アズカバンの囚人
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ホグワーツ特急が出るその日、ナツキは時間ギリギリになってようやく9と3/4番線にきていた。
「ナツキ、わかってるな。ホグワーツから出るなよ。森にもだ。決して・・・」
「うるさいな。わかってるよ。」
「ナツキ!」
「・・・・・・くせに・・・」
「なんだって?ボソボソ喋るな!」
ナツキは篭りっきりになったストレスが最高潮に達していたのだ。
「口うるさいんだ!本当の親でもないくせに!!!」
決して言ってはいけないことだった。でもその時は、頭に血が昇っていてそのことに気づけなかった。
アバーフォースの顔を見ずに、言いたいことだけ言って、ナツキは汽車に乗り込んだ。空いているコンパートメントを探してうろついていると、背後から声がした。
「ナツキ!!」
ナツキの胸に久しぶりに幸せな感情が溢れた。
「ハリー!」
久しぶりの再会にナツキはハリーとハグを交わした。
「あっちのコンパートメントだよ。ロンとハーマイオニーもいる。」
「うん。」
ナツキを探してくれていたらしいハリーに案内されて最後尾のコンパートメントに入った。ロンとハーマイオニーの他に、誰かが寝ている。
「この人は?」
「ルーピン先生。」
ハーマイオニーがすぐに答えた。荷物棚のくたびれたカバンの片隅に、R・J・ルーピン教授と、はがれかけた文字が押してあった。おそらく、今年から英美の魔術に対する防衛術を教えてくれるのだろう。
ルーピン先生がぐっすり寝ているのを確認して、ハリーは静かに話し始めた。
「僕かナツキが、シリウス・ブラックに狙われているみたいなんだ。それか両方が。」
「シリウス・ブラックが脱獄したのは、あなたたちを狙うためですって? あぁ、ハリー、ナツキ、ほんとに、ほんとに気をつけなきゃ。自分からわざわざトラブルに飛び込んでいったりしないでね。」
「・・・ハーマイオニーったら、アバーフォースみたいなこと言うんだね。」
ナツキはむっつりした顔でそういった。三人はナツキがこういった様子を見せることが珍しいので、目を合わせてぱちくりした。
「ナツキのお母さんって、確かブラックに・・・・」
ハリーが言いにくそうに言葉を紡いだ。
「そう。殺された。だからアブは、私が敵討ちを企んでると疑って、屋敷から出してくれなかった。・・・今のところは、吸魂鬼に任せようと思ってるけど、でも、もし出会っちゃったら、私、自分がどうするかわからない。」
「ああ、ナツキ、ダメよ。ブラックは一度に10人以上も殺すようなやつなのよ。」
「そのうちの一人はお母さんだよ。」
ナツキはムスッとしてそう言った。不機嫌なナツキに声をどうかけようか3人が悩み、静かになったことで、何か変な音が聞こえることに気づいた。
「何の音だろう?・・・ハリー、君のトランクからだ。」
ロンがそういうと、ハリーはトランクの中身を確かめた。スニーコスコープか耳をつん裂くような音を放っていた。ハリーはルーピン先生を起こさないように、慌ててそれをしまった。
「ホグズミードであれをチェックしてもらえるかもしれない。『ダービシュ・アンド・バングズ』の店で、魔法の機械とかいろいろ売ってるって、フレッドとジョージが教えてくれた。」
ロンの子の発言で、話はホグズミードのことになっていった。ナツキはさらに気が落ち込んだ。
ハーマイオニーはハリーとナツキのほうに向き直った。
「ちょっと学校を離れて、ホグズミードを探検するのも素敵じゃない?」
「だろうね。」「そうだね。」
ハリーとナツキは沈んだ声で同時に言った。すぐにわかった。ハリーも許可証をもらえなかったのだと。でも、その理由はナツキとは違っていた。マグルのおじさんが許可してくれなかったそうだ。
「私の方はアブがシリウスが捕まるまでダメだって。今頃ホグワーツにもホグズミードにも吸魂鬼がいっぱいいるよ。そんなところに、ブラックが簡単にこれるとは思わないけどね!」
フン、と不貞腐れるようにナツキは言い放った。
「でもアズカバンを脱獄したのよ。その吸魂鬼をすり抜けて。ナツキもハリーも、ホグワーツ城内にいるのが一番なのよ。」
「・・・・わかってる・・・。私だけならまだしも、ハリーが狙われてる。無茶はしないよ・・・・」
ナツキは窓を向きながら自分に言い聞かせるようにそう言った。
「僕にはナツキも大事だ。・・・一緒にホグワーツで爆発スナップでもしよう。」
「うん。」
ナツキの心のチクチクが少し穏やかになったその時、ハーマイオニーはクルックシャンクスの入った籠の紐を解こうとしていた。
「そいつを出したらダメ!」
ロンが叫んだが、遅かった。クルックシャンクスがひらりと籠から飛び出し、伸びに続いて欠伸をしたと思うと、ロンの膝に跳び乗った。ロンのポケットの膨らみがブルブル震えた。スキャバーズを狙っているらしい。
ロンは怒ってクルックシャンクスを払いのけた。
「どけよ!」
「ロン、やめて!」
その時、ルーピン先生がもぞもぞ動いた。四人は、ぎくりとして先生を見たが、先生は頭を反対側に向けただけで、わずかに口を開けて眠り続けた。
「その猫どうしたの?」
「買ったのよ。私もペットが欲しくて。クルックシャンクスっていうの。」
「へー。・・・・・・・かわいいね。」
「でしょう?」
ナツキの声色に、全く気持ちがこもっていないことにハリーとロンは気づいて目を合わせた。ナツキは内心、なぜこんなぺちゃんこ顔の猫を、と思ったが言わないことに決めた。
一時になると、丸っこい魔女が食べ物を積んだカートを押して、コンパートメントのドアの前にやってきた。
「この人を起こすべきかなぁ?」
ルーピン先生のほうを顎で指し、ロンが戸惑いながら言った。不健康そうな顔色の先生は確かに何か口に入れたほうがいいように思える。
ハーマイオニーがそっとルーピン先生のそばに行った。
「あの、先生?もしもし、先生?」
先生は身じろぎもしない。
「大丈夫よ、嬢ちゃん。目を覚ました時、お腹がすいているようなら、わたしは一番前の運転士のところにいますからね。」
そう言って魔女のおばさんはコンパートメントの引き戸を閉めた。四人はケーキを食べ始めた。
昼下がりになって、車窓から見える丘陵風景が霞むほどの雨が降りだした時、通路でまた足音がした。ドアを開けたのはドラコ・マルフォイと、その両脇に腰巾着のビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイルだ。
「へえ、誰かと思えばポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃあないか!ウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小金を手にしたって聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」
ロンが出し抜けに立ち上がった拍子に、クルックシャンクスの籠を床に叩き落としてしまった。ルーピン先生がいびきをかいた。
「そいつは誰だ?」
ルーピンを見つけたとたん、マルフォイが無意識に一歩引いた。それが先生だと知ると、彼はそそくさと姿を消した。
「マルフォイは夏休み中ずっと、あなたにどんな悪口を言うか考えているんだと思うの。じゃなきゃ、あんなに凝った悪口は出てこないよ。」
ナツキの発言に、ロンとハリーがプッと吹き出した。
汽車がさらに北へ進むと、雨も激しさを増した。
「トイレ行ってくる。」
ナツキはそう言ってコンパートメントを出て、女子トイレに向かった。用を済ませ、元のコンパートメントに戻ろうとした時、ガタンと汽車が止まった。まだ、ホグワーツにはついていない。
「何?」
ナツキが通路でそう声を上げた時、次々と明かりが消えた。周りが真っ暗で何も見えない。
あちこちでバタバタと生徒が混乱する音が聞こえる。ここはこの場を動かないでじっとしている方が良さそうだと、ナツキは判断し、その場に立ち尽くした。
その時だった。
「っ!?」
全身が凍るような冷気に包まれた。
『ナツキ!ナツキ!』
『・・ケ・ダ・・・』
『きゃあああああああ』
一気に幸せがなくなっていくような感じがした。助けなきゃ・・・悲鳴が・・・・・・・・・
「しっかりしろ!ゴドリクソン!!」
知らない声にそう言われたのを最後に、ナツキの記憶はプッツリ途切れた。
「ナツキ、しっかりして。」
目を開けると目の前にハーマイオニーがいた。
「・・・え・・っと・・・・?」
「あなた、向こうで倒れてたの。ハップルパフのセドリック・ディゴリーが運んできてくれたわ。」
「・・・何が、あったの?そうだ、誰かの悲鳴が・・・・」
ナツキが言うと、ロンが口を開いた。
「君たち、誰の悲鳴を聞いたんだい?僕らには、何も聞こえなかった。」
ナツキとハリーは顔を見合わせた。
「君たち、これを食べなさい。さあ、」
ナツキはそこでようやくルーピン先生が起きていることに気づいた。先生はチョコレートを差し出した。
ナツキとハリーはそれを受け取ったが、それよりも聞きたいことだらけだ。訳がわからない。
「アズカバンの吸魂鬼の一人だ。食べなさい。元気になる。私は運転手と話してこなければ・・・・」
ルーピン先生はそう言って通路へ出て行った。
「僕、わけがわからない。何があったの?」
「倒れたのは、私とハリーだけなの?」
ナツキとハリーは困惑していた。ハーマイオニーは順を追って話し始めた。
「あの吸魂鬼が、あそこに立って、ぐるりっと見回したの。っていうか、そう思っただけ。だって顔が見えなかったんだもの。そしたら、あなたが・・・あなたが・・・・・」
「僕、君が引きつけか何か起こしたのかと思った。君、なんだか硬直して、座席から落ちて、ひくひくしはじめたんだ・・・・」
「そしたら、ルーピン先生があなたを跨いで吸魂鬼のほうに歩いていって、杖を取り出したの。そしてこう言ったわ。『シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ』って。でも、あいつは動かなかった。そしたら先生が何かブツブツ唱えて、吸魂鬼に向かって何か銀色のものが杖から飛び出して、そしたら、あいつは背を向けてすーっといなくなったの・・・・・。その後、多分セドリック・ディゴリーが向こうの車両で助けを呼んだの。ルーピン先生がそっちに向かっていって、そして少ししてから、ディゴリーがナツキを背負ってここに運んできたわ。」
ハリーにもナツキにも何がなんだかわからなかった。ひどい流感の病み上がりのように、弱り、震えていた。
なんで、私とハリーだけこんなことに。
そう思ったのは自分だけではないようだ。ナツキはハリーと目があった。ハリーの唇は真っ青だ。多分、自分の唇も。
ルーピン先生が戻ってきた。入ってくるなり、先生はちょっと立ち止まり、みんなを見回して、ふっと笑った。
「おやおや、チョコレートに毒なんか入れてないよ。」
ナツキは忘れていたチョコレートをかじった。するとさっきまでの冷たく不幸な気持ちが嘘のように暖かくなった。昨年度末にダンブルドア先生が淹れてくれたココアのようだった。
「あと十分でホグワーツに着く。ハリー、ナツキ、大丈夫かい?」
「「はい。」」
到着まで、みんな口数が少なかった。やっと、汽車はホグズミード駅で停車し、みんなが下車するのでひと騒動だった。
「イッチ年生はこっちだ!」
ハグリッドの声が聞こえた。
「四人とも元気かー?」
ハグリッドに手を振ったが、話しかける機会はなく、ホームから流されて馬車道に来た。馬車(馬はいないけど)は壮大な鉄の門をゆるゆると走り抜け、ホグワーツ城にたどり着く。
「ポッターにゴドリクソン、気絶したんだって?ロングボトムは本当のことを言ってるのかな?本当に気絶なんかしたのかい?」
マルフォイは肘でハーマイオニーを押しのけ、立ちはだかった。喜びに顔を輝かせ、薄青い目が意地悪に光っている。
「ウィーズリー、君も気絶したのか?あのこわーい吸魂鬼で、ウィーズリー、君も縮み上がったのかい?」
「どうしたんだい?」
穏やかな声がした。ルーピン先生が次の馬車から降りてきたところだった。マルフォイは横柄な目つきでルーピン先生をじろじろ見てから、見下すように「いいえ、何も、えーと、先生」と言ってその場を去った。
ナツキとハリーは嫌な気持ちのまま、玄関ホールに入る。大広間に行こうとした時だった。
「ポッター!ゴドリクソン!グレンジャー!私のところへおいでなさい!」
マクゴナガル先生が、向こうのほうから呼んでいた。
ハリーが怒られるのでは、と言った顔をしたせいか、マクゴナガル先生は「そんな心配そうな顔をしなくてよろしい」と言った。
先生について、玄関ホールを横切り、大理石の階段を上がり、廊下を歩いた。事務室に着くと、先生は座るよう合図した。
「ルーピン先生が前もってふくろう便をくださいました。ポッター、ゴドリクソン、汽車の中で気分が悪くなったそうですね。」
ハリーとナツキが答える前に、ドアを軽くノックする音がした。校医のマダム・ポンフリーが気ぜわしく入ってきた。ハリーとナツキの顔を見て、今度は何をしたんだ、と言いたげだ。
「さしずめ、また何か危険なことをしたのでしょう?」
「ポッピー、吸魂鬼なのよ。」
マクゴナガル先生が言った。二人は暗い表情で目を見交わした。マダム・ポンフリーは不満そうな声を出した。
「吸魂鬼を学校の周りに放つなんて。」
マダム・ポンフリーはハリーとナツキの額の熱を測りながらつぶやいた。
「倒れるのはこの子たちだけではないでしょうよ。すっかり冷えきってます。」
「この子にはどんな処置が必要ですか?」
「そうね、少なくともチョコレートは食べさせないと。」
マダム・ポンフリーの言葉で、ナツキとハリーは目を合わせた。
「あの、私たち、食べました。ルーピン先生にもらったんです。他の人にも配っていました。」
「そう。本当に?それじゃ、『闇の魔術に対する防衛術』の先生がやっと見つかったということね。治療法を知っている先生が。」
マダム・ポンフリーの台詞でナツキはルーピン先生が優しいだけではなく優秀な先生であるのだと理解した。
「ポッター、ゴドリクソン、本当に大丈夫なのですね?」
マクゴナガル先生が念を押した。ナツキもハリーも「はい」と答えた。
「いいでしょう。ミス・グレンジャーとちょっと時間割の話をする間、外で待っていらっしゃい。それから一緒に宴会に参りましょう。」
ナツキとハリーは医務室の外の廊下に出てハーマイオニーを待った。
「「ねえ、」」
話したのは二人同時だった。多分、聞きたいことは同じだろう。
「ナツキが聞こえたのって何?」
「・・・女の人の悲鳴。すごく、すごく辛そうだったから、助けなきゃ、って思って・・・気づいたらハリーたちといたの。」
「僕と同じだ。・・・・・なんで僕たちなんだろう。僕、恥ずかしいよ。他のみんなは大丈夫なのに。」
ナツキも不思議でならなかった。
「・・・・アズカバンの看守っていうから、もっと正義の味方みたいなのだと思ってた・・・・。大人が嫌がる理由がやっとわかったよ。ブラックが捕まるまで、あんなのがホグワーツをうろつくなんて、ちょっとやだね。」
「ちょっとどころじゃないさ。」
二人でそんな話をして待っていると、ハーマイオニーがなんだかひどくうれしそうな顔をして現れた。そのあとからマクゴナガル先生が出てきた。三人でさっき上ってきた大理石の階段を下り、大広間に戻った。すでに組み分けは終わってしまっていた。
大広間の後ろのほうを三人が通ると、周りの生徒が振り返り、ハリーとナツキを指差す生徒も何人かいた。
「やな感じ。行こ、ハリー。」
「うん。」
グリフィンドールの方へいくと、ロンが席を取っていてくれた。
「ロン、ありがとう。いい場所とってくれたんだね。」
「いいってことさ。でも、一体なんだったの?」
ハリーとナツキがコソコソとロンにあったことを説明していると、ダンブルドア先生が立ち上がった。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼーっとなる前に片づけてしまうほうがよかろうの。ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知ってのとおり、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。あの者たちがここにいるかぎり、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。・・・・『透明マント』でさえムダじゃ」
ダンブルドアがさらりとつけ加えた言葉に、ハリー、ナツキ、ロンはちらりと目を見交わした。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、吸魂鬼には生来できない相談じゃ。それじゃから、一人ひとりに注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。」
ダンブルドアが言葉を続けた。
「今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった。まず、ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった。」
パラパラとあまり気のない拍手が起こったが、ルーピン先生と同じコンパートメントに居合わせた生徒だけが、大きな拍手をした。ナツキも精一杯手を叩いて、大きな音を鳴らそうと努力した。
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった。」
ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーは驚いて顔を見合わせた。そして四人ともみんなと一緒に拍手した。とくにグリフィンドールからの拍手は割れんばかりだった。
「ああ、あの噛み付く本、ハグリッドのだったんだ・・・・・」
ナツキは遠い目で、アバーフォースが買ってきた学用品を見た時のことを思い出した。絶賛喧嘩中であるが、あの時ばかりはつい助けを求めたのを覚えている。おかげで、噛み付く本は縛り呪文でぐるぐる巻でトランクの中だ。
「さあ、宴じゃ!」
目の前の金の皿、金の杯に突然食べ物が、飲み物が現れた。ナツキがもぐもぐ食べていると、ハーマイオニーがナツキの名前を呼んだ。
「ナツキ、ほら、彼よ。」
「え?」
「ほら、あそこ。ハッフルパフのチョコファウンテンの前に座っているハンサムな黒髪の人よ。」
「?」
ナツキはハーマイオニーが指す人物をおそらく見つけたが、それが何かピンとこなかった。
「セドリック・ディゴリー!あなたを運んできてくれた。」
「ああ!あの人なんだ。じゃあ、後でお礼を言わないと。」
宴が終わり、四人でハグリッドのところへ行こうとした時、ハーマイオニーが声をかけた。
「ナツキ!ディゴリーのところに行かなくちゃ!」
「え?あ、うん。」
ナツキは正直、今すぐにハグリッドにおめでとうと伝えたかったが、ディゴリーにお礼を言うことも大事なことだと思い直して、談話室に向かおうとするハッフルパフの群れに向かって、軽く走った。
「あの!待って!」
ナツキが後ろから声をかけると、セドリックは足を止めて振り返った。
「汽車で助けてくれたって聞いたの。ありがとう。」
「いいんだよ。元気そうでよかった。」
ニコッと笑いながらセドリックはそういった。
「あの、僕、」
「じゃあまた!本当にありがとう!!」
セドリックが何かを言おうとしたのに気づかずに、ナツキはハグリッドの元へ急いだ。まだ三人がハグリッドと話していたので、ナツキも無事にハグリッドにお祝いの気持ちを伝えることができた。ハグリッドは嬉しくて泣いていた。
「ナツキ、わかってるな。ホグワーツから出るなよ。森にもだ。決して・・・」
「うるさいな。わかってるよ。」
「ナツキ!」
「・・・・・・くせに・・・」
「なんだって?ボソボソ喋るな!」
ナツキは篭りっきりになったストレスが最高潮に達していたのだ。
「口うるさいんだ!本当の親でもないくせに!!!」
決して言ってはいけないことだった。でもその時は、頭に血が昇っていてそのことに気づけなかった。
アバーフォースの顔を見ずに、言いたいことだけ言って、ナツキは汽車に乗り込んだ。空いているコンパートメントを探してうろついていると、背後から声がした。
「ナツキ!!」
ナツキの胸に久しぶりに幸せな感情が溢れた。
「ハリー!」
久しぶりの再会にナツキはハリーとハグを交わした。
「あっちのコンパートメントだよ。ロンとハーマイオニーもいる。」
「うん。」
ナツキを探してくれていたらしいハリーに案内されて最後尾のコンパートメントに入った。ロンとハーマイオニーの他に、誰かが寝ている。
「この人は?」
「ルーピン先生。」
ハーマイオニーがすぐに答えた。荷物棚のくたびれたカバンの片隅に、R・J・ルーピン教授と、はがれかけた文字が押してあった。おそらく、今年から英美の魔術に対する防衛術を教えてくれるのだろう。
ルーピン先生がぐっすり寝ているのを確認して、ハリーは静かに話し始めた。
「僕かナツキが、シリウス・ブラックに狙われているみたいなんだ。それか両方が。」
「シリウス・ブラックが脱獄したのは、あなたたちを狙うためですって? あぁ、ハリー、ナツキ、ほんとに、ほんとに気をつけなきゃ。自分からわざわざトラブルに飛び込んでいったりしないでね。」
「・・・ハーマイオニーったら、アバーフォースみたいなこと言うんだね。」
ナツキはむっつりした顔でそういった。三人はナツキがこういった様子を見せることが珍しいので、目を合わせてぱちくりした。
「ナツキのお母さんって、確かブラックに・・・・」
ハリーが言いにくそうに言葉を紡いだ。
「そう。殺された。だからアブは、私が敵討ちを企んでると疑って、屋敷から出してくれなかった。・・・今のところは、吸魂鬼に任せようと思ってるけど、でも、もし出会っちゃったら、私、自分がどうするかわからない。」
「ああ、ナツキ、ダメよ。ブラックは一度に10人以上も殺すようなやつなのよ。」
「そのうちの一人はお母さんだよ。」
ナツキはムスッとしてそう言った。不機嫌なナツキに声をどうかけようか3人が悩み、静かになったことで、何か変な音が聞こえることに気づいた。
「何の音だろう?・・・ハリー、君のトランクからだ。」
ロンがそういうと、ハリーはトランクの中身を確かめた。スニーコスコープか耳をつん裂くような音を放っていた。ハリーはルーピン先生を起こさないように、慌ててそれをしまった。
「ホグズミードであれをチェックしてもらえるかもしれない。『ダービシュ・アンド・バングズ』の店で、魔法の機械とかいろいろ売ってるって、フレッドとジョージが教えてくれた。」
ロンの子の発言で、話はホグズミードのことになっていった。ナツキはさらに気が落ち込んだ。
ハーマイオニーはハリーとナツキのほうに向き直った。
「ちょっと学校を離れて、ホグズミードを探検するのも素敵じゃない?」
「だろうね。」「そうだね。」
ハリーとナツキは沈んだ声で同時に言った。すぐにわかった。ハリーも許可証をもらえなかったのだと。でも、その理由はナツキとは違っていた。マグルのおじさんが許可してくれなかったそうだ。
「私の方はアブがシリウスが捕まるまでダメだって。今頃ホグワーツにもホグズミードにも吸魂鬼がいっぱいいるよ。そんなところに、ブラックが簡単にこれるとは思わないけどね!」
フン、と不貞腐れるようにナツキは言い放った。
「でもアズカバンを脱獄したのよ。その吸魂鬼をすり抜けて。ナツキもハリーも、ホグワーツ城内にいるのが一番なのよ。」
「・・・・わかってる・・・。私だけならまだしも、ハリーが狙われてる。無茶はしないよ・・・・」
ナツキは窓を向きながら自分に言い聞かせるようにそう言った。
「僕にはナツキも大事だ。・・・一緒にホグワーツで爆発スナップでもしよう。」
「うん。」
ナツキの心のチクチクが少し穏やかになったその時、ハーマイオニーはクルックシャンクスの入った籠の紐を解こうとしていた。
「そいつを出したらダメ!」
ロンが叫んだが、遅かった。クルックシャンクスがひらりと籠から飛び出し、伸びに続いて欠伸をしたと思うと、ロンの膝に跳び乗った。ロンのポケットの膨らみがブルブル震えた。スキャバーズを狙っているらしい。
ロンは怒ってクルックシャンクスを払いのけた。
「どけよ!」
「ロン、やめて!」
その時、ルーピン先生がもぞもぞ動いた。四人は、ぎくりとして先生を見たが、先生は頭を反対側に向けただけで、わずかに口を開けて眠り続けた。
「その猫どうしたの?」
「買ったのよ。私もペットが欲しくて。クルックシャンクスっていうの。」
「へー。・・・・・・・かわいいね。」
「でしょう?」
ナツキの声色に、全く気持ちがこもっていないことにハリーとロンは気づいて目を合わせた。ナツキは内心、なぜこんなぺちゃんこ顔の猫を、と思ったが言わないことに決めた。
一時になると、丸っこい魔女が食べ物を積んだカートを押して、コンパートメントのドアの前にやってきた。
「この人を起こすべきかなぁ?」
ルーピン先生のほうを顎で指し、ロンが戸惑いながら言った。不健康そうな顔色の先生は確かに何か口に入れたほうがいいように思える。
ハーマイオニーがそっとルーピン先生のそばに行った。
「あの、先生?もしもし、先生?」
先生は身じろぎもしない。
「大丈夫よ、嬢ちゃん。目を覚ました時、お腹がすいているようなら、わたしは一番前の運転士のところにいますからね。」
そう言って魔女のおばさんはコンパートメントの引き戸を閉めた。四人はケーキを食べ始めた。
昼下がりになって、車窓から見える丘陵風景が霞むほどの雨が降りだした時、通路でまた足音がした。ドアを開けたのはドラコ・マルフォイと、その両脇に腰巾着のビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイルだ。
「へえ、誰かと思えばポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃあないか!ウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小金を手にしたって聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」
ロンが出し抜けに立ち上がった拍子に、クルックシャンクスの籠を床に叩き落としてしまった。ルーピン先生がいびきをかいた。
「そいつは誰だ?」
ルーピンを見つけたとたん、マルフォイが無意識に一歩引いた。それが先生だと知ると、彼はそそくさと姿を消した。
「マルフォイは夏休み中ずっと、あなたにどんな悪口を言うか考えているんだと思うの。じゃなきゃ、あんなに凝った悪口は出てこないよ。」
ナツキの発言に、ロンとハリーがプッと吹き出した。
汽車がさらに北へ進むと、雨も激しさを増した。
「トイレ行ってくる。」
ナツキはそう言ってコンパートメントを出て、女子トイレに向かった。用を済ませ、元のコンパートメントに戻ろうとした時、ガタンと汽車が止まった。まだ、ホグワーツにはついていない。
「何?」
ナツキが通路でそう声を上げた時、次々と明かりが消えた。周りが真っ暗で何も見えない。
あちこちでバタバタと生徒が混乱する音が聞こえる。ここはこの場を動かないでじっとしている方が良さそうだと、ナツキは判断し、その場に立ち尽くした。
その時だった。
「っ!?」
全身が凍るような冷気に包まれた。
『ナツキ!ナツキ!』
『・・ケ・ダ・・・』
『きゃあああああああ』
一気に幸せがなくなっていくような感じがした。助けなきゃ・・・悲鳴が・・・・・・・・・
「しっかりしろ!ゴドリクソン!!」
知らない声にそう言われたのを最後に、ナツキの記憶はプッツリ途切れた。
「ナツキ、しっかりして。」
目を開けると目の前にハーマイオニーがいた。
「・・・え・・っと・・・・?」
「あなた、向こうで倒れてたの。ハップルパフのセドリック・ディゴリーが運んできてくれたわ。」
「・・・何が、あったの?そうだ、誰かの悲鳴が・・・・」
ナツキが言うと、ロンが口を開いた。
「君たち、誰の悲鳴を聞いたんだい?僕らには、何も聞こえなかった。」
ナツキとハリーは顔を見合わせた。
「君たち、これを食べなさい。さあ、」
ナツキはそこでようやくルーピン先生が起きていることに気づいた。先生はチョコレートを差し出した。
ナツキとハリーはそれを受け取ったが、それよりも聞きたいことだらけだ。訳がわからない。
「アズカバンの吸魂鬼の一人だ。食べなさい。元気になる。私は運転手と話してこなければ・・・・」
ルーピン先生はそう言って通路へ出て行った。
「僕、わけがわからない。何があったの?」
「倒れたのは、私とハリーだけなの?」
ナツキとハリーは困惑していた。ハーマイオニーは順を追って話し始めた。
「あの吸魂鬼が、あそこに立って、ぐるりっと見回したの。っていうか、そう思っただけ。だって顔が見えなかったんだもの。そしたら、あなたが・・・あなたが・・・・・」
「僕、君が引きつけか何か起こしたのかと思った。君、なんだか硬直して、座席から落ちて、ひくひくしはじめたんだ・・・・」
「そしたら、ルーピン先生があなたを跨いで吸魂鬼のほうに歩いていって、杖を取り出したの。そしてこう言ったわ。『シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ』って。でも、あいつは動かなかった。そしたら先生が何かブツブツ唱えて、吸魂鬼に向かって何か銀色のものが杖から飛び出して、そしたら、あいつは背を向けてすーっといなくなったの・・・・・。その後、多分セドリック・ディゴリーが向こうの車両で助けを呼んだの。ルーピン先生がそっちに向かっていって、そして少ししてから、ディゴリーがナツキを背負ってここに運んできたわ。」
ハリーにもナツキにも何がなんだかわからなかった。ひどい流感の病み上がりのように、弱り、震えていた。
なんで、私とハリーだけこんなことに。
そう思ったのは自分だけではないようだ。ナツキはハリーと目があった。ハリーの唇は真っ青だ。多分、自分の唇も。
ルーピン先生が戻ってきた。入ってくるなり、先生はちょっと立ち止まり、みんなを見回して、ふっと笑った。
「おやおや、チョコレートに毒なんか入れてないよ。」
ナツキは忘れていたチョコレートをかじった。するとさっきまでの冷たく不幸な気持ちが嘘のように暖かくなった。昨年度末にダンブルドア先生が淹れてくれたココアのようだった。
「あと十分でホグワーツに着く。ハリー、ナツキ、大丈夫かい?」
「「はい。」」
到着まで、みんな口数が少なかった。やっと、汽車はホグズミード駅で停車し、みんなが下車するのでひと騒動だった。
「イッチ年生はこっちだ!」
ハグリッドの声が聞こえた。
「四人とも元気かー?」
ハグリッドに手を振ったが、話しかける機会はなく、ホームから流されて馬車道に来た。馬車(馬はいないけど)は壮大な鉄の門をゆるゆると走り抜け、ホグワーツ城にたどり着く。
「ポッターにゴドリクソン、気絶したんだって?ロングボトムは本当のことを言ってるのかな?本当に気絶なんかしたのかい?」
マルフォイは肘でハーマイオニーを押しのけ、立ちはだかった。喜びに顔を輝かせ、薄青い目が意地悪に光っている。
「ウィーズリー、君も気絶したのか?あのこわーい吸魂鬼で、ウィーズリー、君も縮み上がったのかい?」
「どうしたんだい?」
穏やかな声がした。ルーピン先生が次の馬車から降りてきたところだった。マルフォイは横柄な目つきでルーピン先生をじろじろ見てから、見下すように「いいえ、何も、えーと、先生」と言ってその場を去った。
ナツキとハリーは嫌な気持ちのまま、玄関ホールに入る。大広間に行こうとした時だった。
「ポッター!ゴドリクソン!グレンジャー!私のところへおいでなさい!」
マクゴナガル先生が、向こうのほうから呼んでいた。
ハリーが怒られるのでは、と言った顔をしたせいか、マクゴナガル先生は「そんな心配そうな顔をしなくてよろしい」と言った。
先生について、玄関ホールを横切り、大理石の階段を上がり、廊下を歩いた。事務室に着くと、先生は座るよう合図した。
「ルーピン先生が前もってふくろう便をくださいました。ポッター、ゴドリクソン、汽車の中で気分が悪くなったそうですね。」
ハリーとナツキが答える前に、ドアを軽くノックする音がした。校医のマダム・ポンフリーが気ぜわしく入ってきた。ハリーとナツキの顔を見て、今度は何をしたんだ、と言いたげだ。
「さしずめ、また何か危険なことをしたのでしょう?」
「ポッピー、吸魂鬼なのよ。」
マクゴナガル先生が言った。二人は暗い表情で目を見交わした。マダム・ポンフリーは不満そうな声を出した。
「吸魂鬼を学校の周りに放つなんて。」
マダム・ポンフリーはハリーとナツキの額の熱を測りながらつぶやいた。
「倒れるのはこの子たちだけではないでしょうよ。すっかり冷えきってます。」
「この子にはどんな処置が必要ですか?」
「そうね、少なくともチョコレートは食べさせないと。」
マダム・ポンフリーの言葉で、ナツキとハリーは目を合わせた。
「あの、私たち、食べました。ルーピン先生にもらったんです。他の人にも配っていました。」
「そう。本当に?それじゃ、『闇の魔術に対する防衛術』の先生がやっと見つかったということね。治療法を知っている先生が。」
マダム・ポンフリーの台詞でナツキはルーピン先生が優しいだけではなく優秀な先生であるのだと理解した。
「ポッター、ゴドリクソン、本当に大丈夫なのですね?」
マクゴナガル先生が念を押した。ナツキもハリーも「はい」と答えた。
「いいでしょう。ミス・グレンジャーとちょっと時間割の話をする間、外で待っていらっしゃい。それから一緒に宴会に参りましょう。」
ナツキとハリーは医務室の外の廊下に出てハーマイオニーを待った。
「「ねえ、」」
話したのは二人同時だった。多分、聞きたいことは同じだろう。
「ナツキが聞こえたのって何?」
「・・・女の人の悲鳴。すごく、すごく辛そうだったから、助けなきゃ、って思って・・・気づいたらハリーたちといたの。」
「僕と同じだ。・・・・・なんで僕たちなんだろう。僕、恥ずかしいよ。他のみんなは大丈夫なのに。」
ナツキも不思議でならなかった。
「・・・・アズカバンの看守っていうから、もっと正義の味方みたいなのだと思ってた・・・・。大人が嫌がる理由がやっとわかったよ。ブラックが捕まるまで、あんなのがホグワーツをうろつくなんて、ちょっとやだね。」
「ちょっとどころじゃないさ。」
二人でそんな話をして待っていると、ハーマイオニーがなんだかひどくうれしそうな顔をして現れた。そのあとからマクゴナガル先生が出てきた。三人でさっき上ってきた大理石の階段を下り、大広間に戻った。すでに組み分けは終わってしまっていた。
大広間の後ろのほうを三人が通ると、周りの生徒が振り返り、ハリーとナツキを指差す生徒も何人かいた。
「やな感じ。行こ、ハリー。」
「うん。」
グリフィンドールの方へいくと、ロンが席を取っていてくれた。
「ロン、ありがとう。いい場所とってくれたんだね。」
「いいってことさ。でも、一体なんだったの?」
ハリーとナツキがコソコソとロンにあったことを説明していると、ダンブルドア先生が立ち上がった。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼーっとなる前に片づけてしまうほうがよかろうの。ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知ってのとおり、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。あの者たちがここにいるかぎり、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。・・・・『透明マント』でさえムダじゃ」
ダンブルドアがさらりとつけ加えた言葉に、ハリー、ナツキ、ロンはちらりと目を見交わした。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、吸魂鬼には生来できない相談じゃ。それじゃから、一人ひとりに注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。」
ダンブルドアが言葉を続けた。
「今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった。まず、ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった。」
パラパラとあまり気のない拍手が起こったが、ルーピン先生と同じコンパートメントに居合わせた生徒だけが、大きな拍手をした。ナツキも精一杯手を叩いて、大きな音を鳴らそうと努力した。
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった。」
ハリー、ナツキ、ロン、ハーマイオニーは驚いて顔を見合わせた。そして四人ともみんなと一緒に拍手した。とくにグリフィンドールからの拍手は割れんばかりだった。
「ああ、あの噛み付く本、ハグリッドのだったんだ・・・・・」
ナツキは遠い目で、アバーフォースが買ってきた学用品を見た時のことを思い出した。絶賛喧嘩中であるが、あの時ばかりはつい助けを求めたのを覚えている。おかげで、噛み付く本は縛り呪文でぐるぐる巻でトランクの中だ。
「さあ、宴じゃ!」
目の前の金の皿、金の杯に突然食べ物が、飲み物が現れた。ナツキがもぐもぐ食べていると、ハーマイオニーがナツキの名前を呼んだ。
「ナツキ、ほら、彼よ。」
「え?」
「ほら、あそこ。ハッフルパフのチョコファウンテンの前に座っているハンサムな黒髪の人よ。」
「?」
ナツキはハーマイオニーが指す人物をおそらく見つけたが、それが何かピンとこなかった。
「セドリック・ディゴリー!あなたを運んできてくれた。」
「ああ!あの人なんだ。じゃあ、後でお礼を言わないと。」
宴が終わり、四人でハグリッドのところへ行こうとした時、ハーマイオニーが声をかけた。
「ナツキ!ディゴリーのところに行かなくちゃ!」
「え?あ、うん。」
ナツキは正直、今すぐにハグリッドにおめでとうと伝えたかったが、ディゴリーにお礼を言うことも大事なことだと思い直して、談話室に向かおうとするハッフルパフの群れに向かって、軽く走った。
「あの!待って!」
ナツキが後ろから声をかけると、セドリックは足を止めて振り返った。
「汽車で助けてくれたって聞いたの。ありがとう。」
「いいんだよ。元気そうでよかった。」
ニコッと笑いながらセドリックはそういった。
「あの、僕、」
「じゃあまた!本当にありがとう!!」
セドリックが何かを言おうとしたのに気づかずに、ナツキはハグリッドの元へ急いだ。まだ三人がハグリッドと話していたので、ナツキも無事にハグリッドにお祝いの気持ちを伝えることができた。ハグリッドは嬉しくて泣いていた。