秘密の部屋
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ナツキたちが泥まみれで入室すると、そこにはウィーズリー夫妻と、マクゴナガル先生、そしてダンブルドア先生がいた。夫妻はすぐにジニーに駆け寄った。
ハリー、ナツキ、ロンも、ウィーズリーおばさんにきつく抱きしめられていた。
「あなたたちがあの子を助けてくれた!あの子の命を!どうやって助けたの?」
ハリーはあまり喋ろうとしないナツキの代わりに、あったことを全て話した。
「わしが一番興味があるのは、ヴォルデモート卿が、どうやってジニーに魔法をかけたかということじゃな。わしの個人的情報によれば、ヴォルデモートは、現在アルバニアの森に隠れているらしいが・・・」
ダンブルドア先生が優しくそう言った。ハリーはすぐに日記を見せた。
「たしかに、彼はホグワーツ始まって以来、最高の秀才だったと言えるじゃろう。・・・・ヴォルデモート卿が、かつてトム・リドルと呼ばれていたことを知る者は、ほとんどいない。わし自身、五十年前、ホグワーツでトムを教えた。卒業後、トムは消えてしまった。遠くへ。そしてあちこちへ旅をした。・・・・闇の魔術にどっぷりと沈み込み、魔法界でもっとも好ましからざる者たちと交わり、危険な変身を何度も経て、ヴォルデモート卿として再び姿を現した時には、昔の面影はまったくなかった。あの聡明でハンサムな男の子、かつてここで首席だった子を、ヴォルデモート卿と結びつけて考える者は、ほとんどいなかった。」
ウィーズリー夫妻は、ジニーが日記を通じてヴォルデモートを絆をつなげたことに驚愕していた。
「ミス・ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい。苛酷な試練じゃったろう。処罰はなし。もっと年上の、もっと賢い魔法使いでさえ、ヴォルデモート卿にたぶらかされてきたのじゃ。」
ダンブルドアはつかつかと出口まで歩いていって、ドアを開けた。ジニーはウィーズリー夫妻と共に、医務室ヘ向かっていった。
「のう、ミネルバ、これは一つ、盛大に祝宴を催す価値があると思うんじゃが。厨房にそのことを知らせにいってはくれまいか?」
「わかりました。ポッターとゴドリクソンとウィーズリーの処置は先生にお任せしてよろしいですね?」
「もちろんじゃ。」
「三人とも『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに、そうじゃな・・・ウム、一人につき二〇〇点ずつグリフィンドールに与えよう。」
そして、ダンブルドア先生はロックハートに目をむけ、ロンに彼を医務室へ送るよう頼んだ。
気づけば残されたのは、ハリーとナツキと先生の三人だった。
「ハリー、ナツキ、お座り。」
ダンブルドアがそういうと、ハリーは椅子に座った。ナツキはボーっとして、少し遅れて椅子に座った。
「まずは、ハリー、礼を言おう。『秘密の部屋』の中で、きみはわしに真の信頼を示してくれたに違いない。それでなければ、フォークスはきみのところに呼び寄せられなかったはずじゃ。それで、きみはトム・リドルに会ったわけだ。たぶん、きみに並々ならぬ関心を示したことじゃろうな・・・・」
ハリーの心にしくしく突き刺さっていた何かが、突然口をついで飛び出した。
「先生、『組分け帽子』が言ったんです。僕が、僕がスリザリンでうまくやっていけただろうにって。みんなは、しばらくの間、僕をスリザリンの継承者だと思っていました。・・・・僕が蛇語が話せるから・・・・」
「ハリー、きみはたしかに蛇語を話せる。なぜなら、ヴォルデモート卿が蛇語を話せるからじゃ。わしの考えがだいたい当たっているなら、ヴォルデモートがきみにその傷を負わせたあの夜、自分の力の一部をきみに移してしまった。もちろん、そうしようと思ってしたことではないが・・・・」
「ヴォルデモートの一部が僕に?」
「どうもそのようじゃ。ハリー、よくお聞き。サラザール・スリザリンが自ら選び抜いた生徒は、スリザリンが誇りに思っていたさまざまな資質を備えていた。きみもたまたまそういう資質を持っておる。それでも『組分け帽子』はきみをグリフィンドールに入れた。きみはその理由を知っておる。考えてごらん。」
「帽子が僕をグリフィンドールに入れたのは、僕がスリザリンに入れないでって頼んだからにすぎないんだ・・・・・」
「そのとおり。それだからこそ、きみがトム・リドルと違う者だという証拠になるんじゃ。ハリー、自分が本当に何者かを示すのは、持っている能力ではなく、自分がどのような選択をするかということなんじゃよ。きみがグリフィンドールに属するという証拠がほしいなら、ハリー、これをもっとよーく見てみるとよい。」
ダンブルドアはマクゴナガル先生の机の上に手を伸ばし、血に染まったあの銀の剣を取り上げ、ハリーに手渡した。
「真のグリフィンドール生だけが、帽子から、思いもかけないこの剣を取り出してみせることができるのじゃよ、ハリー。」
ダンブルドアはそれだけを言った。それから、ダンブルドアがマクゴナガル先生の引き出しを開け、羽根ペンとインク壷を取り出した。
「ハリー、きみには食べ物と睡眠が必要じゃ。祝いの宴に行くがよい。わしはアズカバンに手紙を書く。森番を返してもらわねばのう。それに、『日刊予言者新聞』に出す広告を書かねば。」
「はい。あの、ナツキは、」
ハリーは隣に座って、先ほどから一言も発さないナツキを見た。自分がバジリスクと戦っている間、彼女はずっとリドルといた。ハリーはそのことを突然思い出した。
「先生、ナツキを医務室に連れて行っていいですか?部屋にいた時ずっとリドルに捕まっていたんです。さっきから様子が変です。」
「ナツキは少々疲れておるだけじゃ。怪我も疾患もない。わしが少々話してやったら安心するじゃろうから、先にお行き。」
「・・・はい。先生。」
ハリーはダンブルドア先生が自分の説得には応じないだろうとすぐにわかった。扉の外でナツキを待っていようと思いながら、ハリーは部屋を後にした。
「さて、ナツキ。こちらを見なさい。これを飲んで。」
ダンブルドア先生がどこからか出したココアをナツキに手渡した。
「さあ、飲んで。」
ナツキは反射的にそれに口をつけた。すると、不思議なことにさっきまでずっと冷たかった体が、あったまったのだ。
「・・・あ、ダンブルドア先生・・・・私・・・」
「良い良い。ついついボケっとしてしまうのは誰にでもあることじゃ。」
体が暖かくなると、反対に頭の方は冷静になってきた。
「今から君にとても酷なことを言うかもしれん。・・・・記憶の中のトム・リドルと何を話したんじゃ?」
「っ!・・・せ、先生、その前に、その・・・・・」
先生に聞いても良いのか。そもそも先生は知っているのだろうか。
そんな考えが思い浮かんだが、ナツキは勇気を振り絞りダンブルドア先生のキラキラの目を見た。
「私の祖父は、エリック・アッシュコームですよね・・・・・?」
「・・・・・なるほど。・・・・君が何を言われたのか、手に取るようにわかった。ナツキ、安心なさい。君の祖父がヴォルデモートであるなどと言うことは断じてない。」
「!!!」
ダンブルドアはナツキの傍に立った。
「本当は君がもっと大人になった時に伝えたかった。しかし、中途半端に知るよりは・・・・・ウム。わしが知る限りの彼らの関係について話そう。」
そう言うダンブルドア先生は、いつもよりキラキラしていなかった。辛そうな顔をしていた。ナツキは初めて、彼がアバフォースに似ていると思った。
「トムはホグワーツ始まって以来の秀才と言われた。しかし、同学年にもう一人の天才がいた。アルバ・ゴドリクソンじゃ。彼らはすぐに打ち解け、自他共に認める親友となった。互いに高め合う良い友人同士だと、先生方は微笑ましく見ておった。」
ナツキは黙って、先生の目を見つめた。
「トムは孤児だった。辛い幼少時代を過ごしたが、ホグワーツでアルバというかけがえの無い友を得たはずだった。しかし、しかしじゃ・・・・次第に友情は執着へと変わっていった。だがそれに気づいた者はおらんかった。うまく隠しておったのじゃ。それか・・・もしかしたら、トム本人でさえも、自分がアルバに惹かれていることに気づけなかったのかもしれない。」
ダンブルドア先生は再びマグカップを指差した。ナツキはココアに口をつける。一瞬冷えた体が、また暖かくなった。
「おそらく、きっかけはエリックとアルバが仲良くなったことじゃろう。彼らが、3年生くらいの時じゃったかな・・・・。それがトムには面白くなかった。エリックが魔法界出身ではないこともその原因じゃろう。そして次第にアルバに勘づかれてしまったのじゃ。トムがサラザール・スリザリンと同様の思想を持っていることに。」
ナツキはまたココアに口をつけた。祖母の話を聞くのがこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
「アルバはトムを信じようとしていた。しかしある時から、アルバとトムが仲睦まじくする様子が減っていった。ホグワーツを卒業する頃には、ほとんど会話らしい会話をすることも無くなっていた。」
ダンブルドアは息を吐いた。疲れているように見えたが、ナツキは怖くても、続きを聞きたかった。
「彼がヴォルデモートとして闇の軍勢を率いて間も無く、アルバはワシらと共に戦った。彼女はすぐにヴォルデモートがトムであると気づいた。そして、アルバは戦うことを躊躇ったのじゃ。無理もない。諍いがあろうと、親友だったのじゃ。」
「・・・では・・・お祖母さんは、戦うことをやめたのですか・・・・?」
ナツキは初めてダンブルドア先生の話を遮った。
「いいや。ある意味では、もっとも勇敢な選択肢を取ったと言えるじゃろう。トムを説得しようとしたのじゃ。一度や二度ではない。命の危険を省みず、トムを闇から引きずり出そうとした。・・・無論、とっくに手遅れじゃった。トムが入り込んでしまったのは、深く、暗い闇じゃ。アルバが手を伸ばしても、引き上げることのできないところにやつはいたのじゃ。」
ダンブルドア先生は続けた。
「そして、ついにアルバは命を落とした。愚かにも、最後の希望に賭けて、負けてしまったのじゃ。」
「最後の希望・・・・?」
ダンブルドア先生はまた息を吐いた。その場の緊張感が高まった。
「トムの執着が続いていることに気づいたアルバは、やつの目の前で、自分自身を人質にしたのじゃ。」
「え・・・・・?」
「ナツキ、1年前、君は私にアルバがヴォルデモートに殺されたのかと尋ねたね。」
そうだ。そしてダンブルドア先生は、「そうだともそうでないともいえる」と答えた。
「アルバは自分の命か、蹂躙を止めるかの二択を迫った。しかし結果は知っての通りじゃ。アルバは、自ら・・・死を選んだ。」
「!!」
「・・・ココアを、」
震える手でナツキはココアを口にした。先生の魔法のせいか全然冷めないココアを飲んでも、今までと同じくらいには体が暖まらなかった。
「ナツキ、ここからが、君の話じゃ。」
「え?」
「そのことは、ヴォルデモートの心に小さな引っ掻き傷を作った。そして最悪なことに、やつはますますアルバへの執着を強めた。じゃが、アルバはもういない。」
ドクン、とナツキの心臓が大きな音を立てた。
「私が・・・次は私がヴォルデモートに執着されるかもしれないということですね・・・・」
ダンブルドア先生はこくりと頷いた。
「・・・・・だから、先生は、私をアブに任せたんですか?」
ナツキはマクゴナガル先生から聞いたことを思い出した。一人になった私を見つけたのがダンブルドア先生で、進んで私を引き取ろうとしたマクゴナガル先生ではなく、アバーフォースに預けたのだと。
「理由は様々じゃ。ワシらの関係は良好とは言い難いが、弟は最も信頼する魔法使いの一人と言えよう・・・・。それに、面倒見がいいことも知っておる。ナツキを任せるのに、あやつ以上の適任はいなかった。」
ダンブルドア先生はほとんどからになったココアのマグカップをナツキの手からヒョイと取り上げた。
「ナツキ、君は今回とても怖い思いをしたじゃろう。その恐怖に打ち勝つのは並大抵のことではない。」
マグカップはシュッとどこかに消えた。ダンブルドア先生はナツキの頭にポンポンと手を置いた。
「じゃが君にはその恐怖に負けないだけの強さがある。君はアルバ・ゴドリクソンではない。そのことを決して忘れるでないぞ。」
「はい、先生。」
ナツキがそう返事をすると、半月眼鏡の奥がキラキラと輝いた。
「さて、ハリーがワシのいうことをしっかり聞かずに、そのあたりで待っておるじゃろう。一緒に宴に行っておいで。」
「はい。」
「おお!そうじゃ、忘れるとこであった!」
「?」
ダンブルドア先生はどこからか出した小さな小瓶をナツキに手渡した。
「これは?」
「スプラウト先生からマンドレイク薬じゃ。罰則とはいえ、だいぶ手伝わせたからその礼だと言っておった。持っておいて損はないじゃろう。」
そう言ってダンブルドア先生はウインクをした。
ハリー、ナツキ、ロンも、ウィーズリーおばさんにきつく抱きしめられていた。
「あなたたちがあの子を助けてくれた!あの子の命を!どうやって助けたの?」
ハリーはあまり喋ろうとしないナツキの代わりに、あったことを全て話した。
「わしが一番興味があるのは、ヴォルデモート卿が、どうやってジニーに魔法をかけたかということじゃな。わしの個人的情報によれば、ヴォルデモートは、現在アルバニアの森に隠れているらしいが・・・」
ダンブルドア先生が優しくそう言った。ハリーはすぐに日記を見せた。
「たしかに、彼はホグワーツ始まって以来、最高の秀才だったと言えるじゃろう。・・・・ヴォルデモート卿が、かつてトム・リドルと呼ばれていたことを知る者は、ほとんどいない。わし自身、五十年前、ホグワーツでトムを教えた。卒業後、トムは消えてしまった。遠くへ。そしてあちこちへ旅をした。・・・・闇の魔術にどっぷりと沈み込み、魔法界でもっとも好ましからざる者たちと交わり、危険な変身を何度も経て、ヴォルデモート卿として再び姿を現した時には、昔の面影はまったくなかった。あの聡明でハンサムな男の子、かつてここで首席だった子を、ヴォルデモート卿と結びつけて考える者は、ほとんどいなかった。」
ウィーズリー夫妻は、ジニーが日記を通じてヴォルデモートを絆をつなげたことに驚愕していた。
「ミス・ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい。苛酷な試練じゃったろう。処罰はなし。もっと年上の、もっと賢い魔法使いでさえ、ヴォルデモート卿にたぶらかされてきたのじゃ。」
ダンブルドアはつかつかと出口まで歩いていって、ドアを開けた。ジニーはウィーズリー夫妻と共に、医務室ヘ向かっていった。
「のう、ミネルバ、これは一つ、盛大に祝宴を催す価値があると思うんじゃが。厨房にそのことを知らせにいってはくれまいか?」
「わかりました。ポッターとゴドリクソンとウィーズリーの処置は先生にお任せしてよろしいですね?」
「もちろんじゃ。」
「三人とも『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに、そうじゃな・・・ウム、一人につき二〇〇点ずつグリフィンドールに与えよう。」
そして、ダンブルドア先生はロックハートに目をむけ、ロンに彼を医務室へ送るよう頼んだ。
気づけば残されたのは、ハリーとナツキと先生の三人だった。
「ハリー、ナツキ、お座り。」
ダンブルドアがそういうと、ハリーは椅子に座った。ナツキはボーっとして、少し遅れて椅子に座った。
「まずは、ハリー、礼を言おう。『秘密の部屋』の中で、きみはわしに真の信頼を示してくれたに違いない。それでなければ、フォークスはきみのところに呼び寄せられなかったはずじゃ。それで、きみはトム・リドルに会ったわけだ。たぶん、きみに並々ならぬ関心を示したことじゃろうな・・・・」
ハリーの心にしくしく突き刺さっていた何かが、突然口をついで飛び出した。
「先生、『組分け帽子』が言ったんです。僕が、僕がスリザリンでうまくやっていけただろうにって。みんなは、しばらくの間、僕をスリザリンの継承者だと思っていました。・・・・僕が蛇語が話せるから・・・・」
「ハリー、きみはたしかに蛇語を話せる。なぜなら、ヴォルデモート卿が蛇語を話せるからじゃ。わしの考えがだいたい当たっているなら、ヴォルデモートがきみにその傷を負わせたあの夜、自分の力の一部をきみに移してしまった。もちろん、そうしようと思ってしたことではないが・・・・」
「ヴォルデモートの一部が僕に?」
「どうもそのようじゃ。ハリー、よくお聞き。サラザール・スリザリンが自ら選び抜いた生徒は、スリザリンが誇りに思っていたさまざまな資質を備えていた。きみもたまたまそういう資質を持っておる。それでも『組分け帽子』はきみをグリフィンドールに入れた。きみはその理由を知っておる。考えてごらん。」
「帽子が僕をグリフィンドールに入れたのは、僕がスリザリンに入れないでって頼んだからにすぎないんだ・・・・・」
「そのとおり。それだからこそ、きみがトム・リドルと違う者だという証拠になるんじゃ。ハリー、自分が本当に何者かを示すのは、持っている能力ではなく、自分がどのような選択をするかということなんじゃよ。きみがグリフィンドールに属するという証拠がほしいなら、ハリー、これをもっとよーく見てみるとよい。」
ダンブルドアはマクゴナガル先生の机の上に手を伸ばし、血に染まったあの銀の剣を取り上げ、ハリーに手渡した。
「真のグリフィンドール生だけが、帽子から、思いもかけないこの剣を取り出してみせることができるのじゃよ、ハリー。」
ダンブルドアはそれだけを言った。それから、ダンブルドアがマクゴナガル先生の引き出しを開け、羽根ペンとインク壷を取り出した。
「ハリー、きみには食べ物と睡眠が必要じゃ。祝いの宴に行くがよい。わしはアズカバンに手紙を書く。森番を返してもらわねばのう。それに、『日刊予言者新聞』に出す広告を書かねば。」
「はい。あの、ナツキは、」
ハリーは隣に座って、先ほどから一言も発さないナツキを見た。自分がバジリスクと戦っている間、彼女はずっとリドルといた。ハリーはそのことを突然思い出した。
「先生、ナツキを医務室に連れて行っていいですか?部屋にいた時ずっとリドルに捕まっていたんです。さっきから様子が変です。」
「ナツキは少々疲れておるだけじゃ。怪我も疾患もない。わしが少々話してやったら安心するじゃろうから、先にお行き。」
「・・・はい。先生。」
ハリーはダンブルドア先生が自分の説得には応じないだろうとすぐにわかった。扉の外でナツキを待っていようと思いながら、ハリーは部屋を後にした。
「さて、ナツキ。こちらを見なさい。これを飲んで。」
ダンブルドア先生がどこからか出したココアをナツキに手渡した。
「さあ、飲んで。」
ナツキは反射的にそれに口をつけた。すると、不思議なことにさっきまでずっと冷たかった体が、あったまったのだ。
「・・・あ、ダンブルドア先生・・・・私・・・」
「良い良い。ついついボケっとしてしまうのは誰にでもあることじゃ。」
体が暖かくなると、反対に頭の方は冷静になってきた。
「今から君にとても酷なことを言うかもしれん。・・・・記憶の中のトム・リドルと何を話したんじゃ?」
「っ!・・・せ、先生、その前に、その・・・・・」
先生に聞いても良いのか。そもそも先生は知っているのだろうか。
そんな考えが思い浮かんだが、ナツキは勇気を振り絞りダンブルドア先生のキラキラの目を見た。
「私の祖父は、エリック・アッシュコームですよね・・・・・?」
「・・・・・なるほど。・・・・君が何を言われたのか、手に取るようにわかった。ナツキ、安心なさい。君の祖父がヴォルデモートであるなどと言うことは断じてない。」
「!!!」
ダンブルドアはナツキの傍に立った。
「本当は君がもっと大人になった時に伝えたかった。しかし、中途半端に知るよりは・・・・・ウム。わしが知る限りの彼らの関係について話そう。」
そう言うダンブルドア先生は、いつもよりキラキラしていなかった。辛そうな顔をしていた。ナツキは初めて、彼がアバフォースに似ていると思った。
「トムはホグワーツ始まって以来の秀才と言われた。しかし、同学年にもう一人の天才がいた。アルバ・ゴドリクソンじゃ。彼らはすぐに打ち解け、自他共に認める親友となった。互いに高め合う良い友人同士だと、先生方は微笑ましく見ておった。」
ナツキは黙って、先生の目を見つめた。
「トムは孤児だった。辛い幼少時代を過ごしたが、ホグワーツでアルバというかけがえの無い友を得たはずだった。しかし、しかしじゃ・・・・次第に友情は執着へと変わっていった。だがそれに気づいた者はおらんかった。うまく隠しておったのじゃ。それか・・・もしかしたら、トム本人でさえも、自分がアルバに惹かれていることに気づけなかったのかもしれない。」
ダンブルドア先生は再びマグカップを指差した。ナツキはココアに口をつける。一瞬冷えた体が、また暖かくなった。
「おそらく、きっかけはエリックとアルバが仲良くなったことじゃろう。彼らが、3年生くらいの時じゃったかな・・・・。それがトムには面白くなかった。エリックが魔法界出身ではないこともその原因じゃろう。そして次第にアルバに勘づかれてしまったのじゃ。トムがサラザール・スリザリンと同様の思想を持っていることに。」
ナツキはまたココアに口をつけた。祖母の話を聞くのがこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
「アルバはトムを信じようとしていた。しかしある時から、アルバとトムが仲睦まじくする様子が減っていった。ホグワーツを卒業する頃には、ほとんど会話らしい会話をすることも無くなっていた。」
ダンブルドアは息を吐いた。疲れているように見えたが、ナツキは怖くても、続きを聞きたかった。
「彼がヴォルデモートとして闇の軍勢を率いて間も無く、アルバはワシらと共に戦った。彼女はすぐにヴォルデモートがトムであると気づいた。そして、アルバは戦うことを躊躇ったのじゃ。無理もない。諍いがあろうと、親友だったのじゃ。」
「・・・では・・・お祖母さんは、戦うことをやめたのですか・・・・?」
ナツキは初めてダンブルドア先生の話を遮った。
「いいや。ある意味では、もっとも勇敢な選択肢を取ったと言えるじゃろう。トムを説得しようとしたのじゃ。一度や二度ではない。命の危険を省みず、トムを闇から引きずり出そうとした。・・・無論、とっくに手遅れじゃった。トムが入り込んでしまったのは、深く、暗い闇じゃ。アルバが手を伸ばしても、引き上げることのできないところにやつはいたのじゃ。」
ダンブルドア先生は続けた。
「そして、ついにアルバは命を落とした。愚かにも、最後の希望に賭けて、負けてしまったのじゃ。」
「最後の希望・・・・?」
ダンブルドア先生はまた息を吐いた。その場の緊張感が高まった。
「トムの執着が続いていることに気づいたアルバは、やつの目の前で、自分自身を人質にしたのじゃ。」
「え・・・・・?」
「ナツキ、1年前、君は私にアルバがヴォルデモートに殺されたのかと尋ねたね。」
そうだ。そしてダンブルドア先生は、「そうだともそうでないともいえる」と答えた。
「アルバは自分の命か、蹂躙を止めるかの二択を迫った。しかし結果は知っての通りじゃ。アルバは、自ら・・・死を選んだ。」
「!!」
「・・・ココアを、」
震える手でナツキはココアを口にした。先生の魔法のせいか全然冷めないココアを飲んでも、今までと同じくらいには体が暖まらなかった。
「ナツキ、ここからが、君の話じゃ。」
「え?」
「そのことは、ヴォルデモートの心に小さな引っ掻き傷を作った。そして最悪なことに、やつはますますアルバへの執着を強めた。じゃが、アルバはもういない。」
ドクン、とナツキの心臓が大きな音を立てた。
「私が・・・次は私がヴォルデモートに執着されるかもしれないということですね・・・・」
ダンブルドア先生はこくりと頷いた。
「・・・・・だから、先生は、私をアブに任せたんですか?」
ナツキはマクゴナガル先生から聞いたことを思い出した。一人になった私を見つけたのがダンブルドア先生で、進んで私を引き取ろうとしたマクゴナガル先生ではなく、アバーフォースに預けたのだと。
「理由は様々じゃ。ワシらの関係は良好とは言い難いが、弟は最も信頼する魔法使いの一人と言えよう・・・・。それに、面倒見がいいことも知っておる。ナツキを任せるのに、あやつ以上の適任はいなかった。」
ダンブルドア先生はほとんどからになったココアのマグカップをナツキの手からヒョイと取り上げた。
「ナツキ、君は今回とても怖い思いをしたじゃろう。その恐怖に打ち勝つのは並大抵のことではない。」
マグカップはシュッとどこかに消えた。ダンブルドア先生はナツキの頭にポンポンと手を置いた。
「じゃが君にはその恐怖に負けないだけの強さがある。君はアルバ・ゴドリクソンではない。そのことを決して忘れるでないぞ。」
「はい、先生。」
ナツキがそう返事をすると、半月眼鏡の奥がキラキラと輝いた。
「さて、ハリーがワシのいうことをしっかり聞かずに、そのあたりで待っておるじゃろう。一緒に宴に行っておいで。」
「はい。」
「おお!そうじゃ、忘れるとこであった!」
「?」
ダンブルドア先生はどこからか出した小さな小瓶をナツキに手渡した。
「これは?」
「スプラウト先生からマンドレイク薬じゃ。罰則とはいえ、だいぶ手伝わせたからその礼だと言っておった。持っておいて損はないじゃろう。」
そう言ってダンブルドア先生はウインクをした。