ばして、ぐっと涙をこらえた。
「おまえさんたちは城に戻るんだ。おまえさんたちにゃ見せたくねえ。それに、初めっから、ここに来てはなんねえんだ・・・ファッジやダンブルドアが、おまえさんたちが許可ももらわずに外にいるのを見つけたら、ハリー、ナツキ、おまえさんら、厄介なことになるぞ。」
声もなく、ハーマイオニーの頬を涙が流れ落ちていた。しかし、ハグリッドに見せまいと、ハーマイオニーはお茶の支度にせわしなく動き回っていた。
「きゃあ!」
ミルクを瓶から容器に注ごうとしていたハーマイオニーが、突然叫び声をあげた。なんとスキャバースがそこにいたのだ。
「スキャバーズ!スキャバーズ、こんなところで、いったい何してるんだ?」
スキャバーズはボロボロだった。前よりやせこけ、毛がバッサリ抜けてあちらこちらが大きく禿げている。しかもロンの手の中で、必死に逃げようとするかのように身を捩っている。
「大丈夫だってば、スキャバーズ!猫はいないよ!ここにはおまえを傷つけるものは何にもないんだから!」
ハグリッドが急に立ち上がった。
「連中が来おった・・・・」
遠くの城の階段を何人かが下りてくる。先頭はダンブルドア先生で、その隣をせかせか歩いているのはファッジだ。二人の後ろから、委員会のメンバーの一人、ヨボヨボの大年寄りと、死刑執行人のマクネアがやってくる。
「おまえさんら、行かねばなんねえ。ここにいるとこを連中に見つかっちゃなんねえ・・・行け、はよう・・・・」
ロンはスキャバーズをポケットに押し込み、ハーマイオニーは「マント」を取り上げた。「裏口から出してやる」とハグリッドが言った。
裏庭に出て、ナツキは、かぼちゃ畑の後ろにある木につながれているバックビークを見た。バックビークは何かが起こっていると感じているらしい。猛々しい頭を左右に振り、不安げに地面を掻いている。
「・・・バックビーク・・・・」
ナツキがつぶやくと、バックビークがこちらをチラリとみた。目があった。
「・・・無理だよ。ハグリッド。バックビークは何も悪くないのに・・・・。」
「だめだ。ナツキ。もう行け。おまえさんらも。・・・・・行け!」
ハグリッドがきっぱりと言った。
「おまえさんたちが面倒なことになったら、ますます困る。そんでなくても最悪なんだ!」
しかたなかった。ハーマイオニーがナツキとハリーとロンにマントをかぶせた時、小屋の前で人声がするのが聞こえた。「急ぐんだ」ハグリッドの声がかすれた。
誰かが戸を叩いている。同時にハグリッドが大股で小屋に戻っていった。
ゆっくりと、四人は押し黙ってハグリッドの小屋を離れた。小屋の反対側に出た時、表の戸がバタンと閉まるのが聞こえた。
「お願い、急いで」ハーマイオニーが囁いた。
「耐えられないわ、私、とっても・・・」
西の空はルビーのように紅く燃えていた。ロンはぴたっと立ち止まったので、「ロン、お願いよ」とハーマイオニーが急かした。
「スキャバーズが・・・こいつ、どうしても・・・じっとしてないんだ・・・・」
ロンは、スキャバーズをポケットに押し込もうと前屈みになったが、ネズミは大暴れで、狂ったようにキーキー鳴きながら、ジタバタと身を捩り、ロンの手にガブリと噛みつこうとした。
「スキャバーズ、僕だよ。このバカヤロ、ロンだってば。」
ロンが声を殺して言った。三人の背後で戸が開く音がして、人声が聞こえた。ナツキは背後の低く響く声を聞くまいと努力した。ロンがまた立ち止まった。
「こいつを押さえてられないんだ。スキャバーズ、こら、黙れ。みんなに聞こえちまうよ・・・」
ネズミはキーキー喚き散らしていたが、その声でさえハグリッドの庭から聞こえてくる音をかき消すことはできなかった。誰という区別もつかない男たちの声が混じり合い、ふと静かになり、そして、突如、シュッ、ドサッとまぎれもない斧の音。
ハーマイオニーがよろめいた。
「やってしまった!し、信じられないわ・・・・あの人たち、やってしまったんだわ!」