秘密の部屋
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翌日、ナツキはハリーも同じ考えに至ったのだとわかった。
「でも、どうすればいいの?トイレに行くにしても先生がついてくるんだよ。マクゴナガル先生は、個室のすぐ外までついてくるんだよ。女子トイレは密室で他より危ないからできるだけ近くにって・・・・。」
つまり、女子トイレなんだからナツキが行って聞いてくればよい、という簡単な問題ではなかった。
学年末テストは予定通りに行われると発表された。そしてテストの三日前、マクゴナガル先生は、もうすぐマンドレイク薬ができると発表したのだ。
「なら、トイレに行かなくても、石になったみんなが何か証言してくれるね。」
「ああ。目を覚ましたら、ハーマイオニーが全部答えを出してくれるよ!」
「私、ハーマイオニーが試験を受けられるように準備しないと!」
ナツキとロンがそんな話をしていると、ジニーがロンの隣に座った。なんだか思い詰めたような顔をしている。
「どうした?」
ロンがオートミールのお代わりをしながら聞いた。ジニーは黙って怯えた表情をしている。
「言っちまえよ。」
ロンがジニーを見つめながら促した。
「あたし、言わなければいけないことがあるの。」
なんだろうかと、ロンも、ナツキ、ハリーもジニーの言葉を聞こうとした。しかしそこに、非常に間が悪くパーシーが現れた。
「ジニー、食べ終わったのなら、僕がその席に座るよ。腹ぺこだ。巡回見廻りが、いま終わったばかりなんだ。」
ジニーは椅子に電流が走ったかのように飛び上がって、パーシーのほうを怯えた目でチラッと見るなり、そそくさと立ち去った。
「パーシー!ジニーが何か大切なことを話そうとしたとこだったのに!」
ロンの怒りに、紅茶を飲んでいる途中でパーシーは咽せ込んだ。
「どんなことだった?」
パーシーが咳込みながら聞いた。
「僕が、何かおかしなものを見たのかって聞いたら、何か言いかけて・・・・」
「ああ・・・・それは『秘密の部屋』には関係ない。」
パーシーはすぐに言った。 その後も秘密を誤魔化すように、パーシーはおろおろしていた。ロンはその様子を面白がっていたが、ナツキとハリーはジニーが言いたかったことはパーシーの話なのだろうかと、彼女を心配した。
午前の授業も半ば終わり、次の「魔法史」の教室まで引率していたのがギルデロイ・ロックハートだった。ロックハートは生徒を安全に送り届けるためにわざわざ廊下を引率していくのは、まったくのむだだと思っているようだった。
ナツキ、ハリー、ロンは、マートルに話を聞けるのではないかと目を見合わせた。もうすぐ解決できるであろうということと、好奇心は別物なのだ。
「私たち、先生というものは、いろいろやらなければならないことがありましてね。生徒を送ってクラスに連れていったり、一晩中見張りに立ったりしなくたって手一杯ですよ。」
「そのとおりです。先生、引率はここまでにしてはいかがですか。あと一つだけ廊下を渡ればいいんですから。」
「実は、ウィーズリー君、私もそうしようかと思う。戻って次の授業の準備をしないといけないんでね。」
そしてロックハートは足早に行ってしまった。
「授業の準備なんてものしてたんだ。それであの授業なんだ。」
「言ってやるな、ナツキ。髪をカールするのだって立派な準備なんだ。」
ロンの言葉に、ナツキは去りゆくロックハートを白い目で見た。
しかしチャンスであることに変わりはない。三人はこっそり3階の女子トイレへと向かった。しかしその時、
「ゴドリクソン!ポッター!ウィーズリー!何をしているのですか?」
マクゴナガル先生が、これ以上固くは結べまいと思うほど固く、唇を真一文字に結んで立っていた。
「あの、私たち・・・」
「僕たち・・・僕たち・・・・あの、様子を見に・・・・」
ナツキとロンがモゴモゴ言った。即座に「ハーマイオニーの」とハリーが受けた。
「先生、もうずいぶん長いことハーマイオニーに会っていません。だから、僕たち、こっそり医務室に忍び込んで、それで、ハーマイオニーにマンドレイクがもうすぐ採れるから、だから、あの、心配しないようにって、そう言おうと思ったんです。」
マクゴナガル先生はハリーから目を離さなかった。
「そうでしょうとも。・・・・そうでしょうとも。襲われた人たちの友達が、一番辛い思いをしてきたことでしょう・・・・。よくわかりました。ポッター、もちろん、いいですとも。ミス・グレンジャーのお見舞いを許可します。ビンズ先生には、私からあなたたちの欠席のことをお知らせしておきましょう。マダム・ポンフリーには、私から許可が出たと言いなさい。」
ナツキたちは、罰則を与えられなかったことが、半信半疑のままその場を立ち去った。角を曲がった時、マクゴナガル先生が鼻をかむ音が、はっきり聞こえた。
「あれは、君の作り話の中でも最高傑作だったぜ。」
「私はあの嘘、ものすごーく心が痛むよ・・・・。とりあえず、医務室に行こうか。」
マダム・ポンフリーは三人は中に入れたが、しぶしぶだった。
見舞客が来ていることに、ハーマイオニーは当然気づいていなかった。ナツキはすぐに治ると知っていなかったらきっと自分は泣き出すだろうと思った。
「でも、ハーマイオニーが自分を襲ったやつを本当に見たと思うかい?」
ロンが、ハーマイオニーの硬直した顔を悲しげに見ながら言った。
「・・・ハーマイオニーは、なんであの時図書館に行ったんだろう。」
ナツキはそう呟いた。すぐに、ハリーがハーマイオニーの右手に何か紙切れがあることに気づいた。
ハリーが数分格闘して、なんとかその紙を抜き取った。
図書室の、とても古い本のページがちぎり取られていた。三人は屈み込んで一緒に読んだ。
『我らが世界を徘徊する多くの怪獣、怪物の中でも、最も珍しく、最も破壊的であるという点で、バジリスクの右に出るものはない。『毒蛇の王』とも呼ばれる。殺しの方法は非常に珍しく、毒牙による殺傷とは別に、バジリスクのひと睨みは致命的である。その眼からの光線に捕らわれた者は即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前触れである。なぜならバジリスクは蜘蛛の天敵だからである。バジリスクにとって致命的なものは雄鶏が時をつくる声で、唯一それからは逃げ出す。』
この下に、見覚えのあるハーマイオニーの筆跡で、一言だけ「パイプ」と書かれていた。
「・・・・そういう・・・ことなんだ・・・・・」
スペ手のピースが揃った。秘密の部屋の怪物はバジリスク。そいつがパイプの中を移動していた。ハリーに声が聞こえたのは、バジリスクが蛇だからだ。
「でも、みんな石になっただけ・・・・・」
「・・・コリンはカメラだ・・・。ジャスティン・・・ジャスティンは・・・・」
ナツキの問いにハリーが一つずつ答えを導き出していく。なんということだろう。これまではたまたまバジリスクの瞳を直接見ていなかったに過ぎないのだ。
「そうだ・・・パイプだよ。ナツキ、ロン、やつは配管を使ってたんだ。僕には壁の中からあの声が聞こえてた。『秘密の部屋』への入口だ!もしトイレの中だったら? もし、あの・・・・」
「マートルのトイレ・・・・」
ハリーの言葉にナツキは続けた。全てがわかった。
「これからどうする?」
ロンの目が輝いている。
「職員室へ行こう。あと十分で、マクゴナガル先生が戻ってくるはずだ。まもなく休憩時間だ。」
ハリーの言葉に頷き、三人は階段を下りて、まっすぐに誰もいない職員室に行った。戦線たちを待っていると、マクゴナガル先生の声が魔法で拡大され、廊下に響き渡った。
「生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください。」
ハリーはくるっと振り向き、ナツキとロンと目を見合わせた。
「また襲われたのか? いまになって?」
ハリーの言葉に「どうしよう?」とロンが愕然として言った。咄嗟のことで、三人は洋服掛けの中に隠れることを思いついた。
やがて職員室のドアがバタンと開いた。やがて、マクゴナガル先生がやってきた。
「とうとう起こりました。生徒が一人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』そのものの中へです。」
「『スリザリンの継承者』がまた伝言を書き残しました。最初に残された文字のすぐ下にです。『彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう』。」
椅子にへたり込んだマダム・フーチが聞いた。
「どの子ですか?」
「ジニー・ウィーズリー。」
マクゴナガル先生が言った。 ナツキは隣で、ロンが声もなくへなへなと崩れ落ちるのを感じた。
「全校生徒を明日、帰宅させなければなりません。ホグワーツはこれでおしまいです。ダンブルドアはいつもおっしゃっていた・・・・」
職員室のドアがもう一度バタンと開いた。それはロックハートだった。にっこり微笑んでいるではないか。
「大変失礼しました・・・・・何か聞き逃してしまいましたか?」
スネイプが一歩進み出た。
「なんと、適任者が。まさに適任だ。ロックハート、女子学生が怪物に拉致された。『秘密の部屋』そのものに連れ去られた。いよいよあなたの出番が来ましたぞ。」
ロックハートは血の気が引いた。スプラウト先生が続けて口を挟んだ。
「そのとおりだわ、ギルデロイ。昨夜でしたね、たしか、『秘密の部屋』への入口がどこにあるか、とっくに知っているとおっしゃったのは?」
「私は、その、私は、」
ロックハートはわけのわからない言葉を口走った。しかし先生方は容赦無く口々にロックハートのこれまでの言動を振り返った。
「それでは、ギルデロイ、あなたにお任せしましょう。」
マクゴナガル先生が言った。
「今夜こそ絶好のチャンスでしょう。誰にもあなたの邪魔をさせはしませんとも。お一人で怪物と取り組むことができますよ。お望みどおり、お好きなように。」
いまのロックハートはハンサムからは程遠かった。きっとハーマイオニーでさえも、見放したことだろう。
「よ、よろしい。へ、部屋に戻って、し、支度をします。」
ロックハートが出ていった。それを確認すると、マクゴナガル先生は鼻を膨らませて言った。
「さてと、これで厄介払いができました。寮監の先生方は寮に戻り、生徒に何が起こったかを知らせてください。明日一番のホグワーツ特急で生徒を帰宅させる、とおっしゃってください。ほかの先生方は、生徒が一人たりとも寮の外に残っていないよう見廻ってください。」
その日は最悪だった。グリフィンドールの談話室はこれまでにないくらい静まり返っていた。
「ジニーは何か知っていたんだよ、ハリー、ナツキ。」
職員室の洋服掛けに隠れて以来、初めてロンが口をきいた。
「だから連れていかれたんだ。パーシーのバカバカしい何かの話じゃなかったんだ。何か『秘密の部屋』に関することを見つけたんだ。きっとそのせいでジニーは・・・・・だって、ジニーは純血だ。ほかに理由があるはずがない。」
そうかもしれない。ナツキは隠れ穴でのジニーと過ごした日々を思い出していた。あの子が秘密の部屋に連れて行かれるべき理由なんてあるもんか。
「ハリー、ナツキ、ほんのわずかでも可能性があるだろうか。つまり・・・ジニーがまだ・・・」
ナツキもハリーも何と答えてよいかわからなかった。
「そうだ! ロックハートに会いにいくべきじゃないかな?僕たちの知っていることを教えてやるんだ。ロックハートはなんとかして『秘密の部屋』に入ろうとしているんだ。それがどこにあるか、僕たちの考えを話して、バジリスクがそこにいるって、教えてあげよう。」
「・・・・わかった。今はそれが最善な気がする。」
ナツキがそういうと、ハリーもとりあえずその提案に乗ることを決めたようだ。しかし、ロックハートが頼りになるとはとても思えなかった。
ロックハートの部屋に向かって歩くうちに、あたりが闇に包まれはじめた。ロックハートの部屋の中は取り込み中らしい。カリカリ、ゴツンゴツンに加えて慌ただしい足音が聞こえた。ノックすると、中が急に静かになった。それからドアがほんの少しだけ開き、ロックハートの目が覗いた。
「あぁ、ポッター君、ゴドリクソン君・・・ウィーズリー君・・・・私はいま、少々取り込み中なので、急いでくれると・・・・・」
部屋の中は綺麗に片付けられていた。前に入った時とはえらく様変わりしている。まさか、と思ったナツキの考えをハリーが代弁した。
「どこかへいらっしゃるのですか?」
「うー、あー、そう。緊急に呼び出されて、しかたなく、行かなければ・・・」
「僕の妹はどうなるんですか?」
「そう、そのことだが・・・・まったく気の毒なことだ。」
ロックハートは三人の目を見ないようにし、引き出しをぐいと開け、中のものを引っくり返してバッグに入れながら言った。
「・・・・先生は、闇祓いじゃないんですか?本に書いてあったことはなんなんですか!!?」
ナツキは叫んだ。
「本は誤解を招く。」
「ご自分が書かれたのに!」
今度はハリーが叫んだ。ロックハートはなんと、他の人の手柄を横取りして自伝風にしたと言うのだ。
ロックハートはトランクを全部バチンと締め、鍵を掛けた。
「さてと。これで全部でしょう。いや、一つだけ残っている。」
ロックハートは杖を取り出し、三人に向けた。
「坊ちゃんたちには気の毒ですがね、『忘却術』をかけさせてもらいますよ。」
「「エクスペリアームス!」」
ハリーとナツキが同時に杖を向け同じ呪文を唱えた。ロックハートは後ろに吹っ飛んで、トランクに足をすくわれ、その上に倒れた。杖は高々と空中に弧を描き、それをロンがキャッチし、窓から外に放り投げた。
ナツキとハリーはジリジリとロックハートに近寄り、杖を突きつけた。
「私に何をしろと言うのかね?『秘密の部屋』がどこにあるかも知らない。私には何もできない。」
「へえ。だってよ、ハリー。」
「運のいい人だ。僕たちはそのありかを知っていると思う。中に何がいるかも。さあ、行こう。」
ロックハートを脅しながら、四人で3階の女子トイレへ向かった。まずロックハートを先に入らせた。ロックハートは震えていた。
「アラ、あんただったの。今度は何のよう?」
嘆きのマートルだ。ハリーは答えた。
「君が死んだ時の様子を聞きたいんだ。」
「オォォォゥ、怖かったわ。まさにここだったの。オリーブ・ホーンビーがわたしをからかったものだから、ここに隠れたの。鍵を掛けて泣いていたら、誰かが入ってきたわ。何か変なことを言ってた。外国語だった、と思うわ。とにかく、いやだったのは、しゃべってるのが男子だったってこと。だから、出ていけ、男子トイレを使えって言うつもりで、鍵を開けて、そして・・・・・死んだの。」
「それは呪文で?」
ナツキが聞いた。しかしマートルは「わからない」とヒソヒソ声で答えた。
「覚えてるのは大きな黄色い目玉が二つ。体全体がギュッと金縛りにあったみたいで、それからふーっと浮いて・・・・そして、また戻ってきたの。だって、オリーブ・ホーンビーに取っ憑いてやるって固く決めてたから。」
きっとその目玉はバジリスクのものだ、とナツキ、ハリー、ロンは思った。マートルはその目玉を手洗い台のあたりで見たと言った。
ハリー、ナツキ、ロンは急いで手洗い台に近寄った。ロックハートは顔中に恐怖の色を浮かべて、ずっと後ろのほうに下がっていた。
三人で隅々まで調べた。きっと、誰にも気づけない仕掛けがあるに違いない。グリフィンドールの秘密の部屋がそうであるように。しかしスリザリンの血が必要だったらどうしよう、とナツキは不安になった。
しかしナツキの心配は杞憂に終わった。ハリーが怪しい蛇口に向かって蛇語で話しかけると、蛇口が眩い白い光を放ち、回りはじめた。次の瞬間、手洗い台が動きだした。手洗い台が沈み込み、見る見る消え去ったあとに、太いパイプがむき出しになった。大人一人が滑り込めるほどの太さだ。
「僕はここを降りていく。」
覚悟を決めたような目でハリーが言った。
「私もいくよ。ハリーを一人になんてしない。」
「僕もいくよ。」
一瞬の空白があった。
「さて、私はほとんど必要ないようですね。」
ロックハートが、得意のスマイルの残骸のような笑いを浮かべた。ナツキたちの考えは同じだった。三人でロックハートに杖を向ける。「先に降りるんだ」とロンが凄んだ。
ロックハート、ハリー、ナツキ、ロンの順でパイプの中を下っていく。ぬるぬるしている。ずっとずっと降っているような気がした。きっと、ホグワーツの一番地下にあるんだろう。
しばらくしてようやく、四人は床(ぬるぬるしている)にたどり着いた。暗くて足元はよく見えない。ナツキとハリーは「ルーモス」と唱えた。
「みんな、いいかい。何かが動く気配を感じたら、すぐ目をつぶるんだ。」
ハリーがそう言ったが、そこは墓場のように静まり返っていた。小さな骨のようなものがそこかしこに散らばっていた。ナツキの頭にジニーの最悪の姿が一周ん浮かんで、忘れようと首をブンブン振った。
「ハリー、ナツキ、あそこに何かある・・・・」
ロンの言葉に四人は凍りついたように立ち止まって、行く手を見つめた。ナツキとハリーがゆっくりと注意深く近づいてみると、巨大な蛇の抜け殻だった。
後ろのほうでギルデロイ・ロックハートが腰を抜かしていた。「立て」とロンが、ロックハートに杖を向け、きつい口調で言った。ロックハートは立ち上がり、ロンに飛びかかって床に殴り倒した。
「坊やたち、お遊びはこれでおしまいだ!私はこの皮を少し学校に持って帰り、女の子を救うには遅すぎたとみんなに言おう。君たちはずたずたになった無残な死骸を見て、哀れにも気が狂ったと言おう。さあ、記憶に別れを告げるがいい!」
ロックハートはスぺロテープで張りつけたロンの杖を頭上にかざし、一声叫んだ。
「オブリビエイト!」
杖は小型爆弾なみに爆発した。ナツキとハリーはうまくそれを避けた。しかし、トンネルの天井から、大きな塊が、雷のような轟音をあげてバラバラと崩れ落ちてきたのだ。
気づけばナツキとハリーは、ロンとロックハートとは分断されていた。
「ロン!大丈夫!?」
「ローン!大丈夫か?ロン!」
「ここだよ!」
ロンの声は崩れ落ちた岩石の影からぼんやりと聞こえた。
「僕は大丈夫だ。でもこっちのバカはだめだ。杖で吹っ飛ばされた。」
「こっちからは行けないよ。何年もかかってしまう。」
「私もこれを安全に崩す魔法は知らない・・・・」
時間がむだに過ぎていく。ジニーが『秘密の部屋』に連れ去られてから何時間も経っている。
ナツキとハリーは目を合わせた。道は一つだけだ。
「そこで待ってて。」
ハリーはロンに呼びかけた。
「ロックハートと一緒に待っていて。僕とナツキが先に進む。一時間経って戻らなかったら・・・・」
「僕は、少しでもここの岩石を取り崩してみるよ。そうすれば君たちが――帰りにここを通れる。だからハリー、ナツキ・・・・」
「それじゃ、またあとでね。」
「ロンも気をつけてね。」
ナツキとハリーは巨大な蛇の皮を越えて先に進んだ。神経を尖らせながら無言で進んでいく。すると前方に固い壁が見えた。二匹のヘビが絡み合った彫刻が施してあり、ヘビの目には輝く大粒のエメラルドが嵌め込んであった。
間違いない。これが、秘密の部屋だ、とナツキは思った。
ハリーは近づいていった。そして彼がシューシューと音を立てると、壁が二つに裂け、絡み合っていたヘビが分かれ、両側の壁が、スルスルと滑るように見えなくなった。
「行こう、ナツキ。」
「うん。」
二人は、頭のてっぺんから足の爪先まで震えながら、その中に入っていった。
「でも、どうすればいいの?トイレに行くにしても先生がついてくるんだよ。マクゴナガル先生は、個室のすぐ外までついてくるんだよ。女子トイレは密室で他より危ないからできるだけ近くにって・・・・。」
つまり、女子トイレなんだからナツキが行って聞いてくればよい、という簡単な問題ではなかった。
学年末テストは予定通りに行われると発表された。そしてテストの三日前、マクゴナガル先生は、もうすぐマンドレイク薬ができると発表したのだ。
「なら、トイレに行かなくても、石になったみんなが何か証言してくれるね。」
「ああ。目を覚ましたら、ハーマイオニーが全部答えを出してくれるよ!」
「私、ハーマイオニーが試験を受けられるように準備しないと!」
ナツキとロンがそんな話をしていると、ジニーがロンの隣に座った。なんだか思い詰めたような顔をしている。
「どうした?」
ロンがオートミールのお代わりをしながら聞いた。ジニーは黙って怯えた表情をしている。
「言っちまえよ。」
ロンがジニーを見つめながら促した。
「あたし、言わなければいけないことがあるの。」
なんだろうかと、ロンも、ナツキ、ハリーもジニーの言葉を聞こうとした。しかしそこに、非常に間が悪くパーシーが現れた。
「ジニー、食べ終わったのなら、僕がその席に座るよ。腹ぺこだ。巡回見廻りが、いま終わったばかりなんだ。」
ジニーは椅子に電流が走ったかのように飛び上がって、パーシーのほうを怯えた目でチラッと見るなり、そそくさと立ち去った。
「パーシー!ジニーが何か大切なことを話そうとしたとこだったのに!」
ロンの怒りに、紅茶を飲んでいる途中でパーシーは咽せ込んだ。
「どんなことだった?」
パーシーが咳込みながら聞いた。
「僕が、何かおかしなものを見たのかって聞いたら、何か言いかけて・・・・」
「ああ・・・・それは『秘密の部屋』には関係ない。」
パーシーはすぐに言った。 その後も秘密を誤魔化すように、パーシーはおろおろしていた。ロンはその様子を面白がっていたが、ナツキとハリーはジニーが言いたかったことはパーシーの話なのだろうかと、彼女を心配した。
午前の授業も半ば終わり、次の「魔法史」の教室まで引率していたのがギルデロイ・ロックハートだった。ロックハートは生徒を安全に送り届けるためにわざわざ廊下を引率していくのは、まったくのむだだと思っているようだった。
ナツキ、ハリー、ロンは、マートルに話を聞けるのではないかと目を見合わせた。もうすぐ解決できるであろうということと、好奇心は別物なのだ。
「私たち、先生というものは、いろいろやらなければならないことがありましてね。生徒を送ってクラスに連れていったり、一晩中見張りに立ったりしなくたって手一杯ですよ。」
「そのとおりです。先生、引率はここまでにしてはいかがですか。あと一つだけ廊下を渡ればいいんですから。」
「実は、ウィーズリー君、私もそうしようかと思う。戻って次の授業の準備をしないといけないんでね。」
そしてロックハートは足早に行ってしまった。
「授業の準備なんてものしてたんだ。それであの授業なんだ。」
「言ってやるな、ナツキ。髪をカールするのだって立派な準備なんだ。」
ロンの言葉に、ナツキは去りゆくロックハートを白い目で見た。
しかしチャンスであることに変わりはない。三人はこっそり3階の女子トイレへと向かった。しかしその時、
「ゴドリクソン!ポッター!ウィーズリー!何をしているのですか?」
マクゴナガル先生が、これ以上固くは結べまいと思うほど固く、唇を真一文字に結んで立っていた。
「あの、私たち・・・」
「僕たち・・・僕たち・・・・あの、様子を見に・・・・」
ナツキとロンがモゴモゴ言った。即座に「ハーマイオニーの」とハリーが受けた。
「先生、もうずいぶん長いことハーマイオニーに会っていません。だから、僕たち、こっそり医務室に忍び込んで、それで、ハーマイオニーにマンドレイクがもうすぐ採れるから、だから、あの、心配しないようにって、そう言おうと思ったんです。」
マクゴナガル先生はハリーから目を離さなかった。
「そうでしょうとも。・・・・そうでしょうとも。襲われた人たちの友達が、一番辛い思いをしてきたことでしょう・・・・。よくわかりました。ポッター、もちろん、いいですとも。ミス・グレンジャーのお見舞いを許可します。ビンズ先生には、私からあなたたちの欠席のことをお知らせしておきましょう。マダム・ポンフリーには、私から許可が出たと言いなさい。」
ナツキたちは、罰則を与えられなかったことが、半信半疑のままその場を立ち去った。角を曲がった時、マクゴナガル先生が鼻をかむ音が、はっきり聞こえた。
「あれは、君の作り話の中でも最高傑作だったぜ。」
「私はあの嘘、ものすごーく心が痛むよ・・・・。とりあえず、医務室に行こうか。」
マダム・ポンフリーは三人は中に入れたが、しぶしぶだった。
見舞客が来ていることに、ハーマイオニーは当然気づいていなかった。ナツキはすぐに治ると知っていなかったらきっと自分は泣き出すだろうと思った。
「でも、ハーマイオニーが自分を襲ったやつを本当に見たと思うかい?」
ロンが、ハーマイオニーの硬直した顔を悲しげに見ながら言った。
「・・・ハーマイオニーは、なんであの時図書館に行ったんだろう。」
ナツキはそう呟いた。すぐに、ハリーがハーマイオニーの右手に何か紙切れがあることに気づいた。
ハリーが数分格闘して、なんとかその紙を抜き取った。
図書室の、とても古い本のページがちぎり取られていた。三人は屈み込んで一緒に読んだ。
『我らが世界を徘徊する多くの怪獣、怪物の中でも、最も珍しく、最も破壊的であるという点で、バジリスクの右に出るものはない。『毒蛇の王』とも呼ばれる。殺しの方法は非常に珍しく、毒牙による殺傷とは別に、バジリスクのひと睨みは致命的である。その眼からの光線に捕らわれた者は即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前触れである。なぜならバジリスクは蜘蛛の天敵だからである。バジリスクにとって致命的なものは雄鶏が時をつくる声で、唯一それからは逃げ出す。』
この下に、見覚えのあるハーマイオニーの筆跡で、一言だけ「パイプ」と書かれていた。
「・・・・そういう・・・ことなんだ・・・・・」
スペ手のピースが揃った。秘密の部屋の怪物はバジリスク。そいつがパイプの中を移動していた。ハリーに声が聞こえたのは、バジリスクが蛇だからだ。
「でも、みんな石になっただけ・・・・・」
「・・・コリンはカメラだ・・・。ジャスティン・・・ジャスティンは・・・・」
ナツキの問いにハリーが一つずつ答えを導き出していく。なんということだろう。これまではたまたまバジリスクの瞳を直接見ていなかったに過ぎないのだ。
「そうだ・・・パイプだよ。ナツキ、ロン、やつは配管を使ってたんだ。僕には壁の中からあの声が聞こえてた。『秘密の部屋』への入口だ!もしトイレの中だったら? もし、あの・・・・」
「マートルのトイレ・・・・」
ハリーの言葉にナツキは続けた。全てがわかった。
「これからどうする?」
ロンの目が輝いている。
「職員室へ行こう。あと十分で、マクゴナガル先生が戻ってくるはずだ。まもなく休憩時間だ。」
ハリーの言葉に頷き、三人は階段を下りて、まっすぐに誰もいない職員室に行った。戦線たちを待っていると、マクゴナガル先生の声が魔法で拡大され、廊下に響き渡った。
「生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください。」
ハリーはくるっと振り向き、ナツキとロンと目を見合わせた。
「また襲われたのか? いまになって?」
ハリーの言葉に「どうしよう?」とロンが愕然として言った。咄嗟のことで、三人は洋服掛けの中に隠れることを思いついた。
やがて職員室のドアがバタンと開いた。やがて、マクゴナガル先生がやってきた。
「とうとう起こりました。生徒が一人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』そのものの中へです。」
「『スリザリンの継承者』がまた伝言を書き残しました。最初に残された文字のすぐ下にです。『彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう』。」
椅子にへたり込んだマダム・フーチが聞いた。
「どの子ですか?」
「ジニー・ウィーズリー。」
マクゴナガル先生が言った。 ナツキは隣で、ロンが声もなくへなへなと崩れ落ちるのを感じた。
「全校生徒を明日、帰宅させなければなりません。ホグワーツはこれでおしまいです。ダンブルドアはいつもおっしゃっていた・・・・」
職員室のドアがもう一度バタンと開いた。それはロックハートだった。にっこり微笑んでいるではないか。
「大変失礼しました・・・・・何か聞き逃してしまいましたか?」
スネイプが一歩進み出た。
「なんと、適任者が。まさに適任だ。ロックハート、女子学生が怪物に拉致された。『秘密の部屋』そのものに連れ去られた。いよいよあなたの出番が来ましたぞ。」
ロックハートは血の気が引いた。スプラウト先生が続けて口を挟んだ。
「そのとおりだわ、ギルデロイ。昨夜でしたね、たしか、『秘密の部屋』への入口がどこにあるか、とっくに知っているとおっしゃったのは?」
「私は、その、私は、」
ロックハートはわけのわからない言葉を口走った。しかし先生方は容赦無く口々にロックハートのこれまでの言動を振り返った。
「それでは、ギルデロイ、あなたにお任せしましょう。」
マクゴナガル先生が言った。
「今夜こそ絶好のチャンスでしょう。誰にもあなたの邪魔をさせはしませんとも。お一人で怪物と取り組むことができますよ。お望みどおり、お好きなように。」
いまのロックハートはハンサムからは程遠かった。きっとハーマイオニーでさえも、見放したことだろう。
「よ、よろしい。へ、部屋に戻って、し、支度をします。」
ロックハートが出ていった。それを確認すると、マクゴナガル先生は鼻を膨らませて言った。
「さてと、これで厄介払いができました。寮監の先生方は寮に戻り、生徒に何が起こったかを知らせてください。明日一番のホグワーツ特急で生徒を帰宅させる、とおっしゃってください。ほかの先生方は、生徒が一人たりとも寮の外に残っていないよう見廻ってください。」
その日は最悪だった。グリフィンドールの談話室はこれまでにないくらい静まり返っていた。
「ジニーは何か知っていたんだよ、ハリー、ナツキ。」
職員室の洋服掛けに隠れて以来、初めてロンが口をきいた。
「だから連れていかれたんだ。パーシーのバカバカしい何かの話じゃなかったんだ。何か『秘密の部屋』に関することを見つけたんだ。きっとそのせいでジニーは・・・・・だって、ジニーは純血だ。ほかに理由があるはずがない。」
そうかもしれない。ナツキは隠れ穴でのジニーと過ごした日々を思い出していた。あの子が秘密の部屋に連れて行かれるべき理由なんてあるもんか。
「ハリー、ナツキ、ほんのわずかでも可能性があるだろうか。つまり・・・ジニーがまだ・・・」
ナツキもハリーも何と答えてよいかわからなかった。
「そうだ! ロックハートに会いにいくべきじゃないかな?僕たちの知っていることを教えてやるんだ。ロックハートはなんとかして『秘密の部屋』に入ろうとしているんだ。それがどこにあるか、僕たちの考えを話して、バジリスクがそこにいるって、教えてあげよう。」
「・・・・わかった。今はそれが最善な気がする。」
ナツキがそういうと、ハリーもとりあえずその提案に乗ることを決めたようだ。しかし、ロックハートが頼りになるとはとても思えなかった。
ロックハートの部屋に向かって歩くうちに、あたりが闇に包まれはじめた。ロックハートの部屋の中は取り込み中らしい。カリカリ、ゴツンゴツンに加えて慌ただしい足音が聞こえた。ノックすると、中が急に静かになった。それからドアがほんの少しだけ開き、ロックハートの目が覗いた。
「あぁ、ポッター君、ゴドリクソン君・・・ウィーズリー君・・・・私はいま、少々取り込み中なので、急いでくれると・・・・・」
部屋の中は綺麗に片付けられていた。前に入った時とはえらく様変わりしている。まさか、と思ったナツキの考えをハリーが代弁した。
「どこかへいらっしゃるのですか?」
「うー、あー、そう。緊急に呼び出されて、しかたなく、行かなければ・・・」
「僕の妹はどうなるんですか?」
「そう、そのことだが・・・・まったく気の毒なことだ。」
ロックハートは三人の目を見ないようにし、引き出しをぐいと開け、中のものを引っくり返してバッグに入れながら言った。
「・・・・先生は、闇祓いじゃないんですか?本に書いてあったことはなんなんですか!!?」
ナツキは叫んだ。
「本は誤解を招く。」
「ご自分が書かれたのに!」
今度はハリーが叫んだ。ロックハートはなんと、他の人の手柄を横取りして自伝風にしたと言うのだ。
ロックハートはトランクを全部バチンと締め、鍵を掛けた。
「さてと。これで全部でしょう。いや、一つだけ残っている。」
ロックハートは杖を取り出し、三人に向けた。
「坊ちゃんたちには気の毒ですがね、『忘却術』をかけさせてもらいますよ。」
「「エクスペリアームス!」」
ハリーとナツキが同時に杖を向け同じ呪文を唱えた。ロックハートは後ろに吹っ飛んで、トランクに足をすくわれ、その上に倒れた。杖は高々と空中に弧を描き、それをロンがキャッチし、窓から外に放り投げた。
ナツキとハリーはジリジリとロックハートに近寄り、杖を突きつけた。
「私に何をしろと言うのかね?『秘密の部屋』がどこにあるかも知らない。私には何もできない。」
「へえ。だってよ、ハリー。」
「運のいい人だ。僕たちはそのありかを知っていると思う。中に何がいるかも。さあ、行こう。」
ロックハートを脅しながら、四人で3階の女子トイレへ向かった。まずロックハートを先に入らせた。ロックハートは震えていた。
「アラ、あんただったの。今度は何のよう?」
嘆きのマートルだ。ハリーは答えた。
「君が死んだ時の様子を聞きたいんだ。」
「オォォォゥ、怖かったわ。まさにここだったの。オリーブ・ホーンビーがわたしをからかったものだから、ここに隠れたの。鍵を掛けて泣いていたら、誰かが入ってきたわ。何か変なことを言ってた。外国語だった、と思うわ。とにかく、いやだったのは、しゃべってるのが男子だったってこと。だから、出ていけ、男子トイレを使えって言うつもりで、鍵を開けて、そして・・・・・死んだの。」
「それは呪文で?」
ナツキが聞いた。しかしマートルは「わからない」とヒソヒソ声で答えた。
「覚えてるのは大きな黄色い目玉が二つ。体全体がギュッと金縛りにあったみたいで、それからふーっと浮いて・・・・そして、また戻ってきたの。だって、オリーブ・ホーンビーに取っ憑いてやるって固く決めてたから。」
きっとその目玉はバジリスクのものだ、とナツキ、ハリー、ロンは思った。マートルはその目玉を手洗い台のあたりで見たと言った。
ハリー、ナツキ、ロンは急いで手洗い台に近寄った。ロックハートは顔中に恐怖の色を浮かべて、ずっと後ろのほうに下がっていた。
三人で隅々まで調べた。きっと、誰にも気づけない仕掛けがあるに違いない。グリフィンドールの秘密の部屋がそうであるように。しかしスリザリンの血が必要だったらどうしよう、とナツキは不安になった。
しかしナツキの心配は杞憂に終わった。ハリーが怪しい蛇口に向かって蛇語で話しかけると、蛇口が眩い白い光を放ち、回りはじめた。次の瞬間、手洗い台が動きだした。手洗い台が沈み込み、見る見る消え去ったあとに、太いパイプがむき出しになった。大人一人が滑り込めるほどの太さだ。
「僕はここを降りていく。」
覚悟を決めたような目でハリーが言った。
「私もいくよ。ハリーを一人になんてしない。」
「僕もいくよ。」
一瞬の空白があった。
「さて、私はほとんど必要ないようですね。」
ロックハートが、得意のスマイルの残骸のような笑いを浮かべた。ナツキたちの考えは同じだった。三人でロックハートに杖を向ける。「先に降りるんだ」とロンが凄んだ。
ロックハート、ハリー、ナツキ、ロンの順でパイプの中を下っていく。ぬるぬるしている。ずっとずっと降っているような気がした。きっと、ホグワーツの一番地下にあるんだろう。
しばらくしてようやく、四人は床(ぬるぬるしている)にたどり着いた。暗くて足元はよく見えない。ナツキとハリーは「ルーモス」と唱えた。
「みんな、いいかい。何かが動く気配を感じたら、すぐ目をつぶるんだ。」
ハリーがそう言ったが、そこは墓場のように静まり返っていた。小さな骨のようなものがそこかしこに散らばっていた。ナツキの頭にジニーの最悪の姿が一周ん浮かんで、忘れようと首をブンブン振った。
「ハリー、ナツキ、あそこに何かある・・・・」
ロンの言葉に四人は凍りついたように立ち止まって、行く手を見つめた。ナツキとハリーがゆっくりと注意深く近づいてみると、巨大な蛇の抜け殻だった。
後ろのほうでギルデロイ・ロックハートが腰を抜かしていた。「立て」とロンが、ロックハートに杖を向け、きつい口調で言った。ロックハートは立ち上がり、ロンに飛びかかって床に殴り倒した。
「坊やたち、お遊びはこれでおしまいだ!私はこの皮を少し学校に持って帰り、女の子を救うには遅すぎたとみんなに言おう。君たちはずたずたになった無残な死骸を見て、哀れにも気が狂ったと言おう。さあ、記憶に別れを告げるがいい!」
ロックハートはスぺロテープで張りつけたロンの杖を頭上にかざし、一声叫んだ。
「オブリビエイト!」
杖は小型爆弾なみに爆発した。ナツキとハリーはうまくそれを避けた。しかし、トンネルの天井から、大きな塊が、雷のような轟音をあげてバラバラと崩れ落ちてきたのだ。
気づけばナツキとハリーは、ロンとロックハートとは分断されていた。
「ロン!大丈夫!?」
「ローン!大丈夫か?ロン!」
「ここだよ!」
ロンの声は崩れ落ちた岩石の影からぼんやりと聞こえた。
「僕は大丈夫だ。でもこっちのバカはだめだ。杖で吹っ飛ばされた。」
「こっちからは行けないよ。何年もかかってしまう。」
「私もこれを安全に崩す魔法は知らない・・・・」
時間がむだに過ぎていく。ジニーが『秘密の部屋』に連れ去られてから何時間も経っている。
ナツキとハリーは目を合わせた。道は一つだけだ。
「そこで待ってて。」
ハリーはロンに呼びかけた。
「ロックハートと一緒に待っていて。僕とナツキが先に進む。一時間経って戻らなかったら・・・・」
「僕は、少しでもここの岩石を取り崩してみるよ。そうすれば君たちが――帰りにここを通れる。だからハリー、ナツキ・・・・」
「それじゃ、またあとでね。」
「ロンも気をつけてね。」
ナツキとハリーは巨大な蛇の皮を越えて先に進んだ。神経を尖らせながら無言で進んでいく。すると前方に固い壁が見えた。二匹のヘビが絡み合った彫刻が施してあり、ヘビの目には輝く大粒のエメラルドが嵌め込んであった。
間違いない。これが、秘密の部屋だ、とナツキは思った。
ハリーは近づいていった。そして彼がシューシューと音を立てると、壁が二つに裂け、絡み合っていたヘビが分かれ、両側の壁が、スルスルと滑るように見えなくなった。
「行こう、ナツキ。」
「うん。」
二人は、頭のてっぺんから足の爪先まで震えながら、その中に入っていった。