アズカバンの囚人
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昼食を食べてお腹が一杯になると、ナツキは今度は怒りが沸々と湧き上がってきた。そしてそれはハリーも同じようだった。四人で談話室でいると、ハーマイオニーが心配そうに口を開いた。
「ハリー、ナツキ、ねえ、聞いて。昨日私たちが聞いてしまったことで、あなたとナツキはとっても大変な思いをしてるでしょう。でも、大切なのは、あなたたちが軽はずみをしちゃいけないってことよ。」
「「どんな?」」
「たとえばブラックを追いかけるとか。」
ロンがはっきり言った。
「僕は、ハロウィーンの時、ナツキに自分を大事にしてほしいって言ったけど、今ならわかる。それが、どれだけ軽率な発言で、ナツキのことを全く考えていなかったか。」
「ハリー、私は気にしていないよ。」
「・・・・・吸魂鬼が近づくたびに、僕とナツキが何を見たり、何を聞いたりするか、知ってるかい?」
ロンもハーマイオニーも不安そうに首を横に振った。
「母さんが泣き叫ぶ声が聞こえるんだ。もし君たちが、自分の母親が殺される直前にあんなふうに叫ぶ声を聞いたなら、そんなに簡単に忘れられるものか。自分が信じていた誰かに裏切られた、そいつがヴォルデモートをさし向けたと知ったら・・・・」
「あなたにはどうにもできないことよ!」
ハーマイオニーが苦しそうに言った。
「吸魂鬼がブラックを捕まえるし、アズカバンに連れ戻すわ。そして・・・それが当然の報いよ!」
「ファッジが言ったこと聞いただろう。ブラックは普通の魔法使いと違って、アズカバンでも平気だって。ほかの人には刑罰になっても、あいつには効かないんだ」
「じゃ、何が言いたいんだい?まさか・・・ブラックを殺したいとか、そんな?」
「バカなこと言わないで。ハリーが誰かを殺したいなんて思うわけないじゃない。そうよね?ハリー?ナツキもそうでしょう?」
ハリーはまた黙りこくった。しかしナツキはキッパリと口を開いた。
「私は殺したいよ。」
ナツキの言葉にロンとハーマイオニーは何も言えなくなった。
「マルフォイは知ってるんだ。『魔法薬学』のクラスで僕に何て言ったか、覚えてるかい?『僕なら、自分で追いつめる。復讐するんだ』って。ナツキのことも知ってたんだ。もっとも、僕はナツキと仲良くしないなんて選択はしないけど。」
「僕たちの意見より、マルフォイの意見を聞こうってのかい?」
ロンが怒った。
「いいかい。ブラックがペティグリューを片づけた時、ペティグリューの母親の手に何が戻った?パパに聞いたんだ。・・・マーリン勲章、勲一等、それに箱に入った息子の指一本だ。それが残った体の欠けらの中で一番大きいものだった。ブラックは狂ってる。ハリー、あいつは危険人物なんだ。」
「ハリー、ナツキ、お願いよ。」
ハーマイオニーの目は、いまや涙で光っていた。
「お願いだから、冷静になって。ブラックのやったこと、とっても、とってもひどいことだわ。でも、ね、自分を危険にさらさないで。ねぇ。それがブラックの思うつぼなのよ・・・。ああ、あなた達がブラックを探したりすれば、ブラックにとっては飛んで火に入る夏の虫よハリーのご両親もナツキのお母様だって、あなたたちが怪我することを望んでいらっしゃらないわよ。そうでしょう?ブラックを追跡することをけっしてお望みにはならなかったわ!」
「父さん、母さんが何を望んだかなんて、僕は一生知ることはないんだ。ブラックのせいで、僕は一度も父さんや母さんと話したことがないんだから。」
「私なんて、愛されていたかもわからないよ。ブラックに無理矢理作らされた子供かもしれないんだから。」
二人の言葉に沈黙が流れた。ロンがとにかく話題を変えようと慌てて切り出した。
「休みだ!もうすぐクリスマスだ!それじゃ、それじゃハグリッドの小屋に行こうよ。もう何百年も会ってないよ!」
「ダメ!」
「ハリーもナツキも城を離れちゃいけないのよ、ロン。」
しかしハリーもナツキもハグリッドの小屋に行くのは賛成だった。ハグリッドに、なぜ今まで隠していたのかを聞いてやるのだ。
透明マントをかぶって四人でハグリッドの小屋へ向かった。何度かしつこく扉を叩くと、ハグリッドが真っ赤な、泣き腫らした目をして突っ立っていた。涙が滝のように、革のベストを伝って流れ落ちていた。
「聞いたか!」
大声で叫ぶなり、ハグリッドはハリーの首に抱きついた。
「は、ハグリッド、落ち着いて・・・・」
ナツキとロンとハーマイオニーはなんとか潰れそうなハリーからハグリッドを離した。
「ハグリッド、何事なの?」
ハーマイオニーが唖然として聞いた。 ハリーはテーブルに公式の手紙らしいものが広げてあるのに気づいた。
「ハグリッド、これは何?」
ハグリッドのすすり泣きが二倍になった。そして手紙をハリーのほうに押してよこした。ハリーはそれを取って読み上げた。
「えっと、ハグリッド殿、ヒッポグリフが貴殿の授業で生徒を攻撃した件についての調査で、この残念な不祥事について、貴殿には何ら責任はないとするダンブルドア校長の保証を我々は受け入れることに決定いたしました。」
ナツキはほっとした。ハグリッドには悪いが、すっかりヒッポグリフのことは忘れていたのだ。ハリーはまだ続きを読み上げていた。
「しかしながら、我々は、当該ヒッポグリフに対し、懸念を表明せざるをえません。我々はルシウス・マルフォイ氏の正式な訴えを受け入れることを決定しました。従いまして、この件は、「危険生物処理委員会」に付託されることになります。事情聴取は四月二十日に行われます。当日、ヒッポグリフを伴い、ロンドンの当委員会事務所まで出頭願います。それまでヒッポグリフは隔離し、つないでおかなければなりません。」
「・・・・マルフォイ家はともかく、こっちには証言があるんだから。大丈夫だよ。」
ナツキは自信を持ってそういった。しかし、ハグリッドが言うには、「危険生物処理委員会」はそう甘くはないらしい。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ。」
ハーマイオニーは腰掛けてハグリッドの小山のような腕に手を置いて言った。
「私、ヒッポグリフいじめ事件について読んだことがあるわ。たしか、ヒッポグリフは釈放されたっけ。探してあげる、ハグリッド。正確に何が起こったのか、調べるわ。」
「私も手伝うよ。」
ナツキはさっきまでの怒りが霧散していった。だって、あんまりにもハグリッドが可哀想だ。
「おまえさんたちの言うとおりだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ・・・・・。このごろ俺はどうかしとった。バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし・・・・」
「みんな、とっても好きよ!」
ハーマイオニーがすぐに嘘を言った。
「それに、吸魂鬼のやつらだ。連中は俺をとことん落ち込ませる。『三本の箒』に飲みにいくたんび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンさ戻されちまったような気分になる・・・・」
ハグリッドはふと黙りこくって、ゴクリと茶を飲んだ。ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは息をひそめてハグリッドを見つめた。四人とも、ハグリッドが、短い期間だが、アズカバンに入れられたあの時のことを話すのを聞いたことがなかった。やや間をおいて、ハーマイオニーが遠慮がちに聞いた。
「ハグリッド、恐ろしいところなの?」
「想像もつかんだろう。あんなとこは行ったことがねえ。気が狂うかと思ったぞ。ひどい想い出ばっかしが思い浮かぶんだ・・・ホグワーツを退校になった日・・・親父が死んだ日・・・・ノーバートが行っちまった日・・・・しばらくすっと、自分が誰だか、もうわからねえ。そんで、生きててもしょうがねえって気になる。寝てるうちに死んでしまいてえって、俺はそう願ったもんだ。・・・・・釈放されたときゃ、もう一度生まれたような気分だった。いろんなことが一度にどぉっと戻ってきてな。こんないい気分はねえぞ。そりゃあ、吸魂鬼のやつら、俺を釈放するのはしぶったもんだ。」
ハグリッドはしばらく自分のマグカップを見つめたまま、黙っていた。それから、ぼそりと言った。
「バックビークをこのまんま逃がそうと思った。・・・・遠くに飛んでいけばええと思った。・・・だけんどどうやってヒッポグリフに言い聞かせりゃええ? どっかに隠れていろって・・・ほんで、法律を破るのが俺は怖い・・・・・・」
三人を見たハグリッドの目から、また涙がボロボロ流れ、顔を濡らした。
「俺は二度とアズカバンに戻りたくねえ。」
それから四人は図書館にこもって、役に立ちそうな本をたくさん探した。そしていつの間にか、クリスマスの日がやってきた。
ナツキが一番嬉しかったのは、他でもない、アバーフォースからのプレゼントだった。新しいマフラーとカードに書かれたいつもと同じぶっきらぼうな「風邪ひくなよ」の言葉がどれだけ嬉しかったことか。
「今度は手紙じゃなくて、直接謝らないと・・・・」
そう思いながら、ナツキは次々とプレゼントを開けていった。隣のベッドではハーマイオニーも同じようにしている。
「ハーマイオニーからのこれ何?」
「マグルで流行っているリップよ。使ってみて。」
ナツキはいそいそと鏡を見て、リップを塗ってみた。ほんのりと唇の血色が良さそうに見える。それに、ちょっぴりいい匂いがした。
「ありがとう!」
「ナツキもプレゼントありがとう!」
ハリーやロンからのプレゼントをあけて、次にジョージからのを見つけた。しかし、カードだけのようだ。
ナツキは少しがっかりした気持ちでそれを開いた。
『夕食後、天文台の塔に来て。』
「・・・・ねえ、ハーマイオニー、天文台の塔って入っていいんだっけ?」
「授業の時以外はダメよ。でもどうして?」
「いや、なんとなく聞いてみただけ。」
ナツキはハーマイオニーには言ってはいけない気がして、ジョージの手紙に書いてあったことは伝えなかった。
ハーマイオニーと二人(あとクルックシャンクス)でハリー達の部屋へ行くと、ハリーとロンが楽しそうにしていた。
「そいつをここに連れてくるなよ!」
ロンは急いでベッドの奥からスキャバーズを拾い上げ、パジャマのポケットにしまい込んだ。
「それは?新しい箒をもらったの?」
ナツキがハリーの持つ箒を見てそういった。誰からのプレゼントかわからないが、ハリーとロンによると恐ろしく高価な箒だそうだ。
「ねえ、ハリー、僕、試しに乗ってみてもいい?どう?」
「まだよ。まだ絶対誰もその箒に乗っちゃいけないわ!」
ハーマイオニーが金切り声を出した。ナツキもハリーもロンもハーマイオニーを見た。
「この箒でハリーが何をすればいいって言うんだい。床でも掃くかい?」
ロンの言葉にハーマイオニーが答える前に、クルックシャンクスがシェーマスのベッドから飛び出し、ロンの懐を直撃した。
「こいつを!ここ!から!連れ出せ!」
ロンが大声を出した。クルックシャンクスの爪がロンのパジャマを引き裂き、スキャバーズは無我夢中でロンの肩を乗り越えて、逃亡を図った。ロンはスキャバーズの尻尾をつかみ、同時にクルックシャンクスを蹴飛ばしたはずだったが、狙いが狂ってハリーのベッドの端にあったトランクを蹴飛ばした。トランクは引っくり返り、ロンは痛さのあまり叫びながら、その場でピョンピョン跳び上がった。
「ハーマイオニー、その猫、ここから連れ出せよ!」
ハーマイオニーはロンがクルックシャンクスを蹴ろうとしたことに大変腹を立てたようだった。ナツキはそれよりもスキャバーズの可哀想な仕上がりに気の毒になった。ガリガリで毛が抜けている。
「スキャバーズ、ずいぶんやつれたね・・・・」
「ああ。あんまり元気そうじゃないね、どう?」
「ストレスだよ!あのでっかい毛玉のバカが、こいつを放っといてくれれば大丈夫なんだ!」
ナツキとハリーは顔を見合わせた。スキャバーズは長生きだし、もう寿命が尽きかけているんじゃないかと二人は同じことを思っていた。
その日の朝のグリフィンドール談話室は、クリスマスの慈愛の心が地に満ち溢れ、というわけにはいかなかった。ハーマイオニーとロンが久しぶりに盛大に喧嘩をしていたが、ナツキとハリーは仲裁をする努力を諦め、談話室にいた。
「でもよかったね。正直、ニンバスがああなった時は、ハリーをどうフォローしていいかわからなかったから。」
「結果オーライさ。でも本当に誰だろう、僕のために金庫を空っぽにしてくれたのは。」
「ハリーは生き残った男の子だし、感謝している人はいっぱいいるだろうから、そのうちの誰かがニンバスの話を聞きつけたんじゃないかな?それかきっと『邪悪なマルフォイ家打倒募金』からだろうね。」
「なんだいそれは。」
ナツキとハリーは楽しく、ロンとハーマイオニーはむっつりと、昼食に大広間に下りていった。すると、各寮のテーブルはまた壁に立て掛けられ、広間の中央にテーブルが一つだけ用意されていた。
「これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えたのでのう。さあ、お座り!お座り!」
そう言ってダンブルドア先生は楽しそうにクラッカーを鳴らした。食事をしていると、病気で不在のルーピン先生の話になった。また薬をスネイプ先生が作っているらしい。ナツキはチラリとハリーを見た。ハリーもナツキをチラリと見た。
その昼食後、ちょっとした事件が起きた。どうやらハーマイオニーがマクゴナガル先生にファイア・ボルトのことを伝えたらしい。ハリーのファイア・ボルトが調査のために没収されてしまったのだ。
ハーマイオニーやマクゴナガル先生は、シリウス・ブラックが送ってきた可能性を危惧しているらしい。
追われている人が、わざわざ高級な箒を買いに行く?お金って下ろせるの?
と、ぎりぎりまで出かかったが、ナツキはハリーとの友情を再確認したばかりであったため、波風を立てないようにと、傍観者でいることを決めた。
夜になり、夕食を食べ終えたナツキは天文台の塔を登っていた。一番上の天文台の鍵は開いていた。
「わあ!!」
宙にはジンジャークッキーが浮いていて、ヘンテコなダンスを踊っていた。ナツキはそれを見てつい吹き出した。
「気に入ったかい?」
後ろからニタニタと嬉しそうなジョージが姿を現した。ウィーズリーおばさんの手編みのセータを着ていて、大きく「F」と書いてあった。ちなみにナツキも、おばさんからセーターが送られてきたので身につけている。ちゃんとイニシャル付きだ。
「ジョージ、つけてくれたんだ。」
「ああ、寒かったもんで。」
ナツキは今年、ジョージにマフラーを送っていた。ジョージは5年生だし、少し大人っぽい方がいいかも、と思って、落ち着いたネイビーのマフラーを選んだ。思った通り、彼の赤髪がよく映える。
「今年のクリスマスは特別だぜ。」
ジョージが杖を一振りすると、小さな花火が打ち上がった。
「わあ・・・・!」
鮮やかな花火がナツキの周りいっぱいに花開く。
「さ、フィナーレだぜ。」
ジョージがそう言うと、一際大きく、「Merry Christmas!」と文字が浮き上がって、花火のサンタクロースがナツキに突っ込んできた。
「うわっ!」
思わず目を瞑り、腕で顔を覆った。サンタクロースが本当に突っ込んでくることはなかったが、左腕にシャラリと慣れない感覚があった。
ナツキが目を開けて左の手首を見ると、小さな赤いストーンがキラリと輝くシルバーのブレスレットが付いていた。
「・・・・・わぁ・・・・」
なんだか不思議な気持ちがして、腕を回して色々な角度からそのブレスレットを眺めた。
「・・・・・えーと・・・どう・・?気に入った?」
ジョージが彼にしては珍しく弱気な声でそう聞いた。
「うん。私、アクセサリーもらうの初めて・・・・!」
ナツキはまだゆっくりとそれを眺めていた。
「メリークリスマス、ナツキ。」
「メリークリスマス、ジョージ。」
「ハリー、ナツキ、ねえ、聞いて。昨日私たちが聞いてしまったことで、あなたとナツキはとっても大変な思いをしてるでしょう。でも、大切なのは、あなたたちが軽はずみをしちゃいけないってことよ。」
「「どんな?」」
「たとえばブラックを追いかけるとか。」
ロンがはっきり言った。
「僕は、ハロウィーンの時、ナツキに自分を大事にしてほしいって言ったけど、今ならわかる。それが、どれだけ軽率な発言で、ナツキのことを全く考えていなかったか。」
「ハリー、私は気にしていないよ。」
「・・・・・吸魂鬼が近づくたびに、僕とナツキが何を見たり、何を聞いたりするか、知ってるかい?」
ロンもハーマイオニーも不安そうに首を横に振った。
「母さんが泣き叫ぶ声が聞こえるんだ。もし君たちが、自分の母親が殺される直前にあんなふうに叫ぶ声を聞いたなら、そんなに簡単に忘れられるものか。自分が信じていた誰かに裏切られた、そいつがヴォルデモートをさし向けたと知ったら・・・・」
「あなたにはどうにもできないことよ!」
ハーマイオニーが苦しそうに言った。
「吸魂鬼がブラックを捕まえるし、アズカバンに連れ戻すわ。そして・・・それが当然の報いよ!」
「ファッジが言ったこと聞いただろう。ブラックは普通の魔法使いと違って、アズカバンでも平気だって。ほかの人には刑罰になっても、あいつには効かないんだ」
「じゃ、何が言いたいんだい?まさか・・・ブラックを殺したいとか、そんな?」
「バカなこと言わないで。ハリーが誰かを殺したいなんて思うわけないじゃない。そうよね?ハリー?ナツキもそうでしょう?」
ハリーはまた黙りこくった。しかしナツキはキッパリと口を開いた。
「私は殺したいよ。」
ナツキの言葉にロンとハーマイオニーは何も言えなくなった。
「マルフォイは知ってるんだ。『魔法薬学』のクラスで僕に何て言ったか、覚えてるかい?『僕なら、自分で追いつめる。復讐するんだ』って。ナツキのことも知ってたんだ。もっとも、僕はナツキと仲良くしないなんて選択はしないけど。」
「僕たちの意見より、マルフォイの意見を聞こうってのかい?」
ロンが怒った。
「いいかい。ブラックがペティグリューを片づけた時、ペティグリューの母親の手に何が戻った?パパに聞いたんだ。・・・マーリン勲章、勲一等、それに箱に入った息子の指一本だ。それが残った体の欠けらの中で一番大きいものだった。ブラックは狂ってる。ハリー、あいつは危険人物なんだ。」
「ハリー、ナツキ、お願いよ。」
ハーマイオニーの目は、いまや涙で光っていた。
「お願いだから、冷静になって。ブラックのやったこと、とっても、とってもひどいことだわ。でも、ね、自分を危険にさらさないで。ねぇ。それがブラックの思うつぼなのよ・・・。ああ、あなた達がブラックを探したりすれば、ブラックにとっては飛んで火に入る夏の虫よハリーのご両親もナツキのお母様だって、あなたたちが怪我することを望んでいらっしゃらないわよ。そうでしょう?ブラックを追跡することをけっしてお望みにはならなかったわ!」
「父さん、母さんが何を望んだかなんて、僕は一生知ることはないんだ。ブラックのせいで、僕は一度も父さんや母さんと話したことがないんだから。」
「私なんて、愛されていたかもわからないよ。ブラックに無理矢理作らされた子供かもしれないんだから。」
二人の言葉に沈黙が流れた。ロンがとにかく話題を変えようと慌てて切り出した。
「休みだ!もうすぐクリスマスだ!それじゃ、それじゃハグリッドの小屋に行こうよ。もう何百年も会ってないよ!」
「ダメ!」
「ハリーもナツキも城を離れちゃいけないのよ、ロン。」
しかしハリーもナツキもハグリッドの小屋に行くのは賛成だった。ハグリッドに、なぜ今まで隠していたのかを聞いてやるのだ。
透明マントをかぶって四人でハグリッドの小屋へ向かった。何度かしつこく扉を叩くと、ハグリッドが真っ赤な、泣き腫らした目をして突っ立っていた。涙が滝のように、革のベストを伝って流れ落ちていた。
「聞いたか!」
大声で叫ぶなり、ハグリッドはハリーの首に抱きついた。
「は、ハグリッド、落ち着いて・・・・」
ナツキとロンとハーマイオニーはなんとか潰れそうなハリーからハグリッドを離した。
「ハグリッド、何事なの?」
ハーマイオニーが唖然として聞いた。 ハリーはテーブルに公式の手紙らしいものが広げてあるのに気づいた。
「ハグリッド、これは何?」
ハグリッドのすすり泣きが二倍になった。そして手紙をハリーのほうに押してよこした。ハリーはそれを取って読み上げた。
「えっと、ハグリッド殿、ヒッポグリフが貴殿の授業で生徒を攻撃した件についての調査で、この残念な不祥事について、貴殿には何ら責任はないとするダンブルドア校長の保証を我々は受け入れることに決定いたしました。」
ナツキはほっとした。ハグリッドには悪いが、すっかりヒッポグリフのことは忘れていたのだ。ハリーはまだ続きを読み上げていた。
「しかしながら、我々は、当該ヒッポグリフに対し、懸念を表明せざるをえません。我々はルシウス・マルフォイ氏の正式な訴えを受け入れることを決定しました。従いまして、この件は、「危険生物処理委員会」に付託されることになります。事情聴取は四月二十日に行われます。当日、ヒッポグリフを伴い、ロンドンの当委員会事務所まで出頭願います。それまでヒッポグリフは隔離し、つないでおかなければなりません。」
「・・・・マルフォイ家はともかく、こっちには証言があるんだから。大丈夫だよ。」
ナツキは自信を持ってそういった。しかし、ハグリッドが言うには、「危険生物処理委員会」はそう甘くはないらしい。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ。」
ハーマイオニーは腰掛けてハグリッドの小山のような腕に手を置いて言った。
「私、ヒッポグリフいじめ事件について読んだことがあるわ。たしか、ヒッポグリフは釈放されたっけ。探してあげる、ハグリッド。正確に何が起こったのか、調べるわ。」
「私も手伝うよ。」
ナツキはさっきまでの怒りが霧散していった。だって、あんまりにもハグリッドが可哀想だ。
「おまえさんたちの言うとおりだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ・・・・・。このごろ俺はどうかしとった。バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし・・・・」
「みんな、とっても好きよ!」
ハーマイオニーがすぐに嘘を言った。
「それに、吸魂鬼のやつらだ。連中は俺をとことん落ち込ませる。『三本の箒』に飲みにいくたんび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンさ戻されちまったような気分になる・・・・」
ハグリッドはふと黙りこくって、ゴクリと茶を飲んだ。ナツキ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは息をひそめてハグリッドを見つめた。四人とも、ハグリッドが、短い期間だが、アズカバンに入れられたあの時のことを話すのを聞いたことがなかった。やや間をおいて、ハーマイオニーが遠慮がちに聞いた。
「ハグリッド、恐ろしいところなの?」
「想像もつかんだろう。あんなとこは行ったことがねえ。気が狂うかと思ったぞ。ひどい想い出ばっかしが思い浮かぶんだ・・・ホグワーツを退校になった日・・・親父が死んだ日・・・・ノーバートが行っちまった日・・・・しばらくすっと、自分が誰だか、もうわからねえ。そんで、生きててもしょうがねえって気になる。寝てるうちに死んでしまいてえって、俺はそう願ったもんだ。・・・・・釈放されたときゃ、もう一度生まれたような気分だった。いろんなことが一度にどぉっと戻ってきてな。こんないい気分はねえぞ。そりゃあ、吸魂鬼のやつら、俺を釈放するのはしぶったもんだ。」
ハグリッドはしばらく自分のマグカップを見つめたまま、黙っていた。それから、ぼそりと言った。
「バックビークをこのまんま逃がそうと思った。・・・・遠くに飛んでいけばええと思った。・・・だけんどどうやってヒッポグリフに言い聞かせりゃええ? どっかに隠れていろって・・・ほんで、法律を破るのが俺は怖い・・・・・・」
三人を見たハグリッドの目から、また涙がボロボロ流れ、顔を濡らした。
「俺は二度とアズカバンに戻りたくねえ。」
それから四人は図書館にこもって、役に立ちそうな本をたくさん探した。そしていつの間にか、クリスマスの日がやってきた。
ナツキが一番嬉しかったのは、他でもない、アバーフォースからのプレゼントだった。新しいマフラーとカードに書かれたいつもと同じぶっきらぼうな「風邪ひくなよ」の言葉がどれだけ嬉しかったことか。
「今度は手紙じゃなくて、直接謝らないと・・・・」
そう思いながら、ナツキは次々とプレゼントを開けていった。隣のベッドではハーマイオニーも同じようにしている。
「ハーマイオニーからのこれ何?」
「マグルで流行っているリップよ。使ってみて。」
ナツキはいそいそと鏡を見て、リップを塗ってみた。ほんのりと唇の血色が良さそうに見える。それに、ちょっぴりいい匂いがした。
「ありがとう!」
「ナツキもプレゼントありがとう!」
ハリーやロンからのプレゼントをあけて、次にジョージからのを見つけた。しかし、カードだけのようだ。
ナツキは少しがっかりした気持ちでそれを開いた。
『夕食後、天文台の塔に来て。』
「・・・・ねえ、ハーマイオニー、天文台の塔って入っていいんだっけ?」
「授業の時以外はダメよ。でもどうして?」
「いや、なんとなく聞いてみただけ。」
ナツキはハーマイオニーには言ってはいけない気がして、ジョージの手紙に書いてあったことは伝えなかった。
ハーマイオニーと二人(あとクルックシャンクス)でハリー達の部屋へ行くと、ハリーとロンが楽しそうにしていた。
「そいつをここに連れてくるなよ!」
ロンは急いでベッドの奥からスキャバーズを拾い上げ、パジャマのポケットにしまい込んだ。
「それは?新しい箒をもらったの?」
ナツキがハリーの持つ箒を見てそういった。誰からのプレゼントかわからないが、ハリーとロンによると恐ろしく高価な箒だそうだ。
「ねえ、ハリー、僕、試しに乗ってみてもいい?どう?」
「まだよ。まだ絶対誰もその箒に乗っちゃいけないわ!」
ハーマイオニーが金切り声を出した。ナツキもハリーもロンもハーマイオニーを見た。
「この箒でハリーが何をすればいいって言うんだい。床でも掃くかい?」
ロンの言葉にハーマイオニーが答える前に、クルックシャンクスがシェーマスのベッドから飛び出し、ロンの懐を直撃した。
「こいつを!ここ!から!連れ出せ!」
ロンが大声を出した。クルックシャンクスの爪がロンのパジャマを引き裂き、スキャバーズは無我夢中でロンの肩を乗り越えて、逃亡を図った。ロンはスキャバーズの尻尾をつかみ、同時にクルックシャンクスを蹴飛ばしたはずだったが、狙いが狂ってハリーのベッドの端にあったトランクを蹴飛ばした。トランクは引っくり返り、ロンは痛さのあまり叫びながら、その場でピョンピョン跳び上がった。
「ハーマイオニー、その猫、ここから連れ出せよ!」
ハーマイオニーはロンがクルックシャンクスを蹴ろうとしたことに大変腹を立てたようだった。ナツキはそれよりもスキャバーズの可哀想な仕上がりに気の毒になった。ガリガリで毛が抜けている。
「スキャバーズ、ずいぶんやつれたね・・・・」
「ああ。あんまり元気そうじゃないね、どう?」
「ストレスだよ!あのでっかい毛玉のバカが、こいつを放っといてくれれば大丈夫なんだ!」
ナツキとハリーは顔を見合わせた。スキャバーズは長生きだし、もう寿命が尽きかけているんじゃないかと二人は同じことを思っていた。
その日の朝のグリフィンドール談話室は、クリスマスの慈愛の心が地に満ち溢れ、というわけにはいかなかった。ハーマイオニーとロンが久しぶりに盛大に喧嘩をしていたが、ナツキとハリーは仲裁をする努力を諦め、談話室にいた。
「でもよかったね。正直、ニンバスがああなった時は、ハリーをどうフォローしていいかわからなかったから。」
「結果オーライさ。でも本当に誰だろう、僕のために金庫を空っぽにしてくれたのは。」
「ハリーは生き残った男の子だし、感謝している人はいっぱいいるだろうから、そのうちの誰かがニンバスの話を聞きつけたんじゃないかな?それかきっと『邪悪なマルフォイ家打倒募金』からだろうね。」
「なんだいそれは。」
ナツキとハリーは楽しく、ロンとハーマイオニーはむっつりと、昼食に大広間に下りていった。すると、各寮のテーブルはまた壁に立て掛けられ、広間の中央にテーブルが一つだけ用意されていた。
「これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えたのでのう。さあ、お座り!お座り!」
そう言ってダンブルドア先生は楽しそうにクラッカーを鳴らした。食事をしていると、病気で不在のルーピン先生の話になった。また薬をスネイプ先生が作っているらしい。ナツキはチラリとハリーを見た。ハリーもナツキをチラリと見た。
その昼食後、ちょっとした事件が起きた。どうやらハーマイオニーがマクゴナガル先生にファイア・ボルトのことを伝えたらしい。ハリーのファイア・ボルトが調査のために没収されてしまったのだ。
ハーマイオニーやマクゴナガル先生は、シリウス・ブラックが送ってきた可能性を危惧しているらしい。
追われている人が、わざわざ高級な箒を買いに行く?お金って下ろせるの?
と、ぎりぎりまで出かかったが、ナツキはハリーとの友情を再確認したばかりであったため、波風を立てないようにと、傍観者でいることを決めた。
夜になり、夕食を食べ終えたナツキは天文台の塔を登っていた。一番上の天文台の鍵は開いていた。
「わあ!!」
宙にはジンジャークッキーが浮いていて、ヘンテコなダンスを踊っていた。ナツキはそれを見てつい吹き出した。
「気に入ったかい?」
後ろからニタニタと嬉しそうなジョージが姿を現した。ウィーズリーおばさんの手編みのセータを着ていて、大きく「F」と書いてあった。ちなみにナツキも、おばさんからセーターが送られてきたので身につけている。ちゃんとイニシャル付きだ。
「ジョージ、つけてくれたんだ。」
「ああ、寒かったもんで。」
ナツキは今年、ジョージにマフラーを送っていた。ジョージは5年生だし、少し大人っぽい方がいいかも、と思って、落ち着いたネイビーのマフラーを選んだ。思った通り、彼の赤髪がよく映える。
「今年のクリスマスは特別だぜ。」
ジョージが杖を一振りすると、小さな花火が打ち上がった。
「わあ・・・・!」
鮮やかな花火がナツキの周りいっぱいに花開く。
「さ、フィナーレだぜ。」
ジョージがそう言うと、一際大きく、「Merry Christmas!」と文字が浮き上がって、花火のサンタクロースがナツキに突っ込んできた。
「うわっ!」
思わず目を瞑り、腕で顔を覆った。サンタクロースが本当に突っ込んでくることはなかったが、左腕にシャラリと慣れない感覚があった。
ナツキが目を開けて左の手首を見ると、小さな赤いストーンがキラリと輝くシルバーのブレスレットが付いていた。
「・・・・・わぁ・・・・」
なんだか不思議な気持ちがして、腕を回して色々な角度からそのブレスレットを眺めた。
「・・・・・えーと・・・どう・・?気に入った?」
ジョージが彼にしては珍しく弱気な声でそう聞いた。
「うん。私、アクセサリーもらうの初めて・・・・!」
ナツキはまだゆっくりとそれを眺めていた。
「メリークリスマス、ナツキ。」
「メリークリスマス、ジョージ。」