アズカバンの囚人
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ナツキとハリーは双子にもらった忍びの地図と共に、ハニーデュークスへの秘密の抜け道の中にいた。結構大変な道のりだった。
「いた、」
階段をコツコツ登ると、前を歩いていたハリーが天井に頭をぶつけた。どうやらハニーデュークスの倉庫のようだ。
「ナツキ、そこにいる?」
「いるよ。」
ナツキはハリーに借りた透明マントをかぶっていた。小さな時にホグズミードにいたので、ここらの住人にすぐにバレてしまう可能性があるからだ。
こっそりと店内に侵入し、ナツキはハリーの後をピッタリとくっついて歩く。そうでもしないと、ごった返した人が透明な何かにぶつかったことに気づいてしまう。
ハリーとナツキはロンとハーマイオニーの姿を見つけた。
「ウー、だめ。ハリーもナツキもこんなものほしがらないわ。これって吸血鬼用だと思う。」
「じゃ、これは?」
ロンが、「ゴキブリ・ゴソゴソ豆板」の瓶をハーマイオニーの鼻先に突きつけた。「絶対イヤだよ」ハリーが言った。ロンは危うく瓶を落とすところだった。
「ハリー!」
ハーマイオニーが金切り声をあげた。
「ウワー!君『姿現し術』ができるようになったんだ!」
「まさか。違うよ。」
ハリーは声を落として、周りの六年生の誰にも聞こえないようにしながら、「忍びの地図」の一部始終を二人に話した。ついでにそばに透明なナツキがいることも話した。
「でも、ハリーもナツキもこのまま地図を持ってたりしないわ!マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」
「僕、渡さない!」
「気は確かかよ?こんないいものが渡せるか?」
「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わないといけない!フレッドとジョージがちょろまかしたってことがフィルチに知れてしまうじゃないか!」
ナツキは会話に入らないが、ハリーとロンに賛成だった。なぜハーマイオニーはこれほどまでに怒っているのだろう。
「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?この地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ!先生方はそのことを知らないといけないわ!」
ナツキは思わず声をあげそうになった。ハーマイオニーの言うことは最もだった。
「この地図には七つのトンネルが書いてある。いいかい?フレッドとジョージの考えでは、そのうち四つはフィルチがもう知っている。残りは三本だ。一つは崩れているから誰も通り抜けられない。もう一本は出入口の真上に『暴れ柳』が植わってるから、出られやしない。三本目は僕がいま通ってきた道。出入口はここの地下室にあって、なかなか見つかりゃしない。」
ハリーはそうは言ったが、確信はなさそうだった。しかし、ロンが見つけた張り紙によると、吸魂鬼が夜にパトロールをするらしい。ならばブラックに関しては安心かもしれない。
「ねえ、ハリーとナツキはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらっていないんだから!誰かに見つかったら、それこそ大変よ!それに、まだ暗くなってないし・・・今日シリウス・ブラックが現れたらどうするの?たったいま?」
「こんな時にたった二人を見つけるのは大仕事だろうさ。いいじゃないか、ハーマイオニー、クリスマスだぜ。ハリーたちだって楽しまなきゃ。」
ハーマイオニーは、心配でたまらないという顔をした。ナツキはこの時初めて、こっそり出てきたことを悔やんだ。こんなに心配させてしまうだなんて、思わなかった。
しかし一方でハリーはロンの援護射撃を受けて得意になった。
「僕とナツキのこと、言いつける?」
「まあ、そんなことしないわよ。でも、ねえ、ハリー、」
「ハリー、『フィフィ・フィズビー』を見たかい?」
ハリーを引っ張りながら、ロンは小さい声で「ナツキもおいで。欲しいものがあるなら、僕らが代わりに買ってあげるからカゴに入れて」と言った。ナツキはその厚意に甘えて、ロンの持つかごに色々と欲しいお菓子を入れた。
「『ゴキブリ・ゴソゴソ豆板』を持っていって、ピーナッツだって言ったら、フレッドがかじると思うかい?」
「絶対返り討ちにあうよ。」
ずっとこっそり後をついていたナツキであったが、その発言にだけは小さな声で注意喚起をした。
その後4人はハニーデュークス店をあとにし、吹雪の中を歩きだした。
ナツキとハリーは上着を着てくるのを忘れてしまっていた。ナツキは透明マントの中でブルブル震えた。ハリーはその透明マントすらも着ていない。
「『三本の箒』まで行って『バタービール』を飲まないか?」
ロンの提案は最高だった。数分後には小さな居酒屋に入っていった。カウンターの向こうに、小粋な顔をした曲線美の女性がいた。マダム・ロスメルタだ。ナツキは小さい頃、彼女によく遊んでもらっていた。
ロンが飲み物を買って行っている間に、ハリーとハーマイオニーは奥の空いている小さなテーブルのほうへと進んだ。ナツキはハリーの横にマントをかぶりながら腰を下ろした。
「ナツキ、そこにいる?」
「うん。」
ざわざわしているおかげで、逆に話しやすかった。五分後に、ロンが大ジョッキ四本を抱えてやってきた。泡立った熱いバタービールだ。ナツキは周りの人にバレないように、ジョッキをマントの中に隠して、グビっと飲んだ。あったかくて体に染みる。
急に冷たい風が吹き、新しい客が訪れる。なんと、マクゴナガル先生とフリットウィック先生、そしてハグリッドだ。ナツキは急いでハリーをマントの中に入れた。
「危なかった・・・・」
「ナツキにマントを貸していてよかったよ。」
「ねえ、ハリー、あれ、大臣じゃない?」
ナツキとハリーは先生たちを見ながらコソコソ話した。先生たちはすぐその近くのテーブルについた。ナツキとハリーは息を殺した。
「それで、大臣、どうしてこんな片田舎にお出ましになりましたの?」
「ほかでもない、シリウス・ブラックの件でね。ハロウィーンの日に、学校で何が起こったかは、うすうす聞いているんだろうね?」
「噂はたしかに耳にしてますわ。」
「ハグリッド、あなたはパブ中に触れ回ったのですか?」
マクゴナガル先生が腹立たしげに言った。
「大臣、ブラックがまだこのあたりにいるとお考えですの?」
「間違いない。」
マダム・ロスメルタの質問にファッジがきっぱりと返した。ナツキとハリーは顔を見合わせた。
「吸魂鬼がわたしのパブの中を二度も探し回っていったことをご存知かしら?お客様が怖がってみんな出ていってしまいましたわ。大臣、商売あがったりですのよ。」
「ロスメルタのママさん。私だって君と同じで、連中が好きなわけじゃない。用心に越したことはないんでね。つい先ほど連中に会った。ダンブルドアに対して猛烈に怒っていてね。ダンブルドアが城の校内に連中を入れないんだ。」
「そうすべきですわ。」
マクゴナガル先生がきっぱりと言った。先生方に対して「にもかかわらずだ」大臣が言い返した。
「連中よりもっとタチの悪いものから我々を護るために連中がここにいるんだ。知ってのとおり、ブラックの力をもってすれば・・・・」
「でもねえ、わたしにはまだ信じられないですわ。どんな人が闇の側に荷担しようと、シリウス・ブラックだけはそうならないと、わたしは思ってました。あの人がまだホグワーツの学生だった時のことを憶えてますわ。もしあのころに誰かがブラックがこんなふうになるなんて言ってたら、わたしきっと、『あなた蜂蜜酒の飲みすぎよ』って言ったと思いますわ。」
「君は話の半分しか知らないんだよ、ロスメルタ。ブラックの最悪の仕業はあまり知られていない。」
大臣はぶっきらぼうに言った。
「あんなにたくさんのかわいそうな人たちを殺した、それより悪いことだっておっしゃるんですか?」
「ブラックのホグワーツ時代を覚えていると言いましたね、ロスメルタ。」
マクゴナガル先生がつぶやくように言った。
「あの人の一番の親友が誰だったか、覚えていますか?」
「えぇえぇ。いつでも一緒、影と形のようだったでしょ?ここにはしょっちゅう来てましたわ。ああ、あの二人にはよく笑わされました。まるで漫才だったわ、シリウス・ブラックとジェームズ・ポッター!」
ハリーの顔から表情が消えた。ナツキも今聞いた話が一度では理解できなかった。
「そのとおりです。」
マクゴナガル先生だ。
「ブラックとポッターはいたずらっ子たちの首謀者。もちろん、二人とも非常に賢い子でした。しかしあんなに手を焼かされた二人組はなかったですね・・・」
「そりゃ、わかんねえですぞ。フレッドとジョージ・ウィーズリーにかかっちゃ、互角の勝負かもしれねえ。」
ハグリッドが笑いながら言った。大臣は話を続けた。
「ポッターはほかの誰よりブラックを信用した。卒業しても変わらなかった。ブラックはジェームズがリリーと結婚した時、新郎の付添役を務めた。二人はブラックをハリーの名付け親にした。ハリーはもちろんまったく知らないがね。こんなことを知ったら、ハリーがどんなに辛い思いをするか。」
名付け親・・・ブラックが、ハリーの?
ナツキはゴクリと生唾を飲んだ。すぐ隣にいるハリーの顔を見る気にはなれなかった。
「ポッター夫妻は、自分たちが『例のあの人』につけ狙われていると知っていた。ダンブルドアは『例のあの人』と緩みなく戦っていたから、数多の役に立つスパイを放っていた。その内の一人から情報を聞き出したダンブルドアは、ジェームズとリリーにすぐに危機を知らせ、二人に身を隠すよう勧めた。だが、もちろん、『例のあの人』から身を隠すのは容易なことではない。ダンブルドアは『忠誠の術』が一番助かる可能性があると二人にそう言ったのだ。」
「どんな術ですの?」
マダム・ロスメルタが息をつめ、夢中になって聞いた。フリットウィック先生が咳払いし、「恐ろしく複雑な術ですよ」と甲高い声で言った。
「一人の、生きた人の中に秘密を魔法で封じ込める。選ばれた者は『秘密の守人』として情報を自分の中に隠す。かくして情報を見つけることは不可能となる。『秘密の守人』が暴露しないかぎりはね。『秘密の守人』が口を割らないかぎり、『例のあの人』がリリーとジェームズの隠れている村を何年探そうが、二人を見つけることはできない。たとえ二人の家の居間の窓に鼻先を押しつけるほど近づいても、見つけることはできない!」
「それじゃ、ブラックがポッター夫妻の『秘密の守人』に?」
マダム・ロスメルタが囁くように聞いた。「当然です」とマクゴナガル先生が答えた。
「ジェームズ・ポッターは、ブラックだったら二人の居場所を教えるぐらいなら死を選ぶだろう、それにブラックも身を隠すつもりだとダンブルドアにお伝えしたのです。・・・・・それでもダンブルドアはまだ心配していらっしゃった。自分がポッター夫妻の『秘密の守人』になろうと申し出られたことを覚えていますよ。」
「ダンブルドアはブラックを疑っていらした?」
マダム・ロスメルタが息を呑んだ。
「ダンブルドアには、誰かポッター夫妻に近い者が、二人の動きを『例のあの人』に通報しているという確信がおありでした。」
マクゴナガル先生が暗い声で言った。
「ダンブルドアはその少し前から、味方の誰かが裏切って、『例のあの人』に相当の情報を流していると疑っていらっしゃいました。」
「それでもジェームズ・ポッターはブラックを使うと主張したんですの?」
「そうだ。」
ファッジが重苦しい声で言った。
「そして、『忠誠の術』をかけてから一週間も経たないうちに・・・・・」
「ブラックが二人を裏切った?」
マダム・ロスメルタが囁き声で聞いた。
「まさにそうだ。ブラックは二重スパイの役目に疲れて、『例のあの人』への支持をおおっぴらに宣言しようとしていた。ポッター夫妻の死に合わせて宣言する計画だったらしい。ところが、知ってのとおり、『例のあの人』は幼いハリーのために凋落した。力も失せ、ひどく弱体化し、逃げ去った。残されたブラックブラックにしてみれば、まったくいやな立場に立たされてしまったわけだ。自分が裏切り者だと旗幟鮮明にしたとたん、自分の旗頭が倒れてしまったんだ。逃げるほかなかった。」
「くそったれのあほんだらの裏切り者め!」
ハグリッドの罵声にバーにいた人の半分がしんとなった。「シーッ!」とマクゴナガル先生が人差し指をピンと立てた。
「俺はヤツに出会ったんだ。」
ハグリッドは歯噛みをした。
「ヤツに最後に出会ったのは俺にちげぇねぇ。そのあとでヤツはあんなにみんなを殺した!ジェームズとリリーが殺されっちまった時、あの家からハリーを助け出したのは俺だ!崩れた家からすぐにハリーを連れ出した。かわいそうなちっちゃなハリー。額におっきな傷を受けて、両親は死んじまって・・・・そんで、シリウス・ブラックが現れた。いつもの空飛ぶオートバイに乗って。あそこに何の用で来たんだか、俺には思いもつかんかった。ヤツがリリーとジェームズの『秘密の守人』だとは知らんかった。『例のあの人』の襲撃の知らせを聞きつけて、何かできることはねえかと駆けつけてきたんだと思った。ヤツめ、真っ青になって震えとったわ。そんで、俺が何したと思うか?俺は殺人者の裏切り者を慰めたんだ!」
ハグリッドが吼えた。
「ハグリッド!お願いだから声を低くして!」
マクゴナガル先生だ。それから、マダム・ロスメルタはやや満足げに言った。
「でも、逃げ遂せなかったわね?魔法省が次の日に追いつめたわ!」
「あぁ、魔法省だったらよかったのだが!」
ファッジが口惜しげに言った。
「ヤツを見つけたのは我々ではなく、チビのピーター・ペティグリューだった。・・・・ポッター夫妻の友人の一人だが。悲しみで頭がおかしくなったのだろう。たぶんな。ブラックがポッターの『秘密の守人』だと知っていたペティグリューは、自らブラックを追った。」
「ペティグリュー・・・・ホグワーツにいたころはいつも二人のあとにくっついていたあの肥った小さな男の子かしら?」
マダム・ロスメルタが聞いた。
「・・・ここから、もう一つ、やつの最悪の悪事が暴かれた。もしかしたら・・・・あの子がこの件に関しては、一番かわいそうかもしれん。私は赤ん坊の頃に目にしただけだが、マダムはご存じだろう・・・・。ナツキ・ゴドリクソンだ。」
「まあ?ナツキが?知っているわよ。私、あの子のおむつを変えてあげたわ。でも、その後のことは私も知っているわよ。ブラックに、お母様を殺されてしまったのよね。それで、アバーフォースがあの子を育てているんだわ。」
マダム・ロスメルタが懐かしそうな顔をした。
「それはね、ほんの表面的なことなんだ。」
大臣はそう言った。ナツキはドクンドクンと心臓が暴れ出した。
「ペティグリューは、エリザベス・ゴドリクソンの住処を訪れた。しかし、そこにあったのは、すでに亡骸となった彼女と、もぬけの空になったベビーベッドだけだった。」
「ナツキの母が自宅で?彼女は他の大勢のマグルと共に亡くなったのではなかったのですか?」
「違うのだ。マダムよ・・・・。ある、残酷な真実を隠すため、表ではそう広めている。しかし・・・しかしだな・・・・なぜ、ペティグリューはブラックの裏切りを知ったのちにゴドリクソン家を訪れたと思う?」
大臣の言葉に、マクゴナガル先生は口を挟んだ。
「・・・事実として証明されておりません。まるで本当のことのようにおっしゃらないで。」
「ミネルバ、しかし、私が聞く限り、彼女は明らかにその特徴を持っている。」
大臣は何を言いたいのだろう。その特徴って何のこと?マクゴナガル先生はどうしてこんなに辛そうな声を出しているの?
「ナツキ・ゴドリクソンの父親はまず間違いなくシリウス・ブラックだろう。エリザベスとブラックの親密な様子を目撃しているものは多い。それに彼女の髪と瞳の色はブラックと同じだ。」
・・・・・・・え・・・・・・?
「それを知っていたペティグリューはブラックがゴドリクソンの元にいると踏んでそこへ向かった。しかし、すでにエリザベスの息は無く、ナツキの姿もない。その後に、目撃者の証言ではペティグリューはブラックを追いつめた。泣きながら『リリーとジェームズが。シリウス!よくもそんなことを!その子から手を離せ!』と言っていたそうだ。それから杖を取り出そうとした。まあ、もちろん、ブラックのほうが速かった。ペティグリューは木っ端微塵に吹っ飛ばされてしまった・・・・」
マクゴナガル先生はチンと鼻をかみ、かすれた声で言った。
「バカな子・・・・間抜けな子・・・どうしようもなく決闘がへたな子でしたわ。・・・魔法省に任せるべきでした・・・・」
「魔法警察部隊から派遣される訓練された『特殊部隊』以外は、追いつめられたブラックに太刀打ちできる者はいなかったろう。私はその時、ブラックがあれだけの人間を殺したあとに現場に到着した第一陣の一人だった。私は、あの・・・・あの光景が忘れられない。いまでもときどき夢に見る。道の真ん中に深くえぐれたクレーター。その底のほうで下水管に亀裂が入っていた。死体が累々。マグルたちは悲鳴をあげていた。そして、ブラックがそこに仁王立ちになり笑っていた。片手には大声で泣く、小さな小さなナツキ・ゴドリクソンを抱えていた。その前にペティグリューの残骸が・・・血だらけのローブとわずかの・・・わずかの肉片が・・・・」
ファッジの声が突然途切れた。鼻をかむ音が五人分聞こえた。
「さて、そういうことなんだよ、ロスメルタ。」
大臣がかすれた低い声で言った。
「ブラックは魔法警察部隊が二十人がかりで連行し、かわいそうなナツキ・ゴドリクソンは救助され、ペティグリューは勲一等マーリン勲章を授与された。哀れなお母上にとってはこれが少しは慰めになったことだろう。ブラックはそれ以来ずっとアズカバンに収監されていた。」
マダム・ロスメルタは長いため息をついた。
「大臣、なぜブラックはナツキをさらったんですの?」
「それがまたなんとも不憫な話だよ。ナツキ・ゴドリクソンを、おそらく、『ご主人様』への貢物か何かだと思っていたのだろう。『あの人』はアルバ・ゴドリクソンを欲しがっていた。アルバが死んだから、次なるアルバを自ら作ろうとエリザベスに近づいたんだろうと魔法省では推測されている。そして、まんまとアルバ・ゴドリクソンに瓜二つの娘をエリザベスは産んだ・・・・。本当に、かわいそうだ。もっとかわいそうなのは、ハリーがナツキ・ゴドリクソンを親友だと言うじゃないか。彼らにはこんなこと言えないよ・・・・・。あまりにも・・・あまりにも・・・不憫でならない。」
・・・・私は、望まれて生まれたわけではなかったの?ヴォルデモートに捧げられるために、できた子ということ・・・・・?
私、私には、ハリーの両親を死に追いやった奴の血が流れているの?
「大臣、ブラックは狂ってるというのは本当ですの?」
「そう言いたいがね。『ご主人様』が敗北したことで、たしかにしばらくは正気を失っていたと思うね。ペティグリューやあれだけのマグルを殺したというのは、追いつめられて自暴自棄になった男の仕業だ。・・・残忍で・・・・・何の意味もない。しかしだ、先日、私がアズカバンの見回りにいった時、ブラックに会ったんだが、なにしろ、あそこの囚人は大方みんな正気じゃない。ところが、ブラックがあまりに正常なので私はショックを受けた。私に、新聞を読み終わったならくれないかと言った。洒落てるじゃないか、クロスワードパズルが懐かしいからと言うんだよ。ああ、大いに驚きましたとも。吸魂鬼がほとんどブラックに影響を与えていないことにね。しかもブラックはあそこでもっとも厳しく監視されている囚人の一人だったのでね、そう、吸魂鬼が昼も夜もブラックの独房のすぐ外にいたんだ。」
「だけど、何のために脱獄したとお考えですの?まさか、大臣、ブラックは『例のあの人』とまた組むつもりでは?」
マダム・ロスメルタが聞いた。
「それがブラックの・・・最終的な企てだと言えるだろう。」
大臣は言葉を濁した。
「しかし、我々はほどなくブラックを逮捕するだろう。『例のあの人』が孤立無援ならそれはそれでよし。しかし彼のもっとも忠実な家来が戻ったとなると、どんなにあっという間に彼が復活するか、考えただけでも身の毛がよだつ・・・・・」
テーブルの上にガラスを置くカチャカチャという小さな音がした。誰かがグラスを置いたらしい。
「さあ、コーネリウス。校長と食事なさるおつもりなら、城に戻ったほうがいいでしょう。」
マクゴナガル先生が言うと、先生たちは「三本の箒」を順に出ていった。
「ハリー?」
「ナツキ?」
ロンとハーマイオニーの顔がテーブルの下に現れた。二人とも言葉もなくナツキとハリーをじっと見つめていた。
「いた、」
階段をコツコツ登ると、前を歩いていたハリーが天井に頭をぶつけた。どうやらハニーデュークスの倉庫のようだ。
「ナツキ、そこにいる?」
「いるよ。」
ナツキはハリーに借りた透明マントをかぶっていた。小さな時にホグズミードにいたので、ここらの住人にすぐにバレてしまう可能性があるからだ。
こっそりと店内に侵入し、ナツキはハリーの後をピッタリとくっついて歩く。そうでもしないと、ごった返した人が透明な何かにぶつかったことに気づいてしまう。
ハリーとナツキはロンとハーマイオニーの姿を見つけた。
「ウー、だめ。ハリーもナツキもこんなものほしがらないわ。これって吸血鬼用だと思う。」
「じゃ、これは?」
ロンが、「ゴキブリ・ゴソゴソ豆板」の瓶をハーマイオニーの鼻先に突きつけた。「絶対イヤだよ」ハリーが言った。ロンは危うく瓶を落とすところだった。
「ハリー!」
ハーマイオニーが金切り声をあげた。
「ウワー!君『姿現し術』ができるようになったんだ!」
「まさか。違うよ。」
ハリーは声を落として、周りの六年生の誰にも聞こえないようにしながら、「忍びの地図」の一部始終を二人に話した。ついでにそばに透明なナツキがいることも話した。
「でも、ハリーもナツキもこのまま地図を持ってたりしないわ!マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」
「僕、渡さない!」
「気は確かかよ?こんないいものが渡せるか?」
「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わないといけない!フレッドとジョージがちょろまかしたってことがフィルチに知れてしまうじゃないか!」
ナツキは会話に入らないが、ハリーとロンに賛成だった。なぜハーマイオニーはこれほどまでに怒っているのだろう。
「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?この地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ!先生方はそのことを知らないといけないわ!」
ナツキは思わず声をあげそうになった。ハーマイオニーの言うことは最もだった。
「この地図には七つのトンネルが書いてある。いいかい?フレッドとジョージの考えでは、そのうち四つはフィルチがもう知っている。残りは三本だ。一つは崩れているから誰も通り抜けられない。もう一本は出入口の真上に『暴れ柳』が植わってるから、出られやしない。三本目は僕がいま通ってきた道。出入口はここの地下室にあって、なかなか見つかりゃしない。」
ハリーはそうは言ったが、確信はなさそうだった。しかし、ロンが見つけた張り紙によると、吸魂鬼が夜にパトロールをするらしい。ならばブラックに関しては安心かもしれない。
「ねえ、ハリーとナツキはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらっていないんだから!誰かに見つかったら、それこそ大変よ!それに、まだ暗くなってないし・・・今日シリウス・ブラックが現れたらどうするの?たったいま?」
「こんな時にたった二人を見つけるのは大仕事だろうさ。いいじゃないか、ハーマイオニー、クリスマスだぜ。ハリーたちだって楽しまなきゃ。」
ハーマイオニーは、心配でたまらないという顔をした。ナツキはこの時初めて、こっそり出てきたことを悔やんだ。こんなに心配させてしまうだなんて、思わなかった。
しかし一方でハリーはロンの援護射撃を受けて得意になった。
「僕とナツキのこと、言いつける?」
「まあ、そんなことしないわよ。でも、ねえ、ハリー、」
「ハリー、『フィフィ・フィズビー』を見たかい?」
ハリーを引っ張りながら、ロンは小さい声で「ナツキもおいで。欲しいものがあるなら、僕らが代わりに買ってあげるからカゴに入れて」と言った。ナツキはその厚意に甘えて、ロンの持つかごに色々と欲しいお菓子を入れた。
「『ゴキブリ・ゴソゴソ豆板』を持っていって、ピーナッツだって言ったら、フレッドがかじると思うかい?」
「絶対返り討ちにあうよ。」
ずっとこっそり後をついていたナツキであったが、その発言にだけは小さな声で注意喚起をした。
その後4人はハニーデュークス店をあとにし、吹雪の中を歩きだした。
ナツキとハリーは上着を着てくるのを忘れてしまっていた。ナツキは透明マントの中でブルブル震えた。ハリーはその透明マントすらも着ていない。
「『三本の箒』まで行って『バタービール』を飲まないか?」
ロンの提案は最高だった。数分後には小さな居酒屋に入っていった。カウンターの向こうに、小粋な顔をした曲線美の女性がいた。マダム・ロスメルタだ。ナツキは小さい頃、彼女によく遊んでもらっていた。
ロンが飲み物を買って行っている間に、ハリーとハーマイオニーは奥の空いている小さなテーブルのほうへと進んだ。ナツキはハリーの横にマントをかぶりながら腰を下ろした。
「ナツキ、そこにいる?」
「うん。」
ざわざわしているおかげで、逆に話しやすかった。五分後に、ロンが大ジョッキ四本を抱えてやってきた。泡立った熱いバタービールだ。ナツキは周りの人にバレないように、ジョッキをマントの中に隠して、グビっと飲んだ。あったかくて体に染みる。
急に冷たい風が吹き、新しい客が訪れる。なんと、マクゴナガル先生とフリットウィック先生、そしてハグリッドだ。ナツキは急いでハリーをマントの中に入れた。
「危なかった・・・・」
「ナツキにマントを貸していてよかったよ。」
「ねえ、ハリー、あれ、大臣じゃない?」
ナツキとハリーは先生たちを見ながらコソコソ話した。先生たちはすぐその近くのテーブルについた。ナツキとハリーは息を殺した。
「それで、大臣、どうしてこんな片田舎にお出ましになりましたの?」
「ほかでもない、シリウス・ブラックの件でね。ハロウィーンの日に、学校で何が起こったかは、うすうす聞いているんだろうね?」
「噂はたしかに耳にしてますわ。」
「ハグリッド、あなたはパブ中に触れ回ったのですか?」
マクゴナガル先生が腹立たしげに言った。
「大臣、ブラックがまだこのあたりにいるとお考えですの?」
「間違いない。」
マダム・ロスメルタの質問にファッジがきっぱりと返した。ナツキとハリーは顔を見合わせた。
「吸魂鬼がわたしのパブの中を二度も探し回っていったことをご存知かしら?お客様が怖がってみんな出ていってしまいましたわ。大臣、商売あがったりですのよ。」
「ロスメルタのママさん。私だって君と同じで、連中が好きなわけじゃない。用心に越したことはないんでね。つい先ほど連中に会った。ダンブルドアに対して猛烈に怒っていてね。ダンブルドアが城の校内に連中を入れないんだ。」
「そうすべきですわ。」
マクゴナガル先生がきっぱりと言った。先生方に対して「にもかかわらずだ」大臣が言い返した。
「連中よりもっとタチの悪いものから我々を護るために連中がここにいるんだ。知ってのとおり、ブラックの力をもってすれば・・・・」
「でもねえ、わたしにはまだ信じられないですわ。どんな人が闇の側に荷担しようと、シリウス・ブラックだけはそうならないと、わたしは思ってました。あの人がまだホグワーツの学生だった時のことを憶えてますわ。もしあのころに誰かがブラックがこんなふうになるなんて言ってたら、わたしきっと、『あなた蜂蜜酒の飲みすぎよ』って言ったと思いますわ。」
「君は話の半分しか知らないんだよ、ロスメルタ。ブラックの最悪の仕業はあまり知られていない。」
大臣はぶっきらぼうに言った。
「あんなにたくさんのかわいそうな人たちを殺した、それより悪いことだっておっしゃるんですか?」
「ブラックのホグワーツ時代を覚えていると言いましたね、ロスメルタ。」
マクゴナガル先生がつぶやくように言った。
「あの人の一番の親友が誰だったか、覚えていますか?」
「えぇえぇ。いつでも一緒、影と形のようだったでしょ?ここにはしょっちゅう来てましたわ。ああ、あの二人にはよく笑わされました。まるで漫才だったわ、シリウス・ブラックとジェームズ・ポッター!」
ハリーの顔から表情が消えた。ナツキも今聞いた話が一度では理解できなかった。
「そのとおりです。」
マクゴナガル先生だ。
「ブラックとポッターはいたずらっ子たちの首謀者。もちろん、二人とも非常に賢い子でした。しかしあんなに手を焼かされた二人組はなかったですね・・・」
「そりゃ、わかんねえですぞ。フレッドとジョージ・ウィーズリーにかかっちゃ、互角の勝負かもしれねえ。」
ハグリッドが笑いながら言った。大臣は話を続けた。
「ポッターはほかの誰よりブラックを信用した。卒業しても変わらなかった。ブラックはジェームズがリリーと結婚した時、新郎の付添役を務めた。二人はブラックをハリーの名付け親にした。ハリーはもちろんまったく知らないがね。こんなことを知ったら、ハリーがどんなに辛い思いをするか。」
名付け親・・・ブラックが、ハリーの?
ナツキはゴクリと生唾を飲んだ。すぐ隣にいるハリーの顔を見る気にはなれなかった。
「ポッター夫妻は、自分たちが『例のあの人』につけ狙われていると知っていた。ダンブルドアは『例のあの人』と緩みなく戦っていたから、数多の役に立つスパイを放っていた。その内の一人から情報を聞き出したダンブルドアは、ジェームズとリリーにすぐに危機を知らせ、二人に身を隠すよう勧めた。だが、もちろん、『例のあの人』から身を隠すのは容易なことではない。ダンブルドアは『忠誠の術』が一番助かる可能性があると二人にそう言ったのだ。」
「どんな術ですの?」
マダム・ロスメルタが息をつめ、夢中になって聞いた。フリットウィック先生が咳払いし、「恐ろしく複雑な術ですよ」と甲高い声で言った。
「一人の、生きた人の中に秘密を魔法で封じ込める。選ばれた者は『秘密の守人』として情報を自分の中に隠す。かくして情報を見つけることは不可能となる。『秘密の守人』が暴露しないかぎりはね。『秘密の守人』が口を割らないかぎり、『例のあの人』がリリーとジェームズの隠れている村を何年探そうが、二人を見つけることはできない。たとえ二人の家の居間の窓に鼻先を押しつけるほど近づいても、見つけることはできない!」
「それじゃ、ブラックがポッター夫妻の『秘密の守人』に?」
マダム・ロスメルタが囁くように聞いた。「当然です」とマクゴナガル先生が答えた。
「ジェームズ・ポッターは、ブラックだったら二人の居場所を教えるぐらいなら死を選ぶだろう、それにブラックも身を隠すつもりだとダンブルドアにお伝えしたのです。・・・・・それでもダンブルドアはまだ心配していらっしゃった。自分がポッター夫妻の『秘密の守人』になろうと申し出られたことを覚えていますよ。」
「ダンブルドアはブラックを疑っていらした?」
マダム・ロスメルタが息を呑んだ。
「ダンブルドアには、誰かポッター夫妻に近い者が、二人の動きを『例のあの人』に通報しているという確信がおありでした。」
マクゴナガル先生が暗い声で言った。
「ダンブルドアはその少し前から、味方の誰かが裏切って、『例のあの人』に相当の情報を流していると疑っていらっしゃいました。」
「それでもジェームズ・ポッターはブラックを使うと主張したんですの?」
「そうだ。」
ファッジが重苦しい声で言った。
「そして、『忠誠の術』をかけてから一週間も経たないうちに・・・・・」
「ブラックが二人を裏切った?」
マダム・ロスメルタが囁き声で聞いた。
「まさにそうだ。ブラックは二重スパイの役目に疲れて、『例のあの人』への支持をおおっぴらに宣言しようとしていた。ポッター夫妻の死に合わせて宣言する計画だったらしい。ところが、知ってのとおり、『例のあの人』は幼いハリーのために凋落した。力も失せ、ひどく弱体化し、逃げ去った。残されたブラックブラックにしてみれば、まったくいやな立場に立たされてしまったわけだ。自分が裏切り者だと旗幟鮮明にしたとたん、自分の旗頭が倒れてしまったんだ。逃げるほかなかった。」
「くそったれのあほんだらの裏切り者め!」
ハグリッドの罵声にバーにいた人の半分がしんとなった。「シーッ!」とマクゴナガル先生が人差し指をピンと立てた。
「俺はヤツに出会ったんだ。」
ハグリッドは歯噛みをした。
「ヤツに最後に出会ったのは俺にちげぇねぇ。そのあとでヤツはあんなにみんなを殺した!ジェームズとリリーが殺されっちまった時、あの家からハリーを助け出したのは俺だ!崩れた家からすぐにハリーを連れ出した。かわいそうなちっちゃなハリー。額におっきな傷を受けて、両親は死んじまって・・・・そんで、シリウス・ブラックが現れた。いつもの空飛ぶオートバイに乗って。あそこに何の用で来たんだか、俺には思いもつかんかった。ヤツがリリーとジェームズの『秘密の守人』だとは知らんかった。『例のあの人』の襲撃の知らせを聞きつけて、何かできることはねえかと駆けつけてきたんだと思った。ヤツめ、真っ青になって震えとったわ。そんで、俺が何したと思うか?俺は殺人者の裏切り者を慰めたんだ!」
ハグリッドが吼えた。
「ハグリッド!お願いだから声を低くして!」
マクゴナガル先生だ。それから、マダム・ロスメルタはやや満足げに言った。
「でも、逃げ遂せなかったわね?魔法省が次の日に追いつめたわ!」
「あぁ、魔法省だったらよかったのだが!」
ファッジが口惜しげに言った。
「ヤツを見つけたのは我々ではなく、チビのピーター・ペティグリューだった。・・・・ポッター夫妻の友人の一人だが。悲しみで頭がおかしくなったのだろう。たぶんな。ブラックがポッターの『秘密の守人』だと知っていたペティグリューは、自らブラックを追った。」
「ペティグリュー・・・・ホグワーツにいたころはいつも二人のあとにくっついていたあの肥った小さな男の子かしら?」
マダム・ロスメルタが聞いた。
「・・・ここから、もう一つ、やつの最悪の悪事が暴かれた。もしかしたら・・・・あの子がこの件に関しては、一番かわいそうかもしれん。私は赤ん坊の頃に目にしただけだが、マダムはご存じだろう・・・・。ナツキ・ゴドリクソンだ。」
「まあ?ナツキが?知っているわよ。私、あの子のおむつを変えてあげたわ。でも、その後のことは私も知っているわよ。ブラックに、お母様を殺されてしまったのよね。それで、アバーフォースがあの子を育てているんだわ。」
マダム・ロスメルタが懐かしそうな顔をした。
「それはね、ほんの表面的なことなんだ。」
大臣はそう言った。ナツキはドクンドクンと心臓が暴れ出した。
「ペティグリューは、エリザベス・ゴドリクソンの住処を訪れた。しかし、そこにあったのは、すでに亡骸となった彼女と、もぬけの空になったベビーベッドだけだった。」
「ナツキの母が自宅で?彼女は他の大勢のマグルと共に亡くなったのではなかったのですか?」
「違うのだ。マダムよ・・・・。ある、残酷な真実を隠すため、表ではそう広めている。しかし・・・しかしだな・・・・なぜ、ペティグリューはブラックの裏切りを知ったのちにゴドリクソン家を訪れたと思う?」
大臣の言葉に、マクゴナガル先生は口を挟んだ。
「・・・事実として証明されておりません。まるで本当のことのようにおっしゃらないで。」
「ミネルバ、しかし、私が聞く限り、彼女は明らかにその特徴を持っている。」
大臣は何を言いたいのだろう。その特徴って何のこと?マクゴナガル先生はどうしてこんなに辛そうな声を出しているの?
「ナツキ・ゴドリクソンの父親はまず間違いなくシリウス・ブラックだろう。エリザベスとブラックの親密な様子を目撃しているものは多い。それに彼女の髪と瞳の色はブラックと同じだ。」
・・・・・・・え・・・・・・?
「それを知っていたペティグリューはブラックがゴドリクソンの元にいると踏んでそこへ向かった。しかし、すでにエリザベスの息は無く、ナツキの姿もない。その後に、目撃者の証言ではペティグリューはブラックを追いつめた。泣きながら『リリーとジェームズが。シリウス!よくもそんなことを!その子から手を離せ!』と言っていたそうだ。それから杖を取り出そうとした。まあ、もちろん、ブラックのほうが速かった。ペティグリューは木っ端微塵に吹っ飛ばされてしまった・・・・」
マクゴナガル先生はチンと鼻をかみ、かすれた声で言った。
「バカな子・・・・間抜けな子・・・どうしようもなく決闘がへたな子でしたわ。・・・魔法省に任せるべきでした・・・・」
「魔法警察部隊から派遣される訓練された『特殊部隊』以外は、追いつめられたブラックに太刀打ちできる者はいなかったろう。私はその時、ブラックがあれだけの人間を殺したあとに現場に到着した第一陣の一人だった。私は、あの・・・・あの光景が忘れられない。いまでもときどき夢に見る。道の真ん中に深くえぐれたクレーター。その底のほうで下水管に亀裂が入っていた。死体が累々。マグルたちは悲鳴をあげていた。そして、ブラックがそこに仁王立ちになり笑っていた。片手には大声で泣く、小さな小さなナツキ・ゴドリクソンを抱えていた。その前にペティグリューの残骸が・・・血だらけのローブとわずかの・・・わずかの肉片が・・・・」
ファッジの声が突然途切れた。鼻をかむ音が五人分聞こえた。
「さて、そういうことなんだよ、ロスメルタ。」
大臣がかすれた低い声で言った。
「ブラックは魔法警察部隊が二十人がかりで連行し、かわいそうなナツキ・ゴドリクソンは救助され、ペティグリューは勲一等マーリン勲章を授与された。哀れなお母上にとってはこれが少しは慰めになったことだろう。ブラックはそれ以来ずっとアズカバンに収監されていた。」
マダム・ロスメルタは長いため息をついた。
「大臣、なぜブラックはナツキをさらったんですの?」
「それがまたなんとも不憫な話だよ。ナツキ・ゴドリクソンを、おそらく、『ご主人様』への貢物か何かだと思っていたのだろう。『あの人』はアルバ・ゴドリクソンを欲しがっていた。アルバが死んだから、次なるアルバを自ら作ろうとエリザベスに近づいたんだろうと魔法省では推測されている。そして、まんまとアルバ・ゴドリクソンに瓜二つの娘をエリザベスは産んだ・・・・。本当に、かわいそうだ。もっとかわいそうなのは、ハリーがナツキ・ゴドリクソンを親友だと言うじゃないか。彼らにはこんなこと言えないよ・・・・・。あまりにも・・・あまりにも・・・不憫でならない。」
・・・・私は、望まれて生まれたわけではなかったの?ヴォルデモートに捧げられるために、できた子ということ・・・・・?
私、私には、ハリーの両親を死に追いやった奴の血が流れているの?
「大臣、ブラックは狂ってるというのは本当ですの?」
「そう言いたいがね。『ご主人様』が敗北したことで、たしかにしばらくは正気を失っていたと思うね。ペティグリューやあれだけのマグルを殺したというのは、追いつめられて自暴自棄になった男の仕業だ。・・・残忍で・・・・・何の意味もない。しかしだ、先日、私がアズカバンの見回りにいった時、ブラックに会ったんだが、なにしろ、あそこの囚人は大方みんな正気じゃない。ところが、ブラックがあまりに正常なので私はショックを受けた。私に、新聞を読み終わったならくれないかと言った。洒落てるじゃないか、クロスワードパズルが懐かしいからと言うんだよ。ああ、大いに驚きましたとも。吸魂鬼がほとんどブラックに影響を与えていないことにね。しかもブラックはあそこでもっとも厳しく監視されている囚人の一人だったのでね、そう、吸魂鬼が昼も夜もブラックの独房のすぐ外にいたんだ。」
「だけど、何のために脱獄したとお考えですの?まさか、大臣、ブラックは『例のあの人』とまた組むつもりでは?」
マダム・ロスメルタが聞いた。
「それがブラックの・・・最終的な企てだと言えるだろう。」
大臣は言葉を濁した。
「しかし、我々はほどなくブラックを逮捕するだろう。『例のあの人』が孤立無援ならそれはそれでよし。しかし彼のもっとも忠実な家来が戻ったとなると、どんなにあっという間に彼が復活するか、考えただけでも身の毛がよだつ・・・・・」
テーブルの上にガラスを置くカチャカチャという小さな音がした。誰かがグラスを置いたらしい。
「さあ、コーネリウス。校長と食事なさるおつもりなら、城に戻ったほうがいいでしょう。」
マクゴナガル先生が言うと、先生たちは「三本の箒」を順に出ていった。
「ハリー?」
「ナツキ?」
ロンとハーマイオニーの顔がテーブルの下に現れた。二人とも言葉もなくナツキとハリーをじっと見つめていた。