秘密の部屋
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ナツキはマンドレイク薬を受け取って、ようやくマクゴナガル先生の部屋を出た。持っておいて損はないだろうけど、使う機会がないに越したことはない薬だな、と思いながらローブのポケットに入れた。
「ナツキ!」
「ハリー!」
「よかった。いつものナツキだ。大丈夫なら一緒に大広間に行こう!」
大広間までの道のりではハリーがニコニコしながら、ドビーの話をしてくれた。
「じゃあ今頃マルフォイ家は大騒ぎだね。絶対にあの人たち、自分で家事なんかできないよ。」
「いい気味だ。」
宴ではとても嬉しいことが起こった。
「ハリー!ナツキ!!」
「ハーマイオニー!!」
ハーマイオニーがナツキとハリーに駆け寄ってきた。ふわふわの髪の毛を見て、ナツキもハリーも顔を輝かせた。
明け方の3時半には、ハグリッドが現れた。疲れた顔をしていたが、すごく嬉しそうにしていた。
夏学期が終わろうとしていた頃、ナツキは一人で西棟にある、グリフィンドールの秘密の部屋へときていた。
初めてこの部屋を見つけてから、防衛術の練習をするために数回きていたが、今ナツキは祖母の日記を手に取っていた。
「見るのは悪いと思っていたけど・・・・」
置かれていた日記は10冊以上あった。祖母が1年生の頃の日記を初めから眺めてみた。しばらく読んでいると、頻繁に「トム」という名前が現れ始めた。
「本当に、友達だったんだ・・・・・」
『トムがクリスマスも残ると言っていたから、私もそうしようかな。だって、きっと楽しい!』
『今日はトムと一緒に変身学の練習もしたわ。トムのボタンは綺麗で上手ね、って言ったら、ボタンをくれたの!お返しに、私の花柄のボタンをトムにあげたわ。喜んでくれてたように見えたけど、考えてみたら、トムに花柄って似合わないわよね。次は気をつけなきゃ!』
ナツキは目頭が熱くなるのを感じた。おばあさんが、これほどまでに仲の良かった、この日記の中では優しそうなトムが、この後ヴォルデモートとなるのだ。こんな悲しいことあるのだろうか。
ナツキはそれ以上読み続けることができなかった。そしてパタンと日記を閉じた。
「ハリーと私は、ヴォルデモートに狙われているんだ。」
ハリーは命を間違いなく狙われている。ナツキは、去年のクィレルの後頭部の悍ましい声が言っていた言葉を思い出した。
殺さず、生かさず
その意図がある程度わかった今は、その言葉がどれだけ恐ろしいものだったのか理解できたような気がした。
ブルっと身震いをしたナツキであった。ふと、書斎の奥にある演習場のライオンの像を眺めたくなった。あれをみていると、なぜか勇気が湧き出るのだ。
ナツキは像の前に立っていた。相変わらず、生きているかのように鬣が靡いている。
「グリフィンドールの象徴だからここにあるのかな。」
ナツキはそう言って、その鬣に手を触れた。石のようだ、とナツキは思った。
「いや、石か。」
"ようだ"は余計だと一人で突っ込んで、ふと手を止めた。
「・・・石の・・・ようだ・・・・?」
ナツキはまじまじとライオンの像を見つめた。何かに似ている。ナツキはハッとした。
「もしかして・・・・あなた、生きているの・・・・!?」
ナツキがそういうと、肯定されたような何かが伝わって気がした。
「バジリスクに、石にされたの?」
鬣に触れながらそう言うと、また、肯定された気がした。
ナツキは迷わず、ローブのポケットにあるマンドレイク薬を取り出し、大きく開かれたライオンの口の中に薬を流し込んだ。
ライオンの靡きそうで靡かなかった鬣が、ふわふわと揺れた。
「・・・・あなたが・・・・サイラス・・・・?」
ナツキは祖母の書き置きに書かれていた名を思い出した。好物が骨つき肉の、この部屋に住む何か、それこそが、この目の前の雄々しいライオン、サイラスであったのだ。
獰猛な肉食獣であるはずだが、全く怖くなかった。
黄金色の大きな瞳は真っ直ぐにナツキを見つめた。そしてフウッと息をナツキに吹きかけた。
「?」
ナツキは思いがけない吐息の強さに、目を瞑った。そして目を開けた。
「・・・え・・・・これは・・・・・杖?」
目の前に杖が浮かんでいた。サイラスは、じっとそれを見つめている。
「これを、受け取れってこと?」
驚いたことに、肯定の意を強く感じ取ることができた。ナツキは確信した。自分が、この目の前のライオンと意思疎通ができるということに。
ナツキは目の前に浮かんでいる、杖を握ってみた。
「!!」
途端に、体がブワッっと大きな柔らかい風に包まれた。少しずっしりとした杖を握った右手から力が溢れてくるのがわかった。入学前に、オリバンダーの店でナツキに完璧に合う杖がないという趣旨のことを言われたのを思い出した。そして、自分に最も合う杖が、これなのだと直感した。
「この杖は一体・・・・?」
サイラスを見てみると、彼はナツキの体を撫でるようにその脇をすり抜け、書斎へ向かっていった。ついてこい、ということだろう。
ナツキが後を追うと、サイラスは暖炉の前で伏せた。そこには、祖母アルバがこの部屋を使うであろう子孫に残した書き置きがある。ただし、結構厚いので、ナツキは全てに目を通してはいなかった。
ナツキの前でその書き置きがふわりと浮き上がった。おそらくサイラスが魔法を使っているのだ。魔法を使えるライオンなのかと驚くのもつかのも、パラパラと自動的に捲らたページにはさらに驚くべきことが書かれてあった。
"その杖はかつてゴドリック・グリフィンドールが使った杖。木材はオーク、芯はサイラスの鬣。杖が認めていないものには、持ち上げるのが困難なほど重くなります。サイラスがあなたにそれを授け、それを持ち上げられているのであれば、心配はないでしょう。ただし強力な杖です。使い方を間違えないように。"
「グリフィンドールの杖・・・・・」
ナツキがいつも使っている杖よりは重い。しかし持ち上げるのが困難ではない。つまり、杖は自分を選んでくれたということだ。
「これ、持っていっていいの?」
サイラスは大あくびをしながら、肯定を伝えてきた。
「あなたは・・・グリフィンドールが生きていた時からずっとここにいるの?」
また、肯定が伝わってきた。サイラスはのんびり立ち上がり、ナツキに少しだけ体を擦り寄せた。
「何か伝えたいことがあるの?」
そう尋ねるとサイラスは本棚を見上げ、上の方にある分厚くてボロボロの本を浮かべあがらせた。ナツキがそれを受け取ると、ズシリと重くて、落としそうになった。
「うわ、えーと・・・・あー、古代ルーン文字だ・・・・」
表紙のタイトルすらわからない。ナツキは同じく本棚にある、古代ルーン文字辞典を取り出した。知識はほとんどゼロだが、単語くらいなら調べられるはずだ。
サイラスがのんびりと床に伏せている脇で、ナツキはなんとかタイトルに含まれる単語の意味がわかった。
「魔法生物、ライオン、作る・・・・あなたは、作られた魔法生物なの?」
サイラスは肯定した。そしてまた魔法で、ページをパラパラとめくった。開かれたページには杖の動かし方と、呪文のようなものが書かれていた。ナツキはまた辞書と睨めっこをした。
「め、めんてぃす・・ふ?・・・ふえ・・フェルム・・・。よし、メンティス・フェルム。」
図解されている杖の動かし方を真似て、なんとか解読した呪文を唱える。しかし何も起きた様子はない。
「失敗?」
「成功だ。」
「!?」
傍のサイラスの方から声が聞こえた。老人のような声で、威厳を感じさせるような声だった。
「は、話せるの?あ、そういう呪文?これ。」
「そうだ。」
伏せていたサイラスは立ち上がり、ナツキを黄金の瞳で見つめた。
「私はサイラス。ゴドリックが作りし、ホグワーツの守り獣。ゴドリックの子よ、お前の名は?」
「私はナツキ。ナツキ・ゴドリクソン。」
「ナツキか。顔立ちがとてもアルバに似ている。彼女はナツキの母か?」
サイラスからとても悲しい感情が伝わった。
「ううん。アルバは、私のお祖母さん。」
「そう、か・・・。人間だと確かにそれくらいか・・・・」
「あの、サイラス、私、この部屋とあなたと・・・あとお祖母さんのこと、いろいろ聞きたいんだけど・・・・」
サイラスは時間の許す限りいろいろと話してくれた。
アルバとは彼女が6年生の頃に出会ったこと、それまでは魔法で封印されていたこと、彼女が教師としてホグワーツにいる間も交流を持ったこと、闇の陣営との戦いに行ったきり帰ってこなかったこと。
「寂しかった、悲しかったという言葉では表せられない・・・・。しかしそんな日々で、ナツキ、君の気配を感じた。新たな継承者が現れたのだとわかった。だが私から継承者を迎えることはできない。そういう決まりだからだ。君をひたすら呼んだよ。そして、君はきてくれた。しかしその直前、私はあの汚らわしい蛇にしてやられた。」
今年度に入って、バジリスクの存在を感じ取ったサイラスは、ナツキに危害が加えられる前にと退治に行ったらしいが、水面越しに運悪くその目を見てしまった。最後の力を振り絞り、この部屋まで戻ってきたはいいが、石になってしまったのだという。
「さて、今度は君の話を聞かせておくれ。」
ナツキは伏せているサイラスのふわふわの体に寄りかかりながら、自分の話をした。無愛想な養父のこと、親友たちのこと、ヴォルデモートやトム・リドルとのこと。
「きっと困難が待ち受けているだろう。だがナツキからは、ゴドリックを彷彿とさせる何かを感じる・・・・。こんなことは初めてだ。きっとその杖がナツキを助けてくれる。」
ナツキは杖をまじまじと見た。勇気が自然と溢れてきた。
「それと、先ほどから部屋の外に知った気配がある。最初この部屋に来たときにいた男だ。」
「え・・・あ、ジョージのこと?」
サイラスから不機嫌な気持ちが伝わってきた。
「この部屋とあなたのこと、誰にも言っちゃいけないの?ジョージはもう知ってるけど・・・」
「知られてしまったものは仕方がない。今のところあいつからは悪意は感じない。闇の気配もない。だが、他の者には伝えてはいけない。大好きなハリー・ポッターにもだ。アルバが残した大切なものがここにはある。その情報を外に出してはいけない。闇の魔法使いがこの世にいる限り。」
サイラスから、今度は必死な気持ちが伝わってきた。ナツキは誰にもこのことを言わないよう、固く決心した。
「この部屋は時間が分かりにくいがもう夜だ。赤毛の男はナツキを心配してきたんだろう。」
「え、なら早く出ないと。でも待って、明日には私、ホグワーツを出ないといけないのに!」
サイラスは笑った。ライオンの口角が上がったのかはわからないが、そんな気持ちが伝わってきた。
「来学期、またくればいい。私はずっとここにいる。」
「・・・うん。あ、ご飯はどうしてるの?」
「厨房から勝手に失敬しているから気にしなくていい。ゴドリックがそういうふうに、ここを作ってくれた。・・・・だがたまにはナツキの手から食べさせてほしい。」
「わかった。今度来るときは骨つき肉もらってくるね。」
ナツキは出口の方の扉へ向かった。
「またね、サイラス。元気で。」
「ナツキも。無茶をしないように。」
ナツキが扉のレリーフにちょっぴり血をたらすと、回転扉がグルンと回った。ジョージがそこにいた。
「ジョージ、ごめん。迎えにきてくれたの?」
「ああ。ハーマイオニーが、ナツキがまだ荷造りをしていないのにどこにもいないって談話室で言ってたからな。心配してたぜ。」
ナツキはジョージと西塔をゆっくり下る。
「ジョージは?心配してくれた?」
ナツキが冗談でそういうと、ジョージはワシワシっとナツキの髪の毛を乱した。答えは返してくれなかった。
「今年も夏休みはうちくるだろ?」
「いいの?行く!」
夜が更けていく中、ナツキはふと空を見上げた。いくつもの流れ星が流れていた。
「わあ・・・・・」
魔法界でも流れ星に願い事を祈ると叶うと言われている。ナツキは咄嗟に願い事を考えた。
「願い事でもしてるのか?」
「うん。みんなとずーっと笑っていられますようにって。」
「そりゃ、大した願いだ。」
「ジョージは?」
馬鹿にするような彼の口調を気にするでもなくナツキはジョージにそう尋ねた。
「・・・・ナイショだ・。」
少しだけ、ジョージの耳が赤い気がした。
「えー、けち。」
「そりゃあケチさ。うちは貧乏だからな。」
「うーん、それ返しにくいなあ。」
そうして2年生最後のホグワーツの夜は更けていった。ナツキは流れ星に願ったことを、絶対に実現するのだと、星々に誓ったのだった。
<秘密の部屋 完>
「ナツキ!」
「ハリー!」
「よかった。いつものナツキだ。大丈夫なら一緒に大広間に行こう!」
大広間までの道のりではハリーがニコニコしながら、ドビーの話をしてくれた。
「じゃあ今頃マルフォイ家は大騒ぎだね。絶対にあの人たち、自分で家事なんかできないよ。」
「いい気味だ。」
宴ではとても嬉しいことが起こった。
「ハリー!ナツキ!!」
「ハーマイオニー!!」
ハーマイオニーがナツキとハリーに駆け寄ってきた。ふわふわの髪の毛を見て、ナツキもハリーも顔を輝かせた。
明け方の3時半には、ハグリッドが現れた。疲れた顔をしていたが、すごく嬉しそうにしていた。
夏学期が終わろうとしていた頃、ナツキは一人で西棟にある、グリフィンドールの秘密の部屋へときていた。
初めてこの部屋を見つけてから、防衛術の練習をするために数回きていたが、今ナツキは祖母の日記を手に取っていた。
「見るのは悪いと思っていたけど・・・・」
置かれていた日記は10冊以上あった。祖母が1年生の頃の日記を初めから眺めてみた。しばらく読んでいると、頻繁に「トム」という名前が現れ始めた。
「本当に、友達だったんだ・・・・・」
『トムがクリスマスも残ると言っていたから、私もそうしようかな。だって、きっと楽しい!』
『今日はトムと一緒に変身学の練習もしたわ。トムのボタンは綺麗で上手ね、って言ったら、ボタンをくれたの!お返しに、私の花柄のボタンをトムにあげたわ。喜んでくれてたように見えたけど、考えてみたら、トムに花柄って似合わないわよね。次は気をつけなきゃ!』
ナツキは目頭が熱くなるのを感じた。おばあさんが、これほどまでに仲の良かった、この日記の中では優しそうなトムが、この後ヴォルデモートとなるのだ。こんな悲しいことあるのだろうか。
ナツキはそれ以上読み続けることができなかった。そしてパタンと日記を閉じた。
「ハリーと私は、ヴォルデモートに狙われているんだ。」
ハリーは命を間違いなく狙われている。ナツキは、去年のクィレルの後頭部の悍ましい声が言っていた言葉を思い出した。
殺さず、生かさず
その意図がある程度わかった今は、その言葉がどれだけ恐ろしいものだったのか理解できたような気がした。
ブルっと身震いをしたナツキであった。ふと、書斎の奥にある演習場のライオンの像を眺めたくなった。あれをみていると、なぜか勇気が湧き出るのだ。
ナツキは像の前に立っていた。相変わらず、生きているかのように鬣が靡いている。
「グリフィンドールの象徴だからここにあるのかな。」
ナツキはそう言って、その鬣に手を触れた。石のようだ、とナツキは思った。
「いや、石か。」
"ようだ"は余計だと一人で突っ込んで、ふと手を止めた。
「・・・石の・・・ようだ・・・・?」
ナツキはまじまじとライオンの像を見つめた。何かに似ている。ナツキはハッとした。
「もしかして・・・・あなた、生きているの・・・・!?」
ナツキがそういうと、肯定されたような何かが伝わって気がした。
「バジリスクに、石にされたの?」
鬣に触れながらそう言うと、また、肯定された気がした。
ナツキは迷わず、ローブのポケットにあるマンドレイク薬を取り出し、大きく開かれたライオンの口の中に薬を流し込んだ。
ライオンの靡きそうで靡かなかった鬣が、ふわふわと揺れた。
「・・・・あなたが・・・・サイラス・・・・?」
ナツキは祖母の書き置きに書かれていた名を思い出した。好物が骨つき肉の、この部屋に住む何か、それこそが、この目の前の雄々しいライオン、サイラスであったのだ。
獰猛な肉食獣であるはずだが、全く怖くなかった。
黄金色の大きな瞳は真っ直ぐにナツキを見つめた。そしてフウッと息をナツキに吹きかけた。
「?」
ナツキは思いがけない吐息の強さに、目を瞑った。そして目を開けた。
「・・・え・・・・これは・・・・・杖?」
目の前に杖が浮かんでいた。サイラスは、じっとそれを見つめている。
「これを、受け取れってこと?」
驚いたことに、肯定の意を強く感じ取ることができた。ナツキは確信した。自分が、この目の前のライオンと意思疎通ができるということに。
ナツキは目の前に浮かんでいる、杖を握ってみた。
「!!」
途端に、体がブワッっと大きな柔らかい風に包まれた。少しずっしりとした杖を握った右手から力が溢れてくるのがわかった。入学前に、オリバンダーの店でナツキに完璧に合う杖がないという趣旨のことを言われたのを思い出した。そして、自分に最も合う杖が、これなのだと直感した。
「この杖は一体・・・・?」
サイラスを見てみると、彼はナツキの体を撫でるようにその脇をすり抜け、書斎へ向かっていった。ついてこい、ということだろう。
ナツキが後を追うと、サイラスは暖炉の前で伏せた。そこには、祖母アルバがこの部屋を使うであろう子孫に残した書き置きがある。ただし、結構厚いので、ナツキは全てに目を通してはいなかった。
ナツキの前でその書き置きがふわりと浮き上がった。おそらくサイラスが魔法を使っているのだ。魔法を使えるライオンなのかと驚くのもつかのも、パラパラと自動的に捲らたページにはさらに驚くべきことが書かれてあった。
"その杖はかつてゴドリック・グリフィンドールが使った杖。木材はオーク、芯はサイラスの鬣。杖が認めていないものには、持ち上げるのが困難なほど重くなります。サイラスがあなたにそれを授け、それを持ち上げられているのであれば、心配はないでしょう。ただし強力な杖です。使い方を間違えないように。"
「グリフィンドールの杖・・・・・」
ナツキがいつも使っている杖よりは重い。しかし持ち上げるのが困難ではない。つまり、杖は自分を選んでくれたということだ。
「これ、持っていっていいの?」
サイラスは大あくびをしながら、肯定を伝えてきた。
「あなたは・・・グリフィンドールが生きていた時からずっとここにいるの?」
また、肯定が伝わってきた。サイラスはのんびり立ち上がり、ナツキに少しだけ体を擦り寄せた。
「何か伝えたいことがあるの?」
そう尋ねるとサイラスは本棚を見上げ、上の方にある分厚くてボロボロの本を浮かべあがらせた。ナツキがそれを受け取ると、ズシリと重くて、落としそうになった。
「うわ、えーと・・・・あー、古代ルーン文字だ・・・・」
表紙のタイトルすらわからない。ナツキは同じく本棚にある、古代ルーン文字辞典を取り出した。知識はほとんどゼロだが、単語くらいなら調べられるはずだ。
サイラスがのんびりと床に伏せている脇で、ナツキはなんとかタイトルに含まれる単語の意味がわかった。
「魔法生物、ライオン、作る・・・・あなたは、作られた魔法生物なの?」
サイラスは肯定した。そしてまた魔法で、ページをパラパラとめくった。開かれたページには杖の動かし方と、呪文のようなものが書かれていた。ナツキはまた辞書と睨めっこをした。
「め、めんてぃす・・ふ?・・・ふえ・・フェルム・・・。よし、メンティス・フェルム。」
図解されている杖の動かし方を真似て、なんとか解読した呪文を唱える。しかし何も起きた様子はない。
「失敗?」
「成功だ。」
「!?」
傍のサイラスの方から声が聞こえた。老人のような声で、威厳を感じさせるような声だった。
「は、話せるの?あ、そういう呪文?これ。」
「そうだ。」
伏せていたサイラスは立ち上がり、ナツキを黄金の瞳で見つめた。
「私はサイラス。ゴドリックが作りし、ホグワーツの守り獣。ゴドリックの子よ、お前の名は?」
「私はナツキ。ナツキ・ゴドリクソン。」
「ナツキか。顔立ちがとてもアルバに似ている。彼女はナツキの母か?」
サイラスからとても悲しい感情が伝わった。
「ううん。アルバは、私のお祖母さん。」
「そう、か・・・。人間だと確かにそれくらいか・・・・」
「あの、サイラス、私、この部屋とあなたと・・・あとお祖母さんのこと、いろいろ聞きたいんだけど・・・・」
サイラスは時間の許す限りいろいろと話してくれた。
アルバとは彼女が6年生の頃に出会ったこと、それまでは魔法で封印されていたこと、彼女が教師としてホグワーツにいる間も交流を持ったこと、闇の陣営との戦いに行ったきり帰ってこなかったこと。
「寂しかった、悲しかったという言葉では表せられない・・・・。しかしそんな日々で、ナツキ、君の気配を感じた。新たな継承者が現れたのだとわかった。だが私から継承者を迎えることはできない。そういう決まりだからだ。君をひたすら呼んだよ。そして、君はきてくれた。しかしその直前、私はあの汚らわしい蛇にしてやられた。」
今年度に入って、バジリスクの存在を感じ取ったサイラスは、ナツキに危害が加えられる前にと退治に行ったらしいが、水面越しに運悪くその目を見てしまった。最後の力を振り絞り、この部屋まで戻ってきたはいいが、石になってしまったのだという。
「さて、今度は君の話を聞かせておくれ。」
ナツキは伏せているサイラスのふわふわの体に寄りかかりながら、自分の話をした。無愛想な養父のこと、親友たちのこと、ヴォルデモートやトム・リドルとのこと。
「きっと困難が待ち受けているだろう。だがナツキからは、ゴドリックを彷彿とさせる何かを感じる・・・・。こんなことは初めてだ。きっとその杖がナツキを助けてくれる。」
ナツキは杖をまじまじと見た。勇気が自然と溢れてきた。
「それと、先ほどから部屋の外に知った気配がある。最初この部屋に来たときにいた男だ。」
「え・・・あ、ジョージのこと?」
サイラスから不機嫌な気持ちが伝わってきた。
「この部屋とあなたのこと、誰にも言っちゃいけないの?ジョージはもう知ってるけど・・・」
「知られてしまったものは仕方がない。今のところあいつからは悪意は感じない。闇の気配もない。だが、他の者には伝えてはいけない。大好きなハリー・ポッターにもだ。アルバが残した大切なものがここにはある。その情報を外に出してはいけない。闇の魔法使いがこの世にいる限り。」
サイラスから、今度は必死な気持ちが伝わってきた。ナツキは誰にもこのことを言わないよう、固く決心した。
「この部屋は時間が分かりにくいがもう夜だ。赤毛の男はナツキを心配してきたんだろう。」
「え、なら早く出ないと。でも待って、明日には私、ホグワーツを出ないといけないのに!」
サイラスは笑った。ライオンの口角が上がったのかはわからないが、そんな気持ちが伝わってきた。
「来学期、またくればいい。私はずっとここにいる。」
「・・・うん。あ、ご飯はどうしてるの?」
「厨房から勝手に失敬しているから気にしなくていい。ゴドリックがそういうふうに、ここを作ってくれた。・・・・だがたまにはナツキの手から食べさせてほしい。」
「わかった。今度来るときは骨つき肉もらってくるね。」
ナツキは出口の方の扉へ向かった。
「またね、サイラス。元気で。」
「ナツキも。無茶をしないように。」
ナツキが扉のレリーフにちょっぴり血をたらすと、回転扉がグルンと回った。ジョージがそこにいた。
「ジョージ、ごめん。迎えにきてくれたの?」
「ああ。ハーマイオニーが、ナツキがまだ荷造りをしていないのにどこにもいないって談話室で言ってたからな。心配してたぜ。」
ナツキはジョージと西塔をゆっくり下る。
「ジョージは?心配してくれた?」
ナツキが冗談でそういうと、ジョージはワシワシっとナツキの髪の毛を乱した。答えは返してくれなかった。
「今年も夏休みはうちくるだろ?」
「いいの?行く!」
夜が更けていく中、ナツキはふと空を見上げた。いくつもの流れ星が流れていた。
「わあ・・・・・」
魔法界でも流れ星に願い事を祈ると叶うと言われている。ナツキは咄嗟に願い事を考えた。
「願い事でもしてるのか?」
「うん。みんなとずーっと笑っていられますようにって。」
「そりゃ、大した願いだ。」
「ジョージは?」
馬鹿にするような彼の口調を気にするでもなくナツキはジョージにそう尋ねた。
「・・・・ナイショだ・。」
少しだけ、ジョージの耳が赤い気がした。
「えー、けち。」
「そりゃあケチさ。うちは貧乏だからな。」
「うーん、それ返しにくいなあ。」
そうして2年生最後のホグワーツの夜は更けていった。ナツキは流れ星に願ったことを、絶対に実現するのだと、星々に誓ったのだった。
<秘密の部屋 完>