アズカバンの囚人
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医務室での夜は静寂に満ちていた。マダム・ポンフリーが席を外している隙をついて、ハリーはナツキに話しかけた。
「ねえナツキ、どうして僕たちは吸魂鬼に襲われるんだろう?・・・それに、僕が聞こえた悲鳴は・・・母さんのだったんだ。・・・ヴォルデモートに襲われた時のだ。・・・・ナツキが聞こえたのは、何か聞いてもいい?」
「・・・・・似たようなやつだとおもう。私も、私のお母さんの悲鳴だった。男の人が・・・シリウス・ブラックが、死の呪文を唱えたの。それで、それで、多分、お父さんが・・・助けに来てくれる声が聞こえた・・・・」
医務室は再び静寂に包まれた。
「ナツキ、笑わないで聞いて欲しいんだけど、」
「うん。」
「僕、また死神犬を見たんだ・・・・。スタンドの、人がいないところに・・・・」
ナツキはそのハリーの言葉に口角を上げた。
「ふふ、あ、ごめん。えっとね、それ私も見たよ。でも、死神犬って目が赤いんだって。確かに大きな犬はいたけど、目は赤ではなさそうだったよ。ハグリッドか誰かが連れてきて犬じゃない?」
「・・・・・プリベット通りにもいたんだ・・・なのに、ホグワーツにもいるなんておかしいよ・・・・・それにどちらとも僕は、死にかけてる。」
「ロンに悪いから言わなかったんだけど、魔法界では子供に悪いことをさせないために脅しに使うのが死神犬なの。だから、あまり気にしすぎないほうがいいよ。今までのは偶然の可能性の方がきっと高いよ。私には大きいワンちゃんにしか見えなかったもん。」
「そうかな・・・・うーん・・・・」
ハリーはナツキの言ったことを飲み込めずにいた。
「私、フレッドとジョージは雰囲気で見分けてるんだけど、」
「急に何の話?」
「優しそうな雰囲気なのがジョージ、違う方がフレッド。」
ハリーはプッと吹き出した。フレッドにちょっぴり同情した事だろう。
「あのワンちゃんも、遠くから見た感じではジョージみたいな雰囲気だった。」
「なにそれ。」
ハリーはナツキの話を馬鹿馬鹿しく思いながらも、さっきまで不安だったのがマシになった気がした。
「おやすみ、ナツキ。」
「おやすみ、ハリー。」
入院中、ナツキはまだ終わっていないルーン文字の宿題に取り組んでいた。
「ターメリック、を・・・梨・・と、蝙蝠の・・・鼻毛・・・」
「ねえナツキ、それ本当にあってるの?」
ナツキがブツブツ言いながら古代ルーン文字を読む様子を心配しながらハリーは尋ねた。しかし、その質問に答えたのは、ナツキではなかった。
「ナツキ、ここが、違うよ。よく見て。」
「ん?・・・・・あ、あー!本当だ。・・・・て、セドリック?どうしたの?」
セドリック・ディゴリーだった。
「君が、あ、君とハリーが医務室にいるって聞いたから。」
自分がついで扱いされたことにハリーは気づいた。ナツキはハリーをチラリと見て、その表情から、ハッフルパフのキャプテンでシーカーのセドリックを快く思っていないのだと、思った。
セドリックはナツキのベッドの脇にある小さなマル椅子に腰を下ろした。その時、医務室の扉が再び開いた。
「おー、ナツキ、ハリー、調子はどうだ?」
そこにさらにウィーズリーの双子が現れた。セドリックは「やあ」と気さくに挨拶をしたが、フレッドもジョージも顔を顰めた。
「おいおいおいおい、ここはグリフィンドール生以外お断りだね。」
「うちのシーカーに何かされたらたまったもんじゃないんでね。」
二人とも敵意剥き出しだ。
「セドリックはそんな人じゃないよ。」
ナツキが苦笑しながらそういうと、フレッドもジョージもショックを受けたような顔をした。「おい、相棒、どうすんだよ」とひそひそ声のフレッドの声が聞こえた。
「ナツキ、ほら。」
「ありがとう、ジョージ。」
ジョージはナツキのベッドの淵に腰掛けて、カボチャジュースをナツキに手渡した。
「そこに座るのはマナー違反じゃないか?」
ムッとした声で言ったのはセドリックだった。ナツキはニコニコ笑って、人の悪口を言わないセドリックしか知らないので、驚いて彼を見た。
「ナツキだって、多分、ほら、その、気を悪くしている。」
「ううん。なにも気にしてないから、そんなに神経質にならなくても大丈夫だよ。セドリック。」
倒れた自分を心配してセドリックは気遣ってくれているんだろうけど、そんなに繊細ではないのだ。と、やや明後日の方向にナツキがその光景を解釈している間に、セドリック・ディゴリーとジョージ・ウィーズリーの間には完全に対立構造が出来上がっていた。
「見て、ハリー!私、これが腐った臭いを撒き散らす呪いのことってわかったよ!」
「僕、今ほど君を勇敢に思ったことはないよ。」
完成した宿題を得意げに見せるナツキに、ハリーは呆れながらそういった。
二人が退院して最初の防衛術の授業が終わると、ルーピン先生はハリーとナツキを授業後に呼び出した。
「いったいどうして?どうして吸魂鬼は僕らだけにあんなふうに?」
クィディッチの試合の話になり、ハリーはたまらずそのことを先生に尋ねた。
「吸魂鬼がほかの誰よりも君達に影響するのは、二人の過去に、誰も経験したことがない恐怖があるからだ。」
誰も経験したことがない恐怖・・・・?
「あいつらがそばに来ると・・・・・ヴォルデモートが僕の母さんを殺した時の声が聞こえるんです。ナツキは・・・ナツキの母さんが、殺された時の声が・・・・。」
ナツキは俯いた。そして、ルーピン先生に尋ねた。
「先生、どうして吸魂鬼はクィディッチの試合に来たんですか?」
「飢えてきたんだ。ダンブルドアがやつらを校内に入れなかったので、餌食にする人間という獲物が枯渇してしまった。クィディッチ競技場に集まる大観衆という魅力に抗しきれなかったのだろう。あの大興奮、感情の高まり、やつらにとってはご馳走だ。」
「先生は汽車の中であいつを追い払いました。」
ハリーは急に思い出したように言った。
「それは、防衛の方法がないわけではない。しかし、汽車に乗っていた吸魂鬼は一人だけだった。数が多くなればなるほど抵抗するのが難しくなる。」
「「どんな防衛法ですか?」」
ナツキとハリーは同時に尋ねた。
「ハリー、ナツキ、私はけっして吸魂鬼と戦う専門家ではない。それはまったく違う。」
ルーピン先生はちょっと迷った様子で言った。
「でも、吸魂鬼がまたクィディッチ試合に現れたとき、僕はやつらと戦うことができないと・・・」
「私も訳もわからず襲われるのは嫌です。」
「そうか・・・よろしい。なんとかやってみよう。だが、来学期まで待たないといけないよ。休暇に入る前にやっておかなければならないことが山ほどあってね。まったく私は都合の悪い時に病気になってしまったものだ。」
ルーピン先生の顔色は最悪といってもよかった。
「先生、あの、体調は大丈夫ですか?」
ナツキの質問にルーピン先生はニコッと微笑んで「大丈夫だよ」と、大丈夫では全くなさそうに言ったのだった。
11月の終わり、ハッフルパフがレイブンクローにペシャンコに負けたことで、ハリーは元気を取り戻していた。ナツキはそれを見て、ほっとしていた。
城の中はだんだんとクリスマス・ムードになっていた。ナツキはアバーフォースと言い争いをしたままホグワーツに来ていたので、気まずくてクリスマスを帰る気にはなれなかった。それに、シリウス・ブラックが現れたとしても、ホグワーツの方が安全だと言うであろう。
ナツキは最近になって、ホグワーツ特急で別れた日の言葉を後悔していた。「本当の親でもないくせに」と言った後のアバフォースの顔は見ていない。でもきっと、良い顔はしていなかったはずだ。
さらに気分が落ち込むことに、ホグズミードにみんなが行く日が迫っていた。
「元気がないな。」
談話室にいるとみんながホグズミードの話をしていたので、ナツキはこっそり西塔の秘密の部屋に来ていた。サイラスは肉を齧りながらそう言った。
「アブにひどいことを言っちゃったの。私、何であんなこと言っちゃったんだろう。絶対に言ってはいけないことだった。」
「ならば謝ればいい。」
「・・・・ホグズミードに行ければね。でも、行けないもの。」
「育ての親であれば手紙でも十分意図は汲んでくれるだろう。」
サイラスの言い分にも納得できたが少しだけ心に引っ掛かりを感じた。しかし、ナツキは「うん」と言って、アバーフォース宛に謝罪の手紙を書いた。
サイラスに別れを告げて、フクロウ小屋に向かうと、ジョージがそこにいて、学校のフクロウに手紙を頼んでいた。
「誰に手紙?」
「うおっ!?」
ナツキが来たことに気づいていなかったようで、ジョージは肩を大きく跳ね上げた。
「ナツキか・・・。ビビっちまったぜ。これは手紙じゃなくて、フクロウ通信販売だ。クリスマス用に。」
「あ、」
ナツキはクリスマスプレゼントのことをすっかり忘れていた。今から急いで見繕わねば、最優先事項に決定した。
「おいおい、まさか忘れてたのか?俺は去年のクリスマスからずーーーっとナツキになにを送るか考えてやってるっていうのに。」
「それは嘘でしょ。」
ナツキは呆れながらそう言って、レオーネを探す。
「ナツキは?誰への手紙?」
「・・・・養父のアバーフォースに。新学期前に・・・喧嘩したの。それで、ホグズミードに行けたら、直接謝れるんだけど・・・・」
ナツキは言葉を詰まらせた。少し声が震えたのが自分でもわかって、口を引き締めて、舞い降りてきたレオーネに手紙を託した。
「手紙でも伝わるさ。」
ジョージがそういうとナツキはこっくりと頷いた。
「でも、ナツキはきっと、仲直りのハグを御所望というわけだな。」
そう言って、ジョージはナツキの頭にポンポンと手を置いた。さっき、サイラスの言葉で感じた心の引っかかりの正体は、まさにその仲直りのハグだったのではないかと思った。
「・・・・・そうかも。」
「ならダンブルドアを代わりに抱きしめてみたらどうだ?それか俺でもいいぜ。」
ニヤニヤするジョージに釣られて、ナツキも笑ってしまった。
「ならダンブルドア先生かな。」
「そりゃ残念だ。」
ホグズミード行きの土曜の朝、マントやスカーフにすっぽりくるまったロンとハーマイオニーに別れを告げ、ナツキとハリーは大理石の階段を上り、またグリフィンドール塔に向かっていた。窓の外には雪がちらつきはじめ、城の中はしんと静まり返っていた。
「ハリー、ナツキ、シーッ!」
四階の廊下の中ほどで、声のするほうを振り向くと、フレッドとジョージが背中にコブのある隻眼の魔女の像の後ろから顔を覗かせていた。
「何してるんだい?」
「ホグズミードに行かないの?」
ナツキとハリーは不思議に思って、同じように首を傾げた。
「行く前に、君にお祭り気分を分けてあげようかと思って。」
フレッドが意味ありげにウィンクした。フレッドは像の左側にある、誰もいない教室のほうを顎でしゃくった。ナツキとハリーはフレッドとジョージのあとについて教室に入った。ジョージがそっとドアを閉め、にっこりした。
「ひと足早いクリスマス・プレゼントだ。」
フレッドがマントの下から仰々しく何かを引っ張り出して、机の上に広げて見せた。大きな、四角い、相当くたびれた羊皮紙だった。何も書いてない。ナツキとハリーは顔を見合わせた。またフレッドとジョージの冗談だろうか。
「これ、いったい何だい?」
「これはだね、ハリー、俺たちの成功の秘訣さ。」
ジョージが羊皮紙を愛おしげに撫でた。
「君らにやるのは実におしいぜ。しかし、これが必要なのは俺たちより君らのほうだって、俺たち、昨日の夜そう決めたんだ。」
「それに、俺たちはもう暗記してるしな。われわれは汝にこれを譲る。俺たちにゃもう必要ないからな。」
ナツキとハリーはまた同じように首を傾げた。
「ジョージ、フレッド、これ何なの?」
「古い羊皮紙の切れっ端の、何が僕らに必要なの?」
「ジョージ、説明してやりたまえ。」
「よろしい・・・・。われわれが一年生だった時のことだ、まだ若くて、疑いを知らず、汚れなきころのこと・・・・」
「そんな時あったの!?」
ナツキのツッコミにハリーは吹き出した。
「まあ、いまの俺たちよりは汚れなきころさ。われわれはフィルチのご厄介になるはめになった。」
「『クソ爆弾』を廊下で爆発させたら、なぜか知らんフィルチのご不興を買って、」
「やっこさん、俺たちを事務所まで引っ張っていって、脅しはじめたわけだ。例のお定まりの・・・」
「処罰だぞ。」
「腸をえぐるぞ。」
「そして、われわれはあることに気づいてしまった。書類棚の引き出しの一つに『没収品・とくに危険』と書いてあるじゃないか。」
ナツキもハリーもこの品を二人がどういう経緯で入手したか察した。
「ジョージがもう一回『クソ爆弾』を爆発させて気を逸らせている間に、俺が素早く引き出しを開けて、ムンズとつかんだのが、これさ。」
「なーに、そんなに悪いことをしたわけじゃないさ。」
「フィルチにこれの使い方がわかっていたとは思えないね。でも、たぶんこれが何かは察しがついてたんだろうな。でなきゃ、没収したりしなかっただろう。」
ジョージは杖を取り出し、羊皮紙に軽く触れて、こう言った。
「われ、ここに誓う。われ、よからぬことを企む者なり。」
すると、たちまち、ジョージの杖の先が触れたところから、細いインクの線がクモの巣のように広がりはじめた。線があちこちでつながり、交差し、羊皮紙の隅から隅まで伸びていった。そして、一番てっぺんに、花が開くように、渦巻形の大きな緑色の文字が、ポッ、ポッと現れた。
『ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ われら魔法いたずら仕掛人のご用達商人がお届けする自慢の品 忍びの地図』
それはホグワーツ城と学校の敷地全体の詳しい地図だった。しかし、本当にすばらしいのは、地図上を動く小さな点で、一つ一つに細かい字で名前が書いてあった。ナツキもハリーは目を丸くして覗き込んだ。
「ホグズミードに直行さ。」
フレッドが指でそのうちの一つをたどりながら言った。
「全部で七つの道がある。ところがフィルチはそのうち四つを知っている。」
フレッドは指で四つを示した。
「・・・・しかし、残りの道を知っているのは絶対俺たちだけだ。五階の鏡の裏からの道はやめとけ。僕たちが去年の冬までは利用していたけど、崩れっちまった。完全にふさがってる。それから、こっちの道は誰も使ったことがないと思うな。なにしろ「暴れ柳」がその入口の真上に植わってる。しかし、こっちのこの道、これはハニーデュークス店の地下室に直通だ。僕たち、この道は何回も使った。それに、もうわかってると思うが、入口はこの部屋のすぐ外、隻眼の魔女ばあさんのコブなんだ。」
「というわけで、」
ジョージがきびきびと言った。
「使ったあとは忘れずに消しとけよ。」
「じゃないと、誰かに読まれちまう。」
「もう一度地図を軽く叩いて、こう言えよ。『いたずら完了!』。すると地図は消される。」
「それではナツキ君、ハリー君よ」
フレッドが、気味が悪いほどパーシーそっくりのものまねをした。
「行動を慎んでくれたまえ。」
「ハニーデュークスで会おう。」
ジョージがハリー向かってウィンクした。その後、ナツキの耳元に顔を近づけた。
「俺との約束覚えてる?うまくあっちで会えたら合流しよう。」
二人は満足げに笑いながら部屋を出ていった。
ナツキはジョージがかつて、『ホグズミードに行けるようになったら、最初に俺と行かない?その、ハリーたちとじゃなくて』と言っていたことを思い出したのだった。
「ねえナツキ、どうして僕たちは吸魂鬼に襲われるんだろう?・・・それに、僕が聞こえた悲鳴は・・・母さんのだったんだ。・・・ヴォルデモートに襲われた時のだ。・・・・ナツキが聞こえたのは、何か聞いてもいい?」
「・・・・・似たようなやつだとおもう。私も、私のお母さんの悲鳴だった。男の人が・・・シリウス・ブラックが、死の呪文を唱えたの。それで、それで、多分、お父さんが・・・助けに来てくれる声が聞こえた・・・・」
医務室は再び静寂に包まれた。
「ナツキ、笑わないで聞いて欲しいんだけど、」
「うん。」
「僕、また死神犬を見たんだ・・・・。スタンドの、人がいないところに・・・・」
ナツキはそのハリーの言葉に口角を上げた。
「ふふ、あ、ごめん。えっとね、それ私も見たよ。でも、死神犬って目が赤いんだって。確かに大きな犬はいたけど、目は赤ではなさそうだったよ。ハグリッドか誰かが連れてきて犬じゃない?」
「・・・・・プリベット通りにもいたんだ・・・なのに、ホグワーツにもいるなんておかしいよ・・・・・それにどちらとも僕は、死にかけてる。」
「ロンに悪いから言わなかったんだけど、魔法界では子供に悪いことをさせないために脅しに使うのが死神犬なの。だから、あまり気にしすぎないほうがいいよ。今までのは偶然の可能性の方がきっと高いよ。私には大きいワンちゃんにしか見えなかったもん。」
「そうかな・・・・うーん・・・・」
ハリーはナツキの言ったことを飲み込めずにいた。
「私、フレッドとジョージは雰囲気で見分けてるんだけど、」
「急に何の話?」
「優しそうな雰囲気なのがジョージ、違う方がフレッド。」
ハリーはプッと吹き出した。フレッドにちょっぴり同情した事だろう。
「あのワンちゃんも、遠くから見た感じではジョージみたいな雰囲気だった。」
「なにそれ。」
ハリーはナツキの話を馬鹿馬鹿しく思いながらも、さっきまで不安だったのがマシになった気がした。
「おやすみ、ナツキ。」
「おやすみ、ハリー。」
入院中、ナツキはまだ終わっていないルーン文字の宿題に取り組んでいた。
「ターメリック、を・・・梨・・と、蝙蝠の・・・鼻毛・・・」
「ねえナツキ、それ本当にあってるの?」
ナツキがブツブツ言いながら古代ルーン文字を読む様子を心配しながらハリーは尋ねた。しかし、その質問に答えたのは、ナツキではなかった。
「ナツキ、ここが、違うよ。よく見て。」
「ん?・・・・・あ、あー!本当だ。・・・・て、セドリック?どうしたの?」
セドリック・ディゴリーだった。
「君が、あ、君とハリーが医務室にいるって聞いたから。」
自分がついで扱いされたことにハリーは気づいた。ナツキはハリーをチラリと見て、その表情から、ハッフルパフのキャプテンでシーカーのセドリックを快く思っていないのだと、思った。
セドリックはナツキのベッドの脇にある小さなマル椅子に腰を下ろした。その時、医務室の扉が再び開いた。
「おー、ナツキ、ハリー、調子はどうだ?」
そこにさらにウィーズリーの双子が現れた。セドリックは「やあ」と気さくに挨拶をしたが、フレッドもジョージも顔を顰めた。
「おいおいおいおい、ここはグリフィンドール生以外お断りだね。」
「うちのシーカーに何かされたらたまったもんじゃないんでね。」
二人とも敵意剥き出しだ。
「セドリックはそんな人じゃないよ。」
ナツキが苦笑しながらそういうと、フレッドもジョージもショックを受けたような顔をした。「おい、相棒、どうすんだよ」とひそひそ声のフレッドの声が聞こえた。
「ナツキ、ほら。」
「ありがとう、ジョージ。」
ジョージはナツキのベッドの淵に腰掛けて、カボチャジュースをナツキに手渡した。
「そこに座るのはマナー違反じゃないか?」
ムッとした声で言ったのはセドリックだった。ナツキはニコニコ笑って、人の悪口を言わないセドリックしか知らないので、驚いて彼を見た。
「ナツキだって、多分、ほら、その、気を悪くしている。」
「ううん。なにも気にしてないから、そんなに神経質にならなくても大丈夫だよ。セドリック。」
倒れた自分を心配してセドリックは気遣ってくれているんだろうけど、そんなに繊細ではないのだ。と、やや明後日の方向にナツキがその光景を解釈している間に、セドリック・ディゴリーとジョージ・ウィーズリーの間には完全に対立構造が出来上がっていた。
「見て、ハリー!私、これが腐った臭いを撒き散らす呪いのことってわかったよ!」
「僕、今ほど君を勇敢に思ったことはないよ。」
完成した宿題を得意げに見せるナツキに、ハリーは呆れながらそういった。
二人が退院して最初の防衛術の授業が終わると、ルーピン先生はハリーとナツキを授業後に呼び出した。
「いったいどうして?どうして吸魂鬼は僕らだけにあんなふうに?」
クィディッチの試合の話になり、ハリーはたまらずそのことを先生に尋ねた。
「吸魂鬼がほかの誰よりも君達に影響するのは、二人の過去に、誰も経験したことがない恐怖があるからだ。」
誰も経験したことがない恐怖・・・・?
「あいつらがそばに来ると・・・・・ヴォルデモートが僕の母さんを殺した時の声が聞こえるんです。ナツキは・・・ナツキの母さんが、殺された時の声が・・・・。」
ナツキは俯いた。そして、ルーピン先生に尋ねた。
「先生、どうして吸魂鬼はクィディッチの試合に来たんですか?」
「飢えてきたんだ。ダンブルドアがやつらを校内に入れなかったので、餌食にする人間という獲物が枯渇してしまった。クィディッチ競技場に集まる大観衆という魅力に抗しきれなかったのだろう。あの大興奮、感情の高まり、やつらにとってはご馳走だ。」
「先生は汽車の中であいつを追い払いました。」
ハリーは急に思い出したように言った。
「それは、防衛の方法がないわけではない。しかし、汽車に乗っていた吸魂鬼は一人だけだった。数が多くなればなるほど抵抗するのが難しくなる。」
「「どんな防衛法ですか?」」
ナツキとハリーは同時に尋ねた。
「ハリー、ナツキ、私はけっして吸魂鬼と戦う専門家ではない。それはまったく違う。」
ルーピン先生はちょっと迷った様子で言った。
「でも、吸魂鬼がまたクィディッチ試合に現れたとき、僕はやつらと戦うことができないと・・・」
「私も訳もわからず襲われるのは嫌です。」
「そうか・・・よろしい。なんとかやってみよう。だが、来学期まで待たないといけないよ。休暇に入る前にやっておかなければならないことが山ほどあってね。まったく私は都合の悪い時に病気になってしまったものだ。」
ルーピン先生の顔色は最悪といってもよかった。
「先生、あの、体調は大丈夫ですか?」
ナツキの質問にルーピン先生はニコッと微笑んで「大丈夫だよ」と、大丈夫では全くなさそうに言ったのだった。
11月の終わり、ハッフルパフがレイブンクローにペシャンコに負けたことで、ハリーは元気を取り戻していた。ナツキはそれを見て、ほっとしていた。
城の中はだんだんとクリスマス・ムードになっていた。ナツキはアバーフォースと言い争いをしたままホグワーツに来ていたので、気まずくてクリスマスを帰る気にはなれなかった。それに、シリウス・ブラックが現れたとしても、ホグワーツの方が安全だと言うであろう。
ナツキは最近になって、ホグワーツ特急で別れた日の言葉を後悔していた。「本当の親でもないくせに」と言った後のアバフォースの顔は見ていない。でもきっと、良い顔はしていなかったはずだ。
さらに気分が落ち込むことに、ホグズミードにみんなが行く日が迫っていた。
「元気がないな。」
談話室にいるとみんながホグズミードの話をしていたので、ナツキはこっそり西塔の秘密の部屋に来ていた。サイラスは肉を齧りながらそう言った。
「アブにひどいことを言っちゃったの。私、何であんなこと言っちゃったんだろう。絶対に言ってはいけないことだった。」
「ならば謝ればいい。」
「・・・・ホグズミードに行ければね。でも、行けないもの。」
「育ての親であれば手紙でも十分意図は汲んでくれるだろう。」
サイラスの言い分にも納得できたが少しだけ心に引っ掛かりを感じた。しかし、ナツキは「うん」と言って、アバーフォース宛に謝罪の手紙を書いた。
サイラスに別れを告げて、フクロウ小屋に向かうと、ジョージがそこにいて、学校のフクロウに手紙を頼んでいた。
「誰に手紙?」
「うおっ!?」
ナツキが来たことに気づいていなかったようで、ジョージは肩を大きく跳ね上げた。
「ナツキか・・・。ビビっちまったぜ。これは手紙じゃなくて、フクロウ通信販売だ。クリスマス用に。」
「あ、」
ナツキはクリスマスプレゼントのことをすっかり忘れていた。今から急いで見繕わねば、最優先事項に決定した。
「おいおい、まさか忘れてたのか?俺は去年のクリスマスからずーーーっとナツキになにを送るか考えてやってるっていうのに。」
「それは嘘でしょ。」
ナツキは呆れながらそう言って、レオーネを探す。
「ナツキは?誰への手紙?」
「・・・・養父のアバーフォースに。新学期前に・・・喧嘩したの。それで、ホグズミードに行けたら、直接謝れるんだけど・・・・」
ナツキは言葉を詰まらせた。少し声が震えたのが自分でもわかって、口を引き締めて、舞い降りてきたレオーネに手紙を託した。
「手紙でも伝わるさ。」
ジョージがそういうとナツキはこっくりと頷いた。
「でも、ナツキはきっと、仲直りのハグを御所望というわけだな。」
そう言って、ジョージはナツキの頭にポンポンと手を置いた。さっき、サイラスの言葉で感じた心の引っかかりの正体は、まさにその仲直りのハグだったのではないかと思った。
「・・・・・そうかも。」
「ならダンブルドアを代わりに抱きしめてみたらどうだ?それか俺でもいいぜ。」
ニヤニヤするジョージに釣られて、ナツキも笑ってしまった。
「ならダンブルドア先生かな。」
「そりゃ残念だ。」
ホグズミード行きの土曜の朝、マントやスカーフにすっぽりくるまったロンとハーマイオニーに別れを告げ、ナツキとハリーは大理石の階段を上り、またグリフィンドール塔に向かっていた。窓の外には雪がちらつきはじめ、城の中はしんと静まり返っていた。
「ハリー、ナツキ、シーッ!」
四階の廊下の中ほどで、声のするほうを振り向くと、フレッドとジョージが背中にコブのある隻眼の魔女の像の後ろから顔を覗かせていた。
「何してるんだい?」
「ホグズミードに行かないの?」
ナツキとハリーは不思議に思って、同じように首を傾げた。
「行く前に、君にお祭り気分を分けてあげようかと思って。」
フレッドが意味ありげにウィンクした。フレッドは像の左側にある、誰もいない教室のほうを顎でしゃくった。ナツキとハリーはフレッドとジョージのあとについて教室に入った。ジョージがそっとドアを閉め、にっこりした。
「ひと足早いクリスマス・プレゼントだ。」
フレッドがマントの下から仰々しく何かを引っ張り出して、机の上に広げて見せた。大きな、四角い、相当くたびれた羊皮紙だった。何も書いてない。ナツキとハリーは顔を見合わせた。またフレッドとジョージの冗談だろうか。
「これ、いったい何だい?」
「これはだね、ハリー、俺たちの成功の秘訣さ。」
ジョージが羊皮紙を愛おしげに撫でた。
「君らにやるのは実におしいぜ。しかし、これが必要なのは俺たちより君らのほうだって、俺たち、昨日の夜そう決めたんだ。」
「それに、俺たちはもう暗記してるしな。われわれは汝にこれを譲る。俺たちにゃもう必要ないからな。」
ナツキとハリーはまた同じように首を傾げた。
「ジョージ、フレッド、これ何なの?」
「古い羊皮紙の切れっ端の、何が僕らに必要なの?」
「ジョージ、説明してやりたまえ。」
「よろしい・・・・。われわれが一年生だった時のことだ、まだ若くて、疑いを知らず、汚れなきころのこと・・・・」
「そんな時あったの!?」
ナツキのツッコミにハリーは吹き出した。
「まあ、いまの俺たちよりは汚れなきころさ。われわれはフィルチのご厄介になるはめになった。」
「『クソ爆弾』を廊下で爆発させたら、なぜか知らんフィルチのご不興を買って、」
「やっこさん、俺たちを事務所まで引っ張っていって、脅しはじめたわけだ。例のお定まりの・・・」
「処罰だぞ。」
「腸をえぐるぞ。」
「そして、われわれはあることに気づいてしまった。書類棚の引き出しの一つに『没収品・とくに危険』と書いてあるじゃないか。」
ナツキもハリーもこの品を二人がどういう経緯で入手したか察した。
「ジョージがもう一回『クソ爆弾』を爆発させて気を逸らせている間に、俺が素早く引き出しを開けて、ムンズとつかんだのが、これさ。」
「なーに、そんなに悪いことをしたわけじゃないさ。」
「フィルチにこれの使い方がわかっていたとは思えないね。でも、たぶんこれが何かは察しがついてたんだろうな。でなきゃ、没収したりしなかっただろう。」
ジョージは杖を取り出し、羊皮紙に軽く触れて、こう言った。
「われ、ここに誓う。われ、よからぬことを企む者なり。」
すると、たちまち、ジョージの杖の先が触れたところから、細いインクの線がクモの巣のように広がりはじめた。線があちこちでつながり、交差し、羊皮紙の隅から隅まで伸びていった。そして、一番てっぺんに、花が開くように、渦巻形の大きな緑色の文字が、ポッ、ポッと現れた。
『ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ われら魔法いたずら仕掛人のご用達商人がお届けする自慢の品 忍びの地図』
それはホグワーツ城と学校の敷地全体の詳しい地図だった。しかし、本当にすばらしいのは、地図上を動く小さな点で、一つ一つに細かい字で名前が書いてあった。ナツキもハリーは目を丸くして覗き込んだ。
「ホグズミードに直行さ。」
フレッドが指でそのうちの一つをたどりながら言った。
「全部で七つの道がある。ところがフィルチはそのうち四つを知っている。」
フレッドは指で四つを示した。
「・・・・しかし、残りの道を知っているのは絶対俺たちだけだ。五階の鏡の裏からの道はやめとけ。僕たちが去年の冬までは利用していたけど、崩れっちまった。完全にふさがってる。それから、こっちの道は誰も使ったことがないと思うな。なにしろ「暴れ柳」がその入口の真上に植わってる。しかし、こっちのこの道、これはハニーデュークス店の地下室に直通だ。僕たち、この道は何回も使った。それに、もうわかってると思うが、入口はこの部屋のすぐ外、隻眼の魔女ばあさんのコブなんだ。」
「というわけで、」
ジョージがきびきびと言った。
「使ったあとは忘れずに消しとけよ。」
「じゃないと、誰かに読まれちまう。」
「もう一度地図を軽く叩いて、こう言えよ。『いたずら完了!』。すると地図は消される。」
「それではナツキ君、ハリー君よ」
フレッドが、気味が悪いほどパーシーそっくりのものまねをした。
「行動を慎んでくれたまえ。」
「ハニーデュークスで会おう。」
ジョージがハリー向かってウィンクした。その後、ナツキの耳元に顔を近づけた。
「俺との約束覚えてる?うまくあっちで会えたら合流しよう。」
二人は満足げに笑いながら部屋を出ていった。
ナツキはジョージがかつて、『ホグズミードに行けるようになったら、最初に俺と行かない?その、ハリーたちとじゃなくて』と言っていたことを思い出したのだった。